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冬のある日、御主人様が鉢植えを持って帰ってきた。 赤い素焼きの鉢に黒い土が詰められ、紙製の札が刺してある。 小学校でこういうの育てたな、とふと思い出した。 あの青いプラスチックの鉢植えは、まだあるだろうか。 もう、捨てられてしまっただろうか。 「日の当たる所におき、土が乾いたら水をやるように」 小さなメモを読み上げる御主人様。 一番安全そうなキッチンの窓際に、その小さな鉢を置いた。 毎朝様子を見て、少しだけ霧吹きで水をかけた。 一週間後、芽が出た。 頼りない小さな芽が今にも枯れてしまいそうで、触れることも出来ない。 毎朝、御主人様に聞こえないように小さな声でおはようと挨拶した。 はっぱがだんだん伸びてきて、細い茎が風に揺れて折れそうなので風の当たらない所に移動させた。 日のある時間が少しずつ増えてきて、部屋の中はどこにおいても日が当たるようになってきた。 いつも同じ場所じゃきっと退屈だろうから、時々場所を変えると潰しそうになった御主人様に怒られた。 そのうちつぼみが膨らんできて、少し色づいた。 ある朝、花はきれいに咲いていた。 たんぽぽだった。 思い出より少し濃い黄色い花を見て、息をするのが苦しくなった。 御主人様は今日も私の後ろで、新聞を読むフリをしている。
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