万事を護る者 ◆3LWjgcR03U

北西の島。その南に存在する基地。
1人の少女が、シャワーを浴びていた。

海水に濡れた服を乾かし、道着を羽織った少女――宇治松千夜。
道着の主――本部以蔵を待つ間、半裸を晒し続けているのも落ち着かず、基地の中を少しだけ探ってみることにした。
軍人の父を持つリゼならともかく、千夜にはあまりにも無縁な場所ではあったが、程なくしてこのシャワールームを見つけた。

――熱い湯が体を流れていく。
シャワーのノズルを、海水に浸かった髪に当てる。
湯ともに、様々な思いもまた、千夜の頭の中から流れ出ていくような気がした。

もうすぐ半日あまりだろうか。
あまりにも色々なことがありすぎた。
濃密な生と死が、少女の周囲を交錯した。

やってしまったことへの後悔も、これからしなければならないことも、千夜にはたくさんあった。
けれど、今だけは。
ただ流れる湯の気持ちよさに、身をゆだねたかった。










『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ。』

放送が流れたのは、千夜がシャワールームから上がり、体を拭いている最中だった。

「――っ」

怖かった。
放送は、自分の犯した罪を、殺し合いの現実を、容赦なく突きつけてくる。
覚悟を決める間もないまま、死者の名は告げられた。

――【ランサー】

西で起きた光の正体を確かめにいったまま、戻らなかった彼。

――【保登心愛】

「あ……」

世界が反転したような感覚が千夜を襲った。
その死は、知っていたはずだった。
彼女の■をこの目ではっきりと見たのは、他ならぬ自分だったのだから。
だけど、心のどこかで、目をそらし続けていたのかもしれない。

――【雨生龍之介】
――【蒼井晶】
――【カイザル・リドファルド】
――【範馬刃牙】
――【高坂穂乃果】

知っている名前が、立て続けに読み上げられた。
悪い人もいた。ココアを殺したり、自分を弄ぼうとしたり。
けれど。


――『うそ……そんな……』

――『親父に近づくために何より必要な覚悟を」』
――『アンタを殺して手に入れる……!』


対峙した、二人の少年少女。
彼らは、どんな人だったのだろうか。あれほど濃密な時間だったように感じられるのに、結局、何も分らない。


――【桐間紗路】


「――っ!」

それ以上、多くの死者たちのことを考える余裕もなく。
大切な友人の名前が、読み上げられた。

「しゃろ、ちゃ……」

放送は、それ以上は聞いていられなかった。
バスタオルに身を包んだまま、その場にへたり込む。

ただ一人の、大切な幼馴染だった。
ココアたちさえ知らなかった秘密を、共有していたほどの。

彼女には、もう会えない。

ちょっといかがわしい制服を着て、フルール・ド・ラパンをぱたぱたと忙しく動き回る姿も。
あんこに追い回されてきゃあきゃあと騒ぐ姿も。
コーヒーで酔っ払ってあらぬことを口走る姿も。

自分が帰る日常には、もうあの姿がないのだと思うと、たまらなく寂しくて心細かった。
きっとこの先自分が長生きして、おばあちゃんと同じくらいの歳になっても、あんな友達は二度と現れてはくれないのだろう。

「ごめんね……」

無防備な半裸を晒すのにもかまわず、顔を覆う。
最初からもっとしっかり現実を見て、みんなを探していたら。
あの時ああしていたら、自分がちゃんとしていたら……。
とめどない後悔が、千夜を襲う。

「ごめんなさい」

けれど、千夜はやがて、ゆっくりと向き直る。
高町ヴィヴィオをはじめとする、自分に関わった人間たちの次々の死。
ココアとシャロ、二人の親友の死。
今の千夜は、悲しみ混乱しながらもその全てを受け入れていた。――受け入れてしまっていた、ともいえる。
現実から目を背けていた、殺し合いに参加した当初の千夜だったら、放送も受け入れられず泣きわめいていたかもしれない。
純粋無垢な女の子でいるには、あまりに多くのことを経験しすぎた。

「いかなきゃ」

立ち上がる。
青のカードからハーブティーを出して、口を付ける。
その味が、彼女を勇気づけてくれた。
チノとリゼは、まだ生きている。この会場のどこかにいる。
ならば、前に進まなければいけない。

宇治松千夜はもう、うさぎに囲まれたお姫様ではいられないから。






「――上ったか」

シャワーを浴びる前に見つけた女性用の軍服と、飾り気のないスポーツ用の下着。
こういうのは自分じゃなくてリゼに似合うんだけどな、と思いながらも、多少の未練はあったが、汚れた制服よりはずっとましだと思い、身につける。
建物から出ると、一人の男が千夜を待っていた。

「俺の知り合いにも軍人はいるが――中々様になってるぜ、嬢ちゃん」

男――本部以蔵の軽い冗談に、千夜はわずかに微笑んでみせる。
本部もそれを見て少しだけ安心したような表情を見せる。

「――嬢ちゃんは、どこへ行きてえ」

本部さんも少し休んで――と言いかけた千夜を制し、彼女の希望を聞く。
本当ならばこの後は、放送局へキャスターを倒しに行かねばならなかった。
だが、盟約の相手であるランサーは、光の原因を探りに行ったまま果てた。
倒すべきキャスターも死に絶え、説得すべき相手だった高坂穂乃果もまた、何処とも知れぬ場所で命を散らした。
今の本部以蔵には、目的が何もなかった。
まやかしの目的に踊らされる道化でしかない。
――だが道化にも、果たさなならないことはある。
目の前の少女。
ランサー。カイザル・リドファルド。2人の騎士が護ろうとして、果たせなかった存在。
その意思を、自分が継がねばならない。
道化衣装を纏ったままだとしても、騎士の役目を、自分がやらなければならない。

「わたしは……」

少し考え込んだ後、千夜は口を開いた。

「わたしは、ラビットハウスに行きたいです」

あまりに多くの命が散った。けれど、リゼとチノは生きている。
日常の象徴。2人は必ず、あの場所へ向かうはずだ。
いずれにせよ、自分たちがいる場所は、禁止エリアに指定された。目指す場所がどこであろうと、ここで待っているわけにはいかない。
駅から電車に乗って向かう中途で、高町ヴィヴィオ、雨生龍之介、そしてココア。3人のことも、きちんと弔いたい。

本部が無言で頷くと、2人はゆっくりと歩き始めた。










少しづつ会話をしながら、2人は歩く。
千夜は、話していく。
学校でのこと、友達たちのこと、自分の実家の甘味処のこと。
今はもういないシャロとココアのことも。
親子ほど年の離れた二人に、共通の話題などはあるはずもない。
だから会話は、一方的に話し続ける千夜に、本部がわずかに相槌を打つ事で進んでいく。
そのうち、曇っていた千夜の顔に、少しずつ笑顔が見え始める。
それを見て、本部の顔にも安堵感が浮かび始める。
そして、「C-3」エリアをもうすぐ抜けようかというところで。

「やあ、お二人さん」

奇妙に重々しい印象の傘をさした、一人の青年が目の前に現れた。










「本部以蔵さんに、そっちのお嬢さんは宇治松千夜ちゃん、だね」

「……ああ」

3人になった集団が、ぽつぽつと会話をしながら北へ向かっている。
自分について来るように言ったのは、神威だった。
一目会った瞬間から、本部はこの一見飄々とした青年の、その内に秘められた尋常ではない闘気を感じていた。
彼の言葉に逆らうような真似をすれば、間違いなく自分は千夜もろとも粉微塵にされるだろう。
それゆえに、千夜も本部に促され、2人は黙って付いていくしかなかった。

どれほど歩いただろうか。
とある施設の前で、神威の足は止る。

「何でぇ、ここは……」

本部は思わずごちる。

「知ってるんだ」

神威の言葉に、本部が頷く。
知っているも何もない。
地下闘技場。本部の、いわばホームグラウンドであった。

「さてと。そっちの千夜ちゃんは、ここまでにしたほうがいいかな」

「――え」

ウォーミングアップのような動作をしながら、神威が何気なく千夜に呼びかける。

「いっ――嫌です!」

思わず、そう返していた。
だって、戦いなんてしたことのない千夜でも分る。ここで2人が戦えば、確実に死人が出てしまう。
もう目の前で、誰かが死んでいくのを見るのは――嫌だ。

「俺は、君のためを思って言ってあげたんだけどなあ」

神威は頭を掻く。

「言いつけを守れない悪い子は――殺しちゃうぞ」

その瞬間、神威から放たれる殺気の質と量が、明らかに変化した。

「――っ!?」

千夜は思わず気圧される。
ここに来てから様々な経験を重ねた千夜であったが、その敵意は、高坂穂乃果のものとも、雨生龍之介のものとも、蒼井晶のものとも、範馬刃牙のものとも違っていた。

「行きな、嬢ちゃん」

本部が、千夜の肩に手を掛ける。

「ここは、俺に任せて嬢ちゃんは逃げろ。俺よりも頼りになる奴見つけて、仲間ァ探してやれ」

これ以上ないほど真剣な目で、千夜を見据える。

「――頼む」

その視線に、肩を強張らせながら――

「っ」

何かを振り切るように、千夜はその場から駈けだした。










「かつて水戸黄門――徳川光圀が各地を廻って武芸者を一所に集め、競わせたといわれる」

ライトに照らされた、観客のいない闘技場。
本部の声が響き渡る。

「それから300年――存在は秘密にされているが、今なお闘士(グラップラー)共が集まってきやがる。それがこの地下闘技場だ」

橋が直るなり一直線にここに向ったが、地下通路を見つけたものの結局望んでいた相手は現れず、腰を上げて南へ向った神威。
望む相手は地下(アンダーグラウンド)ではなく、光差す地上にいたようだ。

「へえ。幕府(おかみ)の持ち物だったんだ、これ」

意外な話にも、神威はあくまで飄々としている。
どうも自分の知る幕府とはずれているような気もするが、纏流子と話して気付いた世界のズレの一つなのだろうと考え、大して気にも留めない。

「何だか本部さんの話を聞いてると、その徳川光成さん? っていうおじいちゃん」

笑顔を崩さず、話しかける。

「最大トーナメント? だっけ。なんかこの殺し合いに似てる気がするんだけど。
 ――ひょっとして、繭ちゃんの味方についてたりして」

「――さあ、どうだかな」

光成の顔を思い浮かべながら、本部は言う。

「大して交流があるわけじゃねえが……まあ、あの爺さんは俺に言わせりゃ、本質的には甘ちゃんだ。
 こんな大それた催しを開くタマじゃあねえさ」

「ふーん」

世界が違っても、ふぬけた幕府の末裔ならそんなものか、と思い。
神威は、それ以上の興味を捨てた。

「さて、そろそろ始めようか」

傘を構えながらのその言葉に、本部も身構える。

「一つだけ、聞いてもいいかな。俺は純粋にやり合いたいだけだけど――
 本部さんは、何のために戦うんだい」

「守護るためだ」

本部は、即答した。

「嬢ちゃんたち、生きてこの場にいる連中の命も」

「無念のうちに、死んでいった連中の誇りも」

「俺自身でさえも」

「全てを守護るために、俺ぁ戦う」


「ひゅう、大きく出たねえ」

言い切った本部に、神威はからかうように言葉を浴びせる。

「あんただってそうだろう、神威さんよ」

本部は、そんな神威に臆さない。

「あんたにだって、守護りたいもんの一つや二つ――あるんじゃねえのか」

その言葉に、神威がわずかに――揺らいだ。


――『強くなれ』


「ないよ」

一瞬の動揺を再び笑みで覆い隠し、言い放つ。

「そんなもの、とっくの昔に捨てたさ」

「嘘だな」

ずいと一歩踏み出し、本部は神威に迫る。

「兄ちゃん。俺ぁお前さんがどんな奴かは知っちゃいねえけどな」

「しょせん俺たちゃ、一度守護りてえと思ったもんを簡単に捨てられるようには、出来ちゃいねえのさ」

本部が、言い終わるか言い終わらないかのうちに。
ドン、という音が闘技場に鳴り響いた。

「……少々、おしゃべりが過ぎたかな」

音は、神威が鉄傘で地面を叩いた音だった。
砂に、小規模なクレーターができあがる。

「本部さんも、ペラペラしゃべってる暇はないんじゃないかな。
 そんな代物を使ってちゃ――死ぬよ」

「死なねえ」

神威の目は、本部が持つ剣に注がれていた。
剣の柄から、触手のようなものがのび、持つ手に這いあがっている。

「言い忘れてたが、闘技場(ここ)は本当なら武器は御法度でなぁ。
 ――だがうるせえ爺さんもいねえ以上、心ゆくまで使わせてもらうぜぇ」

意識を誰かに乗っ取られるような感覚には、この剣を手に取った時に既に気付いていた。
ラヴァレイが何を思ってこれを渡したのかは、分からない。そこに悪意があったのかさえも。
大事なのは、刃牙との戦いで大きなダメージを負った体で目の前のこの化け物に勝利するには、宝具を2つ抱えていてすら、全く足りないということだった。
ならば、この妖刀に可能性を託すしか、道は残されてはいなかった。

「武芸百般――。こいつも使いこないしてみせるぜぇ」

「やってみなよ、武道家さん」

その時、闘技場を照らすライトが、僅かに揺らめいた。

それが合図だった。

神威が傘を振りかざし、本部に跳びかかった。

本部は紅桜を振りかざし、迎え撃った。










――かつてあった温かい家族を捨て、全てを破壊せんとする狂戦士。

――全ての脅威から、参加者たちを守護らんとする武道家。


狂兎と守護者。

舞台は地下闘技場。

見守る者は一人としてないまま、2つの意思が衝突した。





【B-3/地下闘技場/一日目・午後に近い日中】

【神威@銀魂】
[状態]:健康、高揚感
[服装]:普段通り
[装備]:日傘(弾倉切れ)@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(26/30)、青カード(26/30)、電子辞書@現実
    黒カード:必滅の黄薔薇@Fate/Zero、不明支給品0~2枚(初期支給)、不明支給品1枚(回収品)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを楽しむ。
0:本部以蔵との戦いを楽しむ。
1:本物の纏流子と戦いたい。
2:勇者の子(結城友奈)は面白い。
3:纏流子が警戒する少女(鬼龍院皐月)とも戦いたい。
4:DIO、セイバーとも次に出会ったら決着を着けたい。
[備考]
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※「DIOとセイバーは日が暮れてからDIOの館で待ち合わせている」ことを知りました。
※参戦時期が高杉と出会った後かどうか、彼から紅桜のことを聞いているかどうかは、次以降の書き手に任せます。


【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:全てを守護る強い決意、背中に刀傷(処置済み)、ダメージ(大)、「紅桜」侵食中
[服装]:道着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、乖離剣エア@Fate/Zero、紅桜@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、範馬刃牙の白カード、赤カード(19/20)、青カード(17/20)
    黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲Saki 全国編
    カイザル・リドファルドの不明支給品1~2枚(カイザルが確認済、武器となりそうな物はなし)
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る。
0:――守護る。
1:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る。
2:騎士王を警戒。
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後。










「はぁ、はぁ……!」

同じ時刻。
宇治松千夜は、走っていた。

「本部、さん……!」

本部以蔵とは、出会ってから一日も経っていない。
助ける義理なんてものは、本来ならばないのかもしれない。
けれど、あまりにも多くの人が自分の周りで死んでいった。
だから、もう嫌だった。
誰かが傷付くのを見るのは。
誰かが死んでいくのは。
そうしなければ、死んでいった人たちも、穂乃果と向き合った時の自分の決意も、何もかもが無駄になってしまう。

「――っ!」

誰でもいい。誰か、助けになってくれる人がいれば。
その思いを抱え、千夜は走る。

「――」

小さなうさぎが一羽、その傍をついていった。
うさぎが何か言葉を発することはない。
だがその姿はどこか、彼女を守護っているように見えた。




【北西の島のどこか/一日目・午後に近い日中】

【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、精神的疲労(中)、決意
[服装]:軍服(女性用)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)
    黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid、不明支給品0~1枚
    黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実、盗聴器@現実、不明支給品1~2枚(うち最低1枚は武器)
[思考・行動]
基本方針:人間の心を……。
0:助けを呼ぶ。
[備考]
※現在は黒子の呪いは解けています。
※セイクリッド・ハートは所有者であるヴィヴィオが死んだことで、ヴィヴィオの近くから離れられないという制限が解除されました。千夜が現在の所有者だと主催に認識されているかどうかは、次以降の書き手に任せます。


時系列順で読む


投下順で読む


142:殺し合いに春の雨 神威 170:憧憬ライアニズム Tonitrus
129:誰かの為の物語 本部以蔵 170:憧憬ライアニズム Tonitrus
129:誰かの為の物語 宇治松千夜 163:わたしにできること