猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

シャーラ・カ・モキスートの冒険01b

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だれでも歓迎! 編集

シャーラ・カ・モキスートの冒険 その一(後編) 伝説の武器BJ

 
 


 
 靴下に砂を詰めて、後は振り下ろすだけです。
 
 
     ――対ソックスハンター対応マニュアルより


 

 其れは猛毒であり、呪いであり、罪悪であった。
 其れは不浄であり、疫病であり、孤独であった。
 
 蚊を貶める其れは、王家の手で、西方湖に封じられた。
 蚊の罪たる其れは、ヒトの手で、夢無き眠りについた。
 
     ――神託巫女の口伝より 巨龍マラリーの伝承


 
 拝啓皆様、俺は引き続き、異世界で全裸に縛られてます。
 
「シャーラ様、黒飛龍めが、警報に掛かっておりまする」
「見通しが甘かったようじゃな……守護者を鍛える時は、与えぬと言う事か」
 
 幸福な中で愛を叫んでいたら、餓鬼が何か起きていたぽくて、ピンチです。
 しかも、ヒルダも先程までの、ふわふわで甘い雰囲気から、
片膝をついて餓鬼の横に控えていて、最初に見た時の巫女というか従者っぽい雰囲気に、
切り替わっております。
 
「では、シャーラ様は奥の祭壇裏より、お逃げください……お願いいたしまする」
「大儀である……済まぬな姉上」
 
 餓鬼はそう言って、一瞬辛そうな目でヒルダを見た後に……首筋に舌を這わせた?!
 くっ、俺もまだしたことが無いのにっ!
 いえ、胸の方はたっぷり堪能させて、いただきましたが。
 
「んっ! んっ…… んっーーーっ!!」
 
 って、いきなり噛み付いた?! 蚊って、言うより、吸血鬼なんですが?!
 そして、俺のヒルダに何するですか?!
 えと、必死に声をおさえるヒルダの姿も、色っぽいと言いますか、
上気した肌が艶かしいと言いますか、白い肌って最高?! うん、俺って死ねば良いのに。
 
 Hな雰囲気におのれーって嫉妬と、死にたい自己嫌悪に、混乱していた俺は、
馬鹿だったから、この後何が起きるか……全然理解出来ていなかった。
 
 そして、何事も無かったかの様に二人は離れて、理解出来ていない俺を置いて、
話はどんどん進んでいくようだった。
 
「シャーラ様どうかご無事で、カトリ様……」
 
 そう、ヒルダはまだ、名乗ってもいない俺の名を呼んで……抱きついた?!
 
「シャーラ様をよろしくお願いしまする……また、お会い出来たら先程の続きを致しまする」
 
 その、この位置だと胸が、大変素晴らしい事に、と思ってると不意に囁かれた。
 続きって、あれ以上ですか?! ……両思いなら良いよな、うん。
 
「カトリ様のように……来世であっても、覚えて居られるように願いまする」
 
 だから、次に聞こえた言葉に、沸騰していた考えが凍りついた……どう言う事だ?
 
「あなた様が最後の希望、蚊の民の事よろしくお願いいたします」
「分かっておる、必ず守護者を鍛え上げ、ヒルデガルド……御主の働きに報いよう」
 
 ああ、それはあまりにもベタな展開ではないのか?
 ふと、最近名作だったネット小説に感動して、
やり直した4作目のゲームの最悪な冒頭を思い出す。
 
 黒飛龍に追われていて、この二度と会う事も無いと、そう言ってる二人の会話、
俺の心が聞こえているはずなのに、こちらを見ないようにしているヒルダ……
 
 OK……馬鹿な俺でも分かった。
 
 好きな相手に、命を賭けて守られた後に、大魔王を倒して仇を取れても、
勇者にとって、何の意味も無いんだぞおい?!
手に手を取って逃げるって選択肢は無いのかよっ?!
 
「なるべく時間を稼ぎまする」
 
 まるで、それに答えるように……いや、俺の事を見て無くても、誰に言ったのか位は分かる、
別れを告げて後を向く姿に、まちやがれっ! そう、思うことしかできなかった。
 


 
「往くぞ」
 
 そう短く宣言して、部屋の隅にあった二つの背負い袋と俺を、
肩に担ぐ餓鬼……おいおいおいっ!
 何て馬鹿力だよ、ヒルダを死なせるのか?! 何処にいくんだよ?!
 支離滅裂な思いを餓鬼に向けながら暴れると、床に落とされた。
 
「何故暴れる? わらわは往かねばならんのだ、分かるであろう?
く、わらわでは心(くうき)が読めぬか……」
 
 立ち上がって、ヒルダの後を追おうとした俺は、餓鬼に片足で踏まれただけで、
動けなくなった。
 ちょっと待て、馬鹿力なのは分かったが、見た目に反して重いのか?!
ヒルダはやーらかくて軽かったのに、餓鬼は100キロあるとか言う落ちか?!
 
 後で、しごかれた時に教えられたのだが、つまり、力とバランスらしい、
その技量も、今は邪魔なだけだったが。
 
「何が言いたい? 仕方が無い、少しまっておれ」
「ぷはっ……この脚をどけやがれ餓鬼、俺はヒルダを追うっ!!」
 
 猿轡をようやく外されて、力でどけるのは無理と悟った俺は、餓鬼に言い放つ、
自分の方が餓鬼だと言う、自覚も無いまま。
 
「ふざけるで無いっ!」
 
 返されたのは、怒りの声。
 
「わらわらに、神より賜りし鉱石で、剣も打たずに殴り掛かる、
そのような愚か者になれと言うのか?」
 
 こんな、喚くだけの俺を見下ろし、けれどもまるで、
自身に言い聞かせてような姿は、泣くのを我慢している少女のようで。
 
「ヒルデガルドはその為に往った、御主と言う最上の守護者、
そう成り得るヒトをわらわに託てっ! ならばその思い、裏切る真似など出来ようか?!」
 
 俺の事は物扱いかよっ!
……先程までの俺ならそう怒鳴っていただろう。
 ただ、俺の口から出たのは、全然違う台詞。
 
「ブラックジャックって、知っているか?」
「それはなんじゃ?」
 
 ヒルダをどうにか助けたくて、そして……目の前で涙も見せずに泣く、
そんな餓鬼が不快で堪らなかった、こいつは、偉そうにしてないと駄目だ、
泣いてたらまるで……何処かのお姫様かと思っちまう。
 
「俺らの世界で、砂や石を布に入れた打撃武器の事だ」
「何を言っておる?」
 
 ここまでは本当、ここからは、5割ハッタリ、三割出鱈目、そして残りが漢の意地だ。
 
「俺等の世界のカードゲームで、最強の役名にも成ってる、由緒正しい伝説の武器だよ」
「わららわの手にあるのは、鉱石等では無く伝説の武器と申すのか?」
 
 ああ、こいつが心(くうき)が読めないのに感謝しないとな、そう思いながら嘘に嘘を固める。
 
「ああ、そうだ、不意の一撃を当てれば、気絶させてお持ち帰りも可能な、お買い得品だぞ?」
「何故ヒトが、ヒルデガルドを助けようとするのじゃ?」
 
 ……見られては居なかったようだな、ふと、そう思いながら、
当り前の事を聞く餓鬼に、胸を張って答えてやる。
 
「好きだからに、決まってるだろうがっ!」
 
 まだ腑に落ちない顔をしてる餓鬼に、さらに言葉を続ける、
ああ、だからこんな処で寝てる場合じゃねぇ!!
 
「俺はヒルダが前世から好きだったっ! そして、ヒルダは俺に一目惚れっ!」
 
 大きく息を吸って、決意と覚悟を決めて叫ぶ。
 
「問題ねえだろうがっ! 文句があるなら魔王だって、ぶん殴ってやるっ!!」
 
「くっ、ヒトがこうまで馬鹿とは思わなんだ……好きだから助けるか……」
 
 呆れたように見下していた餓鬼が、ふと真剣な表情をしたかと思うと、脚をどけた。
 
「先程の言葉……嘘ではないな?」
「当り前だ……俺は往くぞ」
 
 どうにか体勢を整えて、上半身を起した俺は、餓鬼に即答する、
好きな女の為じゃ無きゃ、誰が正体も分からないのと喧嘩するかよっ!!
 
「まて……そのまま往けば死ぬだけじゃ」
 
 そう、俺に告げる餓鬼の台詞を、無視して立ち上がったら……抱きついて来やがった。
 戦闘能力AA、ゴミか……じゃなくて、いきなり何しゃがる?!
 
「守護者に命じる、わらわの敵を退けよ」
 
 いや、知らねえから……そう言おうと餓鬼を見ると、
何かを必死に我慢している様に見えて、言葉に出来なかった。
 
 
「そして……姉さまを……助けてほしい」
 


 
 ちょっとまて、実は百合なのか? とか、それとも年の離れた実の姉妹? 等と、
思考停止した瞬間に、首筋を噛まれた。
 
――もう、姉さましかいないの、お願い。
 
 声が頭の中に響いたと思ったら、情報が流れ込んできた。
 実姉妹、本来は感情の伝達、過剰供給により思考の伝達、
情報の均一化……心理障壁により一部に限定、救いたい願い、
心(くうき)が読める歓喜、王者の孤独、民を守りたい、
男のヒトがこわい、さっきのは嘘だった、でも本当だった。
 
「なんだこいつは?」
――すごく、真っ白、わらわの色に染めたい。
 
 体液の交換による魔力供給、身体能力向上、
耐久力向上及び、再生能力の付与、通りが良い、
意思疎通可能、媚薬、体表面展開型障壁、防風魔法……
 
「おいっ、だから何だと……ちっ、正気じゃねえな」
――でも……心の中にいるのは……姉さま……
 
 一方的に流れてくる何かを止めるべく、餓鬼に呼びかけるものの、
首筋から血を飲みながら、呆然としているのを見て、
当身を……って、俺、縛られてるし、このまま吸い尽くされる?!
 
「何を慌てておる?」
 
 餓鬼をどうにかしないと、ミイラは洒落にならん……漢として不本意だ。
 
「ミイラになどせぬ……魔力の通りが良すぎて、少々酔ってしまっただけじゃ」
 
 ……何故か、餓鬼にまで読まれてるって事でOK?
 
「その通り、意外と理解が早くて助かるのじゃ」
「何で……って、血を吸われたせいか」
 
 うわ……心(くうき)読めるようになったよ、と思ってると、
何時の間に拾ったのか、先程外した猿轡を俺に掛けやがりました。
 くっ、縛られてさえ居なければ、つーか、筋力が上がっても、縄は切れないのか?!
 
「今は無駄に供給しても仕方なかろう、それに口汚く罵られても困るしな」
 
 罵られるような事するのか? むしろ、思考が読めるなら、意味ないんじゃないか?
 
「心遣いは無用じゃ……嫌であろうが、ヒルデガルドを助けたいのなら我慢せい」
 
 そう言うと、どんっ! と、乱暴に俺を押して、耐えられずに転がり……って、
これは、凄く身に覚えがある状況なのですが?!
 
「ふむ、ヒルデガルドも同じであったか……ならば上々」
 
 いや、何がだよ、とか、姉さんと呼ばずに何故名前で? とか、頭に過ぎりつつ、
餓鬼に欲情するほど、俺の息子は腐っては……って、何で、立ち上がってるのですかっ?!
 
「家族の縁は、わらわが王族となりし時に切った……先程、媚薬を少々な」
 
 さっきヒルダが噛まれた時、やたらと色気があると思ったけど……それが原因かよっ!
 大体何でこんな事しやがる?!
 
「分かっているのでは無いか? 共有には体液が必要……と」
 
 そう言って……息子に手を伸ばす餓鬼、体温の低い手がひんやりとして、
反応してしまう息子が恨めしい。
 
「ずいぶん熱いのだな……シャーラ様と言うが良い」
 
 訳分かんねえよっ! 共有は出来たんだろ? こんな事してないで、
俺はヒルダを追いかけるっ!
 
「ばか者、出来ればわらわとて、そうしているわ」
 
 どう言う事だ? そう疑問に思った俺に、相手は国をたった1匹で滅ぼした奴で、
ヒルダでさえ時間稼ぎが精一杯の相手、いくら強力な守護者になれるヒトとは言っても、
戦闘経験も無いような状態では、相手にもならない事を伝えられた。
 
「ならば、わらわとの繋がりを、深めるしかあるまい」
 
 守護者との繋がりが深ければ、それだけ魔力の効率や付与可能な能力が増えると
……息子を擦られながら説明された……反応する自分を殺したい。
 
「ヒルデガルドを助けたくば、我慢せいと言うのに……擦るだけでは、いかんのかの?」
 
 くっ、小首をかしげる姿がそっくりだとか、竿を舐め始める順序まで一緒だとか、
確かに面影はあるよな……いや、AAに興味は無い、餓鬼には興味ない、
ストレート大根なんぞもっての他、だから反応してくれるなよ、息子。
 
「んっ! こう……擦って……噛めば良いのじゃな?」
 
 読まれたーっ!! 姉妹そろって、心の奥底まで見られましたよっ?! 
 
「ふむ、強く噛んだほうが良い……と?」
 
 見た目に反した色気のある表情のあとに、息子が噛まれて、なんとか耐えたものの、
噛み跡を舐める刺激に、もう余り長くは持たないと思う、後10年後ならともかく、
餓鬼にやられるとは……ヒルダごめん。
 
「わらわらは百と12歳じゃと言うのに……ふむ、なるほど」
 
 不意に襲ってきた、ふにゅっとした刺激に、え?! と思う間も無く達していた。
 見ると、息子に自らの慎ましい胸を、餓鬼が悪戯の成功に喜ぶ様な表情で、押し付けて……
 
「わらわを孕ませたく無くば、懸想などせぬようにな?」
 
 白濁に胸を染めて、人形の様に細い指でソレを口に運んでいるところだった。
 
「ふむ、なかなか濃いものじゃな……喉に引っ掛って飲みにくいぞ?」
 
 呆然と餓鬼……シャーラの姿を見て、見た目に似合わない、色気のある表情に、
見とれてしまったのは、気の迷いと思いたい。
 
 


 
 事が終わると、迷う事無く部屋を出て行く、自らの守護者を見送る、
何て、馬鹿……そして、迷うこの無い姿に羨ましさを感じる。
 守護者のための祈りを奉げながら、姉とあのヒトの事を思う。
 
 言う事が出来なかった言葉が胸に燻る、契約(魔力共有化)を始めた時には、
姉がすでに囚われていたなどとは。
 姉から伝えられる思いから、敵の強さを考えて、最善の手を打ったはずなのに、
伝わって来る……辱められながらも変わらない、ヒトに対する思い。
 そして……ヒトの心に触れた時の感動と背徳感。
 
「ばか者……姉さんの感情に、当てられただけなのじゃ」
 
 誰にも届かない呟きが、部屋に消えた。
 


 
 体が軽い、愛車で峠を下る時の様に、景色が流れるように迫ってくる。
 目の前に大木……咄嗟に左に体を傾ける、マントが意図を汲み取って、
体の横を凄い勢いですれ違い……単車でカーブを曲がる感覚で行けそうだっ!
 
「ヒルダ無事で居ろよっ!」
 
 溢れ出す力に、暴れそうになる体を必死に制御しながら、気合と覚悟を込めて叫ぶ。
 体を包むのは学ランに黒のマント、それに魔法障壁と防風の効果をもった魔法……
 


 
 
「まったく、手間を取らせおって……持っていくが良い」
 
 白濁を飲み込んだシェーラは、何事も無かったかの様に縄と猿轡を外すと、
背負い袋を俺に投げつけてきた、先程見とれたのは、やはり気の迷いだった、絶対。
 そう思いながら袋を開けると、俺が着ていた服と、えらく古めかしいマントが出てきた。
 
「巨龍マラリーを封印せし守護者が、使っていたものじゃ」
 
 服を着ながら受けた説明によると、物の動きを、ある程度操作する効果があるらしく、
高速で動いた時の姿勢制御をしてくれるらしい、つまりウイングやテールバインダーか。
 
「貴重な物だが預ける……必ず返しに来るのじゃぞっ!」
 
 そう言うシェーラに片手を上げて返事をすると、俺は外へと駆け出した。
 
 



 
 黒い霧の中を往く……魔力感知により視覚化されたソレは、

蚊達にとって……いや、この世界の人間達にとっては毒らしい。
 
――魔術的に極めて鈍感な、ヒトにとっては無意味な物と、
伝承にはあるが……あまり触れるで無いぞ?
 
 黒飛龍から漂う、悪意あるソレは、魔力として魔素を体内に取り入れる時に、
侵入して来て体を侵すらしい。
 羽で空を飛ぶために、魔素を無意識に取り込んでいる蚊にとっては正に天敵。
 そして、魔力と縁が無く、魔素を感じる事すら出来ないヒトが、
黒飛龍の天敵に成り得る……はずだとシェーラは言った。
 
――すぐそこじゃ、気をしっかりもつのじゃぞ?
「覚悟なんぞ、とっくに終わってるって」
 
 頭に響くシェーラの声が、余計な考えを取り払う。
 周囲の霧の濃さが、黒飛龍が近い事を俺に伝える。
 気合は十分……そう思っていた。
  

 


 

 ヒルダがバケモノに食われていた。

 

 



 理性が飛んだ、誰かが雄叫びを上げてるのを聞きながら突進し、
自身の口から、其れが出てるのに漸く気付く。
 そして、目前に迫った黒飛龍の腹から、生えてるヒルダを見て……
気が付けば奴の尾に弾き飛ばされて、木に叩き付けられていた。
 
――この大馬鹿者っ!
 
「畜生がっ!」
 
 一動作で身を起すと、右手を振り上げて地を蹴る、まず、ぶん殴るっ!!
 
――魔力が乱れておるっ! 意識を集中せねば戦えぬぞっ!!
 
 黒飛龍はこちらを見て咆哮を上げ……周囲に立ち込める黒い霧が集まり、壁となる。
 関係無い、壁をすり抜けて黒飛龍に接近し……ドラゴンの腹から、
目を瞑っているヒルダ……その上半身だけが生えてる姿を見て、俺はまた固まちまった。
 
――ばか者っ! 避けぬかっ!
 
 その声に気がつくと、目前に迫る爬虫類の牙、左肩を食われたと思ったら、
痛みが浅い、犬に噛まれた位だ、そのまま右の拳を爬虫類面に叩き付けようとしたら、
景色が移り、再び木に叩き付けられて……ようやく投げられたと気が付いた。
 
「畜生っ! ヒルダの仇も討てんとは……情けねえ……」
 
――まだ死んで等おらん、冷静にならぬかっ!!
 
 ヒルダへの魔力供給は続いているし、
意識は無いが心は消えて無いと、早口にシェーラは捲くし立てた。
 
――姉さんを心配させるでないわっ!
「つまり、まだ無事ってことか?」
 
 その声に、からっぽになっちまったと、思っていた力が漲る。
 
――そうじゃ、引き剥がせばまだ……
「応っ!」
 
 頬を叩いて気合を込入れると、木にめり込んでいた体を起こし、
遠くに見える黒飛龍……そして胸に半身が埋まったヒルダを見据える。
 
――ええいっ! ちゃんと話を聞かぬかっ!!
「シェーラっ! ヒルダを助けるから手を貸せっ!」
 
 頭の中で怒鳴るシェーラに、こちらも怒鳴り返し、方策を伝える。
 
――分かった……ちゃんと預けたモノを、返しに来るのじゃぞっ!!
「応っ!」
 
 そう答えると、真っ直ぐに黒飛龍……ヒルダを見つめて地を蹴る。
 好きな女を、掻っ攫って帰れないなら漢じゃねぇっ!! 
 
 接近に気がついた黒飛竜が尾を横薙ぎにして……身を低くして避けた、
次に、左右の翼での連撃……右翼を蹴って加速、爪と噛み付きを懐に入って……
 
「ヒルダッーーーッ!!」
 
 脇腹を裂かれ、肩に噛みつかれたが、無視してヒルダを抱き寄せ、
黒飛龍の腹に脚をかけて……全力で引き抜くっ!!
 


 
 種を明かせば実に簡単、捕まえて、俺の魔力障壁をヒルダに移して、黒飛龍から隙間を作り、
後は引っこ抜くだけである、同じ術者が魔力を供給している者同士、出来ない訳が無い。
 
「よーやく、追い着いたな……っ!」
――ばか者、喋るでないっ!
 
 引っこ抜く勢いで黒飛龍から距離を取り、やーらかい体を抱きかかえて、
安堵と共に呟いたら、喉に熱いものがこみ上げてきた。
 
――内臓まで届いているのじゃぞ? じっとしておらぬかっ!!
 
 いや、まずは謝ってから、けじめはきっり着けねえとな。
 鉄臭いそれを飲み込みながら、そう思う。
 
「すまん、遅れた」
 
 ヒルダを近くの木に横たえる、元々白かった肌が青ざめて、意識も無い様だ。
 思わずシェーラに、本当に大丈夫なのか確認する。
 
――少なくとも生命の危機は無い、腹が裂けてるヒトよりはな……動くなと言うにっ!!
 
「じゃ……ちょっと往ってくらぁ」
 
 ヒルダに背を向けて、黒飛龍と向かい合う……ちっ、やっぱりデカイな。 
 だけど、助けるのが遅れちまったんだ……締めくらいやれねえと、ヒルダに顔見世できねぇ!!
 
――ばか者っ!
 
 焼けるように痛む、腹と肩を無視しながら、強がる事も出来ないなら、馬鹿で良いと返す。
 
 ヒルダを引き抜いた穴を再生させた黒飛龍が、こちらを見て来たので睨み返す、
獣相手に、気合で負けたら食われるだけだ……それに奴は二番目に許せねえ。
 
――処置はしたが、あまり長くは持たん、カトリ……任せたのじゃ。
 
 痛みを、一番許せない自分への怒りで、ねじ伏せながら睨み合ってると、
シェーラの声が頭に響いた、肩と腹の傷が動ける位には回復したらしい。
 
「応っ!」
 
 気合を入れると、右手を振りかぶって地を蹴る、
また横薙ぎにしてきた尾、今度は地面スレスレを行く其れを、
踏み台にして近づく……三度も同じ手使ってるんじゃねぇ!
 そして、宙を舞った俺を、噛み付こうと待ち構えていた首に、
マントで左に体をずらすし、跳躍の威力を上乗せした右手を叩き付けたっ!
 
「シェーラっ!」
 
 バランスを崩して倒れる黒飛龍に地を蹴って近づき、咄嗟の思い付きをシェーラに伝える、
途端に、魔力は色を失い、体に風を感じ、全身は軋み……組んだ両腕には確かな力の感覚。
 黒飛龍の目を見据えながら、組んだ両腕を腹に突き入れた……ヒルダが埋まっていた……
再生したばかりで柔らかかった其処は、両腕を容易く飲み込み……内側から爆ぜた。
 
 


 
 
――障壁とは、本来こう使うものでは無いのだぞ?
 
 何とか眠っているヒルダの横まで這いずってきて、力尽きて大の字に倒れながら、
全身の痛みに耐えている俺に、呆れたようなシェーラの声が響く。
 
 うるせえ……あんなデカイの、他にどうやって倒せってんだっ?!
 
 身体強化と、体が砕けない程度の耐久力だけ残して、残りのを魔力を両腕に障壁として集中、
貫いたら体内で展開して、内部から爆破なんて荒っぽい方法は、出来れば俺も遣りたくなかった。
 肘から両腕が変な方向に向いてる事とかは、今は考えたく無い。
 まったく、寝てるヒルダにマントをかける事も、出来ねぇとは……情けねぇ。
 
――そもそも、失敗したらどうするつもりだったのじゃ? 帰ってくると言う約束は?!
「ぶん殴って、きっちりお持ち帰り出来たんだから、良いじゃねーか?」
 
 借り物を返しにじゃ無かったか? と、呑気に思う俺は、ヒトだったし、
シェーラは俺の体を治癒するのに全力を注いでたので、
魔力感知なんて余分な物に、まわす余裕が当然無く……だから誰も気が付かなかった。
 
 
 黒飛龍の死体から、黒い霧が意思を持つかのように、西に飛び立った事を……
 
 


 
 さて……問題である、喧嘩が少し出来る程度の、
背中から金属バットを取り出して、車を破壊したり、
一度死んで探偵をやってた訳でも無い俺が……だ。
 
 あんな、スーパーなロボットぽい戦いをして、
果たして何の問題もないのであろうか?
 
 
 
 無論そんな訳は無かったっ!! 全身が猛烈に痒い、死ぬほど痒い、しかも掻いたらさらに倍化。
 素手で岩をも砕くようなその力で、俺のような無駄な動作の多い素人が動けば、
本来なら全身の骨が砕けて、筋肉が寸断されてる処らしい……全身を魔力で強化した上で、
内部の耐久性や再生能力を上げているので、まだこの程度で済んでるらしい。
 それでも、切れた毛細血管に筋繊維、再生した個所としてない個所の間が、猛烈に痒くなる。
 地獄である、ああ、死にたい、でも、死ねない……かゆ……しぬ……
 


 
 あまりの痒さに意識を失っていた俺は、額に当たるひんやりした感触に目をさました。
 
「起してしまったでする?」
 
 いや、そんなことないぞ?
 
 俺の額を、布で拭いてくれいてたらしいヒルダに、そう言おうとしたら、
猿轡されて縛られてた、何故?!
 
「カトリ様は、一週間ほど寝込んでいたので、ありまする」
 
 どうやら、痒みのために気絶して、さらに……自傷に走ったり、舌を噛みそうだったらしい。
 仕方が無いので、縛って猿轡をしていたと言われた。
 うわ、本気で痒みのために、死にかかってたとは……まあ、例えるなら1LVの一般人を、
ボスとガチで殴り合える位に、巨大な下駄を履かせたんだから当り前か。
 
 なんとは無しに考えていたら、ふにょんと抱き付かれた。
 ああっ! ヒルダ、まだ心の準備が整わないと言うか、やはりとても素晴らしくて俺の理性がっ!
 
「なんで……助けになんか、来たんでする?」
 
 燃え尽きそうにヒートしていた心は、泣きそうな顔で、
俺を見てくるヒルダの声を聞いて、別の意味で熱くなる。
 好きな女が死にそうなのに、助けに往けねぇなんて、漢じゃねぇ。
 
「ごめん……なさいでする」
 
 ……処で、縛られて猿轡までは理解出来たのだが、何故また俺は全裸なのでしょぅか?
 いえ、その、直接あたっているので、このやり取りの間にも、
息子が非常に大変な事になってるのですが?!
 
「繕っているので、ありまする」
 
 いくら頑丈に作ってある学ランとは言え、あんな戦いでは無茶だったらしく、
特に脇腹、肩、両袖がボロボロだったらしい、うん、良く生きていたな俺。
 体が回復する頃には繕い終わるからと聞いて安心する、先代から譲られた物だから、
俺の代で無くす訳にも……そんな事を考えて、体に違和感が無いのに疑問を感じる。
 一週間寝てた割には、腹が減ってる訳でも無いし、腹の調子が悪くもなってない。
 
「ちゃんと、お世話出来てましたでする?」
 
 ……どうやら、意識の無い間、俺はヒルダのお世話になっていたらしく、
つまり……食事や生理現象も、介護されていたのであるっ!!
 うん、もうお嫁にいけないので、ヒルダにもらってもらおう、それがいい。
 
「今だけでも……そう思ってもらえて、嬉しいのでありまする」
 
 どう言うことだ? そう、思う間も無く、身を起したヒルダが、
服を脱いだと思ったら、息子を胸で挟んできた。
 
 冷静に状況を判断しよう、此処は何処かの病室のような場所、
縛られて猿轡をされた俺が、先程までヒルダに添い寝をされていた、
気を失ってる間に何があったか聞いていたら、
ヒルダが服を脱いで、息子が胸に挟まれた。
 つまり、再会したら続きと言う事ですかっ?!
 
「約束でありまする……嫌ってくれても良いので、ありまする」
 
 そう言いながらヒルダは挟んで、下から上に舐あげて……先程までの添い寝で、
限界が近かったので、かなりピンチです。
 
「揺すって、先を吸えば良いので、ありまするか?」
 
 やーらかい刺激を必死に我慢していると、不意にそう言われて息子の先が吸われ、
我慢が出来なかった俺は、呆然と白濁を飲み込むヒルダを見ていた。
 
「いっぱい出たで、ありまする?」
 
 そう言って微笑むヒルダが色っぽいなと思いながら、
これで、子供が出来単だよなーと思っていると。
 
「出来ないので……ありまする」
 
 え? と思う俺に、奴らに侵された事を告げると、立ち上がって……
 
「此処を黒飛龍に侵されたので、ありまする」
 
 そう言って、濡れた秘所を俺に見せて、眷属にされかかっていた事、
治癒はしたけれど副作用で、次の繁殖期まで、子供を生んであげれないと、告げられた。
 
「こんな女なんて、もう嫌でする?」
 
 ああ、大嫌いだ。 
 
「っ」
 
 ヒルダに、こんな思いをさせちった、自分が許せそうも無い。
 
「どう言う事で、ありまするか?」
 
 馬鹿な勘違いをしているヒルダに、好きだっ! と、思う、
俺があんなバケモノ相手に、尻尾を巻いて逃げなかったのは何でだと思う?
腹を裂かれて腕が折れて、痛みで気が狂いそうになっても戦えたのは、
お前と一緒に居たいからだっ!!
 
 会って一日もしないうちにベタ惚れとは、本当に前世で、
好きだったんじゃ無いか? と、思いながらそう答える。
 
「本当に良いので、ありまするか?」
 
 頷くと、ヒルダが抱きついて来て……ああ、胸っ! ふにゃっとして、やーらかくて。
 大真面目に告白していたのに、流される自分に自己嫌悪とする。
 元気になる息子に、お前自重しろと思いながら、動悸を抑えていると。
 
「その……当たって、いるでする?」
 
 気が付かれたーーっ! いえ、思考が漏れてるのは分かっているけど、
うん、殺して、出来れば、愛で。
 
「分かったで、ありまする」
 
 え?! と、思うと、目の前には俺の息子に手を添えて、
ヒルダが自分の秘所に導こうとしていた。
 俺の上に馬乗りになってる姿は、部屋のランプの光に照らた白い肌は、
そこに羽や触覚が生えていたり、此処が地球じゃなかったり、
俺が縛られてるのも、どうでも良くなるほど色っぽくて……綺麗だった。
 
「んっ! 本当に愛で殺して、良いんでする?」
 
 お前以外には殺されたく無いなぁと思うと、ヒルダが頷いて息子が熱いもので包まれた。
 
「気持ち良い……でする?」
 
 ええ、そても凄く、二回目だと言うのに、我慢できるか自信がありません、
胸がたゅんてなるのも、もう我慢出来ないというか、縄を解いてくださいっ!
 
「ひゃっ! ダメでするっ! 突いたり揉んだりするヒトは、縛って無いとダメでするっ!」
 
 そう言いながら、体を支え切れなくなったのか、胸を押し付けるように体を預けてきて、
不覚にも、さらに元気になってしまう。
 
「カトリ様は……こんなのが好きなのでする?」
 
 読まれてるのを恥じ入る余裕も無く、息を荒げる俺に、ヒルダは首筋に舌を這わせると、
抱きついてきて、ぎゅっとなって、やーらかくて最高……です。
 
「キス……しちゃったでする……」
 
 首筋に走る痛みと、痺れ……そして、舌の感触に思わず達してしまう。
 
「胎内に……とくって……あったかい……気持ち……でする」
 
 逝ってしまったのか、呆とした様子のヒルダが体を俺に預ける。


 ……潰れた胸の感触で、息子がすぐに元気になる。

 申し訳無さそうにヒルダを見ると。
 
「もっと……するでする?」
 
 NOと言うつもりは無い、というか、何度でもしたいですっ!
 そう思っているとヒルダは、クスリと笑って首筋に舌を這わせながら囁く。 


「その……繁殖期が来ても、してもらって良いでする?」
 
 俺は、無言で頷く事で返事をした。
 そして、心の底から守りたいと思った、もし俺が最強になれると言うなら、
ヒルダを、二度と傷つけさせないだけの力を手に入れると、そう誓った。
 


 

 守りたい者と力と倒すべき敵。
 元の世界では考えられない今の状況。
 それさえも、ただの始まりに過ぎなかった。
 けれど、思いだけは変わらない、たた、共に居たい。

 


 

 ちなみに、後の守護者カトリの主であるはずのシェーラ様は、
見舞いにきて扉に手をかけたまま、やるせない気持ちで止まっていまする。
 
つづける? (

 


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