悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ


B-7にあるホテル、その一室。
東側に窓があるその部屋は既に日光が差し込む危険もなく、カーテンが閉められている。
かといって室内の照明器具が点いている訳では無く、結果として部屋の中は、普通の人間が辛うじて活字を読めるか程度の明るさで満たされていた。
薄暗闇に包まれたそんな部屋の中で、唯一ひっそりと自ずから光を放っているものが一つ。
ありふれたサイズの液晶画面であるそこに反射する姿は、先程のシャワーのお蔭で殺し合いの場であるにも関わらず清潔感に溢れる一人の男。

帝王DIO、その人だった。





あれから。
麻雀に快勝し気分を良くしたDIOは、尚も他の娯楽で暇を潰そうとして、娯楽場の案内図を見に行こうとした。
しかし、実際に案内図を見て―――――正確にはその横にあるホテルの案内図を見て、より有意義な時間の過ごし方を発見した。

―――――ホテル内の、綿密な探索。
もしも敵が強襲してきた時、そしてその敵が万が一にでも日光というDIOの弱点を把握し、外に面する場所へ誘導するなどといった姑息な手を使ってきた場合。
こちらも流石にホテルの中を、単に地図で掴んだ概要以上にしっかり把握しておかなければいけない。
吸血鬼としての身体に『世界』という最強のスタンドを持つ自分だが、あのクソッタレの侍共のように、必死に小さい頭を捻って考え付いたなけなしの策が、「偶然」このDIOの域に達することが「万が一にでも」存在するかもしれない。
だが、帝王が完全に地の利を理解しているのであれば、そんなちっぽけな偶然すらも水泡と帰す。
そう、これはこのDIOの勝利をより盤石にし、虫ケラごときがあろうことか二度も勝利するような、間違ってもあってはならない事態を防ぐもの。

DIOの持論の一つに、「恐怖を克服する為に生きる」というものがある。
名声、支配、金、友人―――――それらのものは全て人間が生きている上で安心するために手に入れようとする、という論。
DIOが今しているのは、まさに今「万全を期す」という形で安心を得るという行為だった。

「ふむ、ここは…」

DIOが開いた扉は、そのほかの部屋のような豪奢さがなく、シンプルにデザインされた机が並ぶ事務室。
整理整頓がきちんとなされている―――――というより、机の奇妙なまでの小奇麗さや、ペン立てに入った使用した形跡がほとんどないように見えるペンを見るに、実際には一回も使用されていないのだろう。

「つまりは、このDIOが初めに使うことができるということか」

東向きの窓に念入りにブラインドとカーテンを掛け、部屋を物色しようとして、少し奇妙な事に気付く。
どの机にも、テレビに似た画面が嵌め込まれた、見慣れないものが並んでいる。
しかし、DIOが知るテレビはこんなに薄くないし、そもそも一つあれば十分といった代物の筈だ。
それがいちいち個人の為に用意されているというのは奇妙だし、そもそも娯楽である筈のテレビがこんなに遊びが無いように見える場所に大量に設置されているというのもおかしな話だ。

「面白そうだな…調べてみるとするか」

そう言って机に近寄り、慎重にディスプレイを調べてみる。
間もなく裏面にあるコードが、下にある何やら大きな箱のようなものとつながっていることがわかり、興味の対象はそちらに移る。
手で触ること数十秒、そちらにランプが併設された小さなボタンがあることを知り、迷いなくそのボタンを押しこむ。

―――――途端、先程まで暗転していた液晶が輝きだした。

やはりテレビのようなものだったのか、と思うDIOの前に現れたのは、しかし彼の興味を引くには十分な一文。




『殺し合いサポート専用パーソナルコンピュータ システム起動』




という、そんな一文だった。

「ほう……?」

疑問符と好奇心が同時に顔を擡げる。
薄暗闇の中にぼんやりと浮かぶディスプレイを愉快そうに眺める。
恐らくはテレンスがやっているゲームを司るという、『コンピュータ』というものだろう。
触れた事はなかったが、幸いにもこういった物を扱った事が無い参加者への気遣いか、取り扱いを説明するマニュアルが立ち上がるようになっていた。
もちろんスキップも可能となっており、分かる人間も気分を悪くしない仕様だ。

「随分と親切だな」

小さく呟き、一人になると口が軽くなっていけないなとふと思う。
そして同時に、口元に僅かな笑いが浮かんだ。
無条件な親切―――――そんなものを、こんなに悪趣味な殺し合いを開いた者共に求めるなどもっての外だ。
わざわざ殺し合いのサポートとまで書かれているのだ。殺し合いを促進させるためのものだとは容易に想像がつく。
となると、あるのもホテルだけではないだろう。ここ以外の施設にも、恐らくは設置されている筈。
或いは、脱出の為に活用できないかと考える輩もいるだろうが―――――無駄。
もしここに穴があるのならば、主催は態々自分達から弱点を晒しているという事になる。
よっぽどの馬鹿か、或いは何か理由がない限りは、そんなことをやるとは思えない。

そうこうしているうちにパソコン操作のノウハウもその大部分の説明を終え、マニュアルが表示されていたウィンドウが閉じる。
整理されたレイアウトや専門用語を用いない解説からなる説明はそれなりに分かりやすく、全くパソコンを弄ったことのないDIOも流し見で充分内容を理解できた。
そうして彼にも一通りこのパソコンの扱い方が分かったところで、それまで白塗りだった画面に一文が現れた。
それは、これまでの解説のようなポップな自体ではなく、最初に殺し合いサポート云々と書かれていたものと同じような印象を受けるようなもの。

「『白カードを提示してください……』か」

白カード、というのは、この忌々しい腕輪に取り付けられたこれの事だろう。
てっきりただの首輪代わりかと思ったが、なるほど本人認証にも使えるとは面白い。
どこに見せればいいのかと机を見ると、妙なオブジェのようなものが楕円形の光を出していた。
その中心にカードのような四角が描かれているのを見て、ひとまずそこに腕輪に嵌った白カードを翳してみる。
画面に一本のゲージが現れ、数秒でそれが満たされた後、画面にウィンドウが改めて開かれた。

『認証終了 参加者・DIO』

そんな文字列が浮かび上がり、またその数秒後には通常のデスクトップ画面へと変わる。
表示されていたのは、幾つかのアイコン。
『チャットルーム』、『メール機能』、そして『DIO・個人ファイル』と書かれた一つのフォルダ─────合計三つのアイコンが、画面上に表示されていた。

「個人ファイル………なるほど」

その内容は、少し考えれば一瞬で分かる。
恐らくは、DIOのこれまでの行動やらなにやらが記録されているのだろう。
このカードにそれだけの機能があるのかは不思議だが、よく考えてみればその記録が腕輪に残っているという可能性もあったと思い直す。
ともあれ、ここに入っているのは一人の参加者がここまでどうやって過ごしてきたのか、というもの。

「見る必要は無いな」

だが、ここにあるものはDIO自身のもの。
如何に時間があるとはいえ、わざわざ見る必要のないものに割く時間はない。
というよりむしろ、そんなに大した事に使えるような情報もないだろう。
その内心は、或いは先の戦闘で慢心により敗北した、そして地下通路で自分の末路を見てしまったという、苦々しい事実を改めて見ることをよしとしなかったというのもあったのかもしれないが─────。

「それより、本題はこっちか」

そんなことを自覚している様子は一切なく、DIOは残る二つのアイコンに交互にカーソルを合わせる。
現在解放されていると思しき二つの機能。
メールはともかく、この『チャット』なるものが何かは全く分からない。
恐らくは海の底で眠っている間に出来た文化の一つだろう。
外界のことについては書籍やエンヤ婆による伝聞だけなので、自分で仕入れた情報といえば深夜にカイロを出歩いた時に目にしたものくらいだ。
ともあれ、チャットというらしきこれの利用価値を確かめないことには話にならない。
二連続でマウスを押す、ダブルクリックというらしい技術を駆使して、『チャットルーム』を開いてみる。
途端に先程と同じようなウィンドウが立ち上がるが、その背景は打って変わって黒塗りのそれ。




M:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

Y:『私、結城友奈は放送局に向かっています!』

R:『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』

K:『友奈?友奈なの?私よ、にぼっしーよ』




「………ふむ」

そこにあったのは、アルファベット一文字に続く文字列。
結城友奈や東郷美森、犬吠埼樹は確か名簿にもあった名前だが、果たしてこれはなんだと首をかしげる。
幸いすぐにヘルプがあることに気付き、チャットの仕組みも先と同じように簡単な解説を受けて内容を理解した。
要するに、匿名で情報を流す為のツールという事だ。
余談だが、これはDIO自身には気付きようがないことだが、これはDIO用にカスタマイズされたアカウントの為名簿などと同じようにDIOにも読めるように翻訳もされている。

「情報、か………ホル・ホースが寄越したものがあったな」

危険人物・一条蛍の存在。
それと反対の事を伝えて混乱させるか、と思い立ったが、しかしそれは違うなと首を振る。
対主催を掲げる集団をバラバラにしているのだから、嘘を吐いて信用を上げてやっても自分からそれを壊していく野蛮なタイプなのだろう。
そんな人間の為に態々このDIOが手を煩わせてやる必要性はほんの少しも感じない。

それに、少し気になっている事がある。
このMという人物の書き込み─────『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』。
先程出会ったホル・ホースは、これまでに二人の参加者を殺害したと言っていた。
その二人とは、志村新八と、そして犬吠埼樹。
だが、ここに書き込まれている情報はそれとは食い違うもの。
犬吠埼樹という人物を殺した犯人は、果たしてどちらか。
―――――実際にはこの二人のどちらでもないのだが、それはDIOが知る由もない事実だった。

「ホル・ホースとここの情報、か…」

このチャットルームの情報は、お世辞にも簡単に信じられるとは言えない。
何処の誰とも知らぬ人間が書いたものを容易に信じるなど、不用心にも程がある。
しかし、ならばホル・ホースは完全に信用出来る人間かと言われると、こちらもそう簡単に肯定出来はしない。
あの男は良くも悪くも人間的だ。常に強い方に味方し、殺し屋という職業に就きながら己の命に拘る。
その熟練度も並大抵のものではなく、自分を暗殺しようとした時も、常人なら殺気どころかその一挙一動にすら気付かないだろうと言うほどに見事な手際だった。
そんな男が、この殺し合いを生き抜く為に必死で考えを絞らせている―――――そんな時に、帝王と出会ってしまったとするなら。
狡猾な思考を持つ彼は、口から出任せでもどうにか「貢献している」というアピールをこちらに見せつけ、未だに忠誠を誓っているように思わせることで、無事に切り抜けようとしてもおかしくない。
仮にも暗殺者としては逸材だ、このDIOに嘘を吐き信じ込ませるというのもやってのけられないとは言い切れない。
どこか挙動不審な態度も、そう考えれば一応は納得がいく。

「ふむ」

ならば、どうするべきか。
既に先の邂逅から時間は経ちすぎており、ホル・ホースも地下通路からは脱出して地上にいることだろう。
未だに日が沈むには早い時間であり、外に出る事が叶わない身としては追って問い詰めることも出来ない。
一見、この件でDIOが打てる手は存在しないようにも見える。

だが、目の前にあるチャットでならどうか。
これを用いれば、出来ないことは決して皆無ではない。
しかし、かといって不用意な発言をすると、取り消しのできないこのチャットは反対に命取りになりかねない。
慎重に考える事数分、DIOは一つの短い文を流れるように打ち込んだ。


『犬吠埼樹を殺したのはホル・ホース』


思考の末、DIOが最善手として選んだのはその文章だった。
この一文、単純なように見えて面白い効果を齎す可能性があると彼は睨んだのだ。

先程の説明で、イニシャルが表示されることは既に分かっている。
しかし、DIOと同じ「D」を持つ参加者はもとより参加すらしていない。
となると、承太郎や先程出会った侍たち、更には死亡した花京院やポルナレフからDIOについての情報を得た者達は、当然このイニシャルには警戒する筈だ。
例えば、『ホル・ホースは信用できる』という一文なら、きっとホル・ホースに対する警戒は高まるだろう。
だが、その内容がこれならばどうか。
ホル・ホースについての人物評は、恐らくはDIOと同じく伝わっている事だろう。
そして、それならば「わざわざ手下が信用ならないという情報を流すのか」という疑心暗鬼に勝手に陥ってくれる可能性が高いと言える。
承太郎などは、「ホル・ホースがDIOを怒らせた」なんて風に受け取ってくれる可能性すらある。
無論、承太郎たちと何の関わりもない人間にはホル・ホースは警戒の対象として見られるだろう。
だが、それはそれでただ単に根も葉もない噂にしかなり得ない。
東郷美森というもう一人の容疑者が同時に開示されているのだ。暗殺のプロである彼ならば、その程度の疑念があろうと潜り込むのは決して不可能にはなり得ない。
総じて、彼が集団に潜り込もうとすれば、恐らくは「信用しきってはいけないが、かといって無条件で追い払うにも証拠が足りない」程度の信用に落ち着くはず。
その程度の状況ならば、暗殺者である彼は手慣れている筈だ。
もしも彼が未だに忠実な僕であるならば、このDIOの為に人を殺すチャンスはきっと見誤るまい。


仮に、の話だが。
もしも、あの男が本当に虚偽の報告をし、帝王を騙そうとしたのならば。
その時は─────惜しい人材だが、次にこのDIOの目の前に現れた時が、奴の命運が尽きる時だ。
せめてもの餞に、もう一度『世界』の能力を見せて葬ってやるのも悪くないか。
そう考えながら、邪悪の化身はにやりと口角を吊り上げた。





─────これは、DIOが気付かなかった、気付きようがなかった事実。
尤も、気付いてもどうしようもなかった事でもある、事実だが。

白カード。
パソコンが個人認証の為に求めたのは、あくまで白カードだけ。
別に、そこにいる人間の白カードを使わなければならないという制約はない。
尤も、カードは基本的に腕輪に嵌め込まれたまま。
遠くにいる人間の白カードを使う事は、基本的には出来ない事だろう。

─────その腕輪を持つ人間が、命を落としていなければ。

つまり、それは。
死者の白カードも、使用が可能だという事だ。

例えば誰かの白カードを持っている、というのならともかく、ホル・ホースへの疑念でテンションが下がる前、麻雀に勝って浮かれていた彼が気付く筈もなかった。
一見利用価値が少ないようにも見える個人ファイルの存在は、この為。
その中に隠されているものが何かは─────未だに明かされず。
パンドラの匣になり得る何十枚ものカードは、開示される時を待っている。



ともあれ。
ラヴァレイという男が蒔いた種は、こうしてゆっくりと育ち始めた。
結実の時は、そう遠くない。




【B-7/ホテル/一日目・日中】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、麻雀に勝ってテンションが高い
[服装]:いつもの帝王の格好
[装備]:サバイバルナイフ@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
0:さて、この後はどうするかな。
1:夕刻までホテルで体を休める。その後、DIOの館でセイバーと合流。
2:ヴァニラ・アイスと連絡を取りたい。
3:銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の娘コロナ、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。優先順位は銀時=コロナ=桂>神威。
4:先ほどのホル・ホース、やはり信用する訳にはいかないかもしれんな。
5:衛宮切嗣を警戒。
6:言峰綺礼への興味。
7:承太郎を殺して血を吸いたい。
8:一条蛍なる女に警戒。セイバーやヴァニラ・アイスと合流した時にはその旨も一応伝えてやるか。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※時間停止中に肉の芽は使えません。無理に使おうとすれば時間停止が解けます。
※セイバーとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
※ホル・ホース(ラヴァレイ)の様子がおかしかったことには気付いていますが、偽物という確信はありません。
※ラヴァレイから嘘の情報を教えられました。内容を要約すると以下の通りです。
 ・『ホル・ホース』は犬吠埼樹、志村新八の二名を殺害した
 ・その後、対主催の集団に潜伏しているところを一条蛍に襲撃され、集団は散開。
 ・蛍から逃れる最中で地下通路を発見した。
※麻雀のルールを覚えました。
※パソコンの使い方を覚えました。
※チャットルームの書き込みを見ました。
※ホル・ホースの様子がおかしかった理由について、自分に嘘を吐いている可能性を考慮に入れました。



  • 施設備え付けのパソコンについて
スキップ可能のマニュアルが起動時に立ち上がります。その後、白カードをスキャンする事でパソコンの使用が出来るようになります。白カードについては本人のものでなく、死者のものも使用できます。
使用出来るのは携帯電話やスマートフォンと同じチャット機能・メール、及び個人ファイルの閲覧です。
個人ファイルの細かい内容については後の書き手さんにお任せします。


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154:孤独なHeaven DIO 174:チェンジ・ザ・ワールド