猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

ウラオモテ異界帳01

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匿名ユーザー

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 チョウは扇の大陸には珍しい男性優位の社会です。

 これは男系で氏族――いわゆる、共通した触角や羽の特徴を持つ一族ですね、それを受け継いでいくからです。あるチョウの男とチョウの女が子どもを作ったとしたら、基本的に男性側の氏族特徴を引き継ぎます。だから息子が父親の家を継ぐのが普通なわけです。

 

「陛下、どうして通ってきてくださらないの? わたくしは毎夜毎夜お待ち申し上げているのに。一人で枕を涙で濡らすのは辛いですわ」

「う、うん、わかったから手を離してくれないか?」

 

 市井の民は基本一夫一妻ではあるのですが、身分のある男性は妾や側室を持つことが許されます。それを養える財産の誇示……という要素もあるにはあるんですが、自分の氏族を残していく責任がありますので。幼虫(と書いてコドモと読む)を産ませるためならけっこうひどいこともやります。

 

「わたくしは政略結婚の妻の身、愛など求めておりませぬ……しかし、仮にも身分のある家の娘と生まれたのですから、わたくしにも責務があります」

「いやちょっと白昼堂々とのしかからないでくれる。痛いよ痛い痛い爪が食い込んでるよ! 痛い!」

 

 王族ともなると人生の半分くらいは子作りに駆けずり回るようです。宗主国である獅子国にはおよびませんが、チョウの島にも後宮があります。後宮。噂によれば男のロマンらしいですね。

 

「アリサ、聞こえてるんなら助けてくれよ!」

 主人に呼ばれたのでちょっと行ってきます。

 男性優位って何なんでしょうね。

 

 先代の王は足を怪我をしたのをいいことにとっとと退位し、後宮と公務を年若い息子に押し付けてしまいました。空を飛べる羽があるんだから足の怪我なんて大したことないだろう、と全島が思った。

 といっても獅子国の朝貢国にして傀儡国なので政(まつりごと)に関してはあんまりやることはないんです。政務は派遣された獅子の役人がほとんどをこなしていますから。

 王族の仕事は、台風が来たら王族の名前でお見舞金を送ったり、形だけの任命式をしたり、そういうのが多いです。

 要するに、いるのが仕事ってことですね。

 でも迷信深いチョウの人たちは、王族には特別な力があると信じているそうです。どんな力なのか、ヒトである私にはいまいちぴんときてません。「くそっ右腕に封じられた悪鬼がうめくぜ……」っていう感じなんだと予想してます。

 部屋を出て、珍しい草木やら大きな石やらが並べられた庭に出ると四阿(あずまや)で見目麗しいモルフォチョウの男性が押し倒されていました。さらっと見目麗しいとか言っちゃいましたが、蝶の男はほとんどがマダラです。そしてほとんどが顔面詐欺です。最近は、何がイケメンだったのかわからないくらい麻痺してきました。すべての男が男前っていうのも考えものですよね。しかも内面はただのヘタレだし……。

「リィミヤさま、離してあげてください。騎乗位は羽が折れますよ?」

 リィミヤさまはさすがに私の目の前でことに及ぶ意志はないらしく、掴んだ胸ぐらを離してくれました。解放されて息を吐く陛下。代わりにリィミヤさまが私をにらんできます。視線、痛い。

「アリサ、お前が陛下を甘やかすから陛下もわがままが抜けないのですよ」

 うーん、反論できない。実際、この手の展開止めてるの全部私ですからね。陛下は芋虫に戻ったようにリィミヤさまの体の下から這い出てきます。

「もう少し、優しくしてほしいと思うのはわがままか?」

「一国のあるじたるものが子作りに励まずしてどうしますか! あなたに必要なのは優しさではなく王族としての責任感です」

 ……リィミヤさまは国王陛下の正妃です。出身は、有力な氏族であるアオスジアゲハ。王族とも何度か姻戚関係を結んでいる、由緒正しき氏族です。陛下よりちょっと年上。陛下は幼虫のころから彼女と結婚することが決まっていたそうです。偉い人って大変ですね。

「陛下、リィミヤさまは教養もあるし、自分の氏族だけでなく国全体のことも考える能力があるではないですか、なぜ、夫婦生活に積極的ではないのですか?」

 陛下の肩ばかり持つのも悪い気がして、ついフォローを入れてしまいました。

「悪い蝶だとは思わないよ、思わないけど、……怖い」

 陛下は魔力でできた背中の羽を触りながらつぶやきました。一応折れてはいない模様。

 リィミヤさまは宝石のような羽をそよがせて、悠然と断言します。

「わたくしは何も間違ったことは申しておりません。陛下の方に後ろめたいことがあるから怖いのですよ」

「そういうところが怖い!」

 陛下は震えてます。男は自分より賢い女を恐れると、先王がおっしゃっておりました。

 でも、私も陛下がリィミヤさまのこと苦手な気持ちは少しわかります。正論って怖い。

「畢竟、子を産むのがわたくしでなくてもかまいませんわ。後宮の娘たちと子を成してくださいませ。……で、す、が」

 リィミヤさまは陛下の手を強く握ります。リィミヤさまの笑顔は牡丹が咲くように美しく、それゆえに凄みのあるものでした。

「今日は手始めとして、私と同衾いたしましょう?」

 

「あいきゃんふらい!」

 

 陛下、逃亡しました。後宮はちょっと小高い山の上なので四阿も崖の近くでした。陛下は崖のむこうに消えました。

 その言葉、どこで覚えたんですかね。実際飛べるので問題ないんですけど。

 その後、リィミヤさまの愚痴に付き合わされたこっちの身にもなってほしいです。

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