猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

そんな1日

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そんな1日



 ピィーピッピッピィー
 チッチチチィ
 小鳥のさえずり声で目が覚め、ベッドからもそもそと起きる。
 窓の外を覗くと陽がだいぶ上がっており、かなり寝過ごしている事が判る。
「ま、まずい・・・。急いで仕事しないと彼に怒られちゃうかも・・・・・・」
 あわてて服を着替え、これからやる事の準備を始める。



「ふ~っ、何とか終わったかな?」
 洗濯物達と格闘すること数時間。干された洗濯物たちを見ながらほっと一息。
 さて、今日の仕事も終わったことだし遅くなったけどお昼ご飯にしよう。
 そう思い家へと向かおうとすると、腰の辺りを何者かが掴む。
 とたんに、フッと体が持ち上がり、大きな影が顔の横から出てくる。
「随分と、洗濯に時間が掛かってるな。朝から今まで掛かったとは言わないよな?」
 彼が、うっすらと笑いながら、顔を私に向けて聞いてくる。
「えっと、あの、そのですね・・・・・・寝過ごしました、ごめんなさい」
「そんな事だと思ったよ」
 そういいながら私を地面へと降ろし
「ただいま、まこと」と、右手をあげながら彼が言う。
「おかえりなさい、ルトラさん」と、あわてて私もそう返す。

 彼の姿にはすぐに慣れた。
 平たい顔にまん丸な目、栗みたいな形の鼻にクッキーの様な小さな耳。
 胴長短足で手足には水かきが有り、太い尻尾は短足のせいか地面を引きずる。
 少し固いが滑らかな触り心地の毛皮、そして背が190㎝程のカワウソな彼。

「何か体に付いてるか?」と、私が彼を見ていた為か、そう聞いてくる。
「いえ、つやつやの毛皮が良いなと思って」
「まっ、手入れは欠かさないからな。それより家に入って昼食にしよう」
 そういって、家の中へと入っていくので私もいっしょに入る。



 遅めの昼食を彼と一緒にとりながら、今日の仕事のことを聞いてみる。
「ところで、今日はどうでした?」
「ん? ガルボとの取引のことか?」
「はい、あの食堂の、怪しい虎の人との事です」
「怪しいかは置いといて、しっかり売れたよ」
「魚を30匹ほど持って行って、全部で5セパタで売れたよ」
 彼は、定期的に川や湖で魚等を取り、2時間近く歩いた先の小さな街の食堂へと売りにいっている。
 今日は、朝早くから魚を取り、そのまま街へと売りに行っていた。
「そうだ、ガルボからまこと宛の手紙を受け取ってきたぞ」
「あの、私、こっちの文字は読めないんですけど・・・」
「あとで俺が読んでやるよ」
「それはいいとして、さっさと食事を済まそう」
 そんな事を話しながら昼食を摂り終える。
 彼特製のハーブ茶?(ハーブ風の葉と甘い実や蔓等を水で煮立てた物)で、食後のお茶を飲み一服する。
 と、そこで彼がこんなことを言ってくる。
「どうだ、だいぶ暖かくなってきたし、この前買った水着を着てみる為にも、湖で泳いでみないか?」
「随分と突然ですけど、どうしたんですか?」
「こっちに落ちて、ここに住み始めて、7日程経ったろ?」
「滅多に、ここから離れられないし、すぐそこだが気分転換にと思ってな」
「あ、いや・・・正直に言うと、まことの水着姿が見たいなと・・・」
「ほら、売ってた狐の行商人も似合うって、言ってたんだろ? だから見てみたくてな」
 すこし照れた感じで、そう言う。
「随分と直球勝負ですねー。確かに水着は着てみたいですけど・・・」
「よし決まりだ! じゃあ、俺は先に行ってるから、すぐに着替えてきな」
 そう言って、彼はさっさと出て行ってしまう。
 うーん、やたらと強引です・・・
「まあ、せっかくのお誘いですし、行きますか」
 タンスから青い水着を取り出す。
 肩口まで在る髪は後ろで纏め、ゴムで結わう。
 ワンピースの水着(背中は大胆カット)へと着替え終え、湖へと向かう。
 家から歩いて1~2分の所(目の前とも言う)に在る湖に到着する。
「よく似合ってるじゃないか、水着姿も可愛いぞ」と、仰向けに浮かびながら彼が声を掛けてくる。
 お世辞でも嬉しい事を言われながら、岸で準備運動を始める。
「早く入ってきな。人にはまだ少し冷たいかもしれないが、気持ち良いぞ」
 簡単な運動を終え、足からゆっくりと湖へと入ってゆく。
「うー、確かにまだすこし冷たい」と、思わず声が漏れてしまう。
 それでも、冷たいのを我慢して肩まで浸かり、ゆっくりと彼の元へと泳ぎだす。
「どうだ、気持ち良いだろ?」
 私の周りをスイスイと泳ぐ彼。
「少し冷たいですけど、確かに気持ち良いです」
 それにしても、彼の泳ぎを見ているとまるで水を得た魚の様だ。
 水の中を弾丸の様に泳ぎ、それでいて尾も使い急なターンも出来る。
 これなら魚を素手で捕まえたり出来る訳だと、改めて感心してしまう。
 そんな風に彼の姿を眺めていると・・・
「おーい、俺ばかり泳いでもしょうがないだろ・・・もっと泳ぐぞ」
 そう言うと、彼が私の後ろへと近寄り、私の体を後ろから抱える。
「一緒にもぐるぞ、合図したら息を止めろよ」
「え? あ、はい」
「よし、5まで数えたら潜るから息止めろよ。1、2、3、4、5。止めろ!」
 その声と共に私の体は湖の中へと入っていく。
 彼の体が背中に当たる。デザインとしてカットされている所からそれを感じる。
 逞しくは無いけれど、私の事を守ってくれる彼の体が・・・
 それを背中に感じながら湖の中を進んでゆく。
 息が続かなくなりそうだ、そう思った途端に水面へと体が上がってゆく。
 2人で水面へと顔を出す。
「どうだ、湖の中も綺麗だろ?」
「あっ、はい」と、曖昧な返事を返してしまう。
 まさか、『あなたの体が気になって、余り見れませんでした』と、言えないから・・・
 そんな事を考えていたら、なにか突然、気分が悪くなってきた。
「どうした、何処か具合が悪いのか?」
「なんとなく、気持ちが悪かったもので」
「何で、そんな大事なこと直ぐに言わないんだ! 急いで家に戻るぞ」
 そう言うと、彼は私の事を抱え、岸へと泳いでいく。
 彼は、岸にたどり着くまで、何度も『大丈夫か?』と、声を掛けてくる。
 すぐに岸へと上がると、水着のままの私を胸の前で抱え、家へと走る。
「も、もう大丈夫です。降ろして下さい」
「本当か? 本当に大丈夫なんだな?」と、心配そうに私の顔を覗き込む彼。
「はい、もう大丈夫です。ですから降ろして下さい」
 そういって、彼に、地面へと降ろしてもらう。
「じゃ、直ぐに着替えてベッドで休め。食事は俺が用意してやるから」
「あー、洗濯物もしまってやる」
 そう言いながら、早くも洗濯物の取り込みを始めている。
「すみませんが、そうさせてもらいます」
 そう言って、家の中へと入り、寝間着へと着替えてベッドへと横になる。
 昼間の疲れからか、そのまま深い眠りへと落ちていってしまう。



 何か、とても良い匂いで目が覚める。
 テーブルを見ると、幾つか料理が並べられているのが見えた。
 私が起きた事に気がついて、彼がこちらに声を掛けてくる。
「お、目が覚めたか。気分はどうだ?」
「もう、大丈夫です。心配を掛けてすみません」
「そういうのは気にするな。それより、その様子なら食事は食べられそうだな」
「用意は出来てる、大丈夫ならこっちにきな」
 うなずき、ベッドから起き出しテーブルへと向かう。
「色々考えて、軟らかめの物を用意してみたけど、どうだ?」
 やや、自信のなさげな顔を浮かべて聞いてくる。
 テーブルを見てみると、柔らかいパン、サラダの様な物が並ぶ。
「迷惑掛けてすみませんでした」
「湖で泳ぐのを薦めたのは俺だからな。それで、体を壊したのなら俺の責任だ」
「だからもう、その話しは止めだ。それより食事をしよう」
 何か、気まずい気がして無言で食べ進める。
 彼も、何も語らずに黙って食事に専念している。
 -ただ、食器に物が当たる音、パンをちぎる音、そんな音だけが2人を包む。
 そんな、味気の無い食事が進む・・・
 ただ無言の時間だけが、2人の間を流れる。
 その沈黙に耐え切れず、声を掛ける。
「あの・・・」
「なあ・・・」
 2人の声が重なる。
「ルトラさんからどうぞ」
「まことから言いな」
「じゃ、私から。今日は、色々とありがとうございます。湖ではあんな事が在りましたが、とても嬉しかったです」
 そういった後、彼の横へと移動し頬へキスをする。
「と、突然何だ!」
 彼が驚いた顔を見せる。
「・・・今日のお礼です」
 そう答える。
「次はルトラさんがどうぞ」
「お、俺はいい。今、まことに貰ったお礼で言いたい事・・・忘れた」
「それより、後片付けをしてさっさと寝るぞ!」
 まるで照れ隠しのように大きな声でそう言う。
「また、まことが寝坊しないようにな」と、牙が見える、素敵な笑顔で言う。
 ベッドへ潜り込み、今日の出来事を思い浮かべてみる。
 ずっと、こんな日が続くといいな・・・
 そんな風に思える、そんな1日。





追伸:寝る前に、ガルボさんの手紙をルトラさんに訳してもらいました・・・

   『今度、俺の家で、2人で月を見ながら寝ないか?』

 私の、ガルボさんの評価を”怪しい人”から”スケベ”に変更しました。

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