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飼育小屋のヌシ(仮)

 
 
 裏庭にひっそりと立つ飼育小屋。
 小動物を飼育し、生徒の情操育成を目的とする施設である。
 土台をコンクリートで固めた金網で囲われた小屋は、基礎から小部屋に仕切られ、それぞれ違う生き物達が暮らしていた。
 その、最も大きな区切り。というより、そこのせいで妙に小屋全体が大きくなっている元凶。
 オスの白色レグホンが隔離されたその部屋に、妙に大きな物体がうずくまっていた。
 どう見てもニワトリ。
 だが、何故か人型で、しかもぴちぴちのハーフパンツをはいている。
 これぞ、知る人ぞ知る裏庭の番長、その人である。
 裏庭の番長、人呼んでお庭番。
 その意味を知る者は数少ない。
 
 そのお庭番は今日もニワトリ小屋でいじけていた。
 体育座りでぼんやりと遠くを眺める。
 本日の理由は「朝間違えて中等部の制服(ハーフパンツ)を履いてきてしまった」ことである。
 身動きすると今にも尻の縫い目がビリッと破けそうで、動くに動けないでいた。
 
 そこにやってきた白髪の女生徒。
 眉毛は立派に黒なのに、時折黒髪や金髪や銀髪が交じる白髪頭のため、脱色疑惑をかけられることなく、過ごしている平凡な生徒である。
 セーラー服に身を包んだ彼女は、手に購買のおにぎりと、水の入ったペットボトルを持って、裏庭に回ろうとしていた。
『ごめんね~、お昼代渡すの忘れちゃったから、届けてきてくれないかな♪』
 部活の先輩の留学生から、サンドイッチの食事を済ませた後に頼まれたのだ。
 何故彼女がお昼代を出しているのか、事情は良く知らなかったが、日頃お世話になっている先輩に、女生徒は逆らえなかった。
 小銭を受け取って、ほぼ完売状態の購買に戻り、最後のおにぎりを確保したのもつかのま。
 もうすぐお昼休みも終わろうとしている。
『あ、水はこのペットボトルに冷水機から汲めばいいから♪』
 ……先輩は、合理的なのか、けちなのか、どうも判断つかないところがある。
 まあ、そんなわけで急いでいたのだけど。
 
 校舎の反対側から来たのは、上級生の札付きの不良たち。
 いつもは体育館裏を占拠している連中だ。
 女生徒ははっとして物陰に隠れる。
 不良たちは飼育小屋に近寄ると、乱暴に金網を揺らしながら、揶揄し始めた。
 ニワトリ男はぼーっと遠くを見ていて、不良たちの言葉にも反応しない。
 そのうちに不良たちの声が大きくなりはじめた。
 扉の横に片付けてあったホウキの柄で金網のすき間から小突きだす。
「図体だけでかいのかよ」
 まわりのニワトリたちがばたばたと騒ぎだす中、ニワトリ男だけは無反応だった。
 やがてあまりにも反応しないニワトリ男に業を煮やしたのか、不良たちは挑発し始めた。
「けっ、こんな屑鳥を飼ってるあの留学生の女もけ」
 瞬間。
 ものすごい大きな音がして、女生徒はびくっと後ずさった。
 見ると、ニワトリ小屋の金網が外れて、ニワトリたちが跳び回っていた。
 だが、ニワトリ男の姿は小屋の中にはなく。
 かなり頑丈そうに見えた金網は不良たちに覆いかぶさって地べたにあった。
 その金網の上で不良の一人、先程暴言を吐いた生徒の顔面をぐりぐり踏みつけているのは、飼育小屋の高さと同じ身長のニワトリ男である。
 失神した仲間を金網の中からほうほうの体で抜け出した不良が、必死に助け出そうとする。
 それを一蹴りで向こうの木まで吹っ飛ばしたニワトリ男は、金網から退くと、はあ、と溜め息をついた。
 物憂げに青空を眺めるニワトリ男。
 その隙に逃げる不良たち。
 始鈴が鳴る。
 呆然とする女生徒に気付かず、ニワトリ男は金網を拾い上げて、ぼこぼこの表面を叩いて整形した。1歩下がって小屋に戻り、浮き足立つニワトリたちを無言で一睨みして黙らせる。
 金網が何事もなかったように元の位置にはめ込まれた。
 飼育小屋の前に残されたのは、短いホウキ。
 先輩の約束を思いだした女生徒は慌てて駆け寄ると、また体育座りをしているニワトリ男の数メートル先まで近寄る。
「あ、あの、これ先輩から…っ」
 怖くて近づけない。
 そっとホウキを拾って、餌入れ用のアルミマイトのお盆に載せたおにぎりとペットボトルを、金網の方へとぎりぎりまで体を伸ばしてホウキの先で押す。
 それをニワトリ男はじーっと無言で見ていた。
「さ、さよならっ!」
 午後の授業に遅刻すると女生徒は脱兎のごとく逃げ出す。
 後には平穏を取り戻した飼育小屋。
 
 ニワトリ男は、金網の間から手を伸ばしておにぎりを手に取る。
 梅干し。昆布。ツナマヨ。
 ご丁寧に、ツナマヨだけには手を付けず、黙々と食する。
 
 放課後、ツナマヨおにぎりを持って女生徒の部活に現れ、ズボンの後ろが破けているのがみだらだと顧問の先生に津波の刑をくらうのはまた別の話。