ルールなんてあってないようなもの ◆X8NDX.mgrA
DIOと別れて地下通路を進む悪魔、ラヴァレイ。
無言のまま歩き続けて、地下闘技場まで到達したところで立ち止まり、息をついた。
一瞬、駅に戻ろうかという考えが頭をよぎる。
蒼井晶やカイザルが、高坂穂乃果を連れて帰還しているかもしれない。
あるいは本部が一目置いていた戦士であるランサー。彼もまた放送で呼ばれなかった以上、駅に戻ってくる可能性はある。
彼らを放送局へと向かわせるのは簡単だ。
腹の内に思惑を抱えている、晶を誘導するだけでいい。
そうすれば、カイザルやランサーは年長者として、間違いなく同行を申し出るだろう。
晶の心が折れる瞬間に興味がある身としてはおいしい話だ。
しかし、無駄足になる可能性も捨てきれない。
「考えどころだな」
ラヴァレイは、低い声で呟きながらポケットに手を突っ込んだ。
疲れてやれやれと言わんばかりのその顔、そしてその声は、まぎれもなく『空条承太郎』のものだ。
目の前には入ってきた扉がある。開ければ地下闘技場へ繋がっている。
晶を誘導させるための動機はある。
彼女の思惑が具体的にどのような内容か、そこまでは不明だが、他人に隠す時点でやましい気持ちがあることは明白だ。
この殺し合いで生き残り、優勝するための算段を立てていると考えるのが妥当だろう。
そこで放送局という場所が活きてくる。
放送局で出来ることは何か。言うまでもなく放送だ。
キャスターが流した放送によって参加者が集まれば、混沌とした戦場が開かれるのは必至。
人が多ければ多いほど、混乱に乗じて他者を殺害することは容易になる。
もし頭数が足りなければ、二度目、三度目の放送をすればよい。
その事実にさえ気づかせれば、晶は目的を果たすために、自ずと向かうはずだ。
「ならば、やはり戻るべきだろうか」
『花京院典明』はいよいよ扉に手をかけようとしたが、少し躊躇うとその手を戻した。
端正な顔、その顎に片手を添えると、眉根を寄せて考え込む。
しかし、晶がその事実に気付いていないとは考えにくい。
彼女と出会い、別れるまでの行動や発言を、全て思い返してみる。
彼女は巧く猫を被り、カイザルを完全に騙していた。
察するに、何らかの形で利用する算段だったのだろう。かなりの演技派であることが窺える。
馬鹿や阿呆に演技はできない。
表向きは無骨な騎士を演じながら、裏では聖女の暗黒化に手薬煉を引くようなことは。
内心で相手を嘲笑いながら、表面上は優しい言葉で慰めるようなことは、知能の足りない者にはできないのだ。
「あいつはバカじゃあねぇ」
マルチネにラヴァレイ、はたまたジル・ド・レェ。
複数の顔と名前を使い分けて暗躍する悪魔は、『ジャン=ピエール・ポルナレフ』の顔でそう独白すると、口角を少し上げた。
そう、蒼井晶は馬鹿ではない。
加えて言うなら、彼女は自分やカイザルとは違う常識の中にいる。
『駅』や『電車』について、詳しく述べていたのがその証拠だ。
状況が状況だったために詳細こそ聞けなかったが、彼女は『テレビ』についても知っていた。
世界観の差異については、今はどうでもいい。
ただ、彼女は「この殺し合いにおいて放送局が大きな火種となりえること」も、自分などより速く理解していただろう。
誰かに扇動されるまでもなく、火をつけて燃え上がらせようとするはずだ。
すなわち、駅に戻るのは時間の無駄である。
「しかし、なぜ私はここまでアキラ嬢を気にしているのだろうか」
リーゼントヘアーの『カイザル・リドファルド』が、首を捻って不思議そうに呟いた。
共有した時間も短く、交わした言葉もそう多くない。
にもかかわらず、蒼井晶について、自分はやけに執心だ。
考えられる理由としては、在り方が似ていると感じたから、だろうか。
自分も彼女も、嘘を吐いて、あるいは仮面を付けて、他人を騙して生きている。
立場や身分は違えども、その在り方は似ていると言える。
そんな輩は、広い世界には掃いて捨てるほど居るだろうが、重要なのは、この特異な場で遭遇したということだ。
ある種の親近感すら湧く。是非とも折れる姿を見たいものだ。
「ま、これ以上考えても意味はねぇや。
それより、とっとと放送局に行かねえとなァ~!」
ガンマンらしい風体の『ホル・ホース』は、帽子をクイッと上げると、扉から離れ、放送局へと向かう通路に向き直った。
先程は引き返した窓だらけの道を、悠々と歩き出す。
やはりホル・ホースは真似しやすい。
一度DIOとの会話で、その口調や思考を真似したこともあるだろう。
それに加えて、ひょうひょうとして心を読ませない態度も、演じやすさに一役買っている。
もとより誰かと徒党を組んだ上で、実力を活かして生きる男。
彼の人生哲学は、他者の下につき、時には利用して生きることが全てだ。
こういう腹を見せない手合いは演技がしやすい。というよりも、相手にそれが演技だと悟られにくいのだ。
逆に言えば、裏表なくまっすぐに生きる人間は、らしく演じることは難しい。
「あとは、女の真似をするのも無理かなぁ。アキラッキー!」
それまで男の声しかしなかった地下通路に、突如として可愛らしい声が響いた。
背の低い『蒼井晶』の姿になったラヴァレイは、更に顔を歪めて『高坂穂乃果』へと姿を変える。
そうして己の姿をひとしきり眺めると、もとのラヴァレイの姿へと立ち戻った。
変身にも練習は必要だ。
空条承太郎とその仲間、それと今までに合流した人物は把握した。
ホル・ホースに化けてDIOと情報交換をしたように、今後も他人の姿を利用することがあるかもしれない。
この殺し合いには、知り合い同士が数人ずつ呼ばれているようだから、尚更だ。
そう考えると、容姿や声をすっかり別人にできるのは利点だろう。
しかし、それは決して容易なことではない。
容姿や声は完璧だと自負している。
問題は、声の調子や喋り方。あるいはその人物特有の仕草だ。
実際に話している様子を知らない人物は、演技しようと思っても無理がある。
「ディルムっつぁんとやらの姿は一応聞いたが、流石に無理だな」
浮浪者めいた姿の『本部以蔵』は、腕組みをして呟いた。
使い古した服を見て、少しばかり顔をしかめる。
キャスターやセイバーと繋がりのある、ランサーことディルムッド・オディナ。
伝聞でしか姿を知らない彼にまで変身することは、悪魔であろうとも不可能だ。
適当に変身してランサーと偽ることは可能だ。
しかし、見る人が見れば偽物と看破されてしまう変身、それでは意味がない。
完璧主義というわけではないが、口調から抑揚の付けかたから、全て模写してこそ完全な変身だ。
もちろん限界はある。深い質問をされれば、誤魔化すしかない。
だからこそ、他人に疑念を抱かせないほど上手く変身できるように、演技を練習しておく必要があるのだ。
「しっかし、面倒な制限を付けてくれたぜ」
愚痴るようにそう言ったのは『ファバロ・レオーネ』だ。
右手をひらひらと振って、いかにも面倒くさそうな空気を醸し出す。
身体能力の低下という制限に気付いたのは、ついさっきだ。
屈強な男の姿であれば、普段とさほど変わらない動きができるが、女の姿ではそうはいかない。
蒼井晶や高坂穂乃果の姿で、軍刀を振り回すのは難しいだろう。
限定的で地味ながら、面倒な制限だ。
女になりきるのは、時と場合を考えなければ危険と考えた方がいい。
そういう状況になるか否かは別として。
「フン、まあいい。このDIOにとっては少しの枷にもならん」
そう結論付けた『DIO』は、自信に満ちていた。
地下通路を悠然と歩くその姿、まさしく威風堂々、悪の帝王。カリスマスキル持ち。
変身能力だけでなく、情報も活用したいところだ。
つい先程、DIOには嘘の情報を伝えて欺くことができた。
一条蛍がどのような人物かは知らないが、DIOは無意味な警戒をするだろう。
問題はこの情報が更に伝播するかどうかだが、DIOは夜までホテルに居座る以上、その可能性は低いと見た方がいい。
そうなると、他の参加者にも、嘘の情報を与えて都合のいい方向に動かしたくなる。
さながら国王シャリオス13世を騙して、聖女を捕らえさせたように。
それに似た行動が取れるかどうかは、状況次第だが。
「ここにあったか」
ラヴァレイが元の姿に戻った丁度そのとき、近くの窓がひとつ、開いていた。
それをちらりと一瞥して呟く。目には感情が宿らない。
結局、数秒見つめただけで、それまでと同じように歩き続けた。
聖女がどの時期から呼ばれたのか。
戦場を、まるで軍神の如く駆けていた頃かもしれない。
国王に糾弾され投獄されながらも、けなげに祈りを捧げていた頃かもしれない。
守護天使に裏切られたと知り、精神が暗黒面に堕ちた後かもしれない。
いずれにせよ、死亡した今となっては、そんなことを気にしても仕方がない。
それは分かっているが、だがしかし。
「――まったく、期待外れだ。ジャンヌ・ダルク」
【C-2/地下通路/一日目・午前】
【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:猫車 拡声器@現実
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む
0:放送局へ向かう。
1:本部の末路を見届ける
2:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
3:カイザルは当分利用。だが執着はない。
4:DIOの知り合いに会ったら上手く利用する。
5:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。
※繭に協力者が居るのではと考えました。
※空条承太郎、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ、ホル・ホース、ヴァニラ・アイス、DIOの情報を知りました。
※上記のヴァニラ・アイス以外の全員、そして今までに出会った人物に変身可能です。
※変身時には身体能力に若干の制限がかかります。
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最終更新:2016年02月23日 21:58