猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

猫と小判とペンシルロケット

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猫と小判とペンシルロケット

 

 一週間前、風呂に落ちた。
 風呂ってゆーか大浴場?
 ギリシャローマ風の豪華風呂。うん、そういうの。
 そんで今、まさに今、俺は椅子に縛られている。
 縛られたまま椅子は仰向きに倒されてて、がっつり固定されてる。
 銀色の狭い円筒の中、天井だけがいやに高い。
 天井はとんがったドームっぽく、ちょうどでかい鉛筆の中をくり貫いたらこんなかんじ。
「うおー! はなせーほどけー!」
 半狂乱で暴れてみても身体をがっちり巻いた金属フレームは緩まない。
「うおおおお、俺をどうする気だ、はなせーほどけーお願いしますー!」
 ちょっぴり下手に出てみました。
 返事なし。
 壁と床、ゴゴゴゴゴって揺れてるし。
 外から事務的なカウントダウンが聞こえてたりするし。
 頭にはへんな電極いっぱいついたヘルメットかぶさってるし。
「こ、こ、このカウントダウン終わったとき俺はどうなるですかー!?
 改造人間!? ポップコーン!? マシーンなネジ!?」
 どれもいやだー!
「たすけてー! へるぷみー! 死んだ後でこんなのひどすぎるー!」
 天国はパラダイスと決まってるのにー!
 いや、たしかに風呂に落ちたときはパラダイスだったとも。
 世界がすべて、脹らみ始めの青い裸体から喰いどきの肢体から
熟れきったむっちりまでのオールスター☆女体だった。
 桃色ばら色白色黄色褐色小麦色、この世にはなんと多彩な肌色があったことかー!
 そう、死後の世界とは女風呂だったのだ!
 そっかー、死んだ奴がめったに生き返ってこないわけだよなー、そりゃこっちのほうがいいよなー。
 とりたてていいことも目立ったこともない人生だったけど、良かった!
 生まれてきてよかった!
 天国最高! 死んで正解! ありがとう神様ー!
「男よ!」「オスだわ」「マダラ?」「ヒトよ」「うそ」「見たことない顔よ」
「落ちてきたわ」「いまここに落ちてきたのよ」「ほんと?」「ほんと」
「すごい」「すてき」「ホンモノのヒトのオトコだわ」「しんじられない」
「「「「「まだ誰のものにもなってないヒトのオスだわ―――――!」」」」
 ひそひそぼそぼそ、小鳥さんの声でささやきあう美女軍団。全裸で。
 男一匹チカン扱いどころか、歓迎っぽい。ブラボー天国。GJ神様あいしとる。
 ちょっと前にテレビで見た消臭スプレーのCM。
 女にもてる匂いという触れ込みで、無人島の男がスプレーをあびたとたん、
どこからともなく現れた水着の美女の大群が、アマゾネスみたく男にむらがっていく、
あのCM。
 まさしくアレ。アレそのもの。アマゾネスっつーか狩りする生き物の目。
 巨大プール施設並みにでかい風呂場の、散り散りに浸かっていた女体のすべてが、
津波のよーに俺めがけてちちしりふとももぷるんぷるんしながら駆け寄り詰め掛けて、
俺に群がり恍惚と身体をこすりつけて―――――
 ………天国! 天国!! 嘘みたい天国!!! だってちゃんと感触ある天国!!!!

「……ひぎっ、がはっ!?」
 なぜかそこで回想が途切れた。
 なぜだ。なんでだ。どうしてもその先を思い出すことが出来ない。
 ほわい!? 楽園のパライソのアルカディアが!?
 あとなんで俺の足、勝手にがくがく震えてやがりますかー!??
「ひぐっ…えぐっ…もう許して、もう出ません、もうタチマセン、赤玉でちゃう…」
 なぜか口まで勝手に意味不明な言葉を呟いてる。わけわかんない。
 あとなんか自分の吐いた言葉を理解しようとすると唇が海水浴で凍えたときっぽく震えるのどうしてかしら。

 俺におかまないく、円筒の部屋の外から響くカウントダウンは止まらない。
 床のゴゴゴゴはよけいひどくなってる。
 し、し、死んだ後にこんな怖いのは嫌だーーーっ! おうち帰りたいーーー!!
「にゃ。」
 がちゃん。ばたん。がちゃん。
「にゃ。」
 ふにゃ、と上がる紅葉のお手手。
 挨拶らしい。
 幼女がドアあけて入ってきてドアしめて鍵しめてエプロンつけて猫耳つけてる。
「…………死のう」
「にゃにゃ!? 顔が紫色だにゃ!? しっかりするにゃあ!?」
 とびついてきた幼女がちーさいやーらかい手の平で俺の頬をぱふぱふする。
 勢いで俺の鼻先かすめた猫耳、ふんわり、もふもふ、やわあったかい。
「…………死んだ」
 これはもう俺、確実に死んでる。
 うぇーい、さすが天国すげぇなー、なんでもありだなー。
「死ぬなにゃー!? ヒトのオスはすぐ死ぬってほんとにゃ!? まったくけしからんのにゃ!?」
 めっちゃ慌てる幼女。
 エプロン、よく見ると手縫いだ。しかもすごい下手だ。
 胸元に青いはぐれメタルっぽい刺繍。たぶん魚のつもりだ。下手だ。
「しっかりするにゃあ、いま死なれたらボクが困るのにゃあ…! あ、そうにゃ」
 すごい名案思いついた顔の幼女。
 しばられっぱなしの俺、俎上の鯉。もーどーにでもしてクダサイのポーズ。
「ええと、ええと、ちゃんと本で読んだにゃ、大浴場のも見てたのにゃあ…」
 もそもそも。じー。
「はぷ」
「……………。っきゃあーーーー!!?」
 幼女、いきなり俺のナニを引きずり出して咥えました。
「ひいっ!? はがぁっ!? あ、あ、なにをするだーーーーーっっっ!!?」
「もぎゅ? もご、はぷちゅ、ふごふご」
「痛い!? でも気持ちいい!? あっあっあっ、喋るのやめて舌、歯ぁー! とんがった歯ぁあああー!!」
「んむ。んぐ、んっがっふっふ、れる、はふはふ」
 あ、あああ相手は幼女、相手は幼女!!
 そっちのアブノーマルに興味はアリマセン犯罪です助けてーー!?
「やめてー!? でもやめないでー!? ああ、あああっ、禁断の記憶のドアが開くのー!?」
 縛られて動けないまま俺、ケーレン。
 記憶の奥底に封印しためくるめく女体のオモヒデぽろぽろ俺ぼろぼろ。
 そんな俺のペンシルロケット、ただいま幼女の口内でカッパロケットくらいに進化中。
 響くカウントダウン。止まらないカウントダウン。
「…ぷは。よしよし、元気になったのにゃー。ふふーん、ほんとにおっきくなるのにゃねー♪」
 なでなで。くりくり。
「あぅー!? ひぃぎー!?」
 カッパロケット、一足飛びにミューロケットに究極進化。
 カウントダウン、あとテンカウント。
「ま、まだ大きくなるにゃあ? ふーん、へえー、ほぉー」
 興味津々の幼女、間近で愚息をガン視。視姦。息あったかいくすぐったい。
「うあぅぅぅぅ。あうううううう。えぐぅぅ。おおぅおおおぅ(慟哭)」
 カウント、あと5。
「ぴちゃ…ぺろ、…どこまで大きくなるのかゃ」
「はうーーー!? 嫌っ、ももももうだめですー! こんにちわアブノーマルな俺ー!?」
 カウント、ゼロ。
『発射します』
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「んぐ!? んぅ、んううう!」
 天井から降り注ぐ衝撃とG。
 見えない力に押さえつけられた幼女、俺のナニを喉まで勢いよくゴチソウサマ。
 ついでに俺のロケットも発射しますた、本当にありがとうございます。
 さようならさようなら、ノーマルな俺にさよーなら、なぜか涙で前が見えな(ブラックアウト)

 眼が覚めたら日光江戸村だった。
「御用だ!」「御用だ!」「神妙にしやがれ!」
 十手と梯子とちょーちん手にした尻っ端折りのおっちゃんたちが俺を取り囲んでいます。
 俺は椅子ごと横倒し、椅子は根元が折れてるけど俺は縛られたまま。
 都会ではお目にかかれない真っ黒い夜にぽっかり白い満月ひとつ。
 お屋敷の中庭らしいです。でかい蔵があります。ドア開いてます。そのまん前にいます俺。
「はにゃ?」
 猫耳ぴくぴくさせて、ぽかんと俺の横に正座してるエプロン幼女。あ、口元白い。
「おっと、ちょっと待ちねえ。おまえさんがた、探しているのはあっしじゃありませんかい」
 唐突に夜陰に響くいい男の声。
 おっちゃんたちが気をとられた隙に、俺は椅子ごとひっさらわれた。
 気が付けば瓦葺の屋根の上。
 幼女と俺を両脇に抱えてすっくと立つ、泥棒ほっかむりの知らない男。
 誰ですか貴方。ここどこの映画村ですか。定時イベントも大変ですね。
「にゃにゃ? なにするにゃあ?」
「こんな可愛いお嬢さんと、ついでにこんな不細工をこの鼠小僧と見間違えるなんざ、捨て置けねえなあ」
「でっ、出たー! 鼠小僧め、今夜こそお縄を頂戴しやがれー!」
 ははあ、そういう設定ですか。
「あははは! あばよーとっつぁーん!」
 俺らを抱えたままひらりひらりと屋根の上を八艘とび。
 すごいスタントマンのすごい筋力。
 追っ手から離れた場所でひらりと地面に着地。
「さあ行きねえ、こっから堀沿いに行けば見つからねえよ」
「……あ、ありがとうございます」
「にゃ?」
「なあに、世の中、持ちつ持たれつってな。あばよ」
 颯爽と去っていくほっかむり。
 あとには月明かりしかない河沿いの、柳の下で立ち尽くす俺。と俺の服の裾につかまって
理解不能って顔してる幼女。猫耳つき。尻尾もオプションしてる。
「……にゃ? きっぷがないにゃ」
「さようですか…」
 あー、月がまるいなー。
 天国の月はふたつだったかなー。
 ………はやくドッキリでしたって看板出てくれないかなー(泣)
「三トンの黄金を圧縮してつくった切符にゃあ」
「ほうほう。そいつは豪勢ですねー」
 あー、現実を見て、はやく言われたとおりに逃げなきゃやばいんだろうなー。
「……あれがないと帰れないのにゃあ」
 うるっ。
「……。待て。待ちなさいそこの。帰れる?」
「帰れないにゃあ…切符なくしちゃったのにゃあ…」

『なあに、世の中、持ちつ持たれつってな』

「…あ、あ、あのドロボウ猫ーーー!!」
「うああああん! おねーちゃの所に帰りたいのにゃああああ!」

◆ ◆ ◆

 以後、鼠小僧を目の仇にする、女鼠小僧がお江戸の町を騒がせたという。
が、正直知ったこっちゃないぞと。
「ネズミじゃないにゃ。ネコにゃ」
「うっさいですよ化け猫。とっとと鼠とるか大判小判かきあつめて切符作り直せ」
「にゃあっ、偉そうにゃ! お前はいいにゃ、どうせ三百年くらい待てば
自分の時代に帰れるのにゃあ。…ぐすん」
「死ぬ。それは死んでます。あと俺としても不法滞在よりはまだ風呂天国が
いい…ぐふっがはっ、持病の癪がぁっ!?」

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