その少女は切望 ◆WqZH3L6gH6



「どうして死んだ人はカードに閉じ込められるんだと思う?」

 椅子くらいの高さの岩に座りながらるう子は三人へ尋ねた。
 今、彼女らはF-3北部の森のやや開けた場所でいる。
 当面の目的地は放送局か南西の市街地のどちらかへと考えていたが、
 4人中2人がまだ不調な事もあり、休息と作戦会議がてらに支給品確認を行う事に決めたのだった。


「……殺し合いが終わった後で私達の魂を利用する為じゃないかしら?」
「そうだとすると、るう子さんの言うルリグへの転生とは大分違いますね」
「ルリグへ変わるのは生きてる人間なんでしょ?死んだ人間をどうこうする力は元は持っていないんでしょ」

 シャロは自らの腕輪を見つつ返答し、アインハルトと夏凛がるう子が扱っているノートパソコンの画面を見つつ問いかける。
 シャロは左右に腕輪を付けている。先ほどまでるう子も身につけていた支給品。

「……わからない。持っていたとしても夢見る女の子達にセレクターバトルをさせるのが目的だったみたいだから」

 申し訳なさげにるう子は夏凛達に顔を向ける。
 さっきまで夏凛は同行している三人と別れて犬吠埼風と東郷美森を追うか、留まるかの選択を迫られていた。
 主に遭遇から時間が経ちすぎているとの理由で夏凛は追跡はせず、るう子達との同行を継続してくれたが、
 多少なりとも無理をしているのは、熱でやや朦朧としているるう子の頭でも想像できる。

 ゆえにるう子は自らの最後の支給品であるノートパソコンを使用し情報収集に努めようとしたが、
 セットアップに予想以上に時間がかかってしまい、その事に焦りを感じていた。
 支給品説明に起動にはかなりの時間がかかるとはあったが、下手すると一時間以上、最悪扱えないかも知れない。
 セットアップを完了させるにはカードから取り出し、常に起動させなければいけない。
 美森や金髪坊主(ジャック)といった殺人者がいる中、移動しながらセットアップ完了まで待つにはリスクが大きかった。
 そもそも友人の安否確認をしたい彼女らが求めている通信機能があるかどうかさえ定かではない。
 途方に暮れたようにるう子は空を見上げた。



「もう変に責任感じてんじゃないわよ。他にも収穫はあったんだからいつでも操作できるように集中して」

 沈んだ思考を察したかのように夏凛の叱咤激励が飛ぶ。
 るう子は深呼吸をし、「うん」と返事をして笑顔で返した。
 そう、夏凛が留まったのは無駄ではなかった。

「シャロさん、どうですか?」
「うん少し疲れるけど私にも扱えるみたい」
「そうですか」

 淡々と応えるシャロに対し、アインハルトは喜色と困惑が入り混じった表情で返した。
 シャロの支給品の腕輪は今では手錠へと変化していた。
 それはアインハルトもよく知る魔法補助具――デバイス。
 彼女自身、親しい訳ではないがそのデバイスとその元の所持者の事は知っている。
 アインハルト自身も参加していたインターミドル・チャンピオンシップ出場者の1人エルス・タスミン。
 デバイスの固有名はパニッシャー。
 本来なら魔法少女ほどの力も技術も持っていないシャロが扱ったところで起動などできる筈がない。
 3つに分裂した手錠とそれを繋ぐ鎖がシャロの頭上を舞った。
 俊敏な蛇のように手錠は宙を動く。3つに分裂し、動きは更に複雑となる。
 急な疲労が襲ったのだろうシャロは額に汗を滲ませながら手錠を1つに戻し、上手く手元に戻した。

「……」

 そうおかしいのだ。夏凛が素質ありと推測したるう子はまだしも(起動させただけですぐにシャロに返したが)、
 素質ありとは思えないシャロが起動及びコントロールできてしまっている。
 さすがに元の所持者であるエルスには遠く及ばないが、それでも実戦で扱えてもおかしくないレベルまで及んでいた。

「……すいません、私にも使わせてくれませんか?」
「いいわよ」

 パニッシャーを待機形態の腕輪に戻しながら、シャロはアインハルトにパニッシャーを手渡す。

「……」

 腕輪を装着しつつ、エルスは元の所持者であるエルスの事が心配になっていた。
 参加者ではないものの繭に囚われているのではと。デバイスに魔力を通す。
 腕輪は手錠の形態へと変わり、その感覚を元のデバイス ブランゼルのと脳内で比較する。

「……おかしい」
「何がなの?」
「私は同じ形をしたデバイスに似た別のアイテム、運営が用意したレプリカだと思ったのですが、判別できません」
「本物かも知れないって事?」
「はい。本来ならこのデバイスはシャロさんが扱える道具ではありません」
「だよね」

 シャロとるう子はアインハルトが特別な力を持つことや、補助具である専用デバイスを探している事は彼女からも夏凛からも聞いていた。

「なのに性能に反して違和感がないんです」
「……って事は改造?」
「はい。どのような改造を施しているかまでは判断できませんが」

 短い鎖に繋がれた5つに増やした手錠が小さく音を立てて揺れる。
 シャロと違い、アインハルトに疲労は殆ど無い。

「それって……」
「考えたくはないですが……」


 違和感や表立ったい不具合のないほどのデバイスの改造ができるのは、少なくとも極めて高レベルの
 アインハルトがいた世界の魔法使いか、あるいは全能に近い力を持つ存在でなければ説明がつかないとアインハルトは思う。
 どちらにしても絶望に繋がりかねない推測。
 2人の気持ちが更に落ち込もうとした時、ぱたんと何かが閉じる音がした。

「るう子さん?」 
「……」

それはノートパソコンを閉じる音。るう子は俯かせた顔を上げて言った。

「詳しく言わなかったけど、セレクターバトルって、ただカードを出し合ってするゲームじゃないんだ」
「ルリグが関係してくるワケね」

 スイッチが落ちる前に再びノートパソコンの蓋を上げる夏凛。
 るう子その挙動を気にせず続ける。

「うん」

 頭に浮かぶのは純白のルリグで最初のパートナー タマに会う前に夢に見た光景。
 血の色をした空と大気、そして荒廃したビル群とそれを蹂躙する少女のような姿をした凶悪な巨人。

「セレクターバトルが始まる時、セレクターは別の空間に飛ばされるんだ」
「それって……」
「正確には精神だけが飛ばされるんだけどね」
「……!」
「ルリグはゲームの進行に従って色々とアクションするんだけど」
「まさか魔法を使えるんですか?」

 るう子は頷いた。

「ルリグ同士のバトルは見かけだけなら魔法を撃ち合ってるような派手なもの。
 けど、どちらかが命を落とす事はない。ただバトル後はどっちも消耗する……」
「セレクターバトル以外の現実で魔法みたいなのは使えるの?」
「セレクターバトルみたいに派手じゃないけど、ちょっとだけなら使えたと思う」
「ルリグカードがここでも支給されている可能性がある?」
「……繭の目的が変わったんなら、無いとは思いたいけど」
「今所持していない私らに確認する術は無い、か」
「それと……」

 比較的簡潔に、だが必要な情報分どうしても長くなる説明をるう子は続ける。
 ――そして推理が終わる。

「ルリグも繭次第で死んでしまうって事か……」
「カードが本体って訳でもないんですね」
「……」

 過去、るう子はちよりという年下のセレクターの脱落(死んだ訳ではないが)を見届けた際。
 彼女のルリグ エルドラがカードを抜け出し、繭の元へ去ったのを目撃していた。
 ルリグとなった参加者とは違う遊月の証言通り、繭の力次第でルリグの肉体の性質は変わるのだろうと推測できた。

「繭が力を付けて、私達の魂を抜き取ってルリグ同様に管理に都合の良い肉体を移し替えた可能性もある、と?」
「うん……咲さんの腕輪を壊そうとした時、どうやっても傷一つ付かなかったから、もしかしたらと思って」
「だとしたら、私達の元の身体はどこにあるんでしょう?」
「……」


 浮かない顔で自分の腕輪を一目見てからパソコンの画面を見つめるるう子。
 セットアップ中の画面が表示されてから一時間はとうに過ぎていた。

「外れてほしい推理ね」

 夏凛は吐き捨てるように言った。
 だがそれはるう子に対する悪態ではなく、繭が用意したゲームのシステムに対してだった。
 絶望はしない。意地でも。同じ勇者である美森や風を止めるのもまた至難。
 それくらい……!


「るう子ちゃん、バッテリー残量大丈夫?」
「セットアップ完了までは持つと思いたいけど……」

 シャロは呟きに沈んだ声で応えるるう子。
 夏凛は反射的にスマホを出して画面を見ずに手慣れた様子で操作する。
 アインハルトと出会う前、夏凛は仲間達の勇者スマホへ電話とメールで通信を試みていた。

「ちっ」

 だが、あの時と変わらず通信機能は失われている。
 夏凛はスマホを切ると、るう子の方へ向いた。シャロが不安げにスマホを見ていたのに気付かずに。
 るう子は東のほうへ顔を向けた。

 当初の目的地であった東の市街地なら充電器を使うためのコンセントが見つかるだろう。
 ただ遠い。手っ取り早くノートパソコンの充電をするには近場の建物の中に入らなければならない。
 ここから近いのは放送局だが……。

「研究所に行く手もあるけど」

 シャロの言い分にも一理ある。
 研究所は放送局と比べれば大分遠いが、スクーターと巨大犬 定春。
 そしてもう一つの高速手段がある彼女達にとって遠くはない。
 放送局は駅からは遠いものの、途中の道が舗装されており研究所などよりは立ち寄りやすい。
 その上、最低限の機材さえ揃っていれば、殺し合いに乗る参加者も利用する可能性が高い。
 本調子でないるう子とアインハルトが同行している中、知己以外の参加者との不用意な接触は避けたい。
 研究所は駅からは遠く、他の参加者と遭う可能性は低い。
 落ち着いて作戦を練るには持って来いの場所とも思える。

 どうするか?



【F-3/エリア北部/一日目・早朝】

【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
   1:研究所、放送局どこに向かう……?
   2:東郷、風を止める。
   3:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。
※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。
 ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。
 現在、夏凛はすべての通信機能が使えなくなってると勘違いしています。

【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折 (処置済み)
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
    黒カード:0~3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
    高速移動できる支給品(詳細不明)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:パニッシャーを借りて使う?
   1:私が、するべきこと――。
   2:仲間を探す。
   3:余裕があれば池田華菜のカードを回収したい。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後からです。

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
 [服装]:普段着
 [装備]:パニッシャー
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
     黒カード:不明支給品0~1(確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
   1:研究所か放送局に向かう。
   2:パニッシャーをもっと上手く扱えるように練習する?
 [備考]
  ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。


【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
 [状態]:微熱(服薬済み) 、魔力消費(微?)体力消費(微)
 [服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
 [装備]:黒のヘルメット着用
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
     黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
          ノートパソコン(セットアップ中、バッテリー残量残りわずか)、宮永咲の不明支給品0~2枚 (すべて確認済)
     宮永咲の魂カード
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:研究所に向かうか、東の市街地に向かうか。
   1: 遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。
   2: 魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   3:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。

 [備考]
  ※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です。
  ※遊月が過去から呼ばれたのではと疑いを持ちました。

 [備考2]
  • 4人が共有している情報
  ※夏凛、アインハルト、シャロ、るう子の4人は互いに情報交換をしました。
  ※現所持品の大半をチェックしました。
  ※るう子、シャロ、アインハルトはパニッシャーを使用しました。
   効果の強弱は確認できる範囲では強い順にアインハルト、るう子、シャロです。
   バリアジャケットを装着可能ですが、余分に魔力及び体力を消耗します。

  • 4人の推測
1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。
2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。
3:参加者の肉体は繭達が用意した可能性があり、その場合腕輪は身体の一部であり解除は不可で
  本当の肉体は繭がいる場所で隔離されている?
  もし現在の参加者達の身体が本来のものなら、幽体離脱など精神をコントロールできる力を用いることで
  ある程度対応可能ではと考えています。


【パニッシャー@魔法少女リリカルなのはVivid】
桐間斜路に支給。
エルス・タスミン(ロワ不参加)が所持している腕輪型デバイス。
インテリジェンスデバイスのように自我は確認されていない。
起動形態は手錠。複数に増やすことも可能。
用途は見かけどおり拘束主体。錠の部分が一番頑丈だが他のデバイスと比べて特に硬い訳ではない。
更に魔力及び体力を消費することでバリアジャケット展開可能。デザインは後の書き手さんにお任せします。

【ノートパソコン@現実】
小湊るう子に支給。
仕様は一応現代基準。通信機能あり。充電機付属。
ただしまともに扱うには1時間超のセットアップが必要。
バッテリー残量が少なくセットアップ完了後には30分も使えない。
フル充電で4時間超使用可能。


時系列順で読む


投下順で読む


062:逆境に耐える 三好夏凜 113:わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで
062:逆境に耐える アインハルト・ストラトス 113:わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで
062:逆境に耐える 桐間紗路 113:わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで
062:逆境に耐える 小湊るう子 113:わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年11月25日 08:40