猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

愛こそ全て

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愛こそ全て

 

血婚礼闘――
獅子の国の剣士、馬連と太院は恋人同士であったが、所属する道場同士の諍いから決闘を余儀なくされる。
試合前日、馬連が刺客に襲われ傷を負ったことを聞いた太院は、「手負いの相手に全力を出したとあっては武門の名折れ。血が足りぬなら、私のを使えばよい」と自らの血を抜き馬連に贈ったという。
話を聞いた双方の道場主は深く感銘を受けると共に自分たちの行いを反省し、以後諍いを起こすことは無かった。
チョコレートを恋人に贈る習慣は、太院が血を贈ったのを真似て製菓会社が大々的に宣伝したことに端を発すると言われている。
長年、バレンタインデーの起源は聖バレンタインの処刑された日と誤解されてきたが、馬連と太院の名から分かるとおり二人の結婚記念日という説が有力である。

「猫明書房刊 『年中行事に見る獅子国の故事』より抜粋」



猫というのはとにかくイベント好きである。
単に賑やかで刹那的な物が好きな国民性もあるが、何より企業が販促の為に年中行事を盛り上げているのが大きい。
とりわけ恋人達のイベントというのは人気が高く、この世界でもバレンタインデーというのはメジャーな行事の一つとなっている。
モテない男達の怨嗟が募るのも元の世界と何ら変わりないのだが。

「チョッコレイトー、チョッコレイトー♪ うーん、これは甘いね飽きないね!」

そんなわけで、アルジャーノン博士がチョコを嬉しそうに頬張っているのも、毎年の光景である。
元々の習慣がどうあろうと、当研究所に於いてイベントとは『博士が上等な物を食べられる日』であって、それ以上の意味はない。
節分に豆を食い、ホワイトデーにマシュマロを食い、ハロウィンにはパンプキンパイを食べる。酒飲みの歌と何ら変わりない。
日本にいた頃もチョコレートなぞ殆ど貰ったことはなかったが、まさか異世界に来てあげる側に回るとは。あの頃は想像もしなかった。
まあ、何年かすれば博士も大きくなり、意中の人に自分が作ったチョコレートを贈るのだろう。
あと数年の限定イベントだと考えれば、早く終わって欲しいようなそうでもないような、何とも複雑な気分ではある。

「助手君助手君。チョコレートがこれだけ甘いなら、カカオの実ってもっと甘いのかな?」
「はっはっは。チョコレートが甘いのは砂糖を大量に入れてあるからで、カカオ自体は目茶苦茶苦いですよ」
「えー!? 果物なのに苦いの?」

ちなみに、チョコレートの材料になるのはカカオの実ではなく種子なのだが。
コーヒーと同様に乾燥させて焙煎した豆を粉にし、圧力を掛けてカカオバターとココアパウダーに分離させ、主にカカオバターを使った物をチョコレートという。
ココアパウダーとカカオバターを混ぜれば一般的な茶色いチョコレートになるし、カカオバターと粉乳を混ぜればホワイトチョコレートになる。

「うーん。カカオの実って、高いのかな?」
「本場のカモシカの国の物は数が出回ってないですし、結構なお値段しますね。……興味あるなら、取り寄せますが?」
「お小遣い、足りるかな? って言うか、チョコ一個分でどれくらい必要なんだろ?」

珍しく真剣に考え込んでいる。どうやら、バレンタインデーのイベントは来年にも御役御免になりそうだ。
なんだか正体不明の寂寥感に襲われたが、博士の成長は喜ばしい物である。『助手君』としては、協力せねばなるまい。

「カカオからチョコレートを作るのはかなりの手間ですよ。食料品店に素材用のチョコレートが安く売っているので、それを溶かして整形した方が簡単です」
「おお。そんなアンパブリッシュドで怪しい裏技が!? ……でも、それって『手作り』なのかい?」
「最終工程が博士なら、博士の手作りということで商法上は問題ありません」
「むむむ。何か騙されているような?」

今一つ納得の行かなそうな博士を置いて、とりあえず『手作り』チョコレートの作り方をざっと説明する。
湯煎の仕方、型への入れ方、冷ます際の注意点などをメモしている博士の顔は真剣だった。
成る程。世の父親の心境とはこんなものなのか。
……隣にステフの野郎が居ないのが無性に残念だ。

「むう。思ったよりも難しいね」
「一度手順を覚えれば楽なものですよ。まあ、失敗しても食えない物にはならないでしょうし」
「まあいっか。食べるのは助手君だし」
「……はい?」

いやいやいやいや。待て待て待て。
なんで俺? と言うか、バレンタインデーってそういうイベントじゃねぇから。
今までのうれしさと寂しさが混ざった感情は一体どこにやれば良いのやら。

「ふふん。バレンタインデーは女の子が『好きな人』にチョコを贈る日なのだよ、助手君。と言うわけで、わたしは贈る側なのだ! 来年は頑張るよ!」
「……はぁ。まぁ、いいですけどね」

得意げに話す博士を呆然と見つめる。
俺がこの研究所に来てから今日まで台所の管理は俺一人に任されており、調理器具の置き場所などを博士が知っている訳もなく。
どうやら、来年のバレンタインデーは自分に贈られるチョコの作り方を監視するイベントになるらしい。
……隣にステフの野郎が居ないのが無性に残念だ。

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