ロマーリオさん達とホテルにつくと、そこには仁王立ちしたベルフェゴールが待っていた。
ちなみに何かの対策なのか、高級ホテルでした。
「ししし。櫻、久しぶり」
その笑みも、顔だちも変わっていない。
変わったのは声と着ているものだけ。
『ベルフェゴール?だよね。声変わりしたんだ……』
「って、そこだけかよ。俺、かなり背が伸びたと思うんだけど」
「お二方。再会してなんだが、先に部屋にいったらどうだ?」
ベルフェゴールがナイフを取り出しそうになっているところを見かねて、ロマーリオさんが言う。
「ちっ、跳ね馬んとこのか。仕方ないな」
『……はぁ』
相変わらずだと思いながら、歩き出したベルフェゴールについて行く。
後ろを振り返ると、ロマーリオさんはその場で手を振って見送っていた。
どうやら別々の階にでもしたらしい。
高級とはいえ、ホテルとしての性質は変わらないから、構造的になんら変わった事は無かった。
しいて言えば、フロアにある部屋の数が少ない――つまり一部屋一部屋が大きい――という事だけ。
エレベータに乗り、かなり上がってから、扉が開いた。
……うわー。
人が、砂の粒みたい。
「ししし、何見てんの?」
『あー、あまり高いビルとかには来ないからさ。景色を眺めてた』
ふーんと彼は言って、私を促した。
深紅の絨毯を敷き詰めた廊下を少し歩くと、ワンフロア丸々使った部屋へとたどり着く。
ベルフェゴールに扉を開けてもらって入った先には、ザンザスとスクアーロがいた。
「ヴォオオイ!やっと来たかぁ!!久しぶりだなぁ!」
スクアーロがそういうと、ザンザスがワイングラスを投げた。
中身が半分くらい入っていたので、グラスが当たったスクアーロの後頭部がベショベショである。
「うるさい」
「ヴォイ!いい加減その癖止めろぉ!!」
変わっていないその姿に私は苦笑した。
『まったく、二人とも。そこでやめません?』
「櫻、お前少し変わったか?」
ザンザスが聞いてくる。
『……変わったと思う?』
「いや、思わない。お前の精神年齢は変わっていないというからな」
『まぁ……そりゃそうだけど。って、ちょうど今のあなたの年齢と同じですか』
「ああ」
『……そっち行っていい?』
「てめーを拒んだことはねぇよ」
広い部屋を歩いて、スクアーロとザンザスの間まで行く。
すると、ザンザスはやはり、私を膝に座らせた。
って、この年齢だと、ほんとハズいんじゃ!
「跳ね馬に聞いた。やっぱり、てめぇは考えすぎだ」
両手で己の胸に押し付けるザンザス。
待て!
これなんかの羞恥プレイか?!
スクアーロとベルフェゴールがガン見してんだけど!!?
「ゴチャゴチャ考えんな」
「そうだぜぇ。なんたって、お前の後ろ盾は俺らだからな」
「ししし、王子がついてるって、安心できるっしょ?」
…………そういうことか。
私は、いったん乙女思考を停止させて身体の力を抜く。
抜けば自然とザンザスに身をゆだねる形になった。
『うう。やらないといけない事沢山あるのに』
「ちったぁ力抜け」
『うん』
しばしの間、静寂が落ちた。
私が落ち着いた頃、ザンザス達はなにやら宴の準備をし始めた。
おいおい。
かなり本来の物語捻じ曲げたから、この子たちに自主性が芽生えてても可笑しくないなーとかは微かに思ってたけど、マジでか。
……変わってないのは、ザンザスが手伝わないだけ。
というか、私を膝に乗せたまま指示を出す、指示出し人間になってる。
みるみるうちに、豪華海鮮ディナーが用意された。
ザンザスの席らしきところには、ウィスキーが置かれている。
あ、コップの中に大きな玉状の氷が入ってるよ。
……テレビでしか見たことないぞ、そんな氷。
ザンザスに手を引かれて席につかされる。
自然とその横は、ザンザスが座っていた。
……あれ?
この状態って、私が食べさせる側か?
コンパニオンすればいいの??
「ほら、食べろ」
箸を器用に使って、ザンザスは私にお刺身を食べさせようとする。
ウソだろ?!
あのザンザスが食べさせる側??!!
さすがに吃驚したのか、スクアーロとベルフェゴールは動きを止めてそれを見ていた。
スクアーロは、冷製うどんを食べる直前で。
ベルフェゴールは醤油とわさびを混ぜている状態で。
私はこの後の沈黙が怖いので、ありがたくザンザスからお刺身を食べた。
その後も、いろいろ食べさせられる。
蕎麦、寿司、おひたし、サラダ、カルパッチョ。
あー、ウィスキーと氷が溶けるぞ??
『ザンザスおにいちゃんは食べないの?』
「俺は、酒で十分だ」
『それじゃ、体に悪いよ?もっと何か食べなきゃ』
「じゃ、櫻が食べさせろ」
…………はい?
今、食べさせろと言いましたよね?
え、ええ??
これザンザスにやるのかなり恥ずかしいよ……。
そりゃ、前世OLでも、介護職という名のOLだったからやれるっちゃあ、やれるけどさ。
私はとりあえず、一つため息ついてザンザスの口に食べ物を運んでいく。
これが任務だったら、何気にランクが高そうだ。
こんな風に交互に食べるという事をしてゆき、一時間くらいで皿が空になる。
自然とそこからは飲み会だった。
ザンザスはウィスキー、スクアーロはジン、ベルフェゴールは牛乳割り。
ちなみに私は紅茶。
そりゃ、三人とも飲ませようとしましたよ??
でもさ後々「酒臭い」って言って雲雀さんから開戦宣言されるの嫌じゃないか。
防げるし、応戦できるけど、嫌じゃん。
「櫻。お前まだ俺たちに隠してることあるか?」
ザンザスが聞いてくる。
『ないと思う。そりゃ、聞かれる質問の仕方でいけば、色々と話していない事もあるけどさ』
「例えば?」(ザンザス)
『うーん、前世の職業とか、成績とか、学歴とか?』
「ししし、王子それ聞いてみたい」(ベルフェゴール)
『え”。あんま面白くないと思うけど……まぁいいか。えっと、確か前世の最終職業が介護職。その前の職業が販売だったかな。学歴は、大学卒。成績は比較的にいい方で、運動関係の科目だけ悪かったなぁ』
「他には?」(スクアーロ)
『うーん、前世の前の前世も実は朧(おぼろ)げなくあるって事か、な』
「つまり、今三回目の人生ってわけか」(ザンザス)
『そういうこと。ちなみに前々世は君たちの職業とそう変わらないほど、殺伐としていたよ。戦争まっただ中にいたからね』
だからこそ、その時の記憶は朧げだ。
今が三回目ってこともあるが、戦争という暗い状況下で、生きるか死ぬか、殺すか殺されるかという極限状態にいたのだ。
記憶が飛んでいることも多々あったし、一日中隠れていた時もある。
鮮明に覚えていることもあるが、出来るだけ思い出したくはない部類の物ばかり。
「そう、か」(スクアーロ)
「……ん」(ベルフェゴール)
「……」
スクアーロは何とか返事をしたが、ベルフェゴールは葡萄を差し出し、ザンザスは無言で抱き寄せる。
反応はそれぞれだが、気を使っていることは確かだし、感化でもしているのだろうか。
『大丈夫ですよ?前世の時に思いっきり平和を満喫しましたからね。ただ、運動面が全くできてませんでしたが』
副作用だよね。
平和を満喫し続けた事で、色々免疫が落ち、運動神経も落ちた。
「で、今の戦闘力は?」(スクアーロ)
『そこ?んー、今この街の支配者君以上の戦闘力は持ってますよ。あの子も怖いくらい強いから、私が少し気を抜けば、彼に敗れることになるでしょうねぇ』
「負けたら……」(ザンザス)
『負ける気はありませんよ。ただ、直ぐとは言いませんが、あり得る話というだけです』
未来編が来れば、それは可能になってしまう。
まぁ、楽しそうだがな。
「ししし、やっぱ。鈍ってんじゃね?」
『ベルフェゴールのような天才じゃないもの!』
ナイフの投げ合いをして、ギリギリで凌いでいると、そう言われる。
なぜこのような事になったのかといえば、食後のウォーミングアップとか言って彼から攻撃をし始めたからだ。
「よくわかってんじゃ、ん!」
『って、そう来るか!くそが!』
ナイフの影にフォークを隠して一緒に投げることで、ベルフェゴールの攻撃をそらす。
「ヴォオイ!そろそろやめねぇか、ベル!」
おお!
スクアーロ、作戦隊長としてやっと本領発揮かい?!
「次は俺だぁ!」
……って違ったぁ!
やり合いたいだけだぁ!!
「ちっ。仕方ねぇな」
身を引くベルフェゴール。
ということで、スクアーロが飛び出してきた。
『って、いきなりかい!こっちは獲物が調理器具とかなのに!!てか今まで食卓にあるものしか使ってねぇ!』
「此処は室内だからな、ちょうどいいハンデだろぉ?」
『どこが?!』
何とか、ナイフとフォークで応戦しながら、スクアーロの攻撃を受け流してゆく。
「手加減してるんだ。ちったぁ、反撃してきやがれぇ!」
『フォークとナイフじゃ、ボンゴレ三代目とか四代目くらいじゃないと反撃は無理だって!せめて、ジャマダハルちょうだい!あのドラゴンキラーの元になった奴!!』
元々、五歳の時に用いていた獲物がフツーの短剣だった。
ならばと、その短剣からレイピアとか竹刀とか(雲雀さんの権力駆使して)いろいろ試してみたがどうもしっくりこない。
んで、試さなかったのがそのジャマダハルという刀剣だけだ。
別名ブンディ・タガー。
19世紀に廃れたものだが、使いようによっては鎧も貫く事ができる品物だ。
斬るよりも貫くという事に特化した剣だが、あのド○クエではドラゴンキラーとして有名だったのだ。
そこに私の風の力を入れれば、かなり凶悪になる。
ハズなのだが……
「そんなの今ここにあるぁか!それで我慢しとけぇ!」
『ですよね!って、スクアーロの気が済むまでやるのこれ?!!』
「ししし、もちろんじゃね?というか王子の気もすんでないんだけど?」
『嘘でしょ?!』
「ほんき」
『うわぁん!こっちは結構ギリギリなのに!!』
「おい。次は俺だ」
「「『それはやめてください』」」
ザンザスの一言で戦意が一気にゼロになる三人。
それほどに、ザンザスが参戦するというのはやばいのだ。
何しろ光球を投げてくるからね。
部屋の被害が甚大だ。
「ちっ」(ザンザス)
「ちっ、じゃねぇんだよ!このクソボス!」(スクアーロ)
「そうだよ、ボス。俺ら名目上は”荷物”でここに来てんだぜ?」(ベルフェゴール)
『部屋に被害も出て、賠償金請求って事もあるしね。って、今”荷物”って聞こえたんだけど』
「跳ね馬の意向で、表上はスクアーロだけ来てることになってんの。でもさ、エコノミーに落としても、他の客がうるさいじゃん?だから俺とボスは貨物室で来たんだ」(ベルフェゴール)
『貨物室って……寒いんじゃ……というか、酸素……』
「それくらいの過酷さは訓練してる。どうってことない」(ザンザス)
「ししし、ボス。それくらい会いたかったって言ってみ――ぐはっ!」(ベルフェゴール)
ニヤニヤして言うベルフェゴールが、ザンザスに殴られてふかふかの絨毯に埋まる。
「おい」
『はい!』
「ファーストクラスの貨物室だ。んな事はねぇよ。動物とかもいるから結構快適だ」
『そう、ですか』
「……さっき言ってた武器。また今度用意してやる」
『ありがとう!ザンザスおにいちゃん!』
「そのおにいちゃんもやめろ」
『?じゃ、どう呼べば?』
「名前」
『??呼び捨て?え、ザンザスと呼び捨てでいいの??』
「ああ」
『わかった』
「言ってみろ」
『ザ、ンザス?』
「もう一度」
『ザンザス』
「そうだ。あと膝かせ」
『ふぇ?!』
「起こすなよ?」
部屋の中央でそんなやり取りをしている私とザンザス。
あわわ、ザンザスを膝枕するって、どんな罰ゲームですか?
この恥ずかしいやり取りの間。
素早く移動したスクアーロとベルフェゴールは隣のキッチンにいた。
「なぁ、ベル。櫻って勘がいいのか悪いのかわからないな」
「そうだね、スクアーロ。どこか天然入ってるよね」
「だが、櫻ほど恐ろしくはないと思うぞ?」
「だよな。俺らの攻撃的確に受け止めて避けてたし」
「あのクソボスの威圧感に何事もなく話せるのは、あいつだけだ」
「ししし、違わねぇ。そういえば貨物室でいいモノ見つけたんだ」
「?いいモノ?」
「ああ、ほらこれ」
「って、無断で持ってくるんじゃねぇよ!」
「だぁいじょうぶだ、って。降りた時に持ち主に許可取ってきたから」
「……そんなに気にいったのか。そのオコジョ」
「だって、温かいんだもん」
という会話をしていた。
ちなみにベルフェゴールは真っ白なそのリスに似たそのオコジョに、ワイトと名付けて、懐に大事にしまっていたそうだ。
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