猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

蒼拳のオラトリア 第六話

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匿名ユーザー

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 ミナミが工房を後にして数分後…彼の不在を確かめてから、ちゃぷんと軽い水音を立て洞窟内に
入る影があった。
「お帰り、フーラ」
 岸辺の壁に寄りかかり、その影を迎えるノーマ。無言で水面下から立ち上がったのは、彼の言葉
通りたしかにフーラであった。彼女の表情はどことなく複雑な様子だったが、ノーマはそんな顔を
予想していたように言った。
「食事の用意は出来ているが、どうする」
「…いらないわ」
「そうか」
 ノーマの手から『星明りの仮面』を引ったくり、フーラはそれきり無言で奥に進んでいく。
「…面白い少年じゃないか」
 背中にかけられた言葉に、フーラの足がぴたりと止まる。
「少々経験足らずなところはあるが、落ちてきたばかりではそんなものだろう。自省の精神もある。
彼ならば問題は…」
「あいつの話はしないで」
 ぴしゃりと会話を打ち切られる。ノーマは軽く嘆息し、その背中を追った。
「やはり食事にしないか、待っていて腹が減った」
「ダイエット中なのよ、一人で食べてちょうだい」
 振り向きもせずに言われ、ノーマは苦笑した。
 …年頃の娘の扱いはどうにも難しいものだな。



  蒼拳のオラトリア 第六話「MB-5?」



 トリアさんの家の中は、奇妙な沈黙に包まれていた。
 沈黙の中心は、土間に転がる謎の物体。いや、俺にとっては謎でもなんでもない。先ほど帰り道
で出会ったASIMO(?)だった。
 …前言撤回、やっぱり謎だ。
 なにが謎って、こいつ自分に驚いてトリアさんが放った寸止めパンチに驚いて気絶しやがったの
である。む、ロボットだからマシンフリーズって言うべきなのか?
「…ええっと…」
 どう説明したものか困ってとりあえず声が出る。それを聞いて、トリアさんがこちらを向いた。
「…ミナミ、コレはなに?」
「俺もちょっと説明に困るんですけど…多分ロボットです、俺たちの世界の。似たやつを見た事が
ありますから」
「ろぼっと?」
「ヒトのカタチを模した機械です。ヒトを手伝ったり、ヒトに出来ないような危険な仕事を代りに
やってもらうために研究されてました…ほとんど玩具みたいなのが大半でしたけど」
 そう、それでもその最先端のものは紛争地域に駆り出された挙句、よくあるSFみたく暴走して
くれやがったとも聞いている。まったく世界は驚きに満ちている。
「こいつもどこかから落ちてきたみたいですね」
「…? でも、あの軍艦以来このあたりに落ち物があったことはないはず…」
「そうなんですか?」
「うん…知り合いからもそんな報告は聞いてない」
 知り合いって、もしかしてノーマさんのことか?
 …そうか、もしかして。
「トリアさん、もしかしてノーマさんと交代で毎日落ち物の監視をしてるんですか?」
「うん、そう……? ミナミ、なぜノーマのことを知ってるの?」
「実は、さっきフーラに頼まれて流木の配達を…あ、これお土産です」
 すっかり忘れていたお土産の魚を手渡すと、トリアさんは深深とため息をついた。
「…ごめん、ひどい目に遭わなかった…?」
「あ、いえ…ちょっとびっくりは、しましたけど」
「そう…フーラにはよく言っておかなくちゃ」
 遮光器の上から眉間のあたりを押して苦悩のポーズになるトリアさん。
「いえ、いいんですよ。おかげで大切なことがわかりましたし」
「大切なこと…?」
「俺、これからもっとトリアさんのこと手伝います。昼間の外出、結構きついんですよね…?」
 それを聞いて、トリアさんが一瞬「あ…」と口を開いた後、
「もう、馴れたから大丈夫……でも…ありがとう」
 そういって、少しだけ微笑んだ。
 それはトリアさんのはじめて見る笑顔で、俺はなんだか顔が耳まで熱くなるのを感じた。
 なんとなくみつめあったまま互いに口をきけなくなる。どちらからともなく手が伸びて、互いの
指先が触れ合いそうになった……そのとき、

  ヴゥ――……ン

 低い起動音がして、俺たちは慌ててぱっと離れた。どうやら起きた(リブートした?)らしい。
…くうっ、なんつう間の悪い…!
≪…おはようございます、正常に起動しました≫
「ああ、そりゃよかったな…」
≪血圧が上昇しているようですが、なにかありましたか≫
 俺は無言でぽかんと一発殴ってやった。
≪痛いです≫
 そいつは生意気にも痛みを主張したが黙殺した。馬に蹴られちまえ。

「で、どうなんだ」
≪何がでしょうか≫
「思い出したのか、名前とか形式番号とか。正常に起動したんだろ?」
 俺にそう訊かれて、ロボは少し動きを止めた。考えてる、というか検索中?
≪…ダメです、データに原因不明の断絶が生じています≫
「そうか…じゃ、お前どこから歩いてきたんだ?」
≪周辺の地理に関するデータ不足です≫
 土地勘ないから説明できないってことか、まあもっともだ。
≪周辺の正確な地図を参照できるならば、稼動中のログから類推した行動記録を作成可能です≫
「そんなこと言ってもなぁ…」
 こいつの言ってる正確な地図っていうのは、恐らくGPSとか航空写真とかそんなハイレベルな
精度の地図を言ってるんだろうと思う。そんなもの、この世界で用意できるはずがない。
「じゃあ、ここに落ちてからの稼動時間は?」
≪時折フリーズしていたため、正確な時間は不明です。確認した昼夜の回数から類推すると一週間
以内ではないかと思われます≫
「一週間ね…」
 …ん、一週間?
「ミナミ、この『ろぼっと』もしかして…」
「あの軍艦に積んであったやつかも、って言いたいんですよね。俺もなんかそう思いました」
 しかし確信は持てない。なにせ寸止めパンチでフリーズするようなやつだ、実際には二週間とか、
下手すると一ヶ月とかだったりしかねない。だけど、そんな長時間このへんをうろうろしたり気絶
したりしてた落ち物の塊がこれまで見つからなかったというのもまた不自然だ。
「お前、一週間もよく見つからなかったなぁ…」
≪『現地の人間とは極力接触をさけよ』とのコマンドが記録されていましたので、なるべく隠れる
場所の多い森林の中を移動し、人目を避けて行動していました≫
「んじゃあ、俺の前に出てきたのは?」
≪『人類が確認できた場合には可能な限り接触せよ』とのコマンドが記録されていました≫
「どっちなんだよ!」
 おかしな指令に思わずどなってしまう。こいつやっぱり壊れてるんじゃないのか?
「………」
 黙ってぽんこつロボを観察していたトリアさんが、なにかを思い立ったように頷いた。
「…ミナミ、青龍殿にいこう」
「へ? せいりゅうでん…って、なんですそれ?」
「私の上役が棲んでいる場所……第一発見者であるミナミにも、できれば付き合って欲しい」
 上役って、え、どういうことだ? なんかさっぱり話についていけないんですけど。

 何がなんだかわからぬまま準備をして浜辺に出ると、ノーマさんとフーラが待っていた。
「…はぁい」
「あれ、二人ともなんでここに」
「先ほどトリアから”緊急”との念話があったんでね」
「急に呼び出してごめんなさい…コレを運ぶのに人手が欲しかったの」
 トリアさんと二人の視線を受けて、ぽんこつロボが反射的にぴしっと動きを止めた。なんか妙に
人間くさい動きをするやつだなぁ…。
「なぁにコレぇ…」
「『ろぼっと』というらしいんだけど…君、水中に潜っても平気…?」
≪日常生活に必要な程度の防水処理はされていますが、潜水活動には対応しておりません≫
 つまり翻訳するとだ。
「…多少は濡れてもいいけど潜ったら壊れるってさ」
「やっぱり…」
「ふむ。つまり彼…彼女か?…を、無事青龍殿に連れていきたいから我々を呼んだわけだな」
「そう…手伝ってもらえる?」
 トリアさんの言葉に、ノーマさんとフーラは即答した。
「勿論だとも」
「あたしがトリアのお願いを断るわけないじゃなぁい?」
「うん…ありがとう」
 …さて、少々嫌な予感がしてきたのだが。
「目的地ってもしかして、海の底…?」
「そういうことになるな」
 うへぇ、やっぱり…。
「…心配しないで、ミナミは私が連れていくから」
 それを聞いて、フーラがぎろっと俺を睨んだ。
「本当ならトリアと二人で海底デートなんてぜーったい!させたくないところなんだけど…」
「ごめんね…私じゃノーマさんと二人がかりでも濡らさずに運ぶのは無理だから」
「今夜だけよ、ミナミ…それと、わかってるでしょうけどトリアに不埒をはたらいたらサメの餌よ」
 はいはい、肝に銘じておきます…。


「…私が彼を連れていけば良かったんじゃないか?」
「ノーマは黙ってて……譲ってあげるのはこれが最後よ」
「…やれやれ…」


 水上の淡い月光を背に、俺たちは海中を進む。いつかの落水を思い出す暗い水の中だというのに、
俺の心は妙に落ち着いていた。
 トリアさんがそばにいるからだ。
 いや、変な意味じゃないぞ。もちろん精神的なところもあるんだが…トリアさんの魔法のお蔭で
俺は水中だというのに溺れる心配をする必要がなかった。なんだかしらんが口元だけを空気の泡が
包み込んで、地上と変わらない感覚で呼吸ができる。以前経験したスキューバよりも楽な感じだ。
 さらに…これもおそらく魔法なんだろうが…俺とトリアさんの体を進行方向に押し流す不自然な
海流が発生している感じがする。万年筆を回収に行ったトリアさんが妙に速かったのもこの魔法の
力だったのかもしれない。
 ともかく、俺はトリアさんに手を引かれ、亀に乗せられた浦島太郎の気分を存分に味わった。
 …ただし、背中にちくちくどころじゃなくざくざくと刺さるようなフーラの毒視線つきで。
 サメの餌にされなくても、この殺気だけで人死には出せそうな気がした。

 どのくらい潜行しただろうか、行く手にほのかな燐光が見え始めた。チョウチンアンコウだの、
ホタルイカだのが発する光に少し似ているか。
 やがていくつもの燐光に照らされて、海底にあるとは思えない立派なたたずまいを見せる建物が
闇の中に浮かび上がった。うわあ、これまた絵に描いたような龍宮だな……照明が妙に質素だけど。
 表門をくぐり、玄関だろうと思われるでかい扉の前に立つと、来るのを承知していたように扉が
ゆっくりと開いた。中に入るなり、唐突に水のない空間に放り出される。
 驚いて振り向くと、玄関を境に『垂直の水面』が出来あがっていた。これも魔法なんだろうけど、
俺とトリアさんの髪や水着も少し湿ってるくらいであらかた水切りされてしまった。便利だなぁ…。
 俺たちに少し遅れて、水切り玄関をノーマさんとフーラが通ってくる。
「いつ通っても馴れないわね、ココの玄関…」
「お疲れ様。そいつどうだった、うるさくしなかったか?」
「うるさいも何も…」
 フーラが二人がかりで抱えていた青い光の泡の玉をゆっくりと床に降ろすと、光が消えて中から
ASIMO(?)が転がり出た。なんだ、こいつまた気絶してら。しかもなんか妙に熱持ってるし。
「しばらくぶつぶつヘンなこと呟いてたかと思ったら、『かいせきふのー』とかいって気を失って
それっきり……あとは静かなものだったわよ?」
 なぁる、魔法を科学的に解釈しようとして熱暴走でぶっ倒れたか…。難儀なやつだ。
「おい、起きろよ…って言って起きるわきゃないか」
 仕方ないので、どこかに再起動スイッチでもないかロボの体をごそごそと調べ始めた。
 …ん? よく見たら後頭部の隅っこのところになんか刻印があるな。
「『MB-5』……こいつの形式番号か?」
 MB、なんの略だろ。マシーンブラスターとか? マシーンブラスター5…こいつにはちょっと
立派過ぎる気がするなあ。
「ちょっと、何ぼーっとしてるのよ」
「あ、悪い」
 どうでもいいことを考えていたせいで、後ろからフーラに小突かれる。そうそう、スイッチ探す
途中だったっけ。
 その時、興味深そうに覗きこんでいたトリアさんが、おもむろに手を振り上げた。

  ぱちこんっ

「ちょっ!?」
 止める間もなく、平手でロボの頭を引っぱたかれる。
「か、仮にも精密機器になんつうことを…!」
 しかし、パニクる俺をよそにヴゥ――…ンと聞き覚えのある起動音がした。
≪…おはようございます≫
 呆気にとられる俺に、トリアさんがどことなく誇らしげに言う。
「調子の悪い機械は叩くといいと前に聞いたことがある…」
「…お前、アバウトな作りしてんだなぁ」
≪何の話でしょうか≫
 今度から、こいつが気絶したらひっぱたくことに決めた。

≪MB-5?≫
「ああ、そう書いてあったんだよ。位置的にお前の名前だろ」
 どこからか現れた女官風の人の先導で廊下を歩きながら、俺はポンコツ疑惑のいや増したロボに
先ほどの刻印の話をしてやっていた。
≪その可能性はきわめて高いですが、やはりデータが参照できないため確証が持てません≫
「ふぅん…しかし結局ASIMOそのものじゃなかったってことか。なんの略なんだろうな?」
「『雌豚』の頭文字とかぁ?」
 いきなりトばすねフーラ……こいつのどこに雌豚の要素があるか言ってみろバカったれ。
「『ブリキ大王(MASTER of BRICKTOYS)』とか…」
 こいつのボディは金属製じゃないですけど、横文字経由とはあなたも結構イケる口ですねトリア
さん。でもやっぱり立派すぎません?
≪MURAMASA BLADE!! -5(※呪いつき)なのでは≫
 なんでいきなり武器になってんだよ。しかも呪いつきムラマサとか、レアっていうかチートだろ。
そもそも自分の名前をなんだと思ってるポンコツ三等兵。
「…ふぅむ…」
 お、ノーマさんが熟考されている。これはなかなかいい答えが期待できるかも。

「こういうのはどうだろう…メタルギ『着いたわよ』」

 目的地らしい大扉の前に到着したので、フーラがノーマさんの発言を打ち切った。
 ノーマさんはどことなく寂しそうだった。

「おうおう、おまぁさんらよく来た、よく来た」
 謁見室のような場所に通されるなり、まるで昔話の絵本から飛び出してきたような人のよさそう
なご老人が俺たちを出迎えた。質素な身なりをしてるが、いかにもえらそうな場所にでんと座って
いるので高い身分なのがまるわかりだ。
「お久しぶりです、龍王様…」
 トリアさんをはじめとする三人がすっとかしずいたので、俺もつられて膝をついた。隣に立って
いたロボも、少し迷うような動作をした後ささっと膝をつく。
 驚いたことには、トリアさんがかしずく前に遮光器を外したのだ。目上の方の前だからだろうか。
しかし…くっ、ちょうど後ろにいるからトリアさんの顔が見られん! レアな状況なのに口惜しい。
「おお、形式ばったことはこの際ええでな。今回は大変じゃったのぅトリアちゃん」
「いえ、突然のことでしたが港町の人がみな協力してくれましたので…」
「うんうん、現場の判断ちゅうのはええもんじゃなぁ。あの町にはわしもたまに散歩に行くんじゃ、
こじんまりしとるわりには活気があってええ町なんで気に入っとるわぁ」
 龍王様がお忍びであの町に? …まあ、ぱっと見にはどこにでもいるご老人だからなぁ。目立つ
部分といったら変わった角と、袖口からわずかに覗く碧玉を思わせる鱗くらいか。
「さて、そこにおるんが今回の用件と、トリアちゃんの新しい従者かい」
 急にこっちに話を振られてうろたえる。え、俺が従者? いつの間にそんなことに?
「龍王様、トリアにはあたしがいます。そいつは単なる居候ですわ」
「フーラ、今のおまぁさんは実質ノーマの従者じゃろうがね…」
「それはあくまで仮! あたしはずっとトリアの従者になるつもりで修練を積んできました、今更
ぽっと出の落ち物などに譲る気はさらさらありませんの」
 あ、あの、また話がよく見えないんですが…。
 なにやら一方的に険悪な雰囲気のフーラに気圧されて困っていると、ノーマさんが耳打ちをして
きた。
「…我々が昼間を苦手としているのはもう話したと思うが、任務の内容によっては日中にも活動を
しなくてはならなくなることがままある。従者というのは、そういう日中の活動のサポートをする
要員のことなんだよ」
「はあ、なるほど…」
 しかしすっかり解説役ですねノーマさん、今度雷電って呼んでいいですか。
「…なんだかわからんが絶対に断る」
「まだ何も言ってませんよ!?」
 実はマルチアイだけじゃなくてテレパシスト能力もあるんじゃないでしょうね…。
「ふぅむ…まあ、その件は後回しじゃな」
「後回しっ…!?」
「今優先すべきは、そこのからくり人形くんじゃろう? ちっと検査したいんで、借りとくぞい」
 龍王様がぱんぱんっと手を打つと、謁見室の暗がりから音もなく女官が二人進み出た。
≪あ、何をなさいます。あーれー、おやめになってー…≫
 妙な棒読みの声を残して速攻連れ去られていくロボ。ヘンな台詞知ってんなぁ…。
「心配はいらんよ、あんまムチャはせんからなぁ。まあ、調べるのに時間もかかるじゃろうから、
今晩はここに泊まっていくとええ」
「…お心遣いに感謝いたします」
「ちょっと、龍王様!」
「その件はまたゆっくり検討させてもらうでな、そんじゃあおやすみぃ」
 憤懣やるかたないフーラをよそに、龍王様はとっとと謁見室を出ていってしまった。
 こいつは後が怖そうだなぁ…。


 女官さん(よく見ると彼女たちもシャコだった)の案内でそれぞれが客間の寝室に通され、俺は
質素だが金はかかっていそうな寝台に寝転がった。
 …そうか、ここの照明がどこも薄ぼんやりとして暗いのは、ここに出入りするシャコたちの眼に
配慮してたんだな。だからここではトリアさんも安心して遮光器を外せるってわけだ。
 でもトリアさんは、結局謁見が終わるとすぐに遮光器をつけてしまった。おかげでトリアさんの
生素顔は全然見られず。はぁ……トリアさんの目、どんな色してるんだろ。

 トリアさんが遮光器を外したがらないのは、単純に敏感な眼だけが原因ではなさそうな気がした。
 もし眼だけが問題なら、ここで遮光器を使う必要はまるでない。別になにか…おそらく精神的な
理由があるんじゃないだろうか。

『そこにおるんが今回の用件と、トリアちゃんの新しい従者かい』

 ふと、龍王様との謁見のときの言葉が浮かぶ。
 …トリアさんには以前、俺やフーラとは別に従者がいたってことか…?
 では、そいつはなぜ今トリアさんのそばにいないのか。
 単純に考えるなら、死別…ってところだが…。

 あいつなら、なにか知ってるかもしれない。
 もっとも、今尋ねるのはまず不可能だろうけど…。

 そう考えていたとき、客間の扉を叩く音がした。
「…ミナミ、起きてる?」
 なんつうタイミングだろう、ちょうど会いたいと思った時に…。俺は飛び起きると、扉を開けた。


 フーラが立っていた。



(つづく)

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