髭の感触
――サウナに閉じ込められる夢を見た。
じっとりと寝汗をかいて目を開けたら今度は顔が痒かった。
ひげの先があたっている。
暑い、お願い、夏はくっついて寝るのは勘弁して、と何度も何度も言ったのに
私が寝ている間に距離が縮まっている。サウナの夢の、顔に当たる蒸気の正体は、
軽いいびきの主が吐く息だったらしい。
触れていた、いや一方的に触れられていた部分が汗ばんでいて暑苦しい。
相手は腹が立つほど気持ちよさそうに眠っている。鼻先齧ってやろうかと思った。
鼻先を闇になれた目で見つめているうち、その下の口に自然に視線が移った。
柔毛の生えた唇から受ける口づけに慣れてしまった。今微かに触れている肩と肩、
意識する程思い出そうとする程、毛の無い肌と直接くっつく感触を思い出せなくなってしまった。
――元の世界に戻るのが一番の願いである事には、変わりがないのだけれども。
考えても詮無い、と頭の位置以外を毛だらけの体から出来るだけ離し、瞼を閉じた。
このひげの感触は何の夢を私にもたらすのだろうか。