猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

狼耳モノ@辺境(仮題) 初版

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狼耳モノ@辺境(仮題) 初版



「――、え」
 俺はあわてて辺りを見回した。
 剣道部を退部させられて、やることが無くって、ヤケになって、学校から帰って、
 学ランのままベットに身体を投げ出して、そのまま眠って、えーと……? ええーっと?
 
 何故、俺は森の中に居るのだろう。夢? 頬を引っ張る。痛い。夢じゃない?
 
 その森は斜面にあった。木々は、間合いをあけて立ち並び、茂みの切れるところはない。
 今いる場所は、その中、僅かな森の切れ目だった。俺は頭を斜面の上に向け、仰向けで寝転んでいた。
 切り開かれたように覗く、青。


 俺は立ち上がる。
「……なんだよ、ここは……」
 周りには誰も居らず、聞こえるのは葉を揺らす風の音と。遠く聞こえる『何か』の声のみ。
 急に心細さを感じ、俺は声を上げていた。
「おーい! 誰か居ませんかー!?」
 直後、がさりと、後ろから茂みが揺れる音――心臓が跳ねた。俺はあわてて振り向いた。
「……っひ……」
 情けない声が、漏れる。
 茂みから、抜け出してきたのは、狼だった。ただし、ヒトの形をした。まるで、いや、そのまま狼男。
 腰の辺りに布を巻いているだけで、後は毛皮に覆われた体を露出している。
 ヒトと狼の骨格が合わさった上には、すさまじい筋肉が見て取れた。

―――――――!!

 音にならない咆哮。狼男は爪を振り上げ、俺へと走りよるかと思えば、次の瞬間には俺の目の前に居た。
「!?」
 俺は右へと身体を投げ出した。肩をかする爪、学ランがの二の腕が、ほんの僅か触れただけで吹き飛んでいた。
 地面に自ら倒れた俺は、もう、爪を躱わせない。
「あ、……あ、あ……?」
 膝を突き、四つんばいになり、恐怖に振るえ
 
 ―――――――!!

 咆哮に怯え、俺は転げ、視線を狼男に向けたまま、後退にしようとして
 ――んのままなんぞ……!
 ガチガチと震える歯を、食いしばって、狼男を睨み付けた。
 
 けれど、気が付けば、狼男は、倒れていた。
 変わりに、
 
 女がいた。

 血に染まった、女が居た。
 髪は目映いばかりの銀。首の後ろで束ねられ、それは腰の後ろまで流されている。
 瞳は銀。肌は白。
 顔は、作られたかのような、整った、それ。
 年齢は、20を幾らか過ぎたぐらい。
 瞳は僅かにつり上がり気味。唯一な違う色合いを見せる唇は紅も塗っていないだろうに朱。それは、血を、

気づいた。赤い。
 湯気を上げる朱に、その銀と白は染まっていた。
 細く、長い腕の先に握られているのは僅かに歪曲した刃。風を切る音と共に、血は払われ、腰帯につけられた鞘に収められる。
 頬の血をぬぐい、女性が、こちらに視線を向けた。
 着ているのは、髪と同じ色の毛皮。肉食獣――狼の頭が、そのまま、肩に当たる位置についている。
 毛皮の下には、麻かなにか、とりあえず服も着ている。粗末なものだが。
 何より、目を引いたのは、顔の横。
 耳だ。獣のそれが、顔の横にあった。ぶっちゃければ、どこぞのコスプレ? とか思った。 
 そんなことを、思いはしたが、思考の中心にする余裕は無かった。
 俺は立ち上がる。
 一歩、歩み寄った。
「あ、あの……ありがとう、ござ」
 俺が掛けた礼の言葉は途中で途切れた。繰り出されてきた打撃に。
 鞘から刃も抜きもせず、留め金をはずし、その女性……女は俺の首を目掛けて振るってきたのだ。
 ――やっぱりか!
 咄嗟に、上半身を倒して交わすことが出来たのは、警戒していたが故の僥倖だろう。
 それでも、剣道をやっていなかったら、避けられなかったか。
「ちょっ、なっ、待っ」
 口はマトモな言葉をつむいでくれない。その時間もなかった。
 一瞬のタイムラグと、一瞬震えたその女の眉を認識できる時間を置いて、二撃目が来ていた。
 世界が、全てスローモーションに。意識は、無垢なるものに、ただ反射へと変わり、
 命の危険を感じたとき、そう、感じる事が出来るらしい。 
 そんなことを思い出す余裕さえ、あった。すぐになくなったが。
 刹那の思考。俺は咄嗟の判断で左腕を首との間に掲げる。盾の代わりだ。
 鈍器の振るわれるラインの上に割り込む俺の左腕。防具つけてたら良かったなー。とそんなことを考えているうちに
 
 激痛。
 
 叩き付けられた衝撃に、ぶちりと、肉が、割れ、

「……つうっ……っく!」
 流れ出る血に気を取られる暇は、与えられなかった。
 女の眉はもう一度、ぴくりと揺れる。
 俺は、左の手首を押さえ、質量さえ感じさせるほどに押しかけてくる痛みと戦いながら、よろよろと二歩、あとずさる。
 袖口からは、綺麗な朱が、というか俺の血か。
 逃げなければ、まずいと。本能が俺にいう。だが、何処へ? どうやって? 加速が付くであろう麓へは、女がさえぎっている。
 そして、おそらく――おそらくだが、女の足は俺より速いだろう。そんな気がする。
 更に一歩下がれば、女は決して俺との間合いを開かずに、静かに距離を詰めてくる。
 その上、足場が極端に悪い。少しバランスを崩せば、転ぶか、樹にぶつかるか、どちらにしろロクなことになるまい。
 
 だが、このままなら確実にやばい、狼男を相手も最後まで睨み付ける積りでいたはず俺は、
 相手の『凄み』とでも言うものに当てられ、一瞬思考は逃げる事に向かい、
 出来るものか。そう思った。
 
 容赦のない三撃目を見たからだ。
 二撃目は既に引かれており、腰だめに構えられた鞘入りの刃は、俺の顎をめがけて突き上げられていた。
 ゆっくりと動いている筈なのに、ための動きが見えなかった。
 狼男の一撃よりも、女の放った前の二発よりも、桁違いに疾い。それは、おそらく、本気に近い一撃。
 可能なのは、本能的に後ろへと倒れこむことだけだった。
 本日三回目。いや、よくかわせたものだ。全く見えなかった。
 風と、僅かに脳をゆする衝撃と、背中と後頭部に下生えが当たる感触と、重力が身体全体にかかる感覚と、
 俺は、よける、というよりは、こけると言った方が正しい。完全な無防備な状態になっていた。

草を踏む音。森の隙間から差込み、顔にかかっていた陽光がさえぎられる。
 女は俺の顔のそばに立っていた。
 毛皮の隙間から下帯? とでも言えばいいのかね? ともかく下着であろうものが見え、
 ああうれしーなんて俺、そんな事を考えている余裕あるのかって。
 もはや、現実逃避の極みにおいて、俺は、疑問を吐き出した。
 見下す、その無表情な、何の色も持たない女の視線に、自分の視線を合わせる。
 すると、その女の瞳に何かの色が宿る。それが何かはわからない。
 俺が、もう少し年をとっていたらわかるのかもしれない。
 もう終わりっぽいが。
「……なんなんですか……? あなたは……?」
 思うように声は出なかった。息も絶え絶えもれ出た、という感じの言葉だった。
「ヒエクスの末裔。アワトタウグリの氏族。その東の部族の長、ゼキ」
「え。」
 答えが返ってくるとは思わなかったので。その落ちてきた声に思わず間抜けな声を俺は上げ、
 その直後、鞘の切っ先をみぞおちに叩き込まれて意識を失った。

 がばりと、布団を跳ね上げ、俺は目を覚ました。
 生きて、いる?
 ああ。なんだ。夢落ちだったのか。と気が抜けた。
 何せ、俺の心臓はちゃんと動いている。
 ほら、さっき割れたはずの左腕の傷口が心臓が血液を送るたびにずきずきと痛むし。
「……え?」
 痛む? ……痛む!?
 あわてて左腕を見る。……学ランは着ておらず、ワイシャツはめくられ、傷口が露出していた。
 ただし、傷口には、何か、幾何学的な文様が無数に書き込まれた、紙……いわゆるお札のようなものが、数枚張られており、
 他には何の処置もされていなかった。その紙は白く、血に染まっている様子は全くない。
 見回せば、暗い。この部屋には照明も窓明かりも無い。
 樹の板と板の隙間から漏れ出る僅かな光が、この部屋の構造を見るための、唯一の光源だ。

 ふわりと漂う部屋の空気は、そう、甘い香り――
「って、俺……生きてる……?」
 つぶやくと、後ろから声が聞こえた。
「……殺すつもりだったら、わざわざ鞘に入れたままにしないよ」
「っわー!?」
 後ろを振り向くと、そこに居たのはあの女だった。胡坐をかいてって中が見えてってそうじゃなくて!
 部屋の中央で、俺は布団(といっても、日本のそれではない、粗末なものだったが)に寝かされていたらしい。
 刃は持っておらず、毛皮も着ておらず、あまり触り心地のよさそうでない布に穴を開け、
 頭を通して身体に巻いているだけだ。
 ぷちっ。と、俺の頭がキレる音がした。
「なんなんですか貴方はいきなり何するんですかというかここは何処ですかその耳はなんですか貴方はー!」
「私はゼキ。お前を捕獲するために気絶させた。ここは私が長を務める集落。この耳は――」
 言葉のラッシュはアッサリ返され、何もいえなくなった俺。最後の言葉だけ、言いかけ、
 女性はしばらく迷っている。立ち上がって後ろを振り向いた。……尻尾だ。こっちまでわざわざ着けてるか。
「……触ってみる?」
「……」
 せっかくなので触ってみた。へにへにしている。いや、なんだろこれ。あったかいし。というか、これ、仮装でなくて
「本、物……?」「もう、良い?」「あ。はい。すいません」
 ゼキ、と名乗った女性が、少し不機嫌そうな声色だったので、俺はあわてて手を離した。
 もはや訳がわからなすぎる。
 ゼキはこちらを振り向き、完全に混乱しきった俺にトドメを指した。
「単刀直入に言うけど、ね。おまえは何らかの原因でここに落ちてきた『ヒト』で、私の所有物だよ」
 あ?
「……」
 そのまま、ゼキは部屋の扉を開いて外に出る。
 俺は、寝ているわけにも行かず、痛みに耐えながら立ち上がり、まぶしさに目を細めながら外へと出た。
 嫌な予感は最初から一回も消えていない。

「……どこ、ここ? 仮装選手権?」
 例によって現実逃避する俺。俺の目の前に広がっているのは――予想通りとでも言えばいいか。
 山岳地帯の、木製の、粗末な家が立ち並び、木の塀に囲まれた小さな集落。
 高床式? あんな感じの上に家は建てられていた。
 全く、見覚えの無い。テレビの中にしか存在しないような山だけの風景。空は、本当に青かった。
 そこらじゅうに居るのは、ゼキと同じように、耳と尻尾をくっつけた人間達だった。
 少々、閑散としている感じはするが。俺はゼキへと振り向いた。理由は、聞く為。思い出した言葉を。
「……落ちて、来た?」
「……どういうことかは、私は詳しく知らない。だけど、この世界では時折ヒトが落ちてくる」
「世、界?」
「……なんでも別の世界から『落ちてくる』らしいんだけど」
 俺は言葉が無かった。
 ――異世界から、落ちてきた? 何時のファンタジーだ何時の
 現実だ。
 俺は顔を覗き込んでくるゼキに問う
「……戻る、方法は?」
「……知らない」

 暗い部屋の中、俺は聞かされた話に唖然とし、何も出来ずに居た。
 ――向こうの世界で、全てを投げ出したまま、何も得られぬまま、ココに?
 ――誰も?
 ――価値が、無かった?
 空気が動く。視線を向ける。開かれた戸の外は暗かった。入ってきたのはゼキ。
 手には湯気の出ている器が。食事をもって来てくれたらしい。
 そして、無言のまま、座り込む俺の目の前に置く。
「ありがとうございます」
 俺はそれを手に取り、食べ始める。ふわりと食欲をそそる中に何か、青臭い匂いが混じっているが、それは僅か。
 匙で口の中に運ぶと、何かの香辛料か、舌先がぴりぴりするが、旨い。穀物、イモ類、後は肉? 魚も入っている? ごった煮?
 ……よくは解らないが、『こういう場所』ではかなりのご馳走ではないだろうか? 大抵の場合は、
 俺は食べ終えると「ご馳走様」といい。だまって俺の食べるところを見ていたゼキに返した。
 いつの間にか座っていたゼキは、それをそのままで部屋の片隅に投げ出す。
 しばらくの無言。この場所がどういうところか、この世界がどういうところか、大体、俺は聞いていた。
「本当に、知らないんですか? 戻る方法を」
「うん」
「そうですか……」
 こんな状況でも敬語のまま。
 俺は、大抵の人間に敬語を使っていた。両親を早々となくし、親戚の家々を渡り歩いた天涯孤独な俺には、
 それも一種の武器だった。何の意義も無い異世界に渡って来ても、その習性はそそうそう抜けない。
 いや、言語で話しているのかね? そのつもりだけど、異世界だし。一種のテレパシーか何かで会話しているのか。
 ともかく、意図は、敬語のニュアンスは伝わっているようなので構わない。それどころではない。
「そして、戻すつもりもない、けどね」
「それは、また……」
 俺は苦笑した。
「……理由を聞かせてもらえますか?」
 想定していた言葉だった。俺は膝立ちになり、いつでも動けるようにする。
 如何にかできるわけではないが。
 ……ゼキは俺が立ち上がっても何も動きを見せない
 瞳に何かの色が、浮かんでいた。こちらを見ていた。

「言ったよね、お前は私の物だって。ひろい物、と行ったほうがいいのかもしれないけど」
 俺を見る瞳に有ったのは強い、何か、……意志だ。義務感に追われる者のそれだ。
「いや、恐らくは祖霊の恵み、とでも言えばいいのかな……」
 俺は、警戒を解かないまま、けれど何もする様子もなく、ただ……そう、話したがっている様子に見えるゼキの言葉を聴く。
 いや、無言で促す。語る言葉を、聞く。
「……この集落では、狩りに出ることの出来るものが少ない。以前、別の氏族との戦いに負け、ここは追いやられた先だ。
 ……前の戦で、戦える歳の、ほぼ全ての男たちが殺された。私は……死んだ『あれ』の変わりに族長となった。
 今は、まだ大丈夫だけど。だが、貯めておいた食材に底が見えている。
 ……女とて、男と変わらず戦は出来る、けど、子供たちが居る」
 声はこちらを、まるで、気遣うような。
 あの閑散とした雰囲気は、つまりそういうことだ。
 話は飛ぶ。
「……『ゆがみ』を感じ、行ってみれば、ビレトゥスの斥候……いや、何かをするつもりだった符術氏と、戦士が居た」
 あれは、ビレトゥス――排他的な、この辺り最大の氏族――の者達のものだったらしい。
 三つの国を敵に回し、それでも成り立っているとか、他国にも氏族のみで略奪を仕掛けているとか。
 ほとんどの、この当たりの氏族は、もはや支配下に置かれているとか。どーとかこーとか
 偵察に来たその連中を偵察に行って、ついでに俺を見つけて助けてくれたらしい。
 『ゆがみ』というのはなんだか解らないが。
「……私には、この集落を守る義務があるんだ」
「それが、どうつながるんです? 俺と」
「この当たりでも中央の方とも、金銭で取引は出来る。守るというのは、刃を振るだけとは限らない」
「中央?」
「ああ。オオカミ人の国の」
 言われ、思い出す。というか、茫然自失としてロクに意識してなかったのだが。
 この世界には、目の前の人物のような、つまりは獣耳に尻尾な人種がほとんどらしい。
 なおかつ、ネコ、犬、ウサギなど、種類別に分かれ、国家を作っているらしい

「……もっとも、祖となった系統が違うから、私たちは王国に帰順していないのだけど」
 コヨーテとニホンオオカミ、てな感じだろうか? 
「……けど、それは、その……中央と、金銭でとり、引き……?」
 嫌な予感がした。この世界では俺のような『ヒト』は希少価値が高いと、呆然とする中で聞かされたのを思い出したのだ。
「あのー。まさかそれー、調教したあげく売り払うなんてありがちなエロ展開しませんよね?」
「……よく解ったね?」
「本気で当たりかー!」
「……心配しないでいいよ。何処に売られようとも飢え死にはしないだろうから」
「だが断る!」
「断れる立場に、有ると思う? 仮に断ったとして、どうするつもり?」
 痛いところを突かれた。俺は沈黙する。
「……とりあえず、今日は、試し、ということで」
「……それは――」
 俺は、誰かに強制されるのが、生理的なレベルで嫌いだった。。
 強がりにも違いないのだろうが。せめて、抗うつもりでいないと。

「……そう。でも、耐えられる?」
 幾らか、楽しげなゼキの様子に。俺の嫌な予感は強くなる。
「何が、ですか?」
「媚薬入りの、スープを飲んだはずだけど。即効性のものだったのに」
「……油断したー!? く、くそ! あの匂いと味はコレかー!?」
 ぴりぴりと青臭さだ。
 言われれば身体が熱い。というか、なんだ。アレだ。
 勃ってた。
「……私は、お前を売る。有る程度躾けたものなら、この集落が三ヶ月は潤う」
「いやー、出来れば遠慮したいかなーって」
「そうか、それは悪かったね……」
 けれど、身体が熱い。動けない。
 ゼキは、俺との距離を詰める。
 俺は気づいた。その目の色は、こちらに対する気遣いだ。この女性は、どうやら優しすぎるらしい。
 この世界においてヒトを人と思わぬ扱いも珍しいものではないらしいが、それを、『そんなことを』気にしている瞳。
「……ずいぶんとお人よし、なんですね」
「侮蔑として受け取っておく」
 僅かに、ゼキが笑いの代わりに漏れた息を感じる。
「……あーあ」
 今のは俺のだ。最後はあきれたため息に変わった言葉。
 女性の重さが身体に加わる。頬に当たる絹の髪。甘い、香り――

 床に押し倒され、いきなり唇を奪われた。いや、男の俺がそういう言い方もなんなんだが。
 しばらく、強く吸われたままにする。何も抵抗をしない。されるがまま。正直、我慢が出来なくも有る。
 口を離され、見下ろしてくるゼキの口元から唾液の糸が俺の唇とつながっている。切れた。
 俺が荒く息を吸っているのに、ゼキはそんな気配が全く無かった。
「……いいの?」
「冷静に考えてみたら、貴女は命の恩人ですし。まぁいいかなんて。性別逆ならともかく、俺、男ですし」

 こちらの考えを知っているのかいないのか。ゼキは俺の目の前で首をかしげた。
「……初めてか? ならば、今回は慣れさせるだけだけど」
 キツい質問。俺はごまかす。
「どうでしょう?」
「……見栄を張る男は情けないね……では、慣れさせるだけ、か……」
 ごはぁ。
「……んっ……」
 再び、唇が繋がる。躊躇なく差し込まれた舌が、俺の口腔を蹂躙する。歯。歯茎。喉。舌。その付け根、頬と、余すところ無く。
 長く続いた陵辱に、半ば俺の頭は酸欠状態だった。
「……っは……! ……うっ……くっ……」
 ようやく息を吸えたかと思えば、ゼキの舌は、顎を通って、首筋まで下がり、ちろちろと首をなめている。
 くすぐったいのは、性感の場所でもあると、頭の片隅で思う。
 シャツのボタンには指がかかっていた。簡単にはずされた。……この世界にも存在するものだろうか。
 ゼキの舌は胸の中央を、内出血したみぞおちを。硬くなった乳首を通り、
 たっぷりの唾液を塗りつけ、嬲り、刺激しながらながら下腹へ。
 じわじわと、背筋に侵食する快感。
 かちゃりと、ベルトとジッパーがはずされる。トランクスごと下げられ、腫れ上がった俺が顔を見せる。
 一遍の躊躇もなく、ゼキはそれを口に含んでいた。
 熱い。口腔の唾液を通して、熱さが纏わり付いてくる。
 前歯が甘く亀頭の裏側に触れ、裏筋の左右をほじくる様に舌が這う。刺激してくる。
 唇が、すぼめられ、強く吸われる。唇自体が、圧迫してくる。

 頭に動く前後の動きが、
「むぉう……?」
 どうだと問う、その動きさえも、
「……ぅぅ……」
 左の歯で、軽く、本当に軽くかまれる事も、
 気持ちいい。
 続く。
 突如、舌の動きが早くなった。
 出そう。というのだろう。抗うすべない。
 可能な限り、堪えようとする。だが、すぐに、亀頭がとろけそうな感覚が、来た。
「……つぅ……もう……」
 答えはない。
 だが、動きは止まらない。
 ざらりと、もう一度、舌が裏筋を。
 同時に絞られた頬が、亀頭を嬲り、
 俺は、ゼキの口の中に、どくりと、波打つほど、精液を流し込んでいた。
 打ち込む最中も、舌の動きは止まらず、快感は続いている。
「っ……はぁ……ふう……」
 そのまま、吸われるペニス。尿道にまで残っていた精液が、完全に抜き取られる
 全く漏らすことなく、全てを飲み込んだゼキ。
 だが、まだ、熱は、取れていない。
「……そうとう、強い、薬、使ったみたい、です、ね……」
 ゼキは、唇に、僅かに付着していた精液を舐めとった。
 その動きに、ぴくりとふるえるペニス。
 ペニスの向こうに、ゼキの顔があるのが、少々間抜けというか、間抜けなのは俺か。
 僅かな、恍惚さえ、見える、その顔を見て、背筋がゾクリ。としたというのは秘密だ。
 
 ゼキが、本格的に乗ってくる。こちらの股間に指をそえ、
「行くぞ……」
「はい……ってあの、」
「ヒトと、それ以外では、子供が出来ることは、ないよ」
「そうですか……っ!?」
 言葉の途中で、既に濡れそぼっていたゼキが、くわえ込んだ。
 口の中より、熱い。そして、桁違いにキツイ。締め上げる動き自体が甘さに変わり、
 ヒダヒダが亀頭に、エラに、根元に、纏わり着いてくる。
 それが、ゼキが俺の上で腰を振る度、全てを伴って激しく動く。
 一度出したというのに、すぐに出そうになる。
 いや、それどころではない。
「もう、」
 出た。
「っつくぅ……」
 ゼキの胎内に、ぶちまけられる精液。ひたひたの膣が、更に熱くなる。
 それを感じたのだろう。ゼキがつぶやいた。
「情けない……かな」
「そんな事を、言われても……」
 気持ちよすぎてしょうがないのだ。
 けれどゼキは、俺の目の前で、笑う。嘲笑ではない。
「……私も、興奮してきたよ……」
「へ……?」
「お前が、そんな顔をするからなんだけど」
 どんな顔をしていたというのだろうか
「それは、どうも……で。えー?」
「覚悟、しろ……」
 唇が、吸われる。
 そしてゼキは、正常位の姿勢から、上半身を挙げ、俺の腰の上に座り、騎乗位の姿勢になった。

闇の中、僅かに捉えることが出来た裸身は、酷くなめらかで、なまめかしくて、線を描く曲線は美しい。
 出したまま、抜くことも無く、ゼキは腰をゆすり始める。
 出した直後で敏感になった俺のペニスは、けれど出したが故の余裕で、嬲られる。
 キツく、締め上げ、絡みつき、甘く、熱く、
 より、強く感じる。
 ゼキも自ら、快感を感じて。
 自らで、腰を振り、俺を使って、感じている。
 ゼキの漏れる息は熱く、牝の匂いが立ち上り、俺の鼻腔は香り以外を感じなくなる。
 すぐに、三度目が出だ。
 結合部から、漏れる精液と愛液の入り混じった、それが、漏れる。
 だが、まだ、ゼキの動きは止まらない。
「っく……はぁ……はぁ……っぅ……ぅぅ……」
 快感を、押し隠す声。荒く漏れる息。擦りたてたれるペニス。
 外壁をこすりたてる。
 四度目。
 どれほど強力な媚薬なのだろうか。まだ一向に熱さは収まる様子がない。
 すぐに五度目。
 もう、余裕もなく。はちきれそうな、それでいて、決して緩むことのない、膣。
 だが、流石に俺にもプライドというものがある。
 五回も出しっぱなし、というのは、流石に、許せない。
 俺は暴れるゼキの腰を押さえつけると、俺は、一度引き抜く寸前まで持っていく。

 一緒に引き出される液。
「っ……っあ……何を……」
 俺は、全力でもって、差し込んだ
「っああ……!」
 そして、全力でもって、引き抜く。
 悲鳴にも近いゼキの声。
 俺は腰の手を離すと、ゼキの動きにあわせ、限界まで、引き抜き、差し込むのを繰り返した。
 背中を仰け反らせ、床に手を着き、
 遠慮はしない。ゆっくり、味わうのではなく、完全に機械。それこそ杭撃ち機のように、速さでピストンを繰り返す。
 腰に満ちる射精感。締め付ける快感。だが、まだ持つ。
 腰と打ち付けあう度に水音が、ゼキの声が部屋の中に響き渡る。
「く……ぅあ……うぅ……あっ……んっ……」
 こちらはもう限界だ。だが、向こうも、口元から唾液が流れ落ち、胸をぬらし、目の縁には涙さえ
「あまり、おおきく、ないん、ですね……」
 俺は、今更ながらに気づいた。というかそんなに余裕がなかったのか。
 揺れる、それほど大きくない胸の、その先端だけを、それぞれ両手で、強くつかむ
「っア……」
 浮いたゼキの腰、俺の引いた腰。
 胸を引っぱり、限界まで、打ち込んだ。
「っん……!」
 ゼキが、ひときわ大きく息を吐き、同時にぎゅっ、としまる膣の中へ、俺は六度目の精液を流し込んでいた。


 翌日の朝
 ああ。太陽が変な色に見える。
 俺は家が設置されている足場の上に出た。ちゃんと作られている手すりに体重を掛け、
 傍らで何も無かったかのように出てきたゼキに視線を向けた。
「……しかし、なんだ」
 つぶやくゼキ、ほうっておいて欲しかった。

「……ふぅ……」
「……はぁ、はぁ、……っ……はぁ……」
 昨日、絶頂に達したゼキは、けれど軽く息を吐いて元に戻り、俺は荒い呼吸を繰り返した
 情けない。
「……腰を打ち込むだけではな……」
「……あ、あのですねぇー」
 指摘された。
 情けない。
「……まぁ、数月の間、一人を養っても、問題ない、だろう」
「大丈夫なんですか? それ?」
「その程度の余裕はある。それだけ考慮に入れても、利益は出るしな」
 要するに、俺はこの集落で養われるらしい
 情けない。

 朝日の中、ゼキの透ける銀髪に見とれ。次に瞳へとむける。
 僅かに腫れたそれが、こちらを見ている。 
「しばらくの間、お前を使い物になるようにするよ」
「それは、どうも。その後に、売る?」
「当然だ」
「当然ですか……」
 幾らか恨みがましく言った俺の言葉に、ぴくり、とゼキは眉を振るわせた。それ以外に表情の変化はないが、大体わかる。
「ああいや、その、それ、……えーっと。とりあえず。解りました」
 その言葉でも表情は変わらないが、見上げる――そう、ゼキは俺より背が低い――視線は、媚さえ混じった問いかけへと。
「だけど、受け入れるのか? お前は?」
「……そうですね。あんま、そんな気しないんですけど」
 俺は、ぽりぽりと頬を書いた。
「他に何も出来ませんし。……ただ一つ、お願いがあります」
「なんだ?」
 訳がわからない、と言っている顔に、俺は言葉を続ける。
「ちゃんと、俺が売られることにより、ココが有る程度安定するっていう証拠と、その保障……えーと」
「納得出来るだけの理由が、欲しい?」
「はい。見せてもらいます」

 嫌な沈黙が場を支配した。な、なんなんだ!? お、俺、何か変なことを言ったか!?
 
 改めて見ると、このゼキ、という女性は、本当に美しい。
 あまり沈む顔は見たくない。でもその表情もいいけど!
 気まずい雰囲気をごまかすべく、俺は口を開いた。
 というか、状況を聞いたときから、僅かに思っていたことだったが。
「あ。そうだ。それとは別に一つお願いがあるんですよ。その、聞いた話ですけど。
 貧困解消の手段って有る人が言ってたことなんですけどね?」
「いや、何が何だか訳がわからないが。……いいだろう」

 そして
「先生ー!」
「なんだー!?」
 俺は立ち上がると、駆け寄る子供たちの群れの中に、自ら突入していった。
 俺はこの集落の子供たちに勉強を教えていた。算数と、後は理科。
 それ以外はこの世界に適応しているものではない。というかココじゃ社会とかって意味無いと思う
 時折、物語などを話してもいるが。
「今日は何すんのせんせー」
「んー。今日はアレだ。新しく掛け算ってのをやろうかと思う。いろいろと便利だぞ」
「なにそれー?」
「足し算の強化型? いやよく判らんけどそんなもんだ」
 まとわりつく子供たちの頭を撫でながら思う。
 売られて、金になり、この集落が潤うのなら、それも悪くは無いのかもしれない。
 今の俺に、他の価値が無いというのなら。
 それに、少なくともここでは、俺の存在は、請われている。学生生活ってのも無駄じゃなくなったし。
 利用するためであっても、俺の付属物をではなく――
「それ面白いのー?」
「いやー厳しいぞ? 俺、実はさー、居残らさせらせてなきながら教室で練習してたしー」
 というか、男が欝に成ってても絵に成らんので止めた。といったほうが正しい。
「食えるのー?」
「食えるかー!」
 

 続く

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