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「ご、ご、ごめんなさい。わたしが、わ、わたしが道を間違えたりしたから」深い、深い山の奥である。木々は鬱蒼と生い茂り、どこからか聞こえる鳥の声が奇妙に響く。「いや、だからもう、いいって。ね? どうせ俺は地図の読み方もわからないんだし」「で、で、でも、わたしが、間違えなかったら、そもそも」「……だからいいんだってば」そんな山の中に、少年と少女の組み合わせがある。二人とも旅装束なので、山の中にいるという事自体にはあまり不思議はない。ただ、珍しいと言えば珍しいのは、少年の方が「ヒト」である事だろう。この世界にあっては、自然に生まれてくる事の少ないヒトは極めて希少なのだ。それが、こんな山の奥にいる。まったく珍しい事である。「あ、あの……その。ごめんなさい」その一方、少女の種族は外見からは掴みづらい。少年と同様の旅装束なのに、フードを深く被って顔が隠されているのだ。これでは、とても動きづらいのではないだろうか。――事実、少し歩いたところで彼女は転んだ。「あああ、もうッ!」「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」助け起こす少年の声には苛立ちがある。仕方が無い事ではあるが。「とにかく、夜にならないうちにどこか休める場所を見つけないと。というか本当はもう山から下りたいんだけど」「そ、そ、そうですね。ここ、危ないところですし」「……ホントだよ。ネコとイヌの国境なんて、聞いただけで寒気が走る」「き、聞くだけじゃなくて、今、そこにわたし達はいる訳で」「……だよなあ」近年、小競り合いの続くネコの国とイヌの国。その国境付近の山の中。二人の会話からすると、どうやら現在の位置はそのあたりのようだ。なるほど、そんな微妙な場所にいては、迂闊に行動すると怪しい者としてネコとイヌ双方から疑われかねない。「妙な容疑で捕まるのも嫌だし、餓死も野宿も嫌だし、ああもう、どうしたら」「……遭難、しちゃったんでしょうか。わたし達って」「……認めたくはなかったけど、この状況からするとどう考えてもそうだろうね」はあ、と少年はため息をつく。「トールさん……本当に、もう何度も謝りましたけど。ごめんなさい」「だから、いいって、もう。俺も何度も言ったけど」うつむいていた少女が顔を上げた。「ホントにもういいんだけどさ……ただやっぱり、目標もなしにこんな山に乗り込んだのがまずかったんだよ。 『悪人がいるような気がします』とか、べスは言ったけどさ。気がするってそれだけの根拠じゃ意味ないだろ」「…………」トールと呼ばれた少年は、愚痴のようにそんな事を語りだす。対して、顔を上げた少女――こちらは、べスと呼ばれた――は、その言葉を神妙に聞いて、「ちゃんと下調べして、正確な位置を割り出して。ただでさえべスの目的ってのはよくわかんないんだから、そういう……」「…………」――聞いていない。べスは、トールではなくその後方に視線を向けている。「って、聞いてるのか?」「聞いてませんでした」「っておい!」「そ、そんなことよりトールさん。ちょっと耳を澄ましてみてくれませんか?」「え?」言われて、トールもべスの視線の方に振り向く。 「今、あっちから声らしきものが聞こえたような気がしたんです」「声」山の中というのはこれで意外に騒々しい。都会の喧騒とはまた質の違った音がするのだ。しかし、単純な騒がしさとは違うので、耳を澄ましてみれば、そこには。 ――お……く……い……――黙……俺……領…… 「……声だ」「声ですよね」揃って頷く。「じゃあ……」「あっちに、行ってみれば……」もう一度、揃って頷く。「行こう!」少しだけ早足に、トールは歩き出した。べスも、それに続いて歩き出す。こちらは格好が災いしてペースは遅い。 そして、延々と続く深山の光景から、遂に二人は脱出した。目の前に広がるのは、まさしく――村。いくつかの家屋に、広い田畑。農地用の小川やら、家畜小屋なども見える。恐らく、山あいにある集落なのだろう。何にしろ人のいるところに出られた。「助かった……」「助かりましたね……」ほっと胸を撫で下ろした。諸々の懸念も、これでなんとか払拭できる。「村の人に頼んで、食べ物と寝床を用意してもらおう。とにかく休まないと辛いよ」「そ、そうですね」そう言って村を眺めると、丁度よい事に何人かの村人が歩いていた。一目で分かる、半人半獣タイプのネコ族の男達だ。ひとまずこの村がネコの国のものであると分かる。早速声をかけようと、二人が足を踏み出した。その時。 「おねげえしますだ、それだけは! その米だけは持っていかんでくだされ!」「あぁ~? 聞こえねえなぁ~?」 トールの足がぴたりと止まる。べスは気にせず進もうとしたが、フードの後ろをトールに掴まれて止まった。「……なんだありゃ」「な、な、何するんですか?」「何するもなにも、あれはなぁ」もう一度村人達をよく眺めて見る。一人だけ、ひどくみすぼらしい服装の男がいて、これが米が云々と言っていた男のようだ。それに対して、彼以外の村人は妙に立派とでも言おうか、派手な服を着ている。体格も随分と違っていて、みすぼらしい男はやせ細っているというのに、彼以外は血色もよく、筋骨隆々である。「領主さまの税金が払えねえ、お前らが悪いんだぜぇ! 俺達ぁ、税金を取り立ててるだけなんだからよぉ!」「そんな、あんな重い税金払える訳が……」「うるせえ!」みすぼらしい男が蹴り飛ばされる。これはもう、最早疑う余地もない。「ト、ト、ト、トールさん」べスが向き直り、拳を握ってわなわなと震えている。「あ、あれは、間違いなく!」「……悪党だよなあ、うん」ため息をついて、トールはもう一度村人を見てみる。悪党達は満足したようで、高笑いをしながら去っていくところだ。「一応言っておくけど。今の君じゃ、どうにもならないからな?」「わ、わかってます。……わかってますが、悔しいです」「気分は凄くよくわかるよ。まあ、でも、とりあえずはあの人助けようか」「は、はい!」そうして、悪党が遠くなったのを見計らい、二人はみすぼらしい男のもとへと急いだ。 「……はっ。あんた達は……」気絶していたらしい男は、少しの時間の後で目を覚ました。ネコミミは萎れており、まったくもって気の毒な姿である。「だ、だ、大丈夫ですか?」「あ、ああ。こんな事はなれっこだで、心配はいらねえが」まさにネコという顔を拭いながら、男はため息をつく。「しかしあんたらは……その格好からすると、旅人だべな?」「は、はい」「旅人たあなあ……運のねえ事だっぺや」男――男とばかり言うのもなんなので、彼の名前は仮にAとする――Aは、ため息をつきながらトールとべスを見やった。自分の受けた暴行よりも、旅人二人を気の毒に思っているようだ。つくづく、人がいいのだろう。「あんたらも見ただろうが、この村ぁ今最悪だ。新しい領主さまがひでぇやつでなぁ、あんなごろつきを使っておら達を痛めつけるんだ。 旅人が来たなんて知れたら、また悪い事をするにちげぇねえだよ。すぐ出て行った方がええ」「そ、そんなに、ひどい事をされているんですか!?」べスがAの手を握る。こういう事には黙っていられないのだ、彼女は。性格的にも、立場としても。その理由についてはまた別の機会に語られるとして、トールはこのAとべスの会話とはまるで関係のない事を考えていた。 (……どんな無茶苦茶な方言なんだ、これ) どうでもいい事を考える人は、どこにだっているものである。 「他には、他には? どんな悪い事をするんですか、その人たちは」「他にはか? そうだなあ。税金が重いのはそうだし…… ああ、そうそう。あいつらと来たら、訳もねえのにおらたちを殴ったり蹴ったりするだ。 お陰でおらの隣に住んどるBときたら、ストレスで毛ェが抜けて惨めな事になっちまっただよ」「ね、ね、ネコ族の毛が抜けるって、それはひどい!」「ひでぇだろう。それだけじゃねえぞ。おらたちの村にも若ェ娘っ子はいるだが、それを領主と来たら夜な夜な集めやがる。 こっちが弱ェのをいい事に、あいつと来たら……」「……ひどい。ひどすぎます。そんなの、許しておけません」「そうだなぁ。……でも、おらたちじゃどうにもならねぇ。 何とかしてあの領主を退かしてやろうと、都の方に直訴に行った連中もいただ。 けど何の音沙汰もねえ……無視されたか、あるいは途中で領主の手下に捕まっちまったかだ。 一揆で逆らうにも武器も何も足りねえし、どうにもならねえだよ……」長々と語り終えて、Aはぐったりとして肩を落とした。尻尾も垂れて下がっている。「き……聞きましたよね、トールさん!」「うん。聞いた」「これはもう、わたし達がやらねば誰がやる、ですよね!」「……そうだね」その瞳が、どちらかというと嬉々として輝いているように見えるのは気のせいか。「でも勝手にネコの国の地方行政を叩き潰していいのかな。下手したら大罪人になるような」「すぐ逃げれば大丈夫ですよ!」テロリストの発想である。しかも下手に属するような。「いや、まあ、俺は君の……その。奴隷だし。いいんだけどね」「じゃ、じゃあ、早速ヤりましょう!」「……あー。うん」ぐっと両手を握り締め、気合を入れると、べスはフードを外して顔を表に出した。白く長い髪と、それ以上に白い肌。ほとんど日にあたっていない、その少し幼く、そして儚げな顔があらわになる。そんな儚げな顔に、決意の色をともして、彼女の頬は赤く染まる。頻繁にどもるし、性格もアレだし、獣人にしては(この状態では)虚弱なべスだが、この表情はいいなあ、とトールは思う。この、かつていた世界とは全く違う、右も左も分からない世界で、これだけの為に生きるのもそんなに悪くないのかもしれない。まあ、何しろ、べス――彼女は。トール――この呼び名だって、正直なところあまり慣れてはいないのだ。生まれてこの方、呼ばれてきたのは透。そういう名前だったのだから――に、とっては。 ご主人さま、なのだから。 「で、あの。何がどうしたんだっぺな?」取り残されたAはきょとんとしている。「お、お願いしていいですか? Aさん」「ああ、山から下りるにはだな、少し行った先の川を道なりに」「そうじゃないです」「は? 村から出ていくんじゃねえだか?」「はい。今から、その悪領主を、わたし達の手で! 追い出して見せます!」「……はあ?」目を丸くして、ついでに驚きの為か尻尾までピンと立てて。Aは口をぽかんと開けた。「じゃあ、お願いってのは何なんだ?」「あのですね……」 それからしばらくして。ひとまず領主の手下に見つからないよう、村はずれの廃小屋に身を潜めたトールとべスのもとに、大量の肉、野菜、魚、穀物が届けられた。「これくらいあれば問題ねえべな?」Aは誇らしげにヒゲを立てている。彼がこれを調達したらしい。確かに、大人が数人がかりでこれを食べても、全て消費するのに一週間はかかる程の量である。これだけの量を集めたのならば、誇らしくなるもの当然ではある。「す、すごいです、Aさん」「……いや、ちょっと。あの、Aさん?」べスは無邪気に感動しているが、トールはそうもいかない。「なんだっぺ?」「いや、だって……さっきのごろつきに、『その米だけは持っていかんでくれ!』とか言ってたんじゃ」「ああ、言ってたな」「それでどうしてこんな量の食料が?」「あー、それァだな……」Aはニヤリと笑った。純朴な農民、といった風が、少しだけ変わる。「あの領主ァ気にいらねぇから、米の一粒もくれてやるつもりは無かったんだべな。 ああやって厳しい取立ては受けるだども、まァあれだ……ちょろまかすなんぞ造作もねェ」「……うわぁ」「あ、でもあれだで? 理不尽な暴力やら、娘っこを連れて行くのは本当の事だべ? というか、そういう事があるから、おらもちょろまかすだ。自業自得っちゅう事よ」「なるほど」こういう強かなところがネコ族の強みなのだろう。思わぬところで異文化に触れ、感動すら覚えてしまうトールである。「その点、あんた達はなんだかわからねェが面白いからな。面白い旅人をもてなすのも一興だで」「それはもう、本当にありがとうございます」ははは、と朗らかに笑うと、Aは食料を運んできた台車を手に、村へ戻っていく。「んじゃあ、確か三日か四日したら領主の奴をぶちのめす、だったな? あんまり期待はしてねぇだども、楽しみにはしてるで。がんばんな」「頑張ります!」相変わらず無邪気に誓うべスと、そしてトールは、「本当になんなんだろう、あの滅茶苦茶な方言は」相変わらずどうでもいい事を気にしていた。 更に一時間後。山と積まれていた食料は、いまや最後の果物一つを残すだけになっていた。そして、べスの後ろには食料の残りカスが山と積まれ、対してトールのもとには少しばかりのゴミしか出ていない。「す、すっかり満腹しちゃいました。トールさんは、あの、どうですか?」「君の食べっぷり見てたらあんまり食欲わかなかったよ」「ご、ご、ごめんなさい」べスは申し訳ないとばかりに俯いた。「じょ、状況が状況ですから。沢山食べて蓄えないといけなくって、それでついつい……」「分かってるから。別に責めてないよ」「は、はい。あ、それと……あのですね、トールさん」軽く勢いをつけて、べスはトールの側にジャンプした。勢いで、二人の顔がぐっと近づく。「な……何?」「あんまり食べてなかったみたいですから、あの……ちょっと失礼しますね」言うなり、べスの唇がトールの唇に重ねられる。「ッ!」「ん……」単なるキスなどではない。彼女にしては強引なくらいの勢いで、舌がトールの口腔内に割って入ってくる。一瞬戸惑いはしたが、トールの方も慣れたもので、すぐに応えて舌を絡ませた。絡み合う二つの器官。唾液と唾液が混ざり合い、余計に滑りを良くして、お互いを舐めあう。――と、べスが両手をトールの背中に回してきた。これにも応えて、彼女の背中を抱きしめてやる。どちらかといえば小柄なべスにあわせるには、トールが少し屈まなければならない。そういうのがいいんだよな、と思いながら舌の応酬を続けていると、じわりと甘い味が口の中に広がった。それは段々と量を増して、口の中一杯にどろりとしたものが満ちる。これがべスの種族特有のものである事を、トールはもう知っている。自分が摂取したものを、体内で分解し、栄養価の高い物質として再構成する。それを、唾液とともに分泌して、他者へと分け与える――この世界でも相当に独特な性質ではある。しかしこの栄養物質は実に美味で、しかも彼女の体から出てきたもの、という事実がまたどこか心地よいものだから。「ん、んッ……」待っていましたとばかり、それを飲み込む。そして催促するように、ますます激しく舌を絡める。その反応を受けて、べスは照れているのか顔を真っ赤にした。元々色素の薄い顔色だけに、紅潮すると赤は鮮やかになって映える。「んむ、むッ」そのせいで少し引っ込めそうになった彼女の舌を、逃さずトールは吸い続ける。彼女からの栄養補給が終わるまで、まるで母の乳をねだる赤子さながらの必死さで。 どこかぐったりしたべスが唇を離したのは、それから結構な時間の後の事だった。「あう……あう。いつもながらトールさんはちょっと……その。吸い過ぎだと思います」息は荒くして、彼女は少しだけ怒ったようにそう言った。「だって美味しいんだから仕方ないよ。それに、これで三日過ごすんだから、ちゃんと全部呑まなきゃダメだろ?」「そうなんですけど……それにしたって、もうちょっとやり方が、ですねえ……」まだ彼女の顔色は赤いままだ。そう簡単には収まらないものなのだろう。「……と、とにかく。栄養補給はこれで済んだんですから、肝心の本番をやらないといけません」「……本番」言うなり、べスはおずおずと自らの衣服に手をかけた。そのまま、じっと見続ける――と。「あの、そんなまじまじと見ないで欲しいんですが」「……でも、どうせこの後全部脱いだ姿を見るんだし」「そ、そ、それとこれとは話が別ですッ!」むくれて言うものだから、反論できなくなってしまった。衣擦れの音を聞きながら、ただ待つより他はない。けれどそうしている間にも、その音だけを頼りに記憶を掘り起こす事は出来る。彼女と初めて出会った日にも、こんな事があって、そして脱いだ後の姿がまた良いものだった。顔色と同じく、彼女の肌も全身が儚く白い。かなり長い間旅を続けているのだから、多少は日焼けしてもよさそうなものだが、ほとんどそれが無いのだ。体質的な部分も相当にあるのだろうが、いずれにせよその肌は禁忌の色に見えてどうにも溜まらないものがあったりする。「なんか悪いことしちゃってる気になるんだよな、あれは」思わず声に出してしまう。「はい?」「いや、独り言。……そろそろ脱いだ?」「……は、はい」振り向いてみる。簡素な床に、ちょこんと腰掛けて。すっかり裸になった「ご主人さま」は、相変わらず照れたように俯いていた。ほとんど膨らんでいるか膨らんでいないか分からないくらいの胸に、痩せているのにどこか丸みを帯びたフォルム。――率直に言ってしまえば、どうにも幼いその裸体に、後ろめたさを覚えながらもトールは釘付けになる。「だ、だ、だ、だから、トールさん。そうやって見る必要はなくって、もう、早く済ませてください」「う、う、うん」トールまで似たような口調になってしまった。こほん、と一つ咳きをやり、改めて彼女を抱きかかえる。「わりと激しくやっちゃっていいんだよね?」「……早くしてくれればもうなんでもいいです。別に気持ちよくなるとかそういうのは関係ないですから」そう言われるとかえってどうにかしてやりたくなるのが人情である。ベッドの上という訳でもないので、あまり痛くならないように注意して彼女を仰向けに横たえると。手始めに、トールは彼女の胸に舌を這わせた。「ひゃうんッ!?」途端に敏感な反応が返ってくる。「よ、よ、余計なことはしなくていいって言ってるじゃないですかッ!?」「いや余計っていうか。ちゃんと用意しないと君が辛いと思って」「よ、用意ならもう出来てますよ」まさかと思って股間の、そっと翳る部分に指を伸ばす。――くちゅ。「ホントだ」「……さっきの栄養補給が、ですね。その。なんていうか……あう」あれでもう十分に感じてしまっていた、と、声に出さずにべスは呟いた。「…………」そういう言い方は反則だ、と。こちらも声は出さずにトールは呟く。「……でもやっぱり余計なこと、しちゃうから」「ええええええ!?」こんな反応をしてくれるから、それはもう面白くて色々やってしまうのだ。悪いのは彼女なんだ、そう奴隷のはずの少年は考える。 「ひゃう、ひゃう……あう、そんなとこ……」まず、指の一本一本を丁寧に舐めてやる。指と指の谷間にあたる部分を舐めると、ちょっと彼女の声が高音域になって喘いでいた。「う……あ、ひんッ」指から昇って、腕、肩と舐める。それにしてもこうして直接舐めると分かるが、彼女は痩せているわりに骨というのに当たらない。ぷにぷにとした、考えようによってはグミのような感触とも言える、そんな弾力と柔らかさのある肌と肉だ。「あう……うぅ、い、嫌がらせみたいな……ひゃうんッ」そして肩から胴体に降りて、脇の下をそっと嘗め回す。「ひあんッ! って、ど、どこ舐めて……ひゃ、あうあうッ」更に下って、脇腹の部分。ここの肉付きが重要なんだよ、と。かつての世界でちょっと困った悪友が語っていたなぁ、とトールはしみじみ思った。あの悪友も今頃は何をしているやら。犯罪者になっていなければよいのだが。「変なこと考えながら変な場所を舐めないで……あう、あうあうあう」ちょっと戻って、もう一度膨らみのない胸の頂点を舐める。「そ、そこは弱ひゃあああんッ」そしてとどめに、もう湿っているどころではなく、液を垂れ流している秘所に舌を這わせる。「ひ、あ、あああああッ」一瞬、べスの体が痙攣した。それを見逃さずに、膣口から奥に向けて舌を突き刺す。「あ、あう、あ……」くにくにと肉の中で舌を折り曲げ、刺激してやる。既に彼女も極みに達しているようなのに、こんな事をして頂点以上に押し上げようとする。なかなかに残酷な、快楽による責め。やがて――ピンと張っていたべスの緊張が解け、くったりとして崩れ落ちる。はぁはぁと、荒い呼吸を繰り返しながら、薄い胸を上下させて。恨めしそうに、彼女はトールを睨んだ。「……ひ、人が嫌がることばっかりするのはよくない、です……」「……ごめん」上目遣いのその黒い瞳が、ずきずきとトールのものを刺激する。「それじゃ、ちゃんと目的のことするから」「……お願いしますよぅ、もう、わたし……」元々準備が整っていたというのに、更に一度望まぬ絶頂を極めさせられたのだ。もう、彼女のそこは、入ってくるトールのそれを望んで泣き出さんばかりである。実際、彼女本人もちょっと涙ぐんでいる。「うん。――わかってる」聞こえないように、小さくごくんと息を呑んでから。トールは、己のペニスを彼女の潤んだ孔へ――濡れて、広がっているとはいえ、体格相応に狭いその場所へ。ゆっくりと突き刺し――「くッ、ひッ、あッ……」「……ダメだ、我慢できないッ」「え、トールさ……ひああッ!?」――否。少しばかり突き進んだところで、もう制御が出来なくなった。ただでさえ狭いのに、痛いほどに締め付けてくるその肉の壁の中を、力を込めて一気に貫いてしまう。「や、早すぎッ……い、たッ……ひ、ひうんッ!」「くッ……相変わらず、狭ッ……」狭い彼女の中の事。もっとも奥の、一族にとってはある意味で一番重要なその場所の、入り口に。かすかに触れるくらいにまで、トールのそれは深く突き刺さっていた。 「はあー……はあ、あ……」「……ふうッ」二人とも息を整える。「う……お腹のなか、いっぱいいっぱいできついですよ……」「あ、ああ。しっかり……入れたから」「あう……」顔を横に向けて、べスは黙り込んでしまった。それならと、トールはゆっくりと腰を引く。「う……あぅ、う……」それだけの動きでも、とにかく狭い彼女の中はペニスを食い締めて、抜け出るのを阻止しようとして放さない。(ヤバいな……いつもながら、これはキツい……)トールにしてもあまり余裕はない。何分、まだまだ経験不足なのである、彼も。べス以外の相手は知らないのだし。誤魔化す勢いで、抜けかけたものを再び一気に押し込む。「はうぅッ」「い、一気にやるぞッ」「あ、ちょっと待って……って、待あああああ!?」ぱちゅん、ぱちゅん、と、水音と肉のぶつかる音が混じった、どこかマヌケな音が響く。どうにも幼いべスを、力づくで犯し抜く少年、トール。この場面を村人にでも目撃されたら、どう考えても変態性犯罪者だろう。(だ、誰も来ない……よな、うん)かすかな寒気を背筋に感じつつ、勢い任せで腰を打ち付ける。「あう、あう……あうあう、うぅッ……」べスの瞳が段々虚ろになってきた。同時に、トールの下半身にも言いがたいものが溜まっていく。「も、もう、出るかもッ」「だ……出しちゃって、終わりにしちゃってくだ、あ、あぅッ」そうして最後に、トールは不意をついて――べスを抱き上げ、唇を重ねた。「んむッ!?」それと同時に、胎奥にヒトの精が吐き出される。「くッ……」「ん、ん、んむむむッ」びゅッ。一射ごとに、勢いよく彼女の奥が叩かれる。まだ小さなべスの中が、すっかり白い液体に汚されつくしてしまうまで。精射は、幾度か断続的に続いていた。 「……さ、さ、最後のキスはずるいです。そんなこと頼んでません」抱きしめて余韻に浸っている時に、べスはそんなことを言い出した。「頼まれてやるものでもないと思うけどなぁ」「……あう。いいんですけど……いいんですけど」「何故二回言う」「……それだってもういいです。まあ、もう、とにかく」にゅるにゅると音を立てて――粘液が絡み付いているからか。べスが体を上げたせいで、トールのものは強制的に抜かれた。「それじゃあ、三日くらいしたら起きますから。それまでよろしくお願いします、トールさん」言って、ぺこりと頭を下げる。白く長い髪が一緒に垂れた。「うん。それが俺の役目だしね」「他にも色々ありますけど、今はそれが一番大事です。……じゃ」そして、ころんと横になる。なった次の瞬間には、「……くー」寝息を立てていた。神速の寝入りの良さである。「……三日かー」トールもため息をついた。 三日間については、特に何もなかったので飛ぶ。 そして三日後。朝の光が廃小屋に差し込んでくる。「う……うーん」それが丁度まぶたの上に来たものだから、トールも目を覚ました。あれ以来、三日間飲まず食わずだったが、これといって空腹も乾きも覚えていない。これこそが、交わる前にべスから与えられた栄養物質の効能である。が、それはいい。「今日で三日目だよな。じゃあ、そろそろか」そして、振り向く。小屋の隅の部分で眠っているべス――では、ないのだろうか。べスが眠りについた場所に「あった」のは、真っ白く大きな何かのサナギである。「えーと……あー、ご主人さま? 起きてる?」返事はない。「……まだか。この辺は時間差大きいからなぁ、いつになるんだか…… それにしても暇だったなー、三日。暇だと時間の流れが遅くなる気がするね」独り言が増えるくらい暇だったようだ。それでもサナギから返事はないので、仕方なくトールは体育すわりをした。そのまま、待つ。 待つ。 待ち続ける。 待ち続けていたら、小屋の外から声らしきものと人の気配が近づいてくるのを感じた。「こんなところに何か隠してやがったのか、てめえは!」「な、何も隠してなんかねえだよ、旦那」「うるせぇッ。てめぇがここでごちゃごちゃやってたのはな、しっかり目撃されてたんだよ!」三日前に聞いたような声の組み合わせだ。確か、領主配下のごろつきに、あのみすぼらしい村人――A、だったか。「……あ、ここバレたんだ」ごろつきは村人を散々虐げているようだから、その村人から便宜を受けた自分達の事も当然、諸々悪い事はするだろう。しかもトールはヒトである。捕まってしまえば、どこかに売り飛ばされたりロクでもない目にあう事は間違いが無い。「……マズいな。色々マズすぎる。早くべスには起きてもらわないといけない――のに」サナギはピクリともしていないのだ。「ああ、マズい。マズいなー」そうこうしているうちに、とうとう。「この小屋に! ……なんだ?」「おう、こんなところに何を隠して……ん?」「ああ、すまねえだ、旅の変な二人連れよぉ」ごろつきが二人に、Aが一人。小屋の中に、ずかずかと踏み入ってきたものである。 ごろつきは、大きなごろつきと小さなごろつきで二人いる。そこで、トールは彼らを大ごろつき、小ごろつきと呼ぶと心の中で決めた。「な、な……何者だ、てめえは!」大がそう叫ぶ。「旅人かぁ? 装束はそんなもんだが……」小は比較的冷静なようで、観察結果を呟いた。「あ……ええと。こんにちわ」とりあえず、挨拶などしてみる。「……これはどうもご丁寧に」「ご丁寧に」ごろつき二人は律儀に礼をしてきた。意外に躾けの行き届いたネコ族なのだろうか。「ってそうじゃねえ! てめえは旅人だな。この村に来ておいて、俺達に挨拶もねえとはどういうことだ!」先に我に帰った、小の方がそう凄んでくる。「ふふふふふふふ」「いや、挨拶と言われてもたまたま出会わなかったから出来なかっただけで、今こうして会った時にはそれはもう」「な、なるほど。そりゃ道理だな」「道理じゃねえよ!」トールが適当に呟いた詭弁に、二人とも釣られている。挨拶返しといい、意外にいい奴らなのかもしれない。この二人。「ふふふははははは」「とにかく! よく見りゃてめえはヒトじゃねえか! ヒトって言ったら一財産だ、領主様のところに来てもらうぜぇ!」「……ヒトだけにヒト財産?」「ダジャレじゃねえ!」本当に付き合いのよい小ごろつきである。「はははははははは!」「でも、俺にはちゃんと主人がいますから、勝手に持っていかれたら犯罪です」「この村じゃあ領主様が法律だ! それにどこにいやがるんだよ、その主人ってのは! この小屋、他に誰もいねえじゃねえか!?」「まあ、それを言われると弱いんですが」どうもやりとりに緊張感がない。小ごろつきの付き合いの良さも悪いが、トールのこのいい加減な態度も悪いだろう。自分の危機だというのに、この他人事のような態度。どんなものであろうか。「……ははは」「もうどうでもいいからお前を連れて行くぜ!」「ですからそれは困ると」「……あ、あの、兄貴?」と、大ごろつきが小さな声で小の方に呼びかける。「なんでえ!」「兄貴、さっきから『ふふふ』だとか『ふはは』だとか、『ははは』って声が聞こえてるんですが……」「……ああ、そりゃ俺も聞こえてたが気にしなかったんだよ」「俺は気になって仕方ねえんですが、こいつは……」「……ふふふっははははは! よっうやく気づいたわねこのボンクラども!」長々と無視されていた笑い声。その主が、声を限りに叫ぶ。 「途中は本当に私の声が聞こえてないのかと思ってちょっと泣きそうになったわ! この扱いはどう考えてもおかしいわよ! っていうかそれはもうどうでもいいけどッ!」「……遅いよ」トールがぼそりと呟いた。呟いたわりに声が大きいが、サナギの中の声はそれを無視する。「だ、だ、誰だ! どこから喋ってやがる!?」小ごろつきの反応が、いかにもステレオタイプである。「あ、兄貴! あれだ、あのはしっこのみょうちきりんな……塊?」「サナギです」「サナギからだ!」トールのフォローを受けながら、大ごろつきがサナギを指差す。「な……なんだ、あれは! てめえこのヒト、なんなんだよあれは!」「……うーん」「答えろよオイ! 今までの立て板に水を流すようなやり取りはどうしたんだよ!」「いや、それはまあ、サービスというか……なんというか、『時間』が来た、という感じかな」「――時間? 時……?」――時。「そう、時は来たッ! 今こそッ! 三日の眠りから覚めてッ!」刹那。白いサナギから光が漏れる。この無駄な演出の豪華さは、紛れもなく「彼女」のもの。「……いつもながら、変わりすぎだと思うな」呆れるくらいに豪華で激しい、この力の奔流である。サナギの中から、まず手が飛び出てくる。しなやかだが、確実な破壊力を秘めた拳を先端にして。そして次に足。こうして見ると、その四肢はいずれも細身の中に圧倒的な力を秘めているのが分かる。「魔法少女ホーネットべすぺッ! またの名を変態少女ホーネットべすぺッ! 誇りあるもの、尊きものとなる為にッ! この地に今こそ炸・裂・推・参ッ!!」――サナギが、一気に弾け飛んだ。 魔法少女ホーネットべすぺ 第1話「変態完了! 魔法少女ホーネットべすぺ推参!」 黄金色に輝く髪が、さらりと流れる。変態前に比べると、いくらか短くなっていて、肩にかからないくらいだ。大きく変わっているのは肌だろう。あれだけ薄かったというのに、今は実に生き生きと、肉体の色をしている。ついでに言えば、そのスタイルは変態前とは完全に別物だ。幼かった前に比べると、これはもう比べるのが気の毒になる。こぼれるばかりの豊かな胸に、張り出した尻。堂々たるモノである。背中には四枚の透明な羽根があり、わずかに揺れている。飛んでいる時でないとあまり目立つものでもないか。そして、一番目立つのは下半身。腰から下にかけては黄と黒のストライプ模様になっていて、どうにも毒々しい。――何よりも、下半身のその股間部には、それはもう立派な針が生えている。生殖器が変化して現れた、彼女の種族の最終兵器。あまねく生命を侵す猛毒の針が、そそり立っているのだ。この針こそは間違いなく、恐るべきあの虫の一族の証。 そう、彼女こそは。 嗚呼、彼女こそは! スズメバチ族クイーン候補! ホーネットべすぺ、その人である! 「長い! 長すぎるわ! 前フリが長いにも程があるわ!」羽根をばたばた震わせながら、べス――もといべすぺがそう叫ぶ。「前フリ……って」大と小が同時に呟く。「私はこっちがメインなの! 幼虫モードなんていらないってのに、こんなに長々と引っ張って…… この憤りは全て!」ビシ、と指をごろつきに突きつけた。「あんた達にぶつけさせてもらうわ」「な……なんだ、そりゃ」領主配下のごろつきは、揃いも揃ってぽかんと呆れている。「いや……なるほどなぁ。あんた達、思ってた以上に面白ぇだな」Aも呆れている。この場にいて呆れていないのはもう本人だけだ。「さあ、覚悟しなさい外道どもッ! 誇りなく、尊いものを目指そうともしない貴方達に生きる資格なしよッ!!」勢いよく拳を突きつけて、べすぺは叫ぶ。「よ……よくわからねえが、小娘の言うことがへぶッ」一瞬べすぺの体が沈み込んだかと思うと、次の瞬間には小ごろつきが壁まで吹き飛ばされていた。「……は? え?」大の方はそのあまりの速さに何の対応も出来ず、放心したまま相棒の惨状を眺めてい「ぐふぅッ!?」――る、と続けようとした瞬間にも、もうべすぺの拳が大ごろつきの腹に突き刺さっていた。まさに一瞬の妙技。べすぺは、瞬き一つしない間に、訪れた悪党二人を撃破してのけたのだ。「やはりザコね。まあこれはほんの肩慣らし……本チャンは領主のところよ。 さ、案内してくれるわよね? Aさん」「あ……あ、ああ。……しかしなぁ、スズメバチだったんだなぁ、あんた」「私達は幼虫の時はあんなだから、分からなくても無理はないんだけどね。 とにかく、この形態そんなに持たないから急がなきゃいけないの」「わ、わかっただ。確かにこれならあの領主も……」Aがニヤリと笑う。時々邪悪な表情になる純朴農民である。「ほらほら、トール! 貴方もさっさと来るのよ」「あー。うん、分かってるよ、ご主人さま」「ご主人さまじゃなくて『べすぺちゃん』! 覚えなさいよ、いい加減」「……恥ずかしいよ、それ」「貴方の仕事でしょ、それもッ」顔を真っ赤にして俯くトールに、べすぺは不敵に笑いを浮かべた。「では、悪の城へ!」声も高らかに。魔法少女は、今、出撃する。 数分後にはもう到着した。いくら狭い村だといっても近すぎないだろうか、これは。「実は、あの廃小屋の後ろに領主の屋敷があったんだなや」「……無茶苦茶ですね、それ」「まあ近いんなら近い方がいいわよ」けらけらと笑いながら、べすぺ一行は館の扉の前に立つ。そのままおもむろに、べすぺは膝を叩き込む。――轟音。そして爆砕。吹き飛ぶ扉を背景に、魔法少女はいくさの叫び声をあげる。「ホーネットべすぺ様のお出ましよ、悪代官! 観念して潔く腹を切りなさい!」「だぁれが……腹を切るって?」出迎えた声は、嫌みなほどに落ち着いたものであった。その落ち着きぶりに嫌な予感を覚え、Aとトールは顔を見合わせる。「誰って悪代官って言ったじゃない。聞こえないの?」「あぁ~、聞こえちゃいるが……聞こえちゃいるんだがなぁ、嬢ちゃんよぉ……」扉を蹴散らした際の土煙が収まって、ようやく館の中が伺える。玄関がホールとなっていて、なかなかの広さだ――が。ホールの奥に、堂々として待ち構える、でっぷりと太ったネコの男がいる。「へェっへェっへェっへェっへ……大した度胸だぜ。たった一人で……このゴルバス様の屋敷に来るとはよ!」そして彼のもとに行くまでに、何十人もの武器を構えたごろつき達が、待ち構えている、のだ。「驚いたかい? けどな、いくらなんでも家の裏であんな騒ぎを起こしたら、気づかねえ訳はねえよなぁ」「……まあ、当たり前よね」「近すぎたからね」「近すぎたっぺや」あまり驚いた様子はない。「何にしてもだ。ここにいる連中は、さっきあんたにぶちのめされた奴らとは鍛え方が違う…… 人の一人や二人は捻っちまったような、札付きの悪党ばかりだ。 いくら嬢ちゃんの腕に覚えがあるったって、この人数じゃどうにもならねえだろう?」その言葉を聞いても、べすぺはまったく動揺しない。それどころか、口元を歪めて不敵に笑った。「そうでもないわよ? その証拠、今から見せてあげる。 ……トール! 解説、スタート!」「え? ああ」そして再び、べすぺの体が瞬間沈む――! 「『説明しよう! 魔法少女ホーネットべすぺ、またの名を変態少女ホーネットべすぺ、彼女の強さの秘密とは!?』」「ヒトの兄ちゃん? どうしたべな?」「……これも仕事なんです。あの……ご主人さま、にやるよう言われてまして」「……なるほどなぁ」その会話の間にも、べすぺはホールの中を跳ね回る。そして、何かがギラリと輝くたびに、崩れ落ちる悪党が出た。「『ホーネットべすぺはスズメバチ族である! しかし、ただのスズメバチ族ではない! 将来クイーンとなるべき可能性を託された、クイーン候補スズメバチ! クイーン候補には、変態という能力があり、これが驚くべき力を生み出しているのだ!』」「大変だなぁ。魔法少女の奴隷ってのは」「奴隷っていうか、ご主人さまに言わせるとマスコット、だそうで」「……マスコット」「えーと…… 『変態。それは、幼い姿から成なる姿へと入れ替わる神秘の技である。 幼い姿の時、彼女の動きは鈍く、虚弱そのもの。だがそれは栄養を蓄える必要があるからだ。 ひたすらに食べ、蓄える! さながら春を待つ冬のように、それは来るべき芽吹きの時を待つ姿! そしてもう一つの鍵は、胎内に受ける男の精! スズメバチ族は、卵の頃に精を受けることで女として生まれるのだが、クイーン候補は自らが精を受けることで変態を開始する! 幼虫の姿で蓄えた栄養、そして精によるスイッチ! 二つは合わさり、爆発的変態は始まるのだ! そして全てが完了した時、サナギの中から生まれるのは……究極無敵、完全最強の戦士! 魔法少女! ホーネットべすぺの誕生だ!』」「よくそんなの一息で言えるな、兄ちゃん」「いや、ご主人さまが覚えないと針で刺すって言うから」解説している間に、ごろつき軍団は壊滅していた。一人の例外もなく、べすぺの拳、肘、膝、足によって叩き潰されている。「ば、バカな……」領主のゴルバスは顔面蒼白となって震えていた。「……あ、終わったみたいですね、Aさん」「おお! 兄ちゃんの解説聞いてるうちに終わっちまっただよ。アクションシーン省略だなや」Aも大喜びだ。「これで証明終わりね。観念した?」汗一つかかずにべすぺはそう言ってのける。ほんの少し前までの自信もどこへやら、すっかり意気消沈したゴルバスに、その言葉は残酷である。――ところが。 「……へ、へ、へへへ。いいねえ。いいねえ嬢ちゃん。 思い出したよ……思い出しちまったよ。俺もかつては鉄人ゴルバスと呼ばれたネコだ。 こんな風に生ぬるい領主生活なんぞ送るような……そんな男じゃあ、なかったぜ……」「なんですって?」怯えていた風のあったゴルバスが、ピンと背筋をまっすぐにして立ち上がった。肥えていた腹を気にする様子もなく、おもむろに大きな刀を取り出す。「鉄人ゴルバス、ここが男の散り際と心得たッ! 魔法少女ホーネットべすぺ、この俺と立ち会ってもらおうかァッ!」正眼に構え、まっすぐべすぺを見据える。「……その意気やよし!」べすぺもまた、拳を構えて相対する。「野良猫陰流、参る!」ゴルバスが刹那の踏み込みで迫る!あれだけ太っていたというのに、その踏み込みの速度は神域に達し、決して避けられぬものとなる!恐らく、このゴルバスにして生涯一度あるかないかの奇跡の踏み込みであろう。それに対して、べすぺは――「トール! 『奥義』解説スタート!」「あ……ああ! 『スズメバチ、最終奥義! ……それこそは、まさに最後にして最強の一撃! スズメバチの中でも最強にして最悪の武器である、それこそは……針!」「おおおお!!」ゴルバスの剣が振り下ろされる! が、既にその場にべすぺの影はない。「何ぃッ!?」「『股間から生える針は必殺の武器となる! 分泌される毒液は、この世にある遍く生命を侵す猛毒! その毒を受け、立っていられるものなど……いない!』」前後左右、どこに逃げる事も出来ない完璧な一撃のはずだった。それなのに、べすぺはどこにもいない。――否。前後左右に逃げられないのならば、上下。急浮上、急降下、急停止――自在に空間を駆ける、それこそがスズメバチ戦闘術の極意なのだ。すなわち、今、べすぺがいるのは――上!「とッ……飛びやがっただとぉ!?」「――奥義! 毒・針・炸・裂!」そして、急すぎる降下は、毒針の一撃に更なる威力を加える!「そ……そんな、そんなバカなァァァァァ!」針は、的確に敵を捉え―― ぶすっ。 ……決着である。 「いやいやいやいや、大したもんだなぁ、あんたらは!」それにしてもこのA、満面の笑みである。ゴルバスが倒された途端に、村に屯っていたごろつきどもはたちまち退散してしまった。ゴルバス本人は(どうやら命は取り留めたらしい)、領主館の納屋に見張りつきで放り込まれている。ついでに、何故か逃げなかったあの大ごろつきと小ごろつきも一緒だ。「あっはっはっは。もっと褒めなさい」楽しそうに笑うべすぺ。トールはもう少し浮かぬ顔だ。「それにしても、まさかあのゴルバス。偽物だったなんて」「……ああ、それには驚いただよ」そう。領主を名乗っていたあのゴルバスは、なんと偽領主だったのである。本物の領主は、館の地下に監禁されていたのだ。どうして村人がそれに気づかなかったかというと、本物の領主と顔をあわせた事が無かったからだというから呆れる。「あんまり集会とか開かなかったからなァ。気づかぬうちに入れ替わられとった」「気づきましょうよ、それは」「まったくだ。これからはもう少し隣人に注意を払うとすっべ」ははは、と一同笑い。「それで、これからどうするだ? 宴の一つも用意はしてるだが」「ああ、別にそこまでしてもらわなくてもいいわよ。これはこれで、私の仕事だから」「仕事なぁ」「今回はまあ、運のいいことに相手が偽領主で、結果的にこの国にまで喧嘩売ることはなかったけどね。 でも基本的にはちょっとテロリズム入っちゃってるから、下手したら国際犯罪者扱いになりかねないのが私達の仕事なのよ。 のんびり宴に出てる暇ってそんなに無かったりするのよね。だから」「……そらまた大変だなや。よくそんなのに付き合えるな、兄ちゃん」「やー、出来れば遠慮したいんですけど、どうやら俺、マスコットらしいので逃げられないというかなんというか……」感心したらしいAを尻目に、べすぺは村の出口へと向かう。「ま、その辺はどーでもいいわ。ホントはよくないけど。ほら、トール。もう行きましょ」「はいはい」そのまま、二人は村を出る。一つの村を救い、べすぺの心は晴れやかであった。 第1話 終わり 次回予告! 魔法少女ホーネットべすぺ。そしてヒト奴隷トール・ハチスカ。二人はいかにして出会ったのか、そしてべすぺの目的とは!?全ての謎が、今明かされる!次回魔法少女ホーネットべすぺ第二話、「運命の出会い! 落下物直撃記念日!」誇りあるもの、尊きものを目指して、次週も炸裂推参ッ!
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