猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

岩と森の国ものがたり09

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岩と森の国ものがたり 第9話

 
 
 星のピラミッドの一室。
 惨劇の一部始終を話し終えたリュナが、ふっと吐息をつく。
「……まあ、そういうわけだ。恥ずかしながら、次に会ってもまるで勝てる気がしない」
「珍しいわね、リュナが弱音を吐くなんて」
「こればかりはね。星のピラミッドのど真ん中だからこそ、僕でも術っぽいものが使えたが、もし他の場所だったら生きてたかどうかもわからない」
 国内でもっとも魔素の集中する霊地に建てられた神殿の、その最中深部。資質のないものでも、外部魔力を取り込めばそこでなら術を使えるほどの、一種の特異点。
 カモシカ、あるいはヒトが魔法を使えるほどの魔素の満ちた場所は、国内では数えるほどもない。
「もっとも、僕が術を使えるほどの場所なら、もともと素質のある奴なら、さらにその力を増す。テレポートなんて、普通はそう簡単に……短時間に二度も三度も乱発できる魔法じゃない」
「……だがな」
 アルヴェニスが異を唱える。
「それならそれで、お前を生かして去った理由がよくわからない」
「そうね。リュナの話だと、どうも不自然だわ」
「……それは、案外簡単に説明がつく」
 リュナの言葉に、顔を見合わせるアルヴェニスとフィリーヌ。
「どうやって?」
「フィルは、答えを半分言ってるだろう」
「答えって……不自然、としか言ってないけど」
「それが、答えの半分なんだよ」
「不自然……が?」
 よくわからない様子のフィリーヌ。
「フィルもアルヴェニスも、僕のことはそれなりに知ってくれてるし、僕が言うことは信じてくれる。でも、そうじゃない人たちはどうだろう」
 少し肩をすくめ、リュナは続ける。
「軍隊上がりで、少々危険な経歴のある奴が、シャリア様に面会しに行った。しかもそいつの目的は和議……といえば聞こえがいいが、要は体のいい降伏」
「……」
「で、話しに行ったはいいが何時までたっても戻ってこない。おかしいと思って見に行くと、中ではシャリアさま以下衛兵まで皆殺しにされ、生存者はただ一人」
「それって……」
「しかもの一人が、よりによって和議を持ちかけた張本人。おまけに剣の腕もそこそこある。……この状況で、僕を犯人だと思わないのはよほどのお人よしさ」
「罠にはめられた、と」
「……罠というほどのものかはよくわからない。偶然、僕があのタイミングで行ったから利用しただけかもしれない」
 そう言いながら、ふと目を扉に向ける。
「……とはいえ、結果的には和議の道しかなくなった。疑われようと憎まれようと、選択肢はひとつしかないんだから、彼らは最後の指揮を僕に委ねるしかないはずだ」 
 扉の向こうで、物音がしたような気がした。
「幹部クラスが全滅だしね」
「ああ。各地に展開している師団クラスを呼び戻すのは難しいだろうから、一気に事を進められる」
「まるでクーデターだな」
「……結果的にね。まあ、しかし油断は禁物だ。下手したら暴走される可能性はある。……そうさせないためにも、ちょっとみんなと話をつけてくるよ」
 そう言って、剣を片手に立ち上がる。振り向かずに続けた。
「二人とも、武器の準備はしておいた方がいい。……この先はどうなるか、僕も予想はつかない」
 
そのころ。
リシェルは、アルルスに連れられてひとつの部屋に案内されていた。
そこは、やや豪華なつくりで、もちろんグランダウスの自宅ほどではないが、家具もきちんとしたものをそろえてあった。
豪奢だが清潔な感じの部屋は、確かにリシェルの好みに合った部屋だが、窓には装飾のほどこされた奇妙なデザインの鉄格子がはめこまれており、おのずと自身の立場を思い知らせている。
「いずれは、あの鉄格子も外すことにはなるでしょうが、それもリュナ卿が協力していただかなくては」
「リュナが、このようなことをする方に協力するとでも思っているのですか?」
「はい」
 リシェルの詰問に、アルルスは当然のように答えた。
「これでも、リュナ卿との付き合いは我々の方が長いですから。奥方様がご存じないことも存じておりまして」
「どういうことです?」
 問い詰めるリシェル。アルルスは、微笑を浮かべて答えた。
「たとえば……そうですね。奥方様は、リュナ卿の経歴に『おかしい』とは思いませんでしたか?」
「おかしい?」
「はい。ルークス家といえばかなりの門閥ですが、そこの長子が騎士団でも士官学校でもなく、なぜ独立遊撃隊に、しかも一兵士として入ったか」
「それは……」
 一度だけ、聞いたことはある。そのときは、少し考えてからこう答えてくれた。
「……それは……もともと、軍人になる気がなかったから、とりあえず楽そうな遊撃隊で軍歴だけをつけたと」
「楽な?」
 くっと、アルルスが笑う。
「何がおかしいのですか!」
「……いえ、失礼。ですがそれは嘘ですよ。こう申しては何ですが、エグゼクターズは国内で一番厳しい部隊ですから」
「しかし、リュナは……」
「あなたに、真相を語りたくなかったのでしょうね。……あの方は人の心を読みますから、本当のことを言うとあなたも悲しまれると思ったのでしょう」
「……どういうこと……ですか?」
「これから言うことには、嘘はありませんよ。……申し訳ありませんが、覚悟して聞いていただきます」
 少し真剣な表情でアルルスが言う。その表情に、少し飲まれたリシェルが言う。
「……わかりました。話してください」
 アルルスは、ひとつうなづくと話し始めた。
 
 
リュナ卿は、一言で言うと捨てられたんですよ。
もともと、リュナ卿の母君は高貴な方ですが病弱でしたから、リュナ卿が幼いころに亡くなられた。
それで、もともとが政治的思惑での結婚でしたから、父君にもさほど思慕というものがなかったらしい。すぐに後添えを娶られましてね。
そして、この後添えとの間に二人の子をお生みになられた。……カミル様とカルロ様。
さてそうなると、邪魔なのがリュナ卿です。長子ですし、なにより正妻の子ですから。
それで、13歳になるや否や、エグゼクターズに入隊させたわけです。
当時は、この国も平和なものでしたから、正規軍は戦う機会などまるでなく、武器を使うのはもっぱらエグゼクターズが国際犯罪者を追悼する場合だけでした。
つまりは、エグゼクターズは当時唯一の実戦部隊……言い換えれば『一番死に易い部隊』だったわけです。
そこへ入隊させたことの、その裏の目的は、いうまでもないかと思います。
ただ、父君には思い違いがあった。
どうせすぐに死ぬだろうと思っていたリュナ卿が、じつは戦士として一級品の素材の持ち主だったわけですね。
一級品の素質が、厳しい訓練で磨きこまれて、やがては特歩……少数任務、単独任務専門の実力派揃いの部隊ですが……そこに入るまでになった。
もっとも、そのころには二人の弟君も、こちらはきちんとした騎士団に入隊されて、やはり相応の力を発揮されていましたから、この時点ではまだ父君は弟君に後を譲れると思っていたわけです。
……さて、ここからが少々重い話です。
リュナ卿はその後、特歩でもずいぶんな結果を残されてます。そしてその後、命を帯びて獅子の国に派遣され、二年後に19歳で戻ってこられた。
奥方様と出会う一年少し前です。そのころには二人の弟君も成長され、それぞれ騎士として将来を嘱望されていました。
その頃、リュナ卿と数名の仲間たちが、密命を帯びてある場所へと向かっています。いかなる命であったか、これは向こうに守秘義務があるのでわれわれも聞けません。
ところが、たまたま同時期に、リュナ卿の二人の弟君もそこにいらした。こちらは、ただの休暇だったようです。
ですが、お二人はそこで謎の死を遂げられた……
 
「どういうことですか! それじゃまるで……」
 我を失ったようにまくし立てるリシェル。それを軽く手で制すと、アルルスは続けた。
「リュナ卿と彼の部下たちが何をしたか、これは何もわかりませんし、証拠もありません。ですから、この二つ……リュナ卿の秘命と弟君の死、ここに関連は見出せません。ただ偶然、そこにいただけです」
「……だったら、そんな言い方は……」
「しかし『何もしなかった』という証拠もない。この後の流れを簡単に申し上げます」
「聞きたくありません!」
 悲鳴を上げるように叫ぶリシェル。
「いえ、どうしても聞いていただかなくてはなりません。あなたは奥方様ですから」
「……いや……聞きたくない……」
「聞いていただきます」
 厳しい口調で言うアルルス。そして、相手の返事を待たずに続けた。
 
ルークス家の後継候補は二人とも亡くなられたわけです。こうなると、残るのはリュナ卿しかなかった。父君は、やむなくリュナ卿をエグゼクターズから引き取り、後継にしました。
……いままで、リュナ卿と呼んできましたが、正確にはこのとき初めて、リュナ・ルークス卿となられたわけです。それまではただのリュナ・ルークスにすぎなかった。
もっとも、父君とは別居することになり、もともと別邸だったグランダウスの住居を住まいとされました。
……そして、ここから王室を中心に次々と事件が起こります。
証拠がなかったり、あるいは衆人環視の元の事件にもかかわらず犯人が特定できなかった事件が、後に内乱が勃発するまでに14件発生しています。
うち七件が暗殺。そして、前の陛下の崩御も、誰もが口にはされませんが、ありえないほど突然の出来事でした。
そして、その後も事件が起きるたびに王室には亀裂が走り、やがて内乱となり、今に至ります。
この内乱でリュナ卿は父君と同じく、王弟派につかれた。……そもそも王弟派とは、女系の王の擁立に反対する勢力。およそその手の差別を嫌うリュナ卿らしからぬ、とは思いませんか?
 
「……それじゃ……まるで……」
 言葉を失うリシェル。
「もちろん、私はは一般論として結果を述べたまで。奥方様が何を思われようと、その証拠はありません。……まあ、残すような人でもありませんが」
「…………」
 うつむいたままのリシェルに、アルルスが少し優しい口調で言う。
「とはいえ、リュナ卿は家族の愛に恵まれない方でしたから、逆に自分が得た家族は大事になさるでしょうね。……奥方様の身を案じないはずがない」
「…………」
「では、今日はこれで。よい夜を……といっても眠れないかもしれませんから、安定剤は向こうの机の引き出しにあります。あとは呼び鈴をならせば侍従が駆けつけますので用件をお話ください。あと、夜食ももう少ししてから運ばせます」
 そう言いのこすと、アルルスは扉を閉め、鍵をかけて立ち去っていった。
「……りゅなぁ……」
 足音が遠ざかった頃、リシェルが、耐え切れなくなったように嗚咽をもらしはじめた。
 
 その頃、ライファス城の地下。
「久しいな、ギュレム」
「……これは、ステイプルトン殿」
「面白いことがおきる。準備をしておけ」
「……面白いこと?」
「危険なこと、と言ってもよいがな」
「それは……」
「ある男が、和平を求める交渉に決裂し、賊の頭領と部下30人ばかりを皆殺しにした。やがてその男はこちらに逃げてくる。忠義の臣としてもてなしてやれ」
「ある男……それはまさか」
「お前も知っている男、かもしれぬな」
「……その男が……しかし」
「その男を救えば、お前にとっても必要な駒となるはずだ」
「……承知しました」
 ステイプルトンは、飄然と去る。
──いつの間に来られたのだ……相変わらず謎の多い……いや、それよりもまさか……
 残されたギュレムは、一人疑問を残しながらも、玉座のローザに伝えるために歩きはじめた。
 
 再び、星のピラミッド。
「……遅いな、リュナの奴」
「時間はかかるわ。相手が疑ってるとなるとなおのこと。徹夜になるかもしれないし、徹夜しても決裂するかもしれない」
「……場合によっては、リュナを引っ張って逃げることもありえるか」
 真剣な顔のアルヴェニス。フィリーヌも、緊張した声で答える。
「覚悟しておいたほうがいいわ」
「……目いっぱい頑張った末が身内に疑われて逃げる、じゃあ浮かばれねぇな」
「リュナは、ずっとそんな目に会ってたわ」
 フィリーヌの言葉に、アルヴェニスが肩をすくめる。
「……あいつと一緒にしないでくれ。俺には真似できん」
「私も、ね」
「……そういえば、フィルは」
「何?」
「リュナとの付き合いも長いよな」
「そうね……訓練生の頃からだから、8年近いかな」
「どんな奴だった?」
「ん~……初めの頃は泣き虫だったな」
「泣き虫?」
 驚いたような声を上げるアルヴェニス。
「そ。泣き虫の癖に妙に強がってて、おかしなところで意地っ張りなんだけど……やっぱり泣き虫ね」
「あれが、ねぇ……」
「だからあいつ、今でも私に頭が上がんないでしょ。恥ずかしいところ、たっぷり見られてるから」
「……確かに」
 苦笑するアルヴェニス。本人は対等ぶってるつもりでも、ところどころで腰が引けていたりする。
「ま、そうは言っても……私も、リュナには知られたくないことも知られてるし、お互い様なんだけどね」
「どんなことだ?」
「知られたくないことを言うわけないでしょう!」
「う……」
 怒られて肩を落とすアルヴェニス。
「……その、エグゼクターズじゃ、ほとんどずっとリュナと私がコンビだったから。表向きは『対国際犯罪者部隊』なんだけど、裏向きってのもあるのよ」
「……どんな部隊にもつきものではあるな」
「でも、裏向きの仕事は証拠残すわけにも行かないし、おのずと優秀な……って自分で言うのも変だけど、その、ミッションの通算成績がいい人がやることになったのよ。そうなると、自然とそんな仕事も増えて」
「なるほどね」
「コンビで力を発揮する場合、いいことも悪いことも含めて、互いを知っておいたほうが有利だし。昔……つまり、リュナが獅子の国に行くまでのことはお互い、たいていのことは知ってるわ」
「俺の知らないことも、か」
「アルの知らないことばかりよ」
 そう言って、少しだけ顔を曇らせる。
「言いたくないようなことばかりしてたし。そんなこと、アルには言いたくないし」
 
「……リュナも、なんだろうな」
「たぶんね。リシェルちゃんには、その頃のことはほとんど話してないはずよ」
「……夫婦間で隠さなきゃならないほどのことか」
「たぶん……リシェルちゃんは受け入れるまでに時間がかかるはずよ。リュナ、優しいし……いつもリシェルちゃんが傷つかないようにしてたから。もしかすると、それがかえって保護しすぎてリシェルちゃんを弱くしたのかもしれないけど」
「嘘は嘘を呼ぶからな」
「もともと、リシェルちゃんを必要としてたのはリュナの方なのよ。あいつには、安らげる場所と、安らげる相手が欲しかった。……当然よね。七年もあんなことやってたら、壊れないだけでも奇跡だわ」
「フィルじゃ駄目なのか?」
「言ったでしょ。私とあいつは、お互いに知られたくないことまで知りすぎてるって」
 少し悲しげなフィリーヌ。
「……」
「そうじゃないのよね。リュナにとって必要なのは、あのまま、ルークス家の一員として育った、貴族としての自分を演じられる場所」
「演じる……ったって、いまはもう立派なルークス家の」
「立場的にはね。でも中身はそうはいかないわ。……貴族になりきるには、少々嫌な経験をしすぎたから」
「それで、演じるわけか」
「そうとしか言いようがないから。運命が変わらなかったときの自分を想像して演じるしかない。でも、想像はできても、なりきることはできない」 
「……そんなの、楽しくないだろう」
 アルヴェニスの言葉に、軽く首を振る。
「楽しいはずよ。たとえ演技でも、その空間は幸せなはず。そしてきっと、リュナが幸せでなきゃ、リシェルちゃんはあんなに幸せそうには笑わない」
「そういうもの、なのかもな」
 よくわからない。だが、少しわかるような気もする。
「しかし、フィルはそういうの必要ないのか?」
「私? ……私は結婚してるわよ」
 さりげなくいうフィリーヌ。その言葉に、アルヴェニスは驚いたような声を上げる。
「え、ええええええっ!? フィルの旦那なんて、見たこともないぞ?」
「そりゃそうよ。私だって見たこともあったこともないし」
「は?」
 あくまでも普通に語るフィリーヌに、アルヴェニスがぽかんとなる。
「私たちヒポグリフ種って、まだまだ実験体なのよ。一人一人が、それ一代だけの種。それで、生まれる前から次の代への配合が計画されてて、生まれた時には誰の精子と誰の卵子を交配させるか決まってる」
「……それって……」
 それで、ある程度の年齢になったら卵子を配合に差し出して、それで終わり。それが私たちの……」
「普通、そんなのは結婚とは言わないだろう!」
「普通はね。ヒポグリフって、普通じゃないのよ」
「……」
「まあ、でも私は、リュナのそばにいられたらそれだけでいいから」
「……切ない話だな」
「そうでもないわ。……何ていうか、わたしとリュナはね、恋愛とか色恋とか、ましてや結婚とか配合とか関係ないのよ」
 フィリーヌは、微笑さえ浮かべて言う。
「腐れ縁、って言うか……離れようがないっていうか……リュナは、私にとってはもう一人の私だし、リュナも、私のことをもう一人のリュナだって思ってる。私たちってそういうものなの」
 そう言って、フィリーヌはリュナが出て行った扉を見る。
「だから、お互い自分の分身みたいなもの。……結婚、という話で言えば、自分自身とは結婚できないでしょ? そんなものなのよ」
 わかったような、わからないような気がした。なにやら言葉巧みにごまかされているような、そうではないような。
「……なんだか、仲間はずれにされたような気分だな」
「そんなことないわ。私やリュナと、アルは間違いなく仲間よ」
 
 リシェルの閉じ込められた部屋の中。
 リシェルは、布団を頭からかぶってベッドにもぐりこんでいた。
 心の中が乱れて、何も考えられない。
 リシェルの見たリュナは、いつも笑顔を浮かべて、優しく振舞ってくれていた。その姿が、心の中で揺れ動く。
「リュナぁ……」
 嗚咽のような声を漏らすリシェル。
 その指が、服の上からリシェル自身の恥丘に触れる。
 ゆっくりと、指を動かす。
 気持ちよい刺激が、下腹部にじんと伝わってくる。
──もう……何もかも忘れたいよ……
 指を少し早く動かす。そのたびに、刺激があふれ出してくる。
 秘所から、何かとろりとしたものがあふれてくる。
──足りないよ……こんなんじゃ、忘れられないよ……
 ベッドの中でスカートを脱ぎ捨て、白い下着の中に指を入れる。
 ぬるりとしたものが、指を濡らす。
 薄い恥毛をかきわけるようにして、指を自分自身の中へともぐらせる。
「んっ……」
 強い快感が、リシェルの全身を襲う。
──もっと……もっとほしいよ……
 指を、乱暴に動かす。そのたびに蜜が溢れ、強い刺激が電流のようにリシェルを襲う。
──もう……壊れちゃいたいよ……
「んくっ……んん……ひあん……」
 可愛らしい唇から、嗚咽交じりの甘い声が漏れる。
 指を包み込むように溢れてくる液はとめどなく溢れてくる。
 もうひとつの手も、乱暴に胸のふくらみをもみしだく。その先端の、硬くなった突起を指先で転がすたび、心地好い刺激が全身を包む。
 ぼんやりとした意識の中で、指だけが自分のものではないように的確にリシェルの敏感な場所を刺激する。
「……れーまぁ……」
 無意識に、声が漏れる。その声の意味に、自分自身で気づく。
──え……どうして……れーまなんて……
 その脳裏に、いつもの笑顔を浮かべたレーマの姿が写る。
(どうしたんですか、リシェルさま)
 
──れーま……あのね、わたし悪い子なの……
 レーマに心の中で謝りながら、指を動かす。
(どうしたんですか?)
──わたし……リュナのおよめさんなのに……れーまのこと考えてる……
 自責の念を責めるように、レーマの声が聞こえる。
(いやらしいんですね、リシェルさまは)
──そんな……ちがうの、だって……
(違いませんよ。だって、こんなに濡らして)
 恥部の中をまさぐる指の感触。そして、じんじんと快感が伝わる。
──だって……
(それに、どうしてリュナ卿じゃなくて僕のことを考えたんですか?)
──わかんない……わかんないよぉ……
 くちゅくちゅと、いやらしい音が恥部から漏れる。
(リシェルさまが、ほんとはいやらしい子で、悪い子だからでしょう)
──ちがう……わたし、わるいこじゃないもん……
 脳裏に浮かぶレーマが、次々と言葉で責める。そのたびに指の動きは激しくなり、蜜がこぼれる。
(ほら、そんなにしてるとベッドが汚れますよ)
──だって……れーまのせいだもん……
(どうして僕のせいなんですか?)
──だって……れーまが……
 それ以上、何も考えられなかった。
(仕方ないですね)
 レーマが、肩をすくめて笑う。そっと顔を近づけて、唇を重ねてきたような気がした。
(ほんとに、いやらしいご主人様なんだから)
──だって……れーまにあいたいもん……やさしくしてほしいもん……
「いますぐ……れーまにあいたいもん……」
 リシェルの口から、小さく言葉が出る。
 指が蠢動するたび、ぴくんぴくんと、小刻みに震える体は汗と愛液でぐっしょりとぬれている。 
 ほとんど何も考えられなくなって、真っ白になった頭の中で、レーマの声だけが聞こえたような気がした。
「すぐに、行きますから。もうすぐ行きますよ、リシェル様」
──うん……まってるから……
 安堵したように、全身の力が抜ける。
 溢れた愛液は、ベッドをぐっしょりと濡らしていたが、失神したまま眠るリシェルには、もう気づかなかった。
 その寝顔が、すこし安らかになっていた。

 
 
 
 
 

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