たどりついたらいつも雨ふり ◆gsq46R5/OE



  慣れない車の運転をしながらでも、放送を聞くことは出来た。
  静雄は安全運転で走らせていた車を道路脇へと停車させる。
  心臓の鼓動が早まるのを感じていた。
  その名前が読みあげられないことを心の底から祈りながら、しかし心の片隅には、既に何かを悟ってしまっている自分がいて、静雄はそんな弱気な自分を殺してやりたいと思った。
  瞼を閉じれば、今もあの後ろ姿が脳裏に蘇ってくる。
  平和島静雄という男がこれまで見てきたどんな後ろ姿よりも大きく、強い背中だった。
  破壊しか能のない静雄の戦いとは真逆の、大切なものを守る戦い方を知っていた男。
  再会の暁には、その『守る』ということのやり方を教えて貰うと約束して別れた男。
  平和島静雄という人間に、もっとも似合わない言葉を突きつけた男。

  平和島よ。
  貴様は、弱い。
  望んでいた筈の言葉で、この世のどんな拳よりも強く、静雄を殴り飛ばした男。

 「……蟇郡」

  蟇郡苛。
  彼の名が読み上げられるとすれば、きっと最後の方だ。
  放送は確か、参加者が死亡した時系列に沿って行われる筈だったと記憶している。
  だから静雄は、ぐっと唇を噛み締めたまま、たとえ耳元で爆弾が炸裂しても放送を聞き逃すまいと全神経を集中させていた。その形相は、ひどく切羽の詰まった、必死なものであった。


  ――折原臨也。

  後部座席で音もなく眠っている、宿敵の名前が読み上げられる。
  どの名前が読み上げられても一定の怒りが心の中に沸き起こってくる静雄であったが、こと臨也の名前の時に限っては、そんな感情は覚えなかった。
  当然だ。
  静雄は今でも臨也の事を不倶戴天の敵だと思っているし、彼を許すことは今後も未来永劫絶対にないと神に誓って言うことが出来る。
  それでも、ざまあみろと思うことはしなかった。
  彼が最後に守ったものは今、静雄の隣でくうくうと寝息を立てている。
  喜びはしないし、怒りもしない。
  ただ、無感情だった。
  だから静雄は、これ以上その名前に対して何かを考えたり、思ったりすることはせず。


  ――蟇郡苛。

  その名前が読み上げられるのを聞いて、反射的に傍らの硝子窓へ拳を叩き込んだ。
  壊そうと思って殴ったわけではない。
  それでも硝子窓は真っ白に罅割れてしまっている。
  にも関わらず静雄の手からは血の一滴も流れていない辺り、流石の池袋最強というべきか。

 「……高くつくんじゃなかったのかよ」

  繭が嘘を吐いているかもしれない、などと静雄は考えない。
  彼は大人だ。
  都合のいい現実逃避が何も生まないことは知っているし、繭がそんなことをするメリットがないと、客観的に否定する論拠だって備えている。
  それに、これで死を受け入れられずに塞ぎ込んでみたり、衝動のままに暴れたりしてみろ。
  それこそ、蟇郡の残した言葉は、彼の死は全くの無駄になってしまう。
  そんなことをしていては、静雄はずっと弱いままだ。

  一度はPの位置へ戻したレバーを再度Dへと倒し、静雄は再び車を発進させる。
  ついつい壊してしまった硝子窓が罅のせいで真っ白に染まり、全く右側が見えなかったので、やむなく静雄は窓ガラスを完全に破壊して強引に視界を作った。
  少し肌寒くはなったが、これで安全運転が出来る。
  もっと言うなら助手席の蛍には悪いが、少し寒い空気にあたりたい気分だった。

 「後は任せな、蟇郡」

  長い弔いの言葉を用意できるほど、語彙が豊富なわけではない。
  だから静雄は、再会を果たす前にこの世を去ってしまった蟇郡へとそんな言葉をかけた。
  願わくば、次にその巨体にお目にかかる時には貰った評価を覆せる自分であればいいなと思いながら。
  二人の屍と、一人の少女と、一つの暴力装置を乗せた車は、暫しの間エンジン音を会場へと響かせた。


  やがて彼が車を停めたのは、俗にD-4と呼称される区域。
  より正しくは、その一角にぽつりと佇む施設の前であった。
  研究所、とだけ地図には明記されているが、何を研究しているのか、何が出来るのかは残念ながらどこにも書かれていない。どうせなら病院でも増やせばいいのにと、静雄は思った。
  とにかく、今はこの施設を休息に利用しよう。
  静雄自身、流子との戦闘で相当なダメージを負い、疲労も無視できないレベルに達しつつある。
  無差別な破壊を行うのは慎むにしても、乗った相手と戦うのは、時に静雄にしか出来ないことでもあるのだ。
  気乗りはしないがその為にも、休めるだけ体を休めておくのは重要な事に思えた。

  もっとも、理由はそれだけではない。
  これは蛍のための配慮でもある。
  心に深い傷を負った幼い子どもが、起きがけに後部座席の死体を目にしたならどう思うか。
  まず間違いなく、悪いことにしかならないはずだ。出来るなら臨也と少女の死体を研究所内のどこかに移すなりして、蛍の目から遠ざけてやりたいと静雄は考えた。
  ただ、それで変な誤解を買っては大変だ。
  その辺りは、不器用なりにうまくやる必要があるだろう。
  蛍にあったことを包み隠さず伝えつつ、彼女に信用してもらえるように、振る舞わなければならない。

  過度な長居も無用だ。
  何故ならこの研究所があるD-4エリアは、二方向を禁止エリアに囲まれ、一方を海に遮られている。
  南下すれば元の道を引き返すことになり、最悪、蟇郡を殺した女と再度遭遇することにもなりかねない。
  遅くとも午後二時三十分になる前には研究所を出て、禁止エリア化する前のD-3を通過して、自由に行動できる範囲を広げるのが賢明である。

 「よっと――」

  まずは臨也と紗路の死体を、研究所の中へと運んでいく。
  人間二人分の重さとはいえ、静雄の力にかかれば軽い。
  二人を目に付いた適当な部屋に安置し、それからもう一度車に戻って、静雄は蛍を背負う。
  研究所の中から、そんな自分の姿を見ている者があったことに――彼が気付くことはなかった。




  東條希が、死体を担いだバーテンダーの接近に気付いたのは偶然だった。
  部屋に備わっていた窓から、たまたまちらりと見えた外の景色。
  その中に、希はそんなおぞましい光景を見た。
  殺し合いが始まってから何度目かも分からない血の気が引く感覚を、覚えずにはいられなかった。

 「なんでや……」

  逃げ切ったと思った。
  ジャン=ピエール・ポルナレフを見殺しにして、一先ず死を先延ばしに出来たと思った。
  なのに、これだ。
  どう見ても殺し合いに乗っているとしか思えないバーテン服の男が、希の居る施設へとやって来た。

 「なんで――なんで、こうなるんや!」

  叫ぶ。
  慌てて口を抑えたが、もう遅い。
  叩きつけるように吐いた言葉は、静寂に包まれた研究所へと大きく響いてしまった。
  希はスクールアイドルだ。
  アイドルの声は、当然マイク越しであろうとも、よく通らなければならない。
  それがこの時ばかりは災いした。

  「誰か居るのか?」
  低い男の声が、しっかりと希の耳に届いた。

  ――テーブルの下に隠れて椅子をなるべく自分の方へと引き、子どもの隠れんぼ遊びか、学校の避難訓練を思わせる姿勢で蹲り、希は震えを押し殺すように自分の体を抱き締める。
  大丈夫。
  聞き間違いと勝手に納得してくれる。
  そうでなくても部屋は何もここだけじゃない。
  見つからないで済む。
  きっと。

 「アホか……!」

  涙を流して、希は自分を叱咤した。
  そんな都合のいい話があるわけがない。
  きっと、あのバーテン服は自分を見つけ出すだろう。
  そして、殺すに違いない。
  生かしておく理由なんて、それこそ一つたりともないのだから。

  ……天罰。
  脳裏に過ぎった単語は、ずぶりと鋭く彼女の心に沈み込んだ。
  ずぶずぶと入り込んでいく冷たい響き。
  その不快感は否応なしに、希がこれまでに犯してきた罪を想起させる。
  神代小蒔。――自分が殺した相手。
  ポルナレフ。――見殺しにした相手。
  どんなに都合のいい理論武装をしたって、自分の心に嘘はつけない。
  それに、小蒔の方は嘘のつきようもない。
  彼女は確かに、希がその手で、殺したのだから。

 「うっ……くっ……えぐっ…………」

  漏れる嗚咽が堪えられない。
  一度決壊した防波堤は、もう本来の役目を果たすことはない。
  希は自分が隠れていることも忘れて、泣いた。
  ただの女子高生が背負うにしては、彼女の現状はあまりにも重すぎた。

 「……ここか……?」


  その声は、部屋の外、扉の向こうから聞こえた。
  ドアノブがぐるりと回され、扉が耳障りな音を鳴らして開く。

  ――殺される。
  誇張抜きにそう思った。
  やられる前にやらなければと、刃を握る。
  殺人者としては立派な心構えだったが、泣き腫らして視界はままならず、片手がこんな有様では心許ないにもほどがある。痛みは処置のおかげで楽になっているし、傷も良くはなっているが、万全にはまだ程遠い。
  それに窓から見えた一瞬でも、男の体格が自分より遥かに大柄なことが分かった。

  成人男性と女子高生。
  体格の違い。
  不完全な片手。
  勝てる要素が、どこにある?

  希は、絶望した。
  心の底から、自分の不運を呪った。
  やがてその泣き腫らした視界に、バーテン服の男が写った。
  けれど。彼が今背負っているのは、死体ではなく。

 「……落ち着いてくれ。俺は、殺し合いに乗っちゃいねえ」

  寝息を立てる女性だった。
  バーテン服の彼は片手だけでその体を抑えながら、もう片方の手は空へ掲げ、戦意がないことを示している。
  希は、全身の力が抜けるのを感じた。

  よかった、と。
  思わずそう呟いてしまったことを、誰も責められはしないだろう。
  東條希は女子高生だ。
  まともな人生を送ってきた女子高生が死体を担いだ男を見て、死を覚悟し――それが誤解だったと分かれば、生の実感に脱力してそんな言葉を漏らすのはごく当然の流れである。

  されど――東條希は殺人者だ。
  彼女はもう、まともな女子高生などではない。

 (都合がええなあ、ウチは……)

  自嘲するような心の声は、泥のような自己嫌悪に満ちていた。




 「小学生……!?」
 「まあ……そりゃ驚くわな」

  自分から、その素性を明かしていく殺人者はいない。
  例に漏れず希も自分が人殺しだということは隠して、平和島静雄という男へ接していた。
  殺し合いに抗おうとする人間が複数集まって最初にすることは、情報交換と相場が決まっている。
  静雄はこれまでの事と知り合いの話をし、希も彼が語った内容と大体同じことについてを話した。
  勿論、都合の悪い部分は全て脚色してある。
  神代小蒔のことは話していない。
  キャスターに襲われたことは話した。
  ポルナレフ達に保護されたことも話した。
  彼らが激しい戦いに巻き込まれたことは話したが、自分が生存を優先して離脱したことはうまく誤魔化した。

  静雄もここに来る前、激しい戦いに遭ったらしい。
  彼が担いでいた死体は、その一連の騒動の中で出てしまった犠牲者だという。
  希は彼の話を聞いて納得しつつ、南部の島でそんな事件があった事実を確りと記憶する。
  別に、犠牲となった者達に哀悼の意を感じているわけではない。
  単に静雄の語った危険な女とやらに出くわしては敵わないと、そう思っただけのことだ。
  静雄が背負ってきて、今も寝息を立てている少女は、なんと小学生であるという。
  そのことに希は、思わず素の驚きを見せてしまった。
  どう見ても少女の身長は160を超えている。中学生はおろか、成人女性でも十分通用する背丈だ。
  最近の子どもは発育がええんやなあ、と、ズレた感想を希は抱く。

 「ところで――その手、大丈夫なのか?」
 「あんまり自由に動かすのは無理やけどね……応急処置はしてもらったから、大分楽にはなったわ」
 「ならいいけどよ……って、いや、よくねえな

  希は若干ながらまだ痛む右手をひらひらと振ってみせる。
  応急処置はしてもらったから、と言った所で、否応なしに脳裏を過るのはあの二人の姿だった。
  言峰綺礼と、ポルナレフ。
  二人を自分は裏切った。
  その結果として、ポルナレフは死んだ。
  自分のせいではないとどれだけ言い聞かせても、やはり限度はある。
  心にどろどろとしたものが込み上げてくるのを必死に堪えていると、不意に静雄が立ち上がった。

 「静雄はん?」
 「少し見回りをしてくる。他に誰か居ないとも限らねえからな……
  多分すぐ戻るけど、それまでの間ホタルちゃんを見ててやってくれ」


  希は一瞬だけ固まった。
  それからすぐに頷き、去っていく静雄を見送る。
  扉が閉まり、足音が遠退いていくのを確認してから、希はまず窓を見た。
  小さいが、人一人が出入りするくらいなら問題ない大きさだ。
  高さも受け身を余程失敗しない限り、怪我をするということはないように思われる。

  一度は仕舞った刃。
  縛斬・餓虎を取り出し、自由に動かせる左手で握る。
  視線はそれから、一条蛍へと向いた。
  夢見が良くないのかその表情は若干優れないが、起きる気配は見られない。

  平和島静雄に、東條希を疑っている様子はなかった。
  その証拠に彼は自分へ蛍を任せて、席を外したのだ。


  集団に紛れ込み、隙を見て殺害を重ねていく――それが東條希のこの場における「戦い方」であったが、一介の女子高生に一つの集団を壊滅させるような芸当が出来る筈もない。
  その方法を取るのであれば、やはり最適解は殺し、逃げることだと希は考える。
  一振りの刀を携えて放浪しても次の朝は迎えられまいと、かつて言峰綺礼は言った。
  だがそれは、ただ闇雲に殺すことへ固執した場合の話だ。
  頭を使えば、次の朝は迎えられる。
  時と場合を間違えなければ、それをやれる自信もある。
  後に自分の首を絞めると言われれば返す言葉はないが、そんなことを理由に尻込みしていては、それこそ最後の最後まで何も出来ぬままで終わりかねない。
  行動を起こすことは、絶対に必要なのだ。
  そしてその時は、まさに今。

  静雄はいない。
  逃げ道はある。
  目の前には無防備に眠りこける少女。
  手には優れた刃。
  首を一刺しでもすれば、すぐに終わるだろう。
  静雄が戻ってくるまで、どう考えても五分前後は掛かる筈だ。
  それまでに蛍を殺し、窓から逃げ、室内から見られないようにここを離れて逃走する。

  希はまだ、何もしたくなかった。
  けれどしなければならない。
  そうでなければ、何も変わらない。
  自分たちの夢を守るなんて、出来っこない。


  ……生唾を飲み込んで、縛斬の柄を握る。
  ゆっくりと振り上げ、眠る少女の首筋に切っ先を向ける。

  小学生。

  そんなワードが、頭を過ぎった。
  一条蛍はまだ、小学生だ。
  年齢の差で命の価値が変わるわけはないが、それでも同い年の人間を殺すのと、ずっと年下の子どもを殺すのとでは心持ちはやはり変わってくる。

 「何しとんねん、ウチは」

  希は苦笑した。
  泣き笑いのような顔をしていた。
  今更善人ぶっても仕方がないだろうと自嘲し、呼吸を整え、刃を振り上げる。
  この子を殺したら窓から逃げて、暫くは茂みかどこかに隠れていよう。
  それから禁止エリアに注意しつつここを離れ、またどこかで上手くやろう。
  ――絢瀬絵里という名前について考えることは、あえてせずに。

 「堪忍な……蛍ちゃん」

  最初の殺人と同じ台詞を零しながら、深呼吸と同時に唇を噛み締め、目を見開いて。
  縛斬を握った腕をいざ振り下ろさんとした時――





 「おい」




  扉が開いて。
  平和島静雄が、そこにいた。
  葛藤に没入するあまり、気付けなかった――引き返してくる足音を、見落としていた。



  心臓が鼓動を止めるのは、人間が死ぬ時だけであって。
  小説などでよく使われる、一瞬心臓が止まった、なんて言い回しは全て比喩だと思っていた。
  しかしそれは違うのだと、希はこの瞬間、身を以って知る羽目になった。
  サングラスの底から覗く目と目が合った瞬間――希の体は心臓だけと言わず、全ての機能を一瞬完全にやめた。
  少なくとも希本人は、本当にそう思った。
  思考が目の前の状況にようやっと追い付いて、希は自分が今どれほどの窮地にあるのかを正しく認識する。

  認識したからといって、どうなるというものでもない。
  言葉で取り繕うなど不可能だ。
  いくら静雄が騙しの効く相手だとしても、この状況を見てもまだ騙されてくれるような阿呆では絶対にない。
  窓の逃げ道を使う。馬鹿を言え、静雄が希の背中を掴む方が絶対に速い。
  一条蛍を殺す。ああ、それならやれるかもしれない。だが、その後は確実に詰む。

 「う――」

  となると、取れる選択肢など一つしかないわけで。

 「あああああああああああっ!!」

  握った縛斬で、静雄を殺すという行動に出た。
  確かにこの場においては、間違いなく最適解の行動だ。
  縛斬という刃は規格外の代物である。
  この世で最も靭やかなメスという刃物を弾く静雄の身体も、縛斬にかかれば串刺しは免れないだろう。
  彼も人間なのだから、心臓をそれで貫けば、死ぬ。
  ただ、勿論これは、とある大前提を完全に無視した場合の話。

 「――あ……」

  平和島静雄もまた、規格外の怪物である。
  別に彼でなくとも、乱心した少女の猛攻くらいなら対処するのは難しくない。
  だが相手が静雄という状況が、希の打開の可能性を極限まで狭めたのは確かだった。
  希の左手首はあっさり片手で止められ、縛斬をもう片方の手でこれまたあっさり奪われる。
  東條希はこうして武器を失った。もう、取れる選択肢すら、ない。

 「怪我人と子どもだけ残して何かあったらやっぱり危ねえと思ったから、戻ってきたんだよ。
  そしたらまさか、こんなことになってるたぁな…………」

  静雄が怒っているのが、希にはひしひしと伝わってきた。
  まるで噴火直前の火山のように、感情が沸騰しているのが分かる。
  キャスター、ジャック・ハンマー、針目縫。
  数々の脅威に遭遇して、負傷こそすれどもそれを乗り越えてきた希だったが、今度ばかりはもうどうすることも出来なかった。百人が見たなら百人が無言で首を横に振る状況が、ここにある。

 「や――嫌……嫌やぁ!」

  希はへたり込み、叫んだ。
  それでどうなるわけでもないと分かっていても、そうせずにはいられなかった。
  我が身が可愛いというのも、確かにある。
  けれどそれ以上に、希にはやらねばならないことがあるのだ。
  守らなければならないものがあるのだ。
  だから死ねない――死ねるわけがない!

 「……ホタルちゃんは、ただの女の子なんだぞ」

  静雄の声は、激情を宿している。
  希の哀願になど耳を傾けずに、彼は語る。

 「その『ただの女の子』が何だって、こんな場所で死ななきゃならねえ。
  何だって、手前の目的なんざの為に好き勝手できる輩に殺されなきゃならねえんだ?
  そういう奴ってのはよ――」

  みしり。
  静雄が片手を突いていた壁が、悲鳴をあげた。
  壁面を、鷲掴みしている。
  鉄筋の壁に彼の五指が沈み込み、ひび割れを生んでいる。
  希はそんな彼の姿に心からの戦慄を覚えたが、しかし。


 「――殺されても、文句は言えねえんだぞ」


  平和島静雄という生き物を知る者がこの光景を目にしたなら、拍子抜けすらすることだろう。
  平和島静雄が怒っている。
  平和島静雄を怒らせた人物が眼前にいる。
  なのに、彼が暴れ出す気配がない。
  静雄の脳裏にあるのは、自分を弱いと喝破した男の巨体だった。
  ここで暴れれば、間違いなく蛍が傷つく。
  だから静雄は、彼を知る者にとっては信じられないことに、己の怒りをセーブした。
  この状況で、荒れ狂う平和島の火山を――不格好ながらも、制御してみせたのだ。

 「こいつは返さねえ。とっとと消えるなり何なりしな。
  このままここに留まるってんなら、好きにすればいい」

  縛斬が収納される。
  静雄は東條希と情報交換をする中で、彼女の友人が三人も殺された話を聞いた。
  蛍を殺そうとしたことは許せない。自分を騙そうとしていたこともやはりむかっ腹が立つ。
  だがあの時希の瞳に浮かんだ涙は、少なくとも嘘ではなかった筈だ。
  これがもしキャスターのような真性の悪党であったなら、静雄は暴れはせずとも、部屋から引きずり出してきっちり撃破するくらいのことはしただろう。
  東條希という少女の境遇もまた、変わりゆく平和島の噴火を抑える一因にはなったのかもしれない。 
  もっとも結局のところ、それを知るのは静雄当人しかいないのだが。

 「ただ――絶対に次はねえ。この意味は分かるな。
  分かったんなら、二度とホタルちゃんに手を出すな」

  希はもう、ただ頷くしかなかった。




  色んなものがはち切れそうだった。
  第二回目の放送が終わってからまだ精々三十分程しか経っていないというのに、色々なことがありすぎた。
  穂乃果の死を知り、殺すことに失敗し、挙句武器さえ奪われた。
  殺し合いが始まってからの半日間で、希は様々な恐怖を知ったし、実際に痛い目にも遭ってきたが。
  今の瞬間ほどの恐怖はなかった。今度は手だけでは済まないと、命は絶対に助からないと本気でそう思った。

 「じゃあ――」

  八つ当たりのように、希は口を開く。

 「ウチは、どうしたらええねん…………」

  大粒の涙を流しながら、蹲って嗚咽する。
  東條希にはそれしか出来なかった。
  彼女はただの女の子で、ただのスクールアイドルでしかなかったから。
  それ以外に出来ることなんて、何もなかった。



【D-4/研究所内/一日目・日中】

【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:東條希への苛立ち、全身にダメージ(大)、疲労(大)
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:ボゼの仮面@咲Saki 全国編
         縛斬・餓虎@キルラキル
         不明支給品0~1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
  0:誰かを守るために、強くなりたい。
  1:休む。
  2:テレビの男(キャスター)とあの女ども(東郷、ウリス)をブチのめす。
  3:犯人と確認できたら衛宮も殺す
  4:希を殺すつもりはない。だが、蛍に危害を加えることは絶対にさせない。

【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:全身にダメージ(小)、気絶
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、ジャスタウェイ@銀魂、越谷小鞠の白カード 折原臨也のスマートフォン
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
   0:????????????
   1:旭丘分校を目指す。
   2:午後6時までにラビットハウスに戻る。
   3:何があっても、誰も殺したくない。
[備考]
※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣と情報交換しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※衛宮切嗣が犯人である可能性に思い至りました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。

【東條希@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(極大)、右手首から先を粉砕骨折(応急処置済み)、感情爆発、平和島静雄への恐怖
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)、ヴィマーナ@Fate/Zero(4時間使用不能)
基本方針:μ's全員を生き返らせるために優勝狙い。
  0:??????
  1:この場に残る? それとも?
  2:集団に紛れ込み、隙あらば相手を殺害する。
  3:にこと穂乃果を殺した相手に復讐したい。
  4:絵里ちのことは――今は、考えたくない。今は、まだ。
  5:蛍を殺すつもりはない。静雄が怖い。
[備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。


※コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形)は、研究所の傍らに停めてあります。
※桐間紗路、折原臨也の死体は研究所の一室に安置されています。


時系列順で読む


投下順で読む


143:キルラララ!! わるいひとにであった 平和島静雄 169:もしもからきっと
143:キルラララ!! わるいひとにであった 一条蛍 169:もしもからきっと
148:思い出以上になりたくて 東條希 169:もしもからきっと