猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

鬼火

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だれでも歓迎! 編集
 月日は百代の過客にして行きかふひともまた旅人也。
 現在とは永き旅の途中に求めた仮初めの宿であり、何人もそこに留まり続けることは出来ない。
 俺もまた、歴史という大河に流れる水の一滴に過ぎず、穏やかな流れの中にあっては穏やかに、
激流の中にあっては狂おしく流れ続け……

「と、言う訳で。君には来月から、新しい部署に移って貰うことになったから。
いやぁ、君のようにスピード出世する人間は、我が社でも希でねぇ……」

 つまりは、そう言うことである。
 諸行無常。色即是空。無想転生。
 サラリーマン殺すに刃物は要らぬ、とはよく言ったものだ。
 目の前の上司から発せられる美辞麗句の微粒子は奇跡的なまでに俺の脳細胞をトンネルしている。
 代わりと言ってはなんだが、彼の顔に張り付いた笑みが、これ以上ないくらいに「貴様は前から
気に入らなかったんじゃ、ボケがぁ!」と語っていた。
 彼と初めて会ったのは一ヶ月半程前のことであり、それ以来これと言った交流も無かったのだが、
一体どうしてこのように強い感情を向けられているのか、さっぱり分からない。
 この部署に異動になる辞令を受けた時には、いわゆる三年二ヶ月の孤独な一人旅かと思っていたのだが、
ボインの誘惑も無いままに二ヶ月足らずで次の場所に移るわけだから、現実は懐メロよりも奇なり、である。

「はいこれ。新しい勤務先の住所ね」

 上司から渡されたメモ用紙を受け取る。わざわざ手渡すのだから、余程面白いことが書いてあるのだろう。
 ○○県××市△△ 四丁目二番地
 うわ。すげえよ、これ。住所が番地で終わってやがんの。どうにも、俺の新天地は広大なフロンティアらしい。
 つーか、地理の苦手な俺には、まず県の位置が思い当たらない。
 えーと、確か、島が南で岡が北だったような。うん、これからの季節、暖かい所の方が過ごしやすいかも知れん。
 とりあえず、それを頼みに前向きに生きてみよう。スキヤキソングでも口ずさみながら。

 何処にでも良い人というのはいるもので、俺の転勤は光よりも早く部署内に広まり、そしてそれは一時間後に
歓送会の出欠の確認という形で俺の元に帰ってきた。
 つい六週間前には皆の奢りで歓迎会を開いて貰ったばかりだというのに、嫌な顔一つせずに歓送会を開いてくれる。
 流石に悪いので今度は俺も払うよと言う申し出を「良いから良いから」で流され、少ない思い出話を壊れたレコードの
ように繰り返し語り合い、なんと花束まで貰ってしまった。
 感動だとか惜別だとか義理人情だとかの涙を地元の大吟醸と共に飲み干し、せめてもの恩返しに笑って歌ってを
していたら、あっという間に時間は過ぎる。
 終電はとっくの昔に無くなっており、かと言って相乗りのタクシーだときっと同伴者にみっともない姿を見せてしまうので、
仕方なく歩いて帰ることにした。
 「大丈夫か?」と聞くまだ同僚に「無問題ッス。自分、元運動部ですから!」と空元気で応え、意気揚々と歩き出したまでは
良かったのだが。やはり、中学の時に弓道をやっていたぐらいで運動部を名乗るのはおこがましかったらしい。
 そもそも引っ越してきて日の浅いこともあり、気がつけば息も絶え絶えに田んぼのど真ん中を一人歩く羽目になった。
 今や酒の勢いはすっかり消え失せており、四十分前の自分を罵るだけが、唯一の楽しみとなっている。
 辺りには本当に何もなく、なんと街灯すら見当たらない。月の光だけが辺りを照らしている。
 いつの間にかアスファルトの舗装も無くなっており、何というか、この世の果てに取り残されたような気分になってきた。
 つい先程までの宴を思い出し、涙がこみ上げてくる。 ……やべ。今の俺、めっちゃ格好悪い。
 慌てて上を向く。やはり、坂本九は偉大だった。
 空は涙で滲んでおり、月もぼやけて二つに見える有様である。いかんなぁ、とは思うのだが、こればかりは如何ともしがたい。
 実は、今まで忘れようとして失敗していたのだが、自分が何処に居るのかさっぱり分からない。おまけに携帯も圏外だ。
 空を見上げてみれば星が瞬いているのだが、どうにも見知った正座が見当たらない。北斗七星も、その脇に輝く小さな星さえも。
 せめて方角だけでもと思ったのだが、アルコールは思ったよりも脳に深刻な影響を及ぼしているらしい。
 仕方なく地上に視線を戻す。相変わらず、月明かりが照らすのは稲刈りの終わった田んぼのみである。
 流石にこれは拙いと思い、目をこらして辺りを見渡していると、遠くに青白い光を見つけた。
 周りに対象物がないため距離は分からないが、目印になりそうなものは他には見当たらない。
 まあ、あそこまで行って駄目だったらまた考えようと踵を返した時、唐突に後ろから声を掛けられた。

「これ、そこなヒトよ。鬼火に誘われれば、行き着くのは幽世か狗畜生の元じゃぞえ?」
                           (省略されました。続きを読むには○○○さんに励ましのお便りを!)



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