猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

公務員哀歌

最終更新:

jointcontrol

- view
だれでも歓迎! 編集

公務員哀歌

 

 

 粉雪舞う駅のホームで、俺は恋人と別れを惜しんでいる。
 レースのハンカチでしきりに目頭を押さえ、純白の耳と尻尾をくんなりとしおれさせた彼女は、現実を確かめるように、何度も同じ台詞を繰り返す。

「…本当に…行ってしまうのね…」
「ああ…」

 空色の瞳を真っ赤にした可愛い恋人を、今ここで思いきり抱きしめたい衝動に何度も駆られた。
 しかし早朝とはいえここは王都ソティスを貫く路線上の一駅だ。
 人目が多く、自重せざるを得ない。
 力いっぱい握り締めた俺の両拳を見おろして、彼女は呆れたように泣き笑いを浮かべた。

「…もう、ほんとにマジメなんだから…。泣いてる恋人を抱きしめたって、誰も文句言わないのに」
「俺だってそうしたいよ。…でも今は…制服を着てるからさ…」

 こんな正論を吐きながらも、内心では彼女の言うとおりだと思っている。
 仕方なく右手の指で彼女の絹糸のように細い、まっすぐな黒髪に触れ、すぐに離した。

 昔からの目標だったとはいえ、公務員の道を選んだことを今日ほど後悔したことはない。
 ここが公共の場である以上、浮ついた行動は慎まなければならず、なにより安定と引き換えに、転勤という運命を背負わされる。
 いつか必ず来ると知ってはいたが、ようやく出会えた最愛の恋人と離れるのは心底辛かった。

「ごめんね…、あたし…あたし、一緒に行ってあげられなくて…」
「仕方ないさ。君にだって仕事があるんだし」

 両親・親類縁者に至るまでほとんどが公務員であり、半強制的にその道を進まされてきた俺は、物心ついたときから勉強漬けで、恋のひとつもしたことがなかった。
 念願かなって警察官になった俺は、王都はずれの一角にある派出所に配属された。
 巡回中に目の前でひったくりに遭った女性を助け、それ以来お近づきになり、やがて自然にその娘と交際するようになって、2年目の冬。
 互いに嫌いになって別れるのなら、これほど辛くはないだろうに。

「…マーガレット。俺は…この仕事を続ける以上、必ず帰ってくるとは言えないけど…」
「ええ、わかってる…」
「でも俺は、向こうに行っても変わらず君を愛してる。君が俺を忘れてしまっても、ずっとね…」
「ヴァルター…!」

 また彼女の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
 とはいえ、あんなのただの強がりだ。俺だって本当は泣きたい。
 俺が明日から配属されるのはル・ガル最北、オオカミの国との国境近く――といっても相当の距離があるのだが、それでも最短距離にある都市だった。
 ある程度栄えているとはいえ、この王都に比べれば雲泥の差がある。

 人付き合いもさほど得意でもなく、女遊びも酒も苦手で、今まで空いた時間はすべて彼女との逢瀬に使ってきた俺に、この町は何の潤いももたらさないだろう。
 ひとり部屋で彼女を想い、虚しく時間を過ごすことになるのは想像に難くなかった。

「そんな悲しいことを言わないで。あたしだって、ずっと貴方のことを愛してるわ。ほんとよ?」
「マーガレット…」

 そう言ってくれる気持ちは本当に有難いし、素直に嬉しいと思う。
 しかし彼女は今日に至るまで、一言も「待ってるわ」とは言わなかった。
 何故か住所だけは知りたがったが、「いつか必ずあたしもそっちに行くから」などという、内心で俺が切望していたような言葉は一切なかった。

 確かに、これからも王都に住み、とある大企業の受付という花形の仕事を続ける彼女が、俺程度の男をいつまでも忘れずに想い続けてくれるなんてことはないだろう。
 夢見るだけ無駄なことだ。
 期待はずれを恨むなど、筋違いだ。
 どうせ彼女はすぐに新しい男と出会い、俺のことなど忘れ、結婚し、幸せに暮らす。
 ――彼女のことを本当に想うのなら、そうしてあげるほうがいい。…絶対に。

「…ありがとう」俺は短くそれだけを言って、足元に置いてあった大きな鞄を掴んだ。
「この鞄。…大事に使うよ」
「ええ…」

 それは去年のバレンタインにマーガレットから贈られたもので、『ぼすとんばっぐ』というそうだ。
 彼女の勤める会社は『落ちモノ』を回収し、ヒト奴隷を使って修復した上で手広く販売している。
 この鞄もそのひとつらしく、丈夫で使いやすい上にたくさん入る優れものだった。
 『ふぁすなー』がついているので、雨が降っても中身が濡れないのもまたいい。
 ――北の雪はきっと、こんなものでは済まないだろうから。

「じゃあ、………行って、来るよ」

 さよなら、とは言えなかった。
 情けないことに、どうしても言えなかった。

「…行ってらっしゃい」

 そして彼女も、最後まで別れを口にすることはなかった。

 力なく振られる華奢な手を背に、俺は重い足取りで乗車口のタラップを上がる。
 指定の座席に腰を下ろし、軋む窓を押し上げると、その下で彼女がこちらを見上げていた。
 可憐な唇からほわほわと白い息を吐きながら、マーガレットはこう言った。

「ねえ、ヴァルター?」
「…なんだい?」
「貴方はきっと疑ってるけど、あたし本当に貴方を愛してるのよ?」

 そう言われて、思わずギクリとする。
 わかってる、と言ってあげるべきなのだろう。しかし俺は確かに疑っている。
 「待ってる」とも、「付いて行く」とも言わない彼女の、どこに俺への愛があるというのだろう、と。
 すると、その心を読んだかのように、マーガレットはにっこりと笑った。
 笑った――のだ。
 俺は思わず眼を剥いた。
 信じられなかった。今まで泣いていたのが嘘だとしか思えないほど、それは晴れやかな笑みだったから。

「愛してるわ、ヴァルター。ほんとよ? だから……」

 まるで歌うように、楽しげな声音で言いかけたその言葉を、甲高い警笛がかき消した。
 乗車口が重々しく閉じ、車体ががくんと揺れた。地を滑るようにゆっくりと走り出す。

「マーガレット!」
「ヴァルター!」

 徐々に速度が上がっていく。マーガレットは小走りに並走しながら、窓に向かって叫んだ。

「きっと貴方はあたしを忘れるわ! だけど許してあげる――あたしも貴方を忘れるから!」

      
 *


 件の街に到着すると、『同僚』がホームで待っていた。すぐに赴任先へと案内される。
 駅からほど近い煉瓦造りの平屋は新築らしい。
 思っていた以上に広く、きれいで快適だ。……ぼんやりと思ったのは、そんな程度の感想だった。

「いや、しかしこんな冬の大変な時によくいらっしゃいました」

 同僚は俺より5つほど年上で、階級も上のはずだが、きちんと敬語で喋る。
 ここから少し離れた駐在所で勤務する、いかにも『おまわりさん』然としたイヌだ。

「国境付近が物騒なのは年がら年中変わりませんがね。ここは静かなモンですよ」
「…そうですか」
「王都に比べれば多少治安は悪いかもしれませんが。そのへんは兵隊に任せて、我々はね」
「…そうですね」

 ひどい頭痛がして、何を言われても生返事しか出来ない。
 客が自分以外誰もいなかったのをいいことに、車内でさんざん泣いたせいだ。
 …情けない。さっきは肩書きを気にするあまり泣いている恋人を抱きしめることすら出来なかったというのに、ひとりになったら途端にこのザマだ。

 ………なにが『別れてあげたほうがいい』だ大馬鹿野郎、格好つけやがって。
 こんなに落ち込むぐらいなら、最初から『俺についてこい』くらい言えば良かったんだ。
 例え正面から断られたとしても、それが何だったというんだろう。少なくとも今の生殺しよりよっぽどましだったじゃないか。
 後悔と、自分に対する罵倒は尽きない。
 マーガレットの最後の言葉が、胸に突き刺さったまま、どうやっても取り除けない。

 ――きっと貴方は……

「…顔色が悪いですね。寒さが堪えましたか?」
「え? あ、ああ、どうもそうみたいです。鍛え方が足りないようで…ははは」

 本当は心ここにあらずで寒さなどまったく感じていなかったのだが、同僚はひとつも疑っていない様子で心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
 耳も尻尾も無残に垂れた男の顔は、さぞかし哀れに見えることだろう。自虐的にそう思う。

「それはいけない。早速明日から働いてもらわなくてはならないんですから、今日のところはもうお休みになったほうがよろしいですね」
「はい。…すみません」
「なぁに、誰だってここの寒さを体感したらこんなもんですよ。――ところで」
「はい?」

 奥に続くドアを開けながら、同僚はにこにこと笑みを浮かべながらこう言った。

「今日は、おひとりなんですか?」
「は? …今日は、というか…」
「ああ。奥様は後からいらっしゃるんですね」

 どこまでも人を疑わないイヌらしく、なにやらひとりで納得し、開けたドアを潜って俺を手招きしてくる。
 釣られてふらふらと覗き込むと、小さな玄関を挟んだ向こうにフローリングのリビングが広がっていた。
 ドアがもうひとつあるということは、向こうにも部屋があるのだろう。
 白い壁紙もまだ新しく、木のにおいがする。
 住み心地は抜群に良さそうだった。

「お住まいはここになります。もう荷物も運び込まれてますが、ベッドは作ってあるのですぐにお休みになれますよ」
「……お住まいって…ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
「はい?」
「ここって、派出所なんじゃなかったんですか?」
「いいえ? れっきとした駐在所ですよ」

 同僚は顔いっぱいにハテナマークを浮かべているが、派出所と駐在所では大きく違う。
 各々が家及び宿舎に住まい、数人が交代で勤務する形式に対し、駐在所は住み込みだ。
 他の国ではどうか知らないが、ル・ガルでは原則として家庭を持っている者しか配属されないことになっている。
 そう言い募ろうとした俺の先手を打つように(いや多分本人にその気はないのだろうが)同僚はのんびりとこう言った。

「いやー、派出所勤務じゃなくて本当に良かったですねえ。
 なんといってもあの独身寮はもう今年で築40年だし、風呂はないしトイレも別棟だし、隙間風もひどいし。
 雨が降ったら雨漏りどころか床上浸水しちゃって、起きたら自然と背泳ぎ状態らしいですよ。
 しかも『出る』モノはひととおり出るしねえ。取り壊されないのが不思議だー」
「…………」
「あれ? どうしました?」
「……いや。…独身の方々は…本当…大変…デスヨネ…」
「本当にねえ。うちのおっかない母ちゃんも、それだけでいてくれて良かったですよ」 

 あっはっはっはっは。
 ―――いや、すいません。俺笑えません。マジで。
 俺の額に大量に走っているだろう青筋にはまったく気付かず、同僚はビシッと敬礼した。

「では、本官は戻ります。何か手伝えることがありましたら、お気軽にご相談を」
「は」

 条件反射で敬礼しながら同僚を見送ったあと、ふらふらと居住スペースに入った俺は、リビングに詰まれた大量の荷物の前でばったりと倒れこんだ。
 自分でも驚くほど憔悴していたが、目だけはしっかりと働いている。
 それらの荷物は見たところ、全て自分が梱包し、確かに赴任先として与えられた住所に送ったものに間違いはない。
 だとすると――おそらく、何らかの手違いが起こったのだ。しかも上層部の段階で。
 ならば早急に問い合わせる必要がある、のだが。

(…さっきの話を聞く限り、独身寮ってのは酷いモンらしいなあ)

 そう考えるとぞっとする。突き抜けたボロさもさることながら、『出るモノ』が何なのかを考えるだけでももうダメだ。
 大体全部出るってどういうことだよ。

(…手違いだって通達が来るまで、黙ってればいいか…)

 なにより、もう疲れきっていて頭が働かない。
 同僚はベッドがあると言ったが、もうそこまで移動する気力すらなかった。
 どんどん瞼が重くなってきて、俺は床にぶちまけられた泥のように眠りに落ちた。


 *


『ヴァルター…』

 夢の中で、マーガレットが呼んでいた。
 どこか恥ずかしそうな、でも少しだけ媚を含んだような、甘く湿った声だ。
 開いた両脚の間がやけに涼しい。生暖かい風が吹き、ぴちゃり、と微かな水音がする。

『ふふ。…これ、すごーくおいしそぉ…』

 そう言われたとたん、ぞくぞくぞくっ、と背骨に電流が流れた。
 腰が勝手にびくんと跳ねる。

「う…っあ…?」

 先端の敏感な箇所を、舌先でちろちろと舐められている。
 見なくてもわかる。まだ海綿のように柔らかいそれがぐんぐんと血を吸って膨張していくのが。

「あ…だめ、だ、マーガレッ…ト…!」
『駄目じゃないわ。だってこの子、こんなに気持ちよさそうなんだもの…』

 彼女があの小さな白い両手で根本を握りこみ、可愛らしい頬をすぼめて俺の先端に吸い付いている映像が脳いっぱいに広がった。
 何度見てもすぐに達してしまいそうなほど扇情的なその映像を使って、何度自慰に浸ったことだろう。
 思い出すだけで下半身全体が溶けそうなほど熱く痺れる。
 両足を突っ張るようにして耐える。
 踵が床に突き刺さりそうだ。
 尻をぎゅっと締め、腰を浮かし、奥歯を噛み締め、暴発しそうなのを必死で抑えこむ。

「ぅあ、あ、あ…っ、だ、だめだ、もう、出…っ…うから…っ!」
『がまんしなくていいのよ』

 悪魔のように優しい声で彼女は囁く。
 粘ついた唾液をふたつの粘膜の間でぴちゃぴちゃとはね散らかしながら。

『いっぱい、出して。…あたしに、貴方の、飲ませて…』
「ひっ、あ、…ぅあ…あ…あ…っ…!」

 鼓膜を震わせる甘い囁きに抗いきれず、思いきり腰を突き出した。
 両足の指が全部反り返るぐらいの快感が脳天まで突き抜け、俺は何の遠慮もなしに、数日ぶりの欲望を噴き上げた。

 

   *

 

「―――っ!?」

 快感の余韻が去り、声もなく跳ね起きた俺に、眼前の『マーガレット』はにっこりと微笑んだ。

「うふふ。おはよう、ねぼすけさん?」
「なっ…えっ…どう、して…!?」

 どうして、ここに。
 言い掛けた言葉を飲み込み、俺は駅で別れた時のままの彼女の全身をまじまじと見た。
 黒く細いまっすぐな髪。蒼い瞳。華奢な体躯の割に豊満な胸――に、俺が出したものが大量に振りかかっている。
 気まずくて思わず目を逸らした俺に、『マーガレット』は妖艶に笑いかけた。

「あは。この白いの、ぜーんぶ貴方のよ?」

 淫蕩に霞んだ瞳。上気した頬。半開きの唇は熟れた桃のように水気を含んでいる。
 彼女はいやらしいことをするとすぐその気になって、甘えた口調になるのだ。

「ねえ…? 今度はぁ、あたしの…ココに、挿れて?」

 その誘い文句。
 大胆な台詞を吐きながらも、恥ずかしげに、誘うように、ゆっくりと股を開いてみせる仕草。
 フリルのついたスカートの裾が割れ、白い腿が露出する。
 その奥には既に遮るものの取り払われた柔らかな茂みと、赤く濡れ光る粘膜のひだ。そこから、つぅっとひと筋、透明な液体がこぼれおちる。
 そうして見せて、横たわる俺の腰の上に、彼女はゆっくりと跨った。

 その痴態は、俺だけが知るマーガレットそのものだった。
 あまりにも、そのものすぎた。

「………お前は誰だ」

 精一杯冷酷に言い放つ。
 しかし『彼女』は淫蕩な笑みを絶やさず、悠然とこう言った。

「あたしは『マーガレット』よ」
「嘘を吐くな」

 素早く懐の小太刀を抜いて鼻先に突きつける。
 それでも『マーガレット』を名乗る女は俺の上に乗ったまま、眉の毛ひとつ動かさない。

「嘘じゃないわ。あたしは『マーガレット』だもの」
「ふざけるな。何が目的か知らないが、貴様が彼女の姿を模倣したところで――」
「そうよ。だって耳もなければ尻尾もないんだから、あんたじゃなくたってひと目でわかる」

 声と姿はそのものでも、マーガレットの純白の耳と尾がこの女にはない。
 つまり、よく似ているだけの他人――

 こともあろうに、ヒトメスなのだった。

 頭の芯が冷水を浴びせられたように冷たくなった。
 反対に全身が一瞬で熱くなり、怒りで気が狂いそうになる。

「貴様ただじゃおかんぞ! 俺の最愛の女に化けた挙句、寝込みを襲って、あ、あんな」

 その先を口に出すことは出来なかった。あまりにも屈辱だったからだ。
 錯覚したとはいえ、マーガレット以外の女に快感を覚えてしまったなんて――。
 ヒトメスは怯えるでもなく、わなわなと震える俺を面白そうに半目で見おろし、飄々と言った。

「その最愛の女ってやつが、私のゴシュジンサマなんですけどねえ?」
「…誰だと!?」
「だからぁ。あんたが、えーと。…なんだっけ、マーガリン? とか呼んでた女」
「マーガレットだっ!」
「そう、それ。ついでにあんたずいぶん熱心みたいだけどさあ、それ本名じゃないよ」
「何!?」
「まあワケあってここで言うわけにはいかないんだけどね。
 とにかくあたしはゴシュジンサマに命令されてここに来たんだから、仲良くしましょうよ?」

 思わせぶりにそこで話を切り、わざとらしく片目をつぶってみせる。
 俺の怒りの矛先を転じるようにわざと声の調子を変えた。

「で、なんだっけ、あんたの名前」
「…ヴァルター・ケンドリック」
「は? 何? バター犬?」
「ヴァ! ル! ター! だ!」
「ああ、だよねー。バター犬とマーガリンのカップルなんてケッサクだもん、あっはっは」

 ここでこいつの喉笛を掻っ切らなかったことを後悔しながらも、わけのわからない理由で笑い転げるヒトメスに怒鳴りつけた。

「貴様、だいたいどこから入ってきた!?」
「あの箱ん中」

 ヒトメスが指さした先には、側面に冗談のような大穴のあいた巨大な木箱が鎮座していた。
 しかもピンクの水玉柄の太いリボンで飾り付けられている。
 はっきりと悪趣味だった。
 間近で確かめようと、俺は上に乗ったままのヒトメスをふり落とそうともがいた。

「なっ…畜生、どけ!」
「やーよ。っていうか、退いたところで動けないし。まだクスリ効いてるでしょ?」
「何!?」

 巧いこと腰の上に乗られているせいもあるだろうが、確かに両脚が思うように動かない。
 眠っている間に一服盛られたのだろう。
 度重なる屈辱で歯を剥きだして唸る俺の目の前に、ヒトメスはぺろりと一枚の紙を見せ付ける。

「これ、あの箱に張ってあった送り状」

 首だけを突き出してそれを見ると、送り主の名前はなく、「同上」とだけ書いてあった。
 しかし俺の名前とここの住所を記したその字を見て、思わず眼を剥いた。

「…マーガ…レット…?」

 特徴的な丸文字。今まで何度も見た、彼女の、愛らしい性質そのものの字。
 間違いなかった。
 確かに、マーガレットは俺の赴任先の住所だけを知りたがった。
 それはきっと、いつかここに来てくれるからだろう、前触れもなしに訪れて、俺を驚かせてくれるつもりなのだろうと、勝手に思っていたのだが。

「ゴシュジンサマは今ごろアレだよ、結婚式の真っ最中」
「何!?」

 あまりに想像の上を行く言葉だったために意味など半分も理解できなかったが、衝撃だけが脳を揺さぶった。
 手に持った小太刀が落ち、音もなく床に突き立った。

 ヒトメスはあくまでも楽しげに言葉を続ける。
 マーガレットそのものの顔で。そのものの声で。
 そして、まったくの他人事のように。

「なんかね、生まれたときから婚約者がいるんだって。幼馴染みで、お互い愛はないけど、イイ人ではあるみたいよ。
 家の為に絶対結婚しなきゃなんないとかなんとか、大変だよねー」
「そんな結婚俺が――!!」
「あ、ぶち壊すのは無理だよ。親父さん軍の幹部だし、式場は万が一あんたが乗り込んでくることを考えて厳戒態勢だから」
「そん…な…」

 ヒトメスはゆっくりと上体を前に倒し、俺の胸に両手を置く。
 さらさらと流れ落ちる黒髪の隙間から、じっと眼を覗き込んでくる。

「あんたがこんなとこに飛ばされたのも全部そのせいだよ。
 ついでに独身のくせにこんな立派な駐在所に勤務することになったのもね。
 見ての通り新築で、一般市民に怪しまれない程度にゴージャスでしょ?
 これやるから、大人しくしてろってこと」

 ――嘘だ。こんなのは、嘘だ。
 何の目的だか知らないが、このヒトメスは俺を騙そうとしている。
 マーガレットの姿を借りて、声を真似て、俺を――

「そん…な…」

 いくら頭で否定しようとしても、口から出てくるのは絶望の吐息だけだ。
 騙されている。騙された。いつから? ……最初から?

「うん。でも安心しなよ、ゴシュジンサマが愛してるのは間違いなくあんただから」
「どういう…ことだ」
「だってそのためにあたしが来たんだもん」

 ただただ混乱するばかりの俺に、ヒトメスはやはり可笑しそうに笑いながら言うのだ。

「こっちの世界じゃヒトってのはペットなんでしょ?
 で、なまじこっちの世界の女に姿が似てるからってんで性欲処理の道具としても扱われてるんだってね。
 そこでゴシュジンサマは考えたわけ。
 自分は仕方なく結婚する。でも愛してるのは彼だけ。
 そんな愛しい彼を見知らぬ土地で知らない女に取られるくらいなら、自分にそっくりのヒトを宛がって、それで満たして貰えばいいってね。
 そしたらあんたはずっとゴシュジンサマを忘れない。
 ヒト相手だからいくらヤッても浮気したことにもなんない。ゴシュジンサマもジェラシーで苦しむこともない。
 ……ね? そうでしょ?」

 立て板に水とばかりに滔々と述べられるそれらの言葉は、とても現実とは思えなかった。
 確かにイヌは『ヒト』をそうして使う。それに対して罪の意識などないし、『そういうもの』だと思っている。
 しかし、誰より愛しい女の裏切りともいうべき行いと、代替物を押し付けてまで自分の存在を忘れさせまいとする彼女の思惑を聞かされた、今となっては。

「マーガレッ…ト…が…!」
「あたしから見りゃ、なんだそりゃって感じだけどね。
 ま、ヒト奴隷の身分じゃおイヌ様の考えることがわっかんないのも道理だぁ。
 ――ね? ヴァルター?」

 そう言って微笑んだヒトメスの顔も、声も、やはり、マーガレットそのものなのだった。
 ぎゅっと心臓が縮んだ。瞳が潤んでくる。
 それでも、今でも、こんなにも――彼女を愛している。

「君は、…君は一体なんなんだ!?」

 ほとんど泣きそうになりながら叫んだ。
 ヒトメスはそんな俺を見おろして、少し首をかしげる。

「何って言われてもねえ、ホント普通の女の子だよ。あっちの世界でいうところの形態模写がちょっとばかり得意なだけのね」
「…ケイタイ…モシャ?」
「いわゆるモノマネってやつだよ。
 あたし昔からそういうの得意でさ、だいたいの特徴をつかめたら、どんな人でもそっくりに演じられる自信あるんだあ」

 そう言いながら上体をさらに倒し、ヒトメスは俺の耳元に口を寄せた。

「たとえば、って訊きたい? そうねえー、中●明菜のモノマネする●近のモノマネとか、
 ジャッ●ー・チ●ンのモノマネしてる関●勤のモノマネしてる関●真里のモノマネとか。
 あ、ややこしいか。てか、わっかんないか、ワンコ様には」

 もちろんわかるわけがない。
 ニュアンスとしては、恐らくここに落ちてくる前、ヒトメスの故郷の用語なのだろうと知れる。
 その声音になんとなく、誰に対してとも言えないような悪意を感じた。
 しかしそれは一瞬で引っ込み、もとの軽薄な口調に戻る。

「で、ここに落ちてきてすぐに拾われたところがゴシュジンサマの会社でさー。
 この特技を見込まれたのと、何より顔がゴシュジンサマにそっくりだったからね。
 すっごい熱心にお願いされたから、まーいーかと思って、身代わりオッケーしたんだよね」
「き、君はそれでいいのか!?」

 ヒトメスは首をかしげたあと、目玉だけを数秒上に向け、片手を上げてこう言った。

「ハイ先生。質問の意味がわかりません」
「つ…つまり、一生マーガレットの身代わりで生きていくつもりなのかってことだ」
「だからゴシュジンサマはマーガレットでもマーガリンでもないってば」

 俺の問いをあっさりと一蹴する。
 はぐらかされたと感じ、さらに口を開いた俺を制してヒトメスは言った。

「あ、でも、今日からあたしが『マーガレット』だよ」
「ば、馬鹿なことを言うな! 俺のマーガレットはひとりしかいない!」
「だからぁ、『あんたのマーガレット』はどこにもいないの。それは偽名だってば」
「………偽名だと!?」
「そうだよ。ついでにあんたはゴシュジンサマは某企業の受付嬢だって聞かされてるだろうけど、とんでもない。
 あのお方こそあの会社の創業者で代表取締役社長サマ。そしてあたしの雇い主。
 あんたなんかよりずーーーーーーっと高給取りの、しかも超敏腕なんだよー」
「う…そだ…」
「だと思うなら、あとで調べてみなよ。写真でわかるでしょ?」

 もう頭がついていかない。何が何だかもうわからない。
 だというのに『マーガレット』は、彼女の姿をしたヒトメスは、さらに追い討ちをかけてくる。

「それに、知ってる? おまわりさん?」
「…………」
「どうやったのかあたしは知らないけどね。
 もうすでに『マーガレット』って女はさ、ヴァルター・ケンドリックの妻になっちゃってるんだよ。
 つまりあたしはもう正式に『マーガレット・ケンドリック』なわけ」
「……な!?」

 起き上がれないことをすっかり忘れ、俺は無様に首だけで跳ね上がった。

「馬鹿を言うな! お前はヒ――」
「そんなの書類ひとつでどうにでもなるじゃない。それに、ほら」

 ヒトメスは半身を横に向け、いつのまにかそこに用意してあったらしい小道具を取った。
 それは一見して白く、ふわふわしたやわらかいものだ。
 純白で、ひとつの曇りもない、きれいな――イヌの、耳。
 眼を剥く俺の目の前でヒトメスは、良く出来すぎて不気味なほどのそれを頭の上に持ち上げ、

「……ね? これであたしも、今日からおイヌ様ってわけ」

 俺は何故か今になって、もう日が暮れかけていることに気付いた。
 夜に傾くたびに濃度を増す青い空気の中、『マーガレット』の艶のある長い黒髪の流れが、白いイヌの耳で塞き止められている。

「ありがとう。貴方のお陰であたし、こっちでの『人権』を手に入れたわ」

 俺は呆然と、完成した『マーガレット』を見上げている。
 その笑みがどこか哀しげに見えるのは、空気が蒼いせいだろうか。

「だから、ね? ……これから精一杯、お礼してあげる」

 眩暈が――する。

 

   *

 

「あ、あっ…は、んん」
「……っ、…ぅ、ぐっ……!」

 クスリとやらが効いた神経も、快感だけは通すらしい。
 腰に乗せていた下半身を少しずらすだけで、情けないほど勃起した俺は易々と飲みこまれた。

「ぅあ…すご、かたぁ…い」

 着ていた服をすべて脱ぎ捨てた『マーガレット』は、膝を立て、少しのけぞるような姿勢で呟く。
 心地よさそうに目を閉じて、顎をそらし、小刻みにふるえた。
 その様子を見ている俺の、彼女の中におさめられた分身も身震いしながら成長する。

「んふ…またおっきくなった」
「……くそっ」

 思わず悪態をつき、顔だけ横に向ける。
 部屋の空気はまるで、見たこともない海のなかのように蒼かった。
 横たわった床は冷たい。寒いのに、熱くなる。投げ出した腕の先に、積み上げられた箱。無意識にその数を数えている。

「…ヴァルター?」

 ぞくりとした。胸に口付けられ、あの声で名を呼ばれる。
 唾液の線を引くように滑る熱い舌先が、乳首の上でくるくると回った。余所見の罰とでもいうように。

「…っ、は…」

 ぴくぴくと引きつる胸筋をなだめるためか、つめたい指が優しく這う。
 その後で、たっぷりと濡らされた両方の突起を手のひらで押しつぶすように揉まれる。

「ちょっと…ま、待て…っ!」
「ぁんっ」

 鋭い喘ぎ声は、俺の腰が跳ね上がったせいで奥を突いてしまったからだ。
 俺の突然の制止に対し、『マーガレット』は淫蕩な笑みで返した。
 もちろん聞き入れられず、手を止めないまま、小刻みに腰を動かしさえする。

 一分の隙間なく嵌った肉のあいだでぬるぬると擦られるたびに、目の奥で火花が散るようだ。
 ともすれば情けないほどの喘ぎに変わりそうなぎりぎりの声で、俺は言った。

「な…んでこんな…『彼女』のやることなすこと、同じ、ように、出来るんだ…っ!」

 自身も快感で瞳を潤ませ、うつろな目つきで『マーガレット』は言った。

「だっ…て、見て、たんだもん…」
「な、に…!?」
「あんた、たちが、ホテルに…行くたびにさ。隣の、部屋の…覗き穴からあたし…見てたんだよ」
「な…っ!?」
「毎回、違う…ホテルに行ってたから、気付かなかった、だろうけど。
 あのへん一帯のラブホは、…はぁ…みんなゴシュジンサマの会社のだからね」

 腰の動きを止め、じっと俺を見おろしてくる。
 もう何を言われても麻痺しきった頭にはショックもない。顔色の変わらない俺の頬にそっと唇を押し当て、『マーガレット』はくすくすと笑った。
 そのたびに腹の薄い肉が動いて、なかの俺をゆるく締め付ける。

「もうねぇ、何が面白くて犬の交尾、あ、違った、おイヌ様のおセックスを観賞せなならんのかって、何度も世を儚んだわよ。…はむっ」
「どうせ…ぁっ…く…、下手だと思ってたんだろう…!」

 耳をくわえられ、舌先で弄ばれながら、俺はついそう言ってしまった。
 どうしてかわからない。多分、はずみだったのだと思うのだが。

 俺は女性経験が極端に少ない。
 マーガレットと付き合えたのは本当に奇跡だと思っていて、こんなに綺麗で申し分ない恋人に釣りあおうと、2年間とにかく必死だった。
 なにもかもが経験不足で、なにもかもが下手な俺に、しかしマーガレットは寛大だった。
 コンプレックスの塊のような俺に、ほんとうに優しくしてくれた。

 慎ましくしとやかな彼女は見かけによらず女性上位を好み、俺はいつも翻弄されるだけだった。
 男のプライドもないわけではなかったが、彼女が満足してくれるならどうでもよかった。

「誤解のないように言っとくけど。…あたし、あんたのこと、…すっごく好きだよ」

 ぎゅっと首を抱きしめられながら、そんな言葉を俺は聞いた。
 現実のものとはしばらく思えず、ややあって顔を上げた『マーガレット』の頬が真っ赤に染まっていることで、ようやく彼女がそう言ったのだとわかった。

「…その理由ってのがちょっと倒錯してるんだけどさ、我ながら。
 いくらゴシュジンサマのワザを盗むためとはいえ、あんたが毎回、必死んなって、汗まみれでさ。
 もう体中から愛してる愛してるってパワー漲らせながら抱いてる女がさ、自分と同じ顔してんの見たらさ。
 ……そりゃ、その気になっちゃうじゃない?」

 そう訊かれても、必死だった当人である俺にはよくわからない。
 ただ、わけのわからない歓喜と後悔がいっしょくたに沸き起こって、体内をめちゃくちゃに荒れ狂う予兆のようなものを感じて、それを押さえつけるために歯をくいしばった。

「ゴシュジンサマが羨ましかった。
 …あたし、命令されたからじゃなくて、ちゃんと自分から貴方のこと、好きになったから。――だから」

 上体を起こした『マーガレット』は、挑むような目で俺を見つめた。
 俺の胸に置いた両てのひらの熱さを、なぜだかひどく、愛おしいと思った。

「…あたし、あんたのこと、本気にさせる」

 高く上げた腰で俺をぎりぎりまで引き抜き、一気に奥まで叩きつける。
 双方ともに息を詰めなければならないほど威力の大きいそれを、『マーガレット』は何度も何度も繰り返した。
 ばちゅん、ばちゅん、という品のない水音と獣めいた呻きだけが、濃い蒼い空気に溶ける。

「っ…は、あ…マーガレッ…!」
「――ねぇ、それって、どっ、ち、の…?」

 唐突に動きを止められ、俺は思わず両手で『マーガレット』の腰を掴んだ。
 無理やり動かそうとするが、彼女の両腕は俺の腰に絡んでびくともしない。

「ふ、く…ぅ!」
「だめ。ちゃんと、答えない、と。…動いてあげない」

 熱く霞む視界に、『マーガレット』の真剣な目が映る。

 闇に限りなく近くなった部屋の中、彼女の双眸は不思議に煌いていた。
 まったく場違いではあったが、見惚れた。
 初めて『彼女』を「綺麗だ」と思った。――マーガレットとの類似点ではない部分において。

「おまえ、だ…っ」
「………っ」

 快感の出口を求めた末の戯言だったかもしれない。でも、もう、屈辱だとはほとんど思わなかった。
 それでもまだ残っているのは、今でもまだ愛してしまっている彼女への未練だ。
 この世でただひとり愛しぬくと誓った彼女に捧げた、操の上げる悲鳴だ。

 男のくせに情けない、と人は言うだろう。
 だがそれが何だ。
 浮気が男の甲斐性というのなら、俺は男でなくたって良かった。
 いつまでも女の下で喘がされるだけの、他愛ない生き物でいたかったのだ。

「目の前、の、…今、俺の…っ!」
「あっ…あ、はぁぁんっ…!」

 そう言った瞬間、びくん、びく、びくっ…と、何度も彼女の体が跳ね上がった。

「や、あぁぁああぁ!」
 ぴゅ、ぴゅう…と、俺の腹に水っぽい汁が飛び散る。
「やだぁ、やっ……やらぁ、止まらないぃ…っ!」

 ――可愛い。…いとおしい。
 心底そう思った。思った時にはもう、掴んだままの腰を床に叩き付けるように組み敷いていた。
 ようやくクスリが切れたのだろう。俺の身体は完全に自由を取り戻したが、もう彼女から逃れようという気はまったくなくなっていた。

「どう、した? …はっ、さっきまでの、威勢は、どこに、いった…?」
「ひ、ぅ、うぁあああん…!」

 絶頂の余韻に浸らせる間もなく何度も何度も突き上げ、潮と愛液の混じったもので濡れたどろどろの肌同士を叩きつける。
 『マーガレット』は俺の身体に押しつぶされながら、泣いているような声を上げた。 
 床の上で、艶やかな黒髪がばらばらに乱れる。滑稽なニセモノの耳が外れて転がる。
 白い顔が快感で歪み、汗と涙に濡れ、荒い息を吐き出しながら、身も背もなくよがり狂う。

 ――ぞくぞくする。

 征服する悦びというのは、こういう気分を言うのだろうか。
 病み付きになりそうだった。喘がされるのも、喘がせるのも、どちらももっと味わいたい。
 もっと、これから、ずっと。――この女と。

「いくぞ…出すぞ、っ…!!」
「や、ぁ、あ、あ………っ!!!」

 しなやかに反った背筋をかき抱き、豊かな胸に顔をうずめ、俺は思うさま新しい欲望を吐き出した。

 

   *

 

 しんと静まった部屋のなかは、すっかり夜の闇に沈んでいた。
 さっきまでの興奮は冷やされて霜になり、床に落ちて、そこに寝そべったままの俺の耳元で鳴っている。

(きっと貴方はあたしを忘れるわ! だけど許してあげる――あたしも貴方を忘れるから!)

 そして繰り返し、あの声が聞こえる。
 時を止めて、そのまま結晶にしてしまったかのように。

 誰よりも彼女を愛した俺だから、わかる。
 きっと彼女はこれから、その婚約者の男を愛する努力をするのだろう。
 そのかわり、彼女を愛してやまない俺のために、このヒトメスを寄越したのだ。
 自分を忘れさせるために。

 ――少しだけ、『私を忘れないで』というメッセージもこめて。

 そういうところが、彼女らしいと思う。
 俺の愛した、俺を愛してくれた、彼女らしいと。

(さよなら…マーガレット)

 隣ですやすやと寝息をたてて眠る、やわらかい身体を抱き寄せる。

 いくら似ていたとしても、俺は最初から、この子を君と同じとは思えなかった。
 それでも、…ごめん。
 俺はもしかしたら、近い将来、この娘を愛してしまうかもしれない。
 君とは違う方法で。
 君とは違うやりかたで、違う心の部分で、深く、深く。


 床に近いごく一部の空気が、ふたたび湿り始める気配がした。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー