『犯人』に罪状が追加されました ◆eNKD8JkIOw


やあ、はじめまして。
それとも、もしかして承太郎君や蛍ちゃんみたいに、以前俺に会った人がこれを読んでくれている可能性もあるかな?
それならば、そういう人たちには久しぶり、また会えたねと言っておこうか。

俺の名前は折原臨也。

21世紀の東京、新宿でしがない情報屋を営んでいる男だ。
そして、これを読んでいる君と同じく、この殺し合いの参加者でもある。
いやあ、参ったねえ。まさかこんな催しに強制参加させられるなんて、思いもよらなかったよ。
一日が終わり、ベッドに寝転び瞳を閉じれば、また今日と同じ明日が来る。今までと何ら変わりのない日常がある。
もしかしたら君も、そう思っていたクチなんじゃないかな?
それとも、何者かに命を狙われ、毎日襲撃に脅えるような非日常に身を投じていたパターンかな?
いや、逆に何者かを殺すために、死に物狂いで元の世界でも殺し合いを行っていた、という可能性もあるよね。

いずれにせよ、こんなところに連れてこられて「やったー!ばんざーい!」なんて思える人はそうそういないとは思うけど。
例え君が、誰かに殺されそうな地獄のような日々を送っていたとしても。
もしくは誰かを殺したくて殺したくてたまらない熱狂の日々を過ごしていたとしても。
この、女の子の気持ち一つ損ねればカードになって死ぬような、冗談みたいな今の現実に比べればまだマシだよねえ。
いや、死んだ方がマシ、いっそ殺してくれって境遇の人も、もしかしたらいるのかな?
この場で死ねないってことはないと思うから、そういう人がいたら誰かの盾になって死んであげれば君は幸せみんなも幸せだと思うよ?

おっと、申し訳ない。話を進めようか。
時間は有限だ。特に、6時間ごとに誰かが死んだことを否応なしに知らされるこんな場所ではね。
ただ、もしも君がここまで読んで「こんなうざったらしい文章なんて読んでいる暇はない」なんて思ってしまったのならば、それは大きな過ちだよ。
何故かって?それはこの文章を最後まで読んでのお楽しみ……と言いたいところだけど、流石にそれじゃあ君だって読む気をなくしてしまうかもしれない。

だから、まず最初に重要なことをお知らせしておこう。
君がこれを読んでいるタイミングによっては重要でも何でもないただの『事実』となっている可能性も大いにあるけれど。
何回目か前に聞いた名だな、と、もしかしたらこれを見た最初の時点で思っているかもしれないけれど。
少なくとも俺自身にとっては、とても大事なことなんでね。

それじゃあ、最初に宣言しておこう。

俺にとっての一代一世初めての大告白にして、君にとっては至極どうでもいいかもしれない事実をお知らせしよう。



君がこの文章を読んでいる時。



きっと俺は、既に死んでいることだろう。



♂♀



「2,3、話しておきたいことがあるんです」


ゲームセンター内の探索を終えつつ。
折原臨也は、衛宮切嗣にそう切り出した。
ここはゲームセンターのとある一角。
クレーンゲームやプリクラといった、いわゆるライトユーザー向けのゲーム筐体が立ち並んでいる。
臨也はそんな遊戯の群れをすいすいと抜けていき、客が休憩するために設けられたテーブル席へと切嗣を誘った。
椅子ではなく、行儀悪くテーブルそのものに腰掛ける臨也。
切嗣はそれを注意するでもなく、しかし自らも椅子に腰かけることもなく、立ったまま臨也へと言葉を返す。

「何かな」

「まず、俺に支給されていたこれについてです」

そういって折原臨也がファーコートのポケットから取り出したのは、一台のスマートフォン。
衛宮切嗣には見覚えのない形状をしていたが、無線機のように持ち運びを便利にした大きさの、電線が繋がっていなくても「電波」で連絡を取ることが出来る、電話の発展形なのだという説明を受ける。
勿論、残念ながら外の世界に連絡をとろうと試みても全く繋がる様子はなく、恐らくはこの会場内でのみ使用できるようになっているのだろうとのこと。
また、そもそも電話機能そのものに制限がかかっており、今日の夕方6時にならなければこの島においても通話は行えないということ。

「繭ちゃんがそこまでお間抜けだとは思っていないけど、それでも一度は110番をしたくはなりますよねえ」

「それで、これがどうしたのかな?」

「いえね、最近のこういった機種は多機能さがウリでして、なんと電話以外にもいろいろなことが出来るんですよ」

例えば、アプリ。
この端末にインストールされていたアプリのうち、現在使用できて臨也の興味をひくものはたった一つ。
WIXOSSという名のカードゲームが遊べるものだけだった。
喫茶店で切嗣を待っている間に試しに開いてみると、10人のNPCを倒そう!という、いかにも安っぽい見出しがお知らせとしてプレイヤーを出迎えてくれたという。
簡単なルール説明もヘルプ機能に載っており、プレイするだけなら誰でも簡単に出来るというものらしい。

「ただ、難易度が少々えげつなくてですね……俺の腕じゃあどんなに頑張っても6,7回戦目を突破って辺りが限界ですね。
使えるデッキも、このクロって子しかありませんし」

「こんな状況でゲームか。蟇郡君あたりに怒られなかったのかい」

「ええ、怒られました。そうなるだろうと思っていたので怒られる前に隠れて沢山プレイしましたけど」

「…………君は…………。いや、話を続けてくれ」

「なんだか切嗣さん、俺のことを悪ガキを見るような目で見ませんでした?」

まあいいや、と折原臨也は話を進める。

他には、メールという機能もあった。
だが、こちらも電話と同じく制限がかかっており、今日の正午までは利用できないとのことだった。
もっとも、例え使用できたとしても電話と同じように外の世界へ連絡が取れるとは思わないが。

「夕方6時に、正午。そして最初から使用できるゲーム機能……もしかして、今日の朝6時に解禁される機能もある、ということかな?」

「ご名答です、流石は切嗣さん」

変に持ち上げようとする臨也に苦笑しながら、切嗣は無言で先を促す。

「今日の朝6時、もう少しで解禁される機能は『チャット』です。
部屋は一つだけ。個人個人のやりとりは出来ず、何か発言すればチャットを見ている全員にそれが伝わるという具合ですね」

「チャットにメール、そして電話、ね」

「何か分かりましたか?」

まるで、生徒が答えを出し終えるのを、解答用紙を後ろ手に持ちながら待っている家庭教師のように、少々のわざとらしさを交えて。
年上である切嗣を『立て』はするものの、自信なさげな謙遜や、意味のない譲歩は一切する気がなさそうなその態度。
きっとこの男は自身よりも『強い』 それも単純な力だけではなく、権力や、そういったものも含めての『強い』者たちを相手に張り合おうとしてきたのだろうな、と切嗣は漠然と考えた。

「最初に全員が情報を共有するチャットという場を作り、その後に個人個人が1対1で出来るメール機能を追加。
そして最後にようやく、お互いの肉声で実際に連絡を取り合える電話機能を追加する。
遠く離れた人間と情報共有できる便利なものと思わせておいて、実際は悪用できることこの上ない」

「ですよねえ」

確かに、情報というこの場においての大きな財産を皆で共有できるのは一見素晴らしい。
○○という人物は殺し合いに乗っていて、こういう武器を使って、こういう能力があって、と。
殺し合いを否とするものたちだけで情報を交換できたならば、なるほど、実際にその危険人物に会うまでにある程度の対策を講じることも可能だ。
また、この島からの脱出や腕輪について各々が考察したことも、みんなで共有し、主催者への反逆に繋げることもできるだろう。
それに、同じ世界の仲間たちとの合流にも、このチャットは大いに貢献できると考えられる。

だが、それはこのシステムを『殺し合いを否とする者たちだけが使用していた』場合に限る。
切嗣はこの便利な機能について安直な判断は下さず、狡猾な『魔術師殺し』として、熟考する。

例えば、もしも殺し合いに乗っている人物が、殺し合いを否とする人物の悪評をばら撒いたとしても、それを嘘だと見抜くことは容易ではない。
主催に反抗しようと志すものたちが潰し合うなど、殺し合いを是とするものたちにとってこれほど愉快なことはないだろう。
また、もしも自分の武器や能力について嘘八百を並べ、それを信じさせることが出来たならば、どうだろうか。
遠距離攻撃などしませんと思わせておいて、実際その誤情報を信じた相手と交戦した際に、不意に遠距離からの攻撃を仕掛けたならば。
何も情報を持っていない場合に比べ間違いなく相手は油断しているだろうし、最悪それが原因で死に至る可能性も考えられる。

ならば、脱出や腕輪に関する情報については、どうだろうか?

「このチャットの管理者名、『M』って言うんですよ」

「それはまた、露骨だね」

考えてみれば、当然の話ではあるが。
このチャットは間違いなく、主催者である繭、もしくはその配下の誰かに監視されている。
ならば、少なくともこの場で本当に重要な、主催に対抗できる情報を流すのは、全く得策ではない。
普通に考えてその情報が記された文は消されるだろうし、更に悲観的に考えれば、その文章を発信した人物が繭に目をつけられてしまう可能性も十二分に存在する。
繭がこの会場内部をどれだけ精密に監視しているかは、未だ定かではない。
もしかしたら彼女は全能の神のように参加者全ての行動や思考を手に取るように読み取り、そんな彼女に対抗する術など元々存在しないという可能性だってある。
しかし、だからといって、わざわざ絶対に監視されている場所に重要な情報を提供するという悪手を打ち、繭の想定通りにその重要人物が消され、対主催の芽が潰される事態は、絶対に避けたい。

仲間との合流に関しても、そもそもチャット内の登場人物が本人である保証など、どこにもない。
本人がこのチャットルームを覗いていたらバレてしまうというリスクはあるものの、偽名を名乗ることだってできる。
それがバレる前に『○○という場所で合流しましょう』などと他者を誘導し、予め準備しておいた罠で一網打尽、なんてケースも考えられる。
本人であるという証明ができる何かしらの情報を持っていれば、ある程度の信頼も出来るのだろうが……それとて、絶対大丈夫という保証はない。
本人だと思っていた人物が、実は本物を拷問し情報を引き出し、こちらを罠にかけようとしている危険人物という可能性も、0ではないのだ。
こうなると、肉声によりほぼ確実に本人だと証明できる電話機能がこの端末の本来の用途であるにも関わらず、夕方6時まで使用できないというのも悪意を感じてしまう。

「もちろん、この機能を用いての情報収集も出来ないことはないとは思いますが……あまり信頼すべきでも、こちらから安易に情報を流すべきでもないでしょうね」

「とりあえず、6時になったら『腕輪や脱出に関する大事な情報の交換は直接会ってにしましょう』といった感じで注意喚起を頼みたいところだ」

「ええ、お任せください。
他にどのような情報を流すか、流さないかは承太郎君たちと合流してから、皆で改めて考えましょう」

となると、やはりこの機能を積極的に頼るというのは、あまり良いものではないだろう。
誰が見ているかもわからない場所に馬鹿正直に自分たちの情報を書き連ねるなど、あまりにリスキーだ。
臨也も切嗣の下した判断と同意見だったらしく、特に衝突なく会話は進む。


「……それでですね」


「……まだ何かあるのかい?」


来たな、と。
衛宮切嗣は、折原臨也の声色からそれを感じ取った。
何か、この男はするつもりなのだと。
ここまでの会話はあくまでもジャブ。
本命をぶちこむための、布石に過ぎないのだと。
ここからが本題なのだと、察知する。


「このチャットのもう一つの使用方法を、貴方にだけはお話しておこうと思いまして」


臨也のそれまで浮かべていた軽薄な笑顔が、変わった。


「俺は、遺書を書いておこうと思います。
もしも俺が死ぬ、と俺自身が判断した時に、このチャットに流せるように。
運の良いことに、繭はチャットに文字数制限は課していないようでしたから。
下書きをメモ帳に書いておいて、あとはそれをコピーして、必要となったらチャットの発言欄にペーストすればいい。
なあに、俺もこういう機器の扱いは慣れていますから、予めチャットページを開いておけば片手で、3秒もかかりません。
何故チャットにかって?こうすれば、繭以外には消せないからですよ。自分の書いた文章を後で消去することはできない仕様らしくて。
それに、今はまだチャットを使用することは出来ませんが、今のうちに文章を送信しておけば、
6時ぴったりにサーバーに保存された文章が一斉にチャットに現れるようになっているみたいです。
これならば、もしも第一階放送前に俺が死にかけても、遺書を遺すことも出来ます。
そして、この方法ならば不特定多数に俺の遺書を読んでもらうこともできる。死後にこれほど影響を与えられるなんて、愉快じゃないですか?」


肉食獣というよりも爬虫類のような、獲物を狙う残忍なものに。


「内容?決まっているじゃあないですか。俺の知る『全て』の情報ですよ。
俺が死んだ後のことなんて知ったことじゃありませんから、何のしがらみもなく吐き出せるってわけです」


どこから齧り付いてやろうかと、品定めをするように。



「ああ、そういえば言い忘れていました」



「もしかしたら、越谷小毬を殺したのは、平和島静雄ではないのかもしれません」


「真犯人に、心当たりが出来たんですよ」


「よろしければ、俺の推理を聞いていただけませんか?」


「ねえ、切嗣さん」



♂♀



きっと俺は、既に死んでいることだろう。



ずいぶんおかしな話だと思ったかな?そりゃあリアルタイム進行中のチャットに、死んだ人間の遺書が書かれるなんておかしいよねえ。
かなしいことに、しかしこれは事実だ。
なんとか死ぬ前に何かを遺したいと願った俺が、あらかじめ準備して、死ぬ間際にここに書きこんだのが、この文章なんだ。
いかにも嘘くさい、この男は本当に死んだのか?と感じているなら、放送を待ってごらんよ。
やつの名前が本当に呼ばれるのか?それを待ってから続きを読むのも、悪くはないさ。
つらい現実、仲間が死んだことを知らされても、まだこの遺書のことを覚えていてくれればの話だけどね。


はい、放送を聞いて、もしくは聞かずとも、続きを読んでくれているということは信じてくれたかな?
ばかなことを言ってないで話を進めろなんて声も聞こえてきそうだけど、これが俺の性分なんだから、死後くらいは許してほしいなあ。
かっとなって暴力筋肉ゴリラのように携帯端末や電子機器を壊さないことだけはお祈りしておくよ。


さて、しかし、折原臨也が死んだからと言ってこれが本当に折原臨也の書いた遺書だと証明は出来ない、という問題があるよね。
その通り。ならば俺は、俺が知っている出来る限りの情報をここに記すことで、画面の前の君から信頼を勝ち取ろう。

それと、きずいてくれたかな?


『き ず か な い や つ は ば か』


って、縦読みにさ。


あははは!『づ』と『ず』の違いくらいは許してほしいもんだねえ。
何しろ俺は今、同行者たちと会話しながら、彼らに気付かれないようにポケットの中でスマホを操作してこの文章を作ってるんだからさ。
ちょっとくらい誤字脱字があっても、ここまできてまだ俺の遺書を読んでくれている君の寛大な精神で許してやってくれよ。
そして、俺のことを知っている参加者、特にセルティあたりに出会うことがあれば、この文章を見せてあげればいい。
きっと肩を震わせながら『こんな趣味の悪い遺書を書くのは臨也くらいしかいない!』なんて言って、この遺書が折原臨也のものだと証明してくれるだろうからね。
そうだよ?そういった狙いがあってわざわざ知恵を絞って縦読みを仕込んだんだよ?本当さ。本当本当。


さあ、ようやく情報提供といこうか。
ちゃんとここまで読んでくれた君への敬意をこめて、ね。


まず、俺がこれを書いている現時点では恐らく俺だけが知っている、俺だけが確信している、特別な情報を提供しよう。





越谷小毬を殺した犯人は――――――――衛宮切嗣だ。





♂♀



「切嗣さんは、この殺し合いで一番恐ろしい『敵』とはなんだと考えますか?」

折原臨也は、そう切り出した。

「それは、真犯人と何か関係のある質問なのかな」

「ええ、もちろんです」

「……そうだな、少し時間をくれないか」

噛み煙草を口の中に入れ、自然な動作で休憩用の机に置いてあった灰皿を手繰り寄せながら、衛宮切嗣は考える。
臨也が求める答え、と同時に。
この男の発した質問の意図そのものに。

そして、折原臨也をどうやって殺せば、彼の『保険』……つまり、遺書を不特定多数に流すことなく事を済ませることが出来るかと。

折原臨也は危険だ。今のやり取りで、切嗣はそう判断を下しつつあった。
本来、彼とは手を組むつもりだった。
計算高い悪人、その評価は今でも覆っていないし、上手く利用できれば切嗣もかなり動きやすくなるだろう。

しかし、こうも露骨に『真犯人を知っている』と恫喝されては、彼と円滑な関係を築けるとは思えなかった。
あまつさえ、自分を殺せばチャットを用いて『衛宮切嗣が真犯人であるという情報』を漏らすとさえ暗に言われてしまえば。
切嗣は臨也を利用するつもりはあっても、一方的に利用される、そして搾取されるつもりなどは、毛頭ない。
良いように脅されて言いなりになってしまい、最期には切り捨てられるという可能性は排除すべきだ。

(しかし、どういうつもりだ?)

雄二たちと現場検証した際に自分を庇ったことと言い、静雄の悪評をばら撒き続けることと言い。
てっきり、臨也は切嗣と当面は協力関係を持ちたいのだとばかり考えていた。
しかし今、臨也は名探偵でも気取っているのか、保険となる遺書まで見せびらかして、切嗣に挑発的な態度を取っている。
こちらにも『臨也は静雄が悪人だという嘘をついていた』というカードがあることを失念してはいないとは思うのだが。
まさか、実際に死体を見て今更正義感に芽生えたわけでもあるまいし。

恐らく、臨也と自分との中で何かがズレている。しかし、その正体が分からない。

分からないが、しかし自分にとって危険ならば排除する。
そう冷徹に考えながら、切嗣は殺し方を考える。
何かしらの隙を作り、まだ誰にも明かしていない『固有時制御』でカタをつけるのが一番安全だろうか。
まず優先すべきは彼のスマホを狙い、チャットを見る不特定多数に切嗣の悪評がばら撒かれることを防ぐことだ。
臨也本人を殺すのはそれからでも良い。万が一逃げられたとしても、この会場にいる誰もかれもに切嗣が殺人犯だという情報をばら撒かれるよりは数倍マシだ。
いや、そもそも臨也の言う遺書が、スマホに狙いを集中させるためのフェイクという可能性もあるか?
こいつは僕たちとここに来るまで、そんなものを書いていた時間などないはずだ。
どちらにせよ、もしも逃げられ、喫茶店にいる者たちに情報が渡ったならば、臨也以外にも抹殺する対象が増えてしまうというリスクを背負うことになるが。
しかし、臨也と協力関係を築けないのならば、ここで『衛宮切嗣が真犯人である』という情報を持っている男を排除しないという選択肢はないだろう。
これはあくまでも、リスクとリターンの問題である。リスクが99と100の選択肢があり、99を取るというだけのこと。
また、このまま敵対行動をとりつつあるこいつを放置しておけば、リスクが200にも300にも膨れ上がる可能性があることまでを見越しての決定だ。

「そんな『敵』でも見るような怖い顔で睨まないでくださいよ。
俺は、アンタのことを信頼したいんですから」

と、ここで、臨也がこちらの思惑を知ってか知らずか、そんな言葉を投げかけてくる。
なんなのだろう。こいつは何をしたいんだろう。
一方的に『敵』であるかのような発言をしたかと思えば、いつのまにか手のひらを返したかのように優しげな言葉をかけてくる。
もしかしてその場のノリで発言しているんじゃないだろうな、とさえ疑ってしまいそうになる。

「なかなかいい答えが思い浮かばなくてね、ヒントをくれないか?」

「そうですね。『壁に耳あり障子に目あり』『獅子身中の虫』ってところでしょうか」

「……なるほど」

(そういうことか)

その瞬間、衛宮切嗣は理解した。
ズレが、ぴたりとはまったような感覚だった。
確かに、言われてみればその通りだ。
だからこの男は、これほどまでに警戒していたのだ。
切嗣が臨也を『敵』だと誤解したように。
臨也は切嗣を『敵』だと誤解しかねない状況だったのだ。

臨也は二つ、懸念している。
しかも、切嗣が考えるよりも更に臆病に、保身こそが我が生き甲斐だとでも言わんばかりに警戒しているのだ。


第一に、臨也と切嗣の会話が誰かに聞かれていないか、ということ。


臨也はここまでゲームセンター内を探索し、考察し、きっとこう思ったに違いない。

『衛宮切嗣は何らかの方法を用いて、一方的に平和島静雄と越谷小毬のことを監視した』のだと。


例えば、高度なスニーキング技術を有していたとか。
例えば、魔術的な怪しげな術を使ったとか。
例えば、支給品にそのような用途で使えるものがあったとか。


この場合は三番が正解なのだが、確かに臨也の考えは当たっている。
確かに、切嗣は平和島静雄や越谷小毬と直接接触はしていない。
何故臨也がそう思ったのか、いくつか候補はあるが。
そのうちの一つは、間違いなく『静雄を生かしたままにしてある』というのがあるだろう。

(直接接触して越谷小毬を殺害したならば、間違いなく平和島静雄経由で僕の悪評がばら撒かれてしまう。
それなのに平和島静雄を殺さなかったことはおかしい、と思われるのも自然だろう)

殺せなかったという可能性もあるし、実際そうでもあるのだが。
また、二人とも殺してしまえば、どちらかの遺体を別のエリアに移動させて隠蔽工作をしなければ切嗣が疑われてしまう、ということもあるのだが。
臨也は切嗣のことを、臨也自身もそうであるからなのか『静雄をハメようとしている頭のいい男』として見ているようだったから。

(そして、平和島静雄を殺さなかったのならば、それ相応の『疑われない』対策をしている、と見られているだろうな)

切嗣が小毬を殺したのだと静雄にバレてしまうのは、非常によろしくない。
少なくとも平和島静雄は越谷小毬という少女と仲良くできるくらい、怒りさえしなければ人が好いのだから。
もしも喫茶店にいる『平和島静雄が越谷小毬殺しの犯人であるという情報を持った参加者』以外の参加者と接触し、友好を深めてしまっても何らおかしくはない。
そしてそうなった場合、もしも平和島静雄が「越谷小毬を殺したのは衛宮切嗣だ」と言い出したら。
最悪、同じ殺し合いを是としない者同士が、喫茶店にいる『衛宮切嗣を信じる側』と平和島静雄と交流した『平和島静雄を信じる側』でまっぷたつに割れてしまう。
接触の際に偽名を名乗れば名前が悪名として広まることもないだろうが、それでも容姿を覚えられてしまう以上、あまり得策とは言えないだろう。
そうならないために、切嗣は
『平和島静雄が犯行を行ったように見せかけ』
かつ
『犯行当時喫茶店にいたという完全なアリバイを持っている折原臨也が犯人だと、平和島静雄に思わせた』
のだから。
これならば、少なくとも当時喫茶店にいたメンバー全員がグルでない限りは平和島静雄が「越谷小毬を殺したのは折原臨也だ」と嘘をついていることにできる。
そして、そうなった静雄が、他者からどんな目で見られるかは、想像に難くないだろう。
静雄を小毬から遠ざける一番の方法は『臨也の名を出して誘導する』ことだと臨也自身も分かっているからこそ、恐らく彼は既に切嗣の取った行動に当たりをつけている。

(もしかしたら、今の臨也のやや嫌味らしさが見えるやり方も、勝手に彼の名を使った僕に対しての意趣返しもあるのかもしれないな)

そう考えると、この男も割りと子供っぽいところがあるのかもしれない。

(しかし……そこまで思いついた上で、更に『衛宮切嗣以外にも外部からの監視を行える者がいる』可能性まで考慮するとはね)

つまり、臨也は『既に一度は切嗣によって監視されていた場所で、今も何者かに監視されている可能性が0ではない以上、ここで腹を割って話すのはまずい』と警告しているのだ。
確かに、腕輪発見器でこのエリアにいる人数を確認したのも、ゲームセンターに立ち寄る前だ。
あのあと誰かがこのエリア、このゲームセンターに潜んでいるとしても、おかしくはない。
あいにく腕輪発見器はここにはいない雄二が所持しているため、確認もできないのだ。

もっとも、その事情を差し引いても、すこし度を超すぐらいの警戒心ではある。
しかし、無警戒にゲームセンターで楽しんでいた小毬と静雄がどうなったのかを考えると、思うところもある。
確かに、もしも誰かに監視されていた場合、普通に会話を進めるだけで臨也と切嗣がまとめて破滅してしまう可能性があるのだから、用心に越したことはないだろう。
そうなると、少々面倒ではあるが、少し回りくどいやり方、例えば先ほど切嗣が「臨也を尊重する」といった言い回しを使ったように会話をしなければいけない。
少なくとも「越谷小毬を殺したのは私です。平和島静雄を殺すために手を組みましょう」「分かりました」といったやりとりを直接的に行うのは、なしだ。


そして二つ目の臨也が抱いている懸念。

これに思い当たらなかったのは、正直失敗だった。とんだポカミスだ。


確かに、その通りだ。


「この殺し合いで一番恐ろしい『敵』
それは、主催に反抗する振りをして、内部から参加者を殺していく者のことだ」


確かに、臨也視点だと『衛宮切嗣が獅子身中の虫である』という可能性は、当然考えておくべきなのだ。
臨也も切嗣と同じく二人だけで話し合いの場を設けたいと思っている節があったから、その意図を好意的に見てしまっていたが。
臨也からすれば、切嗣の持つ『臨也は嘘をついていた』という手札を他者に明かされるリスクを減らすために1対1で、切嗣の罪を暴こうとしていただけに過ぎない、のかもしれないのだ。

「単純に力の強いものならば、同じく力や、数で対抗すればいい。
特殊な能力を持つものだとしても、殺し合いに参加者として呼ばれている以上、無敵なはずがない」

数は力だ。
蛍や智乃、彼女たちの知り合いのように、何の力も持たない一般人も多く呼ばれてはいるだろうが。
臨也の知り合いであるセルティや蒲郡の知り合いである纏流子や鬼龍院皐月のように、殺し合いを良しとせず、なおかつ戦う力を持っているものも多い。
ならば、真正面から襲い掛かってくる敵は『こちら側』の数さえ揃えてしまえば怖いものではないのだ。

「だけど、内側に潜む輩は違う」

それは、ボロを出さない限りは、まず『敵』として認識できない。
人間が人間の心を読むことが出来ない以上、潜伏している『殺人犯』を見抜くことは難しい。
当然、誰かを殺した時は疑われる可能性もあるだろう……今の切嗣のように。
だが、それこそ今の切嗣のように、決定的証拠がなければ、いくらでも誤魔化しがきく。
ここには『殺人事件』を解決できる警察も探偵もいない。いたとしても、今の状況でどこまで実力を発揮できることやら。
数の力も、この輩に対しては無力だ。
それどころか、もしも誰かが『潜伏犯』として疑われた場合。
多種多様な人間がいればいるほど『あの人は良い人のはずだ』『いや、きっと悪いやつに違いない』と、内部分裂を起こしかねない。

それは、最悪の事態だ。

ただ単に、潜伏犯を殺せず仲間が殺される、というだけで済めば、まだマシだ。
しかし、疑心が新たな疑心を生み、仲間たちがお互いを信用できなくなった時。
力を合わせて強大な『敵』と戦うことが、果たして出来るだろうか?
本来は数の力で圧殺できるはずの相手に対して、お互いがお互いを疑いながら戦い、それで要らぬ犠牲が出てしまえば。
それらが積み重なった結果として、全滅という事態さえも、引き起こしかねないのではないか?


「衛宮さん、一つお聞きしておきたいのですが」


そして臨也は、切嗣が『そう』なのではないかという疑いを、捨てきれずにいるのだろう。
当然だ。『10を生かすために1を殺す』ような在り様を、簡単に想像することも、受け入れることも、出来るはずがない。
『静雄という危険分子を排除するためにだけに小毬を殺した』などと、容易に推理できるはずがない。
それよりは、潜伏しながら殺し合いで優勝する第一歩として、小毬を殺し。
その罪を静雄に擦り付けて静雄も殺そうとしていると見たほうが、常識的に考えればよほど筋が通っている。

しかし、ならばどうする。

馬鹿正直に、自分の思惑を明かすことは出来ない。臨也から『壁に耳あり障子に目あり』と釘を刺されている。
その上で、自分が潜伏犯ではないと証明する方法など、果たしてあるのか。
自らがゲームに乗った悪人であると証明するのは簡単だ。目の前で誰かを殺せばいい。
だが、自らがゲームに乗っていないことを、どうやって証明すればいい?


少なくとも、今。


「もしも『9割方、潜伏した殺人犯』であると思われる『小さな少女』がいたとして、アンタはどうしますか?」


証明は、出来ない。


「殺すよ」


ならば。


「他の仲間たち全員が、感情論で『こんな良い子が人殺しをするはずがない』と言っていても?」

「アンタ自身がその子に、我が子にそそぐような、保護欲的なものを感じていたとしても?」

「残りの1割、彼女が無実である可能性……誰かにハメられただとか、特殊な能力だとか、そういうものが絡んでいて、無実である可能性があったとしても?」


こういう方法で


「仲間たち全員に気付かれないように、殺すよ」

「かわいそうに、と思いながら、殺すよ」

「1割のために他の誰かがそれからも彼女に殺され続ける可能性を選ぶくらいなら、彼女1人を、殺すよ」


信頼してもらうほか、ない。


「君にだからこそ、言えることだが」


自分のことを知ってもらう、という方法でしか。


「僕は今までもそうしてきたし、これからもそのやり方を曲げるつもりはない」


折原臨也の疑いに、罅を入れられない。


「全てを救うことは出来ない」

この男の信用を得るためならば。

「1人の赤ん坊を殺すことで、10人を殺す怪物を倒せるのならば、僕は赤ん坊を殺そう」

悪魔的に頭が回る折原臨也を味方に引き込めるのならば。

「1人の老人を殺すことで、100人を救うワクチンが手に入るのならば、僕は老人を殺そう」

彼を殺すという道を選ばずに済むのならば。

「1人の知り合いを殺すことで、1000人以上がゾンビになる可能性を絶やせるのならば、僕は知り合いを殺そう」



自分の心などという不確かなものなど、いくらでも傷付けよう。



「愛するものを殺すことで」



嘘か真か自分でも定かではない涙など、いくらでも流してやろう。



「もしも愛するものを殺すことで、世界が救われるのならば」



それが、衛宮切嗣の選んだ『正義』なのだから。



「僕は、妻であろうと、娘であろうと、殺す」





「それは『人間』のすることじゃありませんよ」





折原臨也は、笑っていなかった。


最初出会った時に見せた、宗教勧誘でもするかのような嘘くさい笑顔でもなく。
一条蛍にわざと見せているかのような印象のある、落ち着いた雰囲気の大人の笑顔でもなく。
空条承太郎や自分に時たま見せるような、挑戦的な笑顔でもなく。
それを更に先鋭化させた、蛇が獲物を狙っているかのような笑顔でもなく。
平和島静雄を語る時の、ざわめく感情をひた隠しにするかのように少々ひきつった笑顔でもなく。
悪魔のような狡猾さを覗かせる笑顔でもなく。
無論、人間的な温かみのある笑顔ではもちろんなく。

能面だった。

衛宮切嗣は初めて、折原臨也の笑っていない顔を見た。


「貴方はその果てに、何をしたいんですか?」

「人類の救済を」

「もしも優勝すれば絶対に繭がその願いを叶えてくれるとしたら、どうしますか?」

「その時は、乗る可能性が高い」

「繭からその神のごとき力を奪えるとすれば?」

「どんな手段を使ってでも、奪うよ」

「誰かを、自分以外のすべてを犠牲にしなくてはならないとしても?」

「無論、だ」


折原臨也は、深く、大きな溜息をついた。


「……全く、想像以上だ。いや、以下なのかな?
全自動で最善の行動をとり続ける将棋マシーンみたいですね、貴方は。
取った駒が二度と使えないことを考えると、将棋というよりもチェスですけど」


衛宮切嗣は静かに、灰皿を持つ手に、力を込めた。
これで駄目ならば仕方ないと、自然と思った。


「だけど、その顔は」


何もかもの感情を呑み込み喰らい尽くすかのように、底の見えぬ落とし穴のごとき瞳を持つ絶望的な顔は。
光そのものを己の奥深くにしまい込み、そうすることでしか生きていることを許されないような顔は。
冷たささえ感じる機械仕掛けの、ありとあらゆるものを弾き返す強度の装甲をもしも剥いてしまった痕には、もはや何も残っていないような顔は。



それでいて、未だ『人間』であることを捨てきれていない顔は。



「間違いなく『人間』ですよ、衛宮切嗣さん」



衛宮切嗣は、ここまで悪意を煮詰めた『人間的な』笑顔を、初めて見た。



「アンタとは良い友人になれそうだ」



灰皿を握った手の力が、緩む。
一先ずは、信頼してもらえたということか。
自分の例え話により、越谷小毬を殺した理由について納得してもらえたということか。
まだ、油断はできないが。
ブラフかどうかもまだ分からない『遺書』等、不安な要素も残っているが。
折原臨也は、こちら側に引き込めたと見て、良いだろう。
臨也とて、もともと切嗣には協力的な態度をとってきたのだ。
そんな彼が懸念事項であった『衛宮切嗣は潜伏犯である』という疑いをなくし切嗣を信頼したならば、きっと自分にとっても有用な同士として利用することができるだろう。

「こちらこそ、改めてよろしく頼むよ。折原君」

しかし、それならばこの男の語ろうとしていた推理は、どうなるのだろう。
誰かに見られているかもしれないとわざわざ警告までした男が、この場で衛宮切嗣を『真犯人』として語るとは思えない。
「実は次善策なんて考えてませんでした」なんてオチをつけようものなら、アームロックくらいはかけても許されるのではないだろうか。



「だからこそ、俺も今は貴方にだけお教えしましょう」



だけど、そんな心配はいらないようだった。






「真犯人は――――――――







折原臨也はちゃんと、衛宮切嗣を『真犯人』としない冴えた『真実』を、用意していたのだから。








――――――――DIOですよ」





♂♀






(中略)






さあ、ここまでの『殺人事件』を読んで、君はどう思った?

状況証拠は揃っている。間違いなく平和島静雄が犯人だ。そう思ったかな?

しかし、それは想像力の欠如というものだよ。

例えば、君は首のない化け物を知っているかな。
もしくは、スタンドと呼ばれる超能力があることは知っている?
少なくともこれがチャットで読めるようになる頃には、既に殺し合いが始まってから6時間は経過しているはずだから。
君も、流石に超常的な能力の一つや二つは既に見ているんじゃないかな?

それでは、こういうのはどうだろう。

犯人は『腕輪発見器が使われる前にゲームセンターに罠を仕掛け、当人がその場にいなくてもその罠にかかった相手が死ぬように細工した』

犯人は『遠隔操作できる人形のようなものを操り、エリア外から相手を殺した』

犯人は『首輪発見機さえ欺けるステルス能力で、発見器に認識されないようにした』

どうかな?絶対にありえないなんて、言い切れるかな?

君がもしも全参加者、そしてすべての支給品を把握しているならば『あり得ない』と自信を持って言い切れるのかもしれないけれど。
恐らく、そうじゃないだろう?ならば、これらの可能性を否定はできないはずだ。
君の知らない誰かが君の知らない能力で、人知れず人を殺していることなんて、この場では当然のことなんだよ。
だから、想像するべきだ。空想するべきだ。妄想するべきだ。
ありとあらゆる可能性を。隠された真実を。闇に潜む人殺しを、ね。



いや、少なくともこの三つは否定できる!



そう自信を持って言い切れた人がいたら、君は少なくとも俺のその場の思い付き程度では揺るがない、理性的な人間であるといえるだろう。
そうだね、この三つの推理には穴がある。
俺の話を思い出してごらん。
この『殺人事件』の犯人がまず間違いなく『平和島静雄』だという証拠があったはずだ。





さて、君は分かったかな?

それじゃあ答え合わせといこう。





『衛宮切嗣が、ゲームセンターの外壁を破壊して逃亡するバーテン服の男を目撃している』

『そして、越谷小毬は、平和島静雄のような怪力の男でしか持ちあげることのできないゲーム筐体で圧殺されていた』


少なくとも、さきほどあげた三つの方法で越谷小毬が『謀殺』されていたならば、平和島静雄がわざわざ壁に穴を開けてまで逃げる必要はないはずだ。
姿の見えない暗殺者に脅えた?シズちゃんでも敵わない遠隔操作された存在から逃亡した?
いや、それならば衛宮切嗣が無事でいるはずがない。
彼はその後、現場まで行って越谷小毬の死体の確認までしているのだから。


ならば、やはり『犯人は平和島静雄』だということになる?
いいや、違うよね。君もとっくに気付いているとは思うけれど、そうではない可能性があるよね。


そもそも『衛宮切嗣が嘘をついている可能性』が、確かに残されているよね。


それでは、今からその根拠を述べよう。


俺が不審に思ったのは、越谷小毬の死体についてだ。
ゲーム筐体に頭を潰され、哀れにもこの世を去ってしまった小さな少女の死にざまについてだ。






綺麗すぎるんだ。





『平和島静雄に殺された』というわりには、その死体はあまりにも綺麗だったんだよ。


確かに頭は潰されている。生前の顔だちなど全く分からないくらいぐちゃぐちゃに、ね。
だけど、じゃあ他の個所はどうだった?
腕はあらぬ方向に折れ曲がっていたか?違う。
脚が引きちぎれて別の場所に転がっていたか?違う。
身体はどうだ?上半身、下半身、背中、腹、肉、骨、どこか傷ついていたか?いいや、違う。


顔だけが潰れていたんだ。四体満足状態だったんだ。
そう、まさに、ここを潰せばそれで充分だとでもいうように。
顔さえ潰せばそれで死ぬからそうしただけだ、とでもいうように、ね。


これは、どう考えてもおかしい。


平和島静雄という男は、三度の飯より暴力が好きな男だ。
気に喰わない人間は殴り飛ばす。蹴り転がす。投げ捨てる。
時には自動販売機、そう、驚くなかれ、あの自暴販売機を『持ち上げて』『ボールのように投げつける』ことさえする男だ。
当然、そんな超人的な身体能力を持つ彼に暴力を振るわれた人間がどうなるかは、想像に難くないだろう?
学生時代、既に彼は2桁を超える人数を病院送りにしていたんだ。
入院半年なんてやつはザラだったし、もしかしたら下半身不随になったやつもいたかもしれない。
ならば、成人してからどうなっていると思う?
少なくとも、大人になったからと言って落ち着いてはいなかったよ。おおこわいこわい。


そして、そんな男が『殺そう』として振るった暴力がどれほどまでに恐ろしいかは、分かるよね?


しかし、越谷小毬はあまりにも綺麗に死んでいた。


少なくとも『ゲーム筐体を投げつけられた』のならば、頭だけが潰れて死ぬ、程度で済むはずがない。
普通に考えれば、小毬ちゃんの小さな身体は吹き飛ばされ、そのあちこちに傷を負いながら、苦しんで苦しみぬいてボロ雑巾のようになりながら死ぬはずだ。
それに、シズちゃんの剛力で投げつけられたゲーム筐体の方も少女の頭を潰した程度で運動エネルギーを全消費するはずもない。
彼女を潰したその後も進路上のどこかに転がったり、跳ねたりしているはずだ。
しかし越谷小毬を殺したそれは、まるで少し高いところから落とされただけのように、綺麗に頭の上に鎮座していた。

また、もしもゲーム筐体を投げつけたのではなく『振り下ろした』のだとしても。
そして、仮に越谷小毬の身体が奇跡的に衝撃で跳ね飛ばされたりせずに、そのまま床に叩きつけられたのだとしても。
それだけの力を直接受けた床には大きな亀裂が走っているはずだ。
そして、小毬ちゃんの頭部の損壊も、あの程度では済まなかったはずだ。
しかし、俺たちが越谷小毬ちゃんの死体を検分した時に、そういった跡は全く見当たらなかった。
せいぜい、床に凹みが少々出来ていたくらいなものだ。

つまり、小毬ちゃんの死体の綺麗さを見るに、犯人は
『小毬ちゃんをゲーム筐体がすぐそばにある床に寝かせ、彼女の頭の上にゲーム筐体を落として小毬ちゃんを殺した』
のだと推理できる。


あの暴力の化身である『平和島静雄』を知る俺はおかしいと思った。


あいつはそんな冷静に、冷酷に、人を殺すためだけに人を殺すやつではない。


寧ろ、感情的に暴れに暴れて、結果的に相手が死んでも構わないという男のはずだ。


だから、これをしたのは、少なくとも俺の知る平和島静雄ではないとね。


と同時に、こんな可能性が思い浮かんだ。


越谷小毬を殺した犯人は『ゲーム筐体の下に潰されて死ぬ小毬ちゃん、そしてその現場から逃げ出す平和島静雄という状況を演出しようとしたのではないか』とね。


そしてこうも考えた。


『ならば、普通に考えれば、そんなことが出来た参加者は、一人しかいない』

『犯人は、衛宮切嗣だ』

『衛宮切嗣ならば、平和島静雄が現場にいたという嘘をつくこともできる』

『また、彼はシズちゃんの怪力を知っているから、何らかの方法を用いてゲーム筐体を越谷小毬の頭に落とし、シズちゃんに罪を着せることが出来る』


一応、もしも、他の何者かが何らかの特殊な手段を用いて今の状態を演出しようとしたとも考えてみよう。
すると、その『真犯人』は
『自らは腕輪発見器に見つからないように何らかの方法を用いた上で』『平和島静雄が犯人だと思わせるような細工をして越谷小毬を殺し』
なおかつ
『その現場を他の参加者に見せ』『かつ平和島静雄がその現場にいたと見せかけなければならない』
ことになる。
しかも、誰がいつその場にやってくるのかも分からないのに、だ。
衛宮さんが見た平和島静雄が何らかの能力によって作られた偽物だった可能性もある。
切嗣さんは何一つ嘘をついてはおらず、ハメられた側だという可能性がないわけではないよ。
しかし、そもそも切嗣さん、そして俺たちが『バーテン服を着て殺し合いに乗っているだろう、怪力の平和島静雄』の情報を持っていると『真犯人』はどうやって判断したんだ?
そもそも、そこまでする必要性がどこにある?
そこまでして『真犯人』が得られるメリットなど、俺たちに「やっぱり平和島静雄は危険なんだな」と再確認させられる、程度でしかない。
そんな、運と労力に見合わないことをした馬鹿がいた、と考えるよりも。



『衛宮切嗣がすべてを仕組んでいた』と考える方が、よほどあり得る話じゃないかな?



さて、もっと書きたいこともあったけど、このあたりにしておこう。

なにせ、俺はその衛宮切嗣と、今から1人で対話するつもりなんだから。

この『遺書』を保険として提示するつもりだけど、さてはて、どこまで通じることやら。

願わくば、これを見た君が『越谷小毬殺人事件』の真実に辿り着ける日が来ますように。なんてね。

それじゃあ、さよならだ。君は、最後まで生き残れるといいね。



追伸



勘違いしないでもらいたいんだが、平和島静雄はあくまでも越谷小毬を殺さなかった可能性が高いだけで、良いやつでは断じてない。
もしも出会ったならば、即殺しにかかった方が君と君の仲間たちのためだと思うよ。



♂♀



「また、この推理の他にも

  • 何故かメイド服に着替えていた小毬ちゃん
  • このフロアに放置された、小毬ちゃんが元々着ていただろう服。しかも下着は濡れている。
  • プリクラルームの衣装室が物色された様子

から、彼女は一度失禁し、この衣装室から持ち出したメイド服に着替えたのだと想定できます。
つまり、彼女は一度、失禁するほど恐ろしい体験をした。恐らく、平和島静雄と何らかのトラブルがあったと見るのが普通ですね。
そして、何故か平和島静雄はその時彼女を殺さず、メイド服に着替えさせ、彼女と友好を深めてから、殺した。
小毬ちゃんが無理やりメイド服を着せられた様子もないので、これは十中八九間違いありません。
いつものシズちゃんと違い『殺すために殺す』ような真似をしたのも併せて考えると、ここで俺たちの持っている情報と相まって、一つの仮定が浮かび上がります」


「『DIOの肉の芽によって操られ猛獣から悪魔へとランクアップした平和島静雄が、越谷小毬から情報を得てから彼女を殺した』という仮定がね」


つまるところ、そういう話である。
衛宮切嗣の話を信じるならば、越谷小毬を殺したのは平和島静雄に違いない。
しかし、暴力を振るうでもなく、殺すために殺したという、静雄への違和感。
そして、わざわざ越谷小毬と一時的に友好関係を深めてから殺害したという、謎。
これら二つを同時に解決する『真実』こそが『真犯人DIO説』である。

「しかし、このエリアにいたのは8人だったはずじゃないかい」

切嗣の反論も尤もである。
智乃の言葉を信じるならば、彼女と蒲郡が首輪発見器を使用した際には8人の参加者がこのG-7と呼称されているエリアにいたことは間違いない。
そのうちの7人は衛宮切嗣、折原臨也、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、蒲郡苛、そして越谷小毬で確定だ。
ならば、残り一人は衛宮切嗣の目撃した平和島静雄。それで8人全員。
このエリアにいたのはそれ以上でも以下でもないはずだ。

「そこが、俺たちの目を逆に曇らせていたんですよ。
空白の期間があったことを、俺たちはすっかり忘れていたんです」

それは。

「智乃ちゃんと蒲郡君が首輪探知機を利用した『以前』、このゲームが始まった当初からこのエリアには8人しかいなかったと、誰が証明できますか?」

「なるほど……確かに、言われてみればその通りだ」

筋書きは、こうである。
折原臨也が空条承太郎や一条蛍と超早期に合流したように。
平和島静雄は超早期に、DIOと遭遇していたのだ。
そして、静雄は肉の芽を植え付けられた。
肉の芽を植え付けられた静雄はDIOから『他参加者と接触し、情報を集めきったら殺す』という指示を受ける。
情報の重要性はDIOも分かっているはずだし、昼間動けない彼の代わりに会場内を歩き回る道具が欲しかったであろうことも容易に想像できる。
その後、DIOは智乃たちが腕輪発見器を使用する『前』に別エリアに移動。
そして、見事DIOの道具となった平和島静雄はゲームセンター内で越谷小毬と接触し、彼女から情報を引き出した後に、命令通りにただ、殺した。
何かに対する怒りでもなく暴力を振るいたかったでもなく、殺せと言われたから、余計な力を使うこともなく、ただ殺した。

「もちろん、DIOと出会った際、シズちゃんも無抵抗ではなかったと思います。
だからゲームセンターの周辺は『まるで戦闘でもあったかのように』荒れていた」

そうですよね?と確認するそぶりを見せる臨也に、切嗣も「確かに、僕が来た頃にはこの一帯はこんな感じだった」と同意を返す。

そういうことにしておこう、というわけだ。

「絶対にDIOがやったとは言い切れませんけどね。
戦闘の跡から今回は違うといえますが、園原杏里のようにDIO以外にも洗脳能力を持っている参加者がいる可能性もある」

「いずれにせよ、これは厳しいことになりそうだね。
何しろ、暴れまわるだけが取り柄の猛獣狩りではなく、人間のフリをして集団に潜り込む悪魔を殺すことになるわけだから」

臨也が切嗣に確認していた『この殺し合いにおいて最も恐ろしい敵』とは、このことだったのだ。
もしも平和島静雄が喫茶店にいるグループ以外と接触し、潜伏していたとしたら。
そして、情報を聞き出しきってから1人1人、殺す隙を伺い、実際に殺しているとしたら。
早期に対処できないと、有力な味方となりえた参加者がどんどん内側から平和島静雄に殺されて行ってしまう。
また、逆に大きなグループに静雄が信頼されてしまうと、こちらが最も恐れている『平和島静雄を信じているグループ』と『衛宮切嗣を信じているグループ』の同士討ちが始まりかねない。

「俺たちにできることは、一刻も早く平和島静雄を見つけて殺すことでしょう。
もともと、肉の芽が植え付けられていようがいまいが、危険なことには変わりない」

ならばこそ、平和島静雄はやはり殺さなければならない。それも、出来る限り早急に。
その共通認識を確認し、男たちは密やかに笑い合う。

「この『真実』はみんなに伝えるべきでしょうか」

「そうだね……肉の芽を抜けば助けられる、と承太郎君辺りは言いだしそうだし『必要』になったらで良いんじゃないかな」

「分かりました。しかしシズちゃんに『騙される』可能性もありますから、こちらで注意しなければなりませんねえ」

「ああ、平和島静雄は油断ならない相手だ。君のような有能な男と協力して事に当たれることに感謝しなければね」

「俺の方こそ、切嗣さんのような話が分かる方が仲間で、本当に良かったですよ」

気付けば、もうすぐ放送の時間だった。
雄二や理世がここを出ていってから相応の時間が経っている。
それを確認し、照らし合わせたかのように、どちらともなく彼らは歩き出す。
有意義な話し合いができたといわんばかりに満足げな顔を浮かべる臨也。
あくまでも冷静な表情は崩さずに、しかし目的は果たしたというように出口へと躊躇なく進んでいく切嗣。
煙草を捨て、スマホをいじりながら、二人の外道はゲームセンターの出口へと歩を進めていく。

「繭ちゃんの力を奪うというアンタの望みも、俺にとっては好ましい」

「それはどういうことかな?」

「俺は繭ちゃんの『人間』の部分に興味がありますからね。
もしも貴方に力を奪われ神でなくなった彼女がどんな顔をするのか、ぜひ見てみたい。
虫けらだと侮っていた参加者から反逆され、支配者たる神からただの少女になった彼女がどんな反応をするのか見てみたい。
泣き喚きながら許してほしいと懺悔するのか?
怒り狂いながら勝ち目のない戦いに赴くのか?
生きることを諦めて、何もかも好きにしろと虚脱してしまうのか?
それとも、また別の反応をするのか……興味は尽きませんよ」

「……それは君なりの復讐というやつかい?」

男たちは、各々の目的を果たすために、まずは喫茶店を目指す。
臨也のスマホから入室できるチャットについても皆と話し合いをしなければならない。
これからどうするのか、どこを目指すのか、それとも動かないのか、も考えなければならない。
そして、平和島静雄も見つけ次第、皆の力で殺さなければならない。
『化け物』を『人間』の手で殺さなければならない。

「いいえ、これは復讐なんて暗いものじゃあなくて……そう、『愛』ですよ」

「他の誰もが彼女のことを憎んでも、殺意を抱いても、復讐したいと思っていても。
俺は、せめて俺だけは、繭ちゃんを愛してあげたいんです」

笑顔で言う臨也に、切嗣はチラリと咎めるような視線を向けるが。

「まあ、他の誰かが彼女を殺すっていうなら、別に止めはしませんけどね。
殺される瞬間の彼女の顔も、俺は愛してあげますし」

切嗣に、臨也の考えは理解できなかった。
理解はできなかったが、利用できるならば利用する。
折原臨也の歪んだ愛さえも、利用する。

しかし、衛宮切嗣は未だ気付かない。
この情報屋を『利用』することが、どれだけ危うげな行為であるかを。
臨也が、切嗣の有り方に『興味』を持ってしまったことを。
そして、今まで臨也を『利用』したり、臨也に『興味』を持たれてしまった人間が、どのような末路を迎えてきたかを。

【G-7/ゲームセンター内/一日目・早朝】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:いつもの黒いスーツ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
     黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
          蝙蝠の使い魔@Fate/Zero
          赤マルジャンプ@銀魂
          越谷小鞠の不明支給品0~2
     噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
   1:ラビットハウスの一団からも改めて情報収集を行う。
   2:平和島静雄とは無理に交戦しない。折原臨也や他の参加者を利用し殺す。
   3:有益な情報や技術を持つ者は確保したい
   4:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない
   5:折原臨也の『遺書』については……
[備考]
※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。
※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。
他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします
※空条承太郎、折原臨也、一条蛍から知り合いと危険人物について聞きました。
※風見雄二、天々座理世と情報交換しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) スマートフォン@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
    1: 喫茶店に戻り皆と今後どうするか相談。
    2:衛宮切嗣と協力し、シズちゃんを殺す。
    3:空条承太郎君に衛宮切嗣さん、面白い『人間』たちだなあ。
    4:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍、風見雄二、天々座理世と情報交換しました。
※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。
※スマートフォン内の『遺書』は今後編集される可能性があります。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という推理(大嘘)をしました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

【スマートフォン@現実】
折原臨也に支給。
現在確認されている主な機能は
  • 電話機能(1日目18時以降に使用可能。外部への連絡は不可)
  • メール機能(1日目12時以降に使用可能。外部への連絡は不可)
  • チャット機能(1日目6時以降に使用可能。一度送った文章の削除は不可。文字数制限はないが、一定以上の文字数がある文章は
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)のように省略される)
  • アプリ『WIXOSS』(使用できるデッキは現在『クロ』のみとする)


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083:寸善尺魔 衛宮切嗣 111:和を以て尊しと為す(上)
083:寸善尺魔 折原臨也 111:和を以て尊しと為す(上)