ノーゲーム・ノーライフ ◆zYVQHcA5i.

放送が始まった。
アザゼルは作業を行っていた手元から顔を上げ、それに耳を傾ける。
悪魔をコケにし、掌で踊らせようとする狼藉には殺意を覚えるが、今それを発露させても仕方がない。
一時の感情に任せて行動するのは避けるべきだと、アザゼルは先ほど発見した二つの死体から学習した。
彼らがどのような経緯の末に、あんな凄惨な末路を辿ったかは知らない。
しかし、彼らを狙撃することで危険を伴わずにスコアを挙げた暗殺者(アサシン)は確実に存在するのだ。
そいつらにしてみれば、感情的になって我を失い暴走する間抜けなど……格好のカモでしかないだろう。

アザゼルは、そんな恥を晒して死ぬのは御免だった。
只でさえ人間に敗走したことで悪魔としての威厳は地に落ち、今もこうして這々の体でいるのだ。
生きて復讐を果たし、自分を見下した奴らの上へ再び君臨するには、短絡的な思考を捨てる必要がある。
敗北と屈辱、そして人間の周到さを学んだ悪魔は、努めて気持ちを落ち着けながら繭の声を聴く。

流石にこまめにメモを取るような真似はしなかったが、小湊るう子と自身の見知った名前が呼ばれなかったことは確認した。
いや、正確には一人呼ばれたが……こればかりは彼にとって溜飲の下がる名前であったから例外だ。
ジャンヌ・ダルク。オルレアン騎士団の聖処女―――この身体へ不覚の大傷を与えた忌々しい女。

「ククッ、あの聖女め。偉そうなことを散々抜かしていた割には、いの一番に殺されたのか」

アザゼルは殺し合いに、ひいては繭やまだ見ぬその協力者たちに悪魔を侮辱した報いを受けさせるために動いている。
目的は単純明快、主催の打倒によるゲームの終結だ。
それだけならば、会場の各所で健気に奮闘している対主催派の参加者と同じと言えそうなものだが、忘れてはならないことが一つある。アザゼルは正義だとか悪だとか、そういう以前に悪魔なのだ。
死んでいった命に感慨はないし、仮にファバロやカイザル、リタといった名前が挙がっても動揺はしなかったろう。
雪辱の相手で、ゆくゆくは間違いなく自分にとっての障害となるであろう聖女が死んだ。
これを喜ばずにいる理由はアザゼルにはなかった。むろん、弔意など誓って欠片もない。

彼にとっては極論、小湊るう子のみが生存していれば問題なかった。
あくまであの人間達やゾンビ娘は事のついでだ。
死なれれば協力のアテが少し減るだけ、不便にはなるが所詮その程度止まりだ。

それよりも重視すべき問題は、やはり禁止エリアについてだろう。
幸いアザゼルの潜む宿泊施設のあるエリアはそれに選ばれなかったが、すぐ近くのエリアが指定されている。
悪魔の彼だから、このシステムの悪質さは身に沁みて分かる。
要するに時間が経てば経つほど逃げ場はなくなり、殺し合いは加速していく。
戦う意志のない者は消え、意志のあるものが勝ち抜くシステム。
悪質で、しかし実に的確なルールだ。
今後、施設を出てから会場内を移動するにあたっても、禁止エリアの位置取りにも気を配っておく必要がある。

「あの繭という娘は、悪魔に生まれるべきであったな。お前もそう思うだろう?」

皮肉を吐かれたタマは、カードの中で複雑そうな表情を見せた。
八つ当たりじみた行動だったが、今言った内容自体は本心だ。
少なくとも、繭は人間には過ぎた悪意の持ち主だ。
先天か後天かはともかくとして、悪魔であったならきっと大成したに違いない。
あのベルゼビュートなど、それこそ目ではないはずだ。
極めて不本意な評価ではあるが。


「さて……」

放送を聴き終えた彼は、再度自分の手元へ視線を落とした。
悪魔が畳の上に座っている絵面はなかなかシュールなものがあったが、本人は大真面目である。
そして、彼はとある“遊び”に興じていた。
もっとも、遊びではあるが、殺し合いに全く関係のないものではない。

―――放送の始まるほんの数分前、彼はこの猶予時間中にまだ確認していないカードを検めておくことにした。
矢澤にこの死体から奪い取った最後の一枚だ。
これ以上武器が出てきても武装過多なきらいはあるが、あるに越したこともないだろうと思った。
しかし期待を裏切り、出てきたのはまたしてもカードデッキ。
それも、今度のは意志を持ったルリグの入ったそれですらなかった。
正真正銘ただのおもちゃ。これ以上ない、外れ支給品だった。

苛立ちに任せて投げ捨てようとして、待てよ、と思った。

繭が鍵の娘を処刑した時に使ったのも、この“ウィクロス”なるゲームのカードだった。
支給品の収納されているものや、タマの入っていたデッキについても言わずもがな。
アザゼルは口角をつり上げた。
根拠の希薄な仮説ではあるものの、それなりに信憑性があるだろうという自負もある。
彼はそれからカードデッキを開封し、ルールの解説書へ目を通した。

そして。
アザゼルは―――俗にいう、デッキの“一人回し”を始めたのだ。


繭はカードを媒介して、あの強大な力を振るう。
何せ世界を滅ぼすほどの力を秘めた竜をすら使役しているのだから、彼女を破るのは並大抵のことではない。
だが。―――この“ウィクロス”でのバトルを通じてならばどうか?
確信はない。けれど、一笑に伏されるほど滑稽な仮説でもないだろう。
チェスゲームの達人を真に倒すには、チェス盤の上で勝利しなければならないように。
セレクターバトルの創始者である繭を崩す上でも、同じ土俵に立つことが重要になるというのなら。
それはきっと、主催打破を狙う上での大きな希望になる。

「ふむ」

カードを置く。
相手の動きを、想定できる最善で動かす。
運否天賦の要素については、適当なものをコインに見立てて裏表で決めればよかった。
アザゼルの世界にあった遊戯に比べればやや難解だが、理解できないほどのものでもない。

「人間風情が産んだにしては、なかなかに面白い遊びだ」

ついでに言えば、それなりに気に入りもしたようだった。
包帯だらけの悪魔が一人回しを続ける光景。
それを、タマはカードの中からどこか興味深げに見つめていた。


【G-3/宿泊施設/1日目・朝】

【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
 [状態]:ダメージ(中)、一人回し中
 [服装]:包帯ぐるぐる巻
 [装備]:ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS、市販のカードデッキ@selector infected WIXOSS
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品1~2枚(確認済、武器がある)、イングラムM10(32/32)@現実、タブレットPC@現実、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid
 [思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す
   0:小湊るう子を探す上で、まずは“ウィクロス”について学んでおく。
   1:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
   2:ファバロ、カイザル、リタと今すぐ事を構える気はない。
   3:繭らへ借りを返すために、まずは邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
   4:繭の脅威を認識。
   5:先の死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。
 [備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
※繭とセレクターについて、タマから話を聞きました。
 何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。
※繭を倒す上で、ウィクロスによるバトルが重要なのではないか、との仮説を立てました。


支給品説明
【市販のカードデッキ@selector infected WIXOSS】
矢澤にこに支給。
特殊なルリグのいない、普通のカードデッキ。
特に使い道はないが、既存デッキのカスタムができるかも?



時系列順で読む


投下順で読む


076:Ring of Fortune アザゼル 104:MAN WITH MONSTERS