猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

狐耳っ子と剣術少女

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狐耳っ子と剣術少女


 
 
ボクの仕事場の裏山には、質のいい樹がたくさん生えている。
香木、霊木、彫り物にはもってこいの樹。
……いや、少し順番が違うかな。
たまたま見つけたこの山が、そういう樹の多い場所だったから、仕事場をまとめてここに引っ越したというべきか。
ボクの名前は景佳。けいか、って読む。
一応、これでも一人前の彫像職人。
巫女連にも納品してる、自分で言うのもなんだけどイッパシの職人……の、つもり。
 
ちょっとした仕事があって、ボクはまた裏山に樹を探しに来ている。
樹といっても、やっぱりいろんな種類があって。
たとえば、巫女連に納入する像なんかは香木を使う。
香木と一口に言っても、実は好まれる香りもいろいろあるんだけど、それは話すと長くなるから今度。
それとは別に、なにかの儀式の補助に使う像なんかだと、いわゆる霊樹というのを探さなきゃいけない。
ここの裏山ってのは、ずーっと昔に何かあったらしくて、そのせいか霊樹と呼べるだけの樹が多い。
ただ、そんな場所だから……たまーに、変な事件とかも起きたりして。
 
裏山って言っても結構急な山だし、なにやらもやもやした霊気とかもあるから、ボク以外の人はめったに裏山には入ってこない。
そんなところだから、山の中、それも中腹より上まで登った場所で男の子が倒れてるのを見たときにはびっくりした。
「大丈夫?」
ボクはびっくりして、その男の子に近づいた。
服は僕たちの着ている服と似てる。腰には……刀みたいなのが差してある。
はじめは、どこかの武人さんなのかなと思った。だって刀なんか持ってるし。
でも、そこに倒れてたのは、ボクたちとは違う人だった。
耳も尻尾もなくて、黒い髪の毛をしてる。
それが、風のうわさで聞いた「ヒト」だと気づくのにちょっと時間がかかった。
 
「ん……」
ボクが声をかけたのが聞こえたのか、男の子はうっすらと目をあけた。
「あ、大丈夫?」
「…………」
男の子は、ボクをじっと見ている。
で。
「うわあぁぁぁぁぁぁっ!」
こっちが驚くような大声。
「よ、妖怪! 化け物、おばけ、もののけ!」
……よ……妖怪?
化け物とかお化けとかもののけって……ボクのこと?
「ち、ちょっ……」
「く、くるなああっ!」
おびえた目の男の子は、いきなり腰の刀を抜いた。
「え……って、わああっ!」
「くるな、くるな、くるなあっ!」
刀をむちゃくちゃに振り回してこっちに切り掛かってくる。
くるなって言いながら向こうから来てるんだけど、目の前で刀を振り回されると、そんなことは考える暇もない。
「ち、ちょっと、落ちつい……って、ちょっ、危ないよ!」
背を向けたらそのまま後ろから斬られそうなので、ボクは男の子の方を向いたまま、後ろ向きに走って逃げた。
……正確には、逃げようとした。
後ろに数歩走ったとろで……
ボクは、樹の根っこに躓いて後ろ向きに転んだ。
「いっ……たたた……」
立ち上がろうとした時。
もう目の前に、男の子がいた。
「この化け物おっ!」
そう言って、大きく刀を振りかぶる。
……まさか、こんなところで……なんだかわかんないまま死ぬの?
さすがに、そう思った。なんだかよくわからないけど、ボクが死ぬんだということだけはわかった。
怖くて、たまらなくなってボクは目を閉じた。
 
がっ……わぁあぁっ! ……べたんっ。
 
変な音が、三回続けて聞こえた。真ん中のは声かもしれない。
そして、なにやら重たいものが上にのしかかってきた。
「…………」
ゆっくりと、ボクは目を開けた。とりあえず、生きてるみたい。
「……むぎゅぅ……」
すぐ目の前に、男の子の顔があった。彼も転んだ……みたい。
とりあえず、逃げなきゃ。
そう思った。
ボクは、とりあえず男の子の体をどかして、体を起こそうとした……んだけど。
 
むに。
 
男の子を持ち上げようとして動かした手に、妙にやわらかい感覚が伝わってくる。
……これ……何?
 
むに。
むに。
むにむに。
 
やわらかくておっきなものに触ってる感じ。手が触れてるのは……男の子……? の、胸のあたり。
これって……えっと……
 
そんなときに、男の子? と目が合った。
「・・・・・・・・・・・・・・」
気まずい、沈黙。
「え……えっと……」
何か言おうとして、声が続かない。
男の子? の顔が、少し赤くなり、そして怒ったような顔に変わって……
 
ぱあんっ!
 
全力の平手打ちが、ボクの頬に飛んできた。
 
「このケダモノっ! 化け物、怪物、妖怪っ!」
少し離れたところで、男の子……だとボクが思い込んでた女の子が両手で胸を隠すようにして、こっちをにらみつけて罵詈雑言の限りを浴びせかけてくる。
「白昼堂々、なんてふしだらなっ!」
「い、いや、それはその誤解……」
「下心のある人は誰でも誤解というんです!」
「い、いや、でも本当に……」
言い訳を聞いてくれる雰囲気じゃなかった。
「こんな辱め……あなたを殺して私も死ぬ!」
 
え、えええええっ?
 
ボクはあわてて立ち上がり、また逃げようとして……そのときに気づいた。
女の子の持ってた刀が、どっかに行ってる。
女の子も、刀がないのに気づいて捜してる。
 
ボクの視界の片隅に、なにやら細長いものが見えた。
まさかと思って、頭の上を見あげる。
僕の頭の上にある大きな木の枝に、刀が深々と食い込んでいた。
たぶん、勢いよく斬りかかろうとした時に刀が樹に食い込んで、そのまま体だけがバランスを失って倒れたんだろう。
でも、これはボクにとっては好都合なこと。
女の子より、ボクの方が刀に近い。先に刀を取っちゃえば、なんとかなるかもしれない。
ボクは、食い込んだ刀をつかみ、そのまま思いっきりねじって抜こうとした。
 
ぼきっ。
 
鈍い音が、聞こえた。
僕の手に残ってるのは……真ん中から折れた刀の残骸。
 
「・・・・・・・・・・・・・」
また。
なんともいえない、微妙な沈黙が流れる。
女の子の顔が、呆然となり、そして徐々に怒りが浮かんできた。
「あ、あああああぁぁぁっ!」
また、大きな声。
「ち、父上の……父上の形見がぁ!」
か……形見?
「お、おのれ……わたしを押し倒して操を奪っただけでは飽き足らず父上の刀まで!」
え、いや、その……押し倒されたのはボク……
なんていえる雰囲気じゃなくて。
ものすごい勢いでつかみかかってきて、ボクの持っている折れた刀を掴み取ろうとしてくる。
でも、それを取られたら間違いなく……ボクは 今度こそ死んじゃうわけで。
ボクも必死になって取られまいとして、くんずほぐれつしてたんだけど。
 
その、山の中だし。中腹から上は本当に険しいし。まして足元は湿り気のある腐葉土だったりして。
そんな場所で取っ組み合ってたら……
 
簡単に足を踏み外して落っこちちゃうわけで。
 
「わあああぁっ!」
「うわあああっ!」
ボクと女の子は、そのまま崖の下まで落ちていった。
 
どさっ。
岩にぶつかり、樹に引っかかりながら、ボクと女の子は10メートル近くも崖を転げ落ちた。
何度か樹とかにぶつかって勢いが止められたのと、下が腐葉土だったのが幸いだった。
「いたたたた……」
全身が痛いけど、何とか、立ち上がることはできる。骨折とかもなさそうだ。
で、女の子は……
「……」
気を失ってるみたい。
 
「このまま……逃げちゃおうかな」
ふと、そんなことがボクの頭をよぎった。
「でも……まずいよなぁ」
夜は結構寒いし、怪我して動けなかったりしたらここだと凍死しちゃう。……いくらなんでも、見殺しにするのはちょっと気が引ける。
「……仕方ないかなぁ」
刀さえ渡さなきゃ、殺されることはないだろうと、ちょっとだけ甘い期待をしたり。
「えっと……骨とか折れてないかな……」
ひょいと、足を持ち上げる。折れてはないようだけど、足首の腫れを見ると、捻挫しているかもしれない。
だけど、こうして改めてみると、やっぱり女の子だと思う。華奢だし、色も白いし。
「……っっ……」
うめき声が聞こえる。やっぱり、どこか折れてるのかもしれない。
「立てる?」
女の子が目をあけたのを見て、そう声をかける。
「……このお……っっ……」
女の子は、とっさに上半身を起こそうとしたけど、そのまま崩れるように倒れる。
右腕が、不自然に腫れてる。
「右腕……か」
「こ、この……」
痛みで朦朧としてるようだけど、目はこっちを見てる。
「動かないで」
腰の袋から、紐を取り出す。そして手近な棒切れを見つけてくる。
折れてるのかどうかわかんないけど、とりあえず添え木をする。
「……っ……」
痛みのせいだろう、脂汗を浮かべている。でも暴れようとはしない。
とりあえず右手と足首に添え木をして縛ると、ボクは女の子を背負った。
「……な、何を……」
「話は後。とりあえず山を下りないと治療もできないし」
「……ち、ちりょうなど……」
「いいから。文句は後で聞く」
 ちょっとだけ強い口調で言う。あまりそういうのは得意じゃないんだけど。
「…………」
でも、ちょっとは効果があったのか、黙ってくれた。
 
女の子とはいっても、やっぱり一人背負って山を降りるのは結構大変。山を降りて、仕事場に戻ったときにはもう夕方近くになっていた。
「…………」
女の子は半分気を失ってみたいにぐったりとしている。
ボクはとりあえず、女の子を畳の上に寝かせると、戸棚から鹿の油とか包帯とか、一通りの治療具を引きずり出してきた。
それから、いくつかの香木。鎮痛や精神安定の効果があるのをいくつか見繕ってきて、囲炉裏に投げ込む。実は、裏山の香木って囲炉裏に入れて焼けばいろんな薬効があったりするんだ。
 
……なんか一本、変なのが混じってた気もするけど、まあいいや。
 
「……大丈夫、ボクは怖い人じゃないから」
いつの間にか薄目を開けてボクを見る女の子に、そう声をかける。
「……ここは……どこ?」
「ボクの仕事場。明日、日が昇ったらまた診療所に連れて行くけど、今夜はここで我慢して」
「……みみ……」
「ん?」
「みみ……しっぽ……きつねさん……?」
「え、ああ、うん……いちおう、狐」
「こわくない……本当に?」
「うん、怖くないよ」
 そう言って、ちょっとだけ笑う。
「ボクは景佳。木彫師なんだ」
「……」
香木のせいか、少しだけ落ち着いてきた気がする。
「どうして、あんなところにいたの?」
「……わかんない」
「わかんない?」
「わかんない……なんだか、山の中で道に迷って、霧に包まれて……」
「そっか。それで、僕たちの国に迷い込んできたのか」
「…………」
「どうしたの?」
「……やっぱり……こわい……」
「怖い? どうして?」
「……だって……」
 
それっきり、言葉が途切れる。……不安なのかな、って思った。
モノノケとか妖怪とか、ずいぶんな言われ方をしたけど、ヒトたちの世界では、ボクたちはそんな風に思われてるのかもしれない。
「それでも、安心して」
「……」
「ボクは、怖い狐じゃないから」
「…………うん」
しばらく、じっとボクを見ていたけど、女の子は静かにうなづいてくれた。
 
「怪我がないか、ちょっと見るから」
そう言って、帯に手をかける。
「あ……」
すこし、抗うようなしぐさを見せる。
「恥ずかしい?」
「…………うん」
「大丈夫。変なことはしないから」
「……胸……さわった」
「い、いや、あれはその、本当に偶然……」
「……ほんとに……?」
「ほ、本当だって……」
「いま……どもった」
「い、いや、だって、その、ほんとに……」
ボクはあわてて何か言おうとするけど、気持ちだけあせって言葉が出てこない。
「……くす」
そんなボクを見て、女の子がちょっとだけ笑った。
「おかしな狐さん」
「…………」
「うん。ゆるしてあげる」
「そ、そう……よかった」
なんだか、この子に振り回されっぱなしの気がする。
「……でも……へんなこと、しないでね……」
そう言って、女の子は目を閉じた。
 
帯を解いて、着物をはだける。色白の肌が目に映る。
「…………」
 女の子は目を閉じているけど、時々恥ずかしそうに体を隠そうとする。そのたびに、怪我の痛みでぴくんと震える。
「痛くないようにするから」
そういいながら、服を脱がせる。
崖から落ちたときに女の子の服は汚れたり破れたりで、けっこうひどいことになっている。こんなのを着せておいたら、逆に破傷風にかかりそうなくらいに汚れてる。
袴と上衣を脱がせ……ようとしたけど、手足の怪我がひどいようで、動かそうとすると痛みで呻く。
仕方がないから、短刀を取り出して上衣と袴を切り裂く。
服を切り裂くと、少しづつ肌が見えてくる。色白の肌にはうっすらと汗の玉が浮かんでいる。
とりあえず上衣と袴を切り裂いて脱がせると、そのまま下帯とさらしも解こうとする。
さらしを解くと、女の子のおおきな二つの胸のふくらみが、ぷるんと揺れた。
「……っ……」
恥ずかしそうに、顔を背ける。
一瞬だけ見とれてたけど、今はそんなことをしてる暇はないから。
頭を振って煩悩を捨てると、そのまま下帯も解いて、女の子の体を束縛する余分なものを全部はずす。
「えと……外傷は……」
全裸の女の子の体を、じっくりと見る。
もちろん、変な下心なんてないから。これは全部、治療のため。外傷の確認のため。うん。
大きな怪我は、右手の骨折と足の捻挫だけ。体のほうはそんなに大きな怪我はない。
鹿の脂を巻いて、その上から包帯をして添え木を当てる。応急処置だけど、明日診療所に向かうまではこれでいいだろう。
 
「痛い?」
「……ちょっと……いたい」
「ごめんね」
「……いいよ。あやまんなくても」
「……あんまり、動かさないほうがいいかな」
「だいじょうぶ……そんなに気にしないで」
「そういえぱ……」
「何?」
「名前……なんていうの?」
「……かなえ」
ぽつりと、女の子はそう言った。
 
ぱちぱちと、囲炉裏の中で香木が燃えている。さっき放り込んだのは、鎮痛と精神安定と……あと何か変なの……
 
……って……たしかアレ……
 
たしか……催淫の香木だったような……
 
ぶんぶんと、頭を振って変な記憶を捨てる。いや、そんなはずはない。それだけはありえない。
「どうしたの?」
「あ、いや……なんでもない」
「ねえ……きつねさん」
「え?」
「その……なんだか……」
「何?」
「むねが……どきどきしてる。なんだか……からだがあつくて……」
「…………」
やな予感って、必ずあたるんだよなぁ……
「ねえ……きつねさん……」
「え、え?」
「なんだか……へんなきもち」
「そ、そう? ……えっと、そうだ……そろそろ眠ったら? 疲れてるでしょ?」
「ねむれない」
かなえが、変に熱っぽい目をこっちに向ける。裸で、そんな潤んだ目を向けられるとボクの方が困るんだけど。
「ねえ……きつねさん」
「……」
「いじわる……しないで」
 
……こういう時って……ボクはどうしたらいいんだろう……
 
 
     ◇          ◇          ◇
 
 
「ねぇ……きつねさん」
 女の子……かなえが、潤んだ目で、ボクを見つめる。
「え、それは、その……」
 あわてて、何か言おうとするんだけど言葉がうまく出てこない。
「……ずるい」
「え?」
 かなえの言葉に、ちょっとどきっとする。
「きつねさん……ずるい」
「ず、ずるいって……」
「わたしのこと……こんなにしたのに」
「こ、こんなにって……」
「せきにん、とってよ」
「せ、責任って……」
 そう、言っている間にも。
 香木の煙が部屋を満たしていて。
「……くす」
 急に、かなえが笑った。
「?」
「きつねさん……こんなになってる」
 つん。
「ひゃあっ!」
 急に、ボクの股間に左手を伸ばしてくる。
「かたくなってる」
 そういって、また笑う。
「あ、いや、その、これは……」
 わたふたと焦っているボクをみて、とうとうこらえきれないように笑いだす。
「きつねさん、かわいい」
「か、かわいい……?」
「ねえ、きつねさん」
「え、えっ……?」
「わたしのここ……さわって」
 そういって、ボクの手首をつかむ。
 そして、かなえの左胸の上に。
 くにゅっとした、やわらかい感触が伝わる。
「っ……」
「ね、こんなにどきどきしてる……」
「…………」
「こんなきもちになったの、はじめてなんだよ」
「………………」
「わたし、きつねさんにきもちよくしてほしいな」
 ……煙が、ボクの鼻腔をくすぐる。
 なんだか、この匂いを嗅いでると、他のことはどうでもよくなってくる。
 ボクも。
 この子と、気持ちよくなりたい。
 
 
そんな時に。
「景佳くん、いるかい?」
 がらっ。
「うわあああっ!」
 扉の方から、突然声がした。
 驚いて、つい声を上げたのが……思いっきり裏目に出たみたい。
「なんだっ!? 景佳くん、大丈夫か? 今行くっ!」
「え、あ、ちょっ……」
 止める間もなくて。
「大丈夫か、景佳く……」
 こっちの部屋を見た声の主が、言葉を失って立ち尽くす。
「……いや、その、これは……」
 囲炉裏端に、服を切り裂かれた裸の女の子が寝ていて、その部屋にいたのはボクとその女の子だけ。
 で、囲炉裏からは香木の甘い匂いが流れてたりして。
 どう考えても、この状況は……その、非常に見られたらまずい状況なわけで。
 
「……景佳くん」
 声の主が、頭を押さえながらかぶりを振って言う。
 年のころはボクより一回り上。素襖を着て太刀を差している。さむらい、っていうか、僕らよりちょっとだけ立場が上。
 全体的に、ボクよりもケモノっぽい姿をしていて、黄金色の毛皮がかっこいい。
 左近衛少将頼延(さこのえのちゅうじょうらいえん)さま。
 ボクにとっては、巫女連からいろいろ注文をとってくれるお得意様……なんだけど。
 
「拙者は、別に人の性癖をどうこう言うつもりはない」
 ああっ、いきなり誤解してるし!
「景佳くんもいつまでも子供じゃないし、年頃の女人をたらしこむのも、別にかまわないだろう」
 いや、だから、誤解ですってばぁ!
「しかし、香木などに頼るというのは感心できないし、ましてや刃物で脅すなどと言うのは言語道断だ」
「は、刃物なんてボクは……」
「そこに転がってるものは何だね? そして、服がずいぶん不自然に切り裂かれているが」
「そ、それは……」
「いくら都合が悪いからといって、すぐにばれる嘘をつくのはよくない」
 ち、違うんですってば~!!
「きつねさん……このひと……だれ?」
 かなえが、ボクに声をかけてくる。
「あ、ああ、この人は……」
「巫女連に使える、頼延と申す」
「……こわい」
 そう言って、きゅっとボクの袖をつかんでくる。
「あ、ああ、その、いつもは怖い人じゃないんだけど……」
「とりあえず、何か着たほうがいいだろう」
 そう言って、部屋の端にあったつづらを開けて、無造作にボクの服を取り出す。
 ……悪い人じゃないんだけど、ボクのものを勝手に……
「景佳くん。こういうものを隠しておくのはよくない」
 つづらの奥から、何かを取り出してそう一言。
 
「ああぁぁぁっ! それ、その、ちょっと……」
「べつに持つことまで悪いとは言わない。君ももう年頃だし、こういうものも時には必要だろう。ただし、持つなら堂々と持ちたまえ。後ろめたい気持ちがあると、姿勢が曲がるぞ」
 ぽいっ。
「……あ、ちょっ、こっちに投げないでっ!」
 少し前、山に落ちてるのを見つけた艶本を、無造作にこっちに投げてくる頼延さま。
 その、ヒトのハダカとか、そういうのがいっぱい載ってる本。
 本物のような綺麗な絵で、ついつい拾っちゃったんだけど……
 あわてて、かなえに見えないように隠す。
「だから、隠さないで堂々としたまえ。そういうのを見たくなる年頃なんだから、堂々と見ればいい」
「堂々とできるわけないじゃないですか~っ!」
「きつねさん……それ、なに?」
「あ、いや、なんでもな……」
「艶本だ」
 つづらを探りながら、あっさりと言う頼延さま。
「つやほん……?」
「女人の裸を描いた錦絵ばかり入れてある書物だ。彼くらいの年頃ならば、見ていても何の不思議もない」
「……きつねさん」
「う゛っ……」
 かなえの目が冷たい。
「ら、頼延さまぁ……」
「恥ずかしがることでもなかろう。当然の欲望だ」
「すこしはボクのことも考えてください~っ!」
 無頓着と言うか、ある意味男らしいと言うか……
 
「さあ、これを着ていたまえ」
「…………」
 小袖を手に戻ってきた頼延さま。かなえの腕と脚に巻かれた包帯を見て言う。
「……これは?」
「あ、その、山で崖から落ちちゃって……」
「なるほど。それで動けないのをいいことにここに連れ込み、香木でたらしこんで裸に剥いたわけか」
「ち、ちがいますよぉ!」
 必死に弁解しようとするボク。
「冗談だ。どうせ、捨て置くのも気の毒とか思ったのだろう」
「え、ええ……」
「ふむ……応急処置に関しては問題ない。が、明日には町に出て医者に見てもらったほうが良いだろう」
「そのつもりです」
「……ところで」
「はい」
「景佳くんは、このヒトを養うつもりがあるのだろうね?」
「や、養う?」
 急に言われて、たじろいでしまう。
「怪我が癒えた後のことは考えているのだろうね、ということだ」
「そ、それは……」
 じつは、そこまで考えていない。
「……なるほど、まだそこまで考えていないか……じゃあ、少しだけ話しておくか」
 そう言って、頼延さまは話し始めた。
 
「われわれも治安には気を配っているつもりだが、無念なことに、まだまだわが国はヒトが一人で生きてゆけるほどには安定していない」
「……はい」
 街道を離れれば、獣もいるし、山奥にはこわい鬼も物の怪もいる。
「ましてや女人だ。一人で生きてゆくといっても辛かろう。そこで、取りうる手は二つだ」
「はい」
「巫女連で引き取るか、君が責任を持って養うかだ」
「み、巫女連で……って」
「巫女連に引き渡すというのであれば、拙者が責任を持って何とかしよう。……なにかと窮屈な場所ではあるが、つまらぬ人売りの手に渡すよりはマシだろうし、多少の金も君には入る」
「……でも、それは」
「もう一つは、君が責任を持って養うということだな」
「……ボクが」
「拙者としては、そうすべきだと考える。拾ったものが責任を持って養うべきだろう。無論、食い扶持は増えるが、じつは君の作品はなかなか評判が良い。これから仕事が増えるだろうし、人手が必要になるだろう」
「…………」
「まあ、急ぎはしない。ゆっくり考えることだ。……ただし」
「……?」
「香木でかどわかしたり、刃物で脅すなどと言うのは論外だ。養う以上は、きちんと愛情を持って、心で繋ぎ止めなくてはならない」
「で、ですから誤解ですってばぁ!」
 必死になって抗弁する。
「……くすっ」
 横で、かなえが笑った。
「きつねさん、おかしい」
「…………」
「まあ、今夜一晩、ゆっくり考えたまえ。ついでに言うと、伽をさせるならきちんと布団の上でさせたまえ」
 そういって、板間に横になっているかなえを見る頼延さま。
「男と女が一つ屋根の下で夜を明かすともなれば、やることも限られようが、畳どころか板間の上で伽を行わせるなど、いくらなんでも無粋の極みだ」
「で、ですから、それはそのっ……」
 慌てふためくボクをみて、かなえがくすくす笑っている。
「じゃあ、あまり邪魔をするわけにもいかないから失礼しよう。今日は、この前作ってもらった拵えの礼が言いたくて来たのだが、それどころではないようだ」
「ああ、アレ、うまく合いましたか?」
「うむ。見事な出来だ。国雅さまもお喜びになられていた」
「そうですか」
「あのような仕事をしておれば、これから先、君のつくる拵えを求めるものも増えるだろう。しっかりしたまえ」
「は、はいっ!」
「それじゃあ、拙者はこれで失礼しよう」
 頼延さまは、そう言って去っていった。
 
 のこされたのは、ボクとかなえだけ。
「……ね、ねえ……」
「……ん?」
「どうする?」
 なんだか、すごく変なことを聞いてる気がする。
「……きつねさん」
「えっ?」
「おふとん、どこ?」
「えっ? ああ、ちょっと待って……って」
「わたし、きつねさんがほしいな」
「…………」
 
 とりあえず、布団を敷くことにした。
 そしてその上に、かなえを寝かせて、さっきせっかく着せた小袖を、また脱がせて裸にする。
「……きつねさん」
「ん?」
「わたし……どうなるの?」
「えっ?」
「わたし、もとのせかいにもどれない?」
「……ごめん」
 ボクも、あまり詳しくは知らない。
 そして、この子がどういう理屈で落ちてきたのか、どうやれば帰れるのかは知らない。
「……いいの」
 そういって、かなえは笑う。
「きつねさんがやさしくしてくれたら、ずっと、そばにいてもいい」
 そうは言ってるけど、やっぱり、すこし寂しそう。
「……その」
「なに?」
「……ううん、なんでもない」
 そういいながら、ボクはかなえの上に覆いかぶさる。
「いたっ……」
「あっ……ごめん」
「ううん、きにしなくていいから」
 そう言って、微笑んでくれる。
「あっ……」
 かるく、舌先で胸の先をつつくと、ぴくんと、女の子の身体が動く。
 ちゅっと、口に含んで軽く吸う。
「ゃんっ」
 気持ち良さそうな声を上げて、身体をこわばらせる。
 背中と首に手を回して、離れないようにしてから胸を吸うと、そのたびに気持ち良さそうな反応が返ってくる。
「きもちいい?」
「……うん」
 背中に回していた腕をほどいて、ボクはかなえの、まだ毛の生え添っていない、大事な場所に右手を伸ばす。
「あ……」
 驚いたような小さな声を上げて、足を閉じようとする。
 だけど、怪我をしているから、足を動かそうとするとそのたびに痛みが走る。
「っ……」
「うごかないで」
 胸から口を離して、そう言ってから、大事なところを指で触る。
「いっ……ひ……ひうっ……」
 あまり経験がないのか、指でかるく触られるだけで、悲鳴のような嬌声を挙げて身体をくねらせる。
「ほら、濡れてきたよ」
 それでも、半ば無理やり指をこすりつけていると、次第に気持ちよさが勝ってきたのか、女の子はくったりとなって、目を閉じてされるがまになっている。
 両足の付け根からは、そろそろ蜜がこぼれかけているみたい。
「はぁ……はふぅ……ん……」
 気持ち良さそうなかなえ。ボクも、すこしは自信もっていいのかな。
「ちょっと待っててね」
 そう言ってから、棚からあるものを取り出す。……これが頼延さんに見つからなかったのは不幸中の幸いかもしれない。
 ボクが戸棚からもって来たのは、香木で作った、ちょっと大き目の張型。
 いま、囲炉裏で(間違って)焼いてるのと同じ、催淫の香木で作ったもの。
 ……じつは、巫女連からひそかに依頼があって作ったんだけど、後から急に依頼の取り消しが来て、それ以来ずーっと戸棚に眠ってた代物。
 どうして巫女連がこんなものをほしがったのか、よくわかんない。……いや、わかるといえばわかるけど、わかりたくない。
 作ってるとき、妙に細かい指示があったのは覚えてるんだけど。
 
「……それ……なに?」
 かなえが、おどろおどろしいそれをみてちょっと不安そうに尋ねてくる。
「入れた時に、痛くならないようにする道具だよ」
「……おっきい」
 かなえが、少し頬を染めて横をむく。
「大丈夫、ちゃんと入るから」
「……きつねさんのは、いれてくれないの?」
 少し、恨めしそうな声。
「後から。これで、先に準備しておかないと痛いから」
「……やくそくだよ。こんなのだけなんていやなんだから」
「うん。約束」
 そう言いながら、香木の張型で濡れた秘所をかるくなぞってみる。
「んっ……」
 かなえが、もじもじと身体をよじらせる。
「動いちゃだめ」
 そういいながら、張型をこすり付けるようにして愛撫すると、かなえが、無意識のうちに脚を閉じようとする。
 だから、両脚を広げさせて、その間にボクが座る。これでもう、かなえは脚を閉じることは出来ないはず。
「……きつねさん……はずかしい」
 かなえが、小さな声で抗議する。
「でも、いっぱいあふれてるよ」
 そういいながら、また左手に持った張型でかなえの大切な場所をなぞった。
「んっ……」
 大きく身体をのけぞらせて、かすかに震えている。
 かなえが、唯一動かせる左手で大事な場所を隠そうとしたから、その手首を掴んで無理やり引き離した。
 そして、無防備なかなえの秘所を張型でゆっくりと愛撫し続ける。
「はぁ……あぁん……あぁ……」
 かなえの口から、かわいい喘ぎ声が聞こえてくる。
 後から後からあふれてくる蜜を、張型で絡め取って、かなえに見せる。
「ほら、こんなにいっぱい出てる」
「……やだ……みせないでぇ……」
 恥ずかしそうなかなえ。やっぱり、あんまり経験はないみたい。
「じゃあ、そろそろ入れるよ」
「……うん」
 かなえの返事を聞いてから、それをゆっくりと入れる。
「んっ……」
 必死に、なにかを我慢している様な表情のかなえ。
 張型を奥まで入れると、それをゆっくりとこねくり回しながら上下に抜き差しする。
「あぁっ……」
 耐え切れなくなって、切なげな喘ぎ声を上げてる。
「そんなに……うごかさないで……っ……」
 かなえの抗議を無視して、ボクは張型を動かす。
 ボクが抜いたり挿したり、こねくり回したりするたびに、ちいさく声を上げて乱れる。
「ほら、こんなにいっぱい出てる」
「いやぁ……」
「きもちいい?」
「……きつねさん……ずるいよ……」
「どうして?」
「ちからが……はいんないよぉ……うごけないよぉ……」
 甘えるような声で、そう言ってくる。
 部屋中に立ちこもる香木の煙と、張型の木から溶け出してくる催淫成分で、内と外から気持ちよくなってるみたい。
 前後に張型を動かすたびに、かなえが気持ち良さそうな声をあげて身をよじる。だけど、すっかり力が抜けちゃってるせいで、それ以上は何も出来ないでいる。
 ボクが張型を動かすたびに、敏感に乱れるのがすごくかわいくて、そんなかなえの姿をみてると、ついつい意地悪したくなっちゃう。
 ねじったり、つついたり、回してみたり、張型を少し乱暴に使うと、かなえがもっとかわいく乱れる。
 この子は、ボクのもの。
 ボクだけのおもちゃ。
 もっともっと、かなえの乱れるところが見てみたい。
 囲炉裏端から、甘い香りが流れてくる。
 それを嗅いでると、他のことはどうでもよくなってくる。
 
「あっ……あん……いやぁ……だめ……」
 か弱い拒絶の言葉。だけど、ボクは聞こえないフリをする。
 張型を動かすたびに、動けないかなえは全身を震わせて乱れる。
 これからずっとでも見ていたいくらいに、かわいい。
「だめぇ……おねがい……もう……ゆるしてぇ……」
「気持ちいいでしょ?」
 かなえの言葉に、わざと意地悪にそう言って、また張型を蠢かす。
「あひぃ……ひぃ……」
 涙を浮かべて、泣きそうな声をだすかなえ。
 そろそろ、いっちゃうかな。
「あっ、ひぃ、くひぃ、ひあぁんっ……」
 張型を動かすたびに、かすれた様なあえぎ声を漏らすかなえ。
「いっ、いぁ、いやあぁぁぁ……」
 そして、泣きそうな声を上げて果てちゃう。
 もう、張型も床もおもらししたみたいにぐちょぐちょ。
 かなえは、指一本動かせないくらいに疲れ果ててるみたいで、ぐったりとなっている。
 そろそろ、いいかな。
 ボクが、入れようとした時に。
「景佳くん、すまない」
「うわあぁぁぁっ!?」
 玄関から何の前触れもなく、頼延さまの声が。
「ひとつ忘れていたことがあってね。入るよ」
「え、あ、そのっ……」
 
「…………」
 部屋の中を見て、言葉を失う頼延さま。
「いや、あの、これは……」
「……景佳くん。とりあえずそこに直りたまえ」
 こめかみを押ささえて首を振る頼延さま。あきれてるんだろうな。
「……はい」
「いいかい。男と女がまぐわうと言うのは、なによりも愛情をもって行うものだ。このような代物でむやみやたらに突けばいいというものではない」
 張型を手にとって、布切れで蜜をふき取りながら言う。
「……はい」
「そもそも、張型というものは、本来女人が女人を責めさいなむためのものであって、およそ愛情などとは程遠いものだ。このようなものを使うというのは、人としてやるべきではない」
 こういうところ、頼延さまは潔癖だからなぁ……。
 その後も、頼延さまのお説教は半時間くらい続いた。
「……まあ、そういうことだ。君も、この子を養う以上はきちんと愛情を持って接すること。そうやっているうちに、しぜんと心を開くものだ」
「…………はい」
「そろそろ、痺れも取れただろう。じゃあ、今度こそ帰るからきちんとやること」
 そう言って、立ち上がりかける頼延さま。
「ああそうだ、本題を忘れていた。巫女連から仕事が一件ある。新しく建てるお社の飾りなんだけど、図面はあとで持ってくるから、材料だけでも見繕っておいてほしい」
「あっ、はい……」
「それじゃあ」
 ようやく、頼延さまは帰っていった。
 
「きつね……さん」
「あっ……ごめん」
 その声にふりむいたボクと、かなえの目が合ってしまう。
「……いれて」
「えっ?」
「きつねさんがほしい」
「いいの?」
「……うん」
 
 ゆっくりと、ボクのそれを入れる。
 自分から入れるのは、じつはあんまり経験がないんだけど。
 ……その、巫女連に納品に行った時に、いろんな人に押し倒されたり食べられたりすることはあった……から。
「……う……んっ……」
 小さく声をあげるかなえ。
 ゆっくりと、腰を動かしてみる。
「ぃっ……」
 ぞくっとなるような刺激が、ボクを包み込んでくる。
 かなえは、半分気を失ったようになっていて、ほとんど反応しない。
 だけど、ときどき表情が変わる。
 気持ち良さそうになったり、何かを我慢してるような顔になったり。
 でも、嫌がってるようなそぶりは見せない。
 ボクもそんなに捨てたものじゃないのかな。
 とろとろに溶けた蜜と、肉の締め付けてくる感触がすごく気持ちいい。
 上から倒れこむようにして、かなえを抱いてみる。
「……きつね……さん」
「きもちいい?」
「うん……あっ、だめ……」
 ボクが腰を浮かすと、口では拒絶してるけど、何かをおねだりするような表情でこっちを見る。
「今日から、かなえはボクのものだから」
 そういって、ボクはかなえの胸の突起を吸う。
「あっ……だ、だめ、いやぁ……」
 口では嫌がってるけど、体の方は正直に反応してくれる。
 かなえの大事な場所からは蜜があふれてるし、腰を動かすたびにひくひくと締め付けてくる。
 ぞくぞくして、もう何も考えられなくなりそう。
「かなえは、ボクが責任を持って大事にしてあげるからね」
 そういいながら、かなえを何度も貫く。
「あっ……あぁ、ひぃん……ひゃう……んっ……」
 ボクに貫かれるたびに、ちいさく、だけどすごく色っぽい声を上げて乱れるかなえ。
 その夜、ボクは、何度も何度もかなえを抱き続けた。
 
 翌朝。
 催淫の香木は、もうすっかり焼けて、煙もかなり薄くなっている。
「……狐さん」
 少し恥ずかしそうな表情のかなえ。
「昨日のは、本当の私じゃないから」
 頬を染め、目をそらすようにボクに言う。
「その、狐さんが変な木を焼いたせいであんなになったんだから」
「うん」
 ボクは、少しだけ罪悪感を感じながら答える。
 その、ボクもちょっと昨日はヘンになってたような気がするけど、あまり覚えてない。
「……でも」
「何?」
「特別に、これから狐さんのそばにいてあげてもいいから」
 目をそらしたまま、そう小声でいうかなえ。
 
「本当?」
 少しだけ、嬉しくなる。
「……その、本当に特別なんだからね」
「うん。これからよろしく、かなえ」
 そう言って、怪我していないほうの手を握る。
「……その……狐さん」
「何?」
「狐さんの名前、もういちど教えて」
「ボクは……景佳」
「けいか?」
「うん。これからよろしく、かなえ」
「……よろしく」
 
「おはよう、景佳くん」
「あ、頼延さま」
 朝早くから、頼延さまが誰かを連れてやってきた。
「街まで運んでもいいかと思ったんだけど、怪我人を動かすのもアレだし、医師と祈祷師を連れてきたよ」
「あ……ありがとうございます」
 時々、悪意なく困ったこともする人だけど、本当に頼延さまは面倒見のいい人だと思う。
「とりあえず、この毒煙は換気しておこう。あまり良くない」
 そういいながら、窓と言う窓を片っ端から開ける。
「頼延さま、こちらでよろしいでしょうか」
「ああ。そこのヒトの女人だ。落ちてきた時に骨を負ったらしい」
「頼延様の持ち物なのですか?」
「いや、そこの彼、景佳くんのものだ」
「はぁ、この子の……」
「しっかり頼むよ」
「はい」
 医者と祈祷師らしい二人が、かなえに近づく。
「景佳くん」
 窓際で、頼延さまがボクを呼んだ。
「はい」
「ヒト一人養うとなれば案外大変だぞ。拙者もできるだけ君に仕事を回すようにするから、君も一家の主として頑張ること」
「は、はいっ」
「それから」
 少し険しい表情の頼延さま。
「はい」
 ボクも、真剣な表情で返事をする。
「今後はあんな小道具に頼らず、自分の肉体で悦ばせてあげなきゃダメだよ」
 そう言って、悪戯っぽく笑うと、ボクの肩をばんと叩いた。
「……は、はい……」
「たまには、巫女連まで遊びに来たまえ。夜になれば何かと要求不満な巫女たちがいるんだし、修行相手には事欠かないぞ」
「………………」
 耳まで真っ赤になってるのが自分でもわかる。
 なにも、そんな言い方しなくてもいいじゃないか。
「まあ、いろんな意味で頑張るんだよ」
 そう言って笑う頼延様の横で、ボクはまだ顔を赤くしてうつむいてた。

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