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 壁の前で、大きく息を吸って、そして吐く。
気持ちを落ち着けたい時には深呼吸というのは定番だけど、実際に落ち着けた記憶はあんまり無い。
でも、やんないとますます落ち着かないので、やっぱりやる。ここら辺、自分でも気が弱いかなとは思う。
お姉ちゃん曰く、「いっつも帰り際にすっげー視線感じるからサー、やっぱウッシーは羽根の生え際フェチに違いないね。もしくは尻」って事だから、今日はちょっと背中の布地を少なめにしてみた。
この季節だとちょっと寒いけど、でもなんか心臓ドキドキしてほっぺたは熱い気がする。
大胆すぎるかもだけど、お姉ちゃんは「ウッシーああ見えて結構ムッツリだから、大胆に攻めた方がサービス良さげよ」って言ってたし、ちょっと頑張ってみた。
でも、よく考えてみたらウッシーさん優しい人だし、いっつもお世話になってるからこれ以上サービスして貰うのも悪い気がする。
でも、それで頑張らないのもなんか違う気がするし、やっぱり頑張る。
自分の頬をパチンと叩いて、もう一回気合いを入れた。


壁を飛び越えて、ふわっと着地する。
この短いスカートだと、もしかしたらちょっとはしたない事になってるかも知れない。
お姉ちゃんは「まぁねー、それもサービスじゃん?」とか言うけど、でも恥ずかしいし。
とりあえず、それは後。今は挨拶が大事。

「ウッシーさん、こんにちわ」

精一杯の笑顔で挨拶する。ウッシーさんは大きくて最初はちょっと怖かったけど、今は平気。

「帰れ」
「大丈夫です。お食事終わったらすぐ帰りますから」

狐には壁で囲った所は自分のモノみたいな変なルールがあって、だから壁の中に入ると意地悪される。
それで、ウッシーさんはいっつも最初に「帰れ」って言ってくれる。わざわざ気を遣ってくれるなんて、すっごい優しい。
だから、余計な心配かけないように、わたしもそれなりに下調べとかしてここに来てる。だから多分、大丈夫だと思う。

「あの、今日もちょっと痛いかもですけど、なるべく頑張ります」
「話を聞け。帰れ」

ウッシーさんは全然話とかしないのに、話を聞けとか変なことを言う。多分、ウッシーさんなりのルールがあるんだと思う。
で、なんか体をワサワサゆすったり、尻尾をブンブン振ったりしてくる。ちょっと可愛いかもしれない。
適度に体を動かすと、血の巡りが良くなってお食事がしやすくなる。やっぱりウッシーさんは優しい。
剥き出しの太ももに尻尾が当たって、痛いようなくすぐったいような変な感じ。やっぱり、スカートはもうちょっと長めの方が良いかも。

「じゃあ、いただきます。ちゅー」
「ぐっ」

ウッシーさんの広い背中にチュッと噛みつく。牛の皮膚は結構分厚いんだけど、わたしたち虻の唾液にはそういうのを溶かす成分とか入ってるので、モゴモゴしてるとすぐに口の中に新鮮な血液が入ってくる。
ウッシーさんは野菜ばっか食べてるので、血はすっごく美味しい。こんなに大きいのに、野菜だけで満足できるとか、偉いと思う。
虻の唾液には、蚊みたいな麻酔とか入ってないから、噛まれると結構痛いらしい。でも、ウッシーさんは多分すっごい我慢してて、痛いとかそういう事を言わない。
虻はなんかいろんな所で嫌われてて、今までわたしに優しくしてくれるのはお姉ちゃんだけだったんだけど、そういう気遣いとかされるとすっごい嬉しい。
だから、なるべく早く終わるように勢い良く血を吸うようにして、なるべく早く食事が終わるように頑張る。美味しすぎて、ついつい吸い過ぎたりしちゃうけど。
口を離すと、ウッシーさんは傷口を押さえてうずくまってた。
血圧とかが急に下がるとなんか辛くてそうなっちゃうらしい。でも、それでも弱音とか吐かない。ウッシーさん強い。

「ごちそうさまでした。今日も、すっごく美味しかったです」
「そんなことは聞いていない。二度と来るな、姉共々」

いっつも貰ってばっかで全然恩返しとか出来てないのに、ウッシーさんは帰り際にもわたしたちの心配をしてくれる。
そうまで優しくされちゃうと、なんていうか、その、ちょっと、困る? あ、でも困らない。すっごい嬉しい。
そうしてるといつまでも居たくなっちゃうから、挨拶をしたらすぐに帰る。
ご飯を貰えて優しくして貰えるとか、すっごい幸せだと思う。
壁を飛び越えるときに短めのスカートのこととか思い出したけど、まいっかと思った。