「ヒト肉って美味いんだってな」
ご主人サマがやばい事言い出した。
「おーい、手ぇ止めんなー」
思わず取り落とした作りかけの造花を拾い上げる。
針金に葉っぱ型に切り取った紙を糊付けして、先っちょにピンクの紙を何枚も何枚も何枚も巻きつけて花びらに。
花びらの根本を緑の色紙でぐるぐるに巻いて接着剤で止めてハイ完成。
100本で1センタぽっきり也。ふざけんなやってられっか。
時給いくらだよ。せめてセパタよこせよ。
「なあ実際どうなん? 美味いの?」
「それをあたしに聞く神経がわからない」
「あぁー肉食いてえなー肉にくニク肉」
ご主人サマの目は半マジだ。
あたしのご主人サマはザ・雑種とも言うべき雑種中の雑種なイヌの男で、あたしのよーなか弱いヒト美少女の喉笛くらい素で食い千切れるので全く油断ならない。
「おいおいおい紙ぐしゃぐしゃじゃねえか。ハサミくらいまともに使えねえのかよ。材料だってただじゃねえんだぞ、ったくよぉ」
誰のせいだよ。ハサミくらい使えるよ。
むしろあんたより上手く使えるよ。ナニその葉っぱなんでバラの葉がワカメなのなんでそれで平然としてられるの。
買い叩かれんじゃん! ただでさえ食べていけないのに!
「ねえ……冗談、だよね?」
「あ? ナニが?」
イヌは頭悪い。なかでもご主人サマは特に頭悪い。
「だから就職できねーんだよばかばかばーか!!」
「いきなりなんだテメェ犯すぞコラァ!!」
***ただいまバックで犯され中。ご主人サマがイクまでちょっと待ってね♪
「うぅぅ一生養ってやるって言ったくせにぃ。言ったくせにぃ」
中のご主人サマを締め付けながら嘘泣きしたら、頭撫でてくれた。
「悪ぃ……人生思うようにはいかねえんだよ……」
後ろから抱きしめられてるから見えないけど、尻尾がきゅーんと下がっている声音だ。
ご主人サマは失業3ヶ月目だ。
年中好景気な猫の国といえど、コネ無い学無いガラ悪い、忍耐力にも縁が薄い、自慢できるのは腕っぷしだけな、ぶっちゃけチンピラなご主人サマを雇ってくれる所は多くない。
そんなご主人サマを拾ってしかも高く買ってくれてた大恩ある貴重な勤め先に、ご主人サマは噛み付いて後足で砂掛けて自分から飛び出してきちゃったのだ。どーしよーもない馬鹿だと思う。
分かっちゃいるけど我慢できねぇとか言って、ホント馬鹿。
「腹減ったな」「そうだね、お腹すいたねぇ」
ご飯少ないのに激しい運動するから。
「……肉、食いてぇなあ……」
ご主人サマはもう10日肉を食べてない。あたしは9日。この差は愛と取るべきか、いずれ現物で取り返されると慄くべきか。
とりあえず、切なげに呟きながら首筋やらわき腹やらに指を這わせるのはやめて欲しい。
「あたし美味しくないよー」
「……そういやヒトって食えるんだっけ」
しまったヤブヘビ。
「よし今日からお前は非常食だ。食わせてやるから死ぬ気で太れ」
「死ね」
ちょ、いだだだだ! 無理に抜こうとすんな反則だそれぇ!
「ねえ、あたし働こっか」
「あ?」
首を捻ると、手入れの悪いごわごわの毛皮がちくちく顔に刺さった。
ついでにべろべろ舌入れられた。一応真面目な話してんだけどなあ。
「馬鹿言ってんな。大体お前ヒトじゃねえか。仕事なんかできるかよ」」
「できるよ? 売春」
あたま殴られた。
目から星が出たよ。サイテー。前のご主人サマと同じくらいサイテー。うそうそちょっとだけマシ。
「えーだってー、ご主人サマの日雇い仕事と内職だけじゃそのうち干上がるってー」
「ふざけんな黙れ食うぞ非常食」
生物的に食い物にされるよりは性的に食い物にされるほうがなんぼかマシだと思うんだあたし。
ご主人サマにお金も入るし。どっちが得かって考えるまでも無いよね。
「あと一、二ヶ月もしたら脅しが本気になってるかも」
「他の野郎の精液が染みこんだ肉なんか食えねえだろうが馬ァ鹿」
自分のならいいんだろうか。
「つーかまず食う事前提かよ」
「性的にな? ひひひ」
死ね。マジ死ね。ヒトが本気で心配してんのに、なにその態度。
コレだから頭悪い男は嫌なんだよ。現実見えてないんだよ。
本気で睨んでやってるのにどうして頭撫でてくるんだよ意味わかんない。
「心配すんなよ。なんとかしてやるって」
子供に言い聞かせるみたいな甘ったるい口調に、まぢで頭きた。
「なんとかってなに!? どーすんの!? 当てがあんの!? あのピアスじゃらじゃらの猫の誘いだって断っちゃうしさあ! あんな定期収入のチャンスもう無いよ!?」
「あぁ゛!? ふざけんなアイツが持ってきた話ってのぁヤクの運び屋だぞ!? オレは堅気になるって決めたんだよ! んな仕事できるか!!」
「あ゛ーあ゛ーうざいうざい!! 雑魚いチンピラのくせに何様のつもり!? わかってんの!?使える物使ってできることできるうちにしなきゃ早晩詰みだよ詰・み!!
あたしは、あたしはねえ! ご主人サマのためなら体売るくらいどってことないんだからね!!」
「馬鹿! このくそ馬鹿! お前にそんな真似させたら全部意味ねぇんだよ! 分かれよ馬鹿!!」
……どーして第二ラウンドが始まったんだろう。
しかもなんでか知らないけどしつっこくイかされてもうヘトヘト。腰立たない。
ご主人サマも煤けた吐息を吐いている。出しすぎだっつのばーか。
「腹……減った……」「もうダメ……死ぬ……」
ヤってる最中にカロリー使い果たしたら餓死と腹上死とどっちにカテゴライズされるんだろう。
どっちもゴメンしたいなあ。
「ご主人サマ、いざとなったらあたし売りなね? まだちょっとは値がつくからさ」
顔は見ない。見せない。
ご主人サマが失業したのは、実はあたしのせいだ。
お金も権力も社会的地位もあって、ついでにサディスティックな異常性欲も隠し持ってた前のご主人サマ。
このままじゃ近いうちに殺されると思ったあたしは、前のご主人サマのボディーガード兼汚れ仕事役だったご主人サマを必死で誑かしてカケオチ『させた』のだった。
ご主人サマは馬鹿で、単純で、チョロかった。
ついでにちょっぴり強くて変に優しかった。
こいつぁ使えるぜ骨までしゃぶりつくしてゴミのよーに捨ててやらあ、と内心ほくそ笑んで蔑んでいたものだ。
あたしは自分の都合で、ご主人サマの千載一遇、唯一無二の定職をドブに捨てさせたのである。
だから本当は、ご主人サマになら食べられたって文句は言わないんだけど。
「ほら、肉に変えるよりは金に換えるほうがいろいろ使いでがあると思うんだ?」
「しつけえよお前」
ぎゅっと抱きしめられて、頭撫でられた。
「あんなの冗談だっつのに……わかってんだろうが。そんなに嫌だったのかよ」
優しくしないで。優しくしないでよ。馬鹿イヌ馬鹿馬鹿死んじまえ。
「あーぁ、セックスで腹膨れねえかなあ」
「おんなじ三大欲求だからって無茶すぎる。つーかそれあたしが死ぬ」
引き攣れた傷跡が、毛皮がずたずたに引き裂いているご主人サマの体。
見た目にはかなりみっともないと言うか、見ていられないというか。
あたしが感じるのとは別の意味で善良な一般市民の皆さんなら確実に目を背けたくなる。
カミサマ、あたしが嫌いなのは知ってるけど。今更だけど。
お願いだから、ご主人サマには優しくしてよ。もう、ほんのちょっとでいいからさ。
余計なお荷物なんか、さっさと捨てさせちゃってよ。
ごっつい手がしつこく頭を撫でてくるのを感じているうちに瞼が落ちて、意識が夢に溶けていった。
ご主人サマがやばい事言い出した。
「おーい、手ぇ止めんなー」
思わず取り落とした作りかけの造花を拾い上げる。
針金に葉っぱ型に切り取った紙を糊付けして、先っちょにピンクの紙を何枚も何枚も何枚も巻きつけて花びらに。
花びらの根本を緑の色紙でぐるぐるに巻いて接着剤で止めてハイ完成。
100本で1センタぽっきり也。ふざけんなやってられっか。
時給いくらだよ。せめてセパタよこせよ。
「なあ実際どうなん? 美味いの?」
「それをあたしに聞く神経がわからない」
「あぁー肉食いてえなー肉にくニク肉」
ご主人サマの目は半マジだ。
あたしのご主人サマはザ・雑種とも言うべき雑種中の雑種なイヌの男で、あたしのよーなか弱いヒト美少女の喉笛くらい素で食い千切れるので全く油断ならない。
「おいおいおい紙ぐしゃぐしゃじゃねえか。ハサミくらいまともに使えねえのかよ。材料だってただじゃねえんだぞ、ったくよぉ」
誰のせいだよ。ハサミくらい使えるよ。
むしろあんたより上手く使えるよ。ナニその葉っぱなんでバラの葉がワカメなのなんでそれで平然としてられるの。
買い叩かれんじゃん! ただでさえ食べていけないのに!
「ねえ……冗談、だよね?」
「あ? ナニが?」
イヌは頭悪い。なかでもご主人サマは特に頭悪い。
「だから就職できねーんだよばかばかばーか!!」
「いきなりなんだテメェ犯すぞコラァ!!」
***ただいまバックで犯され中。ご主人サマがイクまでちょっと待ってね♪
「うぅぅ一生養ってやるって言ったくせにぃ。言ったくせにぃ」
中のご主人サマを締め付けながら嘘泣きしたら、頭撫でてくれた。
「悪ぃ……人生思うようにはいかねえんだよ……」
後ろから抱きしめられてるから見えないけど、尻尾がきゅーんと下がっている声音だ。
ご主人サマは失業3ヶ月目だ。
年中好景気な猫の国といえど、コネ無い学無いガラ悪い、忍耐力にも縁が薄い、自慢できるのは腕っぷしだけな、ぶっちゃけチンピラなご主人サマを雇ってくれる所は多くない。
そんなご主人サマを拾ってしかも高く買ってくれてた大恩ある貴重な勤め先に、ご主人サマは噛み付いて後足で砂掛けて自分から飛び出してきちゃったのだ。どーしよーもない馬鹿だと思う。
分かっちゃいるけど我慢できねぇとか言って、ホント馬鹿。
「腹減ったな」「そうだね、お腹すいたねぇ」
ご飯少ないのに激しい運動するから。
「……肉、食いてぇなあ……」
ご主人サマはもう10日肉を食べてない。あたしは9日。この差は愛と取るべきか、いずれ現物で取り返されると慄くべきか。
とりあえず、切なげに呟きながら首筋やらわき腹やらに指を這わせるのはやめて欲しい。
「あたし美味しくないよー」
「……そういやヒトって食えるんだっけ」
しまったヤブヘビ。
「よし今日からお前は非常食だ。食わせてやるから死ぬ気で太れ」
「死ね」
ちょ、いだだだだ! 無理に抜こうとすんな反則だそれぇ!
「ねえ、あたし働こっか」
「あ?」
首を捻ると、手入れの悪いごわごわの毛皮がちくちく顔に刺さった。
ついでにべろべろ舌入れられた。一応真面目な話してんだけどなあ。
「馬鹿言ってんな。大体お前ヒトじゃねえか。仕事なんかできるかよ」」
「できるよ? 売春」
あたま殴られた。
目から星が出たよ。サイテー。前のご主人サマと同じくらいサイテー。うそうそちょっとだけマシ。
「えーだってー、ご主人サマの日雇い仕事と内職だけじゃそのうち干上がるってー」
「ふざけんな黙れ食うぞ非常食」
生物的に食い物にされるよりは性的に食い物にされるほうがなんぼかマシだと思うんだあたし。
ご主人サマにお金も入るし。どっちが得かって考えるまでも無いよね。
「あと一、二ヶ月もしたら脅しが本気になってるかも」
「他の野郎の精液が染みこんだ肉なんか食えねえだろうが馬ァ鹿」
自分のならいいんだろうか。
「つーかまず食う事前提かよ」
「性的にな? ひひひ」
死ね。マジ死ね。ヒトが本気で心配してんのに、なにその態度。
コレだから頭悪い男は嫌なんだよ。現実見えてないんだよ。
本気で睨んでやってるのにどうして頭撫でてくるんだよ意味わかんない。
「心配すんなよ。なんとかしてやるって」
子供に言い聞かせるみたいな甘ったるい口調に、まぢで頭きた。
「なんとかってなに!? どーすんの!? 当てがあんの!? あのピアスじゃらじゃらの猫の誘いだって断っちゃうしさあ! あんな定期収入のチャンスもう無いよ!?」
「あぁ゛!? ふざけんなアイツが持ってきた話ってのぁヤクの運び屋だぞ!? オレは堅気になるって決めたんだよ! んな仕事できるか!!」
「あ゛ーあ゛ーうざいうざい!! 雑魚いチンピラのくせに何様のつもり!? わかってんの!?使える物使ってできることできるうちにしなきゃ早晩詰みだよ詰・み!!
あたしは、あたしはねえ! ご主人サマのためなら体売るくらいどってことないんだからね!!」
「馬鹿! このくそ馬鹿! お前にそんな真似させたら全部意味ねぇんだよ! 分かれよ馬鹿!!」
……どーして第二ラウンドが始まったんだろう。
しかもなんでか知らないけどしつっこくイかされてもうヘトヘト。腰立たない。
ご主人サマも煤けた吐息を吐いている。出しすぎだっつのばーか。
「腹……減った……」「もうダメ……死ぬ……」
ヤってる最中にカロリー使い果たしたら餓死と腹上死とどっちにカテゴライズされるんだろう。
どっちもゴメンしたいなあ。
「ご主人サマ、いざとなったらあたし売りなね? まだちょっとは値がつくからさ」
顔は見ない。見せない。
ご主人サマが失業したのは、実はあたしのせいだ。
お金も権力も社会的地位もあって、ついでにサディスティックな異常性欲も隠し持ってた前のご主人サマ。
このままじゃ近いうちに殺されると思ったあたしは、前のご主人サマのボディーガード兼汚れ仕事役だったご主人サマを必死で誑かしてカケオチ『させた』のだった。
ご主人サマは馬鹿で、単純で、チョロかった。
ついでにちょっぴり強くて変に優しかった。
こいつぁ使えるぜ骨までしゃぶりつくしてゴミのよーに捨ててやらあ、と内心ほくそ笑んで蔑んでいたものだ。
あたしは自分の都合で、ご主人サマの千載一遇、唯一無二の定職をドブに捨てさせたのである。
だから本当は、ご主人サマになら食べられたって文句は言わないんだけど。
「ほら、肉に変えるよりは金に換えるほうがいろいろ使いでがあると思うんだ?」
「しつけえよお前」
ぎゅっと抱きしめられて、頭撫でられた。
「あんなの冗談だっつのに……わかってんだろうが。そんなに嫌だったのかよ」
優しくしないで。優しくしないでよ。馬鹿イヌ馬鹿馬鹿死んじまえ。
「あーぁ、セックスで腹膨れねえかなあ」
「おんなじ三大欲求だからって無茶すぎる。つーかそれあたしが死ぬ」
引き攣れた傷跡が、毛皮がずたずたに引き裂いているご主人サマの体。
見た目にはかなりみっともないと言うか、見ていられないというか。
あたしが感じるのとは別の意味で善良な一般市民の皆さんなら確実に目を背けたくなる。
カミサマ、あたしが嫌いなのは知ってるけど。今更だけど。
お願いだから、ご主人サマには優しくしてよ。もう、ほんのちょっとでいいからさ。
余計なお荷物なんか、さっさと捨てさせちゃってよ。
ごっつい手がしつこく頭を撫でてくるのを感じているうちに瞼が落ちて、意識が夢に溶けていった。