正義の在処 ◆WqZH3L6gH6

 ほの暗い闇に覆われた映画館が証明によって照らされる。
 外部に明かりがもれない構造なのは衛宮切嗣は確認済みだった。
 何も写していないスクリーンを前に無人の売店から失敬した煙草を手に彼は席に腰掛ける。

(どうしたものか)

 煙草を一本取り出し口に咥え、溜息のような息を吐きながら思案に暮れ、自らの腕輪を調べた。
 腕輪やカードに何らかの力のようなものは感知できるが、魔術師である彼がよく知る魔力かと断ぜない不可解な力。
 先ほどの白い部屋といい、催眠術に完全に掛かったか、あるいは何らかの方法で異界に落とされたとしか材料不足で
無理やりでも判断しなければ彼にとって動きようのない状況だった。

(……サーヴァントが3体、僕と元マスターの言峰綺礼を含めマスターが確認出来るだけでも3人か)

 名簿確認しながら切嗣は苛立ちを吐き出すかのように煙草を噛む。
 スタートの場に自らのサーヴァント セイバーの姿が確認したのを思い出し、また煙草を噛んだ。
 切嗣は繭と名乗った少女に生殺与奪権を握られているだけに、殺し合いに対して取るべき手段は優勝狙いが一番効率がいいと思っていた。
 仮に切嗣が参加者内で随一の力を持つなら、女子供を含め鏖殺するのに支障などないだろう。
 衛宮切嗣は感情と行動を切り離せる男だ。
 だがサーヴァントが参加者であるなら話が変わってくる。

 切嗣は繭にさらわれる前、聖杯戦争というバトルロイヤルに参加していた。
 奇跡を起こし得うる願望機を使用するために、7人のマスターと7体の英霊――サーヴァントと最悪最後の一組以下に
なるまで殺しあう争奪戦、それが聖杯戦争。切嗣も願望機の使用が参加理由だった。
 切嗣の知る限り願いを叶えるだけの力を聖杯が発揮するには6体の英霊の脱落が条件である。
 ここでセイバー、ランサー、キャスターのうち2体以上が脱落してしまえば、聖杯戦争が成たたなくなってしまう懸念が彼にはあった。
 その理由は死んだ参加者の魂はカードに封じられるという事実。

 聖杯戦争においてサーヴァントが倒されると、その魂が元の場所に戻る際に空間に孔が開く。
 その孔を利用して聖杯を起動させるのに、その魂がカードに封じられてはどうしようもない。
 優勝者には願いを叶えると言っていたものの、初対面ということもあり願いがどれだけの範囲まで適用されるか判断できなかった。
 その上、あの時の繭の楽しそうな様子から察するに、敗者の魂の解放の要求は容易に受託されるものではないと思えた。
 手間が掛からない、例えば優勝者のみ元の居場所への帰還などは、よほど機嫌を損なわない限り叶えられそうな感じだが、
切嗣にとってそれは受け入れられるものではない。


 衛宮切嗣は人間的には外道と見なされる魔術師である。だが冷血ではない。
 彼はこれまでの人生で、何年かの休止があったもののより多くの人を救う為に独自に鍛錬を重ね、心を砕きながら戦場や裏社会で活動していた。
 だがその手段と思想は、より多くを救うために必要最小限の犠牲を見極め、容赦なくそれを駆逐するというもの。
 それはかつて災厄になりうる幼なじみを前に選択を放棄したがゆえに、惨劇を引き起こしてしまった負い目が原点であった。
 そうした行為の繰り返しは現実の過酷さと合わせ彼の心を痛めつけ、遂には超常の聖杯を求めるまでに至った。
 そんな彼が聖杯を、自らの意思で願いを叶える事を簡単に諦められる筈がない。
 切嗣は思案の前に腕輪から出した黒のカードを取り出して呟いた。

「詳しく調べさせてもらうよ」

 声を受け1枚の黒のカードが微かに動き、何枚ものファンタジックなイラストが描かれたカードが現出した。
 支給品確認はここに飛ばされた直後に既に行っている。目当ての武器はなかった。
 代わりにあったもので目を引くものは有益とは思えない面倒臭そうなアイテム。
 1枚のカードが蠢き、それを指に挟んで正面へ向けた。

 衛宮切嗣は英雄が嫌いだ。人々のヒロイズムを刺激し戦争を助長する存在であるから。
 それは自らのサーヴァントであるセイバーにも向けられ、一度しかこちらから話しかけた事がないくらいだった。
 故にここに置いても彼がサーヴァントに話しかける気はない。
 だから指に挟んだあれも煩そうなのもあったが、サーヴァントの一種の可能性を考え早々に黒カードに収納していた。

 そのカードに写るは1人の女性。
 茶色のツインテールに、ドクロのような帽子、胸元にでかいリボンという格好の十代前半の少女だった。
 それはただのイラストなどではなく。
カード内の少女の、老婆のような声色が入り混じった声が切嗣を咎めた。


「……いきなり閉じ込めるなんて酷いんじゃないすか?」
「……失礼。君が参加者に対する見張りの可能性も考えていたのでね」
「ただデッキを手にした人に協力しろって言われただけっすよ。あのもじゃもじゃ頭に」

 支給品 ルリグ――エルドラはカードの中で手をパタパタ動かしながら口を尖らせ渋々質問に答える。

「君はサーヴァント、英霊ではないんだな」
「わたしゃ召使とも英霊とやらとでも呼ばれる謂れはないっすよ」
「そうか」

 風格も戦意も強い悪意もないことから、英霊や繭の忠実な部下の類ではないという点だけは信用することに決めた。
 しかしエルドラは支給品として役には立つのだろうか?見た感じカードから出られない上にサイズは20センチにも満たない。

「魔術は使えるのかい?」
「ん?。お兄さんは魔法使いかなんかなんですか」

切嗣は言葉に詰まった。彼は魔術師ではあっても魔法使いではない。
彼がいた世界では魔術と魔法はまた別のものだ。
だがエルドラのその反応で切嗣はここが異界である認識をますます強くする。

「まあ似たようなものさ。君は何ができるんだい?」
「何ができるって言われましても……そんな態度じゃ、あ今のナシです。
 カードに説明書が付いていたら読んでみたらどうです?」
「……」
「え、怒った?これくらいで目くじら立てないで下さいよ……」

切嗣は怒ってなどいなかった。エルドラが怒ったと勘違いした切嗣の行動は凝視。
掛かるとは思えなかったが、意思操作の術をエルドラに仕掛けたのである。しかし

(馬鹿な)

魔術を行使するのに必要な体内器官、魔術回路に魔力は通っているのにも関わらず術が発動しなかったのだ。

「…………ひょっとして何かしました?」
「……いや、落胆しているだけさ」

 ジト目でこちらを疑うエルドラに対し、切嗣は魔術を発動させられなかった焦りを隠すように淡々と応える。
 実際、ハズレの可能性が見えてきて落胆しているのも事実なのだが。
 とうに読んだ説明書と腕輪からのエルドラのカードデッキに関する記述は、ウィクロスというゲームのカード説明と、
 そのゲームのルールしか書かれていなかった。殺し合えと言われて何でカードゲームで遊ばなきゃいけないんだ?
 軽くめまいがする。
 だが切嗣にとって興味深い、あるいは少々でも希望を抱かせる材料はある。
 ウィクロスはさて置き、エルドラからはサーヴァント程ではないが、そこそこの魔力のようなものを感じられた。
 現時点では有用であるようには見えないが、ここは未知が溢れる場所。
 例え戦力にならなくても、所持しておけばどこかで役に立つかもしれないとそう切嗣は判断した。
 邪魔になれば黒カードにずっと閉じ込めて置けばいい。黒カードに収納している間の外の事は分からないようだし。

 切嗣は姿勢を正し、今後の方針を考えた。
 助手の舞弥はいない、妻であり聖杯戦争の協力者であり歯車であるアイリスフィールもいない。
 愛用してきた武器も没収された今、ブランクが祟って下手すれば参加者内で弱い方になっているかも知れない。

 だが繭はこうも言っていた、黒のカードを差して『これらを上手く使って、』と。
 なら支給品を上手く使えば殺し合いは勝ち抜ける可能性がそれなりにありえるか。切嗣は席を立った。


「どこいくんです?」
「…………」

 第一に情報収集。武器を揃えるまで極力敵を作らず立ち回らなければならない。
 殺しを実行するにしても暗殺が最適か。他の参加者と協力関係を結ぶ必要も出てくるだろう。
 早々に見つかればいいんだが。
 最悪、繭に願いを叶えさせるにしても、自らの帰還と聖杯戦争の再開を確約させなければならない。
 そして、あれだけの非道を働くような繭を野放しにする気もない。
 不本意な願いでも叶えざるを得なくらい追い詰め、成就後殺害しなければ行けない。
 どんな手を使ってでも。

「ねえ」
「――」

 切嗣はエルドラの問いに応えた。

【G-6/映画館内/深夜】
 【衛宮切嗣@Fate/Zero】
 [状態]:健康、僅かな焦り
 [服装]:いつもの黒いスーツ
 [装備]:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~2 (確認済み、銃やナイフは無い)
     噛み煙草(現地調達品)

 [思考・行動]
基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
   1:エルドラの能力と自らの異変を探る
   2:1の後、情報アイテム収集を優先に行動を開始する
   3:有益な情報や技術を持つ者は確保したい
   4:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない
 [備考]
  ※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。
  ※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。
   他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします

支給品説明
【エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS】
ちより(ロワ未参戦の)のルリグ エルドラが収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
外見は茶髪のロングのツインテールの少女。性格は慇懃無礼で軽い調子。
ウィクロスのルールが書かれた説明書付き。エルドラ以外のカードは通常はただの紙切れ。
エルドラ自身、自由意志を持ち会話が可能。繭からロワについての説明は殆どされていない模様。
黒カードに収納されている間は外の事は解らない。
切嗣から見てそこそこの魔力のようなものが感知できるが、セレクターバトルも含めて当ロワにおいて
それがどうエルドラ含めるルリグに影響するかは現在不明。
カードからの脱出ができるかも不明だが、どの道現在の所持者から遠く離れられないように制限が課せられている。
参戦時期は不明。


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衛宮切嗣 047:殺人事件