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靴下に砂を詰めて、後は振り下ろすだけです。 ――対ソックスハンター対応マニュアルより
其れは猛毒であり、呪いであり、罪悪であった。 其れは不浄であり、疫病であり、孤独であった。 蚊を貶める其れは、王家の手で、西方湖に封じられた。 蚊の罪たる其れは、ヒトの手で、夢無き眠りについた。 ――神託巫女の口伝より 巨龍マラリーの伝承
拝啓皆様、俺は引き続き、異世界で全裸に縛られてます。 「シャーラ様、黒飛龍めが、警報に掛かっておりまする」「見通しが甘かったようじゃな……守護者を鍛える時は、与えぬと言う事か」 幸福な中で愛を叫んでいたら、餓鬼が何か起きていたぽくて、ピンチです。 しかも、ヒルダも先程までの、ふわふわで甘い雰囲気から、片膝をついて餓鬼の横に控えていて、最初に見た時の巫女というか従者っぽい雰囲気に、切り替わっております。 「では、シャーラ様は奥の祭壇裏より、お逃げください……お願いいたしまする」「大儀である……済まぬな姉上」 餓鬼はそう言って、一瞬辛そうな目でヒルダを見た後に……首筋に舌を這わせた?! くっ、俺もまだしたことが無いのにっ! いえ、胸の方はたっぷり堪能させて、いただきましたが。 「んっ! んっ…… んっーーーっ!!」 って、いきなり噛み付いた?! 蚊って、言うより、吸血鬼なんですが?! そして、俺のヒルダに何するですか?! えと、必死に声をおさえるヒルダの姿も、色っぽいと言いますか、上気した肌が艶かしいと言いますか、白い肌って最高?! うん、俺って死ねば良いのに。 Hな雰囲気におのれーって嫉妬と、死にたい自己嫌悪に、混乱していた俺は、馬鹿だったから、この後何が起きるか……全然理解出来ていなかった。 そして、何事も無かったかの様に二人は離れて、理解出来ていない俺を置いて、話はどんどん進んでいくようだった。 「シャーラ様どうかご無事で、カトリ様……」 そう、ヒルダはまだ、名乗ってもいない俺の名を呼んで……抱きついた?! 「シャーラ様をよろしくお願いしまする……また、お会い出来たら先程の続きを致しまする」 その、この位置だと胸が、大変素晴らしい事に、と思ってると不意に囁かれた。 続きって、あれ以上ですか?! ……両思いなら良いよな、うん。 「カトリ様のように……来世であっても、覚えて居られるように願いまする」 だから、次に聞こえた言葉に、沸騰していた考えが凍りついた……どう言う事だ? 「あなた様が最後の希望、蚊の民の事よろしくお願いいたします」「分かっておる、必ず守護者を鍛え上げ、ヒルデガルド……御主の働きに報いよう」 ああ、それはあまりにもベタな展開ではないのか? ふと、最近名作だったネット小説に感動して、やり直した4作目のゲームの最悪な冒頭を思い出す。 黒飛龍に追われていて、この二度と会う事も無いと、そう言ってる二人の会話、俺の心が聞こえているはずなのに、こちらを見ないようにしているヒルダ…… OK……馬鹿な俺でも分かった。 好きな相手に、命を賭けて守られた後に、大魔王を倒して仇を取れても、勇者にとって、何の意味も無いんだぞおい?!手に手を取って逃げるって選択肢は無いのかよっ?! 「なるべく時間を稼ぎまする」 まるで、それに答えるように……いや、俺の事を見て無くても、誰に言ったのか位は分かる、別れを告げて後を向く姿に、まちやがれっ! そう、思うことしかできなかった。
「往くぞ」 そう短く宣言して、部屋の隅にあった二つの背負い袋と俺を、肩に担ぐ餓鬼……おいおいおいっ! 何て馬鹿力だよ、ヒルダを死なせるのか?! 何処にいくんだよ?! 支離滅裂な思いを餓鬼に向けながら暴れると、床に落とされた。 「何故暴れる? わらわは往かねばならんのだ、分かるであろう?く、わらわでは心(くうき)が読めぬか……」 立ち上がって、ヒルダの後を追おうとした俺は、餓鬼に片足で踏まれただけで、動けなくなった。 ちょっと待て、馬鹿力なのは分かったが、見た目に反して重いのか?!ヒルダはやーらかくて軽かったのに、餓鬼は100キロあるとか言う落ちか?! 後で、しごかれた時に教えられたのだが、つまり、力とバランスらしい、その技量も、今は邪魔なだけだったが。 「何が言いたい? 仕方が無い、少しまっておれ」「ぷはっ……この脚をどけやがれ餓鬼、俺はヒルダを追うっ!!」 猿轡をようやく外されて、力でどけるのは無理と悟った俺は、餓鬼に言い放つ、自分の方が餓鬼だと言う、自覚も無いまま。 「ふざけるで無いっ!」 返されたのは、怒りの声。 「わらわらに、神より賜りし鉱石で、剣も打たずに殴り掛かる、そのような愚か者になれと言うのか?」 こんな、喚くだけの俺を見下ろし、けれどもまるで、自身に言い聞かせてような姿は、泣くのを我慢している少女のようで。 「ヒルデガルドはその為に往った、御主と言う最上の守護者、そう成り得るヒトをわらわに託てっ! ならばその思い、裏切る真似など出来ようか?!」 俺の事は物扱いかよっ!……先程までの俺ならそう怒鳴っていただろう。 ただ、俺の口から出たのは、全然違う台詞。 「ブラックジャックって、知っているか?」「それはなんじゃ?」 ヒルダをどうにか助けたくて、そして……目の前で涙も見せずに泣く、そんな餓鬼が不快で堪らなかった、こいつは、偉そうにしてないと駄目だ、泣いてたらまるで……何処かのお姫様かと思っちまう。 「俺らの世界で、砂や石を布に入れた打撃武器の事だ」「何を言っておる?」 ここまでは本当、ここからは、5割ハッタリ、三割出鱈目、そして残りが漢の意地だ。 「俺等の世界のカードゲームで、最強の役名にも成ってる、由緒正しい伝説の武器だよ」「わららわの手にあるのは、鉱石等では無く伝説の武器と申すのか?」 ああ、こいつが心(くうき)が読めないのに感謝しないとな、そう思いながら嘘に嘘を固める。 「ああ、そうだ、不意の一撃を当てれば、気絶させてお持ち帰りも可能な、お買い得品だぞ?」「何故ヒトが、ヒルデガルドを助けようとするのじゃ?」 ……見られては居なかったようだな、ふと、そう思いながら、当り前の事を聞く餓鬼に、胸を張って答えてやる。 「好きだからに、決まってるだろうがっ!」 まだ腑に落ちない顔をしてる餓鬼に、さらに言葉を続ける、ああ、だからこんな処で寝てる場合じゃねぇ!! 「俺はヒルダが前世から好きだったっ! そして、ヒルダは俺に一目惚れっ!」 大きく息を吸って、決意と覚悟を決めて叫ぶ。 「問題ねえだろうがっ! 文句があるなら魔王だって、ぶん殴ってやるっ!!」 「くっ、ヒトがこうまで馬鹿とは思わなんだ……好きだから助けるか……」 呆れたように見下していた餓鬼が、ふと真剣な表情をしたかと思うと、脚をどけた。 「先程の言葉……嘘ではないな?」「当り前だ……俺は往くぞ」 どうにか体勢を整えて、上半身を起した俺は、餓鬼に即答する、好きな女の為じゃ無きゃ、誰が正体も分からないのと喧嘩するかよっ!! 「まて……そのまま往けば死ぬだけじゃ」 そう、俺に告げる餓鬼の台詞を、無視して立ち上がったら……抱きついて来やがった。 戦闘能力AA、ゴミか……じゃなくて、いきなり何しゃがる?! 「守護者に命じる、わらわの敵を退けよ」 いや、知らねえから……そう言おうと餓鬼を見ると、何かを必死に我慢している様に見えて、言葉に出来なかった。 「そして……姉さまを……助けてほしい」
ちょっとまて、実は百合なのか? とか、それとも年の離れた実の姉妹? 等と、思考停止した瞬間に、首筋を噛まれた。 ――もう、姉さましかいないの、お願い。 声が頭の中に響いたと思ったら、情報が流れ込んできた。 実姉妹、本来は感情の伝達、過剰供給により思考の伝達、情報の均一化……心理障壁により一部に限定、救いたい願い、心(くうき)が読める歓喜、王者の孤独、民を守りたい、男のヒトがこわい、さっきのは嘘だった、でも本当だった。 「なんだこいつは?」――すごく、真っ白、わらわの色に染めたい。 体液の交換による魔力供給、身体能力向上、耐久力向上及び、再生能力の付与、通りが良い、意思疎通可能、媚薬、体表面展開型障壁、防風魔法…… 「おいっ、だから何だと……ちっ、正気じゃねえな」――でも……心の中にいるのは……姉さま…… 一方的に流れてくる何かを止めるべく、餓鬼に呼びかけるものの、首筋から血を飲みながら、呆然としているのを見て、当身を……って、俺、縛られてるし、このまま吸い尽くされる?! 「何を慌てておる?」 餓鬼をどうにかしないと、ミイラは洒落にならん……漢として不本意だ。 「ミイラになどせぬ……魔力の通りが良すぎて、少々酔ってしまっただけじゃ」 ……何故か、餓鬼にまで読まれてるって事でOK? 「その通り、意外と理解が早くて助かるのじゃ」「何で……って、血を吸われたせいか」 うわ……心(くうき)読めるようになったよ、と思ってると、何時の間に拾ったのか、先程外した猿轡を俺に掛けやがりました。 くっ、縛られてさえ居なければ、つーか、筋力が上がっても、縄は切れないのか?! 「今は無駄に供給しても仕方なかろう、それに口汚く罵られても困るしな」 罵られるような事するのか? むしろ、思考が読めるなら、意味ないんじゃないか? 「心遣いは無用じゃ……嫌であろうが、ヒルデガルドを助けたいのなら我慢せい」 そう言うと、どんっ! と、乱暴に俺を押して、耐えられずに転がり……って、これは、凄く身に覚えがある状況なのですが?! 「ふむ、ヒルデガルドも同じであったか……ならば上々」 いや、何がだよ、とか、姉さんと呼ばずに何故名前で? とか、頭に過ぎりつつ、餓鬼に欲情するほど、俺の息子は腐っては……って、何で、立ち上がってるのですかっ?! 「家族の縁は、わらわが王族となりし時に切った……先程、媚薬を少々な」 さっきヒルダが噛まれた時、やたらと色気があると思ったけど……それが原因かよっ! 大体何でこんな事しやがる?! 「分かっているのでは無いか? 共有には体液が必要……と」 そう言って……息子に手を伸ばす餓鬼、体温の低い手がひんやりとして、反応してしまう息子が恨めしい。 「ずいぶん熱いのだな……シャーラ様と言うが良い」 訳分かんねえよっ! 共有は出来たんだろ? こんな事してないで、俺はヒルダを追いかけるっ! 「ばか者、出来ればわらわとて、そうしているわ」 どう言う事だ? そう疑問に思った俺に、相手は国をたった1匹で滅ぼした奴で、ヒルダでさえ時間稼ぎが精一杯の相手、いくら強力な守護者になれるヒトとは言っても、戦闘経験も無いような状態では、相手にもならない事を伝えられた。 「ならば、わらわとの繋がりを、深めるしかあるまい」 守護者との繋がりが深ければ、それだけ魔力の効率や付与可能な能力が増えると……息子を擦られながら説明された……反応する自分を殺したい。 「ヒルデガルドを助けたくば、我慢せいと言うのに……擦るだけでは、いかんのかの?」 くっ、小首をかしげる姿がそっくりだとか、竿を舐め始める順序まで一緒だとか、確かに面影はあるよな……いや、AAに興味は無い、餓鬼には興味ない、ストレート大根なんぞもっての他、だから反応してくれるなよ、息子。 「んっ! こう……擦って……噛めば良いのじゃな?」 読まれたーっ!! 姉妹そろって、心の奥底まで見られましたよっ?! 「ふむ、強く噛んだほうが良い……と?」 見た目に反した色気のある表情のあとに、息子が噛まれて、なんとか耐えたものの、噛み跡を舐める刺激に、もう余り長くは持たないと思う、後10年後ならともかく、餓鬼にやられるとは……ヒルダごめん。 「わらわらは百と12歳じゃと言うのに……ふむ、なるほど」 不意に襲ってきた、ふにゅっとした刺激に、え?! と思う間も無く達していた。 見ると、息子に自らの慎ましい胸を、餓鬼が悪戯の成功に喜ぶ様な表情で、押し付けて…… 「わらわを孕ませたく無くば、懸想などせぬようにな?」 白濁に胸を染めて、人形の様に細い指でソレを口に運んでいるところだった。 「ふむ、なかなか濃いものじゃな……喉に引っ掛って飲みにくいぞ?」 呆然と餓鬼……シャーラの姿を見て、見た目に似合わない、色気のある表情に、見とれてしまったのは、気の迷いと思いたい。
事が終わると、迷う事無く部屋を出て行く、自らの守護者を見送る、何て、馬鹿……そして、迷うこの無い姿に羨ましさを感じる。 守護者のための祈りを奉げながら、姉とあのヒトの事を思う。 言う事が出来なかった言葉が胸に燻る、契約(魔力共有化)を始めた時には、姉がすでに囚われていたなどとは。 姉から伝えられる思いから、敵の強さを考えて、最善の手を打ったはずなのに、伝わって来る……辱められながらも変わらない、ヒトに対する思い。 そして……ヒトの心に触れた時の感動と背徳感。 「ばか者……姉さんの感情に、当てられただけなのじゃ」 誰にも届かない呟きが、部屋に消えた。
体が軽い、愛車で峠を下る時の様に、景色が流れるように迫ってくる。 目の前に大木……咄嗟に左に体を傾ける、マントが意図を汲み取って、体の横を凄い勢いですれ違い……単車でカーブを曲がる感覚で行けそうだっ! 「ヒルダ無事で居ろよっ!」 溢れ出す力に、暴れそうになる体を必死に制御しながら、気合と覚悟を込めて叫ぶ。 体を包むのは学ランに黒のマント、それに魔法障壁と防風の効果をもった魔法……
「まったく、手間を取らせおって……持っていくが良い」 白濁を飲み込んだシェーラは、何事も無かったかの様に縄と猿轡を外すと、背負い袋を俺に投げつけてきた、先程見とれたのは、やはり気の迷いだった、絶対。 そう思いながら袋を開けると、俺が着ていた服と、えらく古めかしいマントが出てきた。 「巨龍マラリーを封印せし守護者が、使っていたものじゃ」 服を着ながら受けた説明によると、物の動きを、ある程度操作する効果があるらしく、高速で動いた時の姿勢制御をしてくれるらしい、つまりウイングやテールバインダーか。 「貴重な物だが預ける……必ず返しに来るのじゃぞっ!」 そう言うシェーラに片手を上げて返事をすると、俺は外へと駆け出した。
黒い霧の中を往く……魔力感知により視覚化されたソレは、
蚊達にとって……いや、この世界の人間達にとっては毒らしい。 ――魔術的に極めて鈍感な、ヒトにとっては無意味な物と、伝承にはあるが……あまり触れるで無いぞ? 黒飛龍から漂う、悪意あるソレは、魔力として魔素を体内に取り入れる時に、侵入して来て体を侵すらしい。 羽で空を飛ぶために、魔素を無意識に取り込んでいる蚊にとっては正に天敵。 そして、魔力と縁が無く、魔素を感じる事すら出来ないヒトが、黒飛龍の天敵に成り得る……はずだとシェーラは言った。 ――すぐそこじゃ、気をしっかりもつのじゃぞ?「覚悟なんぞ、とっくに終わってるって」 頭に響くシェーラの声が、余計な考えを取り払う。 周囲の霧の濃さが、黒飛龍が近い事を俺に伝える。 気合は十分……そう思っていた。
ヒルダがバケモノに食われていた。
理性が飛んだ、誰かが雄叫びを上げてるのを聞きながら突進し、自身の口から、其れが出てるのに漸く気付く。 そして、目前に迫った黒飛龍の腹から、生えてるヒルダを見て……気が付けば奴の尾に弾き飛ばされて、木に叩き付けられていた。 ――この大馬鹿者っ! 「畜生がっ!」 一動作で身を起すと、右手を振り上げて地を蹴る、まず、ぶん殴るっ!! ――魔力が乱れておるっ! 意識を集中せねば戦えぬぞっ!! 黒飛龍はこちらを見て咆哮を上げ……周囲に立ち込める黒い霧が集まり、壁となる。 関係無い、壁をすり抜けて黒飛龍に接近し……ドラゴンの腹から、目を瞑っているヒルダ……その上半身だけが生えてる姿を見て、俺はまた固まちまった。 ――ばか者っ! 避けぬかっ! その声に気がつくと、目前に迫る爬虫類の牙、左肩を食われたと思ったら、痛みが浅い、犬に噛まれた位だ、そのまま右の拳を爬虫類面に叩き付けようとしたら、景色が移り、再び木に叩き付けられて……ようやく投げられたと気が付いた。 「畜生っ! ヒルダの仇も討てんとは……情けねえ……」 ――まだ死んで等おらん、冷静にならぬかっ!! ヒルダへの魔力供給は続いているし、意識は無いが心は消えて無いと、早口にシェーラは捲くし立てた。 ――姉さんを心配させるでないわっ!「つまり、まだ無事ってことか?」 その声に、からっぽになっちまったと、思っていた力が漲る。 ――そうじゃ、引き剥がせばまだ……「応っ!」 頬を叩いて気合を込入れると、木にめり込んでいた体を起こし、遠くに見える黒飛龍……そして胸に半身が埋まったヒルダを見据える。 ――ええいっ! ちゃんと話を聞かぬかっ!!「シェーラっ! ヒルダを助けるから手を貸せっ!」 頭の中で怒鳴るシェーラに、こちらも怒鳴り返し、方策を伝える。 ――分かった……ちゃんと預けたモノを、返しに来るのじゃぞっ!!「応っ!」 そう答えると、真っ直ぐに黒飛龍……ヒルダを見つめて地を蹴る。 好きな女を、掻っ攫って帰れないなら漢じゃねぇっ!! 接近に気がついた黒飛竜が尾を横薙ぎにして……身を低くして避けた、次に、左右の翼での連撃……右翼を蹴って加速、爪と噛み付きを懐に入って…… 「ヒルダッーーーッ!!」 脇腹を裂かれ、肩に噛みつかれたが、無視してヒルダを抱き寄せ、黒飛龍の腹に脚をかけて……全力で引き抜くっ!!
種を明かせば実に簡単、捕まえて、俺の魔力障壁をヒルダに移して、黒飛龍から隙間を作り、後は引っこ抜くだけである、同じ術者が魔力を供給している者同士、出来ない訳が無い。 「よーやく、追い着いたな……っ!」――ばか者、喋るでないっ! 引っこ抜く勢いで黒飛龍から距離を取り、やーらかい体を抱きかかえて、安堵と共に呟いたら、喉に熱いものがこみ上げてきた。 ――内臓まで届いているのじゃぞ? じっとしておらぬかっ!! いや、まずは謝ってから、けじめはきっり着けねえとな。 鉄臭いそれを飲み込みながら、そう思う。 「すまん、遅れた」 ヒルダを近くの木に横たえる、元々白かった肌が青ざめて、意識も無い様だ。 思わずシェーラに、本当に大丈夫なのか確認する。 ――少なくとも生命の危機は無い、腹が裂けてるヒトよりはな……動くなと言うにっ!! 「じゃ……ちょっと往ってくらぁ」 ヒルダに背を向けて、黒飛龍と向かい合う……ちっ、やっぱりデカイな。 だけど、助けるのが遅れちまったんだ……締めくらいやれねえと、ヒルダに顔見世できねぇ!! ――ばか者っ! 焼けるように痛む、腹と肩を無視しながら、強がる事も出来ないなら、馬鹿で良いと返す。 ヒルダを引き抜いた穴を再生させた黒飛龍が、こちらを見て来たので睨み返す、獣相手に、気合で負けたら食われるだけだ……それに奴は二番目に許せねえ。 ――処置はしたが、あまり長くは持たん、カトリ……任せたのじゃ。 痛みを、一番許せない自分への怒りで、ねじ伏せながら睨み合ってると、シェーラの声が頭に響いた、肩と腹の傷が動ける位には回復したらしい。 「応っ!」 気合を入れると、右手を振りかぶって地を蹴る、また横薙ぎにしてきた尾、今度は地面スレスレを行く其れを、踏み台にして近づく……三度も同じ手使ってるんじゃねぇ! そして、宙を舞った俺を、噛み付こうと待ち構えていた首に、マントで左に体をずらすし、跳躍の威力を上乗せした右手を叩き付けたっ! 「シェーラっ!」 バランスを崩して倒れる黒飛龍に地を蹴って近づき、咄嗟の思い付きをシェーラに伝える、途端に、魔力は色を失い、体に風を感じ、全身は軋み……組んだ両腕には確かな力の感覚。 黒飛龍の目を見据えながら、組んだ両腕を腹に突き入れた……ヒルダが埋まっていた……再生したばかりで柔らかかった其処は、両腕を容易く飲み込み……内側から爆ぜた。
――障壁とは、本来こう使うものでは無いのだぞ? 何とか眠っているヒルダの横まで這いずってきて、力尽きて大の字に倒れながら、全身の痛みに耐えている俺に、呆れたようなシェーラの声が響く。 うるせえ……あんなデカイの、他にどうやって倒せってんだっ?! 身体強化と、体が砕けない程度の耐久力だけ残して、残りのを魔力を両腕に障壁として集中、貫いたら体内で展開して、内部から爆破なんて荒っぽい方法は、出来れば俺も遣りたくなかった。 肘から両腕が変な方向に向いてる事とかは、今は考えたく無い。 まったく、寝てるヒルダにマントをかける事も、出来ねぇとは……情けねぇ。 ――そもそも、失敗したらどうするつもりだったのじゃ? 帰ってくると言う約束は?!「ぶん殴って、きっちりお持ち帰り出来たんだから、良いじゃねーか?」 借り物を返しにじゃ無かったか? と、呑気に思う俺は、ヒトだったし、シェーラは俺の体を治癒するのに全力を注いでたので、魔力感知なんて余分な物に、まわす余裕が当然無く……だから誰も気が付かなかった。 黒飛龍の死体から、黒い霧が意思を持つかのように、西に飛び立った事を……
さて……問題である、喧嘩が少し出来る程度の、背中から金属バットを取り出して、車を破壊したり、一度死んで探偵をやってた訳でも無い俺が……だ。 あんな、スーパーなロボットぽい戦いをして、果たして何の問題もないのであろうか? 無論そんな訳は無かったっ!! 全身が猛烈に痒い、死ぬほど痒い、しかも掻いたらさらに倍化。 素手で岩をも砕くようなその力で、俺のような無駄な動作の多い素人が動けば、本来なら全身の骨が砕けて、筋肉が寸断されてる処らしい……全身を魔力で強化した上で、内部の耐久性や再生能力を上げているので、まだこの程度で済んでるらしい。 それでも、切れた毛細血管に筋繊維、再生した個所としてない個所の間が、猛烈に痒くなる。 地獄である、ああ、死にたい、でも、死ねない……かゆ……しぬ……
あまりの痒さに意識を失っていた俺は、額に当たるひんやりした感触に目をさました。 「起してしまったでする?」 いや、そんなことないぞ? 俺の額を、布で拭いてくれいてたらしいヒルダに、そう言おうとしたら、猿轡されて縛られてた、何故?! 「カトリ様は、一週間ほど寝込んでいたので、ありまする」 どうやら、痒みのために気絶して、さらに……自傷に走ったり、舌を噛みそうだったらしい。 仕方が無いので、縛って猿轡をしていたと言われた。 うわ、本気で痒みのために、死にかかってたとは……まあ、例えるなら1LVの一般人を、ボスとガチで殴り合える位に、巨大な下駄を履かせたんだから当り前か。 なんとは無しに考えていたら、ふにょんと抱き付かれた。 ああっ! ヒルダ、まだ心の準備が整わないと言うか、やはりとても素晴らしくて俺の理性がっ! 「なんで……助けになんか、来たんでする?」 燃え尽きそうにヒートしていた心は、泣きそうな顔で、俺を見てくるヒルダの声を聞いて、別の意味で熱くなる。 好きな女が死にそうなのに、助けに往けねぇなんて、漢じゃねぇ。 「ごめん……なさいでする」 ……処で、縛られて猿轡までは理解出来たのだが、何故また俺は全裸なのでしょぅか? いえ、その、直接あたっているので、このやり取りの間にも、息子が非常に大変な事になってるのですが?! 「繕っているので、ありまする」 いくら頑丈に作ってある学ランとは言え、あんな戦いでは無茶だったらしく、特に脇腹、肩、両袖がボロボロだったらしい、うん、良く生きていたな俺。 体が回復する頃には繕い終わるからと聞いて安心する、先代から譲られた物だから、俺の代で無くす訳にも……そんな事を考えて、体に違和感が無いのに疑問を感じる。 一週間寝てた割には、腹が減ってる訳でも無いし、腹の調子が悪くもなってない。 「ちゃんと、お世話出来てましたでする?」 ……どうやら、意識の無い間、俺はヒルダのお世話になっていたらしく、つまり……食事や生理現象も、介護されていたのであるっ!! うん、もうお嫁にいけないので、ヒルダにもらってもらおう、それがいい。 「今だけでも……そう思ってもらえて、嬉しいのでありまする」 どう言うことだ? そう、思う間も無く、身を起したヒルダが、服を脱いだと思ったら、息子を胸で挟んできた。 冷静に状況を判断しよう、此処は何処かの病室のような場所、縛られて猿轡をされた俺が、先程までヒルダに添い寝をされていた、気を失ってる間に何があったか聞いていたら、ヒルダが服を脱いで、息子が胸に挟まれた。 つまり、再会したら続きと言う事ですかっ?! 「約束でありまする……嫌ってくれても良いので、ありまする」 そう言いながらヒルダは挟んで、下から上に舐あげて……先程までの添い寝で、限界が近かったので、かなりピンチです。 「揺すって、先を吸えば良いので、ありまするか?」 やーらかい刺激を必死に我慢していると、不意にそう言われて息子の先が吸われ、我慢が出来なかった俺は、呆然と白濁を飲み込むヒルダを見ていた。 「いっぱい出たで、ありまする?」 そう言って微笑むヒルダが色っぽいなと思いながら、これで、子供が出来単だよなーと思っていると。 「出来ないので……ありまする」 え? と思う俺に、奴らに侵された事を告げると、立ち上がって…… 「此処を黒飛龍に侵されたので、ありまする」 そう言って、濡れた秘所を俺に見せて、眷属にされかかっていた事、治癒はしたけれど副作用で、次の繁殖期まで、子供を生んであげれないと、告げられた。 「こんな女なんて、もう嫌でする?」 ああ、大嫌いだ。 「っ」 ヒルダに、こんな思いをさせちった、自分が許せそうも無い。 「どう言う事で、ありまするか?」 馬鹿な勘違いをしているヒルダに、好きだっ! と、思う、俺があんなバケモノ相手に、尻尾を巻いて逃げなかったのは何でだと思う?腹を裂かれて腕が折れて、痛みで気が狂いそうになっても戦えたのは、お前と一緒に居たいからだっ!! 会って一日もしないうちにベタ惚れとは、本当に前世で、好きだったんじゃ無いか? と、思いながらそう答える。 「本当に良いので、ありまするか?」 頷くと、ヒルダが抱きついて来て……ああ、胸っ! ふにゃっとして、やーらかくて。 大真面目に告白していたのに、流される自分に自己嫌悪とする。 元気になる息子に、お前自重しろと思いながら、動悸を抑えていると。 「その……当たって、いるでする?」 気が付かれたーーっ! いえ、思考が漏れてるのは分かっているけど、うん、殺して、出来れば、愛で。 「分かったで、ありまする」 え?! と、思うと、目の前には俺の息子に手を添えて、ヒルダが自分の秘所に導こうとしていた。 俺の上に馬乗りになってる姿は、部屋のランプの光に照らた白い肌は、そこに羽や触覚が生えていたり、此処が地球じゃなかったり、俺が縛られてるのも、どうでも良くなるほど色っぽくて……綺麗だった。 「んっ! 本当に愛で殺して、良いんでする?」 お前以外には殺されたく無いなぁと思うと、ヒルダが頷いて息子が熱いもので包まれた。 「気持ち良い……でする?」 ええ、そても凄く、二回目だと言うのに、我慢できるか自信がありません、胸がたゅんてなるのも、もう我慢出来ないというか、縄を解いてくださいっ! 「ひゃっ! ダメでするっ! 突いたり揉んだりするヒトは、縛って無いとダメでするっ!」 そう言いながら、体を支え切れなくなったのか、胸を押し付けるように体を預けてきて、不覚にも、さらに元気になってしまう。 「カトリ様は……こんなのが好きなのでする?」 読まれてるのを恥じ入る余裕も無く、息を荒げる俺に、ヒルダは首筋に舌を這わせると、抱きついてきて、ぎゅっとなって、やーらかくて最高……です。 「キス……しちゃったでする……」 首筋に走る痛みと、痺れ……そして、舌の感触に思わず達してしまう。 「胎内に……とくって……あったかい……気持ち……でする」 逝ってしまったのか、呆とした様子のヒルダが体を俺に預ける。
……潰れた胸の感触で、息子がすぐに元気になる。
申し訳無さそうにヒルダを見ると。 「もっと……するでする?」 NOと言うつもりは無い、というか、何度でもしたいですっ! そう思っているとヒルダは、クスリと笑って首筋に舌を這わせながら囁く。
「その……繁殖期が来ても、してもらって良いでする?」 俺は、無言で頷く事で返事をした。 そして、心の底から守りたいと思った、もし俺が最強になれると言うなら、ヒルダを、二度と傷つけさせないだけの力を手に入れると、そう誓った。
守りたい者と力と倒すべき敵。 元の世界では考えられない今の状況。 それさえも、ただの始まりに過ぎなかった。 けれど、思いだけは変わらない、たた、共に居たい。
ちなみに、後の守護者カトリの主であるはずのシェーラ様は、見舞いにきて扉に手をかけたまま、やるせない気持ちで止まっていまする。 つづける? (Y/N)
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