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MAN WITH MONSTERS - (2016/01/25 (月) 16:12:20) のソース

*MAN WITH MONSTERS ◆NiwQmtZOLQ
「……『禁止エリア』だとォ~~……ッ!?」

ホル・ホースは思わず舌打ちをする。
この殺し合いが始まってからというもの、ルールや支給品をしっかりと確認する時間は確かに無かった。
だが、今は多少無茶をしてでも確認しておくべきだったと深く後悔する。
禁止エリアというルール。それは、先に自分が言ったような「どこかで隠れ潜む」という行為を制限する為のものであろう。
考えれば当たり前だ。あの繭という少女は自分達に殺し合いをしろと言ったのだから。
力を持ちながら正面切っての戦いをせず、ただ逃げ果せて最後の一人を待つ───なんて、一番されたくない事だろう。
だから、ある定点に居続ける事を防ぐ為に、どんどん殺し合いの会場面積を絞っていく。
それを察せなかっただけでもプロ失格だが、それ以上に彼を焦らせていたのは。

(何で選りに選って、『ここ』がッ!この、神社がある『F-3』がその禁止エリアに選ばれちまうんだァ~~ッ!)

彼等が今居る場所───F-3が、それに指定されていた事だった。
無論、三時間という猶予は決して短くはない。バイクを使って移動するなら、そこまで時間制限を気にする必要は無い。
従って、ホル・ホースが焦る原因はそこでは無く。
彼が焦っている原因は、ふと思い浮かんだとある考えが完全に不可能になった事だった。
この神社、シンボルとして地図に載ってこそいるものの、交通の便が決して快適とは言えず武器もないとなれば殺人者の類が敢えて訪れるという可能性はほぼ無に等しい。
従って、ここに来るような人物ならばゲームに乗っている可能性は低い。落ち着いて情報交換を図るにはもってこいの場所だ───それに気付いた彼は、この神社に根を下ろす腹積もりだった。
それが不可能だと、わざわざゲームマスター本人から大々的に言われたのだからたまらない。

(ダメになっちまったモンはしょーがねえなあ~、次の『手』を考えるか)

だが、そこは歴戦の殺し屋ホル・ホース。追い詰められているならまだしも、次善策を考えない程馬鹿では無い。
彼が次の目的地に定めたのは、ここから南にある温泉。
考えてみれば当然とも言える。東はあの縫い目がいるとして論外、即ち向かうとしたらそれ以外が妥当だ。となると、ここから向かう事が出来るポイントは二つ───放送局か、或いは温泉。
だが、放送局というからには放送の機材が存在しない筈がない。そうなれば、誰も彼もが各々の目的の為に放送を流す可能性が高いに決まっている。
なら、そうやって放送を使うような人間はどんな性格か?
───一つ、自分の実力によっぽど自信がある人間。
───一つ、放送に誘き寄せられるマーダーの存在すら分からない大バカ者。
───そして最後の一つ、殺し合いの場を掻き回し加速させようとするマーダー。
世知辛い事に、ホル・ホースの方針と上手いこと噛み合ってくれそうな人物像が浮かび上がりはしない。
となれば、これから向かう先は必然、南の温泉に限られる。
分校からの道路が舗装されているという点に一抹の不安があるものの、あても無しに逃げればどうなるか分からない。
そうと決まれば。ホル・ホースは、目の前の首無しに考えを伝えようと口を開き───



彼女の秘密を知る切っ掛けは、───そう言えば、随分と物騒な始まりだった。
仕事である男を丁度追い詰めた時、背後から首を一閃された。
『首無しライダー』という都市伝説の前に現れた、もう一つの都市伝説───『斬り裂き魔』。
最も、彼女自身はその斬り裂き魔では無く、関係も皆無ではないが責任を持たねばならないような立場でも全く無かった。
その後、なんやかんやあってその事件が終わった時。
その時の彼女の行動から誤解は大体解けて、彼女が良い子だというのも分かった。
それからまた色々あって、もしかしたら友人と言っても過言ではないような間柄になれた。

体内に、少しばかり「非日常」を抱えていたけれど。

まだあどけない、少女だった。


(杏里ちゃん)


───首無しライダーは、涙を拭えない。
───拭うべき涙を流す、その目を持たないのだから。


(…どうして)


本来の罪歌を振るう姿を見た時、勝てる気がしないと思ったのは嘘では無い。
あの刀の力があれば、大抵の相手は御する事が可能だった筈だ。
勿論彼女はそんな事を望まなかっただろうが、最悪罪歌の洗脳を以って無力化する事さえ出来た筈。

だから、簡単には死なないだろう、なんて。

心のどこかで、そんな事を考えていたのだろうか。


(ごめんね)


───首無しライダーは、無口な妖精だ。
───償いの言葉を紡ぐ、その口を持たないのだから。


「………い、おい!セルティの旦那、聞いてんのかッ!」

びくり、と。
振り向けば、協力者がこちらに話し掛けていた。

『…すまない、考え事をな。それに、この人数が死んだという事に驚いていた』

すぐにPDAに謝罪の言葉を書き込むと、呆れたような溜息を吐きながら言葉を返してきた。

「…そーかい、分かったよ。じゃ、今後について話すぜ。
まずはこのエリアから出なきゃ話になんねえから、移動をすぐに始めるとして…」

彼が提示してきたのは、今後の移動プラン。
それを聞きながら、セルティはせめてとばかりに小さく祈りを捧げていた。

数分後、彼等が乗るバイクは改めて森の中を爆走していた。
だが、それは側から見ればバイクとは言えぬだろうもの。
それを表するならば、正しく黒い弾丸とでも言うべきだろうもの。
バイクの前面から背後にかけて影の暗幕が取り付けられ、前が見えるように数本の筋が通っている。
また、バイクのタイヤの下には『影』が敷かれ、荒れた山道を舗装した道路のように整えてバイクの速度向上に貢献していた。
それらの工夫に改めて感心しながら、しかしその運転手の背後にいるホル・ホースの心中は明るいとは言えない。
思い出すのは、先の会話。
温泉に行く、というその言葉に、特にセルティが反応する事は無かった。
代案として人がいるだろう放送局が出るのではないか、とも考え、もしそうなったらこのお人好しに話をつけられるかと悩んでいた彼にとっては拍子抜けもいいところだが、まあ反論が無いのなら深く言う必要性もない。
その時のセルティの様子───何か悔いているようなその態度について、彼にも予想は勿論着いていた。

(ったくよ~……何も知り合いが死んだくらいでここまで暗くなりやがるのかよ、この化け物さんはよオ~~…)

先の放送で、恐らくは彼女の見知った人間の名前が呼ばれたのだろう。
見ず知らずの自分を助けたような奴だ、知り合いが死んだとなればそれはそれは心を痛めることだろう。
しかし、そうやって精神が不安定になり、いざという時に動いてくれなければコンビの意味がない。

「……なあ、旦那。一つ聞くぜ。誰か『知り合い』が死んだみたいだからよ」

故に、ホル・ホースは直接聞く事にした。
ピクリと反応したセルティに、尚も言葉をぶつける。

「そいつがどんなヤローだったかは知らねーけどよぉ~、ここは『殺し合い』だぜ?割り切らなきゃあやっていけるモンも出来なくなっちまう」

紡ぐ言葉を慎重に選びながら、丁寧に言い聞かせるような話し方。
相手が如何にお人好しと言えど、あまり余計な亀裂を生むべきではない。
だが、だからと言ってここでしっかりと自覚してもらわなければ、今後の危険に繋がりかねないのは先の通り。

「要するにケジメって奴だよ。真っ当な人間として、しっかりする時にしっかりしてもらわなきゃあ俺も道連れになっちまう」

と、そこで。
器用な事に、風除けの影から一本の細い影が分離し、一言だけをPDAに打ち込んだ。
その器用さに軽く感嘆しつつ、触手からそれを受け取り一瞥。

『問題無い』

そこに書き込まれた一言に、ホル・ホースは溜息を一つ。
ひとまずはこの言葉を信じるしかない、という事らしい。
溜息を一つ───ホル・ホースは、改めてバイクにしっかりと跨り。

(ったく、人間みてーな思考しやがって───化け物の癖によお)

ふと、そんな事を考えた。



暫くして温泉───正確には、それを併設した宿泊施設に辿り着いた黒の塊は、その本体を紐解いて二人とバイクの姿へと戻す。
バイクをカードに戻し、目の前の施設を観察する二人。
裏手故に全体像を見る事は出来ないが、そこそこの規模はありそうだ。

「さーてと、まずは中に誰がいるかを調べておかないとなァ~…」

呟き、ホル・ホースがこっそりと裏口へ忍び込む。
異論は無いのか、セルティもそれに倣い、足音も消せるように『影』を廊下に這わせた。
慎重に、音を立てないよう一部屋一部屋を調べる。
厨房、宴会場、そして肝心の温泉。男湯と女湯
最後は、人が潜んでいる可能性が大きい客室。だがここも、幾つか見て回った限りでは僅かな形跡のみといったところで、人自体は見当たらない。
そして、次の部屋。
どうやらこれで最後のようだが、そこでホル・ホースが気付く。
ハンドサインでセルティにも伝え、音を立てずに『皇帝』を右手に握る。
───中から聞こえるのは、紙が擦れ合う小さな音。
神経を尖らせれば薄らと聞こえるそれは、先程から途切れる事なく響いていた。
ホル・ホースは右手に『皇帝』を持ち───と、そこで背後から慌てたように肩を叩いてくるセルティ。
分かってはいたが、と振り返れば、彼女が持つPDAに浮かんでいたのは、

『いきなり攻撃するのか』

という文面。
想像通りの文面は、仮にここで息を殺さないでよかったとしても溜息が出る事が無かっただろう程に呆れ返るようなもの。
PDAをふんだくるように奪うと、慣れない手つきでしかし素早く順応し打ち込む。

『考えてもみやがれ。この中にいるのが殺し合いに乗ってる奴なら、先手必勝は必須なんだ。例え中にいた奴に警戒されたとしても、いきなり殺される可能性よりはマシってもんだろう?』

その言葉にう、とたじろいだような仕草を見せ、しぶしぶ『分かった。しかし私はやらないぞ』と改めて文を返してきた。
『せめて何があってもいいように戦闘の準備だけはしときやがれ』とだけ返事をして、襖に向き直るホル・ホース。
心の中で指を五本立て、タイミングを図る。




───四本。




息を止め、集中力を高める。




───三本。




『皇帝』を握る手から、全くの震えが消える。




───二本。




襖に掛けた手に、ゆっくりと力が増している。




───一本。




身を低くし、突入の姿勢を整えた。




───ゼロ。




「邪魔するぜッ!武器を捨てな、そうすりゃ何も───」

ホル・ホースが襖を乱雑に開け、銃口を中へ向ける。
典型的な脅し文句は、しかし途中で途切れる。
その理由は簡単。その文句の「聴き手」が存在しなかった。
部屋の中に転がっているのは、何らかの規則に従って並べられたようなカードだけ。
更に一拍置いて、後方から何かを打ち付けるような音。
どういうことだ───そう呟こうとした瞬間、ほぼ反射的に彼は跳ぶ。
その直感は正しく、先程まで彼がいた場所には、見覚えのある武器が突き刺さっていた。
そこにあったのは、巨大なバサミ。

「…ッ縫い目、テメーッ!」

着地と同時に数発の『皇帝』を放ち、縦横無尽に弾丸を曲げる。
だが、これが本当にあの縫い目だというのなら殆ど詰み。先手を取られた時点でこちらに勝ちはないのは、つい数時間前の戦いで散々分かっている。
そうなれば、後はもうセルティのバイクで脱出するのみだ。
彼は壁に背を向けつつ振り向き、自分の相棒へと声をかけようとして、

「なっ……!?」

───影と拮抗する数匹の蛇と、その中心で相棒を持ち上げる『悪魔』の姿だった。
それを何故悪魔と断じる事が出来たかと言えば、それがどうしようもなく悪魔らしい風貌だったからだろう。
他人を魅了するような妖しく美しい顔立ちに、背中に生えた禍々しい双翼。
そして、その全身から発せられる、圧倒的な邪気。
よく見れば先の物とは色が異なるハサミで勘違いしたが、針目では無かった───そう安心出来る程楽観できる状況では、まずない。

───間違いねぇ。
───こいつぁ縫い目と同程度か、それ以上のバケモンだ。

「…へ、へへ、わりーな旦那。何も殺し合いに乗ってるって訳じゃあ無えんだよォ~~。
こっちも矛を収めるからよ、そっちも相棒を離してやってくれねえか~~……?」

尚もセルティを壁に叩きつける悪魔へと、一先ず彼は話し掛ける。
その言葉自体は遜ったものであるが、決して媚を売っているだけではない。
虎視眈々と隙を伺いつつ、それを隠すように慎重に言葉を紡いでいた。

「ふ、元はと言えば貴様らが襲ってきたのだろう。こういうのを正当防衛と言うのでは無いか?」

嘲笑混じりの悪魔の台詞。
これにはホル・ホースも歯噛みする。何にせよ、自分達が先に仕掛けたのは確かだ。そこに強い反論が出来ないのは、この場の二人にとっては大きなマイナス。
だが、だからと言ってここで諦める訳にもいかない。

「いや、本当にこっちは殺そうとしたんじゃあ無えよお~~ッ!
ただ中にどんな人間がいるか分からなかったから、一応の予防策を取らせてもらっただけだよオ~~ッ。敵はいるのに対策も無くツッコむなんてのぁ、この場にしちゃあ『ホットドッグを持ってトンビの群れに向かっていく』位のアホンダラがする事だとは思わねーかぁ、旦那よお~~ッ!」

わざと大きなリアクションをとりつつ、戯けた様な口ぶりで説得を続ける。
馬鹿と思われようと構わない、それで一瞬でも時間が稼げるなら僥倖だ。
もしあの悪魔が油断してくれれば好都合、『皇帝』を構え射撃だ。セルティは影のスーツを着ている、心配はいらない。

(何も当たりはしなくていいんだぜぇ~~……、それで旦那さえ解放出来りゃあバイクが使えるんだからよオ~~)

得物で勘違いしたが、こちらも下手すればその縫い目並みの化け物だ。
自分達に制するには不可能と思しき相手。だからこそ、出来るのは逃げて同じような化け物と潰しあってくれるのを待つ事だけ。
尤もそれも、ここから逃げられたら、という仮定の話だが。

───数秒の静寂。

セルティを掴む手が、僅かに緩む。
瞬時に発現させた『皇帝』のトリガーを引き、同時にセルティへと走り出す。
突如出現したその弾丸が向かう先は、彼女を掴む腕。
冷静に躱す悪魔───だが、返ってくる弾丸に少なからず動揺する。
『皇帝』の弾道変更に不意を突かれ、悪魔はセルティから必要以上に距離を取ってしまう。
尚もそれを追うように弾丸の軌道を変化させつつ、ホル・ホースは走る。
逃げるぞ、と叫ぶ労力も惜しい。カードを取り出そうとする彼女へと、その手を思い切り伸ばして、








「中々悪くは無い芸だが───残念だったな」

二人の合間に、平然と悪魔が舞い降りた。
───圧倒的。
力の差に嘆く暇もなく、二人揃って武器を向けられる。
マシンガンの銃口が、ホル・ホースを捉え。
片太刀バサミの刃が、セルティの体へ迫り。
そして、そのまま───

「まあ、いいだろう。戦力にはなりそうだ」

引き金は引かれず、刃は反転して峰打ちとなる。
武器を下ろしながら、アザゼルは驚く二人へと告げる。

「言っておくが、貴様等がゲームに乗っていると分かったらそこで殺す。くれぐれも変な気は起こすなよ」
「…何だって、こんなまどろっこしいマネを?」
「簡単だ。こちらも戦力が欲しいだけだ」
『それなら、私を掴んだ時にそれを言えば良いだけの事じゃないのか?』
「万が一裏切った時に何か切り札を持たれていては敵わないからな。
あの時はまだこの男に余力があったが、流石に二人共追い詰められれば切り札も躊躇せず使う筈…違うか?」

反論は無い。
今逆らおうと何が出来る訳も無い現状で動くほど、この二人は考えが回らない訳ではない。
それにもまた満足したように、アザゼルは───

「さて、ここから貴様等には俺に従ってもらう。…なに、取って食おうと言う訳ではない。
ただ───少しばかり協力してもらうだけだ。この殺し合いを破壊する事に、な」

比喩でも何でもない、正真正銘の「悪魔の笑み」を浮かべた。




そこからは、暫く情報交換が進んだ。
セルティ達からは、縫い目の女と刃牙という青年、そして彼女達の知り合いについて。
そしてアザゼルからは、彼の知り合いの話と───タマやウィクロスについて、その説明がされた。
まだ二人を信用していない為、繭に繋がると思われる情報は言わなかったものの、それでも二人を驚かせるには十分だった。
元々非常識な存在である為か、そこまで驚愕が続くという事も無かったが。

「さて、悪魔の旦那。ここからはどう動くんだ?」

と、そこでホル・ホースが顔を上げる。
彼のアザゼルへの接し方も、一応はこれで成り立っている───ここまで円滑な会話が出来るようになったのは、偏にセルティの苦心の賜物なのだが。
最初は「随分と偉そうな口を利くな」だの「一応は協力関係だろう」だので話が進まなかったくらいなのだから、遙かにマシになったと言える。

「ふむ…貴様等もいる事だ。そろそろ俺も動き出す頃合いだな」
「了解だぜ。何処にするんだ?」

徐に立ち上がり、アザゼルは言い放つ。
それに同調するようにホル・ホースも腰を上げ、そう言葉を繋いだ。
───とは言っても、だ。ホル・ホースは考えていた。
ここから向かうなら、恐らくは東経由で市街地のみだろう。それくらいしか選択肢が無いのは、これまでの話と推測から簡単に分かる───

「放送局だ」
「だろーなあ、放送局…………………………───は?」

呆気に取られるホル・ホース。
そんな彼を嘲るように笑いながら、アザゼルは言葉を続ける。

「どうした、不服か人間」
「ふ、不服も何もよオ~~ッ!放送がもし出来ると言うなら、仲間と合流したい人間なら必ずそこに向かうッ!つまりは一番どんな人間がいるか分からねえ場所だ!この島の中でもトップレベルに危険な場所ッ!何があるか分かったもんじゃあ無え!」
「ハッ、何を言うかと思えば。俺が人間に遅れを取るとでも?」

その言葉に、ぬう、とたじろぐ。
この悪魔の実力は先の一戦で分かっている。DIOはともかくとしても、縫い目や承太郎ならば打倒し得る程度の実力は十分ある。
だが、それでも納得はいかない。
彼が求めるのは身の安全。常識を遥かに超えたこの島で無茶な行動をするという虎穴に入る位ならば、虎子を得るのは諦めるというのが彼の思考。
と、ふと見ればセルティが何やらPDAをアザゼルに見せている。

『一応聞いておくが、何故放送局なんだ?』
「人が集まるにはもってこいだと、今そこにいる人間が言っていただろう。ならばこの娘が言うるう子とかいうのもいるかもしれないからな。
ともすれば、先程貴様等に教えてもらった放送とやらを利用するのもいいかもしれんな。
この島全体に呼び掛けられるなら、小湊るう子やその知り合いの耳に全く入らない事もないだろう」

その発言に、思わずホル・ホースは肝を冷やす。

(ハ、ハァ~~ッ!?正気かッ!?こんな場所で放送なんて、幾ら何でも自殺行為だろうがよォ!イかれてんのかこの悪魔ヤローはよぉ!)
『なるほど…人を集めるだけなら市街地もありかと思ったが、それなら一理はあるな。だが、少し危険過ぎる気もするが?』
「ふん、だからこそ戦力を整えさせてもらった。無いとは思うが、仮にあの聖女のような人間が大挙すれば俺一人では対処しきれん可能性もあるからな」

そこでふと顔を上げ、時計を調べるアザゼル。
時刻はもうすぐ八時、そろそろ動き始めたいという頃合いだ。

「───さて、俺は先に出ている。準備が出来たら来るがいい
それとも、今この場で逃げ出してみるか?」

そう言い放ち、一足先に外へ出て行くアザゼル。
その後ろ姿を見ながら、ホル・ホースは小さく舌打ちする。
正直言えばここで逃げ出してしまいたいが、そんな事をすればもっと面倒になるだろう。
というより、わざわざ自分から姿を消した辺り、そうやって逃げ出すかどうかを図っているというのが正しいのかもしれない。
それなら、ここは着いていった方がいいだろう───少なくとも、あの悪魔が並外れて強いのは確かなのだから。

(しょうがねえ…どうしようもなくマズくなったら、その時は隙を見て逃げさせてもらうとすっか)

横を見れば、セルティもこちらを見るようにヘルメットを向けて、小さく頷く。
どうやら彼女も似たような事を考えついたらしい。
───数刻の後、頷き返す。
そして、二人はアザゼルを追って玄関へと向かった。

「アザゼル、何かあったの?」

玄関へと出て、「小湊るう子へ」と書かれた封筒を目立ちそうな場所に置いてある最中、タマが小さく呟いた。
その表情は固く、何やら怖がっているように見える。

「───ああ、この封筒なら案ずるな。中身はお前を持っている事と、次々回の放送の際にもう一度ここに来る事が書いてあるだけだ。
…娘よ、どうしてそう思う?」
「…アザゼル、楽しそう。でも、るうみたいな顔じゃない。…ウリスみたいな、怖い顔してる」

その言葉で顔に手を当ててみると、自分が笑っている事に気が付いた。
どうやら、自分は思っている以上に興奮しているようだ。
今タマが言ったウリスとかいうのも中々に面白そうだと感じたが、それが些事に感じる程に大きな興味が生まれているらしい。

「ふん、少し気になるものを見つけただけだ。気にするな」

そう言いながらも、アザゼルの顔に笑いは絶えない。
彼が思い浮かべるのは、先程の二人の片割れ。

(あのデュラハン…)

セルティ・ストゥルルソンと言ったか。
あのガンマンと険悪になりかけた際にはそれを諌め、丁寧にこちらに接してきた彼女。
彼が知るデュラハンとは大きく異なっていた為敢えて深くは触れなかったが、あの自分やガンマンへの態度はアザゼルの興味を引き付けた。
その協調を心掛ける態度は、彼の世界の魔物では決して有り得ないだろう、喩えるならリドファルド家の息子のような純粋さ。

───どうやら、案外面白くなりそうだ、と。

翼を広げながら浮かべた笑みは、悪魔に相応しい凄惨な物だった。

【G-3/宿泊施設付近/朝】
【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】
[状態]:疲労(小)
[服装]:普段通り
[装備]: V-MAX@Fate/Zero ヘルメット@現地調達
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、
    黒カード:PDA@デュラララ!! 、宮内ひかげの携帯電話@のんのんびより

[思考・行動]
基本方針:殺し合いからの脱出を狙う
1:放送局に向かう。
2:ホルホースの相棒として行動する。
3:知り合いとの合流。臨也には一応注意しておく。
4:縫い目(針目縫)はいずれどうにかする
5:旦那、か……まあそうだよな……。
[備考]
※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。
 少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。

【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:デリンジャー(1/2)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:生存優先。女は殺さない……つもり。
1:セルティの相棒として行動する。
2:ジョースター一行やDIOには絶対に会いたくない。出来れば会う前に野垂れ死んでいてほしい。
3:刃牙を相棒の候補として引き入れたい……が、無理はしない。

[備考]
※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です
※犬吠崎樹の首は山の斜面にある民家の庭に埋められました。

【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
 [状態]:ダメージ(中)、
 [服装]:包帯ぐるぐる巻
 [装備]:ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS、市販のカードデッキ@selector infected WIXOSS
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~1枚(確認済)、片太刀バサミ@キルラキル、イングラムM10(32/32)@現実、タブレットPC@現実、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid
 [思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す
0:放送局へ出向き、小湊るう子を探す。必要なら放送を行う事も視野に入れる。
1:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
2:ファバロ、カイザル、リタと今すぐ事を構える気はない。
3:繭らへ借りを返すために、まずは邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
4:繭の脅威を認識。
5:先の死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。
6:デュラハン(セルティ)への興味。
7:第三回放送の際には温泉に戻ってくる。
 [備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
※繭とセレクターについて、タマから話を聞きました。
 何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。
※繭を倒す上で、ウィクロスによるバトルが重要なのではないか、との仮説を立てました。

※温泉施設の玄関に、「小湊るう子へ」と書かれた封筒が置かれました。中にはアザゼルがタマを持っている事、第三回放送の際に温泉施設に戻ってくる事が書かれています。


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|096:[[ノーゲーム・ノーライフ]]|アザゼル|123:[[Spread your wings(前編)]]|