Stairway to... ◆zUZG30lVjY

本能字学園における死闘からしばらくの時が経過した。
すぐ近くで斃れていた二人のカードは回収され、体質的に多くの食料を必要とする神威が赤と青のカードを独占、代わりに流子が黒のカードを多めに確保する形で分配された。
少し離れたところには園原杏里の死体も転がっているはずだったが、それを知るはずの神威はそちらからの回収を提案しなかった。
カードから呼び出されるのではなく、どこからともなく現れた謎の刀。神威は戦いの中でそれを『絶対に触れてはならぬもの』と理解した。
妖刀の中には持ち主に取り憑き操るものも存在する。不用意に近付いて、流子あたりが魅入られでもしたら大事だ。
故に神威は、その刀を持ち主の亡骸と他の所有物もろとも捨て置いておくことにした。
やがて栄養(エネルギー)の補給と小休止を終えた二人は、神威が要求したとおりC-7エリアの「DIOの館」を目指して南下を始めた。
エリアひとつ分の縦断に相当する移動だが、周囲を警戒して慎重に進みでもしない限り、さほど時間の掛かる距離ではない。
当然のことながら、圧倒的強者たる二人が草食動物のように辺りを気にかけるわけもなく、驚くほどにあっさりと目的地までたどり着くこととなった。

「どうやら無駄足だったみてぇだな」

流子は館の惨状を前に、嘲り混じりに神威を見やった。
DIOの館は既に廃墟も同然の有様だった。建物としての形を維持できているのが不思議なほどだ。
真っ当な考えの持ち主なら崩落を恐れて近付きすらしないだろう。

「さっさと次に……って、おい何してんだ」
「念のため中も調べておこうと思ってね」
「……ったく。十分だけ待ってやる。少しでも過ぎたら館ごとぶっ潰すぞ」
「はいはい」

冗談とは到底思えない脅しを聞き流しながら、神威はひとり館の門を潜った。
瞬間、布や紙の焦げたような臭いが鼻腔をくすぐる。
玄関ホールを抜けた先の絵画ギャラリーも、隣室のミュージックホールも徹底的なまでに破壊されている。
臭いの原因は焼け焦げた絵画やカーテンのようだ。
部屋同士を仕切る内壁も屋内と屋外を区切る外壁もズタズタで、床に至っては曲線状の破壊痕が際限なく刻み込まれている。
この様子なら遠からず自重に耐え切れず崩れ去るに違いない。

「ふむふむ」

ぱっと見ただけなら、ここもまた本能字学園と同様に死闘の舞台になったのだと思えてくる。
しかし、図書室まで足を踏み入れたところで、神威はおぼろげながらに感じていた違和感の正体に気がついた。

「こいつは『戦闘』の痕跡じゃあないな」

破壊の仕方がひどく単調だ。バリエーションに乏しいと表現してもいい。
床に刻み込まれた轍状の跡と動物の"蹄"らしき陥没。
横一直線に切り崩され"縦"の破壊痕が殆ど見られない壁。
可燃物という可燃物を焼き払った高熱の"何か"の散布。
神威が確認した限りでは、館内部の破壊痕はすべてこれら三つに該当している。

「おおかた、館そのものを破壊することが目的だったってところか。
 見るからに恨み買ってそうだったし、ここぞとばかりに仕返しされたのかも」

図書室周辺を軽く探索したのち、神威は二階へと足を運んだ。
衣装室に学習室、使用人用と思しきベッドルームにバスルームと、二階にはさほど見るべきものはなさそうに思える。
そして三階、外から見る限りでは大したフロア面積ではない階層だったが……

「ここがDIOの部屋かな。うん、陰気そうだし間違いない」

明らかに空気が違う。雰囲気が違う。血の残り香が漂うベッドルームなど尋常ではあり得まい。
館を破壊した者も三階までは手が回らなかったのか、他の階と比べて原型が残されている。
せいぜい壁を割られ家具の一部を焼かれた程度だ。
だがそれでも所詮は寝室。果たして価値のあるものが見つかるのかどうか。

「ベッドの下には何もなし。他に何か隠してあるとしたら……」

焼け焦げた引き出しに手を伸ばし、軽々とこじ開ける。
民生用の鍵など夜兎の怪力の前では無施錠も同然。
包装紙を破り捨てるかのような容易さで、神威は引き出しに秘匿されていたものを手に入れた。

「ふぅん。案外マメなんだね」

それは一冊の手記だった。日記と言い換えても良いだろう。
下階の絵画と同様、全体のいくらかが焼け焦げているものの、ページの大部分は健在だ。
神威がその手記を流し読みし始めた矢先、建物の外から激しい崩落音が聞こえてきた。
窓の隙間から外を伺ってみると、建物を囲む塀を破壊する流子の姿が見えた。

「せっかちだなぁ。まだ時間は残ってるのに」

神威は手記を懐に仕舞うと窓の戸を叩き割って軽やかに外へ跳び出した。
三階分の高さからの落下もまるで意に介さず、普段通りの表情のまま、破壊を続ける流子の元へ歩み寄る。

「おう、早かったじゃねぇか」
「そちらこそ。館を壊すのはもっと後の約束じゃなかったかな」
「あん? ただの試し切りだっての」

そう言うなり、流子は破魔の紅薔薇を一閃させた。
分厚い石製の塀が粘土のように引き裂かれ、音を立てて崩れ落ちる。

「頑丈で良い武器だぜ。私の動きにもきっちり付いて来やがる。元の得物が手に入るまではこいつで十分そうだ」
「拾い物だったみたいで何より。こちらも面白そうなものを拾えたよ」

神威は懐に仕舞っておいた手記を流子に投げ渡した。
雑に片手で受け取ってぺらぺらと目を通す流子だったが、やがてこの世の終わりでも来たかのように顔をしかめた。

「……全っ然読めねぇ。ぜんぶ英語じゃねぇか」
「知ってた」
「バカにしてんのか。ブッ殺すぞ」
「まさか。俺もさっぱり読めないよ。だけど……」

黒のカードを取り出し中身を出現させる。
手元に現れたのは、小さなキーボードと画面が一体になった手のひら大のデバイス。
いわゆる電子辞書だ。

「大外れだと思ってたけど、使いどころは案外あるものだね」


    ………………


    …………


    ……


額を突き合わせての解読作業の末、幾つかの有意義な情報を引き出すことができた。
(流子は五分でキレた)

まず、DIOは吸血鬼と呼ばれる存在であること。
次に、名簿にある名前のうち、空条承太郎、花京院典明、ポルナレフの三人はDIOを討たんとする者達で、ホル・ホースとヴァニラ・アイスはDIOの配下であること。
そして、DIOを含む彼ら六名はスタンドなる特異な能力を身に付けていること。

書かれていたのはそれだけだ。どうやらこの手記は、徹頭徹尾『事情を把握している者』が読むことを想定しているらしい。
五人については名前と大まかなスタンス以外は分からず、スタンドに関してもそういう名称の特異能力が存在するということだけ。
吸血鬼であるということにも詳しい説明はなく、日光や十字架、大蒜や流水、心臓への杭打ち、家主に招かれなければ建物に入れないといった、一般的に吸血鬼の弱点とされるものがどれだけ当てはまっているのかも定かではない。
つまるところ、DIOの致命的な弱点を割り出すには記述が全く足りていないのだ。
とはいえ、館への破壊工作が外壁周辺を中心に行われているあたり、日光を苦手とする――それが致命的かどうかは一切不明だが――のは間違いないだろう。

「ハンッ! 面白ぇ。スタンドだか何だか知らねぇが、まとめてブチ殺してやるだけだ」
「いい顔してるじゃない。たまには寄り道もいいものだろ?」

流子に向けて軽く手記を放り投げる。
刹那のうちに紅薔薇の穂先が走り、手記を細切れの紙片に変えた。
情報は独占度が高ければ高いほど価値が上がる。
下手に持ち歩いて他人の手に渡る可能性を残すより、こうやって処分してしまった方が得策だ。

「太陽が苦手な吸血鬼、か。少し親近感が湧いてくるね」
「で、次はどうするつもりだ? DIOの野郎を探しだしてぶっ潰すのか」
「いや、それは後回しだ」

電子辞書を黒のカードに戻し、東の空を見やる。
夜空の趣きは陽光の気配に取って代わられ、薄ぼんやりとした暗さを残すのみ。
本格的な夜明けがもう目の前まで迫っている。

「DIOが本当に吸血鬼なら、日中はどこかでヒキコモリを決め込むはずだ。
 シラミ潰しに探すのも面倒だし、日が落ちるまでは別の連中と遊ぶことにするよ」
「ああそうかい。だったら今回は私が行き先を決めるぜ。この島でコソコソしててもキリがねぇ」
「いいよ。どこにする?」




【C-7/DIOの館 門前/1日目・早朝】

【神威@銀魂】
[状態]:疲労(小)、胴体にダメージ(中)、右掌に切り傷(軽度)
[服装]:普段通り
[装備]:日傘(弾倉切れ)@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/30)、青カード(8/30)、電子辞書@現実
     黒カード:不明支給品1~3枚(初期支給)、不明支給品1枚(回収品)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを楽しむ。
   0:俺が全員相手をするから、君は下がってていいよ。
   1:本物の纏流子と戦いたい。それまでは同行し協力する。
   2:勇者の子(結城友奈)は面白い。
   3:纏流子が警戒する少女(鬼龍院皐月)とも戦いたい。
   4:DIOとも次に出会ったら決着を着けたい。
[備考]
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。


【纏流子@キルラキル】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(中)、顔が若干腫れている
[服装]:神衣純潔@キルラキル、破魔の紅薔薇@Fate/Zero
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(19/20) 、黒カード1枚(武器とは判断できない)
     黒カード:神衣純潔@キルラキル 黒カード:使用済み。  不明支給品2枚(回収品)
[思考・行動]
基本方針:全員殺して優勝する。最後には繭も殺す 。
   0:いいや、あたしが全員殺す。てめぇが下がってな。
   1:次に出会った時、皐月と鮮血は必ず殺す。
   2:神威を一時的な協力者として利用する。
   3:手当たり次第に暴れ回る。
   4:他の島にも足を伸ばしてみる。
[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。


【電子辞書@現実】
ジャンヌ・ダルクに支給。電池式で電池寿命120時間。
社会人向けの製品で、ジャンルを問わず膨大なデータが登録されている。
国語辞典や和英辞典だけでなく、他の外国語や大百科事典、果ては防災辞典や家庭医学辞典まで網羅。
暇つぶしに最適なワードパズルのアプリケーションまで用意済みと至れり尽くせり。
市場価格で3万円は軽く超える高級品である。


[備考]
  • 本能字学園における死者のうち、間桐雁夜とジャンヌ・ダルクの全カードが回収されました。
  • 園原杏里の所持品は罪歌を含めすべて死体と共に放置されています。
  • C-6施設内に存在した英語で書かれた手記は読解に英語能力を必要としましたが、他のケースにおいては不明です。
 他の現地調達文書や参加者が書いた文章、支給された電子機器の画面表示がどのように読解されるかは、後の書き手にお任せします。

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051:本能字の変(1) バクチ・ダンサー 神威 114:La vie est drôle(前編)
051:本能字の変(1) バクチ・ダンサー 纏流子 114:La vie est drôle(前編)

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最終更新:2015年11月26日 03:06