孤軍 ◆3LWjgcR03U

時刻は間もなく午前6時。
殺し合いの舞台となったこの島にも朝日が強く照りつける。

(闘いてえ……っッッ!!!)

その中を範馬刃牙は走る。
目的はただ一つ。
旭丘分校にいるという「化け物」。
少女の姿でありながらとてつもない力を持ち、背後から放たれた銃弾を容易く回避するという。
そいつと闘うために。

『――おはよう。午前6時、定時放送の時間よ』

殺し合いという場にあって、純粋に闘いを求める姿勢は異質とすらいえるだろう。
定時放送はそんな彼の元にも届いてくる。

『ここまでにあなたたちは誰と出会った? 誰を殺した? 誰と闘った? 今はただ、私の声に耳を傾けなさい』

(放送かぁ)

思えば、ここに来てから考えていたのは闘うことばかり。
殺し合いというこの状況そのものにはあまり考えてはいなかった。

『まずは、大事な話をしましょう。
腕輪で確認出来るルールに明記したけれど、あの場所で説明していないことがあったわ。
そう、禁止エリアについてよ』

(腕輪のルール……そういや見てねえなあ)

考えてみれば、最初のドラゴンやら先刻の首なしライダーやら以前に、この殺し合いという状況がそもそも異様すぎる。
超人的な連中とひたすら闘うばかりの生活を送ってきたせいなのか。
常識的な感覚が麻痺しすぎてるかもな、と考え刃牙は苦笑する。

『本当はルールを見るべきなんだけど、今回は特別に教えてあげる。
当然、殺し合えば人数は減っていく。すると当然、他の参加者との遭遇率も下がるわ』

今いる場所は、ちょうど旭丘分校へ向かうためのT字路が見えてきたあたり。
闘いに備える意味でも、放送が終わるまでは軽く休憩を取っておくのもよいだろう。

『これらの3箇所のエリアが、9時になったら入れなくなるの。
でも、鉄道に乗っている間は特別に入れるようにしてあるわ。
今そこに居る人たちは、死にたくないなら出発準備を始めた方がいいかも知れないわね』

(動ける場所が減る……ってことは)

自分にとっては朗報かもしれない。
目当ての化け物や、それ以外にもいるであろう強者、そして父――範馬勇次郎に遭遇できる可能性が上がるということだ。
足を止め、腕輪から再度スポーツドリンクを取り出して口に含みながら考える。

『さあ、次はお待ちかね、ここまでに命を落とした方々の発表といきましょう』

死者の発表。
さすがにこの時ばかりは刃牙の表情にも影が差す。
最初に出会った2人や、未だ会えていないジャックや本部以蔵たち。彼らは今どうしているのか。

『【宮永咲】【神代小蒔】【範馬勇次郎】

その瞬間範馬刃牙の世界は壊れた









…………
……









「――――は」

その時間は5分ほどだったのだろうか。
呆然としていた刃牙の意識を現実に引き戻したのは、足元に感じる冷たい感触だった。
取り落としたペットボトルから中身のスポーツドリンクが溢れ、地面を濡らしている。

「死んだ……オヤジが――死んだ?」

カードから名簿を取り出す。
そこにある、範馬勇次郎の名前の上には、はっきりと×が刻み込まれている。
嘘だ。
ありえない。
オーガは、父は、範馬勇次郎は、地上最強の生物だ。
それが死ぬなど――誰かに殺されるなど――ありえない。
あってはならない。
彼が死ぬとしたら、他でもないこの自分がその存在を超え、母の仇を取った時だ。

『本当にそうか?』

しかし。
心中で勇次郎の死を否定しようとするたび、それを誰かの囁きが打ち消す。

『こんなとこであの女が嘘をつく意味なんてないだろ?』

『それにお前はあのドラゴンの腕を見てこう思ったんだろ? オヤジを超える存在がいるかもしれないってな』

「――ち、違う」

『最後のひとりになるまで、武器も、知恵も、作戦も、全部使って戦って、生き残りなさい。
 生き残った、たった1人の良い子には――報酬。どんな願いでも、叶えてあげる』

その時、誰かの囁きに変わって脳裏をよぎったのは、他の何でもない、この殺し合いが始まった時の女の言葉だった。

報酬
どんな願いでも
叶えてあげる
報酬
どんな願いでも叶う
どんな願いでも
そう、例えば

範馬勇次郎を甦らせることも?

「でも、それは」

それはすなわち、自分以外の全ての参加者を殺しつくすということだ。
無関係な者すべてを殺戮する修羅となるということ。

「できるのか――俺に?」

闘いの結果としての死ならば、忌避するところは全くない。
それは刃牙に限らず、地下闘技場に集う闘士たちに共通の認識だろう。
しかし、目的のために殺人を犯すというのは、それとはあまりにも違いすぎる。
刃牙の頭には、先ほどの男に話したガールフレンド――松本梢江の顔がよぎる。
参加者を皆殺しにし、甦った父を倒し――その後の自分は、彼女の前に立つことができるのか?
刃牙の頭の中で、様々な人間の顔がぐるぐると渦を巻く。

『たかだか人間(ひと)の肉体を破壊するという単純な行為に 友情だの 結びつきだの 愛だのと――』

「え……」

そしてどろどろになった顔は、一つの大きな顔を形作った。
それは、父であり、仇であり、目標であり、そして今はもういない――範馬勇次郎の顔。

「ハハ……やめろよ」

振り払っても、父の姿が、言葉が、次々に浮かぶ。

『上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想!!!』

普通の父親らしいことなど何もしてくれなかった。
母を殺した。
本気で憎んだ。
殺したいと思った。

『うまい料理を喰らうが如く・・・・・・・・・・・・だ』

それでも、憧れだった。
越えたいと思った。
父親だった。

「やめろ……ッッ」

こんな異常な親子だけど。
いつかは二人で食卓を囲む日が来てもいいのかも、などと少しだけ思ったこともある。
だが、そんな可能性はあまりにもあっけなく消えた。
闘って打ち倒すことも、味噌汁を作ってもらうことも、もはや叶わない。

「やめろおおおおおおおおお雄オオオオオオオオオオオオ
宇ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッ」





……



もしこの場に。
空手家であり、一人の父親であり、神真会を率いる教育者でもある愚地独歩。
最大トーナメントの開催者であり、刃牙にとっては祖父のような存在でもある徳川光成。
かつての好敵手であり、幼くして母を喪失するという体験を共有する花山薫。

彼らのような人間がいれば、範馬刃牙の嘆きを受け止めてやることができたのかもしれない。
しかし、彼は一人だった。
父を、目標を失った若きチャンピオンは、ただ一人……孤独だった。




【Eー4/道路/一日目・朝】
【範馬刃牙@グラップラー刃牙】
[状態]:体に擦り傷・切り傷多数
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)
[思考・行動]
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102:まだ見えぬ未来(よる)の先にーーInter sectionーー 範馬刃牙 112:覚醒アンチヒロイズム