質問 まず両先生に質問です。いままでに影響を受けた作家さんは誰ですか。
牧野 (田中啓文にうながされて)わたしから?
田中 はい、長幼の序というやつで。
牧野 やっぱり、筒井康隆さんの影響というのは非常に大きいですね。その大きさゆえに、筒井康隆的なものからは逃れようとしています。
田中 山尾悠子は?
牧野 山尾悠子さんは、直接影響を受けたというよりも、あこがれみたいなものですね。
田中 皆川博子なんかは。
牧野 それも、そう。直接の影響というよりは、あこがれ。筒井康隆からは絶対離れなきゃって思った。
田中 それであんな小説を書いてる。
牧野 そうそう。
田中 筒井さんをばかにしてるのか。
牧野 いや、ちゃう。でも筒井康隆から離れるって、とてもむつかしい。影響受けてるのに離れるってのはね。あとは、金井美恵子さんの初期の短篇なんかも、すごい好きなんです。
田中 ぼくも筒井康隆かな。
牧野 いっしょかい。
田中 やっぱり筒井康隆は影響大ですね。あんまりきちんとは読んでないんですが、『熊の木本線』という作品には、大きな影響を受けました。「ああ、もう、なにやってもええんか」と、そういう精神的な影響を受けた。
牧野 筒井康隆の初期の短篇を読んで、「あ、おれが今まで書いてたのも、小説やん」
田中 それまでは落書やと思ってたけど、じつは小説やったんや。
牧野 でも、ほんとは違ったんやけど、それはまあ、あとで気づくこと。
田中 海外作家では、フィリップ・K・ディックとロバート・シルヴァーバーグ。ふたりとも、いつも、ぐちゃぐちゃっと、気色わるーい、いやーな、めちゃくちゃな、くらーい、悲惨な、忌まわしーい作品を書く人ですわ。
牧野 なるほどなるほど。
田中 シルヴァーバーグは、ふつうはそう思われてないんですけど、わたしの認識では・・・・・・。
牧野 また、いやなことを書いてるのしか読んでなかった。
田中 んー、そうかも。なんか気色悪いことを書くんですよ。日本人作家では、五味康祐。あの人はまたメチャクチャなことを書くわけです。山田風太郎とはまたちがった意味で、わけのわからない剣豪小説を書く。五味の文体なんか、おもしろい。なんでぼくは今のようなだらだらしたような文体になっているのか。
牧野 そっからのがれようとした。
田中 『異形コレクション』のせいですかね、ぼくの文体がだらだらしはじめたのは。それまでは簡潔な表現を心がけてたのに。
牧野 ああ、そやね。もともとジュニアものの出身やから。
田中 なんかね、『異形コレクション』に書き出してから、だらだらだらだらしてきた。
牧野 普段のしゃべりもだらだらしてるよね。
田中 ああ、それはね。
牧野 あと、種村季弘さん、澁澤龍彦(註3)さん、コリン・ウィルソンだとかですね、小説ではないけど、自分に深く根をおろしてるものはあります。
田中 山田正紀さんは?
牧野 山田正紀さんからは、「自分の考えている、ぐちゃぐちゃーとしたへんなものを、いかにして、人に楽しみとして分け与えることができるか」ということを学びましたね。
田中 SFの人とかホラーの人とかは、わけのわからんことを考えるのが好きでしょ。
牧野 一言でいったら「ただの冗談」みたいなことを考えてる。
田中 それをマジに書くと、わけわからない、むつかしい小説になるけど、山田正紀さんはうまく娯楽小説にするんですよね。
牧野 そうやね。非常にむつかしいものを扱っているのにもかかわらず、物語としてたのしいものをつくる。そういう意味では、山田正紀さんはピカイチです。
田中 あとは初期の荒巻義雄さん。「メビウスの輪がどうこう」と、また、わけのわからんことを・・・・・・。
牧野 そんなんばっかり。
質問 最近の作家で印象にのこっているかたはどなたでしょう。
牧野 最近めざましい活躍をされているのは、飯野文彦さん。ノベライズで有名な方なんです。短篇はまとまったかたちになっていないんですけど、いやーな話を——。
田中 気色悪いセックス描写だけで六十枚とか書いちゃう。
牧野 それだけの内容。それでいやーなオチつけてね。
田中 そうそう。
牧野 ノベライズでは非常にさわやかな小説を書いたりするんですけれども。
田中 『学校の怪談』とかね。
牧野 飯野さんはジャック・ケッチャムの『隣の家の少女』みたいな、すごいものを書くのではないかと、期待しています。それと、『西城秀樹のおかげです』の森奈津子さん。『エロチカ79』という短編があって、これだけはなんとしてでも読んでほしい。
田中 あれ、『チューリップ革命』というアンソロジーに入ってたんですけど、さいしょに読んだとき、思わず「なに考えとんねん」
牧野 そんなんばっかりやね。
田中 アホちゃうか。
牧野 あの人は天然やね。すごいギャグの才能を持ってる人だと思います。個人的な意見ですけど、ギャグっていうのは、天性のものがないと、手をつけちゃだめな分野だと思います。で、森奈津子さんはある種の天才ではないか。でも、「ある種の」ってついてしまうところが、ちょっとさみしいかな。
田中 「一種の」とか「特殊な」とか。
牧野 この人も、売れればいいなと思っています。
田中 まえに森奈津子さんの講演会があって、行ってみたわけですよ。『西城秀樹のおかげです』に入ってる作品は「いかにして考えて、どういうテーマで書いたのか」って分析をしはったんですけど、「『エロチカ79』はこんな深い認識で書いていたのかー」って。あとで、本人に「そういうふうに書いたんですか?」って訊いたら「あとで考えたんですけどね」
牧野 書いてるときはそんなこと考えてない。
田中 あんなもん、考えてできるもんじゃないよね。
牧野 絶対できない。ま、そこらへんがぼくの注目株ですわ。田中くんは?
田中 ぼくもおんなじですわ。
牧野 いっしょかい。どっちもおんなじような生活送ってんのか。ほかには?
田中 まあねえ、おんなじようなとこに作品発表して、おんなじようなもの読んでるから。
牧野 もうちょっとちがうものないん?
田中 伝奇ホラーとか伝奇ミステリとか伝奇系のやつは、見つけたらかならず義務として読んでしまうんですけど、そのあたりにこれというものはないですね。
牧野 そんなもんでございます。
質問 両先生はいつごろお知りあいになったんですか。ボケとツッコミの関係はいつごろから形成されたものだったんでしょうか。
田中 小学校の同級生。
牧野 うそをつくのはやめようや、な? アタマっからうそやん。
田中 同級生というのはおかしい。歳が・・・・・・。
牧野 五つくらいはなれとるやろ。
田中 ぼくが一年生のとき五年生・・・・・・おなじ小学校で。
牧野 いやいや、違うやん。
田中 何小学校だったんですか?
牧野 精華小学校っていうとこやったんやけど。
田中 じゃあ、そういうところで。
牧野 全然答になってないやん。むこうが質問したことに答ていこうよ、ね? 最初、菅浩江さんがぼくらを会わせたいといわはって、場を設けはった。
田中 「大阪で会いましょう」って。それなのに、菅さん、待合わせ場所に四十分くらいおくれて来はった。そのころはおたがい全然面識ないから、どないしよか思ったんですけど。ところが、その、人がいっぱいいるなかで、どう見てもこれが牧野修としか思えん人がいる。
牧野 そんなばかなことないんちゃうかなー。
田中 いや、見まわしたら、「牧野修やー」いう人がおったんですわ。「すいません牧野さんですか」て声かけたら「そうです」
牧野 ようわかったね、それで。
田中 ま、万事うまくいったんです、それで。
牧野 ボケとツッコミに関していうならばですね、田中啓文さんは、ほっといたらいくらでもボケてるわけですよ。とにかくボケてることしかいえへん。
田中 うん、ぼくはね、いままで一回もツッコんだことなんかないんですよ。ツッコむくらいやったら、もう帰る。
牧野 ボケにボケばっかり重ねていくんで、とめなきゃって思ってとめるんですけど、我孫子さんにいわせれば、「それはちょっと過剰な親切ではないか、ほっておけ」
田中 いや、ほっておけないところが、またいいんじゃないですか。
牧野 ほっておけないわけじゃないんやけど、イライラしてくるんですわ、横でボケられると。それだけのことですわ。はい。
質問 大学時代は小説を書くこと以外になにをしてらっしゃったんですか。上司に「牧野さんと芸大で同期だった」という人がいて、「牧野くん、ぎょうさん同人誌つくって、学校中にまわしてたで」とおっしゃってるそうなんです。牧野さん、当時はどのような作品を書かれていたのでしょう。
牧野 同人誌はやってなかったです。
田中 別人?
牧野 うん、それはべつの牧野ちゃうかな。もうひとりおったんですよ、牧野ってやつがね。いや、ほんとうに同人はやってなかったですよ。
田中 映画つくってたんでしょ。
牧野 はい、映画つくってました。大学のときはあんまり書いてなかったなあ。ちょうど大学の四年間っていうのは、いちばん小説を書いてなかった時期。それと現代美術が好きで、展覧会もいろんなところでちょこちょこやってた。だから小説は読んでたけども、書いてない時期です。
田中 ぼくは大学は行ってないですね、ほとんど。
牧野 なにしてたんですか。
田中 サックス吹いてました。大学に入って、はじめて専門の授業に出たのは五年のとき。それまで一回も出ませんでしたからね、授業の出かたがわからなかった。四年のときまでなにも出てなかったから、五年目で卒業しなくてはと思って、後輩に「授業ってどうやって出たらええの? 入ってから、誰かになんかいわんとあかんの?」って訊いたら、「いや、適当に入って座ればいいんですよ」「んで、座る席とか決まってんの?」「なにも決まってないから、あいてるとこに座ればいいんですよ」、そういうことでした。
牧野 それで卒業できたの?
田中 はい、五年目でね。
牧野 えらいね。
田中 めっちゃえらいでしょ。
牧野 ・・・・・・ちょっと後悔した、いま誉めたのを。はい、次の質問いってください。
質問 漫画カルテットの方々のなれそめを聞かせてください。
牧野 べつにそういう団体があるわけではないんです。京都SFフェスティバルいうのがあって、なんだか夜通しぐだぐだだらだらと畳の部屋で話をする会になってまして、わたしと田中啓文氏と小林泰三それから田中哲弥の四人がだらだらしゃべってたら、しゃべってるまわりに人垣ができたってのがはじまりです。
田中 それだけです。
牧野 実態はないんです。べつにグループの名乗りあげたとかはね。
質問 井上雅彦先生について語ってください。
牧野 これは田中さんがくわしい。こないだ対談されたばかりですね。
田中 井上さんねえ・・・・・・変わった人ですね。
牧野 作家には、例えばいまこうしているみたいに、人の前に出て、作家というものを見せなきゃならない場合があります。そのときに自分と作品との整合性を持たせるのは、非常にむつかしいことなんですね。多少演技が入ったり、つくった部分が入ったり。その意味では、井上雅彦さんは生涯一役者として、自分の作品に合わせた演技をしてらっしゃる。ぼくはすごい好きですね。
田中 あんなビラビラの服着て薔薇の花つけてということを、ファンの前に出るときにするならわかるんだけれども、ひとりのときにもしてる。役づくりに入ってますからね。みんなでカラオケに行くでしょ、みんながギャーとか騒いでるのに、ひとりだけじっと窓の外眺めてたり。
牧野 すごいよね。
田中 井上雅彦がカラオケでなに歌うかってわからんでしょ。「ゴォルドフィンガ〜」って歌う。
牧野 歌う歌う。
田中 田中哲弥によると、薔薇の花をくわえてたことがある。
牧野 どこでどうしたか知らんけど、持ってるよね、薔薇の花。
田中 こないだ『ダ・ヴィンチ』で対談したでしょ。ぼくはTシャツとジーパンで行ってるわけですよ。井上さんはですね、カッターシャツの、クリーニングからとってきてまだ袋に入ってるやつを、「持ってきたから着てください」って。なに考えとんねん。
牧野 ビジュアル系やね。
田中 ビジュアル系ですね。
牧野 数少ないビジュアル系作家ですから。
田中 言動もおもしろい。
牧野 おもしろいおもしろい。
田中 根っからのホラーなかたでいらっしゃる、外見もなにもかも含めて。
牧野 以上でよろしいでしょうか。
質問 ミステリ作家が作品をを書き続けているとトリックがありきたりになるように、専業作家になってくるとホラーを書くのに必要な情念みたいなものが枯渇するのではないか、心配になってきます。そのあたりで工夫なさっていることはおありでしょうか。
牧野 他の方はどうか知りませんけれども、ぼくは書くときにジャンルはあまり意識してないんです。読むときはジャンルも考えたりするんですけれども、書くときは好きなように書いてる。だから、「ホラーが書けないよー」みたいなことは、あまり考えてないですね。ホラーとして枯渇するということはないでしょう。枯渇するとすれば、小説を書きたいという意思そのものですかね。
田中 ぼくは書きたいことがめちゃめちゃぎょうさんありまして、この点は不自由せんと思いますが、このペースでは一生かかっても自分の書きたいことが全部書けないんじゃないかと思ってます。とりあえず当分はネタはいっぱいありましてですね、ただ注文に応じたネタがあるとはかぎらないので、ないときはまた考えるという感じですけど。枯渇するということはないですね。
牧野 ミステリにおけるトリックというものと、ホラーだのSFだのにおけるネタっていうのは、かなり意味合いがちがうような気がしますね。
田中 いまメフィストに「鬼刑事もの」というのを連載してて、自分では「ミステリも結構書けるなあ」と思ってたんですけれども、やっぱりだめでしたね。
牧野 ミステリとSFだのホラーだのは、根本的に考え方が違う。
田中 ぼくは「ここでちょっと笑ってもらおう」と思って書いてるのに、担当さんは「トリックが弱い、これではミステリ読者は満足しない、ここはひねりが足らん」と、こう来るんです。「トリックなんかどうでもええやん」て、喉まで出かかるですけどね。
牧野 それいうたらおしまいですからね。
田中 それいうと載してくれないから、「じゃあ、考えます」とかいうの。すると「四日間で考えて書き直せ」とかいわれて、『メフィスト』に関しては、非常に苦労を重ねております。
牧野 トリックの枯渇と、わたしたちのいう「ネタが切れる」とは、関係ないんじゃないかな。
質問 田中先生に対する質問です。目の前のペットボトルに手をつけられていませんが、やはり『水霊 ミズチ』を意識されているのですか。
田中 『水霊 ミズチ』で水がどうのっていうのは、一切ありません。宮部みゆきさんが「あれを読んで、水飲むのが怖くなった」っていった聞いて、ぼくはほーとか思ってたけれども。
牧野 本人は全然なんとも思ってないね。
田中 全部でたらめですから、あんなもの。
牧野 なんか思いついたこと書いてるだけやから。
田中 ところで、あれはめずらしいですよ、『水霊 ミズチ』なんていうのは。
牧野 なにが?
田中 唯一取材に行った作品なんです。三日間宮崎に行った。他で取材なんて行ったことないんですから。柳生十兵衛の連作してたときも、奈良の柳生の里に行かなあかんと思ってるうちに、もう終ってしもた。
牧野 なるほどね。
田中 ということです。
質問 では、田中先生は「ニグ・ジュギペ・グァのソテー、キウイソース掛け」を出されたら、お食べになりますか。この質問を出された方は「わたしは一度食べてみたい」とおっしゃってます。
田中 といわれても、なんと答えていいのかわかりませんが。
牧野 次の質問に。
質問 それでは牧野先生への質問です。『病の世紀』の採血シーンで、「チクッとしますよ」という記述があります。あまりに実際の医療現場を彷彿とさせるのですが、先生ご自身が体験なさったことなのでしょうか、それとも身近に医療関係者がいらっしゃるのでしょうか。
牧野 それもまったく、全部でたらめです、なにもかも、はい、アタマから、なにもかもでたらめです。
質問 牧野先生への質問です。先生の最近の作品はホラーが多いようですが、『MOUSE』のような作品を書かれることはないのでしょうか。
牧野 『MOUSE』はSFの範疇に入りますよね。ぼくにとってSFとはなにか。今『SFマガジン』に『傀儡后』というのを連載してるんですよ。それは、とりあえず好きなように書いてます。ぼくの場合、自分の好きなように書いたらそれがSFになっちゃうんです。だから好きなように書かせてもらっています。でも、『MOUSE』みたいなのはもう書かないだろうなあと思います。
質問----
田中先生への質問です。むかし『本格推理』に作品を発表されていましたが、今後そういう方面の作品を書くこともあるんでしょうか。
田中 『メフィスト』に「鬼刑事もの」というのを連載してるんですけど、あれがしばらく続きます。それから、次に角川で書く長篇は、ミステリなんですよ。
牧野 ほんと?
田中 ほんとほんと。ミステリだけど、伝奇ホラー・メタ新本格ミステリ。
牧野 なんです、それは?
田中 ちゃんと殺人事件が起こって、連続殺人になって、さいごに解決する話なんですけれども、一応そこにメタな手法がずっとあって、それで基本的には伝奇である、と。そういう話ですね。
質問 田中先生への質問です。先生が以前書かれていた『木霊 コダマ』はどうなっているんでしょうか。
田中 『木霊 コダマ』は『水霊 ミズチ』の続篇なんですが、めちゃめちゃ話がでかくなりすぎてですね・・・・・・いや、ほんとうにええネタなんですけれども、手におえなくなっちゃってですね、しばらく置いとくことになりました。ミステリを書いて、『木霊 コダマ』はそのうちかな。『水霊 ミズチ』が千枚くらいなんですけど、『木霊 コダマ』はもっと長くなるかなあ、大ネタがふたつあるんで。たぶん、わたしの今のリサーチ能力では、これはよくは書けないであろう、と。
牧野 完成はいつ頃になります?
田中 とりあえず予定は立っておりません。
牧野 でもせかされてるでしょ、『水霊 ミズチ』の続篇ってことで。
田中 まあ、せかされてるのは徳間の長篇のほうでしょう。徳間の長篇というのは、もう一年以上書いてるのかな。去年の『このミス』で廣済堂の隠し玉になってたぐらいですから。それで廣済堂が文芸から撤退して徳間にうつってから、もうかなりになりますからね。
質問 牧野先生、足のけがは完治なさったんでしょうか。
牧野 すごい個人的な話やね。大雨の日に、自宅のマンションの階段からすべって落ちて、足を捻挫したんです。
田中 すごかったもんねえ、落ちたとき。見てたら、こう、ごろごろごろごろ、で、さいごはぴたってとまって。
牧野 見てへんかったのに、いい加減なこというな。もう大丈夫です、はい。
質問 両先生の好きな漫画家をおしえてください。
牧野 好きな漫画家ですか。サガノヘルマーは大好きですね。『ブラック・ブレイン』全十巻。
田中 だれも知らんか。
牧野 あとは『喜劇駅前虐殺』の駕籠真太郎。諸星大二郎はふたりとも共通して好きですね。
田中 このまえ、サインもろてきて。
牧野 伝奇ものを描いておられて。
田中 伝奇じゃないのもあるじゃないですか、『栞と紙魚子』、あとSFとかもあるけれど、すべてがわたしのツボをつくような感じで。
牧野 絵がいいですよね。
田中 絵もいいし話もいいし。
牧野 なんやった、あの、ゴーストハンターものさがしてて掘り当てた鉱脈・・・・・・?
田中 三家本礼の『ゾンビ屋れい子』。おもしろいですよ。ぶんか社から出てるんですよ。もうね、大笑い。これを『ダ・ヴィンチ』のバカ・ホラー特集で挙げたら、ぶんか社が「よくぞ挙げてくれました」って、本を贈ってくれるようになりました。『ゾンビ屋れい子』は、みなさん、ぜひ読んでください。もう、めちゃめちゃおもろいから。鬼畜鬼畜。
牧野 そんなんばっかりやね。心があたたまるようなものはないんか。
田中 チャールズ・M・シュルツ。
牧野 それはあたたまるね。実際読んでたし。
田中 サガノヘルマーは?
牧野 あたたまるか。
田中 『ブラック・ブレイン』はもう出てないんですよね。でも、ブックオフとかに行ったらまだ全十巻ぼんと揃っているので、あれを買ってみんなでまわし読みしたら、じゅうぶんたのしいと思います。あれも大笑いですよ。そんなもんですか。
(平成十二年十一月十九日、立命館大学衣笠キャンパス存心館803号教室にて)
註1 『ミユキちゃん』。
註2 『宇宙からのメッセージ』という映画があったことは知っていたが、タイトルを公募して決めたのかまではわからなかったので、田中先生にメールでうかがった。返信に「もともと「メッセージ・フロム・スペース」という仮題がついていて、それに対して公募して正式タイトルを決めるということになっていたのだったと思います(はっきり覚えてないけど)。結局、ふたをあけてみると、英訳を直訳しただけのものに決まってがっくりきましたが。」とあった。
註3 いうまでもなく「彦」はほんとうは旧字体だが、パソコンに字がなかったので、やむなく新字体で表記した。
テープ起こし:橘高明(講演会部分)、水城レイ(質問会部分)
構成:水原晶夫
最終更新:2010年08月02日 12:37