夏色の風景 ◆Oe2sr89X.U


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 少女の名前は一条蛍。
 東京の学校から小学生と中学生が混在する旭丘分校へ引っ越してきた小学5年生。
 その神からひいきされたとしか思えない整った顔立ち、そして小学生らしからぬ身長と抜群のスタイル。
 そんな彼女のランドセル姿は少々痛々しい。

 そして。

 少女の名前は越谷小鞠。
 越谷夏海の姉であり、学校で一番年上の女子生徒ではあるが、蛍とは逆に年の割にこじんまりとした少女である。
 あだ名はこまちゃん。
 もちろんその理由は名前から……ではなく、細(こま)いからである。
 そんな小鞠は可愛い先輩だという想いで接していた。
 しかしその想いはいつしか……


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 私は、越谷小鞠先輩のことが大好きです。


 どこが好きかと言われたら、全部好きと答えるしかありません。
 女子の中では一番お姉さんな筈なのに、百歩譲っても年上には見えないその体格。
 小さいことと子どもっぽく見られがちなことを誰よりも気にしていて、からかわれると真っ赤になって怒るところも。
 お姉さんぶろうとして空回りしてるところなんて、小動物……そう、ハムスターか何かを見ているような気分です。
 最初は常識的だけど変わった、かわいらしい人、くらいの印象だったのですが。
 皆に馴染んで、一緒に遊んだりする毎日を送り始めて――程なく、私は小鞠先輩の虜になってしまいました。

 えへへ、だって本当に可愛いんですよ。
 黒板消しトラップに引っかかって頭を真っ白にしてる先輩も。
 夏海先輩に子ども扱いされて涙目になりながら小さな手でポカポカ叩く先輩も。
 迷子と間違われて迷子センターまで連れて行かれて落ち込んでいる先輩も。
 全部、ぜーんぶ。私の大好きな先輩です。

 けど、子どもっぽいところだけが先輩じゃありませんよ。
 時々……うん、本当に時々ですけど、ちゃんと先輩らしいこともしてくれます。
 例えば私と一緒に買物に行ってくれた時は、野菜の置き販売について教えてくれたり。
 他にも、都会っ子の私が知らないような(先輩たちにとっては常識ですが)ことをたくさん教えてくれました。
 先輩に限ったことではありませんが、皆さんの誰か一人でもいなければ、私は新しい環境に馴染めなかったでしょう。
 東京の友達と別れて、知らないことだらけの村に引っ越してきて。
 もしも先輩達に会えなかったらと思うと、すごく不安になります。そう、今でも。

 れんちゃんが居て、夏海先輩が居て。
 そして先輩が居る。穏々とした日々は都会に比べて不便なはずなのに、すごく楽しくて暖かくて。


 小鞠先輩が笑うと、それだけで優しい風が胸に届くよう。
 あの向日葵のような笑顔で微笑まれると、私は此処に居てよかったな、といつも思います。
 いろんなことを毎日おしゃべりして、約束しなくても会えちゃう日々。
 思い出がいっぱい、胸の奥に増えていく夏。

 そういえば、作りかけのこまぐるみがあったんでした。

 今日はちょっと早起きして、続きを作りましょう。
 それから学校に行って、問題集を解いて、みんなで遊んで……。


 ――明日は、何をしよう。考えただけで、とても楽しみです。


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「越谷小鞠が死んだ」
「――え?」


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 聞こえる、蝉の声と一緒に、煌めく夏色の風景。

 思い出いっぱい、胸の奥に! 増えてく夏、明日は何しよう?


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 短い眠りから目を覚まし、挨拶する蛍へ。
 空条承太郎は、淡白にそう告げた。
 もしもこれが花京院典明だったなら、もっと気の利いた言葉を添えられたのかもしれない。
 もしもこれがジョセフ・ジョースターだったとしても、そうだろう。
 きっとポルナレフやアヴドゥルも、何かしら彼女を傷つけないようにと考える筈だ。
 承太郎のように事実のみを伝えるとしても、彼らは彼らなりに色々と考えた末、その結論を出す。
 しかし承太郎は違った。承太郎はただ、目覚めた蛍にそれを伝えた。

「……もう、空条さん。眠気覚ましにしては、冗談がきつすぎますよ……?」
「……」

 寝ぼけ眼を擦りながら、蛍は苦笑する。
 おかげで眠気はすっかり覚めたが、いくら何でもジョークにしては悪趣味すぎる。
 抗議の意味も含めて冗談がきついと返す蛍――しかし、承太郎の表情は変わらないし、発言を撤回もしない。
 ただ、彼は蛍の目だけを見ていた。それが嘘や冗談を言っている人間の顔ではないと、蛍にも分かった。

「え……? え? え?」

 助けを求めるように、蛍の目が泳ぐ。
 懇願の先は、香風智乃だった。
 蛍が軽い睡眠に入る前、この店で出会った幼いバリスタの少女。
 それでもどうやら蛍よりは年上のようで、彼女からはどこか小鞠に近いものを感じていたのだが。

「蛍さん」

 智乃は、静かに目を伏せた。
 承太郎ほど直接的でこそなかったが、その動作が意味するところは同じだ。

 越谷小鞠が死んだ。
 ちっとも笑えない、蛍にしてみれば怒ったっていいようなブラックジョーク。
 それを智乃も承太郎も、一向に撤回する気配がない。
 承太郎は黙し、智乃は何を言うべきか迷っているような、そんな素振りを見せている。
 その反応は、どんな言葉よりも明確に『越谷小鞠の死』を肯定していて――

「……せん、ぱいが」

 小鞠が。
 小さくて可愛かったあの人が。
 彼女達にしてみればよそ者だった蛍へよくしてくれた先輩が。
 たくさん遊んで、たくさんおしゃべりして、たくさんおいしいものを食べた友達が。

「死んだ?」

 死ん、だ?

 体が震える。
 底冷えするような寒さが襲いかかってきて、呼吸がままならなくなるのを感じる。
 だって。
 そんな筈は。
 先輩が。
 これはきっと何かの間違いで。
 小鞠先輩が。
 私達の日常から誰かが欠けるなんて、
 可愛くて、優しかった小鞠先輩が。
 そんなこと、あるわけはないし、
 小鞠先輩が――
 あってはならないのに。

「……ああ」

 静かに、承太郎はそれを肯定した。
 瞳の奥から、強い意志の眼光を覗かせて。
 怯え、震え、慄く蛍へと、偽りのない現実を告げた。


「越谷小鞠は、殺された」


 その時、息が出来なくなった。


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 入道雲広がる空と、陽を浴び、白くなるあぜ道。

 トンネルの向こうには何が待ってるんだろ?
 怖くなんてないっ! ないんだから!
 夏休み、自由研究。ぬいぐるみ作ろう。

 もうすぐ夏が終わってくんだね――赤く染まる、里山。


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 先輩と、冷えたラムネを飲んだ。
 初めて一緒に遊びに行った日のことは忘れられない。
 一緒に駄菓子屋に行って、見栄を張って一番高くて苦い宇治抹茶金時のかき氷を注文して。
 かけがえのない思い出だ。
 大好きな先輩と初めて遊んで、楽しくて、今でも時々夢に思い出すくらい。

 けれど。

 先輩は、もうあのトンネルを通れない。
 駄菓子屋にも行けない。
 おごったり、後輩らしくおごられたり、そんな些細なやり取りだって、きっと二度と出来ない。

「なんで、ですか?」

 お気に入りのワンピースを着て、可愛らしく笑う先輩。
 ――もう、いない。
 考えるだけで、心がくしゃくしゃになる。

「先輩、何か悪いこと、したんですか?」

 先輩だって、人間だ。
 きっと生まれてから、いたずらの一つや二つしたでしょう。
 勉強を出来心でサボったり、些細なドジで怒られたこともあるかもしれません。
 ……小鞠先輩、ドジっ子だったし。

「だからって、殺すこと、ないじゃないですか。
 先輩、笑ってたんですよ。また明日ねって、手を振ってくれたんですよ。
 ちょっとお姉さんらしくはなかったかもしれないけど……大きくなりたいって、いつも頑張ってたんですよ」

 蛍は、小鞠にたくさんのものをもらった。
 形あるものだけじゃなくて、思い出や楽しいことから知識まで、いろんなものをだ。

「死んじゃったら、もう、何もできないのに……
 私だって、先輩とまだたくさんお話したかったのに……もっと、遊びたかったのに……」

 もっと話したいことがありました。
 まだ、やってみたいこともありました。
 先輩と一緒なら、どんなことだって楽しく感じられました。
 それは私だけじゃなくて、れんちゃんや夏海先輩も同じだったはず。

「返して……返してください……」

 彼女は、どれだけ怖かったことだろう。
 ただでさえ怖がりで、ちょっと脅かされると涙目になってしまうような人だったのに。
 見知らぬ場所で殺し合いをしろと言われて放り出されて、どれだけ怯えていたことだろう。
 怖い思いをさせられて、いのちを壊されて、どれだけ痛くて、辛かったことだろう。

「貯めてたお年玉も、ゲーム機も、おしゃれな服も、頑張って作ったこまぐるみも、みんなみんなあげますから……」

 先輩がいないなんて、いやだ。
 あの学校から、一人でもいなくなるなんてダメなんだから。
 先輩が帰ってくるなら、何だってします。

「……先輩を、返して……」


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 電車に乗って、遊びにも行こう。
 かわいい水着で、海も入りたい。
 やりたいことはやってみよう。

 夏を越えて、次は何しよう。
 いろんなことをおしゃべりしよう。
 美味しいものも、いっぱい食べようね。


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 智乃は、蛍の呼吸が落ち着いた後も、しばらく彼女の背中をさすっていた。
 余程、小鞠の死がショックだったのだろう。
 過呼吸を起こして介抱されている間中、ずっと彼女はうわ言のように呟いていた。

――先輩を、返して。

 聞いているだけで、心が痛む。
 聞いているだけで、智乃まで泣きそうになった。
 それはあまりにも悲痛な声。
 こんなに大きな体をしていても、やっぱり彼女は小学生なんだな――と思った。

 蛍は大人びている。
 体格も、口調も、性格も、同じ年頃の頃の智乃に比べればずっと大人っぽい。
 けれど、大好きな先輩の死に泣きじゃくる彼女の姿は、大人なんかじゃ決してなかった。
 彼女は、子どもだ。そしてこの殺し合いは、小学5年生の女の子から、大切な人を奪っていったのだ。

「大丈夫です……大丈夫ですから……」

 何が、大丈夫なのか。
 智乃は、月並みとすら呼べないような慰めしか出来ない自分に嫌悪感を覚えた。
 それ以上に、今もどこかで高みの見物をしているのだろう主催者に、激しい怒りが込み上げてくる。
 いつも温厚な智乃がこんな感情を覚えるのは、ひどく珍しいことだった。

 年長者の承太郎は、ただ黙っている。
 慰めの一つでもかけてあげればいいのにとは言えなかった。
 だって、現に自分がそうすることさえ出来ていないのだから。

 泣きじゃくる蛍の背中は、智乃のものよりもずっと大きいはずなのに、触れれば壊れてしまいそうなほど小さく見えた。

 彼女の背をさすりながら――ふと、智乃は気付く。
 蟇郡と出会った時の自分は、こんな風ではなかったか。
 勿論、自分はまだ蛍のように顔見知りを殺されたわけではない。
 ただ殺し合いに恐怖して、パニックになって、絶望していただけだ。
 蛍のものとは重みが違う。そう知っていながらも、どうしても重ねて見てしまう。

(蟇郡さん……)

 彼ならば、蛍へなんと言うだろうか。
 智乃の時のように力強く鼓舞して、奮い立たせるだろうか。
 ……智乃には、それは出来ない。

 私に出来ることは精々コーヒーを淹れることと、接客するくらい。
 後は任された店番を務めきる、たったそれだけだ。

(……あ)

 智乃は、背中をさする手を止めた。
 それから立ち上がると、承太郎に会釈する。
 少しだけ席を外しますから、蛍さんを見ていてください――と。
 承太郎は相変わらずのだんまりだったが、静かに頷くのだけは確認できた。

(確か、あったはず……)

 智乃は足を急がせる。
 蟇郡さんのような強さを持たない、そんな私にもできること。
 それはきっと、たったひとつだ。


『香風はこの店の主だろう。
 この店を訪れた客が涙するかもしれんというのに、店主が温かい飲み物も出してやらんのか』


 ――そうだ。最初から、答えはもらっていた。


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 君が笑う、それだけで。
 優しい風が、胸に届く。


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 れんちゃんが、もう先輩と会えないと知ったら、どうするだろうか。
 ……きっと、泣くだろうな。そう思う。
 此処にはいない夏海先輩も、卓先輩も、先輩のお母さんも……みんなみんな、泣くはずだ。

 私は、先輩と出会ってまだ一年も経っていない。
 だからきっと、もしかしたら、夏海先輩達よりも悲しみは浅いのかもしれない。

 でも、こうも思う。
 これ以上悲しくなるくらいなら、私は転校生でよかった。
 胸が張り裂けそうなほど痛くて、頭の中をよぎっていく想い出が涙に変わって流れ落ちていく。
 その度に、大好きな先輩と過ごした日々が――少しずつ、少しずつ抜け落ちていくような気がして。

 先輩が私達より先に卒業してしまうのは悲しいけれど、先輩が卒業する姿を見てみたかった。
 会う度に少しだけ大人っぽくなっていて、けれど背も性格も変わらない、そんな小鞠先輩を見てみたかった。

 ……なんで、私達がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。
 私達はただ、ほんのささやかな幸せを噛み締めながら暮らす、それだけでよかったのに。


「……蛍さんっ」


 いつの間にか、私の背中をさすってくれていた智乃さんがいなくなっていた。
 それにすら気付かなかったのをちょっとだけ申し訳なく思いながら、顔を上げる。
 ――今、どんな顔をしているんだろう。きっと、ひどい顔だと思う。先輩にこんな顔見せたら、幻滅されちゃうかな。


「これ、飲んでください」

 智乃さんが、ことりと……目の前のテーブルに、小さなマグカップを置いた。
 湯気の立つカップに入っているのは、優しい茶色をした液体だった。
 ……そういえば、此処は喫茶店……それもコーヒーを主にしている店と聞いていたような気がします。

「大丈夫ですよ。……苦くなんてないです。蛍さんが元気になるように、ちょっとした魔法をかけたコーヒーです」

 ……私、ブラック飲めるんだけどな。

 手は相変わらず震えていて、かたかたと音を鳴らす。
 まるで真冬の日みたいだった。いくら都会でも、冬は寒い。
 田舎の冬は、どうなんだろう。先輩に聞いておけばよかったかな。
 ふるふる小刻みに動く手で、カップを抑えて――途端、ぽかぽかとした暖かさが手先から伝わってきた。
 凍えそうなほどの寒さが、少しだけ和らいだ気がして……私は、ゆっくりコーヒーを口元まで運びました。

「…………おいしい」

 不思議な味わいだった。
 まろやかで、なのに決してくどくない甘さ。
 ただの砂糖とは明らかに違う、優しく包み込むような風味。
 こんなコーヒー、飲んだことがない。

「キャラメルです」

 そう言って智乃さんは、手のひらに握り締めた小さな包装紙を見せてくれました。

「おじいちゃんから教わったことがあるんです。
 お砂糖の代わりにキャラメルをコーヒーに入れると、とっても暖かくて、優しい味わいになるって」

 こくり。
 もう一口、飲んだ。
 喉を伝う暖かさが、ほんわりと体中に広がっていく。

「ラビットハウスにまだ備えてあるか不安でしたけど……その、おいしい、でしょうか」

 コーヒーを運ぶためのお皿で口元を隠して、どこか不安そうに聞く智乃さん。
 私はと言えば、答えられませんでした。
 コーヒーを一口飲むたびに、目から塩辛い雫がこぼれていきます。
 キャラメルとコーヒーが絡み合った味わいはとても甘くて柔らかくて、まるで涙と甘みを交換しているようで。
 やっと口に出せたのは、

「おい、しい、ですっ……う、う……ぐしゅっ、ひっく……!」

 そんな途切れ途切れの、涙声でした。


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 揺らめく風鈴の音色に、笑顔の想い出が弾んでく。

 ――ちょっぴり、切なくなる気持ち。


 けれど。それでも。

 忘れない、夏色の風景たち。



♂♀



 先輩。
 私は、あなたのよき後輩でいられたでしょうか。
 いつもお姉さん扱いしなくて、ごめんなさい。
 けど、先輩は今のままでもいいですよ。無理しなくたって、こまちゃん先輩はちゃんとかわいいんですから。


 先輩。
 少し長いお別れになるかもしれませんが、どうか元気で居てください。
 ……私も夏海先輩も、れんちゃんも。いつか、いつか、必ず先輩に会いに行きますから。


 その時は、出来なかったことをたくさんしましょうね。
 肝試しも、今度は私たちが脅かし役をやります。
 先輩が憧れていた飛行機にもみんなで一緒に乗りましょう。
 都会もいいところですよ。きっと、楽しんでもらえると思いますから。


 だから、ちょっとだけ……寂しいのを我慢していてくださいね。
 絶対、これでさよならなんかじゃありませんから。
 約束、です。
 どうか、私とれんちゃんを見守っていてください。
 一生懸命生きます。先輩に土産話を持っていくためにも、よぼよぼのお婆ちゃんになるまで頑張って生きます。


 小鞠先輩。
 今まで、ありがとうございました。


 大好きです。いつまでも、いつまでも。


♂♀


「香風」

 ようやく蛍が落ち着いてきた頃。
 これまでずっと口を開かずに居た空条承太郎が、静かで厳かな声で智乃を呼んだ。
 彼は表情を智乃の前では、まだあまり動かしていない。
 少しだけ緊張するものを感じながら、智乃が返事をすると。

「話がある。店の外でだ」
「え、でも――」
「……何も離れるってわけじゃあねえ。ドア一枚でも隔てられればそれでいい」

 承太郎の意図を、智乃もすぐに察した。
 彼女だけでなく、蛍もだ。
 きっと承太郎は、殺し合いに関する話をしようとしているのだろうと。

 現にその通りだった。
 空条承太郎が香風智乃に話したい内容とは、殺し合いについてのものである。
 そんな物騒な話題を、ようやっと友人の死を受け入れたばかりの少女へ聞かせるほど、承太郎は冷血漢ではない。
 もっとも、理由はそれだけではなかったが。

「……分かりました」

 こくりと頷き、智乃は承太郎の後へ続いてラビットハウスの外へ出る。
 周囲には人影のようなものは見えない。
 それを確認した上で、承太郎は切り出す。
 単刀直入に、信じられないような発言を――だ。


「平和島静雄に会おうと考えている」


 平和島静雄。
 その人物のことを、智乃は人伝にしか知らない。
 だが、危険人物だということは聞いている。
 他ならぬ、越谷小鞠を殺害した張本人だということも。

「な……! 危ないですよ、なんでそんなことを……」
「俺は子供の頃、『刑事コロンボ』が好きだったせいか……こまかいことが気になると、夜もねむれなくてな」

 承太郎の目は、真剣そのものだった。
 止めようとしていた智乃がびくりと反応してしまうほどには、その気迫は凄まじいものがある。
 その時、智乃は気付いた。
 ――彼は、決して冷たい人間なんかじゃないと。
 むしろ人一倍の熱いものを内に秘めていて、ただそれを表に出さないだけなのだと。

「衛宮切嗣……そして折原臨也。奴らは本当に信用に足るのか……俺にはどうもそうは思えねえ」

 蛍の嘆く声は、承太郎も当然聞いていた。
 それに全く何の感情も覚えない人間ならば、彼は元よりエジプトへの旅になど参加はしなかったろう。
 承太郎は確かな怒りを覚えている。
 私利私欲の為に子どもを殺す外道に、強い不快感を感じている。

「初対面の相手にナイフを突きつけるような野郎の言うことをまるっきり信じろってのは、ちと虫の良すぎる話だ。そもそも平和島静雄の人となりだって、よく考えりゃあいつらが勝手に言っているだけだぜ」
「じゃ、じゃあ……」
「折原の野郎が振り撒いた『悪評』を、利用した奴が居る可能性は否定できねえ」

 無論、折原臨也と衛宮切嗣が『シロ』だという可能性もある。
 だが、それと同じ程度には、平和島静雄が『シロ』な可能性もある――承太郎はそう踏んでいた。

「だから俺は、平和島静雄に会う。
 連中が帰ってきた後にでも、動かせてもらう。付いて来るかどうかは好きにしな」
「もし……その平和島静雄さんが本当に殺し合いに乗っていたら……?」
「ブチのめす」

 だが、それは逆の場合も然りだぜ。
 承太郎の言葉は、彫像のような重みがあった。
 衛宮切嗣の報告がもしも偽りで、折原臨也の口にした平和島静雄の人物評が誤っていたならば。
 ――その時点で、連中の信用は完全に地に落ちる。

「どんな事情、目的があったにしろ……この『殺人事件』の犯人が私利私欲で越谷を殺したってことに変わりはねえ」

 罪のない者を、あろうことか少女を自分の利益の為に利用した。
 そういう輩を何と言うか、空条承太郎は知っている。
 ――『吐き気を催す邪悪』だ。
 どんな大義名分があろうと、そんなことをする輩は最低のクズ以外の何物でもない。
 これまでDIOの部下として立ちはだかってきたスタンド使い共と、何も違うところはない。

「香風。おまえにこれを打ち明けたのは、衛宮と折原に俺が切り捨てられた時の為だぜ。
 ヘマを踏む気なんざさらさらねえが、もしもって時の保険だ」

 承太郎は静かな闘志で、声に出さず呟く。
 ラビットハウスに智乃を先に入らせ、その後へ続きながら。
 ――少女に見せるには剣呑すぎる眼で、宣戦布告した。

(いつまでも、何もかも思い通りに行くと思ってるんじゃあねえぜ……もし俺の考えが何もかも杞憂だってんなら、てめーらにいくらでも詫びてやる。だが、もしそうでなかったなら……その時は覚悟するんだな)

 正義であろうと何であろうと。
 空条承太郎は、その『邪悪』を許さない。


【G-7/ラビットハウス/一日目・早朝】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~3、越谷小鞠のカード
噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   1:切嗣と臨也への疑念。
   2:DIOの館に向かいたいがまずはこの状況について考える。ゲームセンター行き組が戻ってきたらきっちり問い詰める
   3:平和島静雄と会い、直接話をしたい。
   4:静雄が本当に殺し合いに乗っていたなら、その時はきっちりこの手でブチのめす。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦
※折原臨也、一条蛍と情報交換しました(衛宮切嗣、蟇郡苛、香風智乃とはまだ詳しい情報交換をしていません)

【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康、泣き腫らした痕
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~3
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
   1:先輩、今まで、ありがとうございました。
[備考]
※空条承太郎、折原臨也と情報交換しました。

【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:果物ナイフ@現実
     黒カード:不明支給品0~1枚、救急箱(現地調達)
 [思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
   1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。
   2:蟇郡さんに早く戻ってきてほしい。
   3:ココアさんたちを探して、合流したい。
   4:衛宮さんと折原さんには、一応気をつけておく。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです


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047:殺人事件 空条承太郎 058:スマイルメーカー
047:殺人事件 一条蛍 058:スマイルメーカー
047:殺人事件 香風智乃 058:スマイルメーカー