無辜の怪物 ◆gsq46R5/OE


  地下通路を抜け、DIOは自分の根城であるホテルへと帰還を果たす。
  吸血鬼の体質上窓のある部屋に滞在することができないことを、DIOは初めて惜しいと思った。
  豪奢な廊下の装飾やシミ一つないカーペット、その全てが自らを歓迎しているように見える。
  それほどまでに、彼の精神は高揚していた。
  もとい、熱に浮かされていた。

 「……やれやれ。このDIOとしたことが、たかが未来の可能性ごときに随分と狼狽してしまった……」

  地下通路で垣間見た、未来の景色。
  それはあってはならない未来。
  無限の時を生きる吸血鬼には無縁の筈の、終末。
  彼の矜持と誇りと、輝ける野望を文字通り粉々に打ち砕いて。
  『敗因』を突き付け、その終わりを告げるのはかつての宿敵(とも)の子孫。

  空条承太郎。
  現代を生きるジョースターの末裔にして、DIO討伐を掲げる一行の中でも名実共に最強であろうスタンド使い。
  承太郎が連中の中でも抜きん出て厄介な存在であることは、DIOとて部下の報告から承知していた。
  彼が用いるのは超高度の精密動作と高速動作を可能とする近距離パワー型スタンド能力『スタープラチナ』。
  DIOの差し向けた選りすぐりの刺客たちを次々と蹴散らした、忌まわしい血筋の力。

  だが、DIOはそれでも彼を侮っていた。
  所詮は短い時の間でしか物を考えることのできない下賤な人間。
  どれほど頭が切れようが、優秀な力を持っていようが、自分の前には関係ない。
  無敵の『世界』がある限り、帝王たるこのDIOを破ることなどできるはずがない。

  その驕りが、彼を滅ぼした。
  時の止まった世界に入門した承太郎の拳を前に、彼は砕け散った。
  最後の悪足掻きすら一蹴され、文字通り『完全敗北』を喫して、永遠を生きる王は滅び去ったのだ。
  そう、あの地下通路では語られていた。

 「だが、それはあくまで『可能性の一つ』だ」

  くつくつと笑いながら、DIOは歩を進める。
  あんなものを見せられては、認めるしかない。
  自分は敗北したのだろう。
  空条承太郎を怒らせ、彼が目覚めた新たな力の前に打ち倒されたのだろう。
  忌まわしいが、それが真実なのだ。
  『それもまた』、真実の一つなのだ。

 「たった1パーセントほどの確率が実って、承太郎はこのDIOを打ち倒した……
  フフ……立派なことじゃあないか。柏手の一つも叩いてやりたくなる。
  しかし不運だったな承太郎。おまえの敗因もまた、たったひとつだよ……」

  意趣返しのように。
  DIOは未来の承太郎が彼にとってみせるのと同じポーズで、どこかで必死こいて戦っているだろう宿敵に告げる。
  再現するのに苦労はいらなかった。
  忘れたくても、あの絵は忘れられるものではない。
  自分に絶対の自信を持っていたDIOにとっては、間違いなくあれは生涯最大の衝撃だった。

 「『このDIOが、己の敗北を知ってしまった』……それだけのシンプルな答えだ」

  スタープラチナ・ザ・ワールド。
  承太郎は土壇場でそれを開眼させ、時を止め、DIOを破った。
  半ば不意討ちのような形でだ。
  無論、今のDIOにあんな奇襲は通じない。
  『空条承太郎が時を止められるようになる』ことを知っているのだから、当然それを念頭に置いて戦うに決まっている。

  時を止める力がどれほど強大かは、DIOが一番よく知っている。
  無傷での勝利とはいくまい。
  ただ、時の止まった世界に慣れているのは間違いなく自分の方だ。
  アドバンテージはこちらにある――スタープラチナ・ザ・ワールドの覚醒によって承太郎が得るだろう優位をも遥かに凌駕する圧倒的優位を、DIOは獲得することが出来たのだ!

 「フハハハハハハ! 可哀想になあ、承太郎!」

  DIOは、笑う。
  彼が恐れ。
  忌み。
  受け入れた『つもり』の未来のように、勝利を確信して高笑いをあげる。

 「貴様が必死こいて手に入れる『勝機』は永遠に失われた!
  これでこのDIOが敗北する『可能性』もまた、完全に潰えたのだッ!!」

  DIOは聡明な男だ。
  彼の宿敵、承太郎もまた、聡明な男だ。
  知略冴え渡る者同士が矛を交えた結果、未来のDIOは敗北し、承太郎が完全勝利を決めた。
  確かにDIOが承太郎の成長というイレギュラーな事態を想定して立ち回るようになるとしたなら、承太郎の勝利はいっそう遠退くだろう。だが彼は、ある重大な『可能性』を見落としている。
  DIOがこのバトル・ロワイアルを通じて、本来持ち得る筈のない情報を手に入れたように。
  空条承太郎もまた、本来の物語では持ち得ない何かを持って、彼のもとへ現れるかもしれないことを。

  それだけではない。
  敗北の歴史であれば、既にDIOはこの地で一度刻まれている。
  二人の侍と一人の少女によって、彼は戦線離脱を余儀なくされるほどの手傷を与えられた。

  彼は、自分を倒し得る可能性が空条承太郎ただ一つだと高を括っている。
  この世界には、彼の未だ知る由もないたくさんの強者と、有り余る可能性が満ちていることも忘れて。
  余談だが。
  彼の部下、ヴァニラ・アイスは敗北を糧にして自己の行動を省み、この地で成長を遂げている。
  しかしDIOはといえば、ただ自分の勝算を洗い出し、万全を期したと安心しただけだ。
  世界から取り残された吸血鬼は一人、己だけの城で慢心する。
  いずれ来る夜を楽しみに待ちながら、自分の勝利を微塵も疑うことなく。


 「そういえば、ホル・ホースの奴が何か言っていたな」

  地下へ逃れる前に滞在していた部屋へと向かいながら、ふとDIOはホル・ホースの報告についてを思い出す。
  彼は殺し合いに乗り、『犬吠埼樹』『志村新八』の二名を殺害したという。
  欲を言えばその倍ほどは欲しいところだったが、この広い島の中で、開始数時間で二人と考えれば上等だろう。
  ホル・ホースは優秀な殺し屋だ。
  彼の『皇帝』の力は、こういう場面で恐ろしいほどよく活きる。
  あれでヴァニラ・アイスほどの深い忠誠を寄せていれば、文句はなかったのだが。

 「スタンド使いでないにも関わらず奴を撃退し、承太郎の『スタープラチナ』以上の打撃能力を持つ女……」

  ホル・ホースが地下通路に逃れてきた理由は、その女へ不覚を取ったことに起因するという。
  彼は『皇帝』での一網打尽を目論み、数人の集団の中に潜伏していた。
  そこへ件の女が現れ、その総戦力をも圧倒。
  要領のいい彼は上手く逃れたが、残りの連中の安否は定かではないということだった。
  スタンド使いでもない人間の戦力などたかが知れているが、それほどともなれば少々の危機感は湧く。
  あの時は多少冷静さを欠いていたため、特に考えもせず話を流してしまったが。

 「一つ、警戒しておく必要があるか」

  ホル・ホース。
  DIOがそう思い込んでいる相手は、彼の知る狡賢いガンマンとは別人だ。
  その名はラヴァレイ。マルチネ。ジル・ド・レイ。
  三つの顔を持つ、異形の策士である。

 「確か名前は――『一条蛍』だったな」

  邪悪の化身、帝王DIO。
  彼はまた一つ、今度は『頭脳戦』の領分で敗北を喫した。
  とはいえ、それは仕方のないことだろう。
  相手は悪魔すらも凌駕する悪意の塊――未だ頭角を現すことなく雌伏している、全参加者の癌細胞なのだから。


【B-7/ホテル/一日目・昼】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:精神的疲労、全身にダメージ(小)
[服装]:なし
[装備]:サバイバルナイフ@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
0:空条承太郎、恐るるに足らず!
1:夕刻までホテルで体を休める。その後、DIOの館でセイバーと合流。
2:ヴァニラ・アイスと連絡を取りたい。
3:銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の娘コロナ、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。優先順位は銀時=コロナ=桂>神威。
4:先ほどのホル・ホースの様子、少しおかしかったが……?
5:切嗣、ランサー、キャスターを警戒。
6:言峰綺礼への興味。
7:承太郎を殺して血を吸いたい。
8:一条蛍なる女に警戒。セイバーやヴァニラ・アイスと合流した時にはその旨も一応伝えてやるか。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※時間停止中に肉の芽は使えません。無理に使おうとすれば時間停止が解けます。
※セイバーとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
※ホル・ホース(ラヴァレイ)の様子がおかしかったことには気付いていますが、偽物という確信はありません。
※ラヴァレイから嘘の情報を教えられました。内容を要約すると以下の通りです。
 ・『ホル・ホース』は犬吠埼樹、志村新八の二名を殺害した
 ・その後、対主催の集団に潜伏しているところを一条蛍に襲撃され、集団は散開。
 ・蛍から逃れる最中で地下通路を発見した


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128:悪魔と吸血鬼! 恐るべき変身! DIO 154:孤独なHeaven