猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

わたしのわるいひと 外伝02

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匿名ユーザー

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「ヨー。オハナミってなあに?」
「お花見とは、桜という花が開花するのにかこつけて迷惑などんちゃん騒ぎをすることですよ」
「若干の悪意を感じるのはなぜ?」
ソファの上、奴隷と主人が会話をしている。
例によって白いふわふわしたしっぽを奴隷がいじりながら。
私はそれを見ると無性に腹立たしくなった。
両手いっぱいに書類を抱えたまま、オス奴隷を見下ろした。
「お前」
「はい?」
「働け」
ヒト奴隷たるヨーは嫣然と微笑み、ネコたる私に向かってこう言い放った。
「ううん? あなたは働かなくていいんですか? ニュクス? 頼んだ書類は? 名簿の整理は? お得意様の注文した商品は?」
…………。
私の毛皮の上をちりちりとした苛立ちが走っていった。
だからこいつは嫌なんだ。


「掛け軸か」
「綺麗なピンクだね。これがサクラ?」
ぴこぴことしっぽを振りながらライカが言う。
「そうですよ」
薄紅と白黒だけで描いたその絵は、地味になりそうな色構成に反して輝くような華やかさを出していた。
こういうものがよくわからない私にも、一目で名品とわかる。
「これは高く売れますよ。箱も残ってるし」
「ほんと? 生肉買おう!」
「だめです」
えー。とライカがすねたふりをする。
どこの馬の骨とも知れない私を雇ってくれたのはライカに深く感謝している。
が、そのオマケがいけなかった。
「使用人どもに多少は還元しないと、暴動を起こされかねません」
お前が悪いんだろうが。
と暴動を起こしたい人間第一位の私が思う。
ハッター商会のほぼすべてを掌握しているヒト奴隷は、ヒトのくせに人間たちをこき使い、そのくせその責任はライカに押し付けている。
とかく性格が悪い。
「うん、そうだね。たまにはみんなでお酒でも飲もう」
「ご主人様は飲んじゃだめでしょう」
「え、私とっくにお酒飲める歳だよ?」
「…………」
知らなかったな。こいつ。表情のわかりづらいケダマでよかった。私は毛皮の下でほくそ笑む。


夜。ライカ(もといヨー)に残業を命じられた従業員が悲鳴を上げる。
「ニュクスさんおれはもうだめです!」
「あきらめるな! 明日は飲みだ!」
どうして私はこんなことをしているんだろうと時々疑問に思う。
あんなヒト、とっととぶったおして他に行けばいい。しかしその「他」のあてが無いのが私なのだった。
ふらふらになって仕事を終え、二階への階段を上る。
そこにはたぶんヨーがいるはずだ。
ヨーの(本当はライカの)部屋に入った。
ヒトに見えるのかという薄明かりの中で、掛け軸を眺めていた。
「ああ……たぶん知り合いなんですよ。これ書いたの」
ヒト奴隷は、珍しく、「まずいものを見られた」といった顔をした。
なぜか全く嬉しくなかった。
ヨーは自分の(本当はライカの)椅子にどさっと座ると手を組み言った。
「アンダーソン様にお知らせしますかね。あの方なら高く買うでしょう」
あきらめたように、常連の名を出す。
そのあっさりした思い切りっぷりに思わず口を出してしまう。
「そんな思い出の品だったら、手元に置いておけばいいのに。ライカも許すだろう」
「むなしいだけですよ。そんなことしたって」
奴隷はつぶやくように言った。
その妙に生々しい表情に、私は少しひるんだ。
だがその生き物らしい感傷にほっとしたような気もした。
放っておいてやろうとその場を去ろうとし、ふと思い出して付け加える。
「あんまりライカを苛めるとお前がここにいることばらすぞ?」
「いいですよ。そんなことしたら、そこのイケメンケダマが実は少女漫画や少女小説大好きだって大通りに向かってばらします」
「お前いつ知ったぁぁぁぁぁぁァァァ!!」


次の朝、ヨーは私たちを見ると頭を抱えた。
「朝から何やってんですか」
「花見」
私は答えた。ざまあみろ。
「本当にきれーだねえ」
のほほんと言うライカ、掛けられた軸、館の床に散乱する空の瓶。(主にライカの方に集中している)
「軸が汚れたらどうするんですか。てかどんだけ飲んでるんですかご主人様」
「やだなあヨー。このくらい本当に朝飯前だよ」
奴隷はおぞましいものを見るような目で主人を見た。うん、私も少しおぞましい。
次に私に目を向けたとき、軽くとがめるような視線を感じたが、本当に軽くだった。
「開店前に片付けてくださいよ」
そう言うヨーの前にずずいっとコップを差し出す。
「お前も飲め」
「おれはいいです」
「遠慮するな」
「遠慮じゃな、ちょっと待っ」


数十秒後、ふらふらになって奴隷はトイレから出てきた。
「だから言ったじゃないですか……」
「酒に弱いにもほどがあるだろう……お前」
「おいしいのにねー」
今回は一勝一敗というところか。

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