逃れられない 時を知る ◆3LWjgcR03U

E-7。エリアの大部分を占める海が、姿を現しはじめた陽の光を受けて輝いている。
今、このエリアの南側にある砂浜に、1人の男が海中からざばりとその巨体を現した。

極限まで鍛え上げられた筋肉は、しかし感情のない瞳と相まって、どこか不自然さを感じさせる。加えて、今はその体にまとっている学ランが違和感に拍車をかけている。
彼の名はジャック・ハンマー。
地上最強の生物である範馬勇次郎を父に持ち、文字通り全てを捨ててその父を越えんとする怪物である。

彼は猛スピードで飛行するヴィマーナから振り落とされ、海に転落したばかり。
常人ならば水面に叩きつけられたショックで、まともに泳ぐこともままならないはずだ。
しかしこの怪物は完璧に受け身をとったばかりか、海獣のごとき泳ぎで海峡を渡りきってみせたのである。

日に30時間の鍛錬という矛盾を越え、北極熊を倒すにまで至った彼の肉体。
その圧倒的な力は、この殺し合いにおいてもすでに3人を屠り去った。
しかし、海から上陸し、砂浜にたたずむ彼の胸に去来するのは--

「これでは、全く駄目だ」

確かに3人を屠ることには成功したが、ジャックが目指すのはあくまで勇次郎の打倒。
そのためにはより強い支給品を得たい。だから、カードを集めなくてはならない。
ドーピングで肉体を作り上げたジャックにとっては、できれば己の肉体を強化できるようなものが欲しいところ。

だが、実際にはどうだ。
まずは猫じみた少女を叩きのめした。だが、奇怪な術を使う女が割り込んで逃げられ、カードは得られなかった。
次に出会ったのは二人組の少女と、またもや現れた少女と妙な男の組み合わせ。
少女のうち2人を殺せはしたが、1人は取り逃がし、男はいつのまにか消た。やはりカードは得られなかった。

結局、この殺し合いが始まってから自分が得られたのは、今身にまとっているこの学ランのみ。
カードを奪えないどころか、2度目の遭遇では、あろうことか年端もいかない子供に謀られた。あってはならないことだ。

「これでは、勇次郎には・・・・・・」

敵わない。
それどころか、彼の前に立つことすらできない。

「ふむ・・・・・・」

ジャックは、手近な岩の前にどっかと座り込むと、赤と青のカードをかざす。
現れたのは極厚のステーキ、そして血のような色をした1杯の赤ワイン。
並の男なら文字通り歯が立たないその肉を、切り分けることもせず丸ごとフォークで突き刺し、前歯で噛み切る。
十分に咀嚼した肉をワインで流し込みながら、ジャックは考える。

(もっと、闘いを)

カードを奪えていないこともさることながら、ジャックの不満は自分と渡り合える者に1人も出会っていないことだ。
ここまで遭遇したのはいずれも女子供ばかり。強いて言えばあの妙な術を使う女は見所があったが、とうてい自分には敵わない。
彼は最強の肉体を求め、人間性を捨て去った怪物。しかし、人を殺すことに快楽を覚える殺人者でもなければ、弱者をいたぶるサディストでもない。
その力は、あくまでも強者を屠り、父・オーガを打倒するためのもの。
強者を求めたからこそ、海を渡り、強者の集う最大トーナメントへ向かったのである。
これまでの中途半端な戦いにより、忌まわしき範馬の血がフラストレーションを起こしている。それを確かに彼は感じていた。

「さて・・・・・・」

相当なボリュームのあったステーキをものの5分もしないうちに平らげ、白のカードで地図を眺めながら、呟く。

「やはり、この島には」

己の住む世界の常識とは何か全く違う何かが、確かに存在しているらしい。

意識する間もなく連れ去られ、殺し合いに参加させられたこと。
このカードと腕輪。
魔力を持つ刻印虫とやら。
妙な術を使う女。
ただの少女を己の打撃に耐えさせ、着ていると確かに力が増すように感じるこの服。
空飛ぶ金色の飛行機。

思い返せば、最初からここまでに遭遇したのは、どれも超常現象じみたものばかりだ。
だが、フランケンシュタインを理想像とし、狂的に人体強化を研究するジョン博士の下で科学を凌駕すべくドーピングとトレーニングを積んできたジャック。
そんな彼にとっては、己の理解を超える事象を受け入れることは容易かった。
それどころか、己の理解を超える事象が存在するということは、己に匹敵する者が存在する可能性があるということであり、そのことに喜びすら覚える。

「万事屋。便利屋のようなものか」

もうしくじるわけにはいかない。参加者を確実に仕留め、カードを奪う。
それには、人が集まりそうな場所に自ら出向いていくことが必要だ。
そう考えた彼は、地図に記載されているうち、自分のいる場所から最も近い施設に狙いを定めた。

「勇次郎ヨ・・・・・・」

異能の者であろうと関係はない。強者を屠り、皆殺しにし、力を得る。そして、勇次郎の前に立つ。
ただそれだけを思い定め、怪物が砂浜を踏みしめてゆく。





だが、彼は知らない。
父であり倒すべき宿敵である範馬勇次郎は、腕一本を残しヴァニラ・アイスの暗黒空間に飲み込まれたことを。
この時点ですでにこの世の者ではないことを。

放送で勇次郎の名前が呼ばれたとき、怪物の心にはどのような変化が起こるのであろうか……?



【E-7/F-7側の海辺/一日目・黎明】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:健康、そこそこ満腹、服が濡れている
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:刻印虫@Fate/Zeroが入った瓶(残4匹)
[思考・行動]
基本方針:勇次郎を倒す
   1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。
   2:勇次郎を探す
[備考]
※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
 戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。


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041:LOVELESS WORLD ジャック・ハンマー 063:噴火する平和