その存在は漆黒 ◆DGGi/wycYo

駅のホームのベンチに腰掛け、思索に耽る。

おかしい。
確かに蒼井晶とのバトルに勝って、夢限少女になって。
再びルリグになろうとしていた筈なのに、何だこの現状は。
何故私――『ウリス』は、まだ『浦添伊緒奈』として存在するのか。

夢限少女になるため条件が変わったとでも言うのか。
別に、殺し合いをしろと言われたこと自体は大した話ではない。
これまでのセレクターバトルから殺し合いになっただけのこと。
また次々と他の参加者たちを蹴落としていけばいい。

問題は別の場所にある。
あの繭の手の上でまた踊らされることに対する不満でも、まして殺し合いに対する恐怖でもない。
与えられた2枚の“手札”に目を落とす。
見たことも聞いたこともない小説と、ただのボールペン。

最初に引いたそのカードこそが、悩みの種。
これがWIXOSSならば、最初に引いた手札にルール上の不備がある場合1度だけ引き直しが利く。
だがこのゲームにおいては、引き直しなどある筈がない。
しかもこのボールペン、どこかで見覚えが――

「あいつの……嫌味か全く」

あの日、歩道橋で、晶に刺された時の。
思わず手をわき腹に添える。
傷はとうに完治しているようで、どうでもいいかと一蹴する。

さて、改めて考える。
小説は、製本の関係で角を使って殴れば一応武器にはなる。
ボールペンは……一度その身を持って体験している。

どちらも多少の殺傷力こそあるが、こんな手札では勝ち残れない。
自分の組んだデッキではない、ゲームマスター、繭によって作り出されたこの『デッキ』には、
勝ち残るのに必要な『カード』は揃っていなかった。

ではどうするか。

奪い取ってしまえばいい。
今までセレクターバトルで数多くの他人の夢を壊していったように。
全て踏みにじって、潰して、そして生き残る。
その為に――

『間もなく、電車が参ります』

島式のホームに、田舎で見かけるような古い1両編成が滑り込む。
わざわざボタンを押さなければ扉は開かず、思わず扉にぶつかりそうになる。
乗客は自分ただ1人……いや、既に先客がいたようだ。
サングラスを掛けた、いかにも“まるでダメなおっさん”という言葉が似合いそうな風貌の男。
一瞥すると、相手もこちらに向けて手をひらひらと振って来た。


1、2分ほどホームに停車していた電車は、発車のベルが鳴って動き出す。
ボックスシートに向かい合わせに座った2人は、他愛もない会話を繰り広げる。
大変なことに巻き込まれただの、これからどうしようだの、知っている人が参加しているだの。

名簿に目を通す。
小湊るう子、紅林遊月、蒼井晶、そして名義が浦添伊緒奈になっている私。
確かに見知った名前があるが、今となっては別にどうでもいいことだ。
曰く、この長谷川泰三という男の知り合いで参加者となった者はかなり多い。
曰く、皆かなり強いために合流出来ればかなり戦力になる。
曰く、長谷川泰三はまともに戦えないが武器はある。

「あんた、一緒に組まないか?
 他にも色んな奴ら……俺がさっき言った銀さんとかと合流してさ。
 そうすればこんな殺し合いなんか、とっととおさらばできるってもんだ」

男の呼びかけは、はっきり言って興味がない。
誰かと組むにしてもこの男に価値はない。
価値があるのは――あくまで男の『手札』だ。

「貴方……もし優勝できたりして、繭に1つ願いを叶えてもらえるとしたら、どうする?」

これはただの戯れだと脳内で感想を結び、問い掛ける。

「そうだなあ……俺は今かなり貧乏な生活送ってるからなあ。
 とりあえず金に困らない生活がしたいかなあ」
「そう……そんな願いなら」

男の右頬に手を当て、右手でサングラスを取る。
即座にそれを持ち替え、

困惑する男の左目を――

「死んでしまった方がマシじゃないの?」

グサッ。

銀色の光が、貫いた。

「ッ…… あんた、何を――」

グサッ。
次は右目を貫く。

視界を完全に封じられた長谷川泰三に、見下すような目で伊緒奈は短く告げる。

「クソったれ」

男の心臓に、ボールペンが生えた。

   ✻ ✻ ✻

穴のあいた目を隠すように、死体にサングラスを掛けさせる。
ふと窓の外を見ると、列車は川の上を走る橋に差し掛かっていた。
伊緒奈は素早く懐からカードを回収すると窓を開け、死体を窓から放り投げる。
ドボン、と大きな音と水柱が立ったのを見届け、列車は橋を通り過ぎる。

「一緒に組む、か」

徒党を組んでゲームから脱出する糸口を探すため?
繭を倒してゲームを終わらせるため?

「違う」

あくまでそれらを手札として利用するために。
この殺し合いには知らない名前が幾つもある。
中には、異形の力を持った者がいたとしても何ら不思議ではない。
そんな参加者と鉢合わせになった場合、勝てる可能性は薄い。
だが、『手札』を用意すれば仕留められる確率も上がる。
そのために、自身の武器だけでなく、手札となる仲間を探さなければならない。

先ほど殺した男に対する後悔は、全くない。
直接人を殺すのは趣味ではないが、使えない手札を手早く始末しただけのことだ。
これから何人を利用して、何人の夢を壊すことができるだろうか。そう考えただけで感情が昂ぶってくる。
心を一気に壊して自殺に追い込むのも良し、中途半端に壊して操り人形にするのも良し。

ここは広大なバトルフィールドだ。
大人も法律も関係なく、誰をどれだけ傷つけたって許される空間。

列車はあと数分で地図南東の駅に到着する。
それまでに男から奪ったカードを確認しておこう。
これから先には、どんなに美しくて、正しくて、強くて、そして。

どれだけ壊し甲斐のある“心”があるだろうか?


【長谷川泰三@銀魂  死亡】
残り65人

【C-6~G-6/鉄道/一日目 黎明】
 【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】
 [状態]:健康
 [服装]:いつもの黒スーツ
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
          ボールペン@selector infected WIXOSS
黒カード:長谷川泰三の不明支給品0~3枚(武器ありらしい)
 [思考・行動]
基本方針: 参加者たちの心を壊して勝ち残る。
   1: 使える手札を集める。様子を見て壊す。
   2: 使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。
   3: 蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
 [備考]
※参戦時期は二期の10話で再び夢限少女になる直前です。
※E-6の川底に長谷川泰三の死体が沈んでいます。


支給品説明

【うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?】
浦添伊緒奈に支給。
著:青山ブルーマウンテンの小説。映画化もされた。
製本の関係で角で殴られると痛いが、そうやって使うものではない。

【ボールペン@selector infected WIXOSS】
浦添伊緒奈に支給。
作中で蒼井晶がウリスに裏切られて情緒不安定になった際にウリスを刺したボールペン。
それ以外は何の変哲もないただのボールペンである。

施設説明
【鉄道@のんのんびより】
作中に出てくる、「地元の一両編成手動式ドアの電車」。
「開く」ボタンを押さないとドアが開かない。
何分おきに走っているか、何本走っているかなどは他の書き手様にお任せします。


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長谷川泰三 GAME OVER
浦添伊緒奈 060:墜落する悪