DREAM SOLISTER ◆gsq46R5/OE


  本部以蔵は無様な男である――そういう印象をラヴァレイは抱いた。
  身なりが、出で立ちが、ではない。
  無論それもあるのだろうが、少なくとも今は彼の行動、内面についての話だ。

  すべての参加者を守護る。
  それは確かに、大層ご立派な考えだ。
  ただし、あくまでそれは実践できたならの話。
  少なくとも、この本部以蔵という男には出来なかった。
  すべてを守護ると豪語しておきながら、結局彼は何も守れていない。
  単に仲間を逃がしただけならばまだしも、人死にまで出したとなれば、最早言い訳のしようもないだろう。

  柔道着を纏った背中は、未だ無言でそこにある。
  こういう無防備な背中を見せられては、ついつい悪魔じみた衝動に駆られてしまう。
  本部が如何に強かろうとも、今の彼ならば苦もなく突き殺せるだろう。
  ラヴァレイは長年の経験と本部にも劣らない慧眼で、そう分析した。
  尤も、そうすべきか否かは――これから決めることだ。
  判断を早まることがないように、慎重に選択する必要がある。

 「その男は、自らを『キャスターのサーヴァント』と自称した。更に、『ジル・ド・レェ』とも」

  キャスター。
  魔術師を意味するその名は、ランサーから聞かされたもので。
  ジル・ド・レェ。
  博学な本部以蔵にしてみれば、知らぬ筈もないビッグネームだった。

  本部の肩がピクリと動く。
  彼にとって、ラヴァレイが挙げた二つの名は、どちらも決して見逃すことの出来る名前ではなかった。
  自分が討伐を託された者であり、またフランス史に悪名高き、発狂の逸話を持つ英雄の名を持つ者。
  倒さねば、どれだけの犠牲が出るか分かったものではない。
  しかし本部の鍛えられた肉体が、それ以上動くことはなかった。

  何も答えず、沈黙を貫いたまま、たそがれるように彼は立っている。
  情報を聞き出そうにも、口を噤まれたままではどうにもならない。
  また、今の本部へどれだけ呼びかけても無駄であろうと、ラヴァレイにはそう思えた。
  この男は今、自分の中のみで完結した状態にある。
  外側からどうこうしようとしても、きっと意味は無いだろうと。
  人心を読むことには一際長けた観察眼で、見定める。

  ラヴァレイは与り知らぬ話だが、今の彼に、ディルムッド・オディナを諭した時の力強さは見る影もなかった。
  今の本部を殺すことなら、ラヴァレイのみがその本性に勘付いている少女。
  蒼井晶のような子女でさえ、少々手を凝らせば簡単だろう。
  とてもではないが、皆を守護るなどと説いた男の有り様ではない。縁遠い。

 (価値はない、か)

  ラヴァレイは背中を向けたままの柔道着へ、内心でそう吐き捨てる。
  価値はない。
  この男は典型的な道化。生かしておいたところで、自らにも、そして周りにも利益を生むことは決してないだろう。
  そんな酷評をくれてやりながら、彼は静かに腰へ携えた軍刀へと手を伸ばした。

  この様子では、二の太刀は要るまい。
  何度となく突いてきたから熟知している人体の急所を見据え、悪魔はその刀身を鞘より引きずり出さんとする。

  だが、彼の手は結局柄に触れたのみに留まる運びとなった。


 「俺は、甘く見ていた」


  これまでずっとだんまりを決め込んでいた本部が、不意にその口を開いたのだ。
  図らずも、ラヴァレイが彼を切り捨てようと殺意を発露させかけた瞬間に。
  とはいえ、本部にその意図はない。
  相手は悪魔の顔を持つ怪物(ジル・ド・レェ)。
  どれだけ優れた武人とて、完全に殺気を隠し切っている彼の不意討ちはそうそう感知できるものではない。
  ましてやそれが、傷心の真っ只中ともあれば尚更だ。
  だからこの場面に限っては、不運続きの本部にようやく幸運の女神が微笑んだ――といってもいいだろう。

 「情けねぇが、あの晶って嬢ちゃんの言う通りだ。俺が守護った結果がこのザマよ。笑っちまうな」

  ラヴァレイの言った通り、きつい言葉だった。
  そして、痛い言葉だった。
  どんな格闘家のパンチとも違う鋭さで、晶の言葉は本部以蔵を貫いた。
  久しく味わっていなかった感覚だ。
  言葉のみで、意識が飛びそうになるほどの衝撃を受けさせられるとは――。

 「でもよ。俺はやっぱり、ここで折れるワケにはいかねぇ」

  本部は硬く拳を握り締め、振り返る。
  そこに、迷いや後悔の色は全くなかった。
  ラヴァレイをじっと見据える瞳には、確固たる自信の色がありありと見て取れる。

 「全ての参加者を――」

  そこでラヴァレイは確信した。
  本部以蔵という男は、確かに強い。
  ここで尚も弱音を吐き、燻ぶるようであればただの道化。
  しかし彼は、一度の挫折に甘んずることなく立ち上がり、再び確固とした自信の光を双眸へ灯しているのだ。
  軍刀へ手はかけず、ふっと微笑する。
  それが、ラヴァレイの下した彼への評を物語っていた。


 「俺が、守護らねばならねぇんだからよ」









  本部以蔵は紛れもなく、類稀なる道化に違いない。











  ラヴァレイは、本部以蔵を殺さないことにした。
  彼よりキャスターなる人物の話を聞くと、その決定は正しかったのだと尚のこと強く確信できる。
  とはいえ、それは決して詳細な情報ではなかったが。
  少なくとも、度々話題に上がっていたランサー程の男をして脅威と言わしめる存在であるとは理解できた。

  ならば、それだけでも十分だ。
  本部はきっと、この留守番が終わり次第にでもキャスターを討伐に向かうだろう。
  中身はともかく、本部以蔵が持つ技術と強さだけは本物だ。
  となれば、この男は利用できる。道化としてでもなく、人形としてでもない。
  ――存在するだけで他人を巻き込み、事を悪化させる災禍の種として。

 「モトべ殿。貴方に、これを渡しておこう」

  そう言って彼へラヴァレイが手渡すのは、一枚の黒いカード。

 「……アンタ、こりゃあ何だい」
 「餞別だ。きっと、それは窮地に際して貴方の身を助けるだろう」

  無論、嘘だ。
  ラヴァレイが今手渡した“黒カード”の中身は、その真逆。
  窮地に立たされた本部を救うどころか破滅させ。
  更に、その被害を周囲へまでも与える手の代物である。

 「何かを望む心は、人を強くする。貴方がその道を選んだのならば、全力で貫き通すがよろしい」
 「アンタ……」

  真面目な顔で頷く本部以蔵に、ラヴァレイは心の中で嘲笑を浴びせかけた。

  そうだ。
  何かを望む心は、人を強くする。
  そしてその心が折れる音は、とても美しい。
  だが、ラヴァレイは本部の奏でるそれに興味が有るわけではなかった。
  彼が不幸の楽器となり、それに影響された周囲が砕けていく様を見たい。

 「……、ああ、分かった。必ず、俺はキャスターを倒すぜ。ラヴァレイさん」

  何も知らず、守護神はただ、強くそのカードを握り締めた。


【B-2/駅構内/早朝】
【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:やっぱり確固たる自信、猛省
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
         不明支給品1枚(ラヴァレイから受け取ったもの)
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
1:――それでも、俺が守護らねばならぬ。
2:南下してキャスターを討伐する
3:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
4:騎士王、キャスターを警戒
5:当面はラヴァレイの指揮に従う
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
※本部がラヴァレイから受け取った支給品の詳細は、後の話に準拠します。

【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:なし
    黒カード:猫車
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む
1:本部をキャスター討伐に送り出し、間接的に被害を拡大させる
2:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
3:カイザルは当分利用。だが執着はない。
4:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。


時系列順で読む


投下順で読む


077:低迷の原因は手前の中から 本部以蔵 105:溢れ出る瑕穢
077:低迷の原因は手前の中から ラヴァレイ 105:溢れ出る瑕穢