忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U
♪
誰に会いたいの? 会いたいの?
こころが持っている答えは
ひとつ ふたつ たくさん?
◆
少女は震えていた。
かたかたと、かたかたと。只でさえ小さなその体は、いつもより余計に小さく見えた。
ついこの間までは表情の変化さえ多くなかったけれど、最近は微笑むことも増えてきた顔。
――蒼白に染まっている。額には冷たい汗が浮いて、今にも滴り落ちそうだ。
――歯はがちがちと不協和音を奏で、心臓は今にもはち切れそうなほどの躍動を見せている。
不健康なリズムとスピードで脈打つ心の臓は、きっと自分の恐怖心の強さを表しているんだ――そう思った。
仮にいま、自分の心臓が破裂してなくなってしまったとしても、きっと智乃は驚かなかっただろう。
ホラー映画を見たことがある。
勿論、自分から進んで見ようとしたわけじゃない。
確かあれは、テレビで心霊映像の特集をやった翌日のことだったと思う。
マヤがレンタルビデオ店でホラー映画のDVDを借りてきて、それを見ようという話になった。
それで、皆で見たのだが。……正直な所を言えば、智乃には恐怖以前に疑問が勝る映画だった。
それは実にありきたりな疑問。
ホラー映画やパニック映画を一度でも見たことがあるなら、誰もが抱いたことのあるだろう感想。
即ち、"自分ならもっと上手く立ち回れる"――自分なら、恐怖で動けなくなったりはしないはずだ。
いくら下手に動けば命を失うかもしれない状況だとしても、止まっていては遅かれ早かれ死ぬだけだ。
死を黙って待ち続けて、恐怖を最高潮まで引き立てられてから殺されるくらいなら、自分ならきちんと動く。
自分なら、万一の時だって自分を見失わずにしっかりと行動できる。
智乃は最後、顔を青褪めさせながら感想を語り合う二人に苦笑しつつ、そうして映画鑑賞を締め括ったのだったが。
いざ実際にその立場へ置かれた彼女は、ピクリともその場から動けずにいた。
このままではいけないと頭では分かっているにも関わらず、体がそれについて来てくれない。
立ち上がろうとしても足は痺れてもいないのにガタガタと震え、もし歩きでもすればすぐに転んでしまいそう。
無理もないだろう。誰も、今の智乃を笑うことは出来ないはずだ。
香風智乃という少女は、普通の少女である。
同学年の子どもに比べれば確かに大人びてはいるし、喫茶店の娘として接客能力だって備えている。
けれど、彼女個人の人間性は――過ごしてきた人生は、あくまでも普通の範疇に収まる。
例えば、先の"ルール説明"。
見せしめとして少女が殺されたが、あの光景についてだってそうだ。
智乃は、人が殺される瞬間を見たことがない。
怪しげな力を持つカードにだって心当たりはないし、摩訶不思議な魔法を使うことも出来ない。
智乃が経験した不思議なことといえば精々、喋るウサギと一緒に暮らしている程度のものだ。
朝起きて、学校へ行き、友達と話して、友達と遊んで――最近では下宿にやって来た年上の少女によって、その日常もずいぶんと賑やかに彩られて。お風呂に入ったら宿題を済ませ、ぬいぐるみと一緒に就寝する。
そんな暮らしを送ってきた少女が、何の前触れもなく殺し合うことを強要され、目の前で人を惨殺されたのだ。
――これで正常でいられるわけがない。今も目を瞑れば、瞼の裏にあの惨状が再生されてしまう。
「う……」
込み上げてくる嘔吐物を、どうにか喉元で堪え、押し戻す。
荒い息を吐きながら、智乃は小動物のように周囲を見渡した。
「ラビット、ハウス……」
ラビットハウス――
見覚えのある光景だった。
それ以上に、親しみのある、かけがえのない光景だった。
自分が生まれ育ち、そして手伝ってきた喫茶店。
昔はアルバイトの理世と自分と、マスコットのティッピーだけしかいなかったが、今では従業員が一人増え、マヤとメグ以外にもいろんな人が遊びに来てくれるようになった大切な店。
空気も、樹の匂いも、かすかに残るコーヒーの香りも。
五感全てが、これが本物のラビットハウスであると告げていた。
智乃が正気を保てていたのは、ひとえに開始位置、最初に目を覚ました場所が此処であったからかもしれない。
安心感。こんな状況だというのに、慣れ親しんだ店の内装が心を少しずつだが、確かに落ち着かせてくれる。
「ティッピー……? お父さん……?」
智乃はいつの間にか、立ち上がっていた。
そうだ、ここはラビットハウス。
いつも通りの――わたし達のラビットハウス。
でも、と智乃は思う。
これは確かにラビットハウスだ。
けれど、どうしてこれが此処にある?
智乃はハッとなって、腕輪の端末を弄り始めた。
使い方には少し手間取ったが、どうにか名簿と地図の出し方を把握する。
まずは地図だ。会場の一覧図を見て――嫌な予感が、大きくなった。
違う。
こんな形の町を、私は知らない。
ここは、私の住んでいる町じゃない――
「……っ」
次は名簿へ手を動かした。
そこには無情に、智乃の友人たちの名前が記されていた。
心愛、理世、千夜、そして紗路。
今や家族同然だったり、長い付き合いだったり、はたまた可愛がってもらったり。
友好を育んできた人物たちも同じ目に遭っていることに心を痛め、マヤやメグの名前がないことに少し安堵した。
「――お父さん……?」
そして、ある不気味な疑問が浮かんでくる。
ラビットハウスがあるのに、どうして父の名前がない?
それに、いつも一緒のティッピーの姿もない。
殺し合いの邪魔だからと、どこか別なところにいるのだろうか? ――――それとも。
「――お父さん! おじいちゃん!」
震えの大分収まった足で立ち上がると、誰かに見つかることを危惧することさえ忘れて名前を呼ぶ。
――ラビットハウスは、ある。
――なのに経営者である父と、店のマスコットも同然のティッピーの姿はない。
二つの要素が揃った瞬間、智乃の脳裏に浮かび上がるのは嫌な想像だった。
ありえないと一笑に伏すのは簡単なことだ。
なのにそれが出来ないのは、やはり先の"見せしめ"の一件。
人の命を何とも思わず、あっさりと、それでいて残虐に人を殺した彼女。
彼女なら、そういうこともするのではないか。
つまり、父とティッピー/おじいちゃんは……もう、とっくに――――
カウンターの奥、智乃たち香風家の人間と下宿生の心愛が生活する居住空間へ智乃は向かう。
足は自然と駆け足になっていた。そうだ。そんなことがあるわけがない。
きっとこの奥に進んだなら、心配そうな顔をした父とティッピーが迎えてくれる筈なのだ。
だってここはラビットハウス。
私達の、日常の中心なんだから。
そう思っているのに、智乃はいつからか、小さな果物ナイフを片手にしていた。
これは彼女の支給品の一つである。
異能のカードや、それに準ずる品物が多数存在するこの殺し合いでは決して当たりと呼べるものではない。
これで岩は切れないし、ビームを止めることは出来ないし、剣と打ち合うことも出来ないだろう。
しかし、人は殺せる。
智乃にその認識はなかった。
正しくは、そんな当たり前に意識を向けている余裕さえ今の彼女にはなかったのだ。
半ば無意識的に手にしたナイフを片手に、彼女は居間へ急ぐ。
そこには見知った顔があると信じて。
「お父――」
リビングに繋がる扉へ手をかけ、一息に引いた。
しかしその向こうに、過ごし慣れた居間の風景はない。
壁があった。
奇妙な模様をした壁だった。
ベースは白だが、それでも壁紙に使うような模様じゃない。
それに、こんなところに壁があるわけもない。
智乃は茫然とした顔で、その壁を見上げていき――そこで漸く、それが壁なんかではないのだと気付いた。
「貴様、参加者か?」
それは、巨人だった。
少なくとも小柄な上に、錯乱状態にある智乃にはそう見えた。
日焼けした黒い肌と金髪に、太く凛々しい眉毛が特徴的だ。
"巨人"は智乃の顔を覗き込むように姿勢を屈めさせ、目線を合わせてくる。
だが、そんなことはどうでもよかった。
智乃にとって重要だったのは、自分達の家に――自分と、父と、ティッピーと、心愛の家に。
「……? おい、貴様――」
「……あ……ぁ……」
見知らぬ誰かが、それもこんな"悪そうな"人物が居たということ。それだけ。
「――――あ、あああぁぁぁああっっ!!!!」
智乃はナイフを振り被る。
そしてそのまま、振り下ろした。
嫌な音がした。
それで終わりだった。
◆
――血が舞ったのを見た。
ナイフを使って血を出したことは、智乃とて一度や二度じゃない。
料理で使ったり、時には工作で使ったり。
様々な理由で使っていれば、不注意で手を切ってしまうこともままある。
しかし、今回のものは違う。
不注意なんかじゃない。
故意だ。
故意で、誰かを傷付ける為に――殺す為に、手にしたナイフを振り下ろしたのだ。
"巨人"の額が、血に染まっていた。
「え」
智乃は一歩、二歩と後退りをする。
それから、ぺたんと座り込んでしまった。
バランス感覚を失ったように、べたんと。
「え……」
智乃は、自分の握ったナイフに視線を落とす。
――紅い。――赤い。
――朱い。――赫い。
――あかい血が、誤魔化しようもなくべっとりとこびり付いていた。
滴り落ちる血の滴が見慣れた家の床に染みを作っていく。やがて刃から柄を伝い、智乃の手にそれが付着した。
「ひっ!」
思わず、ナイフを取り落とした。
水や油なんかとは断じて違うぬるぬるとした感触と、鼻孔を擽る生臭さが、これが現実のことだと告げている。
いっそ終始錯乱できていれば、彼女にとってはまだ幸いだったのかもしれない。
今のは仕方のないことだった、正当防衛だと自己を正当化出来る自分勝手さがあれば、早々にこの場を立ち去るという選択肢を取ることも出来たかもしれない。
いずれにせよ、心にダメージを受けるようなことはなかったろう。形や善悪はどうあれだ。
だが、香風智乃は身勝手な人間ではなかった。
もう一つ言うなら、香風智乃は冷静な人間であった。
滴り落ちた血液が床とぶつかる音と、手で触れた血糊の感触が智乃を冷静にさせた。
目の前にあるのは、言い逃れのしようもない凶行の痕跡だ。
智乃は身勝手な人間ではないから、相手に責任を擦り付けて自分を正当化出来なかった。
相手は何もしていない。ただ自分が勝手に錯乱して、無抵抗の相手を斬った。
さっき起こったことはそれだけだ。――正当防衛? そんな理屈、成り立つ筈もない。
「あ……あ……!」
そうして智乃は理解する。理解してしまう。
逃避すればいいものを、事実をしかと受け止め、把握してしまうのだ。
――人を殺した。
この手で、無抵抗な相手を殺した。
ナイフを握って、
その手を持ち上げ、
姿勢を低くしていた相手の頭を狙って、
ナイフを振り落とした。
「う……お、ぇええっ」
智乃は今度こそ堪え切れずに嘔吐した。
未消化の朝食と胃液が、零れた血を塗り潰していく。
瞳からは滂沱のごとく涙が溢れ出す。
罪悪感と自分への嫌悪感が、瞬時に恐怖を押し潰した。
彼女は震える瞳で、自分が殺した"巨人"を見る。
ゆっくりと頭を上げて、その凶行の証を見る。
血は、彼の居た場所へ近付くにつれ量が多くなっていく。
そして遂に、自身の手で殺めた死体を認識せんとして――智乃は、一瞬自分の心臓が確かに停止する錯覚を覚えた。
「おい」
そこには。
「この俺が――本能字学園風紀部委員長、蟇郡苛が――その程度で死ぬと思ったか」
壁が。
今さっき、自分が切り裂いたはずの"壁"が。
頭から血を流しながら、されど傷を抑えようともせずに、立っていた。
◆
蟇郡苛は激怒していた。
それは目の前で怯えた少女に対しての怒りではない。
繭を名乗った少女。奇怪なカードを使い、人を殺した悪魔の様な少女。
大半の参加者にとって恐怖の象徴であろう彼女は、しかし蟇郡にとっては異なっていた。
――よくも。
彼は忠臣である。
鬼龍院財閥のお嬢様であり、本能字学園の生徒会長を務める支配者、鬼龍院皐月に忠誠を誓った臣下である。
彼女との劇的な出会いは一瞬たりとも忘れることはなかったし、望まれればあの時のやり取りを一言一句言い間違うことなく正確に復唱することだって出来る自信があった。
そんな蟇郡だからこそ、許せない。
人を殺したこと? 違う。
多くの人間を不当に巻き込み、犬畜生のように殺し合うのを強要したこと? 違う。
――よくも。
蟇郡は無論、そこにも怒りを抱いている。
彼ら本能字学園四天王もまた、鬼龍院羅暁の目論見を打ち砕くべく団結し、武を唱えた身だ。
顔も名前も知らない人間一人であれ、決して命を軽んじることを良しとしてなどいない。
ましてそんな悪趣味な光景を皐月に見届けさせるなど、無礼千万である。
だが、そうではない。蟇郡苛という男を真に激怒させたのは、この"腕輪"の存在だった。
――よくも、皐月様にこれほどの狼藉を働いてくれたな。
腕輪とは言っているが、要するにこれがある限り、生殺与奪は繭なる娘に握られているということ。
そしてこれは参加者個人の手では外せない。
ならばそれは首輪と同じだろうと蟇郡は考える。
犬は、自分の手で首輪を外せない。そして犬の生殺与奪は、首輪のリードを握る飼い主が常に握っているのだ。
(皐月様を犬と同列に扱う無礼……断じて許さん! この蟇郡、これほどの屈辱を味わったのは初めてだ……!!)
皐月の被る屈辱は、蟇郡にとっては彼女の数倍もの屈辱である。
だから彼は今、過去かつてないほどに激怒していた。
只でさえ悪い人相は、そんな精神状態なこともあって当社比三割増しくらいに悪くなっていたのだ。
そこに錯乱した幼い少女がやって来る。
少女は武器を持っている。
そうなれば、何が起こるかは想像に難くないだろう。
あら不思議、お手軽殺人事件の完成である。
一つだけ異なることがあるとすれば、この蟇郡苛という男――"普通"の人生を送ってきた人間ではないということ。
智乃の振るったナイフは、確かに蟇郡の頭を捉えた。
しかしだ。
何の心得もない素人、それも幼い娘が錯乱しながらナイフを振り回した所で、その威力はたかが知れている。
もし蟇郡が顔を覗き込もうとしていなければ、彼の纏う"極制服"に阻まれ、傷一つ付きはしなかっただろう。
それに加え、蟇郡は頑強な男である。
今は親戚の鉄工所で作って貰ったアイテムは持っていなかったが、それでもこの程度ならば恐れるに足らない。
傷の見た目はそこそこ派手だったが、命どころか行動への別条すら皆無だった。
だがそう、見た目だけはそれなりなのである。
額を左から右目の下辺りまで、ナイフで切り裂かれた傷が斜め一直線に刻まれている。
出血も、少女一人に人殺しをしたと錯覚させる程度にはしていた。
「ひ、ひっ……!」
「ええい、そう怯えるな! 貴様を取って食うつもりはない!!」
危害を受けたのは紛れもなく蟇郡の方なのだが、相手は明らかに一般人だ。
極制服など勿論纏ってはいないし、ナイフを使う動きも不慣れ。
――まず間違いなく、この殺し合いに不運にも巻き込まれた一介の少女と見て間違いないだろう。
状況が状況だ。錯乱して斬り付けられた程度で激昂するほど蟇郡は器の小さい人間ではなかったし、第一今のは見方を変えれば不注意過ぎた自分にも責任がないとは言えない。
「傷も浅い! この程度、俺ならば唾でも付けておけば治るわ!
……それよりもだ。貴様、先程"お父さん"と言いかけていたようだが――この家の住人か?」
「……は、はい……」
「そうか……ならば謝罪しよう。些か考えが足りなかった」
傷から滲む血を片手で拭いながら、蟇郡は智乃へと謝罪する。
それに智乃はきょとんとした顔をした。
彼女にしてみれば、相手は殺しかけた相手だ。
反撃に遭うのは確実だとばかり思っていたから、この反応には思わず面食らう。
そして、すぐに自分のしなければならないことに気付いた。
「……私の方こそ、ごめんなさい!」
「貴様が謝る必要はない」
「そんな……でも、私、あなたを殺しそうになって――」
「言ったろう。この蟇郡、錯乱した子女の刃で討ち取られるほど軟な男ではない!
仮に先の一撃で俺が死んだのだとすれば、どの道その程度では皐月様をお守りするなど到底不可能な話だ。
皐月様を守れぬ俺など、最早俺ではない。死んで六道輪廻の旅にでも赴いた方が余程有益である!!」
凛と喝破する蟇郡。
その大声にびくりと智乃は体を震わせたが、そこに敵意がないことは理解できた。
――ついでに、今ので大分頭も冷えた。
「それに、俺が怒っているのは主催者――あの繭なる女だ」
主催者、という単語を聞き、智乃は再び"見せしめ"が殺される瞬間を想起する。
「貴様は、奴が許せるか?」
「私は……」
「大方、貴様の友も巻き込まれているのだろう。
ああいった手合いが全くの無作為で参加者を選出するとは思えん。
……悪趣味なことだがな。少なくとも俺には許せん。皐月様にこのような仕打ちを働いた挙句の鬼畜の所業、断じて捨て置けるものではないと実に憤慨している」
心愛たちは、ただ普通に暮らしていただけだ。
何も悪いことなんてしていない。
そんな彼女たちが、きっと今頃は恐怖し、怯え、悲しんでいる。
そう考えると――智乃の中にも、恐怖の他に湧き上がってくる感情があった。
「ません……」
それは、温厚な彼女にしてはごく珍しい感情。
彼女自身、これほどまでに強くその感情を抱いたのは初めてだった。
友達との喧嘩など比べ物にすらならない。
「許せません……!」
許せない。
人の命を弄び、挙句罪もない人々を――自分の大切な友人を巻き込みせせら笑っている繭が許せない。
智乃は今、確かに怒っていた。
蟇郡の言葉は彼女の怒りを煽り立てるようなものであったが、実際、彼はそれを狙っていたのだ。
「ならば、よし」
力なき者がいることは致し方ないことだ。
誰もが極制服を纏って戦えるわけでも、あの繭のように摩訶不思議な力を使えるわけでもない。
むしろそういった者はごく少数派だろう。大概はこの少女のように、無力で平凡な人間。
それでも、心を強く保つことは出来る。
恐怖に慄き、怯え続けるだけではなく――強い怒りを燃やし、それを繭への反逆の狼煙とする気概があれば。
それは、単なる服を着た豚ではない。
確たる志を持ち、明日へ向かわんとする戦士である。
「あ――あのっ」
「?」
「私は、チノ――香風智乃といいます。
蟇郡さんが大丈夫なことは分かりましたが……一応、手当てだけはさせてください」
「分からん奴だな。これしきの手傷、唾でも付けておけば治ると……」
「させてください」
台詞を遮って進言してくる智乃に、さしもの蟇郡も反論ができない。
こういう強情さを発揮してくる奴には覚えがあった。
満艦飾マコ。力はないが、しかし"なんだかわからないもの"を秘めた劣等生。
だから蟇郡は、こういう時には素直に頷いておくのが賢明だと知っている。
「……好きにするがいい」
「ありがとうございます。では」
少し微笑んで、智乃は室内の救急箱を持ってくると、手当てへ取りかかりはじめた。
蟇郡は手慣れたものだと内心感心していたが、当の智乃はといえばおっかなびっくりである。
保健の授業で習った知識を必死に思い出しながら、丁寧に止血していく。
それに甘んじながら、蟇郡はふと気が付いた。
「香風。貴様、この家の娘なのだったな? 此処は店か?」
「喫茶店です。名前は、ラビットハウス」
「そうか――茶、か……」
そういえば、こういった大きな闘いの際に、揃三蔵――皐月の執事が入れる茶を飲まないのは珍しい。
そう思い、蟇郡は呟いた。
その声を拾った智乃は、ふと彼へ提案する。
「……飲みますか?」
「なに?」
「お茶じゃなくて、コーヒーですけど」
ここはラビットハウス。
智乃の働く喫茶店だ。
何も全部が全部もぬけの殻というわけでもないだろう。
コーヒーメーカーと豆、コップくらいはあるはずだ。
「……貰おうか」
せっかくの提案を蹴り飛ばすのもどうかという話。
蟇郡は毒気を抜かれた思いで、ふうと溜息を吐き出した。
【G-7/ラビットハウス/一日目・深夜】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、落ち着いた
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:果物ナイフ@現実
黒カード:不明支給品0~2枚、救急箱(現地調達)
[思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
1:蟇郡さんに、コーヒーを淹れる
2:ココアさんたちを探して、合流したい。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです
【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置中、軽度)
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
1:コーヒーか……
2:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。
3:針目縫には最大限警戒。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
支給品説明
【果物ナイフ@現実】
香風智乃に支給。
その名の通り、果物を切るのに適した小型のナイフ。
【三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル】
蟇郡苛に本人支給。
蟇郡が着用する三ツ星極制服で、これは最終決戦のために用意された最後の戦闘形態。
全身の布が皐月の縛斬と同等の強度を持っており文字通り『生きた盾』として機能する。
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最終更新:2015年08月19日 09:57