殺人事件 ◆7fqukHNUPM


「8人も……います!」
殺し合いの会場、ある市街地。
その時点では、誰も殺し合いに乗ろうとは考えていなかった。
喫茶店で一杯のコーヒーを所望する巨漢。
いつもの店でいつもと同じようにコーヒーを淹れる中学生。
主催者をぶっ殺そうと決意する自動喧嘩人形。
はじめての『ゲームセンター』を体験する少女。
吸血鬼を追いかけようとするスタンド使い。
友人達との再会を切に祈る小学生。
全ての人類を愛し、観察を継続する情報屋。
そして、全ての人類を愛し、救済しようとする魔術師殺しの次なる一手は、

さあ、みんな一緒に――


♂♀

一日目 深夜 カフェ『ラビットハウス』


「なかなかのものだった」
「ありがとうございます」

空っぽのティーカップが受け皿に戻される音は、心地が良いものだ。
全てを飲み干して一息ついた蟇郡苛にほっとして、智乃はいつもの所作でティーカップを取り下げる。

「しかし、先ほどオリジナルブレンドだと言っていたが、この店の珈琲は全てお前の手によるものか?」
「はい。まだバリスタとは言えませんが、昼間の店番は私が
……でも、さっき言ったようにココアさん達もいますから、忙しくはないです」
「そうか」
蟇郡の質問に答えたり、ティーカップを洗ったり。
ひとまず落ち着いた時間を過ごしながらも、これでいいのかなと思ってしまうのが、智乃の現状だった。

珈琲を淹れながら多少の会話をしただけでも、この青年に『鬼龍院皐月様』なるとても大事な人物がいることはよく分かった。
この場において、早くその人との合流したいのだということも。
しかし智乃にとっては、移動したいかというと違う。
この『ラビットハウス』は白いカードのマップにも載っているお店だ。
心愛たち4人が、右も左も分からないこんな場所に放り出されたりしたら、まずはここを目指そうと考えるだろう。
だとしたら、智乃はここに残って皆を待つべきになる。
正直なところ、1人でいるのはとても不安だ。蟇郡が、見た目は怖いし言動も少し変だけれど、智乃を許してくれるぐらい良い人だということは感じる。
そんな人とあっさりお別れするのも心細い。さっき蟇郡を襲ってしまった時のように、恐怖に負けてしまったりしたらどうしようと思う。
けれど、蟇郡についていくということは、自分の保身のためだけに心愛たちを放置するかもしれないということで。
やはり、ここは智乃が我慢してでも――。

「あの……蟇郡さんは皐月さんという方を探しに行かれたいんでしたよね。だったら――」
「いや、そう話を急くな香風よ。確かに皐月様の元に駆けつけられぬ俺に価値など無い。
だが、俺も闇雲に探し回るつもりはないし、茶をいただいておきながらその駄賃分の事もせずに出て行くつもりはない」

智乃が焦ったように切り出したことで、逆に蟇郡からは察されてしまったらしい。

「お茶じゃなくて珈琲です……でも」
「それに、まだこの場でやっておくことも残っている」
「はい?」
「珈琲を淹れる間に貴様の支給品も見せてもらっただろう。あのPDAだ」
「あ……」

思い出した。
黒いカードは全てコーヒーミルをゴリゴリ回している間に蟇郡に見せていたし、その中に『腕輪発見機』という名前の紙キレがついた情報端末があったことを。

最初はただのメモをする機械だとがっかりしたけれど、冷静になってから調べるうちにそうではないと分かった。
電源をオンにすると、『このエリアに存在する、まだ【カードに誰もいない腕輪】の数を表示します』という説明が出てきたのだ。
『まだカードに誰もいない腕輪』という言葉の意味するところは怖いけれど、それはつまり、『G-7にいる、まだ生きている人間の人数が分かる』ということ。

「人数が分かっても位置が分からんのは不便だが、まずは周囲にいる人数を把握して警戒しておかねばならん。
その中に皐月様や香風の友人がいる可能性もある。
動くにしても、まずはこの近辺を確認してからだ」
「はい……今、切り替えます」

智乃はPDAを手に取り、たどたどしくも指でボタンを押し、説明画面から表示画面へと切り替える。
途端に、その目が大きく見開かれた。
表示されたのは、ちょっと信じられないような大人数。

「8人も……います!」

蟇郡苛と香風智乃を引いても、このエリアに6人。


♂♀


一日目 深夜 ゲームセンター


平和島静雄の暮らしている池袋の街では、ひとつのビルの数階層分を大規模なゲームセンターが占めていることも珍しくない。
特に有名なのは、某大手ゲーム会社が『アミューズメント施設』と称して経営する地上8階から地下1階まで使った超大型店舗だろうか。(非ゲーマーにとっては、むしろ入り口で池袋名物『バクダン焼』を売っていることで有名な建物なのだが)
この建物も、静雄の記憶にこそ無いものの、似たような規模の超大型ゲームセンターであるらしかった。
そして静雄が幼い少女を拾ったのは、建物の中階層にあたる『ビデオゲーム・対戦ゲーム』のフロアだった。

「どうすんだ、これ……」

目下のところ、彼の頭を占めているのは激昂よりも困惑だった。
原因は、目線のすぐ先にある少女の寝顔である。
ともかく床に寝かせっぱなしにするわけにはいかないと、喫煙スペースらしき一角にある背もたれつきのソファーまで運んだ。
ついでに、濡れていた床も拭いた。
ごく短期間だけ酒場で勤めていた経験(ひどく酩酊した客が出すモノを出したことがある)が、こんなところで生きるとは思わなかった。
そして、少女が目覚めるのを待ちながら、頭を悩ませるに至る。
活気のある店内BGMが、少し苛立たしい。

「目が覚めたら、絶対に怯えるよなぁ……今までのパターンだと」

『自分が殺してやると連呼していたせいで人殺しと勘違いされた』とは理解していないまでも。
他人から怖がられ遠巻きにされる経験だけは豊富な静雄のこと。
『この子はもしかして自分に怯えた結果として気絶したのではないか』と察するぐらいのことはできた。
こんな小学生くらいの少女まで殺し合いを強いられているのかと思うと、またそこらへんの筐体に八つ当たりしたい衝動が湧き上がってくるが、ともかく少女への対応を優先事項として、苦手とする頭脳労働を試みる。
どうすれば恐怖を与えずに済むのか。
つい最近も同じくらいの年頃の小学生と会話を試みたりしたけれど、あの時に通訳めいたことをしてもらった闇医者は今この場にいない。ついでに、ホットココアの一杯でも持ってきてくれるような少女もいない。
せめて、何かいい感じに子どもの気を引くような道具でも入っていないかと、静雄は確認したはずの黒カードを次々と開陳していき、

「……ひょっとすると、これ使えるか?」

その中の一つを手に取り、首を傾げた。


♂♀


5分後 ゲームセンター


「んう……」

越谷小鞠は覚醒した。

まず感じたのは、家の蒲団と違うものの上に寝ていること。
そして後頭部に、倒れて頭でも打ったような鈍痛があること。
ここはどこだろう。なんでこんなとこで寝たんだっけ
上半身を起こすと、そこにはパチンコ台のような形をした筐体がずらりと並んでいるフロアがあり、

「こ、こんにちは。お嬢ちゃん。怪我は無いかな?」



怪物のような顔をした巨大な『お面』に、話しかけられた。



少なくともそれは、怪物のお面としか形容できない代物だった。
縦にびろーんと長い顔に、ばいーんと飛び出した両耳のような部位と鼻と、ぎょろりとした両目と、表面にはずらりと黒い縞、縞、縞、縞、縞の模様。

「ひいっ……!?」

引いた。
後ずさりして逃げたかったけれど、背中がソファの背もたれにあたって、退路をふさいだ。

「だ、大丈夫だよお嬢ちゃん。逃げなくてもいいよ。怖くないよ」

しかも、お化け仮面の後ろからは、焦ったような男の低い声が聞こえてくる。
もしどこぞの万年白衣男がこの光景を見れば「小児科医だってそんな幼児のあやし方しないよ! むしろ子どもが見たら泣くよ!」と突っ込みを入れていただろう。
そして、その声は越谷小鞠にとって聞き覚えがあるもので。
しかも、よく見れば、大柄な男性のバーテン服が、隠れきれずに背中をプルプルとお面からはみ出させている。

(さっき『殺す殺す』言ってた人だ――――!?!?)

気絶する前に起こったことを、一挙に思い出した。

「いやああああああああああああああああああ! 殺さないでえええええええええええええええええええええええええええ!!」

小鞠は叫んだ。
ほとんど狂乱した。逃げようとした。
男があわててお面から首の上を出したのを見て、より焦った。
逃げよう逃げよう逃げよう逃げなきゃ逃げないと逃げなかったら殺される逃げろ逃げて。
手足をバタバタさせて、ソファの背もたれを乗り越えようとした。
暴れながらそうしたのが良くなかった。
ぐらり、とソファが背もたれを力点として傾いた。
その背もたれを乗り越えようとしてた、小鞠の身体も傾く。

「え」
「危ねぇっ……!」

危機を感じて、男も飛び出した。
しかし、焦るあまり、盾のようにしていた仮面のことを男は忘れていた。
男の革靴が、仮面についていた緑色の髪の毛の部分で、ずるりとすべった。

「あ゛」

脚を盛大に滑らせながら、男はとびだすことになる。
ずしゃどっかーん、と衝撃音がフロアにこだました。
男の身体が、その身を以って傾いていたソファを体当たりで吹っ飛ばし、
ソファから落下しようとしていた少女を、倒れたその身体で下敷きに受け止めることになった。

「え…………」

さっきまで恐怖の対象だった男を、身体の下に敷いている。
その事実で、小鞠の思考はいったん真っ白になった。
何が起こった。
理解が追いつかない間に、下を見ると床に転がった怪物のお面が目に入る。

(あのお面で……この人は、隠れようとしていて……)

思い出した。
兄の越谷卓のことだ。
学校でまだ学年が低かったうちは、兄を遊びに誘うことも今より多かった。
ただ定規落としみたいな机上遊戯ならまだしも、『かくれんぼ』のような身体を使った遊びを自習時間にするとなると、妹たちより体の大きな卓が不利になる。
どうにかして数少ない隠れ場所である机の下に身を潜らせるべく必死でかがもうとする兄の動きは、さっきのバーテン服の男の仕草と似ていた。
お面で、必死に己の身体を隠そうとするところが。
見ていて、恐ろしくなるようなものじゃない。
なぜあんな不気味なものを盾にしてまで正体を伏せようとした――姿を見せたら、小鞠が怖がると思ってのことじゃないのか?

そういう理解が、じわじわと小鞠の頭に浸透していった。

「殺さ、ないの……?」
「殺さないよ。絶対に殺さない」

そんな問答を数回繰り返したのちに、じょじょに小鞠は脱力していった。



その後、めちゃくちゃ平謝りをした。


♂♀


ここはゲームセンター。だからプリクラの撮影機ぐらいある。
よって、着替えもある。
そういうわけで、静雄は上の階層から女物の衣装を慌てて持ってくることになった。

「これって、もしかして…………メイドさん?」
「悪い、サイズが女子高生用のばっかりで、小さいのがそれしかなかった」

バーテン服を着た男と、メイド服を着た少女。
ゲームセンターではなく、いけないお店かと錯覚しそうな二人がそこにはいた。
ちなみに下着の替えはなかったので現在の小鞠は、はいてない。仕方ない。

それでも恥ずかしそうにもじもじとする小鞠を見て、静雄はともかくこの緊張をほぐしてやらねばと考えた。
平和島静雄はいわゆる『単細胞』と形容される人間だが、基本的には、紳士的であろうと努力する男である。
こんなところに子どもが1人でいる以上、まずは自分が保護者役をするしかないと腹もくくりつつある。

「それよりコマリちゃん。せっかく可愛い格好に着替えたんだから、まずはここで遊ぶってのはどうだ?」
「え……いいの? 静雄さんも友達とか探してたんじゃないの?」
「俺なんかより頭も良いし、しっかりした奴しただから大丈夫さ。
こんな目に遭わされてんだから、少しぐらい楽しんだってバチは当たんねぇよ」

そう言われると、小鞠の眼も数々のゲーム機をきらきらとした目で見つめはじめる。
静雄はひとまずほっとして、フロアの受付窓口からプレイ用の小銭やらコインやらをひとつかみ失敬した。
いや待て、後できっちり支払うとはいえ、店の金を勝手に使うのは法律違反じゃなかろうかと悩んだけれど、すでにわくわくとしている少女の期待にはあらがえなかった。
どのみちゲームの筐体を台座から引っぺがした時点で器物破損罪なのだし、後でまとめて弁償するかと開き直る。

「すごいなぁ……こんなにゲームがたくさんあるお店なんて、初めて見た」

小鞠は不思議の国に迷い込んだアリスさながらにきょろきょろと、面白そうなゲームを探して歩く。

「なんだ、ゲームセンターに来るのは初めてか?」
「うん! あたしたちの村、田んぼと山しかないような田舎だから……」

ゲームの筐体をひとつひとつ面白そうに眺めつつ、小鞠は話してくれた。
信号や道路標識なんてひとつもないし、一番近いコンビにでも3時間かかるような田舎だとか、そのコンビニだって24時間営業してないんだとか。
そりゃあたいそうな田舎だなぁと相槌を打ちながら、静雄も想像する。
歩いても牛を引いた農夫としかすれ違わないような田舎道。
小川のせせらぎ。風がふく木陰での日向ぼっこ。
喧嘩も喧噪も何より殺したい奴もいない、自然だけはある村。
そんな場所なら、ずっとストレスの無い生活ができるかもしれない。

「決めた! これにする!」

小鞠が選択したのは、どこにでもあるようなシューティングゲームだった。
先ほどまで殺す殺さないで怯えていた少女とは思えないほどに喜び勇んでモデルガンを握りしめ、
西部劇っぽいバーチャル世界で仮想敵の賞金首をバンバンと撃ちはじめる。
敵に狙われるたびに、必要無いのに「わ、わっ」と焦りながら銃口を避ける動きをしているのが、いかにも幼い子どもらしくほほえましい。
……見た目小学生くらいの女の子にメイド服を着せて遊びに連れ出し、ぴょこぴょこ飛び跳ねるさまを眺めていると書くと、趣味を勘違いされそうな光景だが。

「あーもう負けたぁ! やっぱ難しいねこういうの。……静雄さんもやる?
2人対戦もできるみたいだよ?」
「あー……俺はやめとくわ。こういうのにのめりこむと、また『殺す』とか考えちまいそうだしなぁ」

何気なくつぶやいた直後に、不味かったかと気づいた。
小鞠の顔から、笑顔が引いていったからだ。
やがて、小鞠は問いかけをぶつける。

「静雄さん。最初に『殺してやる』って何回も言ってたのって……何だったの?」

それは、ある程度静雄という人間に安心したからこその踏み込んだ質問だった。
男は極めて気まずそうに、たどたどしく弁解を始める。

「その、な……もちろんコマリに言ったわけじゃねぇ。
『繭』とかいう女のことを考えたら腹が立っちまってよ。
俺のダチとか、テメェみたいなガキまで巻き込みやがって。
首に爆弾付けられたら万死に決まってんだろうが。それが70人もだぞ、いやノミ蟲が一匹混じってるからそいつを引いて69人か。
……いや、最初にカードにされた女の子いるからやっぱ70人だ。こいつは70回殺されて文句言えねぇってことだよな……とかそういうコト考えてたら、ああいう風に――」
「ちょ、ちょっと静雄さん! メダル! メダルが全部、折り紙みたいにくしゃって!?」
「あ…………すまねぇ……」

どうやら、話しているうちに再びその『殺意』を思い出してしまったらしい。
静雄はそこで手の中で無残な姿となったメダルの束に気付いた。

「それで、ゲームセンターの機械を持ち上げたの?」

視線をずらせば、そこには先刻に静雄が持ち上げた筐体が、ブラウン管の画面がある面を下にして転がっている。

「いや、あれは八つ当たりで投げようとしたのか、とりあえず武器にしようとしたのか……すまん、覚えてねぇ」
「武器にできるものじゃないよね!? ってゆうか、誰かに当たったらどうするの!?」
「すまん……そうだよな……殺しに来る奴ならともかく、何もねぇ奴に当たったら悪かったよな……」
「殺しに来る人なら当ててもいいんだぁ……」
「いや、いつも喧嘩でよくやっちまうことだから……」
「よくあるんだ!?」

静雄が口を開くたびに常識から外れた言葉が飛び出して、空いた口がふさがらなくなってきた。
あぜんとするとはこのことか。
しかし、静雄の方は思い返せばいたく消沈したらしく、くしゃくしゃにしてしまったメダルを見下ろしている。

「あ、あのさ……私はべつにいいんだよ?
静雄さんが、そんな風に壊しちゃうのを我慢できない人なのは分かったけど。
それでも、私を殺さないこととか、私のために我慢してくれたことは分かったし、安心したから」

さっきは怖かったけれど、こういう風に落ち込んでいることも分かった。
いつの日のことだったか。
一緒に駄菓子屋へと行った大人のお姉さんも、田舎の景色を見て人知れず色々考えている神秘的な人だった。
きっと、大人になると悩むことも増えるんだろうなぁと、素朴な感想を抱いてしまう。

「なんて言ったらいいか……大人には、色々ありますよね?
私はそういうの、全然きにしないつもりです」

静雄もそれを聞いて、苦笑を浮かべた。

「そうか……大人を励まそうとするとは、ませたお子様だぜ」
「もう、さっきからガキとかお子様って静雄さん失礼だよ。私、こう見えても14歳の立派な『ティーンエイジャー』なんだよ?」

英語の問題集で覚えたばかりの大人っぽい英単語を使って、胸を張って反論したのだが、

「そうそう。ガキはガキらしく、バレバレの年齢詐称するぐれぇがちょうどいいんだよ」

全く信じてもらえなかった。
むぅ、と頬を膨らませて、信じさせる方法を考える。
どうしよう、身分証明書とか持ってないし、バスの定期券って生年月日まで書いてあったっけ。
しかし、すぐにおかしくなってきた。
何がおかしいかって、この男にさっきは気絶するほど怯えていた自分自身が。
ありがとう静雄さんと、改めてお礼を言おうとする。

しかし、二人の楽しい交流会を中断させるものがあった。

ゴポリ、と。
放送機材を動かす直前の、くぐもった音が響く。
店内のBGMが、一時中断をする。
スピーカーから流れだしたその放送は、マイクに布をあてて加工したような、くぐもった声で。



『平和島静雄様。本館のどこかにいらっしゃる平和島静雄様。
折原臨也様がお呼びです。大至急、本館1階の北側非常口までお越しください。
繰り返します、平和島静雄様。本館のどこかにいらっしゃる平和島静雄様。
折原臨也様がお呼びです――』


♂♀

同時刻  ラビットハウス


「やっぱり、コマリさんっていうお友達のことが心配ですか?」

カウンターの内側から、外側へと。
智乃はおずおずと、新しく知り合った女性に声をかけてみた。
背が高くて大人びているその『一条蛍』さんは、さっきから1人で座って顔をうつむかせていたからだ。
しかし、

「……寝てますね」

両肘から先を卓上について、胸部の大きなものをテーブルの上に乗せるようにもたれて。
顔を下に向けた、その口から漏れてくるのは小さな寝息だった。

「私より、年上の人なのに……」

2階からタオルケットを持ち出して来て、その大人びた女性の肩にかける。
さっきまでは不安そうな顔をしていたのに、あっさりと眠ってしまっているのを見て、嘔吐までした自分は何だったのかため息をはいた。

「そいつは小学五年生だ」

テーブル席に座る、学ランを着た男がそう言った。
さっき、この一行を率いるように先頭に立って、ラビットハウスのドアを開けて入ってきた男だ。
背が高くて目つきも鋭くて怖い印象の男だったけれど、それよりずっとゴツイい外見の蟇郡と遭遇した後だったから、どうにか会話をすることができた。

「空条さん、その嘘はいくら何でも無理があります」
「本人がそう言っていた。本当かどうかは知らん」
「え……」

冗談など言いそうにない男からそう言われて、まさかと思いながらも一条蛍を正面から凝視する。
本当に大きい。いや、欲しいのは胸ではなく身長の方だけれど。
これで小学生なのかは信じられないにせよ、どうやったらここまで大きくなったのかはぜひ聞いておきたい。
あと、頭にウサギを乗せていても背を伸ばすことはできるのかとか……それは聞いても分からないか。

「俺としてはむしろ、一番の最年長者が長々と席を外していることを憂慮すべきだと思うが」

そう言ったのは、別のテーブルに座る蟇郡だった。
大きな横幅の身体で、座席を二人分ほど占拠して窮屈そうに腕を組んで座る。
『最年長者』が誰を指すのかは明確だ。
承太郎一行の中で、この場にはいないただ一人の人物。

「時間がかかるのはしょうがいないです。
G-7にいること以外は、全然手がかりがない人達を探さなきゃいけないんですから」
「それもそうだが……」

カウンターテーブルの上には腕輪発券機があり、『8』の数字を示している。
『万が一にも探索中に襲われたりした時に、殺し合いに乗った人に奪われると大変だから』という気遣いで、残りの参加者を探しに出たその人が置いて行ったものだ。
実は誰が二人を迎えに行くかを決める時の話し合いで色々あって、少しもめたりもして、最終的に蟇郡と承太郎が智乃たちの護衛を担当することになった。
しかし、どうも承太郎だけは、その人物を送り出すことを躊躇っていたように見えた。

だからだろうか、こんなことを言った。

「気にかけるなら、奴が無事に戻ってくるかどうかよりも、
奴が出会った人物をすんなりここまで連れて来れるのかどうかだ」


♂♀


同時刻  ゲームセンター


普段の静雄ならば、あんな放送を聞けば矢も盾もたまらず折原臨也を殺しに走り出していただろう。
だが、ここは池袋ではない。
いつ危険が降りかかるか分からない殺し合いの現場であり、そして越谷小鞠がいる。

「え? え? この放送って、何?」

困惑した子鞠の声を聴いて、キレそうになっていた理性をかろうじてセーブした。
彼女を残して臨也を殺しに走り出しても良いのか。
そばで守るため、小鞠も連れて行くべきか……いや、むしろ連れて行く方が危険だろう。
あの放送を聞いた感じだと、臨也は静雄がどこに誰と一緒にいるかまでは分かっていないようだった。
ならば毒を持ったノミ蟲に目を付けられるより、隠していた方が安全のはずだ。

「ちょっと小鞠、ここでじっとしてろ。誰か来ても、出てくるなよ」
「え、私だけ残るの? 静雄さんはどうするの?」

メダル換金所の窓口の下に、死角となるよう小鞠の身体を入れた。
カウンターの背丈は低いし、人が来てもそう簡単には見つかるまい。

「はっはっは大丈夫だよコマリちゃん。何も殺し合いをしてくるわけじゃないから。
ただちょっと、バイキンマンをぶっ飛ばすアンパンマンみたいなことをしてくるだけだから」
「な、なんでまた、ちゃん付けに戻ってるの?」
「いいから、いいから。戻ってきたら、対戦ゲーでも何でも付き合ってやるから」

懸命にさわやかな笑顔を維持。がんばって維持。
彼の上司がここにいれば、こう言っただろう。
今の静雄なら、国民栄誉賞どころかノーベル平和賞だって狙えるかもしれない。

「……分かった」

納得はしていない風ながらも、小鞠は頷く。
これで良し。あとはさっさと抹殺して、さっさと戻るだけ。
いちおう小鞠を不安にさせないよう考慮して、フロアの外に出るまでは、走り出すことを堪えた。
店内BGMが遠ざかり、階段の一歩目へと足をかける。ここでリミッター解禁。
階段を雪崩のように駆け下り、廊下を風のように走るひと塊となった。

「殺し合いをやってる最中に声をかけたってことはつまり死にたいってことだよなァ臨也ァッ……!!」



キレる寸前の静雄にしては、それは可能な限りの冷静な対応だった。
彼の沸点の低さを考えれば、『殺し合いという殺意を抱くしかない環境で、最も殺意を抱いている臨也の名前で呼び出しを受けた』というのに、
小鞠の身柄をまず第一に考えたというのは、これまでの彼の行状を考えれば驚異的な成長だとさえ言える。
小鞠を隠して残していくという選択も、頭脳労働を極端に苦手とする静雄なりに思いつけた精いっぱいの判断だった。

しかし、そこまでベストを尽くしてたにも関わらず。
それでも彼の思考力では、思い至れなかった。
『声の主は、静雄が小鞠と二人きりで四階にいることまでは知らない』と受け取れるような放送がなされた、その裏の意図を。


♂♀


数分後 ラビットハウス


最初に気付いたのは、『腕輪発見機』の一番近くにいた智乃だった。

その驚いた顔に、二階のベッドへと運ばれた蛍をのぞく全員が反応する。
男達は智乃の周りを取り囲み、一様に緊張感に包まれた。
なぜなら、『腕輪発見機』に表示されている生存者の人数が、変わってしまったからだ。

『8人』から『7人』へと。


♂♀


同時刻 ゲームセンター


いつもと同じ天敵との殺し合いだと、たかをくくっていたつもりは無かった。
どれほど性質の悪い男かは、嫌と言うほど思い知っている。ただ、しいて言えば経験則から麻痺はしていた。
あの男は、静雄以外の人間を直接に凶器を持って襲いかかるようなやり口で狙ったことは無かった等々、今まで殺しきれなかった経験からくる思考の弛み。

いつにも増して本気の殺意で、指定された場所へと向かった。
非常口のところにその男はいなかったり、隣のビルの入り口が開いていたのでそちらも探したりして、呑気に空回りをした。
その段階になって、やっと嫌な予感を自覚した。
駆け戻った時は、駆け下りた時以上に足を急がせていた。

キレた後になって喪失感だとか後悔を味わうのは、いつもの喧嘩と同じで。
現在のそれを、『後悔』なんて生易しい言葉で形容していいものじゃないことだけは、いつもと違っていて。

それは本当に、『決定的にいつもと違う』こと。



越谷小鞠が、首から上をゲームセンターの筐体に押しつぶされて死んでいた。



「コマリ?」

理解できない。
それが、平和島静雄の現在だった。
数メートルも離れていない場所にその少女が倒れていることは視認できるのに、その意味するところが頭に入らない。
頭に入ってこないと、怒りを抱くことさえできない。

「おい、コマリ…………コマリちゃん?」

呼んでいるのに、声は己のものではなく。
近づいてみても、床に転がった筐体からはみ出ている『首から下』は、
メイド服を着た小柄な少女のもので。
一歩、また一歩と足を近づけても、それは揺るぐことのない現実で。

「おい――」

ゲームの筐体の下から、血が飛び散っていた。
まるで丸いトマトの上に小さなフライパンでも落としたみたいに、赤い液体はべしゃりとギザギザした円形に広がっていた。
なんだ、血痕みたいじゃないかと静雄は思う。
血痕を見て『血痕みたいだ』という感想を持った己に気付かない。

少女の身体に、あと二、三歩というところまで立ち。
筐体と床との間にある隙間――そこにものを挟んだ分だけできた高さ――は、明らかに人間の頭部より細いことに、静雄は気付いた。
まるで、そこに挟まっているのが『球体』ではなく、『潰れた球体』であるかのように。


【越谷小鞠@のんのんびより  死亡】


理解した瞬間に。
静雄の思考回路が、決壊した。

(コマリ)   (アイツのシワザ?)  (殺された)  (目を離した隙に)   (アノ名前で、店内放送が)  (だったら、誰のせいかは、分かりきって)  (死ンダ)  (今思えば、つまり俺はおびき出されたことに) (今まで一度も、こんな) (殺さないと言ったのに)  (狙いは最初から)

(ア ノ ヤ ロ ウ ノ セ イ デ コ マ リ ガ)



もし、今の平和島静雄の顔を見た者がいれば、こう思ったことだろう。
なぜ、この男の頭はバラバラに破裂しないのだろうかと。
こんなに、頭にくっきりと血筋が浮いて、破裂せんばかりにブルブルと震えているのに――と。

そして、巨大な咆哮が放たれた。



「いいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい゛ざあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁや゛あああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」



ゲームセンターの外壁が、内側から窓ガラスでも割れるようにぶち破られた。
4階の高さから、躊躇なく飛び降りるのは平和島静雄。
アスファルトを揺らさんばかりに着地し、唸り声とともに暴走を開始する。
殺意の矛先を向けるは、折原臨也。


【G-7/ゲームセンター付近/一日目・黎明】
【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:激昂
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
不明支給品0~2(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
   0:殺殺撲殺殺殺殺殺殺臨也殺殺殺殺殺圧殺殺殺殺殺殴殺殺殺殺殺コマリと同じ目に殺殺殺殺殺殺………
[備考]:折原臨也を探し殺すという目的の元に暴走しています。どこに走って行くか分かったものではありません。

♂♀


十数分後 ラビットハウス


緊張感に包まれていたラビットハウスに、偵察に出かけていたその男が帰って来た。

「衛宮さん!」

ドアをくぐるや、智乃が男の名前を呼ぶ。
男――衛宮切嗣もまた、店内に満ちた緊張感の正体を察しているかのように頷いた。
そして、問う。

「僕が不在にしている間に、レーダーの生存者数が1人減ったかい?」
「1人減りましたねぇ。そしてアンタは、その原因に心当たりがあるって顔だ」

そう答えたのは、店内の奥の方のテーブルについていた青年だった。
それは『承太郎一行が合流してから、今までずっとその席に座っていた』男、折原臨也。

「ここにはいない二人のうちの一人を見つけたけれど、手遅れだったよ」
「つまり、二人のうちのもう一人に、殺された?」

それまで静観をしていた青年は、知り合って間もない男へと問いかける。
貪欲に、情報を求めるように。

「ゲームセンターで、小さな女の子が殺されていた。
……なぜかメイド服を着ていたが、そばに着替えと、これがあったよ」

衛宮切嗣は、カウンターテーブルの上に二枚のカードを置いた。
一枚は、コシガヤコマリという名前が印字された路線バスの定期券。
もう一枚は、茶色の長い髪をした小さな少女の姿が描かれた、白い裏面のカードだった。

『もう一枚』を見た智乃がおびえたような表情を、蟇郡と承太郎は険しい表情を、それぞれ作る。

「この女の子が、その『1人』ってわけかい。コシガヤコマリちゃんとなると、蛍ちゃんの――」
「ああ、しかもさらに悪い情報がある。特に折原君にとっては」

情報屋は、眉をひそめた。

「この子は折原君が言っていた『平和島静雄』に殺された可能性がある」


♂♀


約1時間と30分前 駅より東、ラビットハウス付近


「ねえ」

切嗣はエルドラの問いに応えた。

「近くに駅がある。そこに行こう」

そして南下した衛宮切嗣が、『その3人』と出会ったのはそれから間もなくのことだった。

空条承太郎。
一条蛍。
折原臨也。

先頭を歩いていたのは空条承太郎だが、積極的に話しかけてきたのは折原臨也だった。

話を聞けば、彼らは一度映画館を出てからもう駅へとたどり着いており、そこから引き返してきたとのことだった。
いったん駅へと向かったのは、あくまで電車のダイヤグラムを確認するという目的だけ。
それは空条承太郎の発案によるものだ。
何でも彼は船だとか飛行機だとか、密室状態の乗り物に乗っているところを敵の刺客に襲撃されるという経験を何度もしてきたらしい。
今回のように一般人少女の一条蛍も混じっている中で、殺し合いに乗った相手――それも、最悪は走行中の列車に飛びこめるような能力を持つ者――に襲撃されでもしたら、彼女を逃がせる保障はない。
よって、今のところは電車を使わない。いずれ使うとしても、緊急を要するような場合に限るというのが、彼らの結論だった。
しかし『いずれ』のために、せめて駅のホームからダイヤグラムだけは確認しておこうと折原臨也が提案して、承太郎もそれ自体には賛成した。
その確認作業を終えて引き返した時点での、遭遇となった。

空条承太郎は、最低限の情報交換だけを済ませると自分だけでも早々に移動したがっているようだった。
彼にとっては吸血鬼DIOを倒すことと、その為に元からの仲間と合流をすることが最優先の方針だったらしい。
しかし、切嗣はそれを引き止める。
短い会話をしただけでも、承太郎が切嗣の知らない能力を持っていることは察することができたし、切嗣としてはその能力も詳しく知りたい。
しかし、何より切嗣の気を引いたのは『吸血鬼』という単語だった。
魔術師にとって、吸血鬼といえばたいていは『死徒』のことだ。
感染させることで村一つを滅ぼす『死徒』のような怪物がこの会場にもいるらしいとなれば、詳しい話を聞かずに別れることなどできなかった。

せめてお互いが持つ情報だけでも正確に共有させておこうと切嗣は主張し、折原臨也もそれに同意する。
元より、一条蛍を道中で誰かに預ける算段もするはずだったのだから、改めて話し合いの席を設けようということで落ち着いた。

こうして、『承太郎一行』は四人になった。
話し合いの場所に選ばれたのは、すぐ近くにありマップにもわざわざ表記されている喫茶店『ラビットハウス』。
道中で、『吸血鬼DIO』をはじめとする、彼等が知る限りの危険人物について教わりながらそこに到着した。

「8人も……います!」

その喫茶店には、さらなる先客がいた。
常人の二倍も三倍もありそうな巨漢――蟇郡苛。
腕輪発見機を持つ少女――香風智乃。

その少女が持つ支給品が示す人数は8人――その場にいた6人を差し引いて、あと2人がこの近辺にいると示すものだった。


♂♀


切嗣は、改めて行動を開始した。

まずは残る二人の位置を確かめておくことが必要だという話になるや、その二人の探索として自身が向かうことを告げる。
そこで多少の悶着はあったが、最終的には切嗣が一人で行くことになった。
まず蟇郡がその二人を迎えに行くと言い出したが、智乃が反対したことによって却下された。
蟇郡の外見に恐怖して彼を刺してしまった智乃からすれば、その二人が自分のように怯えた一般人だったとしたら二の舞になる予感しかしない。
たとえ蟇郡が刺されたことを気にしないとしても、刺してしまった方は後悔するものだと主張する。
そこで折原臨也も『コミュニケーションには自信がある』と立候補したけれど、これは承太郎が反対した。
まだ知り合って間もない相手にナイフを向けるような人間に、その『二人』との交渉を任せられないというのが根拠だった。
その反論自体はもっともなものだったが、それを抜きにしても承太郎が臨也を怪しんでいるように見えたのは、おそらく切嗣の見間違いではない。
とはいえ、臨也が信用しきれないから喫茶店に残れと主張するならば、承太郎も臨也と共に残るのが筋ということになる。
そして切嗣の支給品のひとつは、探索に向いたものだった。
『コシュタ・バワー』という名称の二輪車で、いざとなれば建物の壁を走ることもできるがゆえに、『二人』が危険人物だったとしても逃走しやすくなるはず。
そう保証して、切嗣はその『二人』と先に接触する権利を獲得した。

喫茶店を出発した切嗣は、支給品の最後のひとつ――『蝙蝠の使い魔』を開封した。
切嗣の生み出した使い魔では無かったが、魔力のパスを作ることでその感覚器を共有できるようになっている。
カードからバイクを取り出す前に蝙蝠を先行させ、ゲームセンターに入り込ませた。
この近辺で人が立て籠もる施設としては、そこが妥当だろうと踏んでのことだ。

案の定、残る二人はそこにいたし、それは意外な二人でもあった。

折原臨也が絶対的な危険人物だと述べていた男、平和島静雄。
一条蛍の知り合いだという少女、越谷小鞠。
その二人が仲良く談笑し、ゲームセンターのゲームで遊んでいたのだから。

『間違いなく殺し合いに乗る――それも、自動販売機を投げつけるほどの絶対的な怪力を振るう人物』という情報は、最初から誤っていたことになる。
折原臨也が平和島静雄のことを誤解していた? ――違う。
折原臨也から聞いた特徴は、『誰であろうと喜び勇んで暴力を振るう悪いやつ』。
そんな分かりやすく目立つ特徴を、それも地元では有名人らしき人物を、同じ町に住んでいて誤解するとは考えにくい。
つまり、折原は平和島を陥れるために、悪評を流したということ。

ゲームセンターの近くでエルドラとコシュタ・バワーをカードに収納する。
さらに二人の会話を盗聴して確信した。
折原が平和島を評した言葉は、少なくとも部分的には正しい。
まず、折原臨也と敵対関係にあること。
そして怒りの沸点が異常に低く、『自分にとって気に入らない行動をした』といったような理由で理性を失い、すぐに暴走をする。
この時点で切嗣は、どう対応をするかを決定していた。
多数を救うために、少数の危険因子は排除する。

初めから切嗣は、二人が『少しでも他の参加者や切嗣に不利益をなし得る者』だった場合は、
今の自分にできる限りの手段を使って排除するつもりで出発したのだから。

そんな衛宮切嗣が、折原臨也と平和島静雄の人となりと関係をおよそ推察してしまえば。
どちらの側に立つかは分かりきっている。
『保身を考えている合理性がある悪人』よりも『善良かもしれないが暴走する怪物』を生かしておく方が、切嗣にとっては100倍も悩ましい。
そのうち理性のタガを外して暴走して、周囲を巻き込みかねないといった理由だけではない。
あの手の人物は、たとえば切嗣が『必要だから』ともう助からない参加者を見捨てようとしても『見捨てるのは良くない』という感情論だけで烈火のごとく怒りを露わに反対して、切嗣を殴り倒すか、最悪は暴力で殺してでも止めようとするだろう。
怒りを露わにしながらも命令には従うだけ、セイバーの方がまだ話が通じるとさえ言える。
平和島静雄を切り捨てる理由こそあれど、命の天秤を傾けるべき理由はなかった。

では、お世辞にも装備が整っておらず、使える魔術も制限されているとおぼしき切嗣が、平和島静雄を追い詰め、排除するための最適な方法とは何だろう。
とてもシンプルだ。
平和島静雄の犯行に見せかけて、越谷小鞠を排除する。

ただの少女である越谷小鞠を、命の天秤から放り出す。
切嗣は、外道ではあっても冷血ではない。
必要ならば一般人だろうと殺害するけれど、積極的に幼い少女を殺すような真似はしない。
むしろ、この状況下で『足手まといになりそうだから』とか安易な理由をつけて少女を殺害しようとすれば、最低限の信用さえおけない冷血漢だと見なされるリスクが極めて高い。
それはとても愚かなことだ。
しかし、逆に言えば。
この非常時に、一般人の少女を敢えて保護する理由は、それ『だけ』に尽きる。

元より衛宮切嗣は、『主催者の力を奪い取る』という目的が正攻法――殺し合いに反対する者全員で力を合わせて繭を倒す――によって実現するとは、さほど期待していない。
というより、対主催派の『全員』と力を合わせることなど、まず不可能だ。

切嗣のサーヴァントであるセイバー。そして、切嗣と交戦したケイネス・アーチボルトのサーヴァントであるランサー。さらに、なぜか切嗣をつけ狙ってアインツベルン城まで来た言峰綺礼。
間桐雁夜については御三家の出自でありバーサーカーのマスターであること以外に接点はなかったけれど、この三名については、限りなく協力関係を築きにくいと断言できる。
(キャスターのサーヴァントも脅威ではあるが、あれは切嗣だけでなくすべての参加者にとっての敵となるだろう)
『弱き者を救う』という英霊たちの騎士道精神と、目的のためなら外道にもなる切嗣の在り方が相容れることは決してない。
ましてやこの場には、切嗣とセイバーの関係をぎりぎりのところで繋ぎとめている最大の仲介役だったアイリスフィールもいない。
そして、切嗣がセイバーの行動によって不利益を被るような時に、それを制止するための絶対命令権である『令呪』も、三画とも失われている。
ただでさえ断裂していたマスターとサーヴァントの関係だ。紙でも裂くようにあっけなく破綻するだろう。
ランサーについても、セイバーと似たようなメンタリティだ。
ケイネスと交戦した際に、対峙した時の言動は、セイバーと同類の『騎士様』のそれだった。

今のところ切嗣は、彼等との接触を極力は避けるよう動くつもりでいる。
だが、殺し合いが進行するにつれて、そうも言っていられなくなるだろう。
セイバー達はおそらく、『衛宮切嗣は、願いが叶う確かな保証さえあれば殺し合いに乗るかもしれない。信用してはならない』ということを他の参加者に伝えるはずだ。
(実際、繭が『全人類の救済』という願いを叶えられるようであれば、その力を利用するのも良しと考えているのだから、大きく間違ってはいない)
早々にキャスターとでも相討ちになってくれれば好都合だけれど、アテにするのも楽観視がすぎる。
特に言峰綺礼については厄介だ。
殺し合いに対してどう動くか読めないということもあるし、何より『代行者』としての仕事柄、他のサーヴァントとは違って『逃げながら立ち回る』という動きをすることができる。
そう簡単に脱落するとは思えなかった。

殺し合いが進行し、衛宮切嗣の人となりが露わになるにつれて、切嗣が立ち回ることは難しくなる。そう懸念して動かなければならない。

そういう意味でも、小鞠を殺害したことで平和島静雄が暴走してくれれば、そこにもメリットはある。
単に『殺し合いに反対する人々で集まった』だけでは、切嗣が自由に動けない。
『襲ってくる相手のことは容赦なく撃ち殺します』という行動に訴えようとしても、
反対されるか、あるいは『助けられる限りは救えないのか』という甘い考えで牽制されることもあるだろう。
しかし、そこに『幼い少女さえ平気で殺害するような極悪人がこの近くで暴走しています』という要素が加わればどうなるか。
普段の切嗣に、近い動きをすることができる。

そういったことを、あの場で即座に考え付いたわけではない。
映画館を出発した時から、それこそ『どう立ち回るか』と思考を始めた時から、曖昧に組み立てていた。
ただ、そこに『平和島静雄』と『越谷小鞠』という具体的に嵌まるピースが転がり込んでしまった。
だから計画はできあがった。
それを躊躇なく実行した。

後の布石のために、隣接するビルの入り口の扉はあらかじめ開けた。
すでに非常口から潜入して、放送室へともぐりこんでいる。
あとは、折原臨也の名前を騙って平和島静雄を越谷小鞠から遠ざける。
平和島が指定した場所ではなく放送室にやってくる可能性もあったので退路とする窓は確保しておいたけれど、幸いと非常口へ向かってくれた。
とはいえ、時間的余裕はさほどない。
こちらも全力疾走をして、4階のフロアへと到着する。
越谷子鞠の隠れ場所は、使い魔によって筒抜けになっている。間違えようもない。



「お、おじさん……誰?」



イリヤも、年相応の成長をしていれば、この子の外見と同い年ぐらいだろうか。
殺す前に抱いたのは、そんな感想だった。


♂♀


一日目 黎明 ラビットハウス


(灰皿で殴って気絶させたところを、転がった筐体のところまで運んで、圧殺。
ゲームセンターの筐体の重量は約100キログラム。
僕の腕力でも、不安定に傾いた筐体を、さらに床に傾けて押し倒すことぐらいはできる。
灰皿は越谷小鞠を殺害した時に、いっしょに筐体で潰して証拠隠滅とする。
これで、傍目には『ゲームの筐体を投げつけられて殺された。犯人は筐体を持ちあげることができる人物だ』と思われる死体が完成)

あとは、『すれ違いで、ゲームセンターの外壁を破壊して逃亡するバーテン服の男を目撃した』と言えばいい。

報告を終えた喫茶店に蔓延したのは、おおむね切嗣が予想していた通りの反応だった。
表情を動かさなかったのは、空条承太郎ぐらいのものだ。
(彼もまた切嗣から分け与えられたタバコを噛み潰さんばかりにしていたが)
そこに蔓延する空気は、殺人犯に向けられた怒りであり、すぐ間近で少女が殺されていた衝撃であり、そして子どもらしく二階で眠っている一条蛍のことを想っての鎮痛だった。

そんな彼等の感情に指向性を与えてやるように、切嗣は今後の動きについて提案する。

まずは、男手を三人ばかり連れて改めてゲームセンターに向かおう。
越谷小鞠を下敷きのまま放置するのは忍びないし、平和島静雄を知っている折原臨也が殺害現場を見れば、間違いなく平和島の犯行かどうかを断定できるかもしれない。
切嗣と折原の腕力だけではゲーム機の筐体を持ち上げられないだろうと、蟇郡もそれに同道することを申し出た。

空条承太郎も現場を見せろと言い出したが、蟇郡と智乃からやんわりと、しかし(特に智乃からは)切実に、喫茶店に残ってほしいと頼まれた。
なぜなら、一条蛍が目覚めた時に、友人の死を伝える役目の者が必要となる。
まだ一条蛍という名前ぐらいしか知らない蟇郡たちでは、彼女を落ち着かせることができるかどうか。
承太郎は切嗣と臨也の方をいぶかるように睨んでいたが、智乃たちも『辛い役目を任せてしまって申し訳ない』という態度で頼んでいる手前、無下にすることはしなかった。

こうして、ゲームセンターに向かうことになったのが、衛宮切嗣と、折原臨也と、蟇郡苛の三人。
ラビットハウスに残るのが、空条承太郎と、香風智乃と、一条蛍。

切嗣がラビットハウスの前でコシュタ・バワーを呼び出して出発しかけ――しかしすぐにカードに戻した。
どうやらこのバイクは数人乗りの馬車にも変形できるらしいけれど、それでも蟇郡のたいそうな巨体プラス男2人を収容して走れるかは、いささか心もとない。
仕方なく、歩いてゲームセンターへと向かう。

「蟇郡さん、気を付けてください」

見送りに、智乃がラビットハウスの外まで来ていた。
あまり感情を顔に出さない少女だったが、今この時は、表情に明るくない色がある。
『悔しい』と『心細い』の中間のような顔。
そんな彼女を見下ろし(態度ではなく身長の都合である)、蟇郡は言い放った。

「俺は本能字学園風紀部委員長にして生徒会四天王の1人だ。
であるからには、この場にいる学園の生徒も皆保護するつもりでいる」

何が言いたいのだろう、と智乃は意味を掴みかねる。
だが、蟇郡は続けて言った。

「香風はこの店の主だろう。
この店を訪れた客が涙するかもしれんというのに、店主が温かい飲み物も出してやらんのか」
「!」

智乃は目を見開いた。蟇郡の言いたいことが伝わったからだ。

「そんなこと……ありません」
「ならば良し」

こうして大きな男と小さな少女は同時に頷き、一時の別れを告げた。


♂♀


(できれば二人きりで話したかったが、そう都合よくもいかないか。
ともかく、これで折原と会話する機会は作れた)

噛み煙草を吐きだし、切嗣はここまでの成果にひとまず満足する。
ゲームセンターへ向かうことを口実としてチーム分割を提案した最大の理由は、折原臨也を見極めるためだった。
幸いなことに『平和島静雄に関する情報が悪意ある誤情報だと知っている』という交渉材料もある。
もしも折原が考えも無しに悪評を振りまくただの道化ならばいずれ彼のことも排除しなければならないし、
そうでないなら――『手段を選ばない理性的な悪人』ならば、その逆の関係を築けるかもしれない。
目下のところ、敵をつくりかねない位置にいる切嗣が欲しているのは『同盟者』だった。
それも、かつてセイバーでなくアサシンのサーヴァントを欲したように。
衛宮切嗣のスタイルを理解した上で動き、他の参加者から不審を持たれたらフォローに回ってくれるような人材と組むことができればありがたい。
つまり、手段を選ばないようなタイプであり、その上で交渉や駆け引きごとを知っている、つまり最低限の信用はできるような人物。
その上で、他の参加者とも折衝できるようなコミュニケーション能力があればなお望ましい。

今のところ、折原の行動原理は分からない。
しかし、これまでに得られた印象では、それら条件のうちの幾つかを満たしている。
あとは、そいつが利用できる存在かどうかを確認するだけだ。

蟇郡を先頭にして、後方を歩く二人は互いの視線を交錯させる。
折原が切嗣に対して何を思ったのかは分からないが、
お互いが互いのことを『仮面のような表情だ』と思ったことだけは間違いない、そんな顔をした二人だった。



街の夜風は、生温い。
街に住む人々の熱さと冷たさが、空気に溶けて混じりあっているかのように。

【G-7/ラビットハウス/一日目・黎明】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~3、越谷小鞠のカード
噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   1:衛宮切嗣の報告に釈然としないものを感じる。
   2:折原臨也が気に喰わねえ。
   3:DIOの館に向かいたいがまずはこの状況について考える。ゲームセンター行き組が戻ってきたらきっちり問い詰める
4:一条蛍が目覚めたら、越谷小鞠の死を伝える。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦
※折原臨也、一条蛍と情報交換しました(衛宮切嗣、蟇郡苛、香風智乃とはまだ詳しい情報交換をしていません)

【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康 、睡眠中
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~3
[思考・行動]
基本方針:先輩とれんちゃんと合流したいです。
   1:次々に色んな人と知り合って少し疲れました…
[備考]
※空条承太郎、折原臨也と情報交換しました。

【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、落ち着いた
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:果物ナイフ@現実
     黒カード:不明支給品0~1枚、救急箱(現地調達)
 [思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
   1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。『お客さんたち』にも何かをしたい
   2:ココアさんたちを探して、合流したい。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです

【G-7/ラビットハウス付近/一日目・黎明】
 【衛宮切嗣@Fate/Zero】
 [状態]:健康、緊張感
 [服装]:いつもの黒いスーツ
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
     黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
          蝙蝠の使い魔@Fate/Zero
          コシュタ・バワー@デュラララ!!
          赤マルジャンプ@銀魂
          越谷小鞠の不明支給品0~2
     噛み煙草(現地調達品)
 [思考・行動]
基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
   1:折原臨也を見極め、排除するか利用するか決定
   2:1の後、ラビットハウスの一団からも改めて情報収集をする
   3:平和島静雄とは無理に交戦しない
   4:有益な情報や技術を持つ者は確保したい
   5:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない
 [備考]
  ※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。
  ※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。
   他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします
  ※空条承太郎、折原臨也、一条蛍から知り合いと危険人物について聞きました。

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
   1:俺が何もしていないのにシズちゃんが自分から嵌められてくれた。
   2:ゲームセンターに向かう。とりあえず衛宮切嗣は『人間』なのかどうか観察。
   3:空条承太郎君、面白い『人間』だなあ。
   4:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍と情報交換しました。

【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:腕輪発見機@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
 [思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   1:まだ付近にいるかもしれん平和島静雄に警戒しつつ、ゲームセンターへ
   2:皐月様と合流したいのはやまやまだが、平和島静雄が殺し合いに乗っている人物だと皐月様に報告せねばならないし、まずはゲームセンターの現場確認    と、情報交換。
   3:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。
   4:針目縫には最大限警戒。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです

【腕輪発見機@現実】
香風智乃に支給。
形はセルティ・ストゥルルソンが使っているPDAに似ている機械。
そのエリアにいる『まだカード化されていない腕輪(すなわち生存者の腕輪)』の個数を表示する機能を持つ。
表示されるのはあくまで数だけであり、そのエリアに何人いるかは分かっても、どこにいるのかは分からない。

【ボゼの仮面@咲-saki-】
平和島静雄に支給。
永水女子高校の薄墨初美がよく身に着けている大きな民族風の仮面。
鹿児島県トカラ列島の悪石島に伝わる来訪神行事ボゼ祭で使われる仮面。
とてもシュールな面相をしており、子どもが見て喜ぶような人相の仮面ではない。

【蝙蝠の使い魔@Fate/Zero】
衛宮切嗣に支給。
生きている支給品の中では『持ち主から離れてはならない』という制限が緩めに設定させており、
同じエリア内ならば単独行動で偵察をさせることができる。
Fate/Zeroでは、聖堂教会からの呼び出しを受けた魔術師たちが視覚と聴覚を共有した使い魔を教会に派遣することで、自身が教会に足を運ぶことなく監督役からの指示を聞きとらせる等の使われ方をしている。

【コシュタ・バワー@デュラララ!!】
衛宮切嗣に支給。
セルティ・ストゥルルソンの愛馬。シューターという名前を持つ。
無灯火、無登録で、無音の黒漆バイクは重力に関係なく、壁すらも走ることができる。
バイクの姿の他にも、首なし馬の姿や、馬車の形に変形することも可能。


時系列順で読む


投下順で読む


012:ゲームセンターに行った 越谷小鞠 GAME OVER
012:ゲームセンターに行った 平和島静雄 063:噴火する平和
011:前途多難 空条承太郎 055:夏色の風景
011:前途多難 一条蛍 055:夏色の風景
003:忘れられないアンビリーバブル 香風智乃 055:夏色の風景
031:正義の在処 衛宮切嗣 083:寸善尺魔
011:前途多難 折原臨也 083:寸善尺魔
003:忘れられないアンビリーバブル 蟇郡苛 083:寸善尺魔