球と剣

 

 皆が”骸”と思っているランチアの攻撃は、一発目を山本が防いだ。

 というより、もろに喰らっている。

 

『ちょ!大丈夫?!』

「あはは、平気平気」

「んなわけねぇだろ!野球バカ!」

「やべーな。こいつは強ぇーぞ」

 

 蛇鋼球なんていう馬鹿でかい球を直撃させられたのだ。

 血は出てないものの、あばらを何本かやられているはず。

 

「!く!」

 

 獄寺がその場にうずくまり、荒い呼吸を繰り返す。

 

『って、副作用!ビアンキさん!頼んだ!』

「わかったわ!」

 

 私は山本と並んで、防御壁となる。

 

「そんなもので、俺の攻撃が防げると?」

『思わないわ』

「櫻姉さんは後ろに居てもいいんだぜ?」

『武君、お気遣いありがとう。でもね、君のその怪我じゃ、説得力ないのよ』

 

 私は儀礼剣を取り出し、かまえる。

 

「ほう。面白いものを持っているな。だが武器には程遠い」

『それは、威力を見てから言うのね!』

 

 儀礼剣を横に薙ぐ。

 生まれた風の刃がランチアの服を切り刻んだ。

 

「なに?!」

「うお、すげっ!」

『さぁ、かかって来なさいよ』

「ちっ!千蛇烈破!」

 

 山本を取りあえず横へはねのけ、少しスピードを出してランチアの真横へと移動する。

 

「が!櫻姉さん!」

「な!」

「あめぇな。櫻はスピードによって雲雀の攻撃を上回っているんだぞ。だから喧嘩のランキング一位になったんだ」

 

 驚く一同に、リボーンが説明する。

 

「そう、だったん、すか。リボーンさん」

「ああ(他にもいろいろあるんだがな)」

 

『遅いわ』

 

 新たに儀礼剣を振り、地面に攻撃を当てて土煙を巻き起こす。

 みるみるうちに、ランチアの鉄球が迫りくるが、私はもう一回儀礼剣を振って躱した。

 

「!こいつは」

「成程ね」

「まさか、気流?!」

 

 ビアンキは納得し、山本と獄寺は驚いた。

 彼らの目の前では、気流vs気流の攻防が繰り広げられている。

 

「俺と同じ技を使うものがいたとはな」

『お生憎さま。同じじゃないわよ!』

 

 

「聞いたことあるぜ、野球のボールは後ろに乱気流を作りながら進むって。だが、こいつのはそんなレベルじゃねぇな」

「あの乱気流の秘密は、鉄球の表面に掘られた蛇だぞ

「どういうこと?」

「あの蛇をかたどった溝(みぞ)が、球に当る風の流れを捻じ曲げているんだ。溝を通って生まれた気流は複雑に絡み合って、威力を何倍にも増幅させた熱風をうみ出すってわけだぞ」

「でしたら、櫻さんは――」

「それは、あの儀礼剣と櫻自身の己が内に眠る力だ。櫻もツナと一緒で、内面にかなり力を秘めている。その力を開放するために、あんな獲物を使っているんだ」

「儀礼剣が、か?」

「どういうわけかはわからないが、あの儀礼剣の形と何かしら同調するところがあってな。櫻は力を使う時に限って、それを使用し空気を操ることが可能なんだ(本当に、どういうわけかは直接聞いてみないとわからねぇな。聞いても分からないかもしれねぇが)」

 

『はぁ!』

「千蛇烈破!」

『あまい!』

 

 

「気流が気流をぶった斬ってやがる」

「だが、気流をぶった斬ったって、質量は変わらねぇ」

「ああ」

 

 そう。

 これは所詮、時間稼ぎ。

 早く戻ってこい、ツナ!

 

 


 

 

 ランチアを何とかこちらのペースに乗せて、五分粘った。

 

「なるほど、そういうことか」

 

 でもその後には、みきられてギリギリで躱すだけ。

 力を使うのには、結構体力を使う。

 体力をつけて言って入るけれど、全盛期ほどじゃない。

 だから、もう……そろそろ限界……

 

「うぉおおお!」

 

 ああ、やっと来たのかへタレ弟。

 ……行って来い、ツナ。

 少しだけ寝るから……

 

 


 

 

「遅いぞ。ツナ」

「って、おい!櫻姉さん!」

「山本武!彼女をこっちへ!」

「大丈夫なんすか!」

 

 俺が寄っていき櫻を診る。

 

「おそらく、力の使い過ぎだ。少し負荷をかけちまったんだ。心配することはねぇ。少し寝て目ぇ覚ますだろ」

「リボーンさん、よかった!」

 

 しかし、櫻の奴なに手こずってんだ?

 ……ツナ達に後を譲ったのか?

 

「リ・ボーン!死ぬ気でお前を倒す!」

 

 そこからは最期の死ぬ気弾を撃たれたツナが、鉄球をかいくぐり、攻撃を躱してパンチを叩きこむ。

 躱しきれないと思った鉄球は受け止めて、撥ね返した。

 それを敵は「久々に全力を出せる」と肉弾戦を挑んでくる。

 先程よりも敵の動きは良い。

 ツナも一時期鉄球に潰され、やられたと思いきや、そこから立ち上がり、こう言い始めた。

 

「まだだ」

「なんだと?!」

「あんたは悪い人じゃない。俺には解る」

「貴様何を言っている!」

「そんな弱い心では……死ぬ気の俺は倒せない!

心だと?!俺の事を解ったように口をきくな!!

 敵を倒し、地獄の底に叩き落とす……。それが俺の本心だ!!

嘘だ!!

 

 

 心理状、ツナが優位になり、は鳩尾に一発入れられて膝をつく。

 

「こ、この俺が負けただと?!」

「攻撃をした後、目を閉じていた。相手が倒れるのを見たくないかのように。止めを刺すのに、自分の拳ではなく、鉄球を使った。それは貴方の心に罪悪感……迷いがあるからだ」

「なっ」

「可笑しいと思ったんだ。貴方からは恐い感じがしなかったから。家にランボって子と、俺の姉がいてさ。似てるんだよ。どっちもくちゃくちゃやるんだけど、憎めないっていうか……。根は暖かくていい奴らだからさ」

ああ(こいつ……一見して俺を見抜いたとでもいうのか。……成程これがボンゴレの血か

 

 敵は自ら負けを認めた。

 そして自ら”自分は六道骸ではない”と言ってくる。

 ツナが焦って、再度確認するが彼は、自らは影武者であると言った。

 

「偽物?!」

「で、でも刑務所の写真に写っていたのは間違いなく貴方で――」

「本物の骸は、自分の姿を記録に残すようなヘマはしない。……そして、六道骸。あいつは俺からすべてを奪った男だ」

 

 その言葉からはかなり、憎しみがにじみ出ていた。

 これは真実を聞く必要がある。

 

「何があったか言え」

「五年前。俺は北イタリアにあるマフィアの一員だった。身寄りのない俺を育ててくれたボスとファミリーは、俺の命。その恩に報いるため、俺は用心棒としてエリア最強と言われるまでになっていた。ある日、ボスがまた身寄りのない子を引き取ってきた。なんでも、野望に満ちた目が気に入ったらしい。その子の面倒は俺が見ることになった。本当の家族同然にかわいがった。ファミリーが俺にしてくれたように

 

 よくある話だ。

 という事はここからが問題なのだろう。

 

「ところがある日。俺がアジトへ戻ってみると、ファミリー全員がやられて誰ひとり生きてなかった」

「有名な事件だな。しかも犯人は未だに分かっていない」

 

 ちょうど櫻がイタリアに居なかった時期でもある。

 彼女はちょくちょくボンゴレの人達と会ってはいたが、そちらまで手と出してはいない。

 ……身の程をわきまえたのかもな。

 なにしろ十二歳では何もできねぇし、力も目覚めていなかったはずだ。

 

「俺だ」

「……え?」

「俺がやったんだ。この手で!」

「ど、どういうこと?」

「急に意識が遠のいて……気が付くと俺は、いつも身に覚えのない屍の上に立っていた。一度や二度じゃない」

「おかしいよ?!だって自分がやった記憶はないんでしょう?」

「俺は操られていたんだ!……あの餓鬼に。六道骸に操られていたんだ!」

 

 成程な。

 意識を乗っ取って操り人形に仕立て上げたのか。

 姿が不明な事といい、厄介だな。

 

「いつしか俺は、名も心も奪われ、偽の六道骸となっていた」

「それですべてに絶望し、戦うだけのモンスターになったのね」

「なんて奴だ。六道骸……人間のすることじゃない」

 

 だろうな。

 

「ぶっ倒しましょう。十代目」

 

 獄寺が起きたか。

 

「ボンゴレ。お前なら出来るかもしれない。骸を倒すことが。良いかよく聞け奴の本当の狙いは――」

 

 

 

 

『まったく油断も隙もありゃしない』

 

 ニセ骸を襲う毒針が風の気流によって防がれた。

 それと同時に聞こえた声は、櫻のもの。

 

「起きたか」

『まぁね。五分寝れば充分ですから』

 

 雲雀を上回る戦闘力と、風という特殊な力、そして知識の使い方。

 ……こりゃ、持ってるっていう知識より、櫻自身の方が厄介かもしれないな。

 

 


 

 

『んで、そこのお兄さん。えっと、名前ランチアだっけ?狙われてるから、この場からいったん引くよ。というか、私がついてく』

「なっ!」

 

 驚くランチア。

 

「櫻姉さん!?体調は?!!」

『大丈夫よ、ツナ。伊達に雲雀さんに毎日追われてるわけじゃないからね。とりあえず、貴方たちの体力温存は出来たし、これ以上はお粗末だわ。ということで、ツナ。速やかに行って倒してきちゃいなさい』

「そんな無茶な?!櫻姉さんがいるから安心してたのに!!」

『ん?それともまた丘の上から転げて落ちますか?ああ、それとも崖がいい??』

「う……櫻姉さん。それはちょっと……」

『じゃ、返事は?』

「は、はいぃぃっ!!了解しました!!」

 

 回れ右して建物へ急ぐツナ。

 

『ん。素直な事は良い事です』

「おい!あいつの目的を聞かせなくていいのか?」

『ああ、ランチアさん。いいんですよ、それで。どうせ、その骸とやらが話してくれるでしょうし。さぁ、とっとと移動するぞ~』

 

 ランチアさんの首根っこを掴んで引きずって、来た道を戻る。

 

『あ、そだ。獄寺君。これ!』

 

 懐にあった袋を彼に放り投げた。

 獄寺はそれを受け取る。

 

「なんすか?」

『痛みが治まる、おまじない』

「あ、ありがとうございます!」

『んじゃ、武君も、ビアンキさんも後はよろしくね~』

 

 そうして私は前線を離脱した。

 

 


 

 

「リボーンさん。櫻さんは、なぜこのタイミングで離脱を?」

「九代目の計らいだ。彼女にも直接手紙が来ていたことは知っているだろ?櫻に与えられていたのは、主戦力であるランチアを戦線から引き離しておくことだったんだ。まぁ、雑魚まで相手にしちまってたけどな」

 

 一同ツナを追って建物へと入りながら言う。

 

「でも、リボーン。彼女も敵からしたら格好の餌じゃ……」

「ああ。それは俺も考えたんだぞ、ビアンキ」

「なら、一人にしない方が――」

「だと思うだろ?だが、さっきの戦闘で櫻は本気の一割程度しか使ってなかった」

「どういうこと?」

「リボーンさん、それって」

「おい、小僧」

 

「まぁ、落ち着け三人とも。櫻はそれだけ強いってことだ。だから、心配しなくても大丈夫だぞ」

 

「……そう」

「んじゃ、急ぐか!」

「おう!」

 

 ビアンキ以外納得して加速する。

 

 やはりお前はこれくらいで騙されはしないか、ビアンキ。

 だが、櫻の事情はそれくらいしないといけないくらい特殊なんだ。

 だから少し待て。

 

 

 

                               次ページ:対峙

 

 

 

最終更新:2015年12月22日 21:11
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