本性の道 ◆DpgFZhamPE

「…おれはな。てめーみたいな悪党は絶対に許さないと心に決めている」

男、ジャン=ピエール・ポルナレフは―――燃えていた。
彼を、彼の心を燃やしているのは義憤だ。
『どうやってこんな馬鹿げた催しを』だとか、『どうして死んだはずのヴァニラ・アイスの名前が名簿に』だとかそんな些細な疑問は既に心から消え失せていた。
理由は単純。
少女が見るも無残な姿で、その尊厳が汚された。
まるでその命は最初から弄ぶために用意されたかのように、彼女の意思など関係なく。
最期の断末魔は、いかに彼女が激痛と屈辱の中にいたのか察するには余り得るほどのものだった。

―――その姿を見て。
―――脳裏に浮かんだのは、遠い昔に亡くした妹の姿。

「いいか!このジャン=ピエール・ポルナレフが彼女の魂の安らぎのために、貴様を討つ」

全く面識のない少女だったが。
それでもポルナレフは―――正しい信念の元に、このような馬鹿げた催しを企てたものを打ち滅ぼすことを誓った。
…が、しかし。
一人でできることなど限られている。
ポルナレフのスタンド『シルバーチャリオッツ』は戦闘に特化したスタンドである。
スタープラチナのような遠視や精密性は望めないし、ハイエロファントグリーンのような万能性は持ち合わせていない。
ポルナレフだけでは―――この状況下では、できることが余りにも少な過ぎた。

「とりあえずは承太郎や花京院と合流しねーとな…ジョースターさんはいねえみたいだが、どうなってるのかも心配だ」

改めて名簿を開く。扱ったことのないタイプの物故、少しばかり手古摺ったが問題は無い。
並んでいる名前の中に、知っている名前は複数あるが―――その中で一際目を引いたのは『ヴァニラ・アイス』という名前だった。
ヴァニラは確かに死んだ。ポルナレフの前で塵になって消えた。
だと言うのに―――何故、奴の名前が此処にあるのか。

「はっ、生きかえったってか?魂の無い吸血鬼の次はゾンビにでもなるつもりかっての」

もし。
本当に生きかえったのなら。
コイツじゃなくて、アブドゥルやイギーが生きかえるべきだぜ―――と。
口の中で零しながら、ポルナレフは動き出す。
蘇ったのならばもう一度地獄に叩き落すだけ。ポルナレフのやるべきことは変わらない。

「…それにしても暗いな。今は夜か?地面はコンクリートのようだし、屋内だとは思うんだけどよ…」

硬い床を踏みしめながら手を突き出し、まるで支えを探す子供のように周囲を探る。
暗闇だとしても月明かりさえあれば周囲の確認は容易いのだが、どうやらここは屋内らしく月明かりすら届いていない。
よって眼が闇に慣れるのを待っているのだが―――生憎とポルナレフはこの状況下でのんびり待つほど優しくはなかった。

「わりーがここに留まっていられるほど暇じゃないんでな…。
 『チャリオッツ』ッ!!」

―――現れたのは、甲冑の男。
『戦車』の暗示をもつスタンド、『銀の戦車』である。
煌く美しいその甲冑から覗く鋭い眼光は、このスタンドが並の力ではないことと。
それを扱うポルナレフが、歴戦の戦士であることを物語っていた。
チャリオッツが右手に持ったレイピアが、一閃。
いや、一閃ではない。
素早く、高速の域で振るわれたその剣は力強く、且つ流麗で。
本体のポルナレフが命じた、指の先にある壁を性格に切り裂き―――『穴』を作った。

「家主には悪いが…ってこんな状況じゃ家主がいるかどうかもわかんねーな…ま、いっか。
 これで周りが見えやすく―――」

破壊された壁から、月明かりが挿し込む。
闇に支配されていた空間が照らし出される。
不自然なほどに閉じられたカーテン。日光が入らないよう一部板で閉ざされた窓。
見覚えがあった。記憶に強く残っていた光景だった。

「…まさか。ここは!『この場所』はッ!」

忘れるはずもない。
忘れることなどできるはずもない。忘れる気すら毛頭ない。
なぜならば、この場所は。
親愛なる仲間たちを喪った部屋。倒すべき邪悪の化身の根城。
そして、この催しに連れられる前にこのポルナレフが存在していた場所。

「―――『DIOの、館』…!!!」

ポルナレフがそう理解したと同時に。
ドン、と鈍い音が響き渡る。
この響きは、他の部屋からだろうか。

「誰か…『いる』…のか…?」

言い知れない恐怖。
この催しに連れてこられる直前―――DIOと出会いその能力の片鱗を味わったときのような冷や汗が流れる。
それを感じながら、ポルナレフは一歩。また一歩と進んでいく。
向かう先は、上階―――物音がした、元DIOが眠っていた部屋である。



▼     △     ▼



「きみは…『引力』を信じるかい?」
「…誰だお前は」

それが彼、言峰綺礼がこの場において初めて行った他者との交流だった。
この殺し合いの呼ばれ、正体不明の存在からの説明を受け、また飛ばされた。
その飛ばされた先で、そう時間が経たない内にこの男から声を掛けられたのだ。
相手の表情は見えない。
この部屋が暗いのだろう―――月明かりは腰ほどまでしか届いておらず表情どころか、その姿も危ういほどだ。
投げかけられた言葉と同時に己の衣服の違和感に辿り着く。
軽い、と。

(…ただの衣服に戻っている。あの子供の仕業か)

防弾加工と呪的防護処理が施されているはずの僧衣が、ただの何の変哲も無い僧衣と化している。
言峰でなければ気付かないほどの変化であったが―――慣れ親しみ、頼りにしていたものの一つだ。
多少の変化でも、彼が気付くのは当然と言えた。
しかし、そんな言峰など意にも介さず男は続ける。

「ああ、すまないね…私の友に神父がいてね…ついつい親近感を覚えて名乗ることを忘れてしまったらしい。
 ほら、君も聞いたことがあるだろう?
 『昔のガールフレンドに似ていた女性を目で追ってしまった』だとか『昔飼っていたペットに似ているからどうしても嫌いになれない』だとか…
 そういうアレさ…」
「……」
「私の名は『DIO』。何、そう身構えることはない…少し『話』をしよう。
 そうだな、私も名乗ったのだから君も…名前を教えてくれないか?」

男の声は、艶やかだった。
ぬるりと心の奥底に侵入し、染め上げるような安心感。
あくまで此方の意思を伺う形の―――そう、例えるならばまるで慈愛の女神のような。
しかし。
この男からは―――言い表せない、全体を把握できないような『悪の大気』というようなものを感じるのもまた事実だった。

「……言峰、綺礼だ」
「コトミネ。ことみね。言峰…いい名前じゃあないか。
 わたしが持つ日本の知識は少ないが…それでも口に馴染むいい名前だと思う」

まるで、口に含んだ食物をゆっくりと味わうように。
反芻し復唱し、まるで長くを共にした友であるかのように親しみを持ってその名を繰り返す。
不気味だ、と。言峰は素直にそう思った。

「ところで、話を戻そうか…『引力』。『出会い』。人と人の間にも『引力』がある…。
 わたしたちの出会いは『引力』によって引き寄せられた…この出会いにも『価値』と『意味』がある。そう思わないかい?」

こいつは、何を言っている。
それが言峰が抱いたシンプルな感想だった。
このような悪趣味なものに巻き込まれ、殺しを強制されているこの状況下で、哲学の授業でも始めようというのか。
だというのなら、馬鹿らしいの極地。
言峰は師である遠坂時臣と結託し聖杯戦争を裏から動かすため、暗躍している。
このような悪趣味なものに巻き込まれている時点で不本意だというのに、見知らぬ男の哲学を相手する時間などない。

「何が言いたい。ただの世間話だというなら」
「そう焦らないでくれよ…言峰。
 仕方ない、急ぐ君に合わせて結論から言うとだな…私と手を組むつもりはないか?」
「…何?」

言峰の眉が、ぴくりと動く。
その瞬間を、男―――DIOは見逃さなかった。
まくし立てるように、次々と言葉を吐き出す。

「簡単な話さ…このDIOにとってこのような催しを勝ち抜くことは簡単なのだけれどね。
 わたしは訳あって日光の下を歩くことができないんだ―――太陽アレルギーでね。
 そのために昼に私を助けてくれる仲間がほしい、というわけだ」

つまり昼に自由に使える人間がほしい、ということかと言峰はその真意を見抜く。
言峰は聖職者だが聖人君子ではないし、戦闘のいろはも知らない子供でもなければ言われた言葉を素直に信じる純粋な少女でもない。
いくら相手の言葉が上手かろうと相手にただ利用されるだけのつもりはなかった。
つもりは、なかった。

「何、報酬は何もなしというわけではない。
 わたしに協力してくれるのなら―――『君が心から望むもの』をみせてあげよう」

ガツンと、金槌で頭を殴られるような錯覚を起こした。

「今の世界に―――己の感性と合わない世界に苦悩しているのだろう?
 安心するといい、わたしならその苦悩を取り除いてあげられる」

己の深い部分を、奥底の苦悩を一突きで言い当てるその声は。
まるで、聖母の如き優しい声で―――それは、正面ではなく背後から響いた。
背後。
正面から一瞬で掻き消えたかと思えば背後に現れたDIOは密着しそうなほど言峰に迫り、一言。

「―――友達になろう、言峰」

それが。
言峰綺礼が聞いていた、最後の言葉―――


「はあッ―――!!!」
「ぐううっ!?」

では、なかった。
言峰の背中の筋肉がまるで装甲のように隆起する。
ドガン!!と。大砲が壁を打ち抜いたような轟音が響くと共に、DIOの身体が後方へと弾け飛んだ。
フウゥーと、肺に溜まった酸素を排出する。
八極拳―――『鉄山靠』。
身体のバネ全てを稼動させ背中ただ一点に集約された衝撃はいとも容易くDIOの身体を打ち抜いた。
壁が崩れた音が響く。
DIOが衝突した壁が、衝撃に耐えられず崩壊したのだ。
ガラガラと音を立てて山になった瓦礫の中を調べれば、DIOの死体が現れるだろう。
本気で。手加減すらなく。、一切の躊躇を挟まず、打ち抜いた。
心の臓を砕くつもりで叩き込んだ。手応えも十分。
―――DIOの言葉は、言峰を揺るがすには十分だった。
実際、英雄王ギルガメッシュのような人を魅せ酔わせる『カリスマ』を一度目の当たりにしていなければ呑まれ、DIOの甘言に乗せられ傀儡になっていたであろう。
その道は。他者の辛苦を蜜とする生き方は、言峰綺礼にとって最も許されざる道だ。
その道を歩むことはありえない。生涯、ないと宣言しても構わない。
しかし。
あの言葉に―――安心感を感じたのも、事実だった。

「…迂闊だったな、DIO。貴様のようなヒトを惑わす、他者の辛苦を蜜とする存在に左右される私では―――」
「―――中々いい一撃だった…今のは確か、『八極拳』というのだったかな…?」
「ッ!?」

またもや背後から声が響いたその瞬間。言峰は音すら置き去りにして、反転し拳を叩き込む。
正確無比な脳を狙った攻撃。心臓で駄目ならば脳だ、と長年の経験が勝手に判断した。
しかし。
避けようが無い一撃は、空を切る。
先ほどまで声が聞こえていた場所に、既にDIOはもういない。

「人間が鍛錬することでそこまで成長することが出来るとは…驚いたよ、言峰。
 このDIOもガードせざるを得ない一撃だった…並みの人間では今ので死んでいただろう」

DIOは―――まるで玉座に座る王のように、窓際に鎮座していた。
月明かりがDIOを照らす。
赤い瞳、金の頭髪。性別を超越したようなその美貌。
どれをとってもミケランジェロの彫刻を凌駕するほどに美しく―――だが一際目を引くのは、その隣に存在する金の大男だった。
丸太ほどの腕と足を持つその姿は否応なくその力強さを訴えかけてくる。

「なん、だ…その金の大男は…?サーヴァントか…!?」
「この『世界』が見えているのか…?
 そうか…あの女のスタンド能力か何かか…」

DIOは顎に手を当て、考え込むような仕草をした後、言峰を見据えた。

「まあいい…あの女のスタンド能力が何であろうとこの『世界』の前では道端に転がるガムの包み紙と同義よ。
 今はそれより大切な話がある…なあ、言峰」

言峰の身体が強張る。
その様子を愉しそうに見つめながら、DIOは言葉を紡ぐ。
それは、道が分からないと泣く子供に優しく道を指し示す大人のように。

「今、君の思っていることを教えてやろう、言峰。
 こう考えているのだろう?『このDIOとかいう男の言葉には惑わされてはいけない』と…。
 確かに、新しい道へと進むのは勇気がいることだ」
「黙れ」
「このDIOもそうだった…新しい自分になるのは勇気が必要だった。
 だがね…『ソレ』を乗り越えたとき、途轍もない満足感と幸福感を得ることができる」
「黙れ…」
「自分に『正直』に生きることだ…言峰」
「黙れッッッ!!!」

私は貴様らのような外道とは違う、と。
言峰は激劫しながら、DIOへと飛び掛る。
筋肉を収縮させる、心臓が血液を全身へと送り込む。
そして、拳がDIOに迫ったその瞬間。

「また会えたな、DIOおおおおおおッ!!」

第三者の声が、その衝突を止めた。







▲  ☆  ▲



ポルナレフがその場にたどり着いたのは、まさに言峰がDIOに一撃打ち込んだその瞬間だった。
隙を見て暗殺しようと構えていたのだ。

(あの野郎ッ!!またあのスタンド能力を使いやがったッ!)

謎のスタンド『世界』。
その能力は未だ不明―――ポルナレフもここに連れられる前、一度だけ体験したが全貌は一切掴めなかった。
そしてそうこうしている内に神父らしき男がDIOに飛び掛ったのだ。
詳しい話は聞こえなかったが、神父の戦闘スタイルはポルナレフも確認していた。
見るからにスタンドを持っているようには見えない。
このままでは―――あの神父は、成す術もなく殺されるだろう。
ポルナレフは、これ以上目の前の人物が死ぬのは耐えられない。
ならば。
自分が出て、戦うしかない。

(アブドゥル、イギー…おれに勇気をくれ)

「また会えたな、DIOおおおおおおッ!!」

そして。時間は現代に再び舞い戻る。

▲  ☆  ▲

「ほう…ポルナレフか。久しぶりだな」
「うるせえ、この引きこもりヤローが!」

銀髪を逆立てた男・ポルナレフの乱入により、言峰の勢いは止まる。
敵か味方かもわからない存在を前に戦えるほど言峰は考えなしではなかった。
すると、ポルナレフはゆっくりとその手を横に掲げ、言峰に下がるよう伝える。

「スタンド使いじゃねえてめーに勝てる相手じゃねえ、下がってな」
「スタンド…?」

言峰が、その言葉を復唱する。
スタンドとはあの大男なのかと察したが、確証がなかった。

「今は説明している暇はねえ続きはアイツを何とかしてから―――」
「ほう。このDIOを何とかする、か…大きく出たな。ポルナレフ!」
「黙りな。てめーはここで切り刻んでやる、『銀の戦車』ッ!」

ポルナレフは会話など要らぬとばかりに、その銀の戦車のレイピアを振るう。
しかし当たらない。『星の白銀』並みの精密動作とパワー、スピードを持つ世界には並の攻撃は当たらない。

「いつもより太刀筋が鈍いぞ、ポルナレフ。恐怖しているな?」
「ああ。ここでてめーを倒すことができると思うと喜びで、剣が鈍りそうだぜ!」
「ならばここでその喜びを消し去ってその自慢の剣を研いでやるぞッ!」

一閃。回避。切り払い。回避。突き。回避。
世界の殴打。回避。防御は不可能。世界のパワーを銀の戦車で受け止めることはできない。
よって防御ではなく、回避に専念。
隙を見て、切り刻む。
世界の蹴撃。一撃、二撃、三撃回避。しかし四撃目は回避出来ず、掠りポルナレフの頬に切り傷が刻まれる。
その攻撃が掠ったことによるポルナレフの一瞬の隙。
それは、致命的だった。

「無駄だ。貴様は確かに素晴らしいスタンド使いだが、このDIOの足元にも及ばんッ!
 この『世界』の能力を使うまでもない」
「なッ!?」

銀の白銀の足首を、世界が蹴り飛ばす。
ぐらり、と。
ポルナレフの体制が大きく崩れた。
その致命的なまでの隙を―――DIOは、見逃さなかった。

「その程度でこのDIOに勝とうなどどは、100年早いわァ―ッ!!!
 無駄無駄無駄無駄無駄、無駄よォッ!!!」

世界の豪腕が、銀の戦車を捉える。
一発だけではない―――そのラッシュは、五発にも及んだ。
いくら銀の戦車が甲冑を纏っているとはいえ、直撃では耐えられない。
銀の戦車えと与えられたダメージはポルナレフへと流れ―――肋骨を四本折り、胸骨体と胸骨柄に罅を刻んだ。
どさり、と音を立ててポルナレフの身体が地面へと倒れこむ。

「ぁ―――」
「哀れだな、ポルナレフ。このDIOに仕える、という賢い選択をしていればそうならずに済んだものを。
 なあ、きみもそう思うだろう?」

その赤い瞳で、DIOは言峰を見据える。
初のスタンドの戦闘を見た時は呆然としたが、今は違う。
DIOの戦闘スタイルを把握し、一番拳を叩き込みやすい構えを取る。
しかし、DIOは仕掛けてこない。

「一つ話をしよう―――このポルナレフという男はな、昔妹を喪っている。
 今の私の部下にその身体を辱められ、屈辱に塗れて殺されたのだ」

ポルナレフの縦に整えられた頭髪を、右足の踵が踏みつける。
ぎしぎしと。ぶちぶちと。

「妹の仇を討つために特訓した。スタンドをだれよちも上手く扱えるよう長年特訓した。
 しかし…その特訓した力でさえも!命を投げ打ってでも倒すという覚悟があってさえも!!
 このDIOには敵わない…全ては無駄、無駄なんだ」

既に意識も絶え絶えなポルナレフを見下ろしながら、DIOは語る。
男の生涯は無駄だったのだと。
妹の仇を取っても、命を投げ打っても宿敵には勝てないのだと。
自分は仇を討ったのだと。それでもあの男は満足できずに殺されるのだと。
そこまで思考し、言峰は発言する。

「それを私に聞かせて、何のつもりだ」

あくまで冷静な言峰に対し、DIOは笑みを浮かべていた。
満足そうな、ニヤリとした笑み。
そしてDIOはゆっくりと口を開き、



「…んん?ああ、すまないつい興が乗ってしまって話すぎてしまったようだ。
 君が『あまりにも興味深そうな顔をしていた』から」


などと、言い放った。

「…は?」

思わず、口元を押さえる。
鏡が手元にないため、手探りで己の口元を触る。
ゆっくりと。恐る恐る。
すろと。
確かに、その口元は三日月型に歪んでいて―――

「―――『銀の白銀』ッ!!」

その先は、斬撃に遮られた。
再び現れた銀の白銀の剣が地面を切り刻む。
そして切り刻まれた地面は砂となり、巻き上げられる。
―――煙幕、だった。
周囲が砂煙に包まれる。
直後。言峰の身体は、何者かに突き飛ばされ、後退した。

「ヤツはおれがやる。おまえは逃げな」

己の口から手を離し、我に帰る。
突き飛ばした方角に存在していたのは、満身創痍のポルナレフだった。
頭から血を流し、胸は凹み痛々しい。
常人が見れば、死んでもおかしくない傷だろう。
折れた骨が臓器に刺さっている可能性もある。

「てめーは他の参加者に伝えてくれ。DIOの邪悪さを、そのスタンドを」

それでもポルナレフは立ち上がり、言峰に逃げろと告げたのだ。
全滅を避け。いつか、自分に変わる誰かがこのDIOを倒してくれると信じて。
言峰の直感も、ここは撤退すべきだと告げていた。
今戦っても―――およそ、勝ち目は0.01に満たないだろう。

「…頼んだ」

故に言峰は手段として、闘争を選んだ。
ただ、一言。
ポルナレフに残して、言峰は全速力で撤退する。

「…おう、頼まれた」

砂煙が、晴れていく。
DIOの立ち位置は全く変わっていなかった。
微動だにせずに―――逃走用の目隠しだと察した上で。
この男は、待っていたのだ。

「待ってくれるとは案外律儀じゃねーか。この薄汚れた吸血鬼が」
「いや…わたしも言峰には席を外してほしいと考えていたのでね。
 今から響く貴様の汚い断末魔を『友達』に聞かせるわけにはいかないだろう?」
「けっ。フラれた身分でよく言うぜ」

DIOは凛とした姿で。
ポルナレフは立つことはできているが、生身の戦闘は難しい。
相対する彼らの空気は、虫一匹入らないほど張り詰めていた。
一触即発。その言葉を体現したかのような空間。
互いの距離は1mもない。
つまり―――どちらの間合いにも、入っているということである。

「それで?未だこの『世界』のスタンド能力すら解明できていない貴様が、このDIOとどう戦うと?」

ポルナレフは、DIOの世界の能力を体験したが、解明するとまでに至ってはいない。
言うならば、ポルナレフは『相手がどんな武器をもっているか全くわからない』状態で戦いを強いられているようなものなのだ。
もしかしら機関銃かもしれない、戦車かもしれない。はたまた、ビーム兵器かもしれない。
相手のスタンド能力がわからないというのはそういうことだ。
圧倒的情報不足。後手に回らざるを得ない戦場。
だが。
ポルナレフは、にやりと不敵に微笑んだ。

「おれたちの旅はいつもそうだった。どんな能力かもわからねえ連中が時間場所関係なく襲ってきた旅だ。
 そんな旅の中でおれたちがしてきた戦法はただ一つだ」

銀の白銀が、ポルナレフの頭上で構える。
すると―――ボコボコに凹んでいた甲冑が役目を終え、剥がれ落ちる。
それと同時に、銀の戦車が掻き消える。
次の瞬間。
ポルナレフの周囲に銀の戦車が現れる。
一体ではない。
二体、三体、四体、五体―――総勢、七体もの銀の戦車が集結した。
これらは全て、残像である。
余りにも早すぎるスピードが生んだ、視覚に訴えかける残像群。
これが、銀の戦車の真骨頂。甲冑を外したスタンド。

「正面からぶっ潰すッ!それだけよッ!」
「そうか」

そのポルナレフの発言も、DIOは粉微塵ほどの興味も抱かなかったようで。
ずわり、とDIOの身体から剥離するように現れた世界がポルナレフを睨む。

「ならば―――死ぬしかないな、ポルナレフッ!」

DIOのスタンドパワーが膨れ上がる。異様なほどの圧力が空間を軋ませる。
しかし、ポルナレフは挫けない。
死んだ友の分まで、戦わねばならない。
自分を守って散った彼らの思いは、果たさねばならない。
その思いを剣に乗せて。
悪しき吸血鬼の首を絶つ―――!!!

「いくぜDIOッ!!」
「くるがいい、ポルナレフッ!!!」

七つの刃と二つの拳が交差する瞬間。














「Moooooooooooooooooooooooッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」





牛の、乱入を受けた。

「「なっ…!?」」

DIOとポルナレフの言葉が同調する。
雷を纏う牛の突進が、DIOの館内部を蹂躙する。
我が道を阻む者は全て轢き殺してやろうと。
壁も床も砕き、蹂躙し制覇する。
それは、戦車<チャリオット>だった。
そう。
彼の征服王イスカンダルの宝具―――『神威の車輪』である。

「おい牛なんて聞いてねえぞ!?チャリオッうわッおい放せぐえっ」

破壊された壁が作り上げた砂塵で、またもや視界が塞がれる。
その中で蛙が潰されたようなポルナレフの声が響き―――音が止んだ頃には、そこには最初からなにもいなかったかのように、誰も存在していなかった。。

「…今のは、言峰か」

只一人―――DIOを残して。





▲  ☆  ▲





「…」

しばらくチャリオットで走り続け、言峰は停止させた。
ぶるる、と力強く響く唸り声に大地が揺れる。

「上手く、いったか」

言峰は改めて己の駆る戦車を視界に納める。
何かが出てくるとは聞いていたが、サーヴァントの宝具まで渡されているとは想定の範囲外だった。
どういう原理なのかもわからない。
そして―――己がポルナレフという男を助けた理由も、わからなかった。

『―――君が『あまりにも興味深そうな顔をしていた』から』

DIOの言葉が脳裏に響く。
自分はギルガメッシュのような他人の辛苦を蜜とする人間ではないと。
貴様のような、DIOとは違うと。
それは許されざる道で、言峰綺礼の歩む道ではないと―――そう証明するために、ポルナレフを助けるなどという危険な行為を犯したのだろうか。

「…ふう」

考えても答えは出ない。
己の行動に疑問を浮かべながら、大きく息を吐く。
ポルナレフは現在気絶している。
救出の際に余りに暴れるので、当身で少しの間持ち運びしやすいようにさせてもらった。

「…ああ、名簿があったな」

そして。
ふと思いついたように、名簿を開く準備をする。
しばらく経ったらここも移動しなければならない、
DIOに追いつかれると厄介なのもあるが、朝になるまでに新たなる同行者を得たいということもあった。
ポンっと。
表示された名簿を見ながら―――言峰は、今後への思いを馳せた。



『わたしに協力してくれるのなら―――『君が心から望むもの』をみせてあげよう』

不気味なほどの安心感を植えつけたその言葉が脳裏から離れないことに、一抹の恐怖を覚えながら。

【D-7/一日目 深夜】
 【言峰綺礼@Fate/Zero】
 [状態]: 健康、精神疲労(中)
 [服装]:僧衣
 [装備]:神威の車輪@Fate/Zero
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~2
 [思考・行動]
基本方針:早急な脱出を。戦闘は避けるが、仕方が無い場合は排除する。
   1:逃げる。
   2:DIOの言葉への興味&嫌悪。
 [備考]
  ※まだ名簿等一切を確認していません。


 【ジャン=ピエール・ポルナレフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
 [状態]:気絶、肋骨、胸骨体、胸骨柄に罅。(行動、スタンド操作に支障はなし)
 [服装]:普段着
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~3
 [思考・行動]
基本方針:DIOを倒し、主催者を打倒する。
   1:(気絶)
   2:DIOを倒す。



  • 支給品説明
【神威の車輪@Fate/Zero】
 ゴルディアス・ホイール。
古風な二頭立ての戦車で、イスカンダルのライダーたる所以とも言える宝具。
その戦闘能力は近代兵器でいうなら戦略爆撃機に匹敵し、小一時間ほどで新都を焦土にしてしまえるだろうとウェイバーは推測している。
牡牛の蹄と車輪が虚空を蹴れば、その都度アーサー王やディルムッドの渾身の一撃に匹敵するであろう魔力とともに紫電を迸らせ、雷鳴が響き渡る。
その様子は大地ではなく稲妻を蹴って駆けるかのようであるらしい。
ちなみに戦車自体も壮麗に飾られているようだ。
御者台は防護力場に覆われており、ジル・ド・レェの怪魔の血飛沫を寄せ付けなかった。
制限として、突進までなら一般人にも使えるようになっているが、騎乗の才を持たない人間には細かい動きは不可能だろう。




「ポルナレフを始末できなかったのは不満だが…まあいいだろう。
 きみならば、もっと面白いものを見せてくれそうだからね…言峰」

実のところ、DIOは言峰自身の歪みを理解してはいない。
DIOがここまで話術で言峰を翻弄したのは―――その、目によるものが大きかった。
完全なる、虚無。
あれは、自分のことすら理解できていない者の目だ。
自分に価値を認めてくれる人物が存在しなかったンドゥールのような者とはまた違った目だった。
DIOが、初めて出会ったタイプの人間。
だから、適当に言葉を紡ぐことで揺さぶったのだ。
そして。
地面に倒れこむポルナレフの話をしたところで―――DIOの興味は最大限となった。
そして理解した。
この男―――言峰綺礼は、本性と理性の狭間で揺らぐ者なのだ。
ああ。なんと、興味深い男なのだろうか。
本性を理性で押えつけるその強靭な精神力を持つ彼がスタンドを発現すると、どのような能力になるのだろうか。

「わたしは期待しているぞ、言峰」

邪悪なる吸血鬼はほくそ笑む。
時間停止による疲労がいつもより増していることがすこし気になったが、それくらいだ。
大きな問題ではない―――むしろハンデとして受け入れてやろうと思えるぐらいには、晴れやかな気分だった。
まずは引越しでもせねばな、と壊れた我が屋敷を眺めながら。
ホテルのスイートルームなど、地図で居心地が良い場所を探しながら。
吸血鬼は、今後の催しに思いを馳せる。

「―――きみが本性に素直になり、わたしと共に歩むそのときを」

妖艶なまでの威圧感と新たなる友への成長に期待を捧げながら。


【C-7/DIOの館/一日目 深夜】
 【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
 [状態]:腹部・胸部にダメージ(小)、疲労(小)
 [服装]:なし
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~3
 [思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
   1:昼の間過ごせる建物を探す。ホテルのスイートルームなどいいかもしれない。
   2:言峰綺礼への興味。
 [備考]
  ※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。


時系列順で読む


投下順で読む


言峰綺礼 049:空に碧い流星
ジャン=ピエール・ポルナレフ 049:空に碧い流星
DIO 044:頭文字D