知らぬが仏 ◆NiwQmtZOLQ














━━━━━嗚呼、真実ほど。
━━━━━人を魅了する物も、無いけど。











「あ、新しい書き込みが来てます!」

友奈のその声で、銀時と絵里は振り向いた。
水面の上に見える線路がいよいよ目前に迫っており、もう少しで駅に着くだろうというタイミング。
だが、一先ず二人は友奈へと駆け寄り、その文面の確認を先にした。
その理由は、先程のチャット━━━━━「東郷美森は犬吠埼樹を殺害した」と書き込んだと思しき、『M』という人物の反応を確かめる必要があったから。
その内容によっては、今後の行動が変わる可能性も十分あり得た。
だが。

「『M』じゃあないのね。『R』…また別の人の書き込みみたいね」
「そう簡単に返信はしてこねーか。ったく、面倒くせーな」

それが全く関係の無い、新たな第三者の書き込みというのを知り、二人は落胆する。
しかし、この殺し合いの中で貴重な情報というのには変わらない。
情報収集を怠らない━━━━━とある理由から先程七人で決めた事を厳守して、一応その内容を見てみると。

「『義輝と覇王に。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』……」

暗号。
一目でそうと分かるような、一見意味不明な言葉の羅列。
恐らくは、どれも何かの代名詞なのだろうが━━━━━

「義輝…って、あ」
「はい。多分、夏凜ちゃんだと思います」

そう。
義輝というこの言葉には、友奈が思い当たる節がある。
勇者システムにおいて、勇者を死の運命から守る為に開発された精霊。
とある勇者の犠牲から生まれたそれは、各々が別の形をとっている。
義輝という精霊を持つのは三好夏凜。勇者部に入った時期こそ最近であるものの、今では立派な勇者部の一員だ。
つっけんどんとした態度は誤解されやすいが、その実勇者に相応しく、優しく勇猛な精神の持ち主である。
この殺し合いの中でも、きっと折れずに、友奈と同じように戦おうとしている筈だ。

「うーん……この覇王って、確かコロナちゃんが言ってた子よね?」
「ああ、そうだな。」

一方で、もう一つ心当たりのある名称が存在した。
覇王━━━━━ミッドチルダに伝わる旧き王で、アインハルト・ストラトスがその血を、そしてその記憶を継承しているという。
コロナの説明によれば、彼女もまた試合の中でも相手を思いやるような事が出来る優しい少女。人を殺すような事はしないであろうという事だ。

━━━━━本来なら、その人物の人となりはまだしも、バックボーンやくっついているマスコットなどの情報は不要だったかもしれない。
にも関わらず、彼等がここまで情報交換を行い、その収集にも積極的になっている「とある理由」。
それは、皐月の知る、変装能力を持つという針目縫という参加者の存在。
偽の情報での撹乱などといった変装ならではの悪巧みもさることながら、個人での戦闘能力もかなりのもので、不意を突かれれば勝ち目はかなり薄くなる。
その脅威を予め抑える為に、彼等は知り合いの情報についてかなり深いところまで教え合う必要がある、という皐月の言葉に、反論する声がある筈も無く。
そういう訳で話を聞いていたのだが━━━━━想像もしていなかったところで、思わぬ役に立ったという事か。

「つまり、夏凜ちゃんとそのアインハルトさんっていう人が一緒にいて、更にこの『タマ』って子と『フルール・ド・ラパン』っていう子が二人と何らかの形で知り合っている…」

これは朗報だ。
友奈が知っている夏凜も、コロナが話していたアインハルトも、共に殺し合いに乗るような輩ではない。
間違い無く、自分達と同じく主催の打倒を目指している事だろう。
更に、二人とも決して無力ではない。
夏凜は毎日の鍛錬に裏打ちされた確かな強さ、そして友奈達のものに更に改良を加えた勇者システムを持つ『完成型勇者』。
アインハルトも、覇王流という古流武術を操り、コロナとのストライクアーツの試合ではゴーレムを一撃で粉砕したという程の技術を持つ。
そして、この情報が正しければ、彼女達もまた既に二人もの仲間をこうやって作っている━━━━━それは、更なる希望へと繋がる。

「…それで、問題は」

だが、そう。
絵里が言うように、一つ大きな問題があるのだ。
それは、この書き込みの最後の一文。
一番肝心な、四人の待ち合わせ場所。

「ティッピーの小屋………何処なのよ」

その位置が、分からない。
もちろん、このような書き込み方にも理由があるのは分かっている。
下手に集合場所を明記してしまえば、それを見たマーダーはこぞってこれ幸いと待ち伏せや罠を仕掛ける事だろう。
DIOや流子、神威のような凄まじい力を持つ凶悪な殺人者や、その他にも集団に潜り込んでチャンスを狙う暗殺者の存在は少なからず懸念される問題だ。
そういったリスクを考えると、こういった暗号はやはり当然━━━━━

「…………あれ、じゃあ私がチャットに名前も目的地も打ち込んだのって……」

友奈が零したその言葉に、絵里と銀時の動きが再び止まる。
そう言えばそうだ。
思いっきり自分達の目的地も本名も明かしてしまったが、今言った通りの危険が挙って寄ってくる可能性はそういえば考えていなかった。
よくよく考えれば、寧ろこういった暗号の方が知り合いへの融通は利く事だろう。それが細かければ細かい程、尋問で聞き取った可能性が低くなるという考えすらも出来得る。
━━━━━一転して、空気がかなり重くなる。

「………あー、それはさておき。
一先ずはこの、ティッピーの小屋について考えてみない?」

嫌な雰囲気を払拭するように、絵里が改めて声を張り上げた。
彼女が話題転換に使ったのは、やはり最大の問題点。
ティッピーの小屋。
夏凜とアインハルトが目指すと思われる可能性が限りなく高い場所。
それが何処かが分かれば、万事解決といくのだが。

「ティッピー……」
「ティッピー………」
「ティッピー…………?」

三人揃って頭を捻る。
何かの名前、なのは恐らく間違いないだろう。いや、愛称か。
いやしかし、情報が少な過ぎるというのがやはり大きい。

「考えようによっては、幾らでもこじつけられるわね。
ティッピーの小屋という映画があるなら映画館、ティッピーというウサギがいるならラビットハウス…」
「ティッピーさんが病人なら病院でしょうし、もう亡くなっている方なら墓地とも…いや、小屋じゃないから違いますかね?」
「墓場にだって管理人みたいなのはいらァ。そいつの小屋ってんならアリだろ。
学校のマスコット…ってのは無いか。皐月ちゃんもれんげちゃんも言ってなかったし、絵里の学校にいたなら分かるわな」

幾らか案を挙げてはみたものの、やはり全て憶測に過ぎない。
杏里やジャンヌ、或いは雁夜という男ならば何か知っていたのかもしれないが、彼女達に聞く事は最早叶わない。
今ある情報では、この目的地が何処なのか特定する術は彼女達には存在しなかった。

「となると、この『タマ』ってのか『フルール・ド・ラパン』の知り合いも探さねぇとな」

そう、手掛かりはそれ。
友奈に分からない以上夏凜にもそこまでの心当たりは無い筈。
それに同行するアインハルトの知り合いはもうコロナだけで、そのコロナともトランシーバーが使えず今すぐに聞くことは無理だ。
それに、ティッピーの小屋が集合場所となり得る以上、かなり分かりやすい情報の筈。そんな基本中の基本のような情報なら、先の情報交換で名前が挙がっている可能性が高い。
即ち、必然的にこの『タマ』という人物か『フルール・ド・ラパン』という人物、そしてその知り合いを探すのが、考え得る限りで最も手っ取り早い手段。
『ティッピーの小屋』の意味も、恐らくはそのどちらかが知っている事だろう。

「とは言っても、ね…」

だが、その探すという行為もかなり運に頼る事になる。
れんげやコロナのように、知り合いが一人か二人程度なのであれば、この広い会場内で見つけるのは骨が折れるどころの話ではないのだ。
それに、自分達にも放送局という目的地がある。
それまでに穂乃果と希、それや協力者が見つかればまだいいが、そこに至ってもまだ合流出来なければ━━━━━その後は、まだ分からない。

「とにかく、放送局までの道すがら探すだけ探してみっか。それで見つかりゃ御の字、見つからなくても何とかならァ」
「銀さんの言う通りです。なせば大抵なんとかなるっ!」

銀時の言葉に、友奈も同調するように。
勇者部五箇条。
友奈が所属する勇者部に伝わるという教訓の一つ。
それを叫んだ時の友奈の楽しげな顔に、絵里も僅かに表情を綻ばせ。
そして、その直後に。

「…あ、見えたわ!」

西の方角から伸びていた線路が吸い込まれている彼女達の目的地、駅が遂に目に入った。
自然と、銀時と友奈の表情も綻ぶ。
漸く見つけた、まずは第一の目的地。
ここから電車に乗れば、最終的な目的地である放送局まではひたすら南下するだけで到着する。
一旦一段落ついたか━━━━━そう思ったところで、ふと南からの突風が吹く。

「………ッッ!」

━━━━━そして。
清々しい風の中に混じった「異物」が、彼等の警戒のレベルを直ちに引き上げた。
空気の冷たさや日差しの暖かさを切り裂き漂う、生臭さを残した鉄の匂い。
その出処である駅を睨みつつ、銀時が背後の二人に告げる。

「様子、見てくらぁ。外で待ってろ」
「分かったわ、銀さんも気を付けて」
「何かあったら呼んで下さい、すぐに行きます」

二人の応援を背に受けつつ、ゆっくりと駅へと入る。
転々と続く紅い足跡、その大元に近付くにつれ血の臭いはより強くなる。
気配を殺しつつホームに入った銀時は、そこで思わず声を漏らした。

「……おーおーおーおー、こいつぁまた派手にやりやがって」

二人を連れてこなくて良かった━━━━━心からそう思うような死体が、そこには転がっていた。
ホームに放置されていたのは、二つの死体。
そして、その何方も─────グロテスクと形容する他ない、悲惨な物。
一つは、頭部と体が分かたれた死体。断面から噴き出したであろう血に塗れている様もさる事ながら、その頭部が何処にも見当たらないというのが非常に異質。
もう一つは、胴体を深く袈裟斬りにされていた。傷痕からは本来なら腹の中にあるべきモノが溢れ出て、大量の血から漂う鉄分と混ざり合い異臭を放っている。

「ったく、ここまで派手にやりやがるたぁね……」

口ではいつものように口汚く愚痴りながらも、その瞳は普段の彼からは考えられない程に鋭い。
幼少期に渡り歩き、攘夷志士時代に駆け抜けた戦場を思い出して、その心境は少なくない緊張感に包まれている。
下手人の不意打ちや外の少女達の異変があれば、恐らくは瞬時に気付くであろう態勢。
白夜叉と畏れられていた頃の彼の片鱗は、僅かながらも顕れつつあった。

「さて、と…こっちか」

銀時は二つの死体へと近寄る。
死体からモノを失敬する、という罰当たりな━━━━━昔のような真似をするというのも考えに無い訳ではないが、最大の目的はそれらの検分。
下手人の正体が僅かでも掴める様な手掛かりが存在しないか調べるのも、立派な情報収集の手段となり得る。
例えば得物─────かなりの刃渡りの刃なのは簡単に分かるし、それを扱える人物、或いはそんな武器を持っている相手への警戒を強める事も事前の対策としては有用だ。
その後は━━━━━

「時間があんならいいんだが……ま、勘弁してくれや」

あくまで一目見た限りでは、この二人は友奈や皐月、コロナといった戦闘を得手とする類の少女達には見えない。
どちらかと言えば、絵里やれんげと同じただの一般人に見える。
流石に埋葬する時間は無いが、 日陰に移す程度の事はするべきだろう。

(…ん?)

そこで、銀時は気付く。
先に検分をしようと近付いた、胴体を切り裂かれた少女の死体。
彼女の陰に隠れるように、小さな文字が綴られている事に。
そして、その意図するところを彼女はすぐに理解する。
ダイイングメッセージ。

「………ったく、けったいな事しやがって」

そう呟きつつも、銀時はそっと手を伸ばした。
少女の遺体を僅かに、しかし傷付けないように丁寧に動かす。
そうして露わになったベンチに顔を近付け、その内容に目を通して、











「…………………あ?」

そこで、彼の思考は一度停止した。
ベンチに書かれていた文言─────それは、想像もしていなかった文字列。

  『 ふう に
           ころされ る 』

坂田銀時は、普段はちゃらんぽらんと言われても仕方が無いような性格である。
けれど、油断ならないこの状況で、わざわざ有用な情報を忘れる程の間抜けではない。
だから、彼女は勿論忘れていなかった。
名簿に記載されている『ふう』という名の人物が、一人しか居ない事も。
そして、その人物─────犬吠埼風が、行動を共にしている結城友奈に、頼れる先輩だと言われていた人物である事も。
忘れている筈など、無かった。









「━━━━━あ、銀さん」

駅から出てきた銀時に、待機していた二人が駆け寄る。
心配無い、と言うように手をひらひらと振る銀時だが、二人がそれでも表情を明るくしない事に目を細める。

「中、どうでしたか」
「………仏さんが二つ。何かの刃物でスッパリやられてやがった。
少なくとも、テメー等の知り合いじゃあ無さそうだったがよ」

その発言に、二人は思わず身を固くする。
想像はしていたとは言え、堪える物は当然あるだろう。
だが、ショックを与えないように今黙ろうと、彼女達がそれを察せないとは思えない。
この殺し合いに来てから既に少なくない時間を共に過ごし、互いに隠し事があるかどうかを見抜ける程度の仲になりつつある絵里。
気絶から回復し、片側の視界が閉じられている事に気付きながら、それをおくびにも出さない友奈。
そんな彼女達に、そうやすやすと嘘を吐き通せるとも思えない。

「あの、これ」

そんな事を思っている一方で、友奈が声を上げていた。
彼女が指差したのは、駅から点々と続く真紅の足跡。
駅構内から続くそれは、駅から離れる方向へ続いているようだった。

「まだ乾いてないし、次の電車の時間によっては、こっそり追ってみるのもいいかもしれないかなと思って。
………その、本人ならともかく、巻き込まれて何とか逃げた人って可能性もありますし」

そう話す友奈に、同意するように頷く絵里。
確かに、時刻表に書かれていた予定発車時刻にはまだ時間がある。
出るのを遅らせたお陰でそこまでの疲労は溜まっておらず、ただ時間を潰すだけというのも考えものなのは確か。
それに━━━━━気になる事も、無い訳では無い。

「次の電車にゃあ………まだ三十分はあったな。ちょっくら行ってみっか」

転々と続く生乾きの足跡は、ところどころぶれながらも真っ直ぐに駅から遠ざかっている。
少女達と共に歩き始めながら、銀時は考える。
血の足跡、という事は考えられる可能性は二つ。
一つは、この主がそれまで駅の死体と同行しており、少なくともこの足跡が続くまでは一人だけ何とか逃げ果せたという可能性。
そして、もう一つは。
この足跡が、ずばり殺人者その人のものであるという可能性。
もしそうであるならば、その犯人は━━━━━

「ぎ、銀さん!そこ!」
「…………っとぉ!?」

と。
物思いに耽るあまり足元が見えていなかった銀時へと、絵里が叫ぶ。
慌てて足を退け見てみると、それは未だに酸の臭いが鼻をつく嘔吐の痕。
この後も足跡は続いているが、よりその乾きが甘い上、この辺りで数歩歩き回ったような様子がある。
となれば、一旦ここで立ち止まった、と考えるのが妥当だろうが。

「それより、銀さん………」
「………ああ」

そして。
銀時も、勿論それには気付いていた。
嘔吐の跡から分かる、唯一の情報。
それは━━━━━

「犯人はうどん派だな」
「関係無いわよねそれ」

心底どうでもいい、といった風に絵里がツッコミを入れる。
いくら情報が大事といっても、うどん派が何の役に立つというのか。
そして、そんなツッコミにも構わず、銀時はいつものノリで続ける。

「いやいや、うどん派でも無い限り━━━━━」

だが、二人は気付かない。
それが、想像以上に重要な情報である事に。
それに気付かぬまま、銀時は軽い口調で言ってしまう。

「こんな場所で、わざわざうどんなんざ食うかねぇ」












「……………………え?」

銀時の、その言葉に。
結城友奈が、凍りつく。
疑問を浮かべる二人を前に、のろのろと彼女は振り返り。
何かを思い立ったかのように、赤カードを取り出すと。

「こ、これを!」

━━━━━『最高級手打ち讃岐うどん』と描かれたパッケージを取り出し、二人へと差し出した。

「「……………………???」」

意味が分からない。
何でこんなところで、急にうどんを出したのか?
或いは、このうどんが何かの鍵なのか?
そんな事を思いながら、ひとまず絵里が友奈へと口を開いた。


「ええっと、友奈ちゃん。なんで、うどんなの?」


絢瀬絵里も坂田銀時も、世界の差こそ有れど日本と定義される国に住んでいる人間だ。
だが、四国、特に香川県に思い入れがある人間ではない。
だから、世界が滅びそうになった時にさえ「うどんの文化だけは絶やしてはならない」と提唱した人間がいたという程にうどんが愛されている世界なんて、彼女達にしてみたらありえないと思うかもしれない。

「━━━━━━━━━うどんを、食べない…………!!??
もしや、銀さんも絵里さんも人間では…………!」
「おーい、友奈ちゃーん?帰ってきてー?世界が違うって話したよねー?」

だが、友奈の住む世界━━━━━神世紀の住人にとって、うどんとは最強のソウルフード。
うどんに目を向けない存在など人間である筈がない、という理論すら成立しかねない程のうどんへの信奉が蔓延している中で育った彼女にとっては、突如突きつけられた「うどんに目を輝かせないような人間」の登場は些かショックが大きい出来事だ。
思わぬところでのカルチャーギャップに、思わず銀時と絵里は嘆息し。
そこで、ふと絵里は思いついた。

「でも、そこまで言うなら……これ、もしかして友奈の知り合いじゃないの?」

友奈がはっとした表情で顔を上げた。
そう、それもまた当然の思考だ。
こんな状況で、かつ食べる物が選べるとなれば、大体の人間はより食べ慣れた物を選ぶだろう。
それがうどんだというのなら、友奈と同じ世界の人物という可能性は十二分にあり得る。






━━━━━だが、それは。



「………じゃあ、これをやったのは」
「……………っっっ」



そう。
それが成り立つとするなら、それは「友奈の友人が殺人者である可能性」も自然と示唆する事になる。
こんな殺し合いの場で好きな物が食べられるとして、どんな物を望むかと言えば─────栄養摂取に優れたものの他に、よほど食べ慣れた物が選ばれる。
うどんとて栄養摂取効率が悪い訳では無いが、かといってわざわざ出して食べるのかと言われればそこまでではない。
となれば、うどんが好物だという友奈の友人が─────

「『ふうにころされる』だとよ」

不意に。
口を開いたのは、銀時だった。
先程までの軽い口調とは全く異なる、重みのある言葉が、その内容が冗談でも何でも無い事を如実に表している。

「銀、さん…………?」
「さっきの駅に書いてあった。御丁寧に、簡単には見えないようによ」

それで、完全に空気が凍った。
仮に、吐瀉物の中にうどんが無かったならば。
ダイイングメッセージを嘘と断じ、足跡を消した殺人犯への警戒を高めていたかもしれない。
仮に、ダイイングメッセージがなければ。
ここにいた人間が友奈の知り合いであるという可能性を、少なからず肯定的に捉えられていた可能性が高かったかもしれない。

けれど─────状況は今、「犬吠埼風は殺人者である」という疑念をただ深めるだけだった。

「そ、そんな……」

絵里の言葉は、虚ろに消える。
だって、そんなのはあまりに無情ではないか。
漸く仲間と出会えると思った矢先に、その仲間が殺人者である可能性が高いという話など、到底受け入れられる物では無いだろう。
見れば、友奈はただその拳を握り締めている。
そこに渦巻く感情を推し量る事など、絵里には出来ない。
どうしようも無い現状に、絵里もただ唇を噛み。

「追うか?」
「えっ?」

━━━━━口を開いたのは、先程から沈黙していた銀時。
ゆっくりと紡がれた言葉は、相応の重みと共に友奈の耳に届く。

「この足跡追って、テメーの先輩ひっ掴まえて、何があったか聞いてみるのが一番早え。
単純に逃げただけならそれで良し、もしやったんだったら━━━━━」

一旦、言葉を切り。
改めて友奈に向き直って、その顔を正面から見つめる。

「━━━━━そんときゃ、テメーのしたいようにすりゃあいい。そいつが一番後悔しねぇ」
「でも」

だが、友奈もすぐには頷けない。
銀時の言う通りにすれば、確かに風と再会できる可能性は低くない。
しかし、それでは絵里と銀時を二人で放送局へと向かわせる事になる。
道中も含め、決して安全とは言う事が出来ないだろう道程。
それへの同行を自ら申し出た面もあり、

「━━━━━大丈夫」

そこで、口を開いたのは━━━━━絵里。

「会えるんだったら、すぐに会った方が良いに決まってるわ」

銀時と友奈が、驚く中で。
一人、絵里が友奈へと言葉を紡ぐ。

「私は、間に合いようがなかったけど━━━━━あなたは、まだ間に合うんだから」

その言葉に、友奈が目を見開く。
それは、「間に合わなかった人間」の言葉。
分かっていてもどうしようもなかった、手が届かなかった、そんな彼女の言葉。

「━━━━━銀さん、絵里さん」
「気にすんな。こちとらテメーともう一人守るくらいテメーだけで十分だ」
「…頑張って。絶対、会えるように」

声援。
それが、友奈の歩みを後押しする。
この先にいる彼女の仲間へと続く筈の、希望への道程を。

「ありがとう、ございます」

最後に、そう言って頭を下げ。
振り返り、友奈は真っ直ぐに駆け出した。








電車の中。
銀時は扉の脇で、凭れかかりながら立っている。
一方の絵里は、一人座席に座っていた。
両手を膝の上に置き、彼女は目を閉じる。

友奈に言った一言。
それを反芻し、考える。

「間に合う、か………」

そうだ。
穂乃果と希は、まだ生きているんだ。
先の会話で、彼女はそれを改めて実感した。
どんな形であれ、再開出来るに越した事など無い。
間に合う━━━━━間に合わせなければ、ならない。
ことりとにこについて、諦めているとかそういう訳では勿論無い。
けれど、立ち止まっている訳にはいかないのだ。

「あんな事を言った手前、私も負けてはいられないものね」

そうだ。
まだ生きていて、再会を同じように願っている筈の人が、まだ残っているのだから。
だったら、何時までも迷っている暇は無い。
悼むのなら、後でも出来る。
だが、それで手遅れになってしまうのはもう嫌だ。
出来る限り早く、穂乃果と、希と、再び会う。
会えるチャンスがまだあるのなら、それを逃すのは御免だ。

「ねえ銀さん、私━━━━━」

そうだ、と。
世話になっている銀時に、改めてその事を打ち明けようと思って。
その為に顔を上げて━━━━━そこで、絵里は気付く。
銀時の表情が、非常に険しいものになっている事に。



どうしたのだろう。
何があったのだろう。
まるで。



「ねえ、銀さん、━━━━━どうしたの?」





見てはいけない物を見てしまったような、そんな顔をして。






銀時が窓の外を見ていたのは、偶然や惰性といった理由からではない。
田舎を走るものをモデルに作られた電車の速度は、外のものを判別するには十分な時間を与えてくれる。
外に知り合い、或いは見ただけで判るような危険人物がいないかどうかを確かめるには、十分な時間を。
ちょっとした情報の足しくらいになってくれれば良い━━━━━その程度の、しかし馬鹿にならない理由から、銀時は外へ目を向けていた。

最初に、血溜まりが目に入った。
線路から程近い通りに落ちていたそれを見つけるのは、全く難しい事ではなかった。
下手な思考を挟む間も無く、その死体を注視する。
死体だろうと、或いは知り合いの死体である可能性というのも考えられる。

そして。
その死体が纏っている服が、隣にいる少女と同じものに気付いて。
銀時は、まず自分の目を疑い。
次に、すぐに考えを切り替えその髪の色を注視した。
絵里の話から、彼女の友人のそれが全員異なっている事は分かっていたから。
果たして━━━━━その色は、茶髪。
ならば、彼女の名は━━━━━高坂穂乃果。
先の放送で呼ばれていない絵里の友人━━━━━二人しかいなかったそれの、片割れ。
そこで、彼の思考は停止した。

彼を現実に引き戻したのは、絵里の言葉だった。


そして。


彼は。



「………………銀さん?」





「絵里、━━━━━━━━━━━」









市街地を一人、山桜の花弁を撒き散らしながら進む友奈。
普段なら一度地を蹴れば1キロを簡単に飛び抜ける勇者のスピードも、制限によりその速度を下げられている。
だが、彼女はそんな事を意に介さない。
否、意に介している暇すらない。



「勇者部五箇条━━━━━ひとつ、挨拶はきちんと」



走りながら、友奈は呟く。
勇者部五箇条━━━━━勇者部の皆が心に刻んでいる、彼女達の絆。
部室の壁に、そして皆の心に掲げられた、勇者の信じる希望の言葉。



「ひとつ、なるべく諦めない」



走りながら、友奈は思い出す。
まだ勇者部が三人だったあの頃、笑い合いながら五箇条を作ったあの日。
勇者の御役目も、その先に待ち受ける運命すらも知らず、ただ笑っていられた時間。



「ひとつ、よく寝てよく食べる」



走りながら、友奈は振り払う。
東郷美森が、その銃で犬吠埼樹を撃ち抜く幻影を。
犬吠埼風が、その剣で少女達を斬り捨てる虚像を。
思い浮かべてしまったその情景を、頭の中から打ち消した。
彼女達が人を傷付ける場面なんて━━━━━見たくはない。



「ひとつ、悩んだら相談」



走りながら、友奈は思い描く。
友人達と、また笑い合える世界を。
欠けてしまった少女の立ち位置が空白になってしまったあの部屋で、それでもまだ、再びみんなと一緒に居られると信じて。



「ひとつ、なせば大抵━━━━━」



なんとかなる。
その信条を貫くように、友奈は一直線に南へと駆ける。









少女達は、真実を知らない。

少なくとも、この時点では。

高坂穂乃果が、今は禁止エリアとなった場所で、僅か数十分前に纏流子の手により一人朽ち果てた事も。
東郷美森が、犬吠埼樹を殺してはいないものの、銀時や絵里の仲間を含む四人もの人間を殺害した事も。
犬吠埼風が、駅での殺人を行った犯人であり、既に勇者では無く魔王としてその力を振るっている事も。


その真実を知る時は、或いは無いかもしれない。
けれど、その真実は確かに覆ること無くそこにある。
そして彼女達は、知らず知らずの内に、既に真実へと手を伸ばし始めている。
希望を踏み躙る、絶望的な真実へと。




ならば、━━━━━嗚呼。




━━━━━真実ほど彼女達に残酷な物も、恐らくは無いのだろう。






【C-3/電車内/午前】

【坂田銀時@銀魂】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)
[服装]:いつもの格好
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
    黒カード:トランシーバー(A)@現実、黒カード:不明支給品0~2枚(本人確認済み)、包帯とガーゼ(残り10分の7)、担架
[思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
0:????????????????
1:西回りで放送局で向かう
2:神楽と合流したい
3:神威、流子、DIOは警戒
 [備考]
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※友奈が左目の視力を失っている事に気がついていますが、神威との戦闘のせいだと勘違いしています。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。

【絢瀬絵里@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(小)、疲労(小)、髪下し状態、激しい動揺
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(9/10)、最高級うどん玉
    黒カード:エリザベス変身セット@銀魂、アヴァロン@Fate/Zero
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出。
1:銀さん達を信じる。
2:希と穂乃果に会いたい。
3 :多元世界か……
 [備考]
※参戦時期は2期1話の第二回ラブライブ開催を知る前。
※【キルラキル】【銀魂】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※多元世界についてなんとなくですが、理解しました。

※銀時が絵里に穂乃果について話したかどうかは次の書き手にお任せします。


【C-6/午前】

【結城友奈@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(小)、味覚・左目が『散華』、前歯欠損、顔が腫れ上がっている、満開ゲージ:0
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
0:風先輩だと思われる人を追う。
1:勇者部のみんなと合流したい。
2:早急に東郷さんと風先輩に会いたい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時点です。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※【銀魂】【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】の世界観について知りました。


時系列順で読む


投下順で読む


121:Trouble Busters 坂田銀時 161:錯覚CROSSROADS
121:Trouble Busters 絢瀬絵里 161:錯覚CROSSROADS
121:Trouble Busters 結城友奈 153:時は来たれり