知と耳と音

 

 

「この調子なら、意外と簡単に骸ぶっ飛ばせそうですよ。十代目」

「骸を侮らない方がいいぞ」

 

 調子に乗る獄寺をリボーンが諌めた。

 リボーンは一枚の写真を放り、私達に見せる。

 その写真には、囚人が三名写されていた。

 

「奴は何度も危機一髪のピンチを、相手を叩き潰して抜けてきたんだ。今度の脱獄も死刑執行前日だったしな」

『それに雲雀さんが帰ってきていないという事は、ずっと張り合い続けているか、やられているかのどちらかしかないからね。用心に越したことはないよ、ツナ』

(う”。やっぱ六道骸怖ぇー)

 

 ま、写真は、んな怖くないよね。

 別人だし。

 

 問題は人の気配が増えたことの方だ。

 敵の言う援軍らしいが、こちらにとっては面倒事が増えただけだ。

 

 とりあえず、少しだけ本気だそうかな?

 

 


 

 

「ちょっと、あの」

「「「ん?」」」

「結構歩いたし、ちょっと休まない?」

「そうだな。俺腹減ってきたぜ」

「ついでに昼にしましょう、十代目」

『そうね』

 

 私も少し侮っていたよ。

 この娯楽施設の敷地面積を。

 まさか、端と端を往復するだけで二時間近くもかかるとは……

 バブル経済の時のみんなの感覚ってモノが如何に狂っていたかよくわかる。

 私の足で二時間だ(しかも実際歩いたのはこの敷地の三分の一。計算で弾きだしてみた結果こうなった)、ツナならばもっとかかる。

 

 階段を上がりきった場所に、そのまま放置されていたコンクリート造りのイスとテーブルがあった。

 

「じゃ、寿司とお茶を配るぜ」

「わぁ、山本んとこの寿司だ!」

 

 そういえば、武君とこ高級寿司店だもんなぁ。

 ツナのはしゃぎ様も何となくわかる。

 ……てか一度食べに行って皿洗いさせられたんじゃなかったっけ?

 しかも奢りだとか言われつつ、置いてきぼりにされてという状況で。

 

「どきなさいよ、山本武。はい、ツナ。緑黄色毒虫入りスープよ」

「毒虫ですか?!」

「身体が温まるわよ」

(飲んだら、温まるどころか、冷たくなるんですけど!)

『!皆少し伏せてて』

 

 気配を感じて、私は攻撃体勢を取り、少しだけ力を開放する。

 ついで懐からナイフとフォークを取り出し、左右に投げた。

 

「なっ!櫻姉さん!」

「「櫻さん」」

「櫻、貴女」

 

 遅ればせながら反応する四人を尻目に、私達の眼前に木々が倒れていく。

 さっき左右に投げたナイフとフォークで斬り倒したものだ。

 

「おい」

『リボーン。ここは任せて。私が相手をする。歩きながら栄養補給はクッキーとかでしてたし』

 

 敵が放った音波が木の幹に当り、少しだけ砕けた。

 どうやら、もともと娯楽施設だっただけあるらしく、耐火性の木が植えられていたようだ。

 もちろん火は点くだろうが、いわゆる燃えにくい状態の物なのでペットボトルのお茶を一本貰い全てかけ、火を消す。

 

「ちっ、今ので私の居所まで分かっちゃったんだ。さすがは並盛喧嘩ランキング一位様!」

 

 クラリネットを持った短髪の女がゆらりと立ち上がる。

 こめかみからは少し血がにじんだ。

 

「まさか、だっさい武器で一太刀入られるなんて」

『あら、私が使っているのは本来武器じゃないモノですよ?食事用です。そちらは演奏でもするの?』

「あら、言ってくれるわね。……貴女さえ倒せば、骸ちゃんにいろいろ買ってもらえそう」

 

 建物の影から立ち上がった彼女に、吃驚するツナ達。

 

「んな!あれ黒曜中の制服!」

「ってことは敵か!援護します、櫻さん!

「まぁ、待てって。獄寺」

「なんだよ、山本」

「櫻姉さんの本気見てろよ。結構面白いぞ?」

「な、面白いって……山本!」

「そうだぞ、獄寺。少し黙って見ていろ」

「リボーンさんまで……」

「でも、リボーン」

「ツナもよく見ろ。櫻の奴。もう相手を翻弄していやがる。しかも、あの獲物でだ」

「隼人、リボーンの言う通りよ。私達は少し下がりましょう。貴方もよ。山本武」

「ああ」

 

 こうしてほかのみんなが後退するなか、私は己が内に収めていた殺気を少し放つ。

 

『へぇ?その言動から察するに、任務さえこなせば何でも買ってもらえる立場にあるって事ですか?』

「な、なによ?!この殺気!」

『可愛い後輩と弟達に手ぇ出したんだよ?これくらい覚悟の上だよね?』

 

 ナイフとフォークを構え、目を細める。

 

「くっ!」

『ああ、もう別にいいです。既に仕掛け終わっておりましてね。貴女のクラリネットは既に使えませんよ?』

「な、なんですって?!」

 

 彼女が確認すると、クラリネットには見事亀裂が入っていた。

 最初の一撃で過剰に使ったエネルギーを、そこへと集中してお見舞いしておいたのである。

 これで、振動攻撃は防げるはずだ。

 

 まぁ、『風の守護者なめんな!』とは言いたいが、それは抑えておこう。

 

 

『さぁ、それで?どうします?白旗を振って諦めますか?』

「んな訳ないでしょ!」

 

 意地とばかりに彼女はクラリネットを三節棍にして向かってきた。

 

「変形?!櫻姉さん!」

 

『黙って、ツナ。心配などいらないから』

 

 ナイフを儀礼剣と持ち替え、懐へとしまった。

 

 突っ込んで来た彼女の棍を儀礼剣でからめ捕り、フォークで連続的に攻撃する。

 

「くがああ!」

『接近戦で、三節棍を選んだ事は褒めますが、あいにくこちらの方が扱いやすい』

 

 流石、ミニ・デビルフォーク。

 ド○クエのベビーサタンが持ってるのって、これだよね。

 私は加減してるけど、良い子のみんなはこんな風に使っちゃだめだよ?

 

 武器から手を放した彼女は、腕と肩を抑えてその場に転がる。

 

『逃がすとお思いで?』

 

 風の力を使って、彼女の周りを真空状態にした。

 

「う、っが……う、そ……」

 

 数度もがいた後、彼女はその場に意識を失って倒れる。

 

『気絶しましたか。ま、食事を邪魔するのがいけないんですよ?』

 

 

 私はそう言うと、くるりとターンしてツナ達の元へと歩いて行った。

 

 

 

 

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最終更新:2015年11月06日 23:04
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