和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U

ラビットハウス。
その2階で眠る少女、香風智乃の意識を覚醒させたのは、燦燦と降り注ぐ朝の陽射しだった。
見れば、隣で眠っていた大人びた少女、一条蛍も身を起こしている。

時刻はまもなく午前6時。
殺し合いの区切りを告げる最初の定時放送、その時間だった。










ラビットハウス、その1階。
腕輪から女の声が響く。
それに聞き入るのは2人の少女――香風智乃、一条蛍。加えて大柄な学ランの不良――空条承太郎。

『それじゃあ、これで放送を終了するわ。次は正午、また私の声が聞けるといいわね』

やがて放送が終わりを告げる。
安堵と狼狽が入り混じった顔のチノ、「越谷小鞠」の名前を聞いて少しうつむく蛍、終始顔を伏せる承太郎。
聞き終わった3人の表情は文字通り三者三様だった。

「私の友達、誰も呼ばれませんでした……」

最初に口を開いたのはチノ。

「でも、17人も……それに、最後に呼ばれた満飾艦さんって、蟇郡さんの……!」

「知り合いか」

チノの言葉に承太郎が顔を上げる。

「はい、ちょっと難しい名前でしたけど、最初にお話しした時におっしゃってましたから、覚えています。
 満飾艦マコさん……蟇郡さんの後輩で、纏流子さんのご親友だと」

「私は眠っていたから覚えてないですけど、蟇郡さんたちって今ごろ……」

「ああ、ゲームセンターに行ってるはずだ」

蛍も口を挟み、承太郎が後を継ぐ。

「『満飾艦マコ』『南ことり』……さっきの放送で、この2人だけが別に呼ばれたな。よくわからねえが魂を喰われたとか何とか」

承太郎が確認を仰ぐように言うと、2人も頷く。

「出目金野郎のテレビ放送……あるいは、あれに映ってた3人のうち2人がこの2人なのかもしれねえ」

「え、それって……!」

「じゃあ、蟇郡さんがあれを見てたら……」

「1人だけ放送局に向かってもおかしくねえな」

17人もの死。
この場において、大切な人を失ったのは決して蛍だけではないのだ。
それを再び思い知らされる。3人の間に再び重苦しい雰囲気が流れた。

その時だった。
ラビットハウスの入口をノックする音が聞こえた。
放送を聞いた直後だったこともあり、3人の間には緊張が走る。

「ゲームセンターに行った人たち、帰ってきたんでしょうか」

「俺が出る」

やや剣呑な空気を纏わせ、承太郎が立ち上がる。

「待ってください」

それを制したのはチノだった。

「その、ラビットハウスを預かってるのは私ですから……お客様は私がお出迎えします」

「……分かった」

少し雰囲気を緩め、承太郎は一歩下がる。
気を付けろよ、とうながされたチノが、扉の前に立った。

「どうぞ」










扉の前に立っていたのはなぜかメイド服を来た少女。そして精悍な顔つきをした青年の2人だった。

「……リゼさん?」

強く待ち望んでいた人のはずなのに。
いざ目の前に現れたら、チノはなぜかきょとんとした顔になってしまった。

「チノ!!!!!!」

「わっ」

待ち望んでいた人に会えたのは、リゼにとっても同じだったから。
感極まって、思わず抱きついた。

「会いたかった、会いたかった……!! チノ……よかった、無事で……!」

「く、苦しいですよ~、リゼさん」

チノの抗議の声も構わず、ひたすらぎゅっと抱きしめ続ける。

「感動の再会、ですね」

先ほどの緊張した空気から一転。
蛍が満面の笑顔で承太郎に語りかける。

「やれやれ……」

こういう場面は苦手だぜ、と呟き承太郎は店の奥に引っ込んでしまう。
そんな姿に、本当は嬉しいはずなのに、と蛍は苦笑する。

「チノ、チノっ……!」

「もう、いい加減にしてくださいリゼさん……!!」

依然として、リゼは抱き着きをやめようとはしない。

「百合の花が見えるな」

その光景を前にして、青年は一人呟くのだった。










空条承太郎、香風智乃、一条蛍、天々座理世、風見雄二。
今、ラビットハウスに集まった3人の少女と2人の青年。
彼らがまず行ったのは、朝食をとりつつの情報交換であった。

「キリマンジャロか。こんな朝にはなかなかいいものだな」

「風見さん、すぐ分かるなんてすごいです……銘柄はうちのココアさんも分からないのに」

途中、煎れたコーヒーの銘柄をすぐに言い当てた雄二にチノが尊敬の目を向けるという一幕や、

「私、一条蛍っていいます。ええと、小学5年生です」

「「小5!!!???」」馬鹿な、その姿でだと……?」

半ばお決まりのように、蛍の容姿と実年齢のギャップにリゼと雄二が驚愕するという一幕もありつつ。
情報交換は比較的円滑に進んでいく。
雄二とリゼは、殺し合いが始まってすぐに出会い、ずっと行動を共にしていたこと。
ゲームセンター付近では道路や標識がめちゃくちゃになっているのを見つけたこと。
中では女の子――越谷小鞠の死体を発見し、そして衛宮切嗣、折原臨也、蟇郡苛の3人と会ったこと。

「3人と会ったのか」

「ああ、軽くだが情報交換もした」

それから、折原たち一行との顛末を語っていく。
折原からは、小鞠を殺した犯人――平和島静雄の危険性を強調されたこと。
そこでキャスターを名乗る男のテレビ放送が流れてきたこと。

「あの放送を見たんだな、お前らも」

「そうだ! 蟇郡さんからチノに言伝てを預かってたんだ、放送局に行って友達を保護してくるって」

「それって! やっぱり、満飾艦さん……!」

「……どうやら危惧していた通りになっちまったな」

ため息をつき、座りなおす承太郎。
蟇郡は大切な友人を助けに行ったが、向かった時には既に手遅れだったということだ。
彼と接した時間は短かかったが、その内に熱いものを秘めていたことは十分に理解できた。
最も長く彼と触れ合っていたチノもその心中を思い目を伏せる。

「……彼らと分かれてからここに来るまでの間は、特に何事もない。
 さて、承太郎。今度は君たちの話も聞かせてほしいな」

雄二に促され、蛍、チノ、承太郎が顔を見合わせる。
3人は語る。
まず、チノは真っ先にここで蟇郡と会い、蛍と承太郎と折原臨也は映画館で会った後、衛宮切嗣と合流しここに来たこと。
今は雄二の持っている探知機を使って発見した2人の人物の探索に出ていた間、そのうち一人の反応が消えた――それはいまでは越谷小鞠であることがはっきりしている――こと。
衛宮が戻ってきたあと、折原と蟇郡と臨也の3人が再び探索へ出かけたこと。
その間、紅林遊月という少女の訪問の後は、残った3人で再度の情報交換などを進めていたこと。

「なるほどな、あの3人がゲームセンターまで来た事情……俺があそこで折原臨也に聞いたものと相違はないな」

「チノ、大変だったんだな……大丈夫だったか? 誰かに怖いことされなかったか?」

「え、ええと」

「……風見、天々座。ちょっとばかし質問があるんだが」

また暴走しそうになるリゼを抑え、承太郎は聞いておかなければならないことのために言葉を紡ぐ。

「あのテレビを見てたってなら話は早い……あいつが名乗っていた『ジル・ド・レェ』ってのがどうにも気になる。何か知ってることはないか」

その質問に、リゼもチノから離れて考え込む。

「ジル・ド・レェって、そういえば高校の世界史の授業でそんな名前を聞いたような……確か、昔のフランスの戦争で……」

「……14世紀から15世紀にかけて、フランスとイングランドとの間に百年戦争といわれる戦争があった」

静かに語り出したのは雄二。

「その末期、オルレアンの戦いでフランスの一軍を率いたジャンヌ・ダルク……
 彼女を助け、勝利に導いたのがジル・ド・レェ――。本名は確か、ジル・ド・モンモランシ=ラヴァルだったな。
 その後は錬金術や魔術に耽溺し、何百人もの幼い少年を殺害。最後は絞首刑となったはずだ」

「え? え? ちょっと待ってください、14世紀、15世紀って……?」

唐突に始まった歴史の話に、チノは戸惑いを隠せない。

「1300年代から1400年代。今から600年ほど前になるな」

「そんなバカな……! タイムマシンでもあるってのか!?」

「え、それにその、ジャンヌ・ダルクって名前、さっき……」

ここに来てからというもの数多くの不思議な事象に行き会ってきたリゼや蛍にも、この話はかなりの驚きだった。

「ああ、放送で呼ばれていたな。
 聖処女ジャンヌ・ダルク……やはり百年戦争終結の立役者。ごく普通の農民の娘だったが、神の声を聞いてフランスを率い、最後は火炙りにされた」

「とんだこった……歴史上の英雄様がこんな辺鄙な島に勢揃い、でもって片割れは勝手にくたばりましたってか? 不思議のバーゲンセールだなここは」

「まあ、どっちも本人とは限らないな。単に自分のことを過去の英雄だと思い込んだ妄想狂の類なのかもしれん。
 それに承太郎、不思議のバーゲンセールと言ったが、俺にはさっき君が見せてくれたスタンド能力とやらも十分すぎるほど不思議に見える」

「まあな……」

「それだけじゃない。このカードと腕輪。俺の支給品の剣の解説にある『魔術』。生身で街を破壊したらしい平和島静雄とかいう男。
 チノ、君の友人が記憶を消されているらしいって話もあったね。
 正直、俺がここで出くわすのは、俺の常識や理解のレベルを超えたものばかりだった。
 そういう怪しげな類のものには十分注意すべきだが、しかし逆に――」

雄二はそこで一旦言葉を切り、低い声で続ける。

「逆に、そうした力がこの腕輪、そして魂を閉じ込めるという白いカード――
 これらを何とかするための鍵になるんじゃないかと、俺は考えている」

雄二の言葉に、一同は再び緊張に包まれる。
無理もないだろう。話が、世界史の復習から一気にこの殺し合いの核心へと移ったのだから。

「たっだいまーー! ごめんねー、いやいや~入念に調べてたらすっかり遅くなっちゃって」

その緊張を破ったのは、雰囲気に似つかわしくない軽薄な声。
最初にここからゲームセンターに向かっていった3人のうち2人。折原臨也と衛宮切嗣。
彼らが遅れて帰ってきたのだ。










「でもよかったよ、チノちゃんも蛍ちゃんもリゼちゃんもみんな無事で。女の子は大事だからねえ」

男女合わせて7人の大所帯となったラビットハウス。
帰ってきた臨也と切嗣の2人を加え、チノとリゼが甲斐甲斐しくコーヒーを出す中、再び各自で朝食をとりながらの情報交換となる。

「リゼちゃんたちが行ったあと、僕と衛宮さんの2人でゲームセンターをよく調べたけど。怪しいものはなかった……。ですよね。衛宮さん」

ここに入ってきたときのままの軽い口調でありながら会話の主導権を握ったのは、折原臨也。

「……ああ。折原君の言う通りだったよ」

一方、衛宮切嗣は自ら言葉は発さず、ほとんど受け答えに終始する。

「……」

そんな2人に、空条承太郎は雄二や少女たちに向けるものとは違った眼差しをときおり送っていた。

「ま、この通り僕らのほうは新しい収穫なしって有様だよ。
 ただ、僕の支給品のこのスマートフォン。これに入ってるチャットとかを使って連絡ができそうってのは分かったんだけど。
 でも、どうもこれ、あの繭ちゃんって子に監視されてるっぽいんだよねえ」

「なるほどな。外部への連絡手段がないかと思っていたが、そう簡単に渡すはずもないか。
 ……繭に監視されてるだけじゃなく、危険人物に覗き見される可能性もあるな」

臨也の言葉に、雄二が更なる懸念を述べる。
協議の結果、スマートフォンの扱いについては以下のようなことが決定した。

  • 位置の特定に繋がる情報は、チャットとメールではやり取りしない。
  • 電話で話す際は、念のためこの場にいる8人で決めた合言葉を言いあってからにする。
  • 電話番号とアドレスは記憶するに留めて紙などには書かない。
  • 腕輪や脱出に関する大事な情報の交換は直接会って行う。

「それじゃあ、チノちゃんに蛍ちゃん。僕らがいない間に何か進展とかあったのか、聞かせてもらえると嬉しいな」

そしてチノと蛍は、先ほど雄二たちに話したこととほぼ同じことを語る。
しかし、記憶を消されたらしいチノの友人――桐間紗路のことに話が及ぶと、新しい可能性が浮上してきた。

「なるほどね、その遊月ちゃんって子が会ったシャロちゃんは、チノちゃんの知ってるシャロちゃんとは明らかに様子が違っていた。
 だからシャロちゃんは、何かの力で記憶を消されてると考えるのが辻褄が合ってる……そういうわけだね。だけど、こうは考えられないかな?
 ――チノちゃんとシャロちゃんは、時間が違うんだ」

「?」

臨也と切嗣を除く6人の顔に一斉に疑問が浮かぶ。
それを前に、臨也は滔々と自説を語っていく。
ゲームセンターまで行動を共にしていた蟇郡苛。彼が住んでいた世界では、鬼龍院財閥やREVOCS社といった存在が世界の覇権を握っていたという。
しかし、臨也はそんな話は全く聞いたことがなかったのだ。

「ついでに言うと、俺がここに来る前は『殺人鬼ハリウッド』って名前の連続殺人犯が世間を賑わせてたんだけど……やっぱり誰も知らないって感じだよね。
 こうなると、俺たちは『全く違う世界から連れてこられた』って考えるしかないんじゃないかな」

世界が違う。
この場にいる70人――今は53人――は、それぞれ違う平行世界のような場所から連れてこられたということだ。

「あの白い部屋の女の子――彼女には、俺たちの住んでる色んな世界を移動する力があるとする。
 そう考えていくと、俺たちを『全く違う世界から連れてくる』と同時に、『全く違う時間から連れてくる』ことができても不思議じゃないと思わない?
 時間が違うとしたら、さっきのジル・ド・レェだのジャンヌ・ダルクだのがいるのも、このスマートフォンを知らない人がいるのも説明がつく。
 チノちゃんとシャロちゃんの場合だと、シャロちゃんは貧乏だったことがばれちゃったときの時間からここに来て、チノちゃんはその後の時間から来たってことになるね」

臨也の言っていることは、本来ならば少女たちには難しいものだったかもしれない。
しかし、3人ともここに来てから十分すぎるほどに不思議な経験を積んでいる。理解はできなくても、何となく受け入れることはできる。

「時間が、違う……」

臨也の言葉に、考え込んだのはチノだった。

「リゼさん。自分の記憶だと、クリスマスパーティーのあと、ココアさんが熱を出して倒れてしまったことがあるんです。
 そのこと、リゼさんは覚えていますか?」

その言葉に、明らかに困惑した顔でリゼは答える。

「いや、自分にはココアが倒れたなんてことは記憶にない……
 というか、クリスマスパーティー、って……間違いない! 自分の記憶じゃそんな季節になってもいなかったはずだ!」

「――ビンゴだ」

やり取りを聞き、してやったりという顔で指を鳴らす臨也。

「どうやらはっきりしたね。繭ちゃんには、全く違う世界を移動すると同時に、全く違う時間を移動する力がある」

「違う時間、か……厄介なことをしてくれるぜ。これはちと面倒になってきやがったな」

時間軸の違いという話を聞き、俄かに色めき立ったのは承太郎だった。

「覚えてねえかもしれねえが、名簿に載ってる俺の仲間、花京院典明とジャン=ピエール・ポルナレフ――
 こいつら2人はな、最初に会った時はDIOに肉の芽を埋め込まれて俺たちと敵対してたんだよ」

「な……それでは」

雄二の反応を受け、続ける。

「ああ、もしその敵対していた時間から来てるなら、今ごろは他の参加者を殺して回っていても不思議じゃねえ。
 ……そういう可能性があると分かっちゃ、これ以上ゆっくりはしてられねえな。
 俺はすぐにでもここを出て、DIOの館へ向かうぜ。歩いていくか……いや、俺だけなら電車のほうが早ええな」

承太郎は立ち上がり、7人の中のある人物に眼を向ける。

「衛宮。あんたは吸血鬼について色々と知ってると話してたな。危険だろうが一緒に来てもらえねえか」

言葉をかけられた切嗣は、わずかに臨也と目配せを送り合い、頷く。

「……わかった。僕でよければ力になろう」

俄かに慌ただしくなってきた空気を断つように、臨也が再び言葉を発する。

「さてと、情報交換もあらかた終わったし、僕らも空条君が出ていく前に今後どうするか決めないとね。
 レディーファーストで行こうか。蛍ちゃん、君はどうする?」

「私は……」

臨也の言葉に、あまり会話に参加していなかった蛍がゆっくり口を開く。

「私は、旭丘分校に行きたいです。れんちゃん……私の友達の宮内れんげちゃんも、そこに向かうはずですから」

「私はここに残ろうと思う」

続いて、リゼが口を開く。

「さっきの放送、私たちの友達は誰も名前を呼ばれなかった……。今ごろはみんなここを目指してるはずだ。
 チノも、一緒でいいよな」

リゼに促され、チノも意思を告げる。

「はい。今は私がここを預かってますから。お客さんの相手は私がつとめます」

「わかった。3人ともそれだけ強く思えるお友達がいるってのは羨ましいね……。じゃあ俺は、せいぜいそのお手伝いをさせてもらおうかな。
 蛍ちゃんと一緒に分校まで行くことにしよう。
 風見君。君はここに2人と残ってもらえるかい。君はリゼちゃんとずっと一緒だったそうだから、そばにいてあげるといい」

「了解した。俺も2人を守る盾くらいにはなれる。君たちも、それで異論はないかな」

雄二の言葉に、蛍だけは少し複雑そうな顔を見せたが、3人とも頷く。
こうして、7人のこれからの方針が決まった。

電車を利用してDIOの館に向かうのが、空条承太郎、衛宮切嗣。
旭丘分校に向かうのが、一条蛍、折原臨也。
ラビットハウスに残るのが、天々座理世、香風智乃、風見雄二。
そして、7人は午後6時になったらラビットハウスにいったん帰還する。

すでに、6時の放送から相当な時間が経過していた。










7人がこれからに向け、思い思いに支給品の確認などを行う中。
承太郎は蛍に声をかける。

「一条。お前には渡しておくものがある」

「何でしょう?――っ!!」

承太郎が蛍に渡したもの。
それは白のカード――他の誰でもない、越谷小鞠の姿が書かれたカード。

「渡すのが遅れちまったが、これはお前が持っているべきだな」

「――はい」

カードをしっかりと握りしめるその体が、以前のように震えてはいないのを見届けると、続いてチノにも声をかける。

「香風、コーヒーを馳走になったな。この借りは必ず返すぜ」

「借りなんて――」

そう言いかけて、その言葉の裏にあるものにチノは気付く。
承太郎は、必ずチノの元に戻ってくると言っているのだと。

「――わかりました、また来て下さいね。ラビットハウスは食い逃げ厳禁です」

「ああ。風見、……折原。彼女たちは頼んだ」

「この風見雄二、命に代えても守り抜くと誓おう」

「そんなに怖い顔しなくても大丈夫だって。俺の『実力』は見たでしょ?」

「承太郎君、そろそろ」

最後まで口数の少ないままだった切嗣にも促され。

「じゃあな」

承太郎はラビットハウスを後にする。










「さてと、蛍ちゃん。僕らもそろそろ行こうか」

「……はい」

飄々とした態度を崩さない崩さないままの臨也と、僅かに表情に固さを残す蛍。
彼ら2人もまた、歩き出そうとしていた。

「ああ、そうだ。最後にこれを言っておかないとね。
 俺は考えたんだけど、小鞠ちゃんを殺した『真犯人』は――DIOかもしれない」

「なっ――」

長くなったラビットハウスでの会合。その最後の最後に投下された爆弾。
残った面々は驚きを隠せない。

「どういうことだ、それは」

詰め寄る雄二を抑え、臨也はこれまでと変わらない口調で自説を語っていく。

「……なるほどな。確かにそれであの状況の説明はつく。
 しかし、なぜそれを肝心の承太郎には話さなかったんだ」

「そこはほら、承太郎君は肉の芽を抜き取ることができるって聞いたでしょ?
 そんな彼なら、この話をしたら当然こう思う。『自分がシズちゃんの肉の芽を抜き取ってやろう』ってね。
 けど、いい加減しつこいようだけど、シズちゃんはそもそもが超危険人物なんだよね。
 加えて今はDIOに操られて、猛獣から悪魔にランクアップしてる可能性がある。
 そんな代物を相手に、『肉の芽を抜き取るために、手加減して』ことに当たったら
 ――いくら承太郎君でも、どういうことになるか分かるよね」

「……確かに」

推理の成否は別に置くとしても、臨也の言うことは筋が通っている。

「君たちも気を付けなよ。今のシズちゃんはゴリラパワーに加えて、俺たちみたいな善良な集団の中に紛れ込む悪知恵まで身に付けてるかもしれない。
 もし見かけたら、即座に撃ち殺すなり逃げるなりするのをおすすめするね。
 それじゃあ、俺たちももう行くよ。分校で蛍ちゃんのお友達が待ってるだろうからね」

もし連絡手段が手に入っても、さっき決めたことは忘れないでね、と言い残し。
その物腰は最後まで変わらないまま。大人びた少女と2人、情報屋もまた喫茶店を出ていく。


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082:195×(144+164) 空条承太郎 111:和を以て尊しと為す(下)
082:195×(144+164) 香風智乃 111:和を以て尊しと為す(下)
082:195×(144+164) 一条蛍 111:和を以て尊しと為す(下)
083:寸善尺魔 風見雄二 111:和を以て尊しと為す(下)
083:寸善尺魔 天々座理世 111:和を以て尊しと為す(下)
086:『犯人』に罪状が追加されました 折原臨也 111:和を以て尊しと為す(下)
086:『犯人』に罪状が追加されました 衛宮切嗣 111:和を以て尊しと為す(下)