Underworld ◆zUZG30lVjY

DIOの浅い眠りを妨げたのは、繭という忌々し女の声であった。

『――おはよう。午前6時、定時放送の時間よ』

窓すらない閉鎖的な空間を寝床と定めたのが災いし、腕輪から発せられる音声が反響して耳障りな雑音と化す。
DIOは一瞬だけ不快感を露わにしたが、すぐに気を取り直して即席の寝床に身を横たえ直した。
たかが脱落者の定時読み上げ。目くじらを立てる必要もない。
むしろ参加者達の始末を目的とするDIOにしてみれば、他の有象無象がどれだけDIOに貢献したかの成果報告であるとも言える。

「さて、何人死んだか」

DIOにとっての関心事は死亡者の頭数のみ。
ヴァニラ・アイスやホル・ホースは簡単に討たれるような使い手ではなく、承太郎達が早々に死ぬとも思えない。
学園の戦いでDIOを愚弄した面々は手ずから殺害したいと考えているが、名前が分からない以上は放送を聞いても意味がない。
言峰綺礼への興味はあるが、死んでしまったならそれまでの男に過ぎなかったというだけのことだ。

『腕輪で確認出来るルールに明記したけれど、あの場所で説明していないことがあったわ。そう、禁止エリアについてよ』
「……む?」

予想外の言葉が聞こえ、わずかに眉をひそめる。
繭という女は淡々と説明を続けていく。
禁止エリアの意義。指定されるエリア名。特例事項の補足。

「…………」

DIOは腕輪を操作し、殺し合いが始まって初めてルールを表示させた。
確かに禁止エリアのことが記載されている。

「禁止エリア……だと……?」

それから先の放送の内容は殆どDIOの耳に入らなかった。
顔筋をひくつかせ、壊れるはずのない腕輪を圧壊させんとばかりに握り締める。
誤算だった。慢心と言い換えてもいい。

会場の何処かに身を隠し夜を待つ戦略は一見完璧なように思える。
決して狭くない島の一角に潜んだ者を半日の間に見つけ出すことは不可能に近い。
セイバーがDIOとの遭遇を果たせたのも、DIOの側からわざわざ姿を現してやったが故のこと。
DIOが自発的に行動を起こさないかぎり夜まで安泰である――はずだった。

禁止エリアという要素が加わるや否や、完全無欠の城塞も欠陥住宅に成り果てる。
仮に、このホテルがあるB-7エリアが禁止エリアに指定されていたら、どうなっていたか。
三時間の猶予時間のうちにホテルを離れ、こそこそと日光を避けながら遁走するより他にあるまい。

「このDIOに無様な様を晒せとはな……」

逆上にも等しい怒りが込み上げる。
夜までに流れるであろう放送は、六時、十二時、十八時の計三回。
それぞれ三時間ずつの猶予時間があるとすると、日が出ている間に有効となる禁止エリアは九時のものと十五時のものの計六ケ所。
これらのうち一つでもB-7を指定した瞬間に、DIOの戦略は破綻を迎えてしまうのだ。

「……ふんっ」

しばし憤りに打ち震えていたDIOだったが、やがて気を静めて立ち上がった。
そして悠然とした足取りでホテルの地下フロアを闊歩する。

「ちょっとばかり熱くなってしまうところだったが、冷静になって考えれば、大した問題ではなかったな。
 たかが一割未満の確率など、ゴロツキどもが好むというロシアンルーレットとやらよりも安全ではないか」

総エリア数六十四に対し、今のDIOに悪影響を及ぼしうる禁止エリア指定は六ケ所分。
全てのエリアが均等に選ばれうると仮定しても、B-7が選出される確率は九パーセントに過ぎない。
しかも最初の禁止エリアは既に発表されているので、次の放送でF-7が選ばれる確率に至っては五パーセントを下回る。

プラスの要素はそれだけではない。

繭という女の視点に立って考えればすぐに分かることだ。
あの女は円滑な殺し合いの進行を望んでいる。
DIOが日没までの根城と定めたホテルの周辺を禁止エリアにしたところで、あの女には何のメリットもない。
たとえホテルを追われようとDIOが夜まで活動を控えることは変わらず、万が一脱出に失敗すれば有力な殺人者が一人無駄死するだけだ。
あの女が公正名大な審判員でない以上、そういった恣意的判断が絡むことは想像に難くなかった。
故に、あの女がここを禁止エリアに指定することは当分あり得ないと断定できる。

「だがしかし、今以上に計画性を高めなければならないことは認めよう」

腕輪のマスターカードを操作して全体地図を表示させる。
七十人も雁首を揃えておいて、愚昧な血袋共しかいないとは考えにくい。
DIO同様、恐らくそれなりの人数が禁止エリアの『裏ルール』とでも呼ぶべきものに気付いたはずだ。
崩落した橋を修復し、鉄道による移動を禁止エリアの例外とする運営方針。そこから導き出される言外のルール。


駅のあるエリアは禁止エリアに指定されない。
 ――鉄道による移動を例外とする以上、乗降を行う施設に侵入できなくすることは方針と食い違う。

橋のあるエリアおよびその前後は通常の禁止エリアには指定されない。
 ――修繕を施すほどに橋を重要視している以上、橋を利用した通行を妨げることはあり得ない。


具体的には、駅のあるB-2、C-6、G-6および橋のある、D-4、D-1、D-2、E-1、そして例外的に一時指定されるが、A-4。
D-4の橋の南を封鎖する位置にあるE-4。D-7が指定されたために、万が一禁止エリアに指定されるとE-6の橋の北を封鎖してしまうD-6。
これら十箇所のエリアは禁止エリアに指定される危険性が著しく低い「安全圏」であると判断できる。
無論、これらには『当分の間は』という前提条件が付く。
例えば殺し合いが進み、全ての参加者が南の島に集まった場合、他の島へ逃げ果せる手段は容赦なく断たれることだろう。
しかし、序盤の行動指針の判断材料としては充分に有用な要素である。

「多少なりとも知恵の回る輩はこの辺りを中心に動くだろう。ホテルから最も近い狩場は……ここと、ここ、だな」

DIOは地図上のD-6とE-6に指を這わせた。
それぞれ駅とショッピングモールという有用な施設を擁し、後者は橋の北側に位置している。
この島で参加者達が集まるとすればこの二エリアになるに違いない。

「とは言え、こちらから事を起こすのは忌々しい太陽が沈んだ後――今はまだ、早い」

地図の表示を消して、DIOはホテルの内部を我が物顔で歩きまわり始めた。
日が沈むまでの間、このホテルはDIOの城となる。
ならば、どこに何があってどこで何ができるのかは把握しておくべきだろう。
それに、ひょっとしたら支給品以外の有用な道具が配置されているかもしれない。
どのように思考しても、建物内を探索しておくことに損はない、という結論に至る。


地下倉庫。
地下駐車場。
DIOが睡眠に利用した地下警備員控室。
緊急用発電機。


陰鬱な地下空間を通り過ぎ、金属製の分厚い扉に手をかける。
ドアノブを捻った瞬間、隙間から眩い光が差し込んだ。

「むっ……!」

咄嗟に扉の影に身を隠す。が、どうやらこの光は太陽光ではなく人工的な灯りのようだ。
扉の向こうには、無機質な照明によって照らし出された眩い空間が広がっていた。
エントランスホールにこそ見劣りするが、金満の宿泊客を迎え入れるに相応しい内装が施されている。
どうやらここはホテルの地下に設けられたもう一つの出入り口で、先ほどの扉はこのフロアのための非常口だったらしい。
となると、当然『ある』はずだ。

「……やはりな。運はこのDIOに味方しているッ!」

透明な自動ドアを潜った先で、DIOは口の端を吊り上げた。
地下にもう一つのエントランスがあるということは、そこを利用するための『道』も当然あって然るべきである。
そう――地下通路が。

【B-7/ホテル 地下エントランス/一日目 朝】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、右腕と胴体に深いダメージ、全身にダメージ(中)
[服装]:なし
[装備]:サバイバルナイフ@Fate/Zero、拡声器@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
1:夕刻までホテルで体を休める。その後、DIOの館でセイバーと合流。
2:ヴァニラ・アイス、ホル・ホースと連絡を取りたい。
3:銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の娘(コロナ)、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。優先順位は銀時=コロナ=桂>神威。
4:切嗣、ランサー、キャスターを警戒。
5:言峰綺礼への興味。
6:承太郎を殺して血を吸いたい。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※時間停止中に肉の芽は使えません。無理に使おうとすれば時間停止が解けます。
※セイバーとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。


【施設情報・地下通路】
B-7のホテルの地下エントランスと繋がった地下通路。
ホテルの高級さに合わせたきらびやかな照明が施されている。
現実における一部のホテルで、利用客の利便性向上のために設けられている設備と同じもの。

※地下通路がどこへ通じているかは後続の書き手にお任せします。


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068:騎士王タイプ:トライドロン DIO 100:それでも『世界』は止まらない