お話をするお話 ◆DGGi/wycYo




――少女が慌ててラビットハウスに戻ってくるまで、あと五秒。
――少女が息を切らせながら扉を開けるまで、あと十秒。
――カランコロンと小気味よい鈴の音が鳴り響くまで、あと十二秒。



いらっしゃいませ、と言い掛けて中断した声が聞こえた。
外を警戒しながら後ろ手に扉を閉めると、聞き覚えのあるその声の主がカウンターからパタパタと掛けて来る。

ふと店内を見回すと、数刻前に訪れた時と客が違うことに気が付いた。
背丈こそよく似ているが外見の違う、テーブルに突っ伏して眠っている少女が一人。
何故メイド服? というのはさておき、もう一人の客は長身の不良めいた男とはうってかわって顔立ちの良い青年。
“彼”もあと将来こんな風になるのだろうか――そんな、殺し合いの場においてあまりにも不相応な想像を振り払う。

気になったのは、ここにいるべき金髪の少女の姿が見当たらないこと。

「遊月さん、どうしたんですかその格好! それにその口……」
「あ、ええと……」

どこから話せばいいのやら、話すべき事柄も質問したい事柄も多すぎる。
だが、その前に。

「……ごめん。とりあえず、服、ないかな。今こんな格好だし」

裸体を隠すものがコートだけという出で立ちで人前に立つのは、少々気が引けた。


✻ ✻  ✻


一度ラビットハウスを去ったあと遭遇した怪物、針目縫。
彼女の罠に掛かって自身の姿を模倣され口を縫い合わされ、あげく身ぐるみも剥がされた。
映画館のトイレに閉じ込められはしたが隠していた付け爪を使って脱出、どうにかその場をやり過ごし、ここに戻ってきた。

薄紫色を基調とした服――、本来は今もぐったりと寝ている天々座理世の制服に身を通し、遊月は自分の身に起こったことを話した。


「すいません。本当はココアさんのがあればそれにしようと思っていたんですけど、何故か見当たらなくて……」
「似合うじゃないか」
「そう、かな」

遊月の声が心愛を想起させるからという理由で、智乃は普段彼女が着ている桃色の制服をクローゼットから出そうとした。
ところが、(彼女たちは知らないが)心愛の制服は本人が着ているためか、それとも単なる偶然かどこにも見当たらない。
仕方が無いので理世の制服を借りた次第、ということだ。
事情が事情であるとはいえ他人の下着を借りるのは遠慮し、そのため彼女は今履いていないし着けてもいない。ロングスカートなのが幸いだ。
バータイムの服ならこうはいかなかっただろう。

「リゼさん、起こした方がいいでしょうか」
「寝かせておいてやれ。摂れる時に摂る睡眠は重要だからな」

そんなわけで、カウンターテーブルに雄二と遊月が座り、智乃は再びコーヒーを用意し始める。
店内に流れる控えめなピアノをBGMに、改めて軽い自己紹介とこの殺し合いに呼び出された知り合いについての提示。
次に、現在各人の手元にある支給品の再確認。
雄二が何か考え事をするような顔をしていたが、続けてくれと言うので話を進める。

続いて、ここまでに起こった出来事についての情報。
既にいずれの出来事もこの場にいる顔ぶれの複数が耳にしているものだが、別に改めて確認したって減るものではない、と青年は語る。

一度喋ったものは案外すらすらと口に出せるのでさほど時間は掛からなかったが、話題が桐間紗路との一件になると智乃の表情が僅かに曇った。
無理もない、あの喧嘩別れからは相当な時間が経っているし、遊月はその後一度ラビットハウスを訪れている。
本来ならばとっくにここに到着している筈なのだから。

「シャロさん、それにココアさんたちもまだ来ません……」
「他の者たちはともかくとして、俺たちもこの市街地をずっと歩いていたわけが、そんな大きな犬は見かけなかったしそれらしい痕跡も無かった」

それを皮切りに、彼らのここまでの動向が語られる。
智乃はずっとこの店にいたし、同行していた雄二と理世が出会った者の中にも紗路や定春らしい人物や動物は出てこない。
無論、戦場として用意された島は三つも存在していずれも広いのだから仕方ない。
彼らはまだ、市街地の外側の情報をほとんど知らないのだ。

「じゃあ、シャロは今どこに……」
「彼女の名前は放送では呼ばれていない。少なくともその時点ではまだ死んでないのは確かだ」
「その時点って、そんな、無責任な言い方……」
「親友なら急に居なくなったりはしない、いつかひょっこり顔を出すだろうと言いたいところだが、場所が場所だからな」

智乃は黙り込み、遊月は額に手をあて、唸った。
そして、思ったよりすんなりと最悪の可能性に行き着いてしまい、後悔した。

「針目、縫……」

彼女に情報と容姿を与えてしまったこと。
もし、紗路が無警戒に彼女と接触していたら――。

いや、これは紗路だけの問題ではない。
あくまで一般人である紅林遊月の姿を借りた怪物を放ってしまったのだ。
今後のことを考えるのが怖くなって来る。

「遊月さん、気にしないでください。私たちは大丈夫ですから」
「でも……私のせいで!」
「チノの言う通りだ。碌な武器も与えられずに君の言うバケモノに出会ったのだから、それは仕方のないことだ」

思わず立ち上がった遊月を静止させる雄二。

「っ……」

このまま外に飛び出して紗路を探しに行こうかとすら考えたが、その思考を取り下げる。
承太郎たちがまだ店に居た時にも、自分は智乃の申し出を断ってひとりで彼女を探した。
だが、結果を見ればどうだ。
自分は彼女を見つけることが出来なかったばかりか、危険な相手に遭遇して不利益を被っただけではないか。
今はその承太郎も居ない。
確かに心配事は山積みだが、下手に動かない方がかえっていいのではないか、そんな気さえしてきたのだ。

「どちらにせよ、人の皮を被ったバケモノがうろついているというのは危険な話だ。
何とかしてこの情報を拡散させる必要があるが……」

生憎、誰も彼も連絡が出来る機材は持ち合わせてなどおらず。
スマートフォンは折原臨也が所持しており、店に備え付けてある電話機も、どこへ掛ければいいかが分からない以上意味を成さない。
灯りの一つでもあればモールス信号でそれが出来るかも知れないが、それが通用する相手も限られるし、今は日が出ている。

「この件については保留するしかない。最悪、夕方になって折原たちの戻りを待つことになるだろうな」
「そうか……。ところで風見さん、気になることがあるんだ」

一旦冷静になった遊月は、針目との会話で感じた疑問点をぶつけてみた。

勝ち続ければ願いの叶うセレクターバトルと、優勝者に願いを叶える殺し合い。
魂の入ったカードと針目が言ったルリグと、死ぬと魂を抜き取る白いカード。
脱出の糸口を探ると謳う彼ならば、両者の関係性を示せば何か分かるかも知れない。

「確かに無関係とは言えないし、俺も気にはなっているんだが……流石にこちらも情報が不足し過ぎているからな。
ここまで不可思議な代物に溢れた戦場は経験したことがない」
「戦場……そういえば風見さんって、軍人なんですか? 何だかリゼさんと似たような雰囲気を感じましたが」

出来上がった飲み物を提供しながら智乃が尋ねる。

「昔、アメリカで縁があったと言えば分かるか。ところで智乃、これはコーヒーじゃないな。
そしてさっきから見ていたが一体何杯ミルクココアを作るつもりなんだ」
「え……!? あの、私、いつから……」
「ここに座ってからずっとだ」

指摘されて、顔を赤くして取り乱す。
気が付かなかった、というよりまたやってしまったらしい。

「流石にこの量を飲み切るのは難しいだろうな」
「す、すいませ「うわあぁ!?」

謝罪の言葉は、誰もが予想だにしなかった大声に遮られた。
声のした方を向くと、顔面蒼白といった感じで理世が目を覚ましていた。

「リゼさん、どうしたんですか大声あげて……」

雄二たちよりも早く智乃が駆け寄ると、ここに来た時と同じようにガバっと抱きつかれた。
事情を聞くと、なんだかとても恐ろしい夢を見たのだという。
彼女が落ち着いたあとは、

「悪夢というものは、思い出したくない出来事を解消するための反動で起こるものだ。
恐らくゲームセンターで見た死体が軽いトラウマになっているんだろう。
だがそれは、脳が心の健康を維持するためにやっていること。むしろ健康だ、心配するな」

と、雄二が彼なりに気遣う場面があったり、

「ところで、そこに居るのは……って何でその服を着ているんだ」
「私は紅林遊月。ごめん、訳あって借りているんだ」

と、遊月が事情説明する場面があったり。

「遊月さん、カード全部取られたって言ってましたけど、朝ごはんとか大丈夫なんですか?」
「……言われてみれば」

と、智乃が遊月に赤カードを一回分わけてあげる場面があったり。

これは、一部分だけを切り取った、ちょっとだけ雰囲気の違う、ラビットハウスのお話。



――青年が思い出したように腕輪発見機を起動させるまで、あと三十五秒。
――青年が探知機に表示された「4」の数字にひとまず安堵するまで、あと四十秒。



――その数字が変動するまで、あと――――

【G-7/ラビットハウス/午前】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
    黒カード:果物ナイフ@現実、救急箱(現地調達)、チャンピオンベルト@グラップラー刃牙、グロック17@Fate/Zero、ジャスタウェイ×2@銀魂
 [思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
   1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。
   2:ここでココアさんたちを待つ。探しに行くかは相談。
   3:衛宮さんと折原さんには、一応気をつけておく。針目さんは警戒。
   4:承太郎さんが心配。
   5:このミルクココア、どうしよう……。
[備考]
※参戦時期は12羽終了後からです。
※空条承太郎、一条蛍、衛宮切嗣、折原臨也、風見雄二、紅林遊月と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※紅林遊月の声が保登心愛に少し似ていると感じました。

【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:健康
[服装]:美浜学園の制服
[装備]:キャリコM950@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   1:天々座理世、香風智乃、紅林遊月を護衛。3人の意思に従う。
   2:入巣蒔菜、桐間紗路、保登心愛、宇治松千夜の保護。こちらから探しに行くかは全員で相談する。
   3:外部と連絡をとるための通信機器と白のカードの封印効果を無効化した上で腕輪を外す方法を探す
   4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒
   5:ステルスマーダーを警戒
   6:平和島静雄、衛宮切嗣、キャスター、DIO、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ、針目縫を警戒
[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、紅林遊月と情報交換しました。
※キャスターの声がヒース・オスロに似ていると感じました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   1:ここで友人たちを待つ。
   2:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
   3:平和島静雄、キャスター、DIO、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ、針目縫を警戒
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:口元に縫い合わされた跡、決意
[服装]:天々座理世の喫茶店の制服(現地調達)
[装備]:令呪(残り3画)@Fate/Zero、超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
   0:ここで一旦待機する? それとも……?
   1:シャロを探し、謝りたい。
   2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない……。
   3:蒼井晶、衛宮切嗣、折原臨也、針目縫を警戒。
[備考]
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です
※香風智乃、風見雄二と情報交換をしました。


時系列順で読む


投下順で読む


111:和を以て尊しと為す(上) 香風智乃 145:Not yet(前編)
111:和を以て尊しと為す(上) 風見雄二 145:Not yet(前編)
111:和を以て尊しと為す(上) 天々座理世 145:Not yet(前編)
116:Mission: Impossible 紅林遊月 145:Not yet(前編)