猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

岩と森の国ものがたり12b

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岩と森の国ものがたり 第12話(後編)

 
 
     ◇          ◇          ◇
 
 その頃、太陽の都のエグゼクターズ基地では。
 
 レーマとアンシェルが奇妙な捕虜暮らしになってから、もう何日かになる。
 レーマの漠然とした予想では、そろそろリュナが助けに来てくれてもいいはずなのだが、世の中はとかく予想通りにはいかない。
 もっとも、リュナが来ないというのは、ニュスタにとっても意外なようで、鉄格子越しに愚痴を聞かされることもある。
「遅いなぁ~」
「僕にいわれても困ります」
 癖と言うものは怖いもので、最初のうちこそタメ口を利いていたのに、いつの間にかニュスタに対しても敬語を使うようになっている。
 十年間、言葉遣いを鍛えこまれたトラウマがあるのかもしれない。
「かわいい奥様が悪の組織に捕まってるというのに、なにやってんのよあいつ」
「悪の組織……って、自分で言っちゃっていいんですか?」
「私はいいの」
「……そういうものですか」
「レーマ。あまり相手にするな」
 横から、アンシェルが言う。
 その言葉を聞いて、口元に微かな笑みを浮かべるニュスタ。
「あら、そんなこと言ってもいいの? アレ、まだ私が持ってるんだけど」
 そう言って、手の上でころころと水晶を転がす。その奥の方に、なにやらからみつく人影のようなものが。
「なっ!」
 顔色を変えるアンシェル。
「返せっ、今すぐそれを返せっ!!」
 半狂乱になって鉄格子をつかむ。
「ふふーんっ♪」
 そういって、手の届かないあたりで水晶球をもてあそぶニュスタ。
「返すわけないでしょう」
「このっ、卑怯者、俗悪な金の亡者めっ!!」
「ん~っ♪ 敗残者の悲鳴っていつ聞いてもいいわねぇ」
「貴様っ!このままですむと思うな、いつか必ず真っ二つにしてくれるからなっ!」
「ん~っ、負け犬の遠吠えってほんと気持ちいいわぁ♪」
「貴様ーっ!」
「…………」
 二人の諍いをからはじき出されたレーマ。退屈そうに窓の外を見上げる。
「…………」
 仕方なく、鉄格子の側から離れる。
 ベッドの近くの、少し広い空間に歩いてゆくと、そこで軽く剣の構えを取る。
 何も握っていない両腕に、少しだけ力を入れる。
 
 上段から縦に。右斜めに返し、そのまま左肩先に切っ先を合わせるように。
 そして、そのまま左に突き出し、そして腰を引くように回し、弧を描くように大きく横薙の一閃。
 片膝を付き、受け。
 前方からの斬撃を額の前でとめるように、横一文字に構える。
 受け止めた一撃を流すように、右に大きく身体をひねりながら立ち上がる。
 同時に、石突で前方の敵のみぞおちを突くように、握った左逆手を前方に。
 そして、半歩下がりながら袈裟斬りに。
 再び、上段に構えて一つの型が終わる。
 
「…………へぇ」
 ニュスタの、少しだけ感心したような声。扉の向こうから見ていたらしい。
「あんがい、やるじゃない」
「当然だ。あいつを誰だと思っている」
 少し自慢げなアンシェル。
「あー、そーね。身も心も蕩けさせるような愛しの彼だもんね」
「べ、別にそこまでは言ってない!」
「言ってはないけど、思ってはいるのよね」
「だ、黙れっっ!」
「……やれやれ」
「レーマっ! お前も何かこの無礼者に言ってやれっ!」
「…………」
 想像していたよりも、捕虜生活は騒がしく、そして少しだけ楽しい。
 
 ただし、本当に少しだけ。
 この小さな部屋から出て行けるわけでもないし、監視の目もある。
 なにより、退屈を紛らわせる手段が何もない。
 仕方がないから、剣の型を繰り返したり、鉄格子とか適当なものを利用して身体を動かしたり。
 少しでも身体に覚えこませておかないと、いざというときに身体が動かない。
 ここ数日は、そんなことばかり繰り返している。
 リシェルのことも気になるけど、こればかりはどにもならない。
 あまり信用できないけど、ニュスタの「無事だ」という言葉を信じるしかない。
 
 ハイランダーの剣には、習い覚えるのにいくつかの順番がある。
 基本となる三絶の型。
 はじめにそれを繰り返すことで、太刀筋を身体に覚えこませる。
 それを覚えると、次に応用となる五箇の型。
 乱剣と呼ばれ、一対他を想定した戦場用の剣をここで覚える。
 そして、さらにその応用となる十本の太刀を加えた、一十八本の太刀を、本太刀(もといたち)と呼ぶ。
 それを覚えた段階で、双円、弧月、遊打、立思、瑞楼、氷凌の6つ。あわせて麒麟法と呼ぶ。
 もともとはカモシカの国の剣術……ハイランダーの剣術とは異なる、他国の術技を組み入れたものを呼ぶ。
 二千年前、リュカオンの乱において圧倒的な魔法の前にハイランダーはほぼ壊滅し、その術技は大きく失われた。
 大戦の終結後も、人々の目が魔法に向く中で剣と弓を中心としたハイランダーの戦闘術は長らく捨てて省みられなかった。
 再び、その術技に光が当たるようになったのは、せいぜいここ数百年のこと。
 その間に失われた多くの者を補う形で、他国の戦闘術を取り込んだのが麒麟法である。
 その上に、さらに奥義がいろいろあるらしいが、レーマは知らない。
 レーマが自信を持って実戦で使えるのは、せいぜい五箇三絶、そして本太刀まで。麒麟法は教わっているし、型も知ってはいるが、実戦で使う自信はいまひとつない。
 技術も大事だが、やはり先立つものは体力。
 獣人ならざる身で使いこなせるほど、麒麟法は甘くはない。
 
「…………」
 さっきまでニュスタと言い争っていたのを忘れたように、レーマの演武をじっと見ているアンシェル。
 扉の向こうで、ニュスタが面白くなさそうにつぶやく。
「あーあ、瞳キラキラさせちゃって。いーなぁ、恋する乙女は」
 そういいながらも、窓越しにレーマの動きを見る。
 無駄のない動き。型が型に終わらず、仮想敵を想定した上での動きなのがわかる。
 ところどころ、動きが変化するのは、その仮想敵の動きに合わせているのだろう。
 それでいて、規をはずれない。
 一年や二年で覚えられるものではないというのはわかる。
 かなり幼少の頃から、剣を扱ってきたのだろう。
「そこらの兵隊さんじゃあ、相手にならないわけだ」
 数日前の、血まみれの廊下を思い出す。
 エグゼクターズが銃火器戦闘に力を入れ始めた半面で、近接戦の訓練が少しおろそかになっていることは否定できない。
 長柄の武器の訓練が主体となっているため、剣を扱う時間が減っているということもある。
 しかし、それにしても。
 仮にも訓練された兵士を相手にしてなお、明確な技量の差があったというのは驚くべきことだった。
「アルルスより強くなるんじゃないかな、そのうち」
 もちろん、ヒトとカモシカの体力差という、簡単には越えられない壁を越えることが出来たらの話だが。
 
 目を閉じ、一心に型をこなすレーマ。
 それが即、強さに直結するわけではないが、それを重ねて身体に覚えこませなければ、強くなることは最初から出来ない。
 それを、少し離れてじっと見るアンシェル。
 ずっと見ていると、着実に鋭さと速さ、そして確実さが増しているとわかる。
──強くなった。
 そう、思う。
 いつの日か、レーマが自分より強くなるのではないか。
 ふと、そんなことさえ考えてしまう。
──そうなったとき、どうすればいいんだろう。
 嬉しいような、すこしだけ怖いような。
 そうなってしまえば。
 そのまま、レーマに何もかもゆだねて甘えてしまいそうな気がする。
 そして、レーマは。
 そんな姿を、やさしく受け入れてくれるだろう。
 それは、怖いことだと思う。
 自分の弱さを認めて、それに甘えてしまえばそれはきっと、もう自分ではないと思う。
──だけど。
 レーマは、人の気も知らずに。
 勝手に、どんどん強くなってゆく。
 すこしだけ複雑な気分で、演武を見ていた。
 
 一通りの型を終え、辺りを見る。
「…………?」
 いつの間にか、アンシェルとニュスタがじっと見ていた。
「あ、あれ……見てたんですか」
「この狭い部屋の中でそれだけ動いていれば、目に付かぬはずがなかろう」
 目をそらし、慌てて怒ったようにアンシェルがいう。
「え、あ……その、すみません……」
 肩を落とすレーマ。
「あらあら、さっきまで愛しの彼に見惚れてたくせに」
「見とれてなどいないっ!!」
 ニュスタの茶々に、慌てて否定するアンシェル。
「だいたい、レーマの型はまだまだなっていない!! いいかっ、五箇の太刀はまず足構えからだ!」
 顔を真っ赤にしながら、レーマに八つ当たりするアンシェル。
「そもそも腰がしっかりとしていないから一撃一撃に重さが感じられぬのだ! 腰を据えるにはまず脚の粘り!それでいて俊敏さを失わぬことが肝要!」
 なぜだか顔を真っ赤にしながら、怒鳴るように言う。
「やれやれ、ほんっと退屈させない二人ね」
 そう言って、ニュスタは肩をすくめた。
 
     ◇          ◇          ◇
 
「レーマと姉さまは、無事なのですか」
 その上の階。囚われの身のリシェルが、アルルスに問う。
「無事ですよ。本音を言えば、ずいぶん損害を出してくれたし、多少痛めつけたい気分ではありますが」
「そんなっ……」
「とはいえ、目的を考えたときには、無傷で生かしておいたほうがよいでしょう。心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうですか……」
 すこし、ほっとした様子のリシェル。
「とはいえ」
 皮肉っぽい笑みを浮かべて、アルルスが言う。
「リュナ卿は存外、冷酷な方でいらっしゃる」
「……!」
「いや、存外ではありませんか。われわれが知ってる通り、ですね」
「…………」
「あの方は、いざという時は自分以外の全てを捨てて省みない。もちろん、そういう人だからこそ他人に出来ないことを成し遂げられるわけですが、しかしまぁ……」
「言わないでくださいっ!」
 たまらず、声をあげるリシェル。
「ああ、これは失礼。しかし、私としてもおそらく奥方様を助けに来ると思って待っていたのですが」
「きっと……何か理由があるんです」
「そうでしょうね。奥方様を見捨てるほどの大切な何かが」
「み、見捨ててなんか……」
 少し不安げに抗弁するリシェル。だが、追い討ちをかけるようにアルルスが言う。
「そういえば、フィリーヌ嬢のことはご存知ですか?」
「!?」
「彼女とは幼い頃から生死をともにしていますからね。もしかすると、心の中で本当に思っているのは誰か……」
「そ、そんなことっ……」
「もちろん、全て憶測ですよ。わかることは、唯一つ。……リュナ卿が、いまだに助けに来ないということ」
「…………」
「それでは、失礼いたします」
「ま、待ってください!」
 その言葉に、扉に向かいかけたアルルスが振り向く。
「何か?」
「もし……リュナがこなければ、どうなるのですか」
 その言葉に、心の中でほくそ笑む。あえて、冷たい言葉を投げる。
「その時は、その時ですよ。使えない手札ならば持っていても仕方がない。かといって下手に騒がれても困る。……邪魔なものは消すに限る」
「そ、それは……」
 恐怖の色を浮かべるリシェル。その表情を、冷酷な微笑で見つめる。
「それでは、私は失礼しますよ。こう見えて忙しいので」
「あっ……」
 まだ何か言いかけるリシェルを残し、アルルスはさっさと外へと出た。
「つくづく、最低の男ね」
 書類を抱えたフィオール。外で聞いていたらしい。
「これも仕事だ。好き好んで女を泣かす趣味はない」
「泣かされることはあるけどね」
「あれは相手が悪い」
「まあ、それは同感だけど」
 
「それで、本当はどうするつもり?」
「なに、ある程度は可能性はあった。あのリュナ・ルークス卿がここで我を忘れるような人とは、ハナから思っちゃいない」
「だから?」
「時間をかけて、リシェル嬢を揺さぶりまくる。そうやって、彼女を内面から落とす。都合のいいことに、お人よしの召使くんという手札もある。あの召使くんが親切心を出せば出すほど、リシェル嬢は壊れてゆく」
「それが、目的?」
「短期的には、ね」
「長期的には?」
「リュナ・ルークスに手駒となってもらう」
「……出来るの?」
「できる」
 そう言って、自信に満ちた笑みを見せる。
「大切なものを失ったと気付けば、是が非でも取り返そうとする。それがあの人だ」
 
     ◇          ◇          ◇
 
「……まあ、前よりはずいぶんマシになっている。努力だけは認めてやらなくもない」
 下の階。
 肩で息をしながら寝台に腰を落としているレーマに、アンシェルが言った。
「そ、そう……ですか」
 返事をするのも苦しそうだ。
「……疲れたか?」
 すこし、心苦しい気持ちで尋ねる。
「さ、さすがに……」
「そうか。だが、そうやって積み重ねたものは、いずれ必ずモノになる。おまえは、もっともっと伸びる素質がある」
「素質……ですか」
「これでも、お前のことは評価しているつもりだ」
 すこし、目をそむけながら言う。
「いつかきっと、おまえは私より強くなる」
「……なれますかね……」
「なれるさ。誰がおまえに教えていると思っている」
「そうですね」
 そう言って、微笑を返す。
 横目でちらと見たアンシェルと、微笑むレーマの目が合う。
 あわてて、顔を横に向けるアンシェル。
「と、とにかく、だ。私がおまえを徹底的に仕込む。泣き言は許さぬ、逃げることも許さぬ、返事は『はい』以外認めぬ」
「はい」
 そこに、窓の外から茶化すような声。
「あらあら、急に先生ぶっちゃって」
「ニュスタ!」
「あんまり厳しくすると、愛しの彼に嫌われちゃうわよ」
「だ、黙れっ! 私は、レーマの師としてだな……」
「ふーん」
「な、なんだ、その目は!」
「子供の頃って、好きな子ほどいじめたくなるのよね~」
「ち、違うっ! 私は……」
 何か言おうとするのを、後ろからレーマかおさえこむ。
「む、むぐっ、んぐぅ~っ!!」
 口を押さえられて暴れるアンシェル。その耳元に、そっとつぶやく。
「別に、いいじゃないですか」
 そう言って、軽くアンシェルの頬にキスする。
「あら」
 驚いたようなニュスタの声。
「レーマくんったら、だいたん」
 
「んくぅ~……」
 口を押さえられたまま、突然のことに戸惑い、力が抜けるアンシェル。
「あんまりからかわないでください。ご主人様、こういうの苦手なんですから」
「……仕方ないわね。見せ付けられちゃったら、逆につまんないもん」
「…………」
 首まで真っ赤になってうなだれるアンシェル。
「ほんっと、いい彼氏ね。大事にしてもらいなさいよ」
 そう言って、つまらなさそうにニュスタが扉の向こうへと消えた。
 
「…………」
 まだ全身が火照っているアンシェル。
「大丈夫ですか?」
「……人前であんなことするやつがいるか」
 消え入りそうな声。
「すみません」
「私は、おまえの主であり師だ」
「はい」
「その私をこのようにするなど、無礼にもほどがある」
「すいません」
「……謝るくらいなら最初からするな」
「はい」
 恥ずかしさで全身を小さくしたまま、文句を言う。
「それにしても」
 小さくなっているアンシェルの肩に、手を回すレーマ。
「アンシェルさまって、恥ずかしがり屋ですよね」
「お、おまえが破廉恥なのだっ」
 小さな声で抗弁する。
「そうやって、また人のせいにする」
 言いながら、アンシェルをくいと抱き寄せるレーマ。
「あっ……」
 至近距離から、顔を見つめられる。
 それだけで鼓動が早くなり、頬が上気する。
「でも、慣れも必要ですよ」
 そういいながら、アンシェルの服に手をかける。
「……れ、れーま……」
 戸惑うような声。無視して、するりと服を脱がせる。
「あ……」
 慌てて、両腕で胸のふくらみを隠す。
「な、何を……」
 羞恥に頬を染めながら、レーマを睨む。
「これも、修行ですよ」
 そういいながら、軽くキスをする。
 両手で胸を隠しているため、全く無防備になっている唇を吸う。
「んっ……く……」
 どうすることもできないまま、首に手を回され、抱き寄せられ、唇を奪われるアンシェル。
 そのまま、寝台に押し倒される。
「んん……」
 舌を深く入れられ、絡み付けられるだけで全身の力が抜けてゆく。
 甘い感触に全身が溶けてゆくようになり、まるで力が入らない。
「んふ……むふぅ……」
 無理やり押し倒され、蹂躙されているはずなのに、抵抗することが出来ず、声さえ出ない。
 それをいいことに、レーマは何分も唇を責め続けた。
 
「ん……はぁん……」
 頬を上気させ、とろんとした目つきでレーマを見つめるアンシェル。
「キスだけでこんなになるなんて、ほんとにいやらしいご主人様ですよね」
 わざと、そう言っていじめる。
「ち……ちがう……」
 半分涙目になりながら、弱々しく抗弁するアンシェル。
「れーまが……むりやり、こんなことするから……」
 その言葉に、さらに追い討ちをかける。
「なるほど。無理やりされたらこんなに感じちゃうんですね」
「ち、ちがうっ……」
 反論しようとするけど、頭が真っ白になって何も考えられない。
「何が違うんですか?」
 いいながら、胸を隠そうとしている両腕を横にどける。
「や、やめ……」
 抗議の声を上げるが、レーマはそれを無視して腕をどける。
 拒もうとしているのに、腕は自分の意思を無視して、されるがままに横へとどかされる。
「…………」
 小振りな乳房が露になる。
「どうですか、僕にこうやって見られてる気持ちは」
「……れーま……見るなぁ……」
「だめです」
 そういいながら、上から馬乗りになり、アンシェルの顔を無理やり正面に向ける。
「ふふ。見られて、感じてるんでしょう?」
「ち、ちがうっ……私は、そんな……んっ……」
 反論しようとするが、つんと乳頭をつつかれ、途中で止められる。
「違うっていうなら、どうしてこんなになってるんですか?」
 そういいながら、指先で胸の先端を転がすように責める。
「はふっ……そ、それは……」
「見られて感じちゃうなんて、やっぱりいやらしいんですね」
「ちが……っ……」
 言葉で責められるたびに、アンシェルが羞恥に身悶える。
「ふふっ、違ってなんかないでしょう?」
 馬乗りになったまま、アンシェルの肌を愛撫する。
 抵抗する力もなく、愛撫されるたびに身悶えて艶かしい喘ぎ声を上げる。
「そんな、れーま、いやあっ……」
「嫌がってるわりには、こんなになっちゃって」
 そういって、肌の上を指でなぞる。
 ほてりきった肌に、玉の汗が浮かんでいる。
「あぁ……ん……」
 肌をなぞる指の感触に、耐え切れず恍惚の表情を浮かべる。
「ほら、こんな気持ちよさそうな声を出して」
 言いながら、くいと引き寄せ、抱き抱える。
「れーま……」
 半ば放心したような表情で、レーマを見つめるアンシェル。
「どうして、ほしいですか?」
「……れーまの……」
「何ですか?」
「れーまの……好きにして……」
「わかりました」
 そう言って、再びアンシェルを寝台に寝かせる。
 
 軽くキスをして、そして、左の乳房を口に含む。
「んっ……」
 微かに震えるアンシェル。
 舌先で乳房をねぶり、先端を転がし、かるく甘噛みをし、時々強く吸ったりもする。
 そのたびに、耐え切れないような喘ぎ声が漏れ、身体がこわばる。
 アンシェルの意識が、責め嬲られている乳房に集中ている隙に、レーマの左腕がアンシェルの腰紐を解く。
 そして、そのまま下腹部を愛撫する。
「やっ……」
 微かに、抗議の意思を示すが、体が動かない。
 なすすべもなく、レーマの指と舌に操られ、快感だけを高められてゆく。
「れーまっ……れーまぁ……」
 泣きそうな声で、レーマの名を呼び続ける。
 もう少しで果てるという寸前で、しかしレーマは愛撫をやめた。
「れーま……?」
 あと少しというところで愛撫を中断されたアンシェルが、呆けたようにレーマを呼ぶ。
 そんなアンシェルを、もう一度寝台に寝かせる。
「ふふっ」
 悪戯っぽい微笑。
「いまのアンシェル様、かわいいですよ」
 そういいながら、急所を少し外した場所を責める。
 ふとももの内側、おへその周囲、わき腹。
 敏感だが、そこだけでは絶頂に達することが出来ない箇所ばかりを、執拗に嬲る。
「ああっ、あんっ、だめ……」
 ほとんど声も出せず、身悶えることさえ出来ない状態で、生殺しのように性感だけを高められる。
「ふふっ。本当に、アンシェルさまはいやらしいですね」
 わざと、そう言って責める。
「ちがっ……れーまが、れーまがいじめるから……」
 消耗しきった身体で、それでも弱々しく抗弁する。
「まだそんなこと言うんですか」
 そういいながら、愛撫の動きを早める。
「あんっ……だめ、だめえっ……」
 力の入らない指で、シーツをわしづかみにしてこらえるアンシェル。
 全身が桃色にほてり、汗と愛液で肌がぐっしょりと濡れている。
「気持ちいいですか、アンシェルさま」
「……おねがい……もう、許して……」
「どうしてほしいですか?」
「れーまぁ……もう……ゆるしてぇ……」
「アンシェルさまは、とってもいやらしいご主人様だって認めますか?」
「そ……それはっ……」
 拒絶しようとするが、火照りきった体を責められ続けるたびに、体の方が勝手に反応する。
「黙ってたら、ずーっといじめちゃいますよ」
 ちろり。
 舌先で敏感な突起を舐めるたびに、力なく喘ぐアンシェル。
 身悶える体力さえ奪われたご主人様に、一方的に拷問を加える。
 あと一歩で絶頂に達するという直前まで愛撫を加えて、それから急にやめる。
 体のほてりが少しおさまったと見るや、再び愛撫を加える。
 その繰り返し。
「れーま……おねがい……もう……おかしくなりそう……」
 焦点の合わない瞳で哀願するアンシェル。
「仕方ないですね。ほんと、いやらしいくせに強情なご主人様なんだから」
 そう言って、寝台の左側、アンシェルの足許に回りこむ。
 
 両脚を左右に押し広げ、秘肉に舌を這わせる。
「あっ……」
 大きく、身体が跳ねる。
 無視して、舌で肉芽を責め、時々強くすする。
「ひぃっ、あん、んくうぅぅっ!」
 乱暴な舌の動きに、反応しきれずにぴくんぴくんと暴れるアンシェル。
「だめぇ、こわれる、こわれちゃうよおっ!」
 悲鳴のような哀願。それさえ無視して、ちろちろと責める。
「あふっ、んはぁっ、ひはぁんっっ!」
 こらえきれなくなり、大声で乱れるアンシェル。
「ひっ、ひぃ、やああぁぁぁぁっ!」
 あと少しで達するというときに、しかしまたレーマは舌での愛撫を止める。
「れ……れーまぁ……」
 さんざん性感を高められ、それでもまだ一度も絶頂を迎えさせられていないアンシェルの、泣くような懇願の声。
 失望で一瞬、全身の筋肉が弛緩する。
 その瞬間に、レーマは再び舌を差し入れた。
「ひはぁああああっ!」
 突然のことに、部屋が揺れるような声を上げるアンシェル。
 ぴちゃり、ぴちゃりとわざと音が聞こえるようにレーマは責める。
 そのまま、潮を吹いて果てる。
「ふふっ。本当に、いやらしいご主人様」
 絶頂を迎えて半失神状態のアンシェルを見ながら、そう話しかけるレーマ。
「でも、こんなのじゃ許してあげませんからね」
 そう言って、その表情を覗き込む。
「これから、たっぷりと特訓してあげますから」
「…………」
 その声に、じっとレーマをみるアンシェル。
「れーま……」
「なんですか?」
「こんなことして……ゆるさないからな……」
「いいですよ」
 そう言って、再び唇を重ねる。
「はぁん……」
「ほら、こんなにとろけちゃってるくせに」
「……それは……れーまが……」
「僕がどうしたんですか?」
 微笑むレーマに、アンシェルは小さく言う。
「……あとで、ぜったいにおしおきしてやるんだから……」
「はいはい」
「でも……」
「でも?」
「いまは、なにしてもいいから」
 そう言って、そっと目を閉じた。
 
 
 
「……ほんとにもぅ」
 二時間後。
 ニュスタが、扉の向こうで怒った様な声で抗議していた。
「仮にも軍基地の中であんなに何度も大声ださせなくてもいいじゃない」
「いや、まさか、あんなになるとは思わなかったし……」
 弁解するレーマ。ベッドの上では、アンシェルが一人ですやすやと眠っている。
「聞いてるこっちが恥ずかしかったわよ。私の部屋、真横にあるのよ」
「まあ、ご主人様もここ数日ご無沙汰だったし……」
 謝るレーマに、少し嬉しそうな返事が返ってくる。
「とりあえず、あの子をいじめるいい材料ができたからいいけど」
「でも、あんまりいじめないでくださいね」
 その言葉に、くすりとニュスタが笑う。
「よく言うわ。愛しのご主人様をあんなにさせといて」
「愛情表現なんです」
「ま、そー言うことにしといてあげるわ」
 そう言いながら、鉄格子の向こう側からぴょこんと顔を見せる。
「何ですか、そのイジワルそうな微笑は」
「でもレーマくん、意外と上手そうだし」
「……上手……って」
「時々、私の相手もしてもらおうかしら」
「あ、相手って、その、それって……」
「もちろん、夜のお相手」
「いや、その、それは……」
 慌てふためくレーマに、ニュスタが笑う。
「あらあら、真っ赤になっちゃって。かわいい」
「そ、その、それはそのっ……」
「冗談よ」
「……じ、冗談ですか……」
「あははっ、ほんと、君たち二人って見てて楽しいわ」
「……ほっといてください」
 少し拗ねたように言う。
「でも、かわいくていいわ、二人とも」
「かわいい……ですか」
「うん。初々しくて最高。なんかもう、ずーっと味方したくなっちゃう」
「こんどは、裏切らないでくださいね」
「あら、意外と根に持つのね」
「持ちます」
「そんなこといってると、これが全世界に流出しちゃうぞ♪」
「っっ!」
 水晶球を見せられ、動きが止まる。
「味方してあげるけど、レーマくんは一生私に頭かあがらないんだからね」
「…………」
 女は怖いと思った。

 
 
 
 
 

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