猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

ある研究者のエッセイ

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匿名ユーザー

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猫井技研第3研究部部長 シアン・アビシニア それが私の肩書き。
うちの第3研究部は、生体、生命などのことを扱うので3研の他に生研、またはバイオ研とも呼ばれているが、その筆頭を任されているのだ。
ちなみに私の補佐(副部長)についているのは私の恋人兼召使でもあるカワカミ ハヤトだ。
ハヤトは普通いいように扱われないヒトなのに、なぜこの役職に就いているか疑問に思う人がいるかもしれない。不思議だと思ったが、この提案を会社のトップはOKしてくれた。
ハヤトが“向こう”で研究者だった(らしい)というのと、実際にハヤトの持ってきてくれた知識やアイデアなどが研究の役に立ったのが大きかった、ということになっている。
今やっているのは、ヒトと獣人の子供を作れないか?ということ。
世界中探しても少ししかいないヒトは、その多くの場合、奴隷に等しい扱いを受けるけれど、その中にはヒトと獣人のカップルも存在する。なぜか王族に多いらしいが。
今回はそのうちの一か所(機密事項のようで、国名や家名などは教えてもらえなかった)から猫井技研に依頼があったそうだ。
研究は始め、遅遅として進まなかった。それもそのはず。私たちには、ハヤトの言う、“イデンシ”の概念がなかった。研究は3年もの間、滞っていた。
誰もが諦めかけていたとき、ハヤトが“落ちて”きた。
今でも、はっきりと覚えている。
ずっと待っていてくれていた上が業を煮やし、あと半年進展がなかったら首だ、と宣告を
受けた日の次の日。社宅の窓から顔を出して、ため息をついていた時だった。
すぐ目の前に、ヒトが落ちてきた。
空から落ちてきたはずなのに、かすり傷だけで済んでいた。気を失ってはいたが。
どちらかというとやせ形の体型をしていた。まあ普通の獣人と比べて、だが。
“落ちもの”は、見つけた者が自分のものにしていいという決まりになっているので、私はとりあえず外に出て、自室のベッドの上まで運んだ。思ったよりも軽くて、すんなり運べた。
「ここは・・・どこだ・・・?」
落ちてきたばかりのヒトはこの世界のことを知らない、と聞いたことがある。
「猫の国よ。国名より、こっちのほうが分かりやすいでしょ」
「は?」
意味が分からないようで、目を白黒させている。
「だから、猫の国。ほら」
自分の耳を指差して、動かしてみる。
「な・・・」
落ちてきたヒトは、あっけにとられていた。
そのあと、世界での常識や落ちてきたヒトの待遇などを話すと、初めはぽかんとしていたが、理解したようで、神妙な顔つきになった。
「話は分かった。・・・それで、お前は俺を奴隷として扱うのか?」
ちょっと考えてから、
「そうしたいけど・・・アナタ、具体的には何ができるの?」
「この世界で、俺は何も知りませんから・・・せいぜい家事、くらいじゃないですか?」
「じゃあ、何か作って見せてよ」
それから少しして、出来上がったのは、見た事もない料理だった。
「俺の世界の料理です。御口に合うかどうかはわかりませんが。」
材料は見た目から大体判ったが、初めての味に自然と顔がほころんだ。さっきまでの憂鬱な気分もどこかに飛んでいた。
「よし、決めた。アナタは今日からこの家の家事を頼むわ。道具の使い方は教えるから。それとあと一つ、私の名前はシアンよ。アナタの名前は?」
「ハヤトです。これからよろしくお願いします。御主人様」
「こちらこそ。それと、敬語と御主人様はやめて?柄じゃないから」
「・・・わかった」
こうして、ハヤトとの奇妙な主従生活が始まった。

それから、研究所で夜遅くまで実験結果やレポートと格闘して帰っては、ご飯を食べた後は泥のように眠る生活を一月ほど続けていた。
そんなある日、仕事を家に持ち込んで頭をひねっていたら、不意に後ろから声を掛けられた。
「頑張るのは分るが、ちょっとやり過ぎじゃないのか?」
私を気遣っているはずの言葉でさえ、うっとうしくてたまらなかった。
そんな一言にさえ、私は堪えられなかった。
「誰が何と言ったって、私はこの研究をやり遂げなきゃならないの!仕事なんだから!来る日も来る日もネチネチ責められて、この気持ち、稼いでもいないアナタには分からないでしょうね!?」
私は激昂して、書類の束を投げつけた。
そのままだと喧嘩になりそうだったので、私は外の空気を吸いに出た。
そして電車に乗って海まで行った。
波打ち際を歩きながら、自分を責めた。いくら召使だからって、言い過ぎたんじゃないだろうか。

だけど今思えば、このとき怒ってなかったら、今の私はいなかったかもしれない。
夜遅く、気も落ち着いてから家に戻ると、ハヤトが書類に書いてある図を見比べながら、ぶつぶつ言っていた。
そして私に気付くと、はっきり私を見て、言った。
「俺、もしかしたら、おまえの役に立てるかも、しれない・・・」
声に、嬉しそうな色が混じっていた。
まず文を読んでくれと言われて、言う通りにすると、私が分からなかったところについて教えてくれた。逆に魔法に関するところはさっぱり分からないようだったので、こっちが基礎理論から教えた。
それから何日か会社に休みを貰い、家でお互いにいろんなことを教えあった。ハヤトは呑み込みが早く、また私に分かりやすく教えてくれた。もう私たちは“召使”と“主人”なんて関係じゃなかった。
後でなぜわかったのかハヤトに聞くと、“彼の世界”では魔法がない代わりに“カガク”がこちらよりも発達しているという。彼は“ダイガク”に通う学生で、“イデンシ”とかについて学んでいたと言っていた。書類に乗っていたものと同じ図ももちろん知っていた。まあウチのチームで躓いていたのは、“ダイガク”で扱うのよりももっと前のところだったらしいが。
仕事場に戻ると、研究は目に見えて進んだ。まるで前までが嘘のように。家でそのことを話すと、ハヤトは子供のように喜んでくれた。それを見たとき、ハヤトがたまらなく愛おしく感じた。
もう私の研究は、ただの仕事ではなくなっていた。いつの間にかそれは、私の夢になった。
そしてその研究も、ハヤトなしには進まなくなっていた。私は、ハヤトを連れて研究所に行くようになり、小さい会議などでは獣人の中にヒトが一人混ざって、活発に意見を交換したりもした。とはいえ、重要施設には入れないので、その時は別行動だったが。
あるとき、シュバルツカッツェにある本社の会議で、近頃3研にヒトが出入りしていることについての話が出た。
「ところで、アビシニア第3研究部部長、君のところにヒトが出入りしているという噂を聞いたのだが」
「・・・はい、おっしゃる通りです」
そう言った途端、会場がざわめく。その大半は、不平不満の声だった。
それを遮ったのは、副社長だった。
「そんなことをしては、他の社員に示しがつかんにゃろう」
じわじわと放たれる威圧的な態度に、一瞬首がすくみそうになるが、なんとか耐える。堂々と、彼が会社のためになることをアピールしなければ。ハヤトはもう、チームの一員なのだ。
「他の社員に示しがつかなくなるようなことは、一切致しておりませんが」
私に迷いはない。施設で“そういった”ことにならないように、ずっと注意しているし、危なそうな日には休みを取るか、薬で抑えているのだ。一度そんなことになればどんなことをしても言い逃れはできないと確信していた。
ヒトは単なる性奴隷にすぎない、というのが世間一般の考えであり、それに抗おうとするのに風当たりが強いのは当然だった。だからできるだけ隙を見せないよう、ずっと我慢してきたのだ。
静かな、しかし熱い論争がずっと続くと思っていたころ、
「静まりなさい」
社長がその口論に割って入った。
「単刀直入に聞きます。そのヒトは使えるの?」
若いながらも、ここ20年ほど会社を引っ張ってきたスーパーキャリアウーマンだ。
とにかく業績第一でシビアだが、それだけにここでは心強かった。
「はい、勿論です。私は彼を補佐にと考えています」
「ちょっと、第3研の報告書を映して」
そう言うと、魔洸を利用したディスプレイに報告書が映し出された。
一通り半年分くらいを映したあと、
「出入りしているのはいつから?」
と聞かれた。
「先月からです」
今度はここ三カ月の分を一通り流して、と言って、ディスプレイもそれを流す。
一時置いてから、一言。
「いいでしょう。来月から、そのヒトの副部長就任を認めましょう」
「ですが、そのh」
「実際に成果も出ています。そのヒトが正式にチームに加わったほうが期待できるでしょう」
「私にも反論が」
「結果が全てです。ダメだったら変えればいいだけのことです」
一蹴。この人は、良くも悪くもワンマンだった。
結局そのままいくつかのことを取り上げて会議は終わり、私が帰ろうとドアに手を当てた時だった。
「アビシニア部長、ちょっと」
なんと、社長に呼び止められた。
「は、はい。何でしょうか」
恐縮して姿勢を正すと、
「やだ、そんなに畏まらなくてもいいのよ」
ニコッと笑って言った。
「あなた、前と変わったわよ。大変だと思うけど、貴女も頑張ってね」
私にしか聞こえないくらい小さな声で。
気のせいかもしれないけど、その眼が、恋する女の目に見えた。

その次の日に、有給を取って、二人で海を見に行った。昨日の会議で、正式にハヤトがうちのチームに入れるようになったこと、物価が高くなるかもってこと、前に一人でここに来たときのこと、明日の天気のこと。話は取り留めもなく、どんどん飛んで行った。
水平線が紅く燃えるころ、海の話になった。
「そういえば、生命の源って、海なんだよな」
「前にそう言ってたわね。私たちの世界でもそうなのかしら」
「そんな気はするけど。どうだろうか」
「きっとそうよ。だって私たち、違う世界の生き物でも、こんなに通じ合っているもの」
「ああ、そうだといいな」
一旦会話が途切れる。
私は、思い切って、自分の夢について話すことにした。
「ねぇ、あなた」
「・・・なんだ?」
「私、この海みたいになれるかしら」
「なれるさ。・・・どうしたんだい急に?」
「ええ・・・。私ね、あなたに言ってない夢があるの」
ハヤトのそばに寄り添う。
「聞こうか」
「この研究が完成したら、自分にも使いたいなって」
彼は一瞬驚いた顔をした後、
「ありがとう。その気持ちだけでも嬉しい。異世界に落ちたのにこんないい目に合って、これ以上望んだら罰が当たるよ」
「“バチガアタル”って何?あなたの国の諺?でも、そんなのはいいの。“バチガアタル”ことなんてないわよ。私は、あなたの、ハヤトの子供が欲しいの」
気がついたらもう辺りは真っ暗で・・・
「誰もいないみたいだし、今ここでシましょうか」
そう言って、ハヤトの服をはぎ取っていく。
「待て、ここは外だし、砂浜だ。後が大変だぞ?人も来るかもしれない」
でも、もう私は我慢できなかった。
「にゅふふっ。誰も来ないわよ。あなたももうこんなにおっきくしちゃって」
私も着ているものを脱ぎ捨てて、砂の上に寝そべった。
「しかたないな・・・。一発だけだぞ?」
耳元に顔を近づけて囁いてくる。
「にゃうん。とびっきり濃いのをお願いするわね」
母なる海のもと、二つの影が一つになる。
「は、はいって、きたぁ~っ」
私はもうぐっしょりで、前戯の必要もなかった。
愛しい人の一部を、苦もなく受け入れた。
「少しご無沙汰だったからな。あんまり長く、持たないからな?」
そう言いつつ、だんだん動きを速めてくる。
「私も、よ。いつもより、興奮、するし、ね」
私の躰は今、誰よりも彼が知っている。
逆に私も彼の躰のことを一番知っていた。
「シアン・・・、ああっ、もう、だす、ぞっ」
その時は、思ったよりずっと早く訪れた。
しっかりと、ハヤトの体を尻尾と腕と足、全部使って抱きしめる。
「にゃっ、あんん、いいわ、きてぇ・・・っ」
熱い流れが、私の中で、爆ぜた。
「んにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!」
もう最高。何も考えられない。
果ててから、二人仲良く、生まれたままで砂浜に寝そべった。
そんな事をしたおかげで、次の日は嫌いなお風呂につからなければいけなかった上、砂がいろんなところに入り込んで大変だった。
もう砂浜ではよそうと思った。


ハヤトがチームに入ってから二年半がたった。ハヤトと出会ってからは三年。いや、明日で三年になる。あれから、いろいろ問題も起きた。辛いこともあったし楽しいこともあった。
でも、いつも傍らに彼がいることは変わらなかった。
そういったことを思い出しながら、横の彼を見つめる。
いつしか、私の意識はまどろみの中に溶けて行った。

夢を見た。
愛しいあの人の子供を、あの人と一緒に見守っている夢。
柔らかな幸福感に包まれながら、すやすやと眠っているわが子を抱いていた。
これが夢じゃなかったらいいのに。
これが夢じゃなかったらいいのに?
その考えが頭をもたげたとき、私はもう、現実にいた。
「あ、起きたのか」
夢の中のあの人は、ベッドから少し離れたテーブルに、何かのっている皿を運んでいた。
窓の外はもう明るいとはいえ、明かりをつけてない部屋はまだ薄暗くて、見えにくい。
「にゃぅぅ~ん。・・・はわ~ぁ、おはよう」
あまりさえてない頭で返事をする。だるい。
あ~、朝はやっぱり弱いなぁ。
そこで、鼻をくすぐる甘い匂いに気付く。
「今日の朝食、フレンチトースト?」
フレンチトースト。あのしっとりとした食感と甘さは忘れられない。
初めて作ってくれたとき、たしか“俺の世界”の料理だと言っていた。
「あぁ。おまえ好きだろ?それに疲れてる時は、甘いものが一番だ」
そういう気遣いが、少し胸を温かくする。
「この頃、あまり寝てないんだろ?研究のためとはいえ、根詰め過ぎなんじゃないのか」
そうなのだ。
「そう言わないでよ。これは、私たちのための研究でもあるんだから」
「気持ちは嬉しいけど、おまえが体を壊しちゃ元も子もないだろうが」
「それに隣国の王家の方からの依頼もあるし」
「それは・・・、そうだが」
上層部の人が言うには、わがまま姫が大層ヒトの召使にご執心で、どうしてもということらしい。いろいろ議会の反対もあったが、王位継承権の放棄と引き換えに、カタがついたとか。まあその気持ちもわからなくはない、いや、痛いほどわかるけど。
だって、心から愛してる人の子供を産んであげることができないなんて、悲し過ぎるじゃない。
「ところで、休みがまとまって取れるとしたら、どこに行きたい?」
「まとまった休みって、無理だろう?本社に許可は貰ってるのかよ」
「ふふっ。言ってみただけよ。そんなのなくても、今十分楽しいわ」
たわいもない話をしつつ、皿の上を片付けていく。このどうでもいいような会話が、私に今日も頑張ろうという元気を与えてくれる。

それに、ハヤトにはまだ言っていないけれど、休みは来年には取れるはず。
だってもう、研究は詰めに差し掛かっているのだから。
そうだ、海に行こう。今度は、三人で。



あとがき
今こうして、皆様に私のしょーもない文を読んでいただいていることを思うと、凄く恥ずかしいです。彼の住んでいた国では、こういう時、顔から火が出る、と言うらしいですね。恥ずかしくて顔が真っ赤になることからきている、とか。それにしても、今読み返しても次から次へと問題が見つかって、ああもう。でももうしめきりが来ちゃってますし、新しい研究もしなければならないので、ここでいったん筆を置きます。至らない点も多々あったと思いますが、すみません、今日のところは勘弁してください。では、また逢う日まで!
シアン・アビシニア







おまけ

俺は河上隼人。
この世界ではかよわいヒトの身でありながらも、何の因果か某“大”企業の一研究員である。
手に持っているのは週刊マタタビ。この国で売られている雑誌だ。
何気なーくページをめくっていると、そこに俺のよく知ってる名前があるじゃないか。
カミさん(法律的には向こうが主人だが)に直接問いただしたところ、白状してここに至る。
「お前さ、本文とあとがきで全然文違うのな。てか編集の人が来てテンパってたろ」
「いや、まさか、採用されるなんて思ってなかったし・・・」
「それよりどーすんだ、あの研究は世間にバラしたらまずい類のもんじゃないのか?」
「それについては大丈夫みたい、特許うちが持ってて門外不出だし、方法が方法だから費用が莫大なうえ、一組づつしかできないでしょ?
それに厳しいチェックを通過した人でないとダメって決めたじゃないの。」
それでも不安は残る。いや、何をどれだけやっても残るものなのかも知れない。
アレを悪用されないように、自分たちで作った仕組みを信じよう。
まあここに、その規定を無視した一組がいるにはいるが、たぶん大丈夫だろう。
ん?なんで抜けたかって?勿論、自分たちを第一号、つまり実験台にしたのさ。
とある国のお姫様をはじめとする俺たちみたいなバカップルにも、幸せになってもらいたいしな。

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