退行/前進 ◆3LWjgcR03U
――離脱。
白い災厄から逃れようとするヴァニラの頭の中は、その二文字のみが占めていた。
先ほどまでの放送局には、自分を含めて6人もの人間が集っていた。
ここは西の端にぽつんと建っている施設だ。
会場の西部にいる参加者が、これから先もここを目指して集まってくる可能性は高い。
花京院の血を吸ったとはいえ、今のコンディションではあのような多対一の戦いを強いられたら勝てる保証はない。
いずれ、全ての参加者を殺し尽す。
だが、そのために、今はこの場からは撤退する。
逃げるなら、どこか。
主人より得た、吸血鬼の体。
第一の側近として見てきた、DIOの思考と行動のパターンを反芻する。
ほとんど無意識下で考えながら、ヴァニラ・アイスは行動する。
今は昼間。
外の世界は、最大の弱点である日の光が燦燦と降り注いでいる。
この時間に吸血鬼がいるべき場所はどこか。
向う場所は一つしかない。
暗い場所。
光のない場所。
下方。
――地下。
△
数刻後、ヴァニラの姿は地下通路にあった。
大きな建物である放送局とはいえ、地下に部屋があるかは分らない。
居場所があるかどうかは、賭けではあった。
だが、結果としてヴァニラは賭けに勝った。
入口にあった説明を短時間で頭に刻み込むと、速足で階段を降りていく。
そして、放送局からとにかく距離を取ろうと走る。
追ってくる気配はない。
前方の暗闇からも、誰かが来る気配はない。
ヴァニラは敵から逃げおおせたことを確信した。
△
「ふむ」
落ち着いて周りを見渡すと、地下通路の左右にはいくつもの映像が流れていた。
時代錯誤な着物をまとった、東洋人らしき姿をした連中の姿が映し出されている。
空中を浮かぶ戦艦に向っていく姿。
眼帯の男と渡り合っている姿。
温泉宿のような場所を舞台に、幽霊と戦っている姿。
(あの餓鬼……)
その中でも、とりわけヴァニラの気を引いた映像がある。
座敷のような場所で、少女が眼鏡の少年と共に中年男と戦いを繰り広げている。
服装は違うが、間違いはない。
花京院と共に自分と戦った、神楽と呼ばれていた、エセ中国人じみた口調の少女だ。
(なるほどな)
ヴァニラはしばし映像に見入る。
映像の中では、中年男に追いつめられた少女が、その顔つきを変貌させ物凄い力を発揮している。
先ほどの戦闘を振り返る。
見た目はただの子どもだったが、パワーだけなら、あの3人の中でも随一のものがあった。
あるいは、自分と同類に近い、人間ではないモノである可能性もあるだろうか。
(神楽……。警戒しておくに足るか)
少女の正体が何なのかは分らない。
だが、自分のような吸血鬼のほかにも、この島には人外の存在が潜んでいる可能性がある。
いずれ、全ての参加者を殺し尽す。
そのために、障害は早めに取り除いておくに限る。
自分の真骨頂は、相手に一瞬の考えさせる隙も与えない暗黒空間からの奇襲にある。
この環境において、より確実に奇襲を成功させる条件とは何か。
自分の能力についての情報を、触れて回されないことだ。
予め対策を取られない早いうちに、参加者どもを飲み込み尽しておかねばならない。
そのためには、何らかの陽射しを避ける手段を手に入れたいところだ。
このまま地下通路を行けば、映画館がある。スクリーンに掛かっている銀幕などは有効かもしれない。
(DIO様。1人でも多くの首を携え、あなたの下に参ります……)
△
――ヴァニラ・アイスは、未だ気付いていない。
元の世界で、ポルナレフに喫した敗北。
この殺し合いの場では、花京院一行、そして纏流子に喫した敗北。
2つの敗北が、自分自身の心中から慢心の二文字を、徐々に消し去りつつあることを。
――ヴァニラ・アイスは、未だ知らない。
狂信を捧げる相手であるDIO。
その彼もまた、この地において敗北を喫したことを。
そして、元の世界で、宿敵に敗北する未来が待っていたという事実から、目を背けたということを。
【E-2/地下通路/一日目・昼】
【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:ダメージ(中) 、疲労(中)、左腕に刺傷(回復中)
[服装]:普段通り
[装備]:範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、ブローニングM2キャリバー(68/650)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:双眼鏡@現実、不明支給品0~1(確認済、武器ではない)、範馬勇次郎の不明支給品0~1枚(確認済)、ブローニングM2キャリバー予備弾倉(650/650)
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
1:このまま映画館へ向かい、日光を避けられる手段を調達したい。
2:自分の能力を知っている可能性のある者を優先的に排除。
3:承太郎とポルナレフも見つけ次第排除。特にポルナレフは絶対に逃さない
4:白い服の餓鬼(纏流子)はいずれ必ず殺す
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
※スタンドに制限がかけられていることに気付きました
※第一回放送を聞き流しました
どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします
※暗黒空間内に潜れる制限時間については後の書き手さんにお任せします。
△
――同じ時刻。
地下通路には、もう一体の怪物が徘徊している。
(匂いがするぞ……)
目的の放送局の直下に辿り着き――
が、ラヴァレイは東の方角に広がる暗闇を見て、顔を歪める。
何者かの濃厚な気配が、闇の中から漂っている。
誰なのか。
地下に降りてきたということは、少なくとも何らかの必要性があったということ。
ラヴァレイの脳裏には、DIOのほかにこの島にいるもう一体の吸血鬼の姿が浮かぶ。
映像の中では、銀髪の男ポルナレフらと戦い、最期は間抜けにも最大の弱点である日光を浴びて敗死した男。
『ジョースター一行』とホル・ホースに比べると、ヴァニラ・アイスについて得られた情報はかなり少ない。
だが、映像から察することができた、この男の人物像は――
(狂信者……)
砂を操る犬の作ったDIOの虚像を破壊させられ、猛烈に激怒していた。
その様を言い表すことができるのは、この言葉しかないだろう。
(くく)
ラヴァレイは笑う。
ヴァニラ・アイスのような人間は五万と見てきた。
彼ら狂信者たちの妄信する対象は、偶像の神であったり、カリスマ性を持ったリーダーであったりする。
だが、そうした手合いに例外なく待っているのは、たった一つの結末でしかない。
――破滅。
何しろ、狂信を捧げられる相手にとっては、どんな命令でも文句を言わず喜んで実行する手駒なのだ。
これほど都合のよい存在はない。
金銭をむしり取られ、精神と肉体を摩耗させられ、最後には哀れにも放り捨てられる。
それが狂信者の末路だ。
(よりによって、教祖様があのDIOでは浮かばれない)
DIOは力は持っているのかもしれないが、自分の変身も見抜けない程度の男でしかない。
部下の様子がおかしいことを看破できないということは、つまりはそれだけ部下を軽んじているということだ。
もしもの話ではあるが。
ヴァニラ・アイスが、「死んだ後」からここに来ているのならば、彼も少しは学習していてほしいものだ。
(さあ、どうするか)
ここは放送局の直下。
本部以蔵は、今ごろここに辿り着いているだろうか。
それに、映像の中の、自分の本名と同じ名を名乗った「キャスター」のことが気にならないと言えば嘘になる。
男と会い名前について問い詰めることも、今後のためには有益だろう。
だが、地下通路にいられる残り時間との相談になるが、予定を変えて気配の主を追ってみるのも面白いかもしれない。
いずれにしても、間もなく2回目の放送が流れる。
本部もそうだが、別れた蒼井晶やカイザルたちの生死もそこで確定する。
元々時間を使いすぎた以上、本部の末路を見届けられるかは五分五分といったところなのだ。
どうするかを決めるのは、食事でも摂った後、それを聞いてからでも遅くはないだろう。
賞金首の選択は――
【E-1/地下通路(放送局真下)/一日目・昼・放送間際】
【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:猫車@現実、拡声器@現実
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む。
0:放送を聞いた後、このまま放送局へ上がるか、気配の主を追ってみるか――。
1:本部の末路を見届ける。
2:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
3:カイザルは当分利用。だが執着はない。
4:DIOの知り合いに会ったら上手く利用する。
5:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する。
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。
※繭に協力者が居るのではと考えました。
※空条承太郎、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ、ホル・ホース、ヴァニラ・アイス、DIOの情報を知りました。
ヴァニラ・アイス以外の全員に変身可能です。
【施設情報・地下通路】
「放送局」⇔「映画館」の間、「E-2」~「F-3」付近には『万事屋の軌跡』があります。
坂田銀時、志村新八、神楽らが遭遇してきた数々の事件にまつわる映像が展示されています。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2016年04月17日 10:38