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真夜中の狭間 - (2015/09/05 (土) 09:54:57) のソース

*真夜中の狭間 ◆zUZG30lVjY
黎明。
諸島の北方に位置する橋の袂、その西側の縁に、セイバーは静かに佇んでいた。
血にまみれて久しい聖剣に手を掛ける。
周囲に敵の気配はない。
敵どころか生命が存在するかも疑わしい静寂が、薄明るい黎明の空を満たしている。
これから成そうとすることが何であるかを考えれば、周囲に誰も居ないのはまさに僥倖。
セイバーは聖剣を両手で構えながら、改めて思索を巡らせた。


――令呪に近い強制力が働いているのか、あるいは意図的な劣化を加えた上で現界させられたのか――
――いずれにせよ本来のステータスからは大きく劣化させられている――
――マスターを失って単独行動する弓兵(アーチャー)の能力低下を思わせるほどに――
――ならば、本格的に殺し合いに身を投じる前に、確かめておかなければならない――
――この身に残されている力がどれほどか。そして――


心を静め、聖剣を頭上に掲げる。
マスターであった切嗣との繋がりは絶たれているが、十分な量の魔力がどこからか供給され続けている。
その魔力を聖剣へと注ぎ、黄金の輝きを獅子の唸りの如く滾らせて。


「約束された(エクス)――――」


一秒余りの間の後に、一切の迷いなく振り下ろす。


「――勝利の剣(カリバー)!」


光の斬撃が一直線に橋の真上を駆け抜ける。
膨大な熱量を帯びた余波が欄干を木の葉のように吹き飛ばされる。
舗装材のアスファルトが刹那の間に融解、燃焼を経て気体と化し根こそぎ消え失せる。
次いで瞬間的な熱膨張によりコンクリート製の橋桁が膨れ上がり砕け散る。
破壊は橋脚にまで及び、斬撃によって二つに割り砕かれた橋全体が、無残に焼け焦げ融解した残骸と成り果てて海へ落ちていく。
最後に、飴のように溶け曲がったアーチ部分が水面を叩き、絶望的な蹂躙が終わりを迎えた。

「…………」

静寂の中、セイバーは微かに顔をしかめた。
一撃で地形をも変えうる暴力。対軍宝具の衝突ですら遥か高々度からも視認できる破壊跡を残すほどであり、対城宝具は更にその上をいく。
だが、他の参加者が目撃していれば即座に生還を諦めたであろう光景でありながら、当の本人にとっては不満の残る結果であった。

「やはり弱められている……」

弱体化はセイバー本体のみならず宝具にまで及んでいた。
注ぎ込んだ魔力の量から判断して、破壊規模はこれの数倍あるいはそれ以上に達するはずだった。
しかし実際は想定を大きく下回っていた。この程度ではランクで劣る対軍宝具と大差ない。


――試し撃ちをしておいて正解だ。


セイバーは内心で深く頷いた。
いざというときになって初めて聖剣を振るい、想像以下の結果に終わってしまったら目も当てられない。
無論、莫大な魔力を注ぎ込めば本来の性能を発揮させることも可能かもしれない。
だがそれは最後の手段。行動不能どころか消滅とも引き換えになりかねない切り札と考えるべきだ。

「消耗は……短時間のうちに二回が限度……いや、それでは通常の戦闘に支障を来す。余裕を持たせるなら半日に一度、か」

何はともあれ、大量の魔力を使うだけの価値はあった。
戦場において正確な戦力把握は命綱。千金に値する情報だ。
セイバーは未だに陽炎の立ち上る橋――の痕跡から視線を外し、少しばかり離れた場所に立った。

そして、躊躇うことなく海へと跳躍した。

華奢なシルエットが弧を描き、当然のように水面へ『着地』する。
まるでそこがただの大地に過ぎぬと言わんばかりに、セイバーはそのまま水面を蹴って対岸へと駆け抜けていく。
セイバーはその身に湖の精霊の加護を宿している。
どれほど深くどれほど広い水場であっても、彼女にとっては地面と変わりない。

「……皮肉なものだ。これから私は、切嗣が何よりも好みそうな策に手を付けようとしている……」

疾走を続けながら、セイバーは自嘲気味に呟いた。
聖剣で橋を破壊したのは、宝具に科せられた弱体化の幅を計るためだけではない。
他でもない『橋』を破壊すること自体にも意味があるのだ。
地図を見れば誰でも分かるとおり、殺し合いの舞台は三つの島から構成されている。
その島々を繋ぐのは四つの橋梁と一つの鉄道。
仮に、これらが消失したらどうなるか。

島嶼間の往来の断絶は参加者同士の合流と離散を妨げる。
徒党を組んで凶手から身を守ることが困難になり、殺戮者から遠くへ逃れることも難しくなる。
多数の物資を集めて戦術の幅を広げることも、広く情報を共有して戦略を立てることも阻害される。
その一方、セイバーは水上を移動可能なため何の不利益も被らない。
あまりにも大きなアドバンテージだ。

既にセイバーは『願いを叶える何かしらの力』を勝ち取る決意を固めている。
一箇所に留まって獲物を待つなどという消極的な戦略はとうに捨てた。
三つの島を東から南を経て西へと踏破し、刃を向けてくる者達を斬り捨て、橋梁やめぼしい拠点を破壊して回る。
今回は宝具の試し撃ちも兼ねていたため聖剣を振るったが、次からは無理に真名解放をする必要もない。
並の橋であれば、複数回の通常攻撃で橋脚を破壊し崩落せしめることも可能なはずだ。
そうして最初の場所へ戻ってくる頃には、この島々はセイバーという獅子の狩場と化していることだろう。

「これは戦争だ。聖杯戦争ではない、私だけの……!」

そう、この戦いは聖杯戦争とは根底から異なる。
無辜の民が住まう街で、神秘の隠匿という命題を満たし、流血の代行者として己を律しながら剣を振るう時間は終わった。
この地にいるのは殺し殺されるためだけに集められた者達のみ。
被害を最小限に食い留める配慮など必要ないのだ。
セイバーは正々堂々たる戦いを高く評価するが、奇略や謀略を否定しているわけではない。
人間としての、騎士としての、王としての道を踏み外さない範疇であれば、どのような計略であっても選択肢のうちにある。
ただ、聖杯戦争という民間人を巻き込むべきでない戦場では、そんなものを使うべきではないと考えていただけだ。
マスターだった切嗣への反発心も、民間人を巻き込むのみならず人倫に悖る策すら躊躇わない姿勢への憤りに他ならない。

――ああ、そうだ。懸念があるとすれば、ひとつだけ――

その男、いずれ矛を交えることになるであろう衛宮切嗣。
倫理を度外視して評価する限り、切嗣が謀略に長けていることだけは認めざるをえない。
三つの島を戦場と見立て戦略的に戦うと決めた以上、障害となる危険性がもっとも高いのはあの男だ。
こちらが奇策謀術を解禁したと知れば、それに見合った策略を立てて対抗してくるに違いない。
ましてや相手は元マスター。こちらのスキルもステータスも宝具の詳細も全て知られている。
こと衛宮切嗣に限っては、セイバーの方がアドバンテージを握られている状態だ。
だがそれすらも食い破らなければ、願いを叶えることなど到底できはしないだろう。
海峡を踏破し、崖縁の地表へ飛び移る。
今ここに、猛然たる獅子が降り立った――



【A-4/橋の東側/一日目 黎明】

 【セイバー@Fate/Zero】
 [状態]:魔力消費(中)
 [服装]:鎧
 [装備]:約束された勝利の剣@Fate/Zero
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:なし
 [思考・行動]
   基本方針:優勝し、願いを叶える
   1:島を時計回りに巡り参加者を殺して回る。
   2:時間のロスにならない程度に、橋や施設を破壊しておく。
   3:戦闘能力の低い者は無理には追わない。
   4:自分以外のサーヴァントと衛宮切嗣には警戒。
 [備考]
 ※参戦時期はアニメ終了後です。
 ※自己治癒能力は低下していますが、それでも常人以上ではあるようです。
 ※時間経過のみで魔力を回復する場合、宝具の真名解放は12時間に一度が目安。
  (システム的な制限ではなく自主的なペース配分)
 ※セイバー以外が使用した場合の消耗の度合いは不明です。


[周辺への影響]
A-4の橋が消滅しました。東側の直線上にも被害が及んでいる可能性があります。
近隣エリアや高所からの観測であれば、光の奔流を目撃できたかもしれません。


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